説明

乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法

【課題】この発明は、一人の作業者で、精度良く、簡易に移動手摺の張力を調整できる乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法を得る。
【解決手段】可撓性ガイド12の上部側のインナーデッキボードを取り外し、可撓性ガイド12の他端と手摺レールとの締着を緩める。ついで、ピストンロッド21aが可撓性ガイド12の背面を略垂直に押圧するように位置調整し、油圧シリンダ21が固定された取付板22をインナーデッキボードアングル17に取付ボルト24により締着固定する。ついで、所定圧に設定された作動油をホース25を介して油圧シリンダ21に供給し、ピストンロッド21aにより可撓性ガイド12を介して移動手摺9を押圧し、移動手摺9に所定の張力を発生させる。その後、可撓性ガイド12の他端と手摺レールとを締着固定し、作動油の供給を停止し、取付板22および油圧シリンダ21を取り外し、インナーデッキボードを取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主枠に立設された欄干の外周縁部に設けられた手摺レールに係合されて循環移動する乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベアにおいては、主枠に立設された欄干の外周縁部に手摺レールが設けられて、無端状の移動手摺が手摺レールに移動自在に係合されて循環移動する。そして、移動手摺の移動経路の一部に湾曲した伸縮調整部が設けられ、可撓性ガイドが長さ調整可能に伸縮調整部に設けられている。この可撓性ガイドの長さを調整して、移動手摺の伸縮に対して生じる緩みや過大張力を解消するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように構成された従来の乗客コンベアにおいては、まず、移動手摺の伸縮調整部の上部のインナーデッキボードを取り外し、可撓性ガイドを主枠に固定するボルトを緩める。ついで、テンションゲージを用いて移動手摺の張力が所定の範囲内に入るように可撓性ガイドを介して移動手摺を押圧する。これにより、可撓性ガイドが移動手摺に沿った状態で長さ調整される。ついで、ボルトを締着して可撓性ガイドを主枠に固定することにより、移動手摺の伸縮発生によって生じる緩みや過大張力を人為的に調整していた。
【0004】
【特許文献1】特開平5−338978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法では、作業者が、テンションゲージを欄干と踏み板との間の僅かなスペースから差し込んで、手摺ガイドを押圧することになるので、テンションゲージを手摺ガイドの背面に垂直に押圧しにくく、熟練を要するとともに、移動手摺の張力を精度良く調整できないという課題がある。
また、テンションゲージで移動手摺を押圧して張力を調整する作業者と、可撓性ガイドを締着する作業者とが必要となり、作業効率が悪いという課題もあった。
【0006】
この発明は、上記課題を解決するためになされたもので、一人の作業者で、精度良く、簡易に移動手摺の張力を調整できる乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、無端状に連結されて循環移動する踏み段と、上記踏み段を挟むように立設された一対の欄干と、上記欄干の外周縁部および下部側に設けられ、該欄干の下部側に設けられた折り返し側の一部に分断部を有する手摺レールと、一端が上記分断部に臨む上記手摺レールの一方の端部に固定され、かつ他端が固定位置を長さ方向に移動可能に上記分断部に臨む上記手摺レールの他方の端部に締着固定されて該手摺レールの分断部に架設され、該他端の締着を緩めて該固定位置を移動させることで架設長さが調整される可撓性ガイドと、無端状に形成され、上記手摺レールおよび可撓性ガイドに案内されて循環移動する移動手摺と、上記欄干の下部と上記踏み段との隙間を塞口するインナーデッキボードと、を備えた乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法であって、上記可撓性ガイドの上部側の上記インナーデッキボードの部位を取り外す工程と、上記可撓性ガイドの他端と上記手摺レールとの締着を緩める工程と、供給される作動媒体の圧力がピストンロッドによる押圧力として出力される押圧手段を、該ピストンロッドが上記可撓性ガイドの背面を略垂直に押圧するように上記乗客コンベアの固定部に固定する工程と、上記押圧手段に所定圧の上記作動媒体を供給して上記ピストンロッドにより上記可撓性ガイドを介して上記移動手摺を押圧し、該移動手摺に所定の張力を発生させる工程と、上記可撓性ガイドの他端と上記手摺レールとを締着固定する工程と、上記作動媒体の供給を停止して上記押圧手段を取り外し、上記インナーデッキボードを取り付ける工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、供給される作動媒体の圧力がピストンロッドによる押圧力として出力される押圧手段を、該ピストンロッドが可撓性ガイドの背面を略垂直に押圧するように乗客コンベアの固定部に固定しているので、作動媒体の圧力を所定圧に設定するだけで、所定の押圧力で移動手摺を押圧することができる。そこで、作業者の熟練度に拘わらず、移動手摺の張力を簡易に精度良く調整できる。
