説明

乗客コンベアの制動装置及び制動方法

【課題】安全装置の動作が正常動作であるのか誤動作であるのかを判別することができ、安全装置が誤動作した場合には、乗客コンベアの運転を停止させずに継続させることが可能であって、運転効率や利便性の低下を未然に防止することができる乗客コンベアの制動装置及び制動方法を得る。
【解決手段】乗客コンベアの運転を駆動する駆動機と、前記駆動機の回転数を変化させるためのインバータと、を有する乗客コンベアの制動装置において、前記乗客コンベアの運転を停止させる旨の停止指令を出力する安全装置と、前記安全装置から出力された前記停止指令が所定の停止判定時間以上継続して入力された場合に、前記インバータを制御して前記駆動機の回転数を減少させて前記乗客コンベアの運転を緩停止させる制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗客コンベアの制動装置及び制動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に乗客コンベアには様々な安全装置が備えられており、これらの安全装置が動作した場合には乗客コンベアの運転を停止するようになっている。この安全装置動作時における運転停止は、通常、乗客コンベアの運転を駆動する電動機及び電磁的に動作してこの電動機を制動する制動機への電力供給を遮断して駆動力を0にし機械的に制動力を加えることにより乗客コンベアを停止させる。
【0003】
そして、このような機械的機構による制動は減速度が大きく急制動となり(図5のd)、踏段や移動ベルト上の利用者が転倒等してしまう二次災害の可能性が考えられるため、これを回避するためインバータ装置を用いて電動機の回転数を制御して緩やかに減速停止する方法も知られている(図5のe)。また、機械的に加える制動力の大きさを調整することにより、緩停止する方法も知られている。
【0004】
このような従来における乗客コンベアの制動装置及び制動方法の例としては、停止内容(停止指令の発生原因)によって停止にかかる時間を変更することを目的とするものとして、無端状に連結された踏段を駆動する電動機と、この電動機の回転数を変化させるインバータ装置と、電動機の回転を制動する機械式制動機と、を備えた乗客コンベアにおいて、非常時には機械式制動機を作動させて停止させ、通常運転停止時にはインバータ装置を作動させて緩停止させ、異常現象前兆時にはインバータ装置を作動させて通常運転停止時よりも短時間に停止させるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−315785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、安全装置が動作して乗客コンベアが停止に至る場合としては、安全装置が正常に動作した場合と安全装置が誤って動作した場合の二通りが考えられる。
正常動作とは安全装置が想定された危険状態を検知して動作することであり、誤動作とは例えばいたずらや手荷物の一時的な接触等の危険状態であるとは想定されていない状況において不意に安全装置が動作してしまうことである。
【0007】
特許文献1に示された従来における乗客コンベアの制動装置及び制動方法においては、安全装置の動作が正常動作であるのか誤動作であるのかを判別することができないため、本来乗客コンベアの運転を停止する必要のない状態において安全装置が誤動作した場合においても乗客コンベアの運転が停止してしまい、運転効率や利便性が低下してしまうという課題がある。
【0008】
特に、一旦停止してしまった乗客コンベアの運転を再び開始するには、係員により、動作した安全装置の状態や踏段上等に利用者がいないかを確認した後所定の起動操作を行うことが必要であり、運転再開には時間を要する。従って、その間は乗客コンベアは停止したままであり利用することができないため、運転効率や利便性の低下は著しいものとなってしまう。
【0009】
この発明は、このような課題を解決するためになされたもので、安全装置の動作が正常動作であるのか誤動作であるのかを判別することができ、本来乗客コンベアの運転を停止する必要のない状態において安全装置が誤動作した場合(運転を停止させるには至らない不要動作である場合)には、乗客コンベアの運転を停止させずに継続させることが可能であって、運転効率や利便性の低下を未然に防止することができる乗客コンベアの制動装置及び制動方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る乗客コンベアの制動装置においては、乗客コンベアの運転を駆動する駆動機と、前記駆動機の回転数を変化させるためのインバータと、を有する乗客コンベアにおいて、前記乗客コンベアの運転を停止させる旨の停止指令を出力する安全装置と、前記安全装置から出力された前記停止指令が所定の停止判定時間以上継続して入力された場合に、前記インバータを制御して前記駆動機の回転数を減少させて前記乗客コンベアの運転を緩停止させる制御手段と、を備えた構成とする。
