説明

乗客コンベアの制御盤昇降装置及びそれを用いた乗客コンベアの制御盤の昇降方法

【課題】乗客コンベアの制御盤を機械室の上方に移動させたり、機械室内に制御盤を降ろしたりする作業の労力を著しく軽減できる乗客コンベアの制御盤昇降装置を得る。
【解決手段】この発明は、一対の乗降口間に架設されたトラス内に設けられた機械室と、機械室の開口部を覆う床部材と、機械室に設けられた制御盤115とを備える乗客コンベアに設けられる乗客コンベアの制御盤昇降装置についてのものであり、機械室に設置され、床部材が取り外された機械室から上方に上端部が配置される配置される支持部材4と、機械室の上方の所定の高さ位置で、水平面に平行な軸まわりに回転自在に上記支持部材に支持される第1滑車11aと、第1滑車11aに掛けられて、床部材及び制御盤115が互いに逆方向に移動されるように連結されるロープ9とを備え、床部材が、機械室内の所定の高さ位置に配置されたときに、制御盤115が機械室の上方に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、機械室内の保守作業を行う際に、乗客コンベアの制御盤を機械室外に引き上げたり、機械室に降ろしたりするのに用いられる乗客コンベアの制御盤昇降装置及びそれを用いた乗客コンベアの制御盤の昇降方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエスカレータは、乗降口間に架設されたトラスと、トラス内の上階側及び下階側の端部のそれぞれに設けられた機械室と、上階側の機械室に配設された電動機と、電動機の駆動に連動して移動される踏段と、機械室内に設けられ、電動機の駆動制御により、踏段の移動速度や方向を制御可能に構成されたエスカレータ制御盤とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−235255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、エスカレータの設置スペースを縮小するため、トラスの両端間の長さをより短くする要求が強まっている。この要求を実現するため、機械室を出来るだけ小さくする対応が取られている。従って、エスカレータ制御盤などの機器が設置された機械室内には作業スペースがなくなるので、機械室内の保守作業を行う場合、エスカレータ制御盤を機械室の外部に運び出して作業スペースを確保するという著しく労力を要する作業が必要となる。
【0005】
ここで、近年では、例えば、乗客がいない場合に踏段の速度を低速にし、利用しようとする乗客を検出した場合に踏段の速度を定格速度に戻すなど、利用する乗客の条件や状況に応じて踏段の速度を切り替えたりする高機能のエスカレータが広く普及している。この種のエスカレータでは、踏段の速度の切り替えを滑らかに行うため、電動機の制御用としてインバータを搭載するタイプ(インバータタイプ)の制御盤を用いるのが一般的である。インバータタイプの制御盤は、非常に重く、機械室からの運び出し作業に要する労力が一層大きくなる。
【0006】
この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、制御盤を機械室の上方に引き上げたり、機械室内に制御盤を降ろしたりする作業者の労力を著しく軽減できる乗客コンベアの制御盤昇降装置及びそれを用いた乗客コンベアの制御盤の昇降方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の乗客コンベアの制御盤昇降装置は、一対の乗降口間に架設されたトラスと、トラス内に設けられた機械室と、機械室の開口部を覆う床部材と、機械室に設けられた制御盤とを備える乗客コンベアに設けられる乗客コンベアの制御盤昇降装置であって、機械室に設置され、床部材が取り外された機械室の上方に上端部が配置される支持部材と、機械室の上方の所定の高さ位置で、水平面に平行な軸まわりに回転自在に支持部材に支持される第1滑車と、第1滑車に掛けられて、重り及び制御盤が互いに逆方向に移動されるように連結されるロープとを備え、重りが、機械室内の所定の高さ位置に配置されたときに、制御盤の下端が機械室の上方に配置される。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置によれば、ロープに適当な重さの重りを連結することで、重りの自重が、制御盤を引き上げる方向の力として作用するので、制御盤を昇降させるのに、制御盤や重りに対して小さな荷重を適切な方向に付加するだけで、制御盤を昇降させることができる。従って、制御盤を機械室の上方に引き上げたり、機械室内に降ろしたりする作業者の労力を著しく軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置が設けられるエスカレータの模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置が設けられるエスカレータの上階側の乗降口周辺の斜視図である。
【図3】図2のIII−III矢視断面図である。
【図4】図1のA部拡大図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置が設けられるエスカレータの上階側の機械室内を、床部材を取り外して見た上面図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアに設けられた乗客コンベアの制御盤昇降装置と制御盤の斜視図であり、支持基体部を伸ばした状態を示している。
【図7】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置を用いて制御盤を引き上げて機械室の上方に配置させる作業を説明する図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置を用いて機械室の上方に配置されていた制御盤を、機械室内に降ろす作業を説明する図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置を用いて制御盤を引き上げて機械室の上方に配置させる作業を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
実施の形態1.