また、押圧手段を乗客コンベアの固定部に固定しているので、移動手摺に張力を付加する作業と、可撓性ガイドの締着/締着解除作業とを一人の作業者で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本願の実施例を図面に基づいて説明する。
図1はこの発明が適用されるエスカレータの構成を説明する模式図、図2はエスカレータの移動手摺の伸縮調整部を示す要部拡大図、図3はエスカレータの移動手摺の伸縮調整部周りを示す要部拡大断面図、図4はこの発明に係る移動手摺の張力調整方法を説明する図である。なお、図2では、移動手摺が省略されている。
【0010】
図1において、エスカレータは、無端状に連結された踏み段2が主枠1に設けられている。そして、踏み段2が主枠1に設置された駆動機3によって駆動されて循環移動し、乗客4を乗り口の乗降床5から他階の降り口の乗降床6に搬送する。
また、一対の欄干7が踏み段2を挟むように主枠1に立設され、手摺レール8が欄干7の外周縁部および下部側に設けられている。無端状に形成された断面C字状の移動手摺9が、手摺レール8に摺動移動可能に係合されている。移動手摺駆動機構10は、移動手摺9を両面から加圧状態に挟持する複数個の加圧ローラから構成され、駆動機3によって駆動される。これにより、移動手摺9は、手摺レール8に案内されて、踏み段2と同期して循環移動する。
また、伸縮調整部11が移動手摺9の折り返し側の経路の一部に構成されている。
【0011】
ここで、伸縮調整部11の構成について図2を参照しつつ説明する。
欄干7の下部側に設けられている手摺レール8の部位、即ち手摺レール8の折り返し側の一部が分断されている。可撓性ガイド12は例えばプラスチックなどで作製され、固定金具13が一端に固着され、可動金具14が他端に固着されている。そして、固定金具13をボルト15により手摺レール8の分断部に臨む一方の端部に締着固定され、可動金具14を手摺レール8の分断部を望む他方の端部にボルト15により締着固定されて、可撓性ガイド12が、手摺レール8の分断部に、下方に凸状に湾曲した状態に架設されている。この時、可動金具14には、図示していないが、穴の長形方向を可撓性ガイド12の長さ方向とする細長いボルト取付穴が形成されている。これにより、ボルト15の締着を緩めることで、手摺レール8に対する可動金具14の固定位置を可撓性ガイド12の長さ方向に移動でき、可撓性ガイド12の架設長さが調整される。可撓性ガイド12の架設長さを変えることで、可撓性ガイド12の湾曲形状が変えられ、移動手摺9の張力が調整される。
【0012】
つぎに、この発明に係る移動手摺の張力調整方法について図3および図4を参照しつつ説明する。
【0013】
張力調整治具20は、押圧手段としての油圧シリンダ21と、取付板22と、可動板23と、取付ボルト24と、図示しない油圧ポンプと、を備えている。
取付板22は、鋼板を屈曲して作製され、平板状のシリンダ取付部22aと、シリンダ取付部22aの一端縁部からコ字状に延設された取付腕22bと、を有する。そして、ナット部26が取付腕22bの反シリンダ取付部側の辺に固着され、取付ボルト24が螺着されるようになっている。可動板23は、ナット部26に螺着されて取付腕22bのコ字状内に延出した取付ボルト24の先端部に回転自在に、かつ抜けを防止されて取り付けられている。油圧シリンダ21は、ピストンロッド21aをコ字状の取付腕22bの開口側に一致させてシリンダ取付部22aに取り付けられている。油圧シリンダ21は、ホース25を介して油圧ポンプに連結されている。
【0014】
通常状態では、インナーデッキボード16が、図3に示されるように、一端を欄干7の下端に締着固定され、他端側をインナーデッキボードアングル17に係合させて、踏み段2と欄干7との間の空隙が塞口されている。
【0015】
そこで、移動手摺9の張力を調整するには、まず、伸縮調整部11の上部に位置するインナーデッキボード16を取り外す。そして、欄干7とインナーデッキボードアングル17との間の空隙から、油圧シリンダ21が取り付けられたシリンダ取付部22aを差し込み、インナーデッキボードアングル17を取付腕22b内に差し入れる。ついで、取付ボルト24を回し、可動板23を引き寄せ、インナーデッキボードアングル17を取付腕22bと可動板23とで加圧挟持し、取付板22をインナーデッキボードアングル17に取り付ける。この時、例えば、取付腕22bとインナーデッキボードアングル17との間やインナーデッキボードアングル17と可動板23との間に板をかまし、インナーデッキボードアングル17に対する取付板22の取付角度および取付高さを調整することで、ピストンロッド21aが可撓性ガイド12の裏面の幅方向中央に、略垂直に当たるように位置調整する。
【0016】
ついで、ボルト15を緩め、可撓性ガイド12を移動手摺9に密接させる。この時、移動手摺9に伸長が発生していた場合には、移動手摺9と可撓性ガイド12と間に隙間が生じている。そこで、手摺レール8からの可動金具14の延出量を増やし、可撓性ガイド12を移動手摺9に密接させる。また、移動手摺9に収縮が発生していた場合には、移動手摺9により可撓性ガイド12が変形している。そこで、ボルト15を緩めると、可撓性ガイド12の復元力により手摺レール8からの可動金具14の延出量が縮小し、可撓性ガイド12が移動手摺9に密接する。
【0017】
