説明

乗客コンベアの手動駆動装置

【課題】本発明は、動力伝達手段の芯ずれがなく、新たにボルト穴を設けることなく設置することができる乗客コンベアの手動駆動装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、乗客コンベア(1)の踏板(6)と移動手摺8を駆動する駆動装置9の出力軸側に設けられた従動輪(17)と、保守時に前記駆動装置9の吊ボルト穴(14A〜14D)に固定される支持体19と、この支持体19に軸支され前記従動輪(17)の放射方向に一致して位置する駆動輪(20)と、この駆動輪(20)に設けたハンドル21と、前記駆動輪(20)の動力を前記従動輪(17)に伝達する動力伝達手段(25)とより手動駆動装置18を構成したのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は隣接踏板に段差が生じるエスカレーターや隣接踏板が段差を生じない電動道路の手動駆動装置に係り、特に、保守運転時に乗客コンベアの駆動装置を手動により駆動させて踏板や移動手摺を移動させる乗客コンベアの手動駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアの駆動装置を手動により駆動させる手動駆動装置は、例えば、特許文献1に開示されているように、保守時に手動駆動装置を主枠に固定し、この手動駆動装置から乗客コンベアの駆動装置へ動力を伝達するように構成され、実用化もされている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−118940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の乗客コンベアの手動駆動装置は、保守運転時に手動駆動装置を主枠へ固定するためのボルト穴を予め設けておき、保守運転時において予め設けられたボルト穴を利用して手動駆動装置を設置し、乗客コンベアの駆動装置との間にチェーン等の動力伝達手段を巻掛けて動力の伝達を行っている。しかしながら、主枠の製造誤差や組み立て誤差、さらには主枠の撓みが発生すると、手動駆動装置と乗客コンベアの駆動装置への動力伝達手段の巻掛け位置の芯ずれが生じ、動力伝達手段が手動駆動装置あるいは乗客コンベアの駆動装置から外れることが散見される。さらに、主枠に手動駆動装置の固定用のボルト穴を新たに設けなければならず、その際に、乗客コンベア構成部品の主枠への設置位置を避けてボルト穴を設けなければならず、手動駆動装置の設置を確保するのが厄介であった。
【0005】
本発明の目的は、動力伝達手段の芯ずれがなく、新たにボルト穴を設けることなく設置することができる乗客コンベアの手動駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、乗客コンベアの踏板と移動手摺を駆動する駆動装置の出力軸側に設けられた従動輪と、保守時に前記駆動装置の吊ボルト穴に固定される支持体と、この支持体に軸支され前記従動輪の放射方向に一致して位置する駆動輪と、この駆動輪に設けた手回しハンドルと、前記駆動輪の動力を前記従動輪に伝達する動力伝達手段とより手動駆動装置を構成したのである。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように本発明によれば、手動駆動手段を、乗客コンベアの駆動装置に設けられた吊ボルト穴を利用して設置することで、新たにボルト穴を設ける必要はなく、また、手動駆動装置は乗客コンベアの上に設置されているので、主枠の製造誤差や組み立て誤差、さらには主枠の撓みが発生しても、これらの影響を受けることはなく、動力伝達手段の巻掛け位置の芯ずれは発生しない。したがって、動力伝達手段の芯ずれがなく、新たにボルト穴を設けることなく設置することができる乗客コンベアの手動駆動装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明による乗客コンベアの手動駆動装置の一実施の形態を、図1〜図6に示すエスカレーターの手動駆動装置に基づいて説明する。
【0009】
図3に示すように、エスカレーター1は、上下階床に跨って傾斜して設置された主枠2と、この主枠2の上下端部に軸支された主駆動スプロケット3及び主従動スプロケット4と、これら主駆動スプロケット3と主従動スプロケット4間に巻掛けられた無端状の踏段チェーン5と、この踏段チェーン5に連結され乗客搭載部に踏板を有する複数の踏段6と、前記主枠2の前記踏段6の移動方向両側に立設された欄干7と、この欄干7の周縁に案内され前記踏段6と同じ速度で駆動される移動手摺8と、前記主駆動スプロケット3を駆動する駆動装置9とを備えている。
【0010】
前記駆動装置9は、駆動用電動機10と、減速機11と、この減速機11の出力軸(図示せず)に固定されたスプロケット12と、前記減速機11の出力軸に設けられたディスクブレーキ等の制動機13とを備えている。このような駆動装置9の上部には、複数の吊ボルト穴14A〜14Dが設けられており、組み立て時は、この吊ボルト穴14A〜14Dのアイボルトをねじ込み、このアイボルトに吊り上げロープを通して駆動装置9を吊り下げ、主枠2に設けた取り付け座15A,15B上に乗置させて固定している。
【0011】
このような駆動装置9のスプロケット12と前記主駆動スプロケット3間に駆動チェーン16を巻掛けて前記踏段6及び移動手摺8を移動するようにしている。
【0012】
ところで前記駆動装置9の出力軸の例えば制動機13側には、従動輪となる従動スプロケット17が軸支されている。
【0013】
一方、前記駆動装置9の上部に設けられた吊ボルト穴14A〜14Dのうち、例えば二つの吊ボルト穴14C,14Dを利用して、図5及び図6に示すような手動駆動装置18が保守時に設置される。
【0014】