まず、乗客コンベアの制御盤昇降装置の説明に先立って、乗客コンベアの構成について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置が設けられるエスカレータの模式図、図2はこの発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置が設けられるエスカレータの上階側の乗降口周辺の斜視図、図3は図2のIII−III矢視断面図、図4は図1のA部拡大図、図5はこの発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置が設けられるエスカレータの上階側の機械室内を、床部材を取り外して見た上面図である。
【0012】
図1及び図2において、乗客コンベアとしてのエスカレータ100は、上階に設けられた乗降口101a及び下階に設けられた乗降口101bの間に架設されたトラス102と、トラス102の上階側の端部に設けられた機械室104Aと、機械室104Aの開口部を覆うように配置されてトラス102に支持され、乗降口101aの床面101cの一部を構成する意匠面を有する床部材120と、トラス102の下階側の端部に設けられた機械室104Bと、機械室104Aに設けられた上部スプロケット107Aと、機械室104Bに設けられた下部スプロケット107Bとを備えている。
【0013】
また、エスカレータ100は、機械室104Aに設けられた駆動機105と、上部スプロケット107Aに同軸に設けられた駆動スプロケット108と、駆動機105と駆動スプロケット108の間を連結し、駆動機105の駆動に連動させて駆動スプロケット108を回転させる駆動鎖109と、上部スプロケット107A及び下部スプロケット107Bに無端状に巻き掛けられて駆動機105の駆動力により、循環移動する踏段鎖110と、踏段鎖110に連結されて無端状に連なる踏段111と、踏段111の横幅方向の両側に立設された一対の欄干114と、一対の欄干114の周縁を踏段111と同期して走行する一対の移動手すり118と、駆動機105の駆動制御により踏段111の移動を制御する制御盤115とを備えている。
【0014】
制御盤115は、例えば、所定の幅及び奥行きで所定の高さを有する概略直方体形状に作製されている。そして、制御盤115は、幅方向をトラス102の幅方向(機械室104Aの幅方向)に一致させて、機械室104Aの奥行き方向の所定位置に設けられている。なお、機械室104Aの奥行き方向とは、乗降口101aの下部に位置するトラス102の部位での延在方向であり、機械室104Aの幅方向及び高さ方向に直交する方向である。
また、制御盤115の上面には、図4及び図5に示されるように、取っ手116が取り付けられている。
ここで、制御盤115は、例えば、インバータタイプのものであり、30kgを若干超える重さを有している。
【0015】
床部材120は、図2〜図4に示されるように、機械室104Aの開口形状に対応する概略矩形平板状をなし、床面101cの一部を構成する意匠面を一面に有する意匠板121と、意匠板121の他面に固定される意匠板支持部材122とを備えている。
なお、床部材120は、ここでは、制御盤115の半分の重さより若干軽い重さに作製されている。床部材120の重さは、例えば15kg程度である。
【0016】
意匠板支持部材122は、意匠板121と同じサイズの矩形平板形状に作製された基体部123と、基体部123に一体に設けられる掛け部124とを備えている
基体部123は、一面を意匠板121の他面に合わせて意匠板121に溶接などにより固定されている。
掛け部124は、断面L字状をなし、一対の掛け部124のそれぞれが、基体部123の他面の両長辺側のそれぞれに突設されている。このとき、一対の掛け部124の一片は、基体部123の裏面に垂直に突出して互いに相対し、一対の掛け部124の他片は、基体部123の突出端から、互いの先端部を対向させるように基体部123に平行に延出されている。
【0017】
また、図5に示されるように、高さ方向に関し、機械室104Aの開口面から床部材120の厚みだけ下がったトラス102の部位には、床支持部130が、機械室104Aの開口縁部の略全域から機械室104Aの内側に向けて水平方向に所定の長さだけ突出されている。床支持部130の形成は、機械室104Aの幅方向の両側、かつ、奥行き方向の端部近傍の位置で、機械室104Aの奥行き方向に所定の長さに亘って省略されている。そして、挿入切り欠き131が、床支持部130の形成が省略された部位により構成されている。なお、床部材120の厚みとは、基体部123の一面から掛け部124の一片の先端までの長さと意匠板121の厚みとを足した長さである。