【0011】
また、この発明に係る乗客コンベアの制動方法においては、乗客コンベアの運転を駆動する駆動機と、前記駆動機の回転数を変化させるためのインバータと、を有する乗客コンベアにおいて、安全装置から出力され、前記乗客コンベアの運転を停止させる旨の停止指令が所定の停止判定時間以上継続して入力されたか否かを判定する第1のステップと、前記第1のステップにおいて前記停止指令が前記停止判定時間以上継続して入力されたと判定された場合に、前記インバータを制御して前記駆動機の回転数を減少させて前記乗客コンベアの運転を緩停止させる第2のステップと、前記第1のステップにおいて前記停止指令が前記停止判定時間以上継続して入力されなかったと判定された場合に、前記乗客コンベアの運転を継続させる第3のステップと、を備えたものとする。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る乗客コンベアの制動装置及び制動方法においては、安全装置の動作が正常動作であるのか誤動作であるのかを判別することができ、本来乗客コンベアの運転を停止する必要のない状態において安全装置が誤動作した場合には、乗客コンベアの運転を停止させずに継続させることが可能であって、運転効率や利便性の低下を未然に防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制動装置の要部を拡大して模式的に示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制動装置の回路構成を説明する図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制動装置及び制動方法の制動動作時における速度変化を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制動装置及び制動方法の制動動作の流れを示すフロー図である。
【図5】従来の乗客コンベアの制動動作時における速度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1から図4は、この発明の実施の形態1に係るもので、図1は乗客コンベアの制動装置の要部を拡大して模式的に示す図、図2は乗客コンベアの制動装置の回路構成を説明する図、図3は乗客コンベアの制動装置及び制動方法の制動動作時における速度変化を示す図、図4は乗客コンベアの制動装置及び制動方法の制動動作の流れを示すフロー図である。
なお、ここでは、説明の便宜上、乗客コンベアとして一般的なエスカレーターの場合を取り上げて説明する。
【0015】
図において1は設置された上下階間で利用者を運搬するエスカレーターの基本的枠組みを構成するトラスであり、このトラス1の内部では、利用者が搭乗する踏段2が無端状に連結されて循環移動している。
この踏段2の往路側の移動経路は、上下の乗降口近傍において隣り合う踏段2の踏板同士がほぼ平坦に配置される上下の水平部、これら上下の水平部の間で踏段2が階段状に配置される傾斜部、並びに、傾斜部の上下端と上下の水平部とを接続し踏段2が階段状から平坦状又は階段状から平坦状に遷移する上下の曲部、から構成されている。
【0016】
トラス1の左右両側には欄干3が立設されており、この欄干3の外周には踏段2と同期して循環移動する無端状の移動手摺4が設けられている。また、欄干3の下端部には踏段2の左右両側に沿うようにスカートガード5が取り付けられている。
移動手摺4は、大まかに言って、往路側において欄干3の外周で露出しており復路側において欄干3の下部に設けられたスカートガード5内に貫入している。そして、移動手摺4がスカートガード5内へと入る箇所及び移動手摺4がスカートガード5内から出る箇所には、それぞれ開口部が設けられて手摺出入口部が形成されている。
【0017】
当該エスカレーターには、特にこのエスカレーターが備える2つの移動体である踏段2及び移動手摺4に係る異常、変調や危険状態の発生を検出して、又は、非常時に人が操作することにより、当該エスカレーターの運転を停止させるための安全装置がいくつか設けられている。
まず、1つ目の安全装置として踏段挟まれ検出装置6がある。この踏段挟まれ検出装置6は、踏段2の移動経路の曲部に配設されており、階段状から平坦状に遷移する踏段2の間に靴等の異物が挟まれた場合における踏段2の浮き上がりを検知して、停止指令となる踏段挟まれ検出信号を出力する。
【0018】
また、2つ目の安全装置として手摺引込まれ検出装置7がある。この手摺引込まれ検出装置7は、移動手摺4がスカートガード5内へと入る手摺出入口部に配設されており、利用者の手等の異物が引き込まれた場合における、当該手摺出入口部に弾設された検出体の押し込まれを検知して、停止指令となる手摺引込まれ検出信号を出力する。
