説明

主軸装置

【課題】切削液のシール部品の磨耗等により内部漏れが生じた場合においても保守範囲をシール部品のみに止め、かつ保守性のよい主軸装置を提供する。
【解決手段】主軸のフロントハウジングの後方に取付けられ、外筒の内側に収納される複数の主軸構成物とを備え、この主軸構成物の外径をフロントハウジング側から順に小さく形成した主軸組立体48を外筒に対して挿抜可能に構成することにより良好な保守性を備えた主軸装置1において、主軸の後端部に主軸構成物の一つとして弾性体により形成した円環状のスリンガ40を設け、外筒の内径部に後方に向って突出するL字状断面を有する円環状の受皿43を設け、スリンガの外径を受皿の内径より大きく設定すると共に受皿をスリンガの前方に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライス盤やマシニングセンタ、研削盤等の工作機械に備えられる主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の主軸装置は、支持台に固定された外筒に着脱可能に組付けられるフロントハウジングに、フロント主軸受により回転自在に支持された主軸と、主軸のフロントハウジングの後方に取付けられた駆動モータのロータや張出フランジ、ベアリングスリーブの張出部等の主軸構成物とを組付けて一体とした主軸組立体を構成し、この主軸組立体の主軸構成物の外径をフロントハウジング側から順に小さく形成して外筒に対して挿抜可能にし、主軸の軸芯に沿って設けた連通孔を介して最後方から切削液を工具に供給して工作物の加工を行ってしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、出願人は、特願2003−419854において主軸組立体の挿抜性を確保した上で主軸組立体の主軸構成物にリア主軸受を加え、メンテナンス性を向上させた主軸装置を提案している。
【特許文献1】特開平7−112303号公報(第2頁段落0009−第4頁段落0033、第3図、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術においては、主軸組立体の主軸構成物の外径をフロントハウジング側から順に小さく形成して外筒に収納しているため、回転している主軸と静止している外筒等の間に設けられた連通孔に供給される切削液の主軸装置内部への洩れを封止するパッキン等のシール部品が摩耗や破損をした場合には内部洩れが生じ、漏れ出した切削液がシール機構の前方に配置されたフロント主軸受やリア主軸受および駆動モータのステータに達しやすく、フロント主軸受やリア主軸受に侵入すると潤滑剤を洗い流してこれらの破損の原因となり、ステータに付着するとコイルの絶縁破壊を起こして漏電の原因になることが懸念されるという問題がある。
【0005】
このフロント主軸受やリア主軸受および駆動モータは一つでも故障すると主軸装置の正常な回転を継続することが困難になる重要部位であるので、シール部品の摩耗等による内部洩れが原因となって主軸装置の保守範囲が全体におよぶことは避けなければならず、このような場合の保守範囲をシール部品のみに止める技術の開発が期待されている。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、切削液のシール部品の磨耗等により内部漏れが生じた場合においても保守範囲をシール部品のみに止める手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、外筒と、該外筒に着脱可能に組付けられるフロントハウジングと、該フロントハウジングに嵌合するフロント主軸受と、該フロント主軸受により回転自在に支持される主軸と、該主軸の前記フロントハウジングの後方に取付けられ、前記外筒の内側に収納される複数の主軸構成物とを備え、該主軸構成物の外径を前記フロントハウジング側から順に小さく形成し、前記フロントハウジングとフロント主軸受と主軸と主軸構成物を一体とした主軸組立体を前記外筒に対して挿抜可能に構成した主軸装置において、前記主軸の後端部に、前記主軸構成物の一つとして円環状のスリンガを設け、前記外筒の内径部に円環状の受皿を設け、前記スリンガの外径を前記受皿の内径より大きく設定すると共に、前記受皿を前記スリンガの前方に配置したことを特徴とする。
【0007】
また、前記スリンガを弾性体により形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