【0018】
そして、床部材120は、床支持部130に掛け部124が支持されるように、意匠板121の意匠面を上方に向けて機械室104Aの開口面側に嵌められて、乗降口101aの一部を構成する。
【0019】
次いで、乗客コンベアの制御盤昇降装置について図面を参照しつつ説明する。
図6はこの発明の実施の形態1に係る乗客コンベアに設けられた乗客コンベアの制御盤昇降装置と制御盤の斜視図であり、支持基体部を伸ばした状態を示している。
【0020】
図1、及び図4〜図6において、制御盤昇降装置1Aは、上階側の機械室104Aに設けられている。
制御盤昇降装置1Aは、水平軸まわりに配置される第1回転軸6を有し、第1回転軸6の高さ方向の位置を可変可能に構成された支持部材4と、第1回転軸6の軸まわりに回転自在に支持部材4に支持される第1滑車11aと、水平面と平行な軸まわりに回転自在に制御盤115に取り付けられる第2滑車15と、一端を機械室104Aの上方に固定されて第2滑車15及び第1滑車11aに掛けられ、制御盤115及び重りとしての床部材120が互い逆方向に移動されるように取り付けられるロープ9と、機械室104A内の所定位置に設けられ、床部材120の昇降をガイドするガイド部材17とを備えている。
【0021】
支持部材4は、伸縮自在に構成された一対の支持基体部5と、一対の支持基体部5の一端間を渡すように取り付けられる第1回転軸6と、伸縮した支持基体部5を所定の長さに保持する連結棒7とを備えている。
【0022】
支持基体部5のそれぞれは、第1〜第3係合柱5a〜5cにより構成されている。
第1〜第3係合柱5a〜5cは、それぞれ円筒形状を有している。
第1係合柱5aの内径は、第2係合柱5bの外径より若干大きく、第2係合柱5bの内径は、第3係合柱5cの外径より若干大きくなっている。
そして、第1係合柱5aに、第2係合柱5bがスライド自在に挿入され、第2係合柱5bに第3係合柱5cがスライド自在に挿入されている。また、第1係合柱5aより第2係合柱5bが若干長く、第2係合柱5bより第3係合柱5cが若干長くなっている。
第1〜第3の係合柱5a〜5cの一端を合わせたときに第3係合柱5cは第2係合柱5bの他端から延出され、第2係合柱5bの他端は第1係合柱5aの他端から延出される。
【0023】
また、第1係合柱5aの他端側には、径方向に相対する図示しない一対の貫通穴が形成されている。また、第2係合柱5bの一端及び他端側のそれぞれには、径方向に相対する図示しない一対の貫通穴が形成されている。また、第3の係合柱5cの他端側には、径方向に相対する図示しない一対の貫通穴が形成されている。
【0024】
そして、第1係合柱5aから第2係合柱5bの主要部を引きだし、第1係合柱5aの貫通穴と第2係合柱5bの一端側の貫通穴に、連結棒7を挿入することで、第2係合柱が第1係合柱から引き出された状態で、第1及び第2係合柱5a,5bを連結固定することが可能になっている。
【0025】
また、第2係合柱5bから第3係合柱5cの主要部を引きだし、第2係合柱5bの他端側の貫通穴と第3係合柱5cの貫通穴に、連結棒7を挿入することで、第3係合柱が第2係合柱から引き出された状態で、第2及び第3係合柱5b,5cを連結固定することが可能になっている。以上のように、各支持基体部5は、伸縮させるとともに、連結棒7により伸縮状態を保持することができる。
また、第1回転軸6が、一対の第3係合柱5cの他端間を渡すように一対の第3係合柱5cに支持固定される。
【0026】
以上のように構成された支持部材4では、支持基体部5の長さ方向に関して、第1回転軸6の位置は、支持基体部5を伸縮させることで可変となる。
【0027】
また、第2滑車15を制御盤115に対して回転自在に支持するための滑車取付部材30が、制御盤115の上面に取り付けられている。
滑車取付部材30は、図6に示されるように、棒状の一対の側片部31と、側片部31の一端間を連結する断面円の第2回転軸32とを有するコ字状に作製されている。