そして、3つ目の安全装置として停止操作スイッチ8がある。この停止操作スイッチ8は、乗客コンベアの乗降口近傍のスカートガード5に設けられた操作盤に配設されており、この停止操作スイッチ8が操作されると停止指令となる停止操作スイッチ信号が出力される。なお、この操作盤には当該乗客コンベアの運転方向や運転速度等の調整を行うための運転操作スイッチも設けられている。
【0019】
エスカレーターの運転すなわち移動体である踏段2及び移動手摺4の移動は、駆動機9により駆動される。また、この駆動機9には駆動機9の回転を制動する制動機10が設けられており、エスカレーターの運転(踏段2及び移動手摺4の移動)はこの制動機10により制動される。
駆動機9へはインバータ11を介して電力が供給される。このインバータ11は、電源から供給された交流電力を後述する制御演算部13による制御の下で所望の周波数・電圧の交流電力へと変換して駆動機9へと出力する。そして、インバータ11により駆動機9に供給される周波数・電圧が可変されることにより、駆動機9の回転速度(回転数)が制御され、踏段2及び移動手摺4の移動速度が制御される。
【0020】
電源とインバータ11との間及び電源と制動機10との間には駆動機電源接点12a及び制動機電源接点12bがそれぞれ設けられており、これらの接点が閉成・開放されることにより駆動機9及び制動機10への電力供給及び遮断が行われる。
当該エスカレーターの運転全般は制御演算部13により制御されており、エスカレーターを運転させる際には、駆動機電源接点12a及び制動機電源接点12bの双方を閉成させ駆動機9及び制動機10に電力を供給するとともに、インバータ11に制御指令を出力して駆動機9の回転速度を制御する。
【0021】
各安全装置(踏段挟まれ検出装置6、手摺引込まれ検出装置7及び停止操作スイッチ8)からエスカレーターの運転を停止させる旨の停止指令が出力された際のエスカレーターの停止動作は、制御演算部13の備える停止制御部13aにより制御される。
この各安全装置から停止指令が出力された際の停止動作には、最大の制動力で制動する急停止動作と、この急停止動作よりは緩やかな減速度で停止させる緩停止動作と、がある。
【0022】
急停止動作においては、制御演算部13の備える停止制御部13aの制御により駆動機電源接点12a及び制動機電源接点12bの双方が開放され駆動機9及び制動機10への電力供給が遮断されることにより、制動機10による機械的な制動がかかり踏段2及び移動手摺4の移動が急停止される(図3のa)。
また、緩停止動作においては、駆動機電源接点12a及び制動機電源接点12bは閉成され駆動機9及び制動機10への電力供給は維持されたまま、停止制御部13aの制御の下インバータ11により駆動機9へと供給する交流電力の周波数・電圧を可変させることにより、駆動機9の回転速度を緩やかに減速させて踏段2及び移動手摺4の移動が緩停止される(図3のb)。
【0023】
制御演算部13には、各安全装置からの停止指令に基づいて異常の発生を検出するとともに、発生した異常の種類に応じて停止動作の種類を判定する異常検出判定部13bが備えられている。
踏段挟まれ検出装置6からの停止指令(踏段挟まれ検出信号)の出力は、踏段挟まれ検出接点14aが閉成することに対応しており、制御演算部13の備える異常検出判定部13bへと入力される。また、手摺引込まれ検出装置7からの停止指令(手摺引込まれ検出信号)の出力は、手摺引込まれ検出接点14bが閉成することに対応しており、異常検出判定部13bへと入力される。そして、停止操作スイッチ8からの停止指令(停止操作スイッチ信号)の出力は、停止操作スイッチ接点14cが閉成することに対応しており、異常検出判定部13bへと入力される。
【0024】
制御演算部13の異常検出判定部13bは、各安全装置(踏段挟まれ検出装置6、手摺引込まれ検出装置7及び停止操作スイッチ8)の各接点が閉成して出力された停止指令を取り込み、停止指令の入力があった場合に当該停止指令の入力が安全装置の誤動作によるものであるのか否かについて判定するとともに、その停止指令の種類すなわちその停止指令がどの安全装置の動作により出力されたものであるのかを判定し、入力された停止指令の種類に応じて行う停止動作の種類を判定する。
そして、停止制御部13aは、この異常検出判定部13bによる停止動作の判定結果に基づいて、駆動機電源接点12a及び制動機電源接点12b並びにインバータ11を制御して、停止動作を行わせる。
【0025】
ここで、各安全装置において誤動作が発生する場合とは、踏段挟まれ検出装置6においては踏段2に、手摺引込まれ検出装置7においては検出体に、例えば傘や鞄といった手荷物等が一時的に接触することにより動作してしまう場合が考えられる。停止操作スイッチ8においては人による操作が必要であって原則として誤動作は発生しないといえるが、意図せず一時的に停止操作スイッチ8に人が触れてしまうことによる誤動作の可能性はある。
