説明

乗客コンベアの制御装置

【課題】安全装置による非常停止時に乗客の負荷の軽重に拘わらず、踏段上の乗客の体勢を安定に保つことができる乗客コンベアの制御装置の提供。
【解決手段】本発明は、エスカレータの安全装置の動作を検出する安全装置動作検出手段13と、踏板1の速度と運転方向を検出する踏板速度検出装置4と、ハンドレール2の速度と運転方向を検出するハンドレール速度検出装置6と、安全装置の動作による非常停止時にエスカレータの運転方向に応じて踏板1とハンドレール2を所定の停止距離で停止させる制御を行なう停止距離制御手段12を備えている。本発明は、停止距離制御手段12の制御により、エスカレータの上昇運転時には、踏板1の停止位置に対してハンドレール2を所定距離進ませて停止させ、エスカレータの下降運転時には、ハンドレール2の停止位置に対して踏板1を所定距離進ませて停止させるようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータ等の乗客コンベアに備えられ、安全装置の動作時に踏板とハンドレールとを停止させる制御を行なう乗客コンベアの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、乗客コンベアの踏板とハンドレールは、同一の電動機により駆動されている。このため、踏板とハンドレールを互いに独立して制御できず、安全装置の動作による非常停止時には、慣性により乗客が運転方向に体勢を崩すことがあった。このようなことから、従来、踏板を駆動する電動機と、ハンドレールを駆動する電動機とを互いに独立させ、非常停止時に、踏板とハンドレールとを所定の時間差をもって停止させるように制御する乗客コンベアが特許文献1に提案されている。
【0003】
この特許文献1には、無端状に配列された踏板すなわち踏段と、この踏段を駆動する踏段用電動機と、この踏段用電動機を制御する踏段駆動制御手段と、踏段と同一方向に運行する無端状のハンドレールと、このハンドレールを駆動するハンドレール用電動機と、このハンドレール用電動機を制御するハンドレール駆動制御手段とを備えた乗客コンベアの制御装置において、乗客コンベアの異常により安全装置が動作したことを検出する安全装置動作検出手段と、乗客コンベアの運転方向を検出する運転方向検出手段と、安全装置動作検出手段により安全装置が動作したことを検出して踏段及びハンドレールを非常停止させるとき、運転方向検出手段により検出した乗客コンベアの運転方向に応じて踏段とハンドレールとを、所定の時間差をもって停止させる踏段・ハンドレール停止タイミング制御手段とを備えた構成にしてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−210727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来技術は、運転方向によりハンドレールと踏段とを所定の時間差を持って停止させるように制御するものである。すなわち、踏段上の乗客による負荷の如何に拘わらず常に同一の時間差で踏段とハンドレールとを停止させるものである。このため乗客による負荷の軽重によって非常停止時に、ハンドレールと踏段との停止距離が異なることがあり、これに伴って踏段上の乗客が慣性によりバランスを崩す懸念があった。
【0006】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、安全装置による非常停止時に乗客の負荷の軽重に拘わらず、踏段上の乗客の体勢を安定に保つことができる乗客コンベアの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の目的を達成するために、本発明に係る乗客コンベアの制御装置は、無端状に配列されて回動する複数の踏板と、これらの踏板と同一方向に回動する無端状のハンドレールと、安全装置が動作したことを検出する安全装置動作検出手段とを有する乗客コンベアに備えられ、前記踏板を駆動する踏板用電動機と、この踏板用電動機の速度と運転方向を検出する踏板速度検出装置と、前記踏板用電動機を制御する踏板駆動制御手段と、前記ハンドレールを駆動するハンドレール駆動用電動機と、このハンドレール駆動用電動機の駆動力を前記ハンドレールに伝えるハンドレール駆動手段と、前記ハンドレール駆動用電動機を制御するハンドレール駆動制御手段とを備えた乗客コンベアの制御装置において、前記安全装置動作検出手段により前記安全装置の動作が検出され、前記踏板と前記ハンドレールを非常停止させる際に、停止時の前記踏板と前記ハンドレールとの間の距離を所定距離に制御する停止距離制御手段を備えたことを特徴としている。