ついで、作動圧を例えば20Nに設定し、油圧ポンプを作動させる。これにより、加圧されたオイルがホース25を介して油圧シリンダ21に供給され、ピストンロッド21aが伸長し、可撓性ガイド12を介して移動手摺9を押圧する。そして、移動手摺9の張力が油圧シリンダ21による押圧力とつり合うまで、可動金具14が手摺レール8から延出する。そこで、ボルト15を締着することで、移動手摺9の張力が油圧シリンダ21による作動圧とつり合った状態に調整される。
ついで、油圧ポンプの作動を停止し、取付ボルト24を緩め、取付板22を取り外す。その後、インナーデッキボード16の一端を欄干7の下端に締着し、移動手摺9の張力調整作業が終了する。
【0018】
このように、この発明によれば、油圧シリンダ21を取付板22のシリンダ取付部22aに取り付け、踏み段2と欄干7との隙間から油圧シリンダ21を差し込み、ピストンロッド21aが可撓性ガイド12の背面に略垂直に押圧するように、取付板22をインナーデッキボードアングル17に固定している。そこで、油圧シリンダ21に供給する作動油の圧力を設定するだけで、移動手摺9の張力が調整されるので、作業者は、熟練を要することなく、移動手摺9の張力を精度良く調整できるとともに、作業負荷も軽減される。また、可撓性ガイド12の取付ボルト15の締着を緩める作業および締着作業と、移動手摺9の張力調整作業とを一人の作業者で行うことができ、作業効率が高められる。
【0019】
なお、上記実施の形態では、エスカレータに適用するものとして説明しているが、本発明は、エスカレータに限らず、動く歩道などの乗客コンベアに適用できるものである。
また、上記実施の形態では、取付板22をインナーデッキボードアングル17に取り付けるとしているが、取付板22が取り付けられるエスカレータの固定部はインナーデッキボードアングル17に限定されるものではなく、主枠1や主枠1に固定された部材でもよい。
また、上記実施の形態では、押圧手段として油を作動媒体とする油圧シリンダを用いるものとしているが、空気を作動媒体とする空気圧シリンダでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明が適用されるエスカレータの構成を説明する模式図である。
【図2】エスカレータの移動手摺の伸縮調整部を示す要部拡大図である。
【図3】エスカレータの移動手摺の伸縮調整部周りを示す要部拡大断面図である。
【図4】この発明に係る移動手摺の張力調整方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0021】
2 踏み段、7 欄干、8 手摺レール、9 移動手摺、12 可撓性ガイド、13 固定金具、14 可動金具、15 ボルト、16 インナーデッキボード、17 インナーデッキボードアングル(固定部)、20 張力調整治具、21 油圧シリンダ(押圧手段)、21a ピストンロッド、22 取付板、23 可動板、24 取付ボルト、25 ホース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結されて循環移動する踏み段と、
上記踏み段を挟むように立設された一対の欄干と、
上記欄干の外周縁部および下部側に設けられ、該欄干の下部側に設けられた折り返し側の一部に分断部を有する手摺レールと、
一端が上記分断部に臨む上記手摺レールの一方の端部に固定され、かつ他端が固定位置を長さ方向に移動可能に上記分断部に臨む上記手摺レールの他方の端部に締着固定されて該手摺レールの分断部に架設され、該他端の締着を緩めて該固定位置を移動させることで架設長さが調整される可撓性ガイドと、
無端状に形成され、上記手摺レールおよび可撓性ガイドに案内されて循環移動する移動手摺と、
上記欄干の下部と上記踏み段との隙間を塞口するインナーデッキボードと、を備えた乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法であって、
上記可撓性ガイドの上部側の上記インナーデッキボードの部位を取り外す工程と、
上記可撓性ガイドの他端と上記手摺レールとの締着を緩める工程と、
供給される作動媒体の圧力がピストンロッドによる押圧力として出力される押圧手段を、該ピストンロッドが上記可撓性ガイドの背面を略垂直に押圧するように上記乗客コンベアの固定部に固定する工程と、
上記押圧手段に所定圧の上記作動媒体を供給して上記ピストンロッドにより上記可撓性ガイドを介して上記移動手摺を押圧し、該移動手摺に所定の張力を発生させる工程と、
上記可撓性ガイドの他端と上記手摺レールとを締着固定する工程と、
上記作動媒体の供給を停止して上記押圧手段を取り外し、上記インナーデッキボードを取り付ける工程と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法。
【請求項2】
上記押圧手段は、油圧シリンダであることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法。
【請求項3】
上記押圧手段は、空気圧シリンダであることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの移動手摺の張力調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−239269(P2008−239269A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79349(P2007−79349)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】