滑車取付部材30は、第2回転軸32の軸方向を制御盤115の幅方向に一致させるとともにコ字状の開口を制御盤115の上面に向けて配置される。そして、側片部31の先端を制御盤115の上面に固定することで、滑車取付部材30が制御盤115に固定される。
【0028】
また、第1回転軸6の外周面には、ロープ9の一端が固定される固定部としてのロープ取付部8が突設されている。
また、ロープ9の他端には、床部材120の掛け部124に掛けられるフック10が設けられている。なお、ロープ9は、一端側から第2滑車15及び第1滑車11aの順に交互に巻き掛けられて用いられる。そして、ロープ9の他端に床部材120が取り付けられ、第2滑車15を介して制御盤115がロープ9に取り付けられたときには、床部材120及び制御盤115が互いに逆方向に移動される。
【0029】
また、ガイド部材17は、一対のガイドレール18により構成されている。
ガイドレール18のそれぞれは、断面コ字状の長尺体に構成されている。
各ガイドレール18の一対の側片の間の距離は、床部材120の厚みに対して若干長く設定されている。
【0030】
次いで、制御盤昇降装置1Aの機械室104A内の設置構造について説明する。
なお、制御盤115は、機械室104Aの幅方向に幅方向を一致させて設置済みであるものとする。
支持部材4を構成する一対の支持基体部5は、制御盤115と機械室104Aの奥行き方向の端部の壁面との間に、機械室104Aの幅方向に互いに離間して配置されるように設けられている。このとき、一対の支持基体部5のそれぞれは、制御盤115の幅方向の両端部のそれぞれの近傍に配置される。また、第1〜第3係合柱5a〜5cは、長手方向を高さ方向に一致させ、第1係合柱5aの一端が機械室104Aの床に固定されている。
【0031】
床部材120が、機械室104Aを塞口して、エスカレータ100が、乗客を搬送する通常運転中では、第2及び第3係合柱5b,5cの互いの主要部が、第1係合柱5a内に収容されるように、第2及び第3係合柱5b,5cを第1係合柱5aに対してスライドさせている。また、第1回転軸6が、上述したように、第3係合柱5cの他端間(支持基体部5の他端間)を渡すように第3係合柱5cに固定されている。
【0032】
支持基体部5及び第1回転軸6を有する支持部材4は、支持基体部5の長さを短くしておくことで、機械室104A内に予め収納させておくことが可能である。また、支持基体部5は、第2及び第3係合柱5b,5cを第1係合柱5aから引き出すことで、床部材120を外した機械室104Aの上方に上端部を配置させることが可能となる。
【0033】
また、第2回転軸32の軸方向が、制御盤115の幅方向に一致しているのは上述の通りであり、第1及び第2回転軸6,32は、水平面に平行、かつ互いに平行に配置される。
【0034】
そして、第1滑車11aが、第1回転軸6の軸方向の中間部に、第1回転軸6の軸まわりに回転自在に設けられている。支持基体部5は、高さ方向に伸縮自在であるので、第1回転軸6に取り付けられる第1滑車11aは、支持基体部5の伸縮により高さ位置を可変可能である。
また、第2滑車15が、第2回転軸32の軸まわりに回転自在に設けられている。
また、第1及び第2回転軸6,32の軸方向に関し、第1及び第2滑車11a,15の位置は、略一致されている。
【0035】
ガイド部材17を構成する一対のガイドレール18は、一対の挿入切り欠き131に対応する位置に設けられている。なお、挿入切り欠き131は、機械室104Aの奥行き方向に関し、機械室104Aの端部の壁面と支持部材4の間に位置する。このとき、図5に示されるように、一対のガイドレール18は、長手方向を高さ方向に一致させ、かつ互いの開口部が相対するように設けられる。また、高さ方向から見て、ガイドレール18は、その底部内壁面が、機械室104Aの開口縁部に重なる位置に設けられている。
即ち、一対のガイドレール18の底部内壁面の間隔は、床部材120の長さに対応している。床部材120の長さとは、意匠板121及び基体部123の長手方向の長さである。
【0036】
一対のガイドレール18のそれぞれに、トラス102から取り外した床部材120の長手方向の両縁部のそれぞれを嵌合させることで、床部材120が一対のガイドレール18により、上下方向にガイドされるので、床部材120の上下方向への移動が容易となる。
【0037】