これにより、本発明は、シール部品から切削液等の内部洩れが生じた場合においても受皿の内径より大きい外径を有するスリンガによってフロント主軸受やリア主軸受、駆動モータ等への切削液等の侵入を防止することができ、信頼性の高い主軸装置とすることができるという効果が得られる。
また、スリンガを弾性体により形成したことにより、主軸組立体が外筒に対して挿抜可能となり、保守性のよい主軸装置とすることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、図面を参照して本発明による主軸装置の実施例について説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は実施例1の主軸装置を示す断面図、図2は実施例1の主軸組立体を示す断面図、図3は実施例1の主軸装置の後方部を示す拡大図である。
図1において、1は主軸装置である。
2は外筒であり、合金鋼等の鋼材で製作された円筒状部材であって、外周面に設けられた固定フランジ2aにより図示しない主軸頭等にボルト等により固定される。
【0011】
また、外筒2の外筒内周面3には誘導モータ等の駆動モータ4の複数のコイルを備えたステータ4aが圧入等により設置される。
5はフロントハウジングであり、合金鋼等の鋼材で製作された円筒状部材であって、外周面に設けられた取付フランジ5aを用いてボルト等により外筒2に着脱自在に組付けられると共に、取付フランジ5aの後方(図1に矢印Pで示す方向をいう。また矢印Pの反対方向を前方という。)側の内径側に設けられた嵌合突起5bが外筒2の外筒内周面3に嵌合して外筒2との同軸が確保される。
【0012】
6はフロント主軸受であり、フロントハウジング5の内周面に外輪が嵌合する複数のアンギュラ玉軸受に間座6aや軸受押え7により予圧を付与して構成される。本実施例では並列配置とした2個のアンギュラ玉軸受を背面配置に対向させてフロント主軸受6が構成されている。
8は主軸であり、合金鋼等の鋼材で製作された棒状部材であって、その外周面がフロント主軸受6の内輪に嵌合して回転支持される。
【0013】
主軸8には、その軸芯に沿って主軸8の全長に渡る連通孔9aが穿孔されており、主軸8の前方に装着された工具ホルダ10に取付けられた工具11の刃先に切削液を供給する。
主軸8のフロントハウジング5の取付フランジ5aの後方のステータ4aと隙間を介して対向する位置には、主軸構成物としての駆動モータ4のロータ4bが圧入等により固定されており、ステータ4aに接続する動力ケーブル12から供給される電力によりステータ4aと共同して主軸8を回転させる。
【0014】
13は主軸構成物としてのリア主軸受であり、合金鋼等の鋼材で円筒状に成形された軸受スリーブ14の内周面に外輪が嵌合し、主軸8の外周面に内輪が嵌合する複数のアンギュラ玉軸受に間座13aや軸受押え15により予圧を付与して構成される。本実施例では背面配置とした2個のアンギュラ玉軸受の外輪を軸受スリーブ14に嵌合し、間座13aや軸受押え15を組付けることによりリア主軸受13が構成されている。
【0015】
軸受スリーブ14の外周面は、外筒2の後方に取付けられたスリーブハウジング16の内周面にスキマ嵌めにより嵌め合わされ、前後方向の移動が可能なように構成される。
上記のフロント主軸受6およびリア主軸受13により主軸8が外筒2に対して回転自在に支持されると共に、軸受スリーブ14とスリーブハウジング16との嵌合により主軸8の熱膨張による伸びが吸収される。
【0016】
18は主軸構成物としてのエンコーダであり、金属材料等で製作された外周面に多数の歯を形成した円環状部材であって、その内周面が円環状のエンコーダアダプタ18aに圧入等により固定され、エンコーダアダプタ18aの内周面がリア主軸受13の後方の主軸8の外周面に嵌合する。
19は回転位置検出センサであり、スリーブハウジング16の後方の端面にエンコーダ18の外周面の歯に隙間を介して対向して配置された光学式等のセンサであって、エンコーダ18の歯を検出して矩形波等として出力する機能を有している。
【0017】
21は主軸構成物としての軸受ナットであり、主軸8の後部に設けられたネジ部に螺合し、エンコーダ18のエンコーダアダプタ18aを介してリア主軸受13のアンギュラ玉軸受の内輪を押圧して固定すると共にエンコーダ18を主軸8に固定する。
22はピストン機構であり、図3に示すようにスリーブハウジング16の後方に配置されたケース23の後方に設置されたシリンダ24と、この内部にOリング25aやシール体25bを介して挿入されたピストン25およびカバー26により構成され、ピストン25の前後に形成された圧力室27a、27bに油圧または空気圧を導入して前後に往復動可能に構成されており、主軸8の後部から挿入されている図示しないアンクランプ機構のドッグ軸28に鍔状に形成された主軸構成物としてのドッグ29を圧力室27aを加圧してピストン25が押圧することにより工具ホルダ10をアンクランプ状態にする。
