説明

中間生成物としての白金不含のキレート触媒材料の製造および最終生成物としての電極触媒被覆へのその後の加工

白金不含のキレート触媒材料は、たとえば自動車産業における水素およびメタノールの燃料電池における選択的な酸素の還元のために使用される。達成可能な多孔度および触媒活性は、商業的な適用のための製造の際の高温処理の間の焼結効果に基づいて不十分である。従って本発明による方法は、プラズマ反応室中で、不活性なプラズマガスを用いて、遷移金属キレートの分子がプラズマ中で断片化され、かつその後の化学反応において架橋することによって、一方では炭素マトリックスが形成されるが、しかし他方では遷移金属の周辺におけるキレートの基本構造は維持されるようにプラズマ出力、プラズマガス圧、プラズマ初期化および処理時間を選択して、粉末状の遷移金属キレートを低温プラズマ処理することを特徴とする。得られるキレート触媒粒子は高多孔質であり、かつ0.06μmの範囲の大きさを有する。こうして製造された中間生成物は、並行して、または交互に運転される異なった出力の2つの異なった低温プラズマによる組み合わされたスパッタ−プラズマ処理により、特にガス拡散電極への応用において、最終生成物としての電極触媒被覆へとさらに加工することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属キレートからなる電気化学的な活性中心が埋め込まれた、多孔質の導電性炭素マトリックスを有する、選択的な、電極触媒による酸素の還元のための中間生成物としての白金不含のキレート触媒材料の製造方法、ならびに該中間生成物を支持体上で最終生成物としての電極触媒被覆へとさらに加工する方法および該最終生成物の使用に関する。
【0002】
電極触媒により酸素を還元するための白金不含のキレート触媒材料は、電気化学的電池、いわゆる燃料電池中で、陰極材料(水素またはメタノールにより作動するアルカリ性および酸性の燃料電池、高分子電解質燃料電池)として使用することができる。燃料電池を作動するための燃料としてメタノールを使用する場合(ダイレクトメタノール燃料電池の場合)、陰極で触媒として白金を使用する際に被毒が生じる。これに対して白金不含のキレート触媒材料は選択的であり、メタノールに対して抵抗性である。さらに、このような触媒材料は、ガスセンサーとして気体中の酸素を検出するために使用することができる。白金不含のキレート触媒材料の出発材料は、有機金属錯体、いわゆる遷移金属キレート分子(たとえばフタロシアニン、ポルフィリン、テトラアザアヌレン)を形成する。遷移金属キレート分子は、遷移金属の中心金属イオンが1もしくは複数の原子またはイオンの複数の共有結合の形成下に環状に取り巻かれている錯化合物である。
【0003】
従来技術
選択的な酸素還元におけるキレート触媒材料の電気化学的な活性は、すでに1964年から公知である。不活性雰囲気中で600℃までの温度での熱処理は、活性および安定性の改善を生じることが確認された。このことから一方では、未処理のキレート分子をまず導電性の高多孔質カーボンブラック担体上に吸着させ、かつ引き続き高温反応で安定化された生成物へと変換する技術が開発された。他方、カーボンブラック担体を使用しないでインサイチューで製造する技術も実用化されており、この場合、金属塩添加剤が熱処理中に金属もしくはその酸化物へと分解する。しかし反応バッチは再び高温プロセスで処理される。この方法はWO03/004156A2から公知であり、本発明は該方法から最も近い従来技術として出発する。ここに開示されている、遷移金属キレートからなる電気化学的な活性中心が埋め込まれた、多孔質の導電性炭素マトリックスを有するキレート触媒材料は、第一の遷移金属以外に、該遷移金属とは異なった第二の遷移金属を含有し、窒素を含有する有機金属の遷移金属錯体ならびにカルコゲン成分を含有する。異なった遷移金属および導電性化合物としてのカルコゲンの利点は、このようにして組み合わせることができる。さらに第一の遷移金属は、塩の形で炭素マトリックス形成の間に充填剤として作用するために、これは塩の熱分解の際に発泡作用によって超高多孔質に形成される。
【0004】
多数の刊行物中で、高温法で処理されたキレート触媒の構造が試験され、かつ議論されている。金属塩を用いた調製物の場合、電気化学的な活性の供給源は、4つの炭素原子に接続している2つの窒素原子と結合した遷移金属イオンに起因する。比較的高い温度(800℃以上)では、窒素環境が破壊され、かつ遷移金属が元素の金属に還元されることを示すことができた。この改変の場合、電気化学的な活性はこれと並行して低下することが観察された。キレート触媒は、微細な金属粒子からなっているのではなく、炭素マトリックス中の分子が統合された触媒中心からなっていることにより、市販の触媒、たとえば白金触媒と異なっている。
【0005】
さらにWO03/004156A2によれば、キレート分子の有機環状構造から、高温反応の間に導電性の炭素マトリックス(グラファイト)が形成され、このマトリックス中に記載した触媒中心が埋め込まれていることを示すことができた。炭素マトリックスの導電性は一方では、電極の反位接点から触媒中心への迅速な電子輸送をもたらす。他方で、炭素マトリックスは非局在化したπ−電子により触媒中心における電子輸送に関して迅速な電子供与体を形成する。このことにより触媒中心は安定化され、かつ高い反応性が得られる。というのも、4つの電子が十分な早さで中心へ輸送されうるからである。電子輸送に関して、触媒中心のこのような、より良好な接続は、効率的な酸素還元を促進するので、より高い電流密度が達成される。
【0006】
しかしカーボンブラック担体上に吸着され、かつ高温プロセスで処理されたキレート分子を有する従来技術から公知のキレート触媒材料は、不十分な触媒性能を示す。その理由は材料の不利な表面特性にある。カーボンブラック担体上のキレート分子の濃度の上昇(および高温プロセスでのその後の処理)と共に、多孔度の低下を伴う比表面積の低下が観察されることを示すことができた(Bogdanoff等による刊行物I、J.New Materials and Electrochemical Systems、7、第85〜92頁(2004年))。有機分子は分解する前に溶融するため、コンパクトな生成物が形成される。触媒中心は、生成物層の内部に存在しているため、酸素の還元に関与することができない。キレート分子がカーボンブラック担体を用いずに高温反応で、より高い中心密度を達成するために処理される場合に、この方法の欠点はさらに明らかとなる。焼結によって20μmの大きさの粒子が形成され、該粒子は中実でガラス状の表面を有する。