また、ロープ9は、一端をロープ取付部8に固定されている。ロープ9は、予め、一端から延在される部位を、第2滑車15及び第1滑車11aの順に掛けた状態で設けられている。
以上のように、制御盤昇降装置1Aが機械室104Aに設置されている。
【0038】
次いで、機械室104A内の保守作業の前後に、制御盤昇降装置1Aを用いて制御盤115を機械室104Aの上方に引き上げたり、引き下げたりする作業(制御盤115の昇降作業)について説明する。
【0039】
まず、保守作業に先立って、制御盤昇降装置1Aを用いて制御盤115を引き上げる作業について説明する。
図7はこの発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置を用いて制御盤を引き上げて機械室の上方に配置させる作業を説明する図である。
【0040】
まず、作業者は、床部材120のうち、踏段111から離れた側に位置する一方の長辺縁部側を支点として、他方の長辺側を引き上げて床部材120を立てることで、機械室104Aの上部を開口させる。
【0041】
次いで、作業者は、図7に示されるように、支持基体部5の第2及び第3係合柱5b,5cを引き出し、第1係合柱5aの一端側及び第2係合柱5bの他端側に形成された貫通穴、及び第2係合柱5bの一端側及び第3係合柱5cの他端側に貫通穴のそれぞれに、連結棒7を挿入して、支持基体部5を伸ばした状態で保持する。このとき、乗降口101aの床面101cから支持基体部5の上部(回転軸6)までの高さは、制御盤115の高さよりも十分に長くなっている。
【0042】
そして、作業者は、ロープ9の他端に設けられているフック10(図6参照)を、起立させた床部材120の上部から突出している掛け部124(図3参照)に掛ける。
ここで、上記のように設けられた制御盤昇降装置1Aでは、ロープ9の他端を引き下げる方向の力、または、ロープ9の他端を引き下げる方向の力とロープ9の一端を引き上げる方向の荷重の和が、制御盤115の重さの半分の重さより大きければ、制御盤115が上方へ移動される。
【0043】
上述したように、制御盤115の重さが32kgであり、床部材120の重さが15kgであるので、床部材120と制御盤115のロープ9への連結時に、制御盤115は上方に移動されない。このように、床部材120の重さは、床部材120及び制御盤115をロープ9に連結したときに、制御盤115を上方に移動させない重さに設定されている。
【0044】
制御盤115を上方に移動させるには、制御盤115を上方に向かわせる方向、または床部材120を下方に向かわせる方向に1kg重より大きな荷重を、作業者が付加すればよい。つまり、ロープ9に床部材120を連結することで、床部材120の自重が、制御盤115を引き上げる方向の力として作用するので、作業者は、小さな力で制御盤115を引き上げることができ、制御盤115を引き上げるときの作業者の労力が軽減される。また、制御盤115を下降させるときには、制御盤115が勢いよく落下しないように、制御盤115が自重により降下する方向の力に抗する力を制御盤115や床部材120に付加すればよい。このとき、制御盤115や床部材120に付加する力は、制御盤115を上方に引き上げるときに必要な力程度でよく、制御盤115を下降させるときの作業者の作業付加も軽減される。
【0045】
作業者は、フック10を掛けた掛け部124と反対側に位置する床部材120の端部から、機械室104A内に床部材120を挿入し、床部材120の長手方向の両側縁部を一対のガイドレール18に嵌合させる。これにより、床部材120は、ガイドレール18にガイドされて高さ方向にスムーズに移動される。
【0046】
この後、例えば、制御盤115に取り付けられた取っ手116を把持して上方に引っ張ることで、制御盤115は、上方に簡単に移動される。
【0047】
作業者は、制御盤115の下端が、機械室104Aの上方に配置されるところまで、制御盤115を引き上げる。この状態で、制御盤115の下方に位置する機械室104Aの開口部の長手方向または短手方向の両端間を渡すように、図示しない棒状部材を配置する。なお、棒状部材は、複数設けておく。
作業者は、この状態から、制御盤115が棒状部材の上に載置されるように下方に移動させて取っ手116から手を離す。
【0048】