【0018】
また、ドッグ軸28は主軸8とはスプライン等を介して軸方向の移動を許容して共に回転するように構成されており、その軸芯に沿って穿孔された連通孔9bが主軸8の連通孔9aと図示しないOリング等を介して連通している。
29aは位置検出センサであり、電磁式または静電容量式等の近接する部品の存在を検知するセンサであって、ドッグ29の位置を検出して工具ホルダ10のクランプまたはアンクランプ状態を検出する。
【0019】
30はロータリジョイントカートリッジであり、合金鋼等の鋼材で製作され、ピストン機構22のカバー26の後方に配置された外周面を段付形状とした有底の円筒状部材であって、その内側にカバー26に設置された軸受部31が配置される。
軸受部31は2個のアンギュラ玉軸受を正面配置として軸受箱に収納した軸受装置であって、内輪に嵌合する回転軸32を回転自在に支持する。
【0020】
ロータリジョイントカートリッジ30の後部には切削液供給孔33が設けられており、図示しない切削液供給装置からパイプ等により加圧された切削液が供給される。
34は回転シール装置であり、静止体であるロータリジョイントカートリッジ30に設けられた固定側シール34aを回転体である回転軸32の後端部に設けられた回転側シール34bに摺接させて静止系と回転系とを封止する接触シール、例えばメカニカルシールであって、切削液供給孔33と回転軸32の軸芯に沿って穿孔された連通孔9cを連通させている。
【0021】
35は連結部であり、回転軸32とドッグ軸28とをスプライン等を介して軸方向の移動を許容して共に回転するように連結すると共に、回転軸32の連通孔9cとドッグ軸の連通孔9bとを連通している。
37はパッキンであり、合成ゴム等で形成された接触シールであって、ドッグ軸28の往復動に伴う回転軸32のドッグ軸28の相対移動を許容して連結部35から溢れた切削液を封止する。
【0022】
上記により連通孔9a、9b、9cが連通し、本実施例の連通路9が形成される。
38はパージエア供給口であり、図示しない空気源から供給される加圧空気をエア通路38aを通じて主軸装置1の内部に供給する。
40は主軸構成物としてのスリンガであり、ニトリルゴムやフッ素ゴム等の比較的硬質で耐油性に優れた弾性体で製作された比較的薄い円環状部材であって、その外周側を前方へ傾斜するように曲折させた傾斜縁40aが形成されており、円環状のスリンガ押え41を介してボルトにより軸受ナット21に固定され、主軸8の後端部に設置される。
【0023】
なお、スリンガ40を形成する材料は、前記に限らず、比較的硬質のビニール等であってもよい。要は比較的硬質の耐油性に優れた弾性体であればどのような材料であってもよい。
スリンガ押え41の内周面と主軸8の外周面の間にはOリング42が装着され、スリンガ40の後方から主軸8の外周面を伝う切削液等の前方への洩れを封止する。
【0024】
43は受皿であり、ケース23のケース内周面23aから軸芯に向うL字状断面を有する円環状部材であって、その内径部にはL字状の辺の一方が後方に向って突出した受縁44が形成されており、スリンガ40の直前に配置される。
また、ケース23には受縁44とケース内周面23aとで形成される空間とケース23の外部とを連通する排出孔45が設けられている。本実施例の受皿43はケース23のケース内周面23aに一体に形成されている。
【0025】
上記のフロントハウジング5とフロント主軸受6、主軸8およびドッグ軸28並びに主軸8のフロントハウジング5の嵌合突起5bの後方に取付けられた主軸構成物であるロータ4b、リア主軸受13、エンコーダ18、軸受ナット21、スリンガ40、ドッグ29等により図2に示す本実施例の主軸組立体48が構成される。
また、図2に示すように上記の各部位の直径は、外筒2の外筒内周面3の直径に相当するフロントハウジング5の嵌合突起5bの外径はφAで形成され、主軸構成物のであるロータ4bの外径はφB、リア主軸受13の軸受スリーブ14の外径はφC、エンコーダ18の歯の外径はφD、軸受ナット21の外径はφE、スリンガ40の外径はφF、ドッグ29の外径はφGで形成されており、スリンガ40を除く主軸構成物の外径は、フロントハウジング5の嵌合突起5bの外径φAに対して、φA>φB>φC>φD>φE>φGとなるように後方に向って順に小さくなるように形成されている。