【0007】
従って、このような焼結ひいては触媒活性の低下を回避する白金不含のキレート触媒材料のための新規の製造方法に対する要求が存在する。従って原則として、従来技術における触媒製造の傾向は、伝統的な製造方法から遠ざかっている。革新的な方法、たとえば光化学法、プラズマ処理および超音波処理に、新たな価値が見いだされ、かつ学問分野の注目を集めている。というのも、nmスケールの触媒材料における前駆体材料の適切な変換を達成することができるからである。従ってすでに、触媒粒子(金属および/または金属酸化物)を担体上に微細に分散させるためにプラズマ処理が利用される多数の刊行物が存在する。たとえばDittmarによる刊行物II(学位論文、「マイクロ波−プラズマ支援された方法によるCrOx担体触媒の製造および該触媒の特徴付け」、Berlin、2002年、特に第3.1章)を挙げることができる。その際、有機Cr錯体が担体の表面上に堆積する。酸素含有プラズマ中でのプラズマ処理により、有機錯体が分解されて金属酸化物粒子が形成される。これらの触媒は、n−オクタンからアルキル芳香族への脱水素環化において使用することができる。
【0008】
もう1つの例は、DE19953110A1から読み取ることができるが、ここでは同様に、有機金属錯体(および/または少なくとも1のそのような金属を含有するアルコラート)をプラズマ反応器へ添加する。酸素含有プラズマを用いたその後のプラズマ処理において、これらの錯体は、その金属酸化物粒子へと反応するか、または硫黄を添加する場合には、その金属硫化物へと反応する。これらの半導体は光触媒活性である。光触媒の発生と並行して、毒性の有害物質が反応器に添加され、これは進行するプラズマ処理により中間生成物へと変換される。生じた光触媒は、これらの中間生成物の分解を促進するので、毒性の低い物質への有害物質の完全な分解が行われうる。さらにDE4107595C2からは、白金、パラジウムもしくはこれらの合金を含有する触媒を、プラズマ溶射および/または火炎溶射により製造することが記載されている。
【0009】
多数の刊行物にはさらに、プラズマ中での有機分子の処理が議論されている。Osada等による刊行物III("Preparation and electrical properties of polymeric copper phthalocyanine thin films by plasma polymerization"、J.Appl.Phys.、59(5)、第1776〜1779頁(1986年))から初めて、銅フタロシアニンを用いたプラズマ処理を使用して、銅フタロシアニンを架橋させて薄いポリマーフィルムを得ることが公知となっている。環構造の破壊を防止するために、低いプラズマ出力が使用されている(最大100W60秒)。さらに、モノマーを加熱して、気体状のフタロシアニン分子を上昇させ、かつプラズマ中で反応させることができる。さらに、Inagaki等による刊行物IV("Plasma polymer thin films of zinc phtalocyaninies for NO2 gas sensor device"、Polymer Bulletin、36、第601〜607頁(1996))から、ふたたび、低いプラズマ出力(アルゴンプラズマ中25W15分)で、330℃で気化する亜鉛フタロシアニンから薄い半導体ポリマーフィルムが製造されることが公知である。検出すべき気体分子がポリマーフィルムに吸着されると、該フィルムの導電性が変化する。しかしこのフィルムは選択的ではなく、導電性は低い。
【0010】
Nakamura等による刊行物V("Plasma polymerisation of cobalt tetraphenylporphyrin and the functionalities of the thin film produced"、Thin Solid Films、345、第99〜103頁(1999))では、コバルト−テトラフェニルポルフィリン(CoTPP)からポリマーフィルムを製造するために、プラズマ重合の公知の方法が適用されている。その際、CoTPPを390℃に加熱して気化する。形成されたCoTPPガスを引き続き、不活性アルゴンプラズマ中(10〜100W、Ar10Pa、150秒)で処理する。プラズマの作用によって、モノマーガスが断片化される。この形成されたラジカルは、相互に反応することができる。その際、比較的大きなアグロメレートが支持体表面上に凝縮し、これらはプラズマからのその他の粒子に衝撃を与えながら重合し、かつ架橋する。
【0011】
最後に刊行物VI(専門書"Wissenschaftlich−technische Analyse von neuartigen Brennstoffzellen fuer maritime Anwendungen, vorrangig fuer den Unterwassereinsatz"、2002年10月〜12月改訂版、AMT Analysentechnik GmbH、www.wti-mv.de/expertisen/exp_amt.pdfでインターネットにより呼び出し可能、2005年2月9日現在)の論点6に、種々の触媒タイプの試験との関連で、プラズマ支援された有機金属触媒の固定化が言及されている。しかしその他の詳細を該専門書から読み取ることはできない。
【0012】
従来技術から、触媒材料による被覆を製造するための刊行物も公知である。通常、単純な、または構造化された支持体を覆して、種々の電極触媒効果のある電極が生じる。ガス拡散電極を製造するための典型的な方法は印刷もしくは塗布である。この場合、予め調製した触媒粉末をプロトン伝導性ポリマーにより懸濁させ、かつ引き続き膜もしくは炭素紙上に施与する。かつて慣習的であった、ホットプレスまたはコールドプレスによるガス拡散電極の製造方法から、最初の機械的な製造方法が開発された。この場合、触媒粉末を膜上に噴霧し、これを引き続き炭素紙と共に熱間プレスする。数多くの同様の、ガス拡散電極を製造する間の触媒粒子の高い分散を可能にする機能化法が適用されている。これにはたとえば静電噴霧技術が属する。その際、触媒インクを電界に曝して帯電した触媒滴の霧を発生させる。溶剤を飛散段階の間に気化させる。最後に微分散した触媒粒子を所定の炭素紙上に堆積させる。
【0013】
EP0830464B1には、高速酸素燃焼(高速フレーム溶射)、プラズマ溶射、溶線式または粉末式フレーム溶射、アーク溶射および爆発溶射による電極層の製造が記載されている。この場合、陰極活性材料(無機酸化物および塩、たとえば銀−酸化バナジウム、CuS)を、高い熱入力(1650℃〜2480℃)により溶融および/または可塑化された状態にして、該材料を分離する。引き続き、分離された粒子を支持体上に堆積させる。生じた層は、μm範囲の粗さおよび約2〜17体積%の多孔度を有する。