【0008】
このように構成した本発明は、乗客コンベアの異常により安全装置が動作して踏板とハンドレールを非常停止させる際に、停止距離制御手段は、踏板速度検出装置により検出された踏板の速度と、ハンドレール速度検出装置により検出されたハンドレールの速度とにより、踏板とハンドレールとの間の距離が所定距離となるように、これらの踏板とハンドレールを停止制御する。これによって、乗客の負荷の軽重に拘わらず、踏段上の乗客の体勢を安定に保つことができる。
【0009】
また本発明は、前記発明において、前記乗客コンベアがエスカレータから成り、前記停止距離制御手段は、当該エスカレータの上昇運転時には、前記踏板の停止位置よりも前記ハンドレールの停止位置が上昇方向に対して前方に位置するように、当該エスカレータの下降運転時には、前記ハンドレールの停止位置よりも前記踏板の停止位置が下降方向に対して前方に位置するように、前記踏板と前記ハンドレールの停止制御を行なうことを特徴としている。このように構成した本発明は、安全装置の動作による非常停止時に、乗客はハンドレールを把持することによって、上昇運転時及び下降運転時のいずれであっても、その乗客自身の身体が上階方向に傾くように保つことができ、下方への転落を防ぐことができる。
【0010】
また本発明は、前記発明において、前記ハンドレール駆動手段は、前記ハンドレール駆動用電動機の駆動に対する前記ハンドレールの速度応答性を高めるばねの付勢力を調整するばね力調整手段を備え、前記停止距離制御手段は、前記踏板と前記ハンドレールの速度差に応じて前記ばね力調整手段の制御を行なうことを特徴としている。このように構成した本発明は、安全装置の動作による非常停止時に、停止距離制御手段が、踏板とハンドレールの速度差に応じてばね力調整手段を制御し、ハンドレールの速度応答性に関与するばねの付勢力を調整するので、この非常停止時におけるハンドレールの滑りの発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、安全装置動作検出手段により安全装置の動作が検出され、踏板とハンドレールを非常停止させる際に、停止時の踏板とハンドレールとの間の距離が停止距離制御手段によって所定距離に制御されることから、このような安全装置による非常停止時に乗客の負荷の軽重に拘わらず、踏段上の乗客の体勢を安定に保つことができ、従来に比べて乗客に対する優れた安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の乗客コンベアの制御装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に備えられる停止距離制御手段における処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る乗客コンベアの制御装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明の乗客コンベアの制御装置の一実施形態を示すブロック図である。この図1に示すように、本実施形態に係る乗客コンベアは例えばエスカレータであり、無端状に配列された踏板1と、この踏板1と同一方向に回動する無端状のハンドレール2と、安全装置が動作したことを検出する安全装置動作検出手段13とを備えている。
【0015】
このようなエスカレータに備えられる本実施形態に係る制御装置は、踏板1を駆動する踏板用電動機3と、この踏板用電動機3の速度と運転方向を検出する踏板速度検出装置4と、踏板用電動機3を制御する踏板駆動制御手段10と、ハンドレール2を駆動するハンドレール駆動用電動機5と、このハンドレール駆動用電動機5の駆動力をハンドレール2に伝えるハンドレール駆動手段7と、ハンドレール駆動用電動機5を制御するハンドレール駆動制御手段11とを備えている。
【0016】