【0026】
スリンガ40の外径φFは、図3に示すように受皿43の内径φHより大きくケース23のケース内周面23aの直径より小さくなるように形成されている。
上記のステータ4aを組付けた外筒2に、回転位置検出センサ19を組付けたスリーブハウジング16、受皿43を有するケース23、ピストン機構22、回転軸32や回転シール装置34を組付けたロータリジョイントカートリッジ等を組立てて本実施例の外筒組立体が形成される。
【0027】
上述した構成の作用について説明する。
本実施例の主軸装置1は、静止系であるフロントハウジング5や外筒2、スリーブハウジング16、ケース23、シリンダ24、カバー26、ロータリジョイントカートリッジ30等の嵌合部や接合部はOリング等により、動力ケーブル12の取出し口はブーツシール等により封止され、外部から塵や切削液等が侵入しないように構成されている。
【0028】
また、ロータリジョイントカートリッジ30の静止系と回転系の封止は回転シール装置34で、ピストン機構22の往復作動に伴う相対移動の封止はOリング25a、シール体25b、パッキン37により行われているので、通常はピストン機構22が油圧式の場合の作動媒体や切削液供給孔33から供給され、連通路9を通過する切削液が主軸装置1の内部に漏れ出すことはないが、回転シール装置34のシール体やOリング25a、シール体25b、パッキン37がその摺動により限度を超えて摩耗した場合や回転シール装置34の破損や脱落等の不測の事態が生じた場合には作動媒体や切削液が主軸装置1の内部に漏れ出すことになる。
【0029】
本実施例では、このような内部洩れの要因となる部位を後方、つまり主軸8の後端部の後方に集中して配置し、主軸8の後端部にスリンガ40および受皿43を設けて上記の内部洩れが生じた場合においてもリア主軸受13や駆動モータ4およびフロント主軸受6等の重要部位へ切削液等が侵入することを防止している。
すなわち、主軸8の回転中に内部洩れが生じた場合には、切削液等が自重によりスリンガ40の上部に漏れ出してくる。そして主軸8と共に回転しているスリンガ40のスリンガ押え41に達した切削液等はスリンガ押え41と主軸8との間がOリング42により封止されているので、スリンガ押え41の上面を遠心力等により移動してスリンガ40の傾斜縁40aに達し、一部は遠心力によりケース23のケース内周面23aの方向に振り飛ばされ、その他はスリンガ40の外周側で前方へ傾斜している傾斜縁40aを伝って移動し、そこから内径がスリンガ40の外径より小さく形成されている受皿43へ落下して受縁44とケース内周面23aの間の空間に集められる。
【0030】
また、ケース内周面23aに振り飛ばされた切削液等や直接ロータリジョイントカートリッジ30の内壁に付着した切削液等は、自重によりそれぞれの壁面を伝わってケース内周面23aの内側に突出している受皿43に受け止められ、受縁44とケース内周面23aの間の空間に集められる。
このようにして集められた切削液等は、排出孔45により主軸装置1の外部へ排出される。
【0031】
この場合に、スリンガ40が回転しており、傾斜縁40aが前方へ傾斜しているので、切削液等がスリンガ40の下面を伝わって主軸8側に侵入することが防止される。
また、受皿43の内径部には後方に向って突出した受縁44が設けられているので、落下した切削液等が主軸8側に侵入ことが防止されると共に、主軸8側に溢れ出ることが防止される。
【0032】
更に、主軸装置1の内部はパージエア供給口38からエア通路38aを通じて供給された加圧空気により加圧されているので、受皿43へ落下した切削液等が排出孔45から速やかに排出されると共に、主軸装置1の外部から塵や水分が浸入することが防止される。
なお、主軸が回転していない場合は、上記の遠心力による作用はなくなるが、切削液等は自重により受縁44とケース内周面23aの間の空間に集まり、排出孔45から外部へ排出される。
【0033】
このようにして、内部洩れがあった場合の切削液等の主軸装置1の重要部位への侵入が防止され、内部洩れがあった場合の保守範囲を回転シール装置34やOリング25a、シール体25b、パッキン37のシール部品のみに止めることができる。
保守等のために本実施例の主軸組立体48と外筒組立体とを分解する場合は、外筒2とフロントハウジング5を締結している取付フランジ5aのボルトを取外し、フロントハウジング5と主軸8を前方に引張って主軸組立体48を外筒組立体から抜取る。
【0034】