【0014】
これらの自動化された製造法によりガス拡散電極の工場制手工業的な製造から、工業的な製造のために障害が取り除かれたにもかかわらず、前記の方法は、触媒のエクスシチュー製造およびプロセスにおける触媒材料の高い損失により不利であることが特徴付けられている。これらの欠点を克服するために、前駆体を分離し、活性材料へと変換し、かつ引き続き構造を規定する支持体層上に堆積させる方法が開発された。これには真空堆積法も属する。たとえば白金電極を製造するために、白金前駆体を気化させ、かつ反応器中で、酸化条件および高い圧力下で白金へと分解される。約350℃〜400℃の堆積温度が利用される。さらに炭素電極は真空堆積法によっても製造される。これにはたとえば反応性アセチレンガス(H2プラズマ処理から製造)を反応室中で支持体層に沿って案内する。反応性分子は、鋼製の支持体層上に堆積し、かつ所定の合成条件下(600℃〜800℃、1〜10トルのアセチレンガス)で炭素ナノチューブへと成長する。しかし記載の方法では、電極の製造中の前駆体からの活性材料の製造は熱の入力によって行うことができるのみである。
【0015】
さらに、電極を製造するための電極堆積法もまた利用されている。支持体はたとえば化学的な真空堆積法により製造されたカーボンナノチューブ電極であってもよく、これは電気化学的電池中で陰極として接続される。電解質として酸性の白金溶液が利用される。電解質の白金イオンは、約−0.25V(SCE)で、カーボンナノチューブ表面において還元されて金属の白金粒子となる。活性触媒粒子がもっぱら電気化学的に到達可能な表面に存在しており、かつ高い分散が達成され、このことによって後に進行する電気化学的なプロセスのために適切な界面が得られるにもかかわらず、効果的な触媒反応に関してこの方法で製造される触媒粒子は依然として大きすぎる(150nm)。
【0016】
被覆を製造するための新規の方法は、ナノスケールの粒子の製造が可能であるスパッタ法である。この場合、高エネルギーのイオンを低エネルギーのプラズマから発生させる。この高エネルギーイオンで高い動力学的エネルギーによりスパッタターゲットを衝撃することによって、個々の原子もしくは分子がスパッタターゲットから生じ、かつ引き続き、薄膜として支持体上に再び堆積する。スパッタ技術は触媒の製造においても利用されている。スパッタ法によりインサイチューの触媒の製造および生じる、数nmの大きさの触媒粒子の、微分散した堆積を達成することができる。Hirano等の刊行物VII("High Performance proton exchange membrane fuel cells with sputter−deposited Pt layer electrodes"、Electrochemica Acta、第42巻、第10号、第1587〜1593頁、1997年)には、たとえば燃料電池のための白金触媒−ガス拡散電極の製造が記載されている。プラズマ励起により白金原子が白金ターゲットから発生する。これらの白金原子は、ガス拡散電極へと移動して、微分散した触媒中心が、nmスケールの白金金属粒子の形で電極上に生じる。
【0017】
前記の方法は全て、粒子の分離およびその後の支持体上への堆積の方法工程に基づいている。このようにしてナノメートル範囲までの微分散を達成することができる。しかし同時の化学反応およびナノスケールの範囲の粒子を有する新規の物質の形成は記載されていない。
【0018】
スパッタ堆積は、固体電解質燃料電池のための、イットリウム安定化された薄い酸化ジルコニウム電極を製造するためにも利用されている。この場合、ターゲットはイットリウム−ジルコニウム複合材料からなり、かつ反応性の酸素含有プラズマが利用され、これが酸素原子を堆積したイットリウム−ジルコニウム層へ組み込む。しかしこの、いわゆる反応性スパッタリングは、堆積層においてラジカルを形成するのみであるため、系外の原子が層中に堆積し、かつ結合されうる。
【0019】
課題の設定および解決手段
従って本発明の課題は、本発明に最も近い従来技術から出発して、触媒性能をさらに改善するための前記の種類の範疇の製造方法を、反応の間に焼結によって粒子が凝集することを防止するように継続することである。むしろ、高い触媒活性表面積を有するnmスケールの粒子から生じる生成物を提供すべきである。さらに中間生成物としての該生成物から、容易で効率がよく、かつ安価な方法で、特にガス拡散電極に使用するために適切な電気触媒被覆の形での最終生成物が製造可能であるべきである。
【0020】
この課題のための本発明による解決手段は、メインクレームから明らかである。本発明による方法の有利な実施態様は、従属請求項に記載されている。製造された中間生成物からの、電極触媒活性な被覆の形での最終生成物を製造するための解決手段は、第二の方法クレームから明らかである。有利な実施態様はそのつど、従属請求項から明らかであり、これらを以下で本発明との関連において詳細に説明する。
【0021】
遷移金属キレートからなる電気化学的活性中心が埋め込まれた多孔質の導電性炭素マトリックスを有する、選択的な電極触媒による酸素還元のための白金不含のキレート触媒材料を製造するための本発明による方法は、粉末状の遷移金属キレートをプラズマ反応室中で不活性なプラズマガスを用いて、遷移金属キレートの分子がプラズマ中で断片化され、かつその後の化学反応において架橋して一方では炭素マトリックスが形成されるが、しかし他方ではキレートの基本構造が遷移金属の周囲で維持されているように、プラズマ出力、プラズマガス圧、プラズマ初期化および処理時間を選択して、低温プラズマ処理することを特徴とする。
【0022】
電子エネルギーは大量に分子に到達するが、しかし熱エネルギーはわずかしか到達しないプラズマ処理により(低温プラズマの特徴、これは非熱プラズマともよばれる。というのも、軽い電子のみが数万度の温度を有するが、イオンおよび中性子は、ほぼ室温であるからである)、焼結がわずかであり、ひいては高い触媒活性表面積を有するナノスケールの粒子が発生することによって、酸素還元の電極触媒反応に関して、通常の熱処理によるよりも高い活性を有するキレート触媒材料の製造が可能だからである。本発明による方法により、電気化学的活性中心が埋め込まれた導電性炭素マトリックスからなるキレート触媒材料が生じる。プラズマ処理は、出発材料としてのキレート分子の断片化、プラズマ中での化学反応としてのこの断片の架橋および炭素マトリックスの最終的な形成を制御し、その際、不活性なプラズマガスは反応に全く関与しない。その際、キレートの基本構造は金属イオンの周囲で維持される。