以上により、制御盤115が、機械室104Aの外部に移動されるので、機械室104A内のスペースが確保され、作業者は、機械室104A内の保守作業を行うことができる。
【0049】
次いで、機械室104A内の保守作業の完了後に、制御盤昇降装置1Aを用いて制御盤115を下方に移動させて元に戻す作業について説明する。
図8はこの発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置を用いて機械室の上方に配置されていた制御盤を、機械室内に降ろす作業を説明する図である。
【0050】
作業者は、例えば、取っ手116を把持して、制御盤115を若干上方に移動させ、棒状部材を退避する。
次いで、図8に示されるように、作業者は、制御盤115をゆっくり下方に向かわせるように取っ手116に加える力を調整し、制御盤115が機械室104Aの床部に載置されるまで、制御盤115を下方に移動させる。このとき、床部材120は、機械室104Aの上方に配置される。
以上により、制御盤115を機械室104A内の所定の位置に戻す作業が完了する。
【0051】
また、作業者は、連結棒7を抜き取り、支持基体部5を縮ませて機械室104A内に収納する。ロープ9は、必要に応じて第1及び第2滑車11a,15から外してもよい。
次いで、作業者は、床部材120を保持しつつ、フック10を取り外し、床部材120の他方の長辺側を床支持部130上にのせる。次いで、床支持部130に支持された床部材120の他方の長辺側を支点として床部材120を水平になるよう回動させ、床部材120を機械室104Aの開口側に嵌める。
以上により、エスカレータ100の乗降口101aが、元通りになり、機械室104A内の保守作業に付随する作業が完了される。
【0052】
この発明による乗客コンベアの制御盤昇降装置1Aによれば、支持部材4及び制御盤115のそれぞれに、回転自在に支持される第1及び第2滑車11a,15のそれぞれと、一端を機械室104Aの上方に位置するロープ取付部8に固定されて、第2滑車15及び第1滑車11aに掛けられ、床部材120及び制御盤115が互いに逆方向に移動されるように取り付けられるロープ9とを備え、床部材120が、機械室104A内の所定の高さ位置に配置されたときに、制御盤115の下端が機械室104Aの上方に配置されるようになっている。
【0053】
上記のような構成によれば、ロープ9に床部材120を連結することで、床部材120の自重が、制御盤115を引き上げる方向の力として作用するので、作業者は、容易に制御盤115を引き上げることができる。また、制御盤115を下降させるときにも、作業者が大きな力を制御盤115や床部材120に対して付加する必要もないので、容易に制御盤115を下降させることができる。即ち、機械室104A内の作業スペースを確保するために制御盤115を機械室104Aの上方に引き上げたり、制御盤115を機械室104A内に降ろしたりする作業者の労力を著しく軽減できる。
【0054】
また、床部材120が重りとしてロープ9に連結して用いるので、床部材120を、乗降口101aの周辺に床部材120を置いたまま作業することがなくなり、また、乗降口101aの周辺に床部材120を載置するスペースを確保する必要もない。これにより、床部材120が邪魔とならず、広い作業スペースが確保できるので、作業効率が向上される。
【0055】
また、ロープ9に取り付けられた床部材120の昇降をガイドするガイド部材17が、機械室104A内に設けられているので、床部材120の昇降に連動する制御盤115の昇降を容易に行うことができ、床部材120が、機械室104A内のエスカレータ100の機器に損傷させることもなくなる。
【0056】
また、支持部材4は、高さ位置を可変可能、かつ機械室104A内に収納可能に構成されているので、作業者が、保守点検の度に支持部材4を用意する必要がなく、保守点検の作業効率が上がる。
【0057】
床部材120の重さは、ロープ9に制御盤115及び床部材120を取り付けたときに、制御盤115を上方に移動させない重さに設定されている。
これにより、床部材120の自重により、制御盤115に支持された第2滑車15が、第1滑車11aまで到達することがなくなるので、第2滑車15と第1滑車11aが自然に衝突することの対策をとる必要がなくなる。
【0058】