いずれにしても、本当に異物が踏段2の間に挟まれ又は手摺出入口部に引き込まれ、エスカレーターの運転を停止させるべき事態が発生している場合には、安全装置の動作時間は比較的長いものとなり、従って、安全装置からの停止指令はある程度の長時間にわたって継続して出力される。これに対し、上述した誤動作の場合には、安全装置の動作時間は比較的短く安全装置からの停止指令出力継続時間は短時間なものとなる。
【0026】
異常検出判定部13bは、入力された各安全装置からの停止指令に対して、まず、急停止動作が必要であるか否かについて判定を行い、急停止動作が必要である停止指令が入力された場合には停止制御部13aの制御により急停止動作が行われる。
そして、入力された停止指令が急停止動作の必要がないものであった場合には、当該停止指令毎に対応する所定の停止判定時間を設定する。この所定の停止判定時間とは、入力された停止指令が、安全装置の誤動作によるものであり停止動作は不要であるのか、安全装置の正規動作によるものであり停止動作が必要であるのかの判定を行うための時間であり、停止指令毎に定められる停止制動距離内での停止を妨げない範囲で長めに設定することが好ましい。
【0027】
すなわち、異常検出判定部13bは、停止指令が当該停止指令の種類に応じて設定された所定の停止判定時間の間、継続して入力され続けた場合には、当該停止指令は安全装置の正規動作によるものであると判定する。そして、停止制御部13aの制御により緩停止動作が行われる。
一方、停止指令が入力され始めてから当該停止指令の種類に応じた所定の停止判定時間が経過する前に当該停止指令の入力が途絶えた場合、異常検出判定部13bは、当該停止指令は安全装置の誤動作によるものであると判定し、最終的には停止動作は行われずにエスカレーターの運転が継続される。
【0028】
なお、この停止判定中において、停止指令が入力され始めた時点でインバータ11制御により所定の減速度でもってエスカレーターの運転を停止させ始めて減速させ、所定の停止判定時間の間停止指令の入力が継続した場合にはそのまま所定の減速度でもってエスカレーターの運転を最終的に停止へと至らせるとともに、所定の停止判定時間の間停止指令の入力が継続しなかった場合には減速を中止して当該停止指令の入力前の運転速度にまで復帰させてエスカレーターの運転を継続させる(図3のc)。
【0029】
この際、停止判定中の所定の減速度(及び安全装置誤動作と判定された場合の復帰時の加速度)と、停止判定後に安全装置正規動作と判定された場合の所定の減速度とを変化させて、停止判定中の減速度及び加速度を停止判定後の減速度よりも緩やかなものとすることで、特に安全装置の誤動作であった場合の速度変化に伴い乗客に不快感を与えてしまうことや乗客を転倒させてしまうことを未然に防止することができる。
また、停止判定中及び停止判定後の各減速度(又は加速度)は、入力された停止指令の種類に応じて、必要な停止距離に収まる範囲内において、それぞれ異なる設定とするようにしてもよい。
【0030】
この実施の形態にあっては、乗客コンベア(エスカレーター)の制動装置は、図4に示す一連のフローに従って動作する。
まず、各安全装置(踏段挟まれ検出装置6、手摺引込まれ検出装置7及び停止操作スイッチ8)から出力された停止指令(踏段挟まれ検出信号、手摺引込まれ検出信号又は停止操作スイッチ信号)が制御演算部13の異常検出判定部13bへと入力されると(ステップS0)、ステップS1において、異常検出判定部13bは、入力された停止指令の種類すなわち当該停止指令がどの安全装置の動作により出力されたものであるのかを判定し、当該停止指令に対して急停止動作が必要であるか否かについて判定を行う。
【0031】
このステップS1において、入力された停止指令に対して急停止動作が必要であると判定した場合には、ステップS2へと移行してこの異常検出判定部13bによる判定結果に基づいて停止制御部13aにより急停止動作制御がなされて、駆動機電源接点12a及び制動機電源接点12bの双方が開放され駆動機9及び制動機10への電力供給が遮断されることにより、制動機10による機械的な制動がかかり運転が急停止される(図3のa)。
一方、ステップS1において、入力された停止指令に対して急停止動作が必要でないと判定した場合には、ステップS3へと移行して停止制御部13aの制御の下インバータ11により所定の減速度でもってエスカレーターの運転の減速を開始するとともに、停止指令の入力が開始されてからの経過時間の計測が開始される。
【0032】
そして、ステップS4へと進み、異常検出判定部13bは、停止指令の入力継続時間が入力された停止指令に応じて設定された所定の停止判定時間以上であるか否かの判定を行う。