【0023】
上記の刊行物IIおよび文献DE19953110A1およびDE4107595C2に対して、本発明による方法はすでに、非金属粒子またはその酸化物もしくは硫化物が、プラズマ処理において化学反応性のプラズマガスの関与下に形成されることにより異なっている。むしろ本発明の場合、有機金属錯体(キレート分子)はプラズマ中で、電気化学的な活性中心(窒素原子の金属イオンに配位している)が埋め込まれた炭素マトリックスが生じるように変換される。すでに言及したように、触媒の電気化学的な活性は、有機金属錯体から、金属粒子もしくはその酸化物が形成される場合に低下する。従って本発明による方法は、内部のキレート構造を維持し、かつ金属粒子の還元を防止するが、しかしそれにもかかわらず分子が分解するので、炭素マトリックスが形成されるという問題を解決する。プラズマ処理において、キレート分子は導電性の、炭素をベースとする電気化学的な材料へと変換される。高い侵入深さを生じるための高出力による効率的な低温プラズマの使用により、キレート分子の断片が形成され、これはその後の化学反応において導電性の炭素マトリックスへと結合する。
【0024】
プラズマ処理により有機金属錯体からポリマーフィルムを製造するための刊行物III、IVおよびVから、本発明による方法は、基本的にパラメータ設定において区別される。公知の方法で適用される低いプラズマ出力(250W未満)は短い処理時間と組み合わされて分子の破壊を防止するが、そうではなくてラジカル化して重合が行われる。ポリマーフィルムの基本成分(たとえば刊行物IIIによるUV/VIS分析による)はこの場合、維持される。本発明による方法の場合、プラズマ処理は高いプラズマ出力により、分子の結合を分割して炭素マトリックス(グラファイト)にし、これは明らかに未処理の出発材料よりも高い導電性を有する。さらに本発明によりプラズマ処理された生成物は酸素還元に関して電気化学的に活性である。このことによって従来技術で使用される、キレート分子をカーボンブラック担体上で処理するために必要であり、かつ刊行物Iが示しているように、分子の焼結による凝集につながる高価な高温法の代用とすることができる。
【0025】
本発明による方法は、高い触媒活性の白金不含のキレート触媒材料を製造するために、高いプラズマ出力および低いプラズマ温度でのプラズマ処理を包含する。処理時間の長さ、高いプラズマ出力およびこれと結びついた、処理すべき出発材料へのプラズマの高い侵入深さにより、キレート分子の所望の断片化および触媒活性中心を有する所望のグラファイトマトリックスへのその構造変換が達成される。これらの所望の目的によって、本発明による方法のパラメータ設定のための範囲は当業者に明らかである。具体的には固有の試験により、プラズマ反応空間において10Paの範囲のプラズマガス圧、高周波の範囲での周波励起によるプラズマ初期化、250Wより大のプラズマ出力および5〜10分の粉末状遷移金属キレートの処理時間を使用することが特に有利であることが判明した。さらに粉末状の遷移金属キレートは炭素上に担持させることができ、このことにより炭素マトリックスの形成の支援が達成される。しかし担持されていない粉末状の遷移金属キレートの使用は、これに対してより高い中心密度ひいてはキレート触媒材料のさらに向上された触媒活性の利点を有する。
【0026】
本発明による方法のために使用可能な出発材料は、すでに白金不含のキレート触媒材料を製造するためのこの範疇の方法のためのWO03/004156A2から公知である。遷移金属は、有利にVIII族の遷移金属、特にコバルトまたは鉄であってよい。窒素を含有する有機金属の遷移金属錯体は、有利には金属ポルフィリンであってよい。この場合、これはコバルトまたは鉄を含有していてもよく、かつ特にコバルトテトラメトキシフェニルポルフィリン(CoTMPP)または鉄テトラメトキシフェニルポルフィリンクロリド(FeTMPP−Cl)が形成されていてもよい。金属ポルフィリンは、優れた出発材料特性を有する。というのは、これは4つの窒素結合により配位した活性な遷移金属イオンからなる触媒中心の構造を有するからである。ポルフィリン分子の置換基は、架橋反応において導電性の炭素マトリックスに貢献するので、良好な表面利用性および触媒効果が達成される。金属ポルフィリンは窒素供与体および炭素供与体を互いに統合する。
【0027】
前記の本発明による方法は、高い触媒活性の白金不含のキレート触媒材料の製造につながり、該材料は最終生成物としての触媒作用のある被覆を最終生成物として支持体上に製造するための中間生成物として提供することができる。該中間生成物を最終生成物へとさらに加工する際に、触媒作用のある被覆を製造するための新規の製造方法が開かれ、これはたとえばガス拡散電極において適用される。遷移金属キレートからなる電気化学的活性中心が埋め込まれた、選択的な電極触媒による酸素の還元のための、支持体上の白金不含のキレート触媒材料からなる被覆を有するこのような電極は有利には、前記の種類のプラズマ処理を、スパッタ処理と組み合わせることによって、全ての変法においても製造することができる。従って被覆の製造は、
プラズマ反応室中で、不活性なプラズマガスを用いて、遷移金属キレートの分子が生成し、かつ断片化されることなくプラズマに変換されるように、プラズマ出力、プラズマガス圧およびプラズマ初期化を選択して、遷移金属キレートからなるスパッタターゲットの第一の低温プラズマ処理を行い、かつ
生成され、かつプラズマに変換された、断片化されていない遷移金属キレートの分子の第二の低温プラズマ処理を、プラズマ反応室中で、不活性なプラズマガスを用いて、遷移金属キレートの分子がプラズマ中で断片化され、かつ断片がその後の化学反応において架橋して、一方では炭素マトリックスが形成されるが、しかし他方では遷移金属の周囲のキレートの基本構造が維持されるように、プラズマ出力、プラズマガス圧、プラズマ初期化および処理時間を選択して行い、
その際、第一および第二のプラズマ処理を、1回または複数回交互に、共通のプラズマ反応室中で、第二のプラズマ処理の間にスパッタターゲットを保護しながら、または並行して別々のプラズマ反応領域中で実施し、かつ
第二の低温プラズマ処理において製造された白金不含のキレート触媒材料を支持体上に堆積させる
ことを特徴とする。
【0028】