さらに、本実施形態は、安全装置動作検出手段13により安全装置の動作が検出され、踏板1とハンドレール2を非常停止させる際に、停止時の踏板1とハンドレール2との間の距離を所定距離に制御する停止距離制御手段12を備えている。この停止距離制御手段12は、当該エスカレータの上昇運転時には、踏板1の停止位置よりもハンドレール2の停止位置が上昇方向に対して前方に位置するように、当該エスカレータの下降運転時には、ハンドレール2の停止位置よりも踏板1の停止位置が下降方向に対して前方に位置するように、踏板1とハンドレール2の停止制御も行なうものである。
【0017】
なお、前述したハンドレール駆動手段7は、ハンドレール駆動用電動機5の駆動に対するハンドレール2の速度応答性を高めるばね9の付勢力を調整するばね力調整手段8を備えており、前述した停止距離制御手段12は、踏板1とハンドレール2の速度差に応じてばね力調整手段8の制御を行なう構成してある。
【0018】
図2は本実施形態に備えられる停止距離制御手段における処理手順を示すフローチャートである。
【0019】
このように構成した本実施形態にあっては、エスカレータの運転中に何らかの異常が発生して安全装置が動作すると、この安全装置の動作を安全装置動作検出手段13が検出し(ステップS1)、停止距離制御手段12は踏板速度検出装置4とハンドレール速度検出装置6からの信号によりエスカレータの運転方向を検出する(ステップS2)。
【0020】
ここで、停止距離制御手段12は、エスカレータが上昇運転の場合、踏板速度検出装置4とハンドレール速度検出装置6からの信号により踏板1とハンドレール2の速度を比較する(ステップS3)。
【0021】
ハンドレール2の速度が踏板1の速度より遅い場合、停止距離制御手段12は、ハンドレール駆動制御手段11にハンドレール2の速度を上げるように指令を出力する(ステップS4)。この指令を入力したハンドレール駆動制御手段11は、ハンドレール駆動用電動機5を制御し、ハンドレール2の速度が踏板1の速度より一定速度速くなるように制御する。また、ステップS4において、ハンドレール駆動用電動機5の駆動力を素早くハンドレール2に伝えるために、停止距離制御手段12は、踏板1とハンドレール2の速度差に応じてばね力調整手段8を制御し、ばね8の付勢力を強くして駆動力を増し、ハンドレール駆動用電動機5に対するハンドレール2の速度応答性を高める補助をする。
【0022】
その後、停止距離制御手段12は、踏板駆動制御手段10に踏板停止指令を出力して踏板駆動用電動機3の駆動を停止させて踏板1を停止させ(ステップS5)、次に、停止距離制御手段12は、停止した踏板1との距離が所定距離となるように、ハンドレール駆動制御手段11にハンドレール2を停止させる停止指令を出力してハンドレール駆動用電動機5の駆動を停止させハンドレール2を停止させる(ステップS6)。
【0023】
また、前述したステップS2で、停止距離制御手段12がエスカレータの下降運転を検出した場合、停止距離制御手段12は、踏板速度検出装置4とハンドレール速度検出装置6からの信号により、踏板1とハンドレール2の速度を比較する(ステップS7)。
【0024】
ハンドレール2の速度が踏板1の速度より速い場合、停止距離制御手段12は、ハンドレール駆動制御手段11にハンドレール2の速度を下げるように指令を出力する(ステップS8)。この指令を入力したハンドレール駆動制御手段11は、ハンドレール駆動用電動機5を制御し、ハンドレール2の速度が踏板1の速度より一定速度遅くなるように制御する。ここで、ハンドレール駆動制御手段11は、ハンドレール2の速度が踏板1の速度より一定値速い場合は、ハンドレール駆動用電動機5に逆回転(上昇方向)させるように逆回転駆動指令を出力し、緊急ハンドレール減速制御を行なう。
【0025】
また、ステップS8において、ハンドレール駆動用電動機5の駆動力を素早くハンドレール2に伝えるために、停止距離制御手段12は、踏板1とハンドレール2の速度差に応じてばね力調整手段8を制御し、ばね8の付勢力を強くして駆動力を増し、ハンドレール駆動用電動機5に対するハンドレール2の速度応答性を高める補助をする。
【0026】
その後、停止距離制御手段12は、ハンドレール駆動制御手段11にハンドレール停止指令を出力してハンドレール駆動用電動機5の駆動を停止させてハンドレール2を停止させ(ステップS9)、次に、停止距離制御手段12は、停止したハンドレール2との距離が所定距離となるように、踏板駆動制御手段10に踏板1を停止させる停止指令を出力して踏板駆動用電動機3の駆動を停止させ踏板1を停止させる(ステップS10)。
【0027】