このステップS4において、停止指令の入力継続時間が所定の停止判定時間以上である場合には、入力された停止指令は安全装置の正規動作によるものであると判定してステップS5へと移行し、この異常検出判定部13bの判定結果に基づく停止制御部13aの制御の下、インバータ11による緩停止動作が行われ、運転が緩停止される(図3のb)。
【0033】
一方、ステップS4において、停止指令の入力継続時間が所定の停止判定時間未満であると判定された場合には、ステップS6へと移り、異常検出判定部13bは、安全装置からの停止指令の入力が継続されているか否かについて確認を行う。
そして、このステップS6において、停止指令の入力が継続されていることが確認された場合には、ステップS4へと戻り、前述したステップS4、S5、S6の動作が繰り返される。
これに対し、ステップS6において、停止指令の入力が途絶えて継続されていないことが確認された場合には、入力された停止指令は安全装置の誤動作によるものであると判定してステップS7へと移行し、この異常検出判定部13bの判定結果に基づく停止制御部13aの制御の下、減速を中止してインバータ11により所定の加速度でもって駆動機9の回転速度を加速させ当該停止指令の入力前の運転速度にまで復帰させてエスカレーターの運転を継続させる(図3のc)。
【0034】
以上のように構成された乗客コンベアの制動装置は、乗客コンベアの運転を駆動する駆動機と、駆動機の回転数を変化させるためのインバータと、を有する乗客コンベアにおいて、乗客コンベアの運転を停止させる旨の停止指令を出力する安全装置と、安全装置から出力された停止指令が所定の停止判定時間以上継続して入力された場合に、インバータを制御して駆動機の回転数を減少させて乗客コンベアの運転を緩停止させる制御手段と、を備えたものである。
【0035】
また、制御手段は、停止指令の入力が開始されるとインバータを制御して乗客コンベアの運転速度の減速を開始させ、停止指令が停止判定時間以上継続して入力された場合に、減速を継続して乗客コンベアを緩停止させ、停止指令が停止判定時間以上継続して入力されなかった場合に、インバータを制御して乗客コンベアの運転速度を加速し、停止指令の入力開始前の運転速度へと復帰させて乗客コンベアの運転を継続させるものである。
【0036】
そして、停止指令の入力が開始された後停止指令が停止判定時間以上継続して入力される前における乗客コンベアの減速度を、停止指令が停止判定時間以上継続して入力された後における乗客コンベアの減速度より緩やかにしたものである。
【0037】
このため、安全装置の動作が正常動作であるのか誤動作であるのかを判別することができ、本来乗客コンベアの運転を停止する必要のない状態において安全装置が誤動作した場合には、乗客コンベアの運転を停止させずに継続させることが可能であって、運転効率や利便性の低下を未然に防止することができる。
また、停止判定中における減速度を緩やかなものとすることで、特に安全装置の誤動作であった場合の速度変化に伴い乗客に不快感を与えてしまうことや乗客を転倒させてしまうことを未然に防止することができる。
【0038】
さらに、安全装置が複数設けられている場合に、制御手段は、複数の安全装置からの停止指令毎に応じて、所定の停止判定時間を設定することにより、停止指令を出力する安全装置毎に適切な停止判定時間を設定することができ、安全装置の正常動作と誤動作との判定精度を高めることが可能であるとともに、誤動作であった場合の一時的な減速時間を短縮し運転効率や利便性の向上を図ることができる。
【0039】
さらにまた、安全装置が複数設けられている場合に、制御手段は、複数の安全装置からの停止指令毎に急停止が必要であるか否かを判定し、急停止が必要である場合には、制動機への電力供給を遮断するとともに制動機により乗客コンベアの運転を急停止させ、急停止が不要である場合には、停止指令が停止判定時間以上継続して入力されたときに、インバータを制御して乗客コンベアの運転を緩停止させることにより、安全装置の正常動作と誤動作との判定より急停止動作を優先して行うことができ、より高い安全性を確保することが可能である。
【0040】
そして、以上のように構成された乗客コンベアの制動方法は、乗客コンベアの運転を駆動する駆動機と、駆動機の回転数を変化させるためのインバータと、を有する乗客コンベアにおいて、安全装置から出力され、乗客コンベアの運転を停止させる旨の停止指令が所定の停止判定時間以上継続して入力されたか否かを判定する第1のステップ(図4のステップS4)と、第1のステップにおいて停止指令が停止判定時間以上継続して入力されたと判定された場合に、インバータを制御して駆動機の回転数を減少させて乗客コンベアの運転を緩停止させる第2のステップ(図4のステップS5)、第1のステップにおいて停止指令が停止判定時間以上継続して入力されなかったと判定された場合に、乗客コンベアの運転を継続させる第3のステップ(図4のステップS6及びS7)と、を備えたものである。