本発明によるこの方法により、粉末状(結晶質)の炭化された、白金不含のキレート触媒材料の形の中間生成物から、被覆の形の最終生成物が製造される。この場合、中間生成物の構造(スポンジ状の高多孔質表面を有する特殊な材料組み合わせ)は、最終生成物中で維持されるので、触媒活性材料の大きな表面積に基づいた有利な触媒活性効果は被覆中でも維持される。
【0029】
組み合わされた方法は、交互に、または2つの前後に接続された方法段階として行うことができる。交互に行う方法の場合、低温プラズマを交互に(たとえばkHz範囲〜mHz範囲の周波数で)異なったパラメータに設定して、交互に2つの異なったプラズマ出力(スパッタプロセスに関して有利には150W未満の低プラズマ出力およびプラズマプロセスに関して有利には250Wを超える高プラズマ出力)が達成される。高いプラズマ出力を発生させる場合、スパッタターゲットは相応して覆われ、従って破壊されない。2つの異なった反応器領域で並行して処理する場合、変更された反応器構成が生じる。第一の低温プラズマ処理でスパッタされた粒子(処理時間は比較的短く、プラズマ中で十分な分子が提供されるまでの長さ)は次いで、反応器内で第二の低温プラズマ(2帯域プラズマ)に案内され、そのパラメータは第一のプラズマとは無関係に設定することができる。第二の低温プラズマ処理では、高いプラズマ出力で先にスパッタされた分子が粉末状の(結晶化した)炭化されたキレート触媒材料への変換が行われる。運転パラメータおよび第二のプラズマの拡大によって、炭化プロセスはスパッタプロセスとは無関係に適切に制御することができる。該方法段階は、プラズマの外部に位置決めされた支持体で終わり、該支持体上に第二のプラズマで発生した、製造されたナノスケールの触媒粒子がナノポーラスの被覆として析出する。
【0030】
前記の製造方法の変更は、支持体が第二の低温プラズマ処理のためのプラズマ内に配置されていることを前提とする。このことにより、形成され、プラズマ中に存在するCoTMPP分子は、薄膜として直接支持体上に析出する。一般に方法の負荷およびプロセスパラメータによって、最終生成物として生じる触媒作用を有する被覆の厚さおよび構造を調整することができる。さらに支持体として高分子電解質膜、たとえばNafionを利用することができ、この上に、製造された白金不含のキレート触媒材料が析出する。こうして得られた触媒層は、PEM燃料電池技術のための膜電極デバイス(略してMEA)を製造するための公知の、および確立された方法によって利用することができる。
【0031】
本発明により最終生成物を製造するための記載の方法は、プラズマがもっぱら微分散した金属粒子を発生させるために利用されることによって、すでに刊行物VIIから区別される。本発明による組み合わされた製造の場合、第一のプラズマは高エネルギーのガスイオンを提供するために役立ち、かつ第二のプラズマはキレート触媒材料ならびに電極表面上での該材料の堆積に役立つ。さらに、刊行物Vに記載の上記のプラズマ重合とは異なって、本発明において記載される、電極触媒被覆を製造するための組み合わされた方法は、スパッタターゲット中の原料の分離を熱の入力を行わずにスパッタプロセスにより行う。
【0032】
本発明による両方の方法の前記の組み合わせにより、表面に新規の高多孔質の構造化された、ひいては触媒活性の高い被覆を簡単かつ安価な方法で製造することができる。特に被覆を製造するために必要な全ての方法工程を、1つの自動化されたインラインプロセスに統合することができるので、相応する電極触媒用電極は、多数を迅速に、高価な品質で、かつその際、それにもかかわらず大きな人員コストをかけることなく安価に製造することができる。このことは特に、電極をガス拡散電極として構成する場合に該当し、これは選択的な酸素還元の際にますます使用されている。
【0033】
実施例
以下では、中間生成物としての白金不含のキレート触媒材料を製造するための本発明による方法および最終生成物としての電極触媒被覆へのさらなる加工および選択的な電極触媒による酸素還元のためのガス拡散電極における使用を、図面に基づいて詳細に説明する。図面は以下のものを示す:
図1 プラズマ出力80WでのCoTMPP/KBr試料のラマンスペクトル
図2 プラズマ出力150WでのCoTMPP/KBr試料のラマンスペクトル
図3 プラズマ出力250WでのCoTMPP/KBr試料のラマンスペクトル
図4 プラズマ出力400WでのCoTMPP/KBr試料のラマンスペクトル
図5 プラズマ処理したCoTMPP/KBr試料と、熱分解法によるCoTMPP/KBr試料との比較
図6 電流密度特性に関するグラフ
図7 粒径分布に関するグラフ
図8 当初の前駆体(CoTMPP)と、組み合わされたスパッタ−プラズマ法からの試料のラマンスペクトルの比較
図9 組み合わされたスパッタ−プラズマ法の実施前および実施後の支持体の2枚のSEM撮影(50000倍に拡大、偏向電圧2V)および
図10 組み合わされたスパッタ−プラズマ法の実施後の支持体のSEM撮影(200000倍に拡大、偏向電圧2V)。
【0034】
プラズマ処理
出発材料は、次のとおりに製造した:コバルトテトラメトキシフェニルポルフィリン(以下ではCoTMPP、ACROSから)0.264gを、テトラヒドロフラン(以下ではTHF)200ml中に溶解した。「ブラック・パール」(高多孔質炭素担体1475m2/g)1.051gを同様にTHF200ml中に懸濁させた。両方のバッチを互いに混合し、かつ引き続き超音波浴中で20分処理した。その後、溶剤を回転蒸発器で留去した。両方の成分の分離はこの場合に観察されなかった。大きい顆粒が形成され、これを引き続き衝撃ミル中で5秒間粉砕した。残りのTHFが細孔中に封入されているという可能性を排除することができないので、該試料を数時間、真空処理した。
【0035】
プラズマ処理をプラズマ振動反応器中で実施した。このために、出発材料0.5g〜0.8gを、反応室中の試料皿上に添加した。プラズマを高周波の範囲(13.56MHz)で励起して初期化した。反応室中には、不活性プラズマガスとしてアルゴン10Paが存在していた。反応室中の試料皿を振動させることにより試料を良好に混合して、それぞれの粒子をプラズマで処理した。高いプラズマ出力(250Wより大)および5分〜40分の処理時間を用いて、CoTMPPの、炭素ベースのキレート触媒への効果的な反応を達成した。この実施例において、出発材料を400Wで20分処理した。
【0036】
高温処理による従来技術による製造のための比較例として、出発材料を貫流式の炉中(アルゴン110ml/分)、450℃で2時間ならびに1時間750℃に加熱した。冷却後に該材料を使用した。
【0037】