また、乗客コンベアの制御盤昇降装置1Aを用いた制御盤115の昇降方法によれば、上述したように、制御盤115を引き上げる際の作業負荷を著しく軽減でき、さらに床部材120を重りとして利用するので、床部材120が作業の邪魔になることが無く、また、広い作業スペースが確保されて、作業効率が向上する。
【0059】
なお、上記実施の形態では、第1及び第2回転軸6,32は、軸方向を制御盤115の幅方向に一致させて設けるものとして説明したが、第1及び第2回転軸6,32は、軸方向を制御盤115の幅方向に一致させて設けるものに限定されず、水平軸まわりに平行であればよい。また、第1及び第2滑車11a,15が、ロープ9の移動により第1及び第2滑車11a,15が回転可能なものであれば、第1及び第2滑車11a,15の軸方向は、平行でなくてもよい。
【0060】
また、重りは床部材120であるものとして説明したが、床部材120とは別に用意してもよい。
また、固定部は、ロープ取付部8であるものとして説明したが、機械室104Aの上方に位置で固定されているものであれば、他の部材でもよい。例えば、トラス102に支持固定されている部材でもよい。
また、乗客コンベアの制御盤昇降装置1Aは、機械室104A内の保守点検時に利用されるものとして説明したが、例えば、制御盤115を新規のものに交換したりする場合にも適用できる。
【0061】
また、第1滑車11a及び第2滑車15は、1つずつ設けるものとして説明したが、第1滑車11aを、支持部材4に支持させて複数設け、第2滑車15を制御盤115に支持されるように複数設けてもよい。この場合、ロープ9は、一端を機械室104Aの上方に固定され、第2滑車15及び第1滑車11aに交互に掛けられて他端側に重りを取り付け可能に設ければよい。
【0062】
また、床部材120は、制御盤115を上方に移動させない重さであると説明したが、床部材120の重さは、このものによらない。床部材120は、ロープ9に連結された時に、制御盤115を上方に移動させる重さを有する場合でも、極端に重くなければ、制御盤115を容易に昇降できる効果が得られる。なお、床部材120が機械室104Aの床に載置される前に、第2滑車15(制御盤115)が第1滑車11aまで到達してしまうような場合には、第1滑車11aまたは第2滑車15の回転を規制可能な図示しない回転規制部材を設け、制御盤115を適度な高さ位置に保持することができるようにしてもよい。
【0063】
また、本発明は、乗客コンベアとしてのエスカレータ100の制御盤115の昇降用に適用されるものとして説明したが、乗客コンベアとしての動く歩道の制御盤の昇降用にも適用できる。
【0064】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2に係る乗客コンベアの制御盤昇降装置を用いて制御盤を引き上げて機械室の上方に配置させる作業を説明する図である。
【0065】
図9において、乗客コンベアの制御盤昇降装置1Bは、第1回転軸6に一端を固定されて、第1回転軸6の軸方向及び支持基体部5の長手方向を含む面に垂直な方向に突出する軸支持部材35と、第1回転軸6と平行になるように軸支持部材35に支持される第3回転軸40と、第3回転軸40の軸周りに回転自在に設けられる第1滑車11bとを備えている。
なお、第2滑車15、及びロープ取付部8が省略されている。
他の構成は、乗客コンベアの制御盤昇降装置1Aと同様に構成されている。
【0066】
乗客コンベアの制御盤昇降装置1Bを用いて、制御盤115を昇降させる際、ロープ9は、第1滑車11b及び第1滑車11aに上方から掛けられて、一端側及び他端側が第1滑車11a,11bの下方に垂れ下げられる。また、ロープ9の一端は、制御盤115に固定され、ロープ9の他端は、図示しないロープ9の他端に取り付けられたフックを介して床部材に120に連結される。
床部材120の重さは、例えば、制御盤115より若干軽いものとする。
【0067】
以上のように構成された乗客コンベアの制御盤昇降装置1Bでは、制御盤115と床部材120が、互いに逆方向に移動するように、制御盤115及び床部材120がロープ9の一端及び他端に連結されている。
乗客コンベアの制御盤昇降装置1Bを用いて制御盤115を機械室104Aの上方に引き上げたり、引き下げたりする作業は、上記実施の形態1と同様に行うことができる。
【0068】