この時、図4(a)に示す取付フランジ5aのボルトを取外した直後の状態から主軸組立体48を前方(図4に太い矢印で示す図1の矢印Pと反対方向)に引張ると、図4(b)に示すように弾性体で受皿43の内径より大きい外径で形成されているスリンガ40が受皿43の受縁44の後方に当接してその弾性により後方に変形し、受皿43の内径をすり抜けて図4(c)に示すように受皿43の前方に抜取られる。その後は主軸組立体48の各主軸構成物がフロントハウジング5から後方に向って順に小径となるように形成されているので、主軸組立体48を外筒組立体から円滑に抜取ることができる。
【0035】
この場合に、スリンガ40を受皿43の前方に抜取った後にスリンガ40の外径部が外筒組立体を構成する各部品の内径より大きい部位があったとしてもスリンガ40が弾性体で形成されているので前記と同様にスリンガ40が後方に変形して主軸組立体48を外筒組立体から抜取ることができる。
本実施例の主軸組立体48と外筒組立体とを組立てる場合は、ドッグ軸28側から主軸組立体48を外筒組立体の内部に後方(図5に太い矢印で示す図1の矢印Pと同方向)に向って挿入する。
【0036】
この時、主軸組立体48の各主軸構成物がフロントハウジング5から後方に向って順に小径となるように形成されているので、図5(a)に示すスリンガ40が受皿43の直前に位置するまでは主軸組立体48を外筒組立体48の内部に円滑に挿入することができ、更に主軸組立体48を挿入すると、図5(b)に示すように弾性体で受皿43の内径より大きい外径で形成されているスリンガ40が受皿43の受縁44の前方に当接してその弾性により前方に変形し、受皿43の内径をすり抜けて図5(c)に示すように受皿43の後方に挿入される。その後は主軸組立体48の各主軸構成物がフロントハウジング5から後方に向って順に小径となるように形成されているので、主軸組立体48を外筒組立体に円滑に挿入することができる。
【0037】
そして、外筒2とフロントハウジング5を締結する取付フランジ5aのボルトを締付け、主軸組立体48を外筒組立体に組付ける。
この場合に、主軸組立体48を挿入してスリンガ40を受皿43の直前に位置させる前にスリンガ40の外径部が外筒組立体を構成する各部品の内径より大きい部位があったとしてもスリンガ40が弾性体で形成されているので前記と同様にスリンガ40が前方に変形して主軸組立体48を外筒組立体に挿入することができる。
【0038】
このように、受皿43の内径より大きい外径を有するスリンガ40を弾性体で形成すれば、内部洩れが生じた場合の重要部位への切削液等の侵入を防止することができると共に外筒組立体への主軸組立体48の挿抜を容易に行うことができるので、保守範囲をシール部品に限定することができると共に保守に要する時間を短縮して主軸装置を設けた工作機械の稼動効率を向上させることができる。
【0039】
なお、本実施例においては、組立性および加工性の観点から、外筒2とスリーブハウジング16およびケース23を別部品として設定しているが、上記のように本実施例の主軸組立体48は外筒2の前方からの挿抜が可能であるので、これらを外筒2に統合した1部品として形成するようにしてもよい。
以上説明したように、本実施例では、主軸の後端部にスリンガを設け、その直前に外筒の内径部に設けた受皿を配置し、スリンガの外径を受皿の内径より大きく設定したことによって、回転シール装置やパッキン等のシール部品から切削液等の内部洩れが生じた場合においても受皿の内径より大きい外径を有するスリンガによりフロント主軸受やリア主軸受、駆動モータ等への切削液等の侵入を防止することができ、信頼性の高い主軸装置とすることができる。
【0040】
また、スリンガを弾性体で形成するようにしたことによって、スリンガの外径を受皿の内径より大きく設定してもその弾性により主軸組立体を外筒組立体へ容易に挿抜することができ、保守性に優れた主軸装置とすることができる。
なお、本実施例では受皿をスリンガの直前に配置するとして説明したが、受皿の位置は前記に限らず、スリンガの前方で、フロント主軸受やリア主軸受、駆動モータの中の最も後方の主軸構成物までの間に配置すれば、上記と同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0041】
図6は実施例2の主軸装置の後方部を示す拡大図である。
なお、上記実施例1と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
図6において、51はスリンガであり、合金鋼等の鋼板またはアルミニウム合金等の金属板で上記実施例1のスリンガ40とスリンガ押え41とを一体にした形状に製作された円環状部材であって、その外周側には傾斜縁51aが形成されており、ボルトにより軸受ナット21に固定されて主軸8の後端部に設置される。