プラズマ処理中のCoTMPPの炭化プロセス
本発明によるプラズマ支援された方法を、たとえばCoTMPPを触媒作用のある被覆を製造するための中間生成物として統合された触媒活性中心を有する炭素マトリックスへ変換するために使用することによって、通常の熱分解法においてと同様の構造が形成されるか、という疑問が提示される。従って触媒活性物質の形成を追跡するために、CoTMPPを炭素不含の担体(ホウ化カリウムKBr粉末)上に施与し、かつ種々の出力でプラズマ処理した。KBrはラマン不活性であるので、このようにしてCoTMPPから形成された炭素は、この方法で構造的に特徴付けることができる。図1〜4は、種々のプラズマ出力(不活性Arプラズマガスを用いて80W〜400W、処理時間20分)で低温プラズマ中で処理されたCoTMPP/KBr試料からのラマンスペクトルを、未処理のCoTMPP/KBr試料と比較して(励起レーザー光に対するラマンシフトにより反射光を標準化した強度をcm-1で)示している。
【0038】
低いプラズマ出力(80W)で処理された試料のスペクトルにおいて、未処理の反応バッチCoTMPP/KBrの典型的なラマンバンドが再び見られた。以下の表には、未処理の試料のバンドおよび低温プラズマ処理した試料のバンドが記載されている。振動の分類は、M.Stelterによる論文、"Elektrolytische Sauerstoffreduktion an uebergangsmetallporphyrinmodifizierten Graphitelektroden"、TU Chemnitz、2002年、第2章、第11〜41頁(刊行物VIII)により行った。
【0039】
【表1】

【0040】
この離散的な狭いバンドの出現は、この出力でなお極めて大量の未処理のポルフィリン分子が存在していることを示している。しかし80Wの低温プラズマで処理した試料(図1に記載のラマンスペクトル)では、さらに重複した広いバンドが、1200〜1350の範囲で、ならびに1400〜1600の範囲で生じている。これらのバンドは、高いプラズマエネルギーと共に、150Wのプラズマ出力で処理した試料のスペクトルにおいて見られるような、広い強力なバンドへと増大する(図2のラマンスペクトル)。スペクトル(150W)の展開から、これらの信号は種々の広いバンドから構成されていることがわかる。バンドの拡大はさらに、試料がもはや離散した分子からなるのではなく、むしろ複数の、分子に類似した化合物からなる混合物であることを示している。1600cm-1および1340cm-1で、従来技術(Tuinstra、F.およびKoenig、J.L.、"Raman Spectrum of Graphite"、The Journal of Chemical Physics、33、1126(1970)を参照のこと)に記載されている、拡大されたグラフ面(Gバンド、1600cm-1)およびその崩れた端部(Dバンド、1340cm-1)の平坦な振動に関して特徴的なバンドが見られる。しかし全スペクトルにおけるこれらのバンドの割合は、なお極めて小さく、このことは試料中のグラフ面の割合が極めて小さいことを示している。これより高いプラズマ出力(250W、400W)では、これらのバンドの割合は明らかに上昇し(図3および4に記載のラマンスペクトル)、このことはポルフィリンの炭化が進行していることを示している。
【0041】
さらに150Wでは、1250cm-1で強力な広いバンドが見られ、これは低分子化合物のsp2−ハイブリッド炭素に分類される。これは低温プラズマにより崩壊し、まだグラフ面に再編成されていないポルフィリンからなる断片である。プラズマ出力が高くなるにつれて(250W、400W、図3および4に記載のラマンスペクトル)、試料中のこの種の割合は明らかに低減する。というのも、これらの断片は、グラフ面を形成する際には大部分が消費されるからである。さらに150W(図2に記載のラマンスペクトル)では、1510cm-1で主バンドが観察され、これは未知の構造のラマン活性な中間生成物の重複を示している。このことは、この信号の割合が、1250cm-1での信号と共に、プラズマ出力の上昇と共に明らかに低下するという事実によりサポートされる。明らかに150Wでは少量の炭素以外に、プラズマ処理の中間生成物が存在しており、これはより高いプラズマ出力では最終的にグラフ構造に変換される。250W〜400W(図3および4に記載のラマンスペクトル)で処理された試料はこれらの実験においてラマンスペクトル中の材料のその後の変化は観察されなかった。
【0042】
熱処理されたCoTMPP試料(750C、N2流、炭素支持体なし、図5、下欄)と、プラズマ処理したCoTMPP/KBr試料(400W、Ar20分、図5、上欄。両方のラマンスペクトルにおいて、比較のためにそのつど、未処理のCoTMPP試料も記載されている)のラマンスペクトルを比較すると、熱分解から生じた生成物と、本発明によるプラズマ処理から生じた生成物とは、同一の特性を有していることが明らかである。ここから、最終的に高いプラズマ出力(400W)で、CoTMPPのプラズマ処理の場合には、熱処理におけると同様の炭素構造が形成されることが明らかである。250Wからは、使用した材料の完全な炭化が生じる。しかし高いプラズマ出力(400W)で、反応は迅速に終了する。
【0043】
プラズマ処理されたキレート触媒材料の電気化学的な特徴付け
両方の異なった方法で得られたキレート触媒材料1mgを、0.2%のエタノール性Nafion溶液200mlと混合し、かつ超音波浴中で30分間懸濁させた。この懸濁液5μlを、直径3mmを有する研磨されたガラス−カーボン−電極上にピペットで移し、かつ空気中で乾燥させた。こうして調製した作用電極を、参照電極としての硫酸水銀電極と、対極としての白金ワイヤとを有する3電極配置で、O2飽和溶液中の電解質としてのH2SO4の0.5M溶液中で測定した。作用電極の電位の関数としての拡散補正された電流密度(標準水素電極P(NHE)に対する電位(単位V)による反応電流密度SDkin(単位mA/cm2)を、図6に記載のグラフにおいて、プラズマ処理した出発材料(プラズマ処理試料(丸印、曲線a)、400W、20分、アルゴン)および熱処理した出発材料(比較試料(三角印、曲線b)、熱処理)と比較して示している。比較のために、未処理の出発材料(菱形印、曲線c)の特性も示されている。
【0044】