この実施の形態2の乗客コンベアの制御盤昇降装置1Bによれば、実施の形態1と同様、作業者は、床部材120をロープ9の他端に取り付けることで、容易に制御盤115を昇降移動させて、制御盤115を機械室104Aの上方に配置させたり、再度機械室104Aに戻したりすることができる。
【0069】
床部材120の重さは、制御盤115より若干軽いものとして説明したが、さらに軽かったり、制御盤115より重かったりしてもよい。但し、床部材120の重さは、制御盤115の重さの2倍より軽いのが好ましい。
【0070】
また、床部材120の重さが、制御盤115より重く、さらに、床部材120が機械室104Aの床に載置される前に、制御盤115が第1滑車11aまで到達してしまうような場合には、第1滑車11aの回転を規制自在に設けた図示しない回転規制部材を設けることで、床部材120を取り付けたときに、制御盤115を第1滑車11aに衝突させることなく、適度な高さ位置に保持することができる。
【符号の説明】
【0071】
1A,1B 乗客コンベアの制御盤昇降装置、4 支持部材、8 ロープ取付部(固定部)、9 ロープ、11a,11b 第1滑車、15 第2滑車、17 ガイド部材、101a,101b 乗降口、102 トラス、104A 機械室、115 制御盤、120 床部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の乗降口間に架設されたトラスと、上記トラス内に設けられた機械室と、上記機械室の開口部を覆う床部材と、上記機械室に設けられた制御盤とを備える乗客コンベアに設けられる乗客コンベアの制御盤昇降装置であって、
上記機械室に設置され、上記床部材が取り外された状態で上記機械室の上方に上端部が配置される支持部材と、
上記機械室の上方の所定の高さ位置で、水平面に平行な軸まわりに回転自在に上記支持部材に支持される第1滑車と、
上記第1滑車に掛けられて、重り及び上記制御盤が互いに逆方向に移動されるように取り付けられるロープと
を備え、
上記重りが、上記機械室内の所定の高さ位置に配置されたときに、上記制御盤の下端が上記機械室の上方に配置されることを特徴とする乗客コンベアの制御盤昇降装置。
【請求項2】
上記重りは、上記機械室の開口部から取り外された上記床部材であることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの制御盤昇降装置。
【請求項3】
上記重りの重さは、上記重り及び上記制御盤を上記ロープに連結したときに、上記制御盤を上方に移動させない重さに設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗客コンベアの制御盤昇降装置。
【請求項4】
第2滑車が、水平面と平行な軸まわりに回転自在に上記制御盤に取り付けられ、
上記ロープは、上記第1滑車及び上記第2滑車に掛けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の乗客コンベアの制御盤昇降装置。
【請求項5】
上記ロープに取り付けられた上記重りの昇降をガイドするガイド部材が、上記機械室内に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の乗客コンベアの制御盤昇降装置。
【請求項6】
上記支持部材は、上記第1滑車の高さ方向の支持位置を可変可能、かつ上記機械室内に収納可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の乗客コンベアの制御盤昇降装置。
【請求項7】
上記請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載の乗客コンベアの制御盤昇降装置を用いた制御盤の昇降方法であって、
上記床部材及び上記制御盤を上記ロープに取り付ける工程と、
上記制御盤を上昇させるまたは下降させる工程と
を備えることを特徴とする乗客コンベアの制御盤の昇降方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−180171(P2012−180171A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43990(P2011−43990)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】