【0042】
52は受皿であり、実施例1のスリンガ40と同様の弾性体で製作され、実施例1と同様のL字状断面を有する円環状部材であって、内径部には後方に向って突出した受縁53が形成されており、受皿押え54を介してボルトによりケース23の後端部の内側面に固定され、スリンガ51の直前に配置される。
本実施例のケース23には、受縁53とケース内周面23aとで形成される空間とケース23の外部である図示しない吸引ポンプに接続する吸引口55とを連通する排出孔56が設けられている。
【0043】
上記の構成の作用について説明する。
本実施例において内部洩れが生じた場合は、上記実施例1と同様に切削液等が自重によりスリンガ51の上部に漏れ出してくると、切削液等はスリンガ51の上面を遠心力等により移動してスリンガ51の傾斜縁51aに達し、一部は遠心力によりケース内周面23aの方向に振り飛ばされ、その他は傾斜縁51aから内径がスリンガ51の外径より小さく形成されている受皿52へ落下して受縁53とケース内周面23aの間の空間に集められる。
【0044】
また、内壁に付着した切削液等は、自重によりそれぞれの壁面を伝わってケース内周面23aの内側に突出している受皿52に受け止められ、受縁53とケース内周面23aの間の空間に集められる。
このようにして集められた切削液等は、排出孔56に連通する吸引口55から主軸装置1の外部へ吸引されて排出される。
【0045】
保守等のために本実施例の主軸組立体48と外筒組立体とを分解する場合は、上記実施例1の図4と同様の手順で主軸組立体48を抜取るときに、弾性体で形成された受皿52の後方に受皿52の内径より大きい外径で形成されている略剛体のスリンガ51が当接した時、受皿52がその弾性により前方に変形し、スリンガ51が受皿52の内径をすり抜けてその前方に抜取られる。その他の作動は実施例1と同様である。
【0046】
本実施例の主軸組立体48と外筒組立体とを組立てる場合は、実施例1の図5と同様の手順で主軸組立体48を挿入するときに、弾性体で形成された受皿52の前方に受皿52の内径より大きい外径で形成されている略剛体のスリンガ51が当接した時、受皿52がその弾性により後方に変形し、スリンガ51が受皿52の内径をすり抜けてその後方に挿入される。その他の作動は実施例1と同様である。
【0047】
このように、スリンガ51の外径より小さい内径を有する受皿52を弾性体で形成するようにしても、内部洩れが生じた場合の重要部位への切削液等の侵入を防止することができると共に外筒組立体への主軸組立体48の挿抜を容易に行うことができる。
以上説明したように、本実施例では、上記実施例1と同様の効果に加えて、受皿を弾性体で形成するようにしたことによって、略剛体のスリンガの外径を受皿の内径より大きく設定してもその弾性により主軸組立体を外筒組立体へ容易に挿抜することができ、保守性に優れた主軸装置とすることができる。
【0048】
また、スリンガを金属板等で形成して略剛体としてことによって、遠心力によるスリンガの膨張を抑制することが可能になり、ケース内周面との隙間を小さく設定することができるので、主軸装置の内部への切削液等の侵入を効果的に防止することができる。
更に、受皿に集められた切削液等を吸引により排出するようにしたことによって、主軸装置の内部への切削液等の侵入を更に効果的に防止することができる。
【0049】
なお、上記においては、スリンガまたは受皿のどちらか一方を弾性体で形成するとして説明したが、スリンガおよび受皿の両方を弾性体で形成しても同様の効果を得ることができる。
また、上記各実施例においては、ビルトインモータ式の主軸装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、本発明を適用する主軸装置は前記に限らず、エアモータ式や外部駆動式等の主軸装置に適用しても同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1の主軸装置を示す断面図
【図2】実施例1の主軸組立体を示す断面図
【図3】実施例1の主軸装置の後方部を示す拡大図
【図4】実施例1の主軸組立体の抜取り手順を示す説明図
【図5】実施例1の主軸組立体の挿入手順を示す説明図
【図6】実施例2の主軸装置の後方部を示す拡大図
【符号の説明】
【0051】
1 主軸装置
2 外筒
2a 固定フランジ
3 外筒内周面
4 駆動モータ
4a ステータ
4b ロータ
5 フロントハウジング
5a 取付フランジ
5b 嵌合突起