本発明によるプラズマ処理されたキレート触媒材料の特性が、両方のその他の試料に対して特に良好であることが明らかである。未処理の出発材料は、極めて低い電流密度を示す。これに対して処理された試料は、出発材料よりも高い電流密度を示す。熱処理からの比較試料に対して、プラズマ処理された材料は明らかにより高い電流密度を有する。以下の表には、種々の電位に関して達成された電流密度間の相違を対比して示す:
【表2】

【0045】
さらに、気体吸収測定を実施して、BETモデルによる比表面積を測定した。比較試料は、1047m2/gの比表面積を有していた。プラズマ処理された試料については、693m2/gの比表面積が測定された。プラズマ処理された試料は、低い比表面積を示すものの、比較試料よりも高い反応電流密度を示す。その際、プラズマ処理で製造されたキレート触媒が、通常の方法で製造されたキレート触媒よりも高い比活性を有していることが明らかである。
【0046】
プラズマ処理されたキレート触媒材料の特性決定
レーザー回折測定法により、触媒粒子の粒径分布を測定した。図7に記載のグラフでは、測定された比較試料およびプラズマ処理されたキレート触媒材料の粒径分布が記載されている(粒径PG(μm)を上回る粒子の数PA(%))。比較試料(実線、b)の粒子の最も大きな割合は、約0.87μmの粒径を有している。これに対してプラズマ処理の場合、わずか約0.06μmの粒子(破線、a)が形成される。
【0047】
従来技術(Tuinstra、F.およびKoenig、J.L、"Raman Spectrum of Graphite"、The Journal of Chemical Physics、33、1126(1970)を参照のこと)から公知の熱処理の間の熱入力により、CoTMPPは約390℃で溶融する。液状のCoTMPP膜の形成は溶融の間の粒子の焼結による凝集につながり、このことによってその大きさがたとえばガス拡散電極を製造する際に不利に作用する凝集体が生じる。これに対して本発明によるプラズマ処理の場合、焼結が防止される。というのは、プラズマ処理の間には主として電子エネルギーおよびわずかな熱のみが供給されるので、CoTMPPの溶融および粒子の焼結が大部分、防止されるからである。このことにより、効率のよい電極(たとえば多孔質ガス拡散電極)の製造のための前提である小さい粒子が生じる。
【0048】
ガス拡散電極の適用における、組み合わされたスパッタおよびプラズマ技術による被覆の製造
まず、CoTMPPからなるスパッタターゲットを製造する。このためにCoTMPP約15gを、スタンププレス(3t、3回、10分間)を用いて、94.5cmの円形の銅ターゲットにプレスした。スパッタ装置がマグネトロンを有している場合には、材料を節約するためにこれより小さいターゲットを使用することもできる。製造されたターゲットをスパッタ装置に取り付けて、電極として利用することができる。その際、該ターゲットは、ガス拡散電極を製造するための支持体(支持体:炭素紙)に対向して懸下されている。まずスパッタ装置をアルゴンでパージし、かつ最後に運転圧力をアルゴン約10Paに調整する。
【0049】
引き続き、プラズマを電圧の印加により初期化し、かつ高周波の範囲での励起を用いて点火する。スパッタリングのために次の運転パラメータが特に有利であることが判明した:低温プラズマ、不活性プラズマガス アルゴン、圧力10Pa、第一の低温プラズマ処理のためのプラズマ出力100W未満(スパッタプロセスに関して)、第二の低温プラズマ処理のためのプラズマ出力250Wより大(プラズマプロセスに関して)、両方のプラズマ処理の間に、2帯域プラズマを使用するか、または交互に切り替えを行う(切り替え周波数は、kHz範囲からmHz範囲であってよい)、プラズマプロセスでは、炭化の前にスパッタターゲットを保護する(全プロセス時間は60分まで)。炭素紙の負荷により触媒層の厚さを決定することができる。被覆された炭素紙を引き続き、膜電極デバイス(略してMEA)へと加工することができる。さらに白金不含のキレート触媒材料により被覆するための支持体として、本発明によれば高分子電解質膜、たとえばNafionを使用することができる。
【0050】
中間生成物としての白金不含のキレート触媒材料からの最終生成物としての被覆の構造的な特性決定
本発明による方法で製造した被覆の構造的な特性決定は、ラマン分光分析(HeNeλ=632.82nm)を用いて実施した。この場合、炭素不含の、ラマン不活性な支持体(DCプレート シリカゲル)を利用した。組み合わされたスパッタプラズマ法を実施した。図8には、当初の前駆体(CoTMPP)と、組み合わされたスパッタプラズマ法からの試料とのラマンスペクトルが示されている。前駆体は、刊行物VIIIに記載されているようなCoTMPPの典型的なラマンバンドを示した。これに対してこれらのバンドは組み合わされたスパッタプラズマ法から得られた試料におけるラマンスペクトルで再び検出することはできない。このため、試料はピーク展開により見られる、約1365cm-1および1575cm-1での2つのバンドを有しており、これらは従来技術から公知であり、かつブラックカーボンに関して典型的である。約1575cm-1におけるピーク(いわゆるGピーク)は、グラフ平面のsp2−ハイブリッドC−C振動に分類され、他方、1365cm-1におけるピーク(Dピーク)は、端部の炭素原子に起因する。前駆体のラマンバンドを再び検出することはできないが、しかしグラフ平面の典型的なピークは観察されるので、スパッタターゲットにおいて使用される前駆体は、第二のプラズマプロセスにより完全に、炭素ベースの触媒(炭化キレート触媒材料)へと変換されることが証明される。
【0051】
中間生成物としての白金不含のキレート触媒材料からの、最終生成物としての被覆の形態学的な特性決定
電極上に製造された構造の形態学的な特性決定のために、導電性の炭素紙を支持体として使用した。電極の製造は再び組み合わされたスパッタプラズマ法により行った。SEM撮影(図9)では、処理の前(上)および後(下)の炭素紙の表面を示している。炭素紙の炭素繊維は、プロセス前になお平滑な表面を有していたが、プロセス後にはナノポーラス構造を有する堆積粒子が炭素繊維上に見られる。解像度がより高いSEM撮影(図10)では、堆積した粒子が球形であり、かつ約20nm〜50nmの大きさであることが明らかである。形成された粒子のナノ構造は、高い電気化学的な平面を有しており、これは高い触媒活性のためのベースを形成する。
【0052】
粒径は、燃料電池で使用されるような市販の白金触媒のオーダーであるので、この方法により製造した材料を、確立された方法によって、PEM燃料電池のためのガス拡散電極を製造するためにも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】プラズマ出力80WでのCoTMPP/KBr試料のラマンスペクトルの図