この手摺駆動装置18は、前記吊ボルト穴14C,14Dに固定される支持体19と、この支持体19に軸支され前記従動スプロケット17の放射方向に一致して位置する駆動輪である駆動スプロケット20と、この駆動スプロケット20に設けた手回しハンドル21とを備えている。前記支持体19は、前記吊ボルト穴14C,14Dに跨って固定される取り付け座22と、この取り付け座22に固定され前記駆動スプロケット20を軸支する支持腕23とを有している。さらに、前記支持腕23には前記従動スプロケット17と駆動スプロケット20の間隔を接近あるいは開離させるために、駆動スプロケット20の軸20Sが変位できるように、間隔を接近あるいは開離させる方向に長い長穴24が設けられている。
【0015】
上記構成において、エスカレーター1の通常時は、手摺駆動装置18が撤去された状態で、駆動装置9には従動スプロケット17が装着されたまま運転されている。そして保守時にエスカレーター1の運転を停止させ、駆動装置9が収納された空間の上部を開放した後、手動駆動装置18の取り付け座22を吊ボルト穴14C,14Dにボルト等の固定手段で固定する。そして、手動駆動装置18の駆動スプロケット20と駆動装置9側の従動スプロケット17とに動力伝達手段である無端状のチェーン25を巻掛ける。このチェーン25の巻掛けに際し、駆動スプロケット20の軸20Sを長穴24の下方位置に変位させた状態で、巻掛け作業を行うことで、容易にチェーン25を巻掛けることができ、巻掛け後はチェーン25に張力を付加する位置で前記軸20Sを長穴24に固定することで、チェーン25の巻掛け作業を終了する。
【0016】
その後、制動機13の制動ばね(図示せず)に逆らってライニングを離してブレーキシューを解放し、この状態でハンドル21を回転させることで、駆動装置9によって駆動される踏段6や移動手摺8を必要な距離移動させることができる。
【0017】
そして、手動駆動装置18を頻繁に使用することで、前記チェーン25が伸びてしまった場合には、このチェーン25を駆動スプロケット20と従動スプロケット17に巻掛ける際に、駆動スプロケット20の軸20Sの長穴24への固定位置を従動スプロケット17から離れる位置側に変位させて固定することで、チェーン伸びを解消することができる。
【0018】
以上説明したように、手動駆動装置18を、駆動装置9に設けられている吊ボルト穴14C,14Dを利用して設置したので、手動駆動装置18を取り付けるための専用のボルト穴を特別設ける必要はない。さらに、前記吊ボルト穴14C,14Dや従動スプロケット17の設置位置は、設計の段階で決められているので、その前記吊ボルト穴14C,14D及び従動スプロケット17の設置位置を基準として駆動スプロケット20の位置を決めることができるので、駆動スプロケット20と従動スプロケット17の芯を容易に一致させることができる。さらにまた、手動駆動装置18は、駆動装置9に設置されるために、主枠2の製造誤差や組み立て誤差、さらには主枠2に撓みが発生しても、手動駆動装置18と駆動装置9との位置関係には変化がなく、したがって、チェーン25の巻掛け位置の芯ずれが生じてチェーン25が手動駆動装置18あるいは駆動装置9から外れる不都合は回避できる。
【0019】
ところで上記実施の形態は、乗客コンベアとしてエスカレーターを一例に説明したが、電動道路についても適用できることは云うまでもない。また、上記実施の形態においては、二つの吊ボルト穴14C,14Dを利用して手動駆動装置18を固定したが、使用する吊ボルト穴数は設置状態を考慮して適宜変更してもよい。さらに、駆動輪として駆動スプロケット20、従動輪として従動スプロケット17、動力伝達手段としてチェーン15を説明したが、駆動輪や従動輪としてプーリや歯車、動力伝達手段としてベルトや歯付ベルトを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による乗客コンベアの手動駆動装置の設置状態を示す側面図。
【図2】図1の手動駆動装置をA矢印方向から見た図。
【図3】本発明による乗客コンベアであるエスカレーターの通常運転状態を示す概略側面図。
【図4】図3に示すエスカレーターの駆動装置を示す拡大平面図。
【図5】図2に示す手動手する駆動装置の拡大図。
【図6】図5の右側面図。
【符号の説明】
【0021】
1…エスカレーター、2…主枠、3…主駆動スプロケット、6…踏段、8…移動手摺、9…駆動装置、10…駆動用電動機、11…減速機、12…スプロケット、13…制動機、14A〜14D…吊ボルト穴、17…従動スプロケット、18…手動駆動装置、19…支持体、20…駆動スプロケット、21…ハンドル、24…長穴、25…チェーン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの踏板と移動手摺を駆動する駆動装置の出力軸側に設けられた従動輪と、保守時に前記駆動装置の吊ボルト穴に固定される支持体と、この支持体に軸支され前記従動輪の放射方向に一致して位置する駆動輪と、この駆動輪に設けた手回しハンドルと、前記駆動輪の動力を前記従動輪に伝達する動力伝達手段とを有する乗客コンベアの手動駆動装置。
【請求項2】
前記従動輪は従動スプロケットであり、前記駆動輪は駆動スプロケットであり、前記動力伝達手段は前記従動スプロケットと前記駆動スプロケットに巻掛けられたチェーンであることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの手動駆動装置。
【請求項3】
前記支持体は、前記駆動輪の軸支部を前記従動輪に対して接近あるいは開離させる位置調整機構を有していることを特徴とする請求項1又は2記載の乗客コンベアの手動駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−153523(P2007−153523A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350544(P2005−350544)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】