6 フロント主軸受
6a、13a 間座
7、15 軸受押え
8 主軸
9 連通路
9a、9b、9c 連通孔
10 工具ホルダ
11 工具
12 動力ケーブル
13 リア主軸受
14 軸受スリーブ
16 スリーブハウジング
18 エンコーダ
18a エンコーダアダプタ
19 回転位置検出センサ
21 軸受ナット
22 ピストン機構
23 ケース
23a ケース内周面
24 シリンダ
25 ピストン
25a、42 Oリング
25b シール体
26 カバー
27a、27b 圧力室
28 ドッグ軸
29 ドッグ
29a 位置検出センサ
30 ロータリジョイントカートリッジ
31 軸受部
32 回転軸
33 切削液供給孔
34 回転シール装置
34a 固定側シール
34b 回転側シール
35 連結部
37 パッキン
38 パージエア供給口
38a エア通路
40、51 スリンガ
40a、51a 傾斜縁
41 スリンガ押え
43、52 受皿
44、53 受縁
45、56 排出孔
48 主軸組立体
54 受皿押え
55 吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、該外筒に着脱可能に組付けられるフロントハウジングと、該フロントハウジングに嵌合するフロント主軸受と、該フロント主軸受により回転自在に支持される主軸と、該主軸の前記フロントハウジングの後方に取付けられ、前記外筒の内側に収納される複数の主軸構成物とを備え、該主軸構成物の外径を前記フロントハウジング側から順に小さく形成し、前記フロントハウジングとフロント主軸受と主軸と主軸構成物を一体とした主軸組立体を前記外筒に対して挿抜可能に構成した主軸装置において、
前記主軸の後端部に、前記主軸構成物の一つとして円環状のスリンガを設け、前記外筒の内径部に円環状の受皿を設け、前記スリンガの外径を前記受皿の内径より大きく設定すると共に、前記受皿を前記スリンガの前方に配置したことを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記スリンガを、弾性体により形成したことを特徴とする主軸装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記受皿を、弾性体により形成したことを特徴とする主軸装置。
【請求項4】
外筒と、該外筒に着脱可能に組付けられるフロントハウジングと、該フロントハウジングに嵌合するフロント主軸受と、該フロント主軸受により回転自在に支持される主軸と、該主軸の前記フロントハウジングの後方に取付けられ、前記外筒の内側に収納される複数の主軸構成物とを備え、該主軸構成物の外径を前記フロントハウジング側から順に小さく形成し、前記フロントハウジングとフロント主軸受と主軸と主軸構成物を一体とした主軸組立体を前記外筒に対して挿抜可能に構成した主軸装置において、
前記主軸の後端部に、前記主軸構成物の一つとして弾性体からなる円環状のスリンガを設け、前記外筒の内径部に円環状の受皿を設け、前記スリンガの外径を前記受皿の内径より大きく設定すると共に、前記受皿を前記スリンガの前方に配置したことを特徴とする主軸装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記受皿を、弾性体により形成したことを特徴とする主軸装置。
【請求項6】
外筒と、該外筒に着脱可能に組付けられるフロントハウジングと、該フロントハウジングに嵌合するフロント主軸受と、該フロント主軸受により回転自在に支持される主軸と、該主軸の前記フロントハウジングの後方に取付けられ、前記外筒の内側に収納される複数の主軸構成物とを備え、該主軸構成物の外径を前記フロントハウジング側から順に小さく形成し、前記フロントハウジングとフロント主軸受と主軸と主軸構成物を一体とした主軸組立体を前記外筒に対して挿抜可能に構成した主軸装置において、
前記主軸の後端部に、前記主軸構成物の一つとして円環状のスリンガを設け、前記外筒の内径部に弾性体からなる円環状の受皿を設け、前記スリンガの外径を前記受皿の内径より大きく設定すると共に、前記受皿を前記スリンガの前方に配置したことを特徴とする主軸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−102906(P2006−102906A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295765(P2004−295765)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】