【図2】プラズマ出力150Wでの試料のラマンスペクトルの図
【図3】プラズマ出力250Wでの試料のラマンスペクトルの図
【図4】プラズマ出力400Wでの試料のラマンスペクトルの図
【図5】プラズマ処理した試料と、熱処理した試料との比較の図
【図6】電流密度特性に関するグラフの図
【図7】粒径分布に関するグラフの図
【図8】前駆体と、スパッタプラズマ法からの試料のラマンスペクトルの比較の図
【図9】スパッタプラズマ法の実施前および実施後の支持体のSEM撮影の図
【図10】スパッタプラズマ法の実施後の支持体のSEM撮影の図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属キレートからなる電気化学的活性中心が埋め込まれた、多孔質の、導電性炭素マトリックスを有する選択的な電極触媒反応による酸素還元のための中間生成物としての白金不含のキレート触媒材料を製造する方法において、プラズマ反応室中で、不活性なプラズマガスを用いて、遷移金属キレートの分子がプラズマ中で断片化され、かつその後の化学反応において架橋することによって、一方では炭素マトリックスが形成されるが、しかし他方では遷移金属の周辺におけるキレートの基本構造は維持されるようにプラズマ出力、プラズマガス圧、プラズマ初期化および処理時間を選択して、粉末状の遷移金属キレートを低温プラズマ処理することを特徴とする、中間生成物としての白金不含のキレート触媒材料を製造する方法。
【請求項2】
プラズマ反応室中のプラズマガス圧が10Paの範囲であり、高周波の範囲での周波励起によりプラズマを初期化し、プラズマ出力は250Wより大であり、かつ粉末状の遷移金属キレートの処理時間は5〜20分であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
遷移金属キレートとしてCoTMPPを使用し、かつ/または不活性プラズマガスとしてアルゴンを使用して、粉末状の遷移金属キレートを炭素上に担持させることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
中間生成物としての請求項1から3までのいずれか1項記載の方法により製造可能な白金不含のキレート触媒材料を、支持体上の最終生成物としての電極触媒被覆へとさらに加工する方法において、
遷移金属キレートからなるスパッタターゲットの第一の低温プラズマ処理を、プラズマ反応室中で、不活性なプラズマガスを用いて、遷移金属キレートの分子が発生し、かつ断片化されることなくプラズマに変換されるように、プラズマ出力、プラズマガス圧およびプラズマ初期化を選択して行い、かつ
発生し、かつプラズマに変換された、断片化されていない遷移金属キレートの分子の第二の低温プラズマ処理を、プラズマ反応室中で、不活性なプラズマガスを用いて、遷移金属キレートの分子がプラズマに断片化され、かつ断片がその後の化学反応において架橋して、一方では炭素マトリックスが形成されるが、しかし他方では遷移金属の周囲のキレートの基本構造が維持されるように、プラズマ出力、プラズマガス圧、プラズマ初期化および処理時間を選択して行い、
その際、第一および第二のプラズマ処理を、1回または複数回交互に、共通のプラズマ反応室中でスパッタターゲットを第二のプラズマ処理の間に保護しながら、または並行して別々のプラズマ反応領域中で実施し、かつ
第二の低温プラズマ処理において製造された白金不含のキレート触媒材料を支持体上に堆積させる
ことを特徴とする、中間生成物としての請求項1から3までのいずれか1項記載の方法により製造可能な白金不含のキレート触媒材料を、支持体上の最終生成物としての電極触媒被覆へとさらに加工する方法。
【請求項5】
第一のプラズマ処理の間のパラメータを、10Paの範囲のプラズマガス圧、高周波の範囲の周波励起によるプラズマ初期化および150Wより小さいプラズマ出力に選択することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
第二のプラズマ処理の間のパラメータを、10Paの範囲のプラズマガス圧、高周波の範囲の周波励起によるプラズマ初期化および250Wより大のプラズマ出力および5〜20分の処理時間に選択することを特徴とする、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
第一および第二のプラズマ処理を交互に実施する場合に、周波数がkHz〜mHzの範囲の周波数を有することを特徴とする、請求項4から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
支持体が、炭素、遷移金属キレートとしてのCoTMPPおよび/または不活性なプラズマガスとしてのアルゴンからなることを特徴とする、請求項4から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
支持体の配置が第二の低温プラズマ処理のためのプラズマ内であることを特徴とする、請求項4から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
自動化されたインラインプロセスに組み込まれていることを特徴とする、請求項4から9までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−531245(P2008−531245A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555451(P2007−555451)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【国際出願番号】PCT/DE2006/000326
【国際公開番号】WO2006/086979
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(591157202)ヘルムホルツ−ツェントルム ベルリン フュア マテリアリーエン ウント エネルギー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (22)
【氏名又は名称原語表記】Helmholtz−Zentrum Berlin fuer Materialien und Energie GmbH
【住所又は居所原語表記】Glienicker Str.100,D−14109 Berlin,Germany
【Fターム(参考)】