【0041】
このため、安全装置の動作が正常動作であるのか誤動作であるのかを判別することができ、本来乗客コンベアの運転を停止する必要のない状態において安全装置が誤動作した場合には、乗客コンベアの運転を停止させずに継続させることが可能であって、運転効率や利便性の低下を未然に防止することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 トラス
2 踏段
3 欄干
4 移動手摺
5 スカートガード
6 踏段挟まれ検出装置
7 手摺引込まれ検出装置
8 停止操作スイッチ
9 駆動機
10 制動機
11 インバータ
12a 駆動機電源接点
12b 制動機電源接点
13 制御演算部
13a 停止制御部
13b 異常検出判定部
14a 踏段挟まれ検出接点
14b 手摺引込まれ検出接点
14c 停止操作スイッチ接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの運転を駆動する駆動機と、前記駆動機の回転数を変化させるためのインバータと、を有する乗客コンベアにおいて、
前記乗客コンベアの運転を停止させる旨の停止指令を出力する安全装置と、
前記安全装置から出力された前記停止指令が所定の停止判定時間以上継続して入力された場合に、前記インバータを制御して前記駆動機の回転数を減少させて前記乗客コンベアの運転を緩停止させる制御手段と、を備えたことを特徴とする乗客コンベアの制動装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記停止指令の入力が開始されると前記インバータを制御して乗客コンベアの運転速度の減速を開始させ、前記停止指令が前記停止判定時間以上継続して入力された場合に、減速を継続して前記乗客コンベアを緩停止させ、前記停止指令が前記停止判定時間以上継続して入力されなかった場合に、前記インバータを制御して前記乗客コンベアの運転速度を加速し、前記停止指令の入力開始前の運転速度へと復帰させて前記乗客コンベアの運転を継続させることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの制動装置。
【請求項3】
前記停止指令の入力が開始された後前記停止指令が前記停止判定時間以上継続して入力される前における前記乗客コンベアの減速度を、前記停止指令が前記停止判定時間以上継続して入力された後における前記乗客コンベアの減速度より緩やかにしたことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベアの制動装置。
【請求項4】
前記安全装置は複数設けられ、
前記制御手段は、複数の前記安全装置からの前記停止指令毎に応じて、所定の前記停止判定時間を設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の乗客コンベアの制動装置。
【請求項5】
前記駆動機の回転を制動する制動機をさらに備え、
前記安全装置は複数設けられ、
前記制御手段は、複数の前記安全装置からの前記停止指令毎に急停止が必要であるか否かを判定し、急停止が必要である場合には、前記制動機への電力供給を遮断するとともに前記制動機により前記乗客コンベアの運転を急停止させ、急停止が不要である場合には、前記停止指令が前記停止判定時間以上継続して入力されたときに、前記インバータを制御して前記乗客コンベアの運転を緩停止させる請求項1から請求項3のいずれかに記載の乗客コンベアの制動装置。
【請求項6】
乗客コンベアの運転を駆動する駆動機と、前記駆動機の回転数を変化させるためのインバータと、を有する乗客コンベアにおいて、
安全装置から出力され、前記乗客コンベアの運転を停止させる旨の停止指令が所定の停止判定時間以上継続して入力されたか否かを判定する第1のステップと、
前記第1のステップにおいて前記停止指令が前記停止判定時間以上継続して入力されたと判定された場合に、前記インバータを制御して前記駆動機の回転数を減少させて前記乗客コンベアの運転を緩停止させる第2のステップと、
前記第1のステップにおいて前記停止指令が前記停止判定時間以上継続して入力されなかったと判定された場合に、前記乗客コンベアの運転を継続させる第3のステップと、を備えたことを特徴とする乗客コンベアの制動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−178482(P2011−178482A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42033(P2010−42033)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】