このように本実施形態にあっては、安全装置動作検出手段13により安全装置の動作が検出され、踏板1とハンドレール2を非常停止させる際に、停止時の踏板1とハンドレール2との間の距離が停止距離制御手段12によって所定距離に制御されることから、この安全装置による非常停止時に乗客の負荷の軽重に拘わらず、踏段1上の乗客の体勢を安定に保つことができ、乗客に対する優れた安全性を確保することができる。
【0028】
また、安全装置による非常停止時に、停止距離制御手段12は、エスカレータの上昇運転時には、踏板1の停止位置よりもハンドレール2の停止位置が上昇方向に対して前方に位置するように、エスカレータの下降運転時には、ハンドレール2の停止位置よりも踏板1の停止位置が下降方向に対して前方に位置するように、踏板1とハンドレール2の停止制御を行なうことから、このような非常停止時に、乗客はハンドレール2を把持することによって、上昇運転時及び下降運転時のいずれであっても、その乗客自身の身体が上階方向に傾くように保つことができ、下方への転落を防ぐことができる。
【0029】
また、安全装置の動作による非常停止時に、停止距離制御手段12が、踏板1とハンドレール2の速度差に応じてばね力調整手段8を制御し、ハンドレール2の速度応答性に関与するばね9の付勢力を調整するので、この非常停止時におけるハンドレール2の滑りの発生を防ぐことができる。これにより信頼性の高い制御装置を実現させることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 踏板
2 ハンドレール
3 踏板駆動用電動機
4 踏板速度検出装置
5 ハンドレール駆動用電動機
6 ハンドレール速度検出装置
7 ハンドレール駆動手段
8 ばね力調整手段
9 ばね
10 踏板駆動制御手段
11 ハンドレール駆動制御手段
12 停止距離制御手段
13 安全装置動作検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に配列されて回動する複数の踏板と、これらの踏板と同一方向に回動する無端状のハンドレールと、安全装置が動作したことを検出する安全装置動作検出手段とを有する乗客コンベアに備えられ、
前記踏板を駆動する踏板用電動機と、この踏板用電動機の速度と運転方向を検出する踏板速度検出装置と、前記踏板用電動機を制御する踏板駆動制御手段と、前記ハンドレールを駆動するハンドレール駆動用電動機と、このハンドレール駆動用電動機の駆動力を前記ハンドレールに伝えるハンドレール駆動手段と、前記ハンドレール駆動用電動機を制御するハンドレール駆動制御手段とを備えた乗客コンベアの制御装置において、
前記安全装置動作検出手段により前記安全装置の動作が検出され、前記踏板と前記ハンドレールを非常停止させる際に、停止時の前記踏板と前記ハンドレールとの間の距離を所定距離に制御する停止距離制御手段を備えたことを特徴とする乗客コンベアの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベアの制御装置において、
前記乗客コンベアがエスカレータから成り、
前記停止距離制御手段は、当該エスカレータの上昇運転時には、前記踏板の停止位置よりも前記ハンドレールの停止位置が上昇方向に対して前方に位置するように、当該エスカレータの下降運転時には、前記ハンドレールの停止位置よりも前記踏板の停止位置が下降方向に対して前方に位置するように、前記踏板と前記ハンドレールの停止制御を行なうことを特徴とする乗客コンベアの制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の乗客コンベアの制御装置において、
前記ハンドレール駆動手段は、前記ハンドレール駆動用電動機の駆動に対する前記ハンドレールの速度応答性を高めるばねの付勢力を調整するばね力調整手段を備え、前記停止距離制御手段は、前記踏板と前記ハンドレールの速度差に応じて前記ばね力調整手段の制御を行なうことを特徴とする乗客コンベアの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−17200(P2012−17200A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156865(P2010−156865)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】