説明

乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構

【課題】踏段ガイドレールの高精度な曲げ加工を必要とせず、また、チェーンの張力に関わらず踏段の水平速度を一定に維持する乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構を提供する。
【解決手段】スプロケットと、上記スプロケットに噛み合って駆動される複数のローラおよび上記ローラを無端状に連結する複数のリンクを有するチェーンと、を備える乗客コンベアの脈動速度抑制機構において、上記チェーンが上記スプロケットより反転される手前で上記チェーンを水平に案内する踏段ガイドレールと、上記スプロケットと噛み合って牽引される上記ローラに後続する上記ローラが上記踏段ガイドレールに案内されて移動する速度が脈動しないように、上記牽引されるローラを案内して回転半径を変動する脈動抑制固定レールと、有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレーターや移動歩道等の乗客を乗せて搬送するための踏段を有する乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な乗客コンベアは、踏段をチェーンで接続し、それを複数歯を有するスプロケットで巻き取り牽引することにより乗客が乗る踏段を搬送している。
チェーンは、スプロケットと噛み合うローラとそのローラを連結するリンクから構成され、リンクが剛体のため、ベルトのように円弧状の接触形態を取ることはできない。そのため、チェーンはスプロケットの歯数に応じた多角形状の巻き掛け状態になり、スプロケットが等速回転していてもチェーンの水平速度には脈動と呼ばれる速度変動が発生する。
【0003】
脈動は乗客が乗る踏段の移動速度の変動であり、乗り心地に悪影響を及ぼす。そして、脈動はスプロケットの歯数が少ないほど顕著に現れ、スプロケット歯数は、スプロケット径が小さく、リンク長が長いほど少なくなる。
そのため、省スペース化によってスプロケット径の小型化やコスト削減のためにリンク数の削減を行い1つのリンク長を長くすることにより現れる脈動が問題になっていた。
【0004】
そこで、踏段チェーンにより連結された踏段ローラの移動を案内する踏段ガイドレールの駆動スプロケットへの導入部に、山型の曲がり部を設ける。これにより、踏段ローラが駆動スプロケットに噛込む影響でこの踏段ローラに生じる速度むらが曲がり部により吸収されて踏段ローラの移動速度がほぼ一定に保たれ、踏段の振動が抑制される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−2007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の乗客コンベアでは、踏段ガイドレールに山型或いは谷型の曲がり部ができることで、踏段の姿勢が変わる区間ができてしまう。この問題を回避するためには傾いた踏段が表にでないように乗り場板を長くする必要があり、省スペース化が行えない。
また、レールを高い精度で曲げ加工する必要があり、高い据付精度も要求される。
【0007】
この発明の目的は、上述のような問題点を解決するためになされたものであり、踏段ガイドレールの高精度な曲げ加工を必要とせず、また、チェーンの張力に関わらず踏段の水平速度を一定に維持する乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構は、スプロケットと、上記スプロケットに噛み合って駆動される複数のローラおよび上記ローラを無端状に連結する複数のリンクを有するチェーンと、を備える乗客コンベアの脈動速度抑制機構において、上記チェーンが上記スプロケットより反転される手前で上記チェーンを水平に案内する踏段ガイドレールと、上記スプロケットと噛み合って牽引される上記ローラに後続する上記ローラが上記踏段ガイドレールに案内されて移動する速度が脈動しないように、上記牽引されるローラを案内して回転半径を変動する脈動抑制固定レールと、有する。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構は、チェーンがスプロケットにより反転される反転部に、後続の水平に移動するローラの速度が脈動せずに一定に推移するように、ローラの円接線速度を変動する脈動抑制固定レールが配備されるので、乗客コンベアの踏段速度脈動を抑制し、踏段の速度を一定にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構の側面図である。
【図2】踏段速度脈動抑制機構の脈動抑制固定レールとスプロケットの正面図である。
【図3】踏段速度脈動抑制機構のないときのチェーンの移動の様子を示す図である。
【図4】他の例の踏段速度脈動抑制機構の側面図である。
【図5】図4のスプロケットと脈動抑制固定レールの部分拡大図である。
【図6】他の踏段速度脈動抑制機構の脈動抑制固定レールとスプロケットの正面図である。
【図7】他の例のスプロケットの歯の部分の拡大図である。
【図8】この発明の実施の形態4に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
図1は、この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構の側面図である。
この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構は、乗客コンベアの踏段の移動の際に発生する速度の脈動を抑制するための機構である。踏段はチェーンが接続され、そのチェーンが複数歯を有するスプロケット3に巻き回され、スプロケット3の回転に伴いチェーンが牽引される。チェーンは、スプロケット3の歯に噛み合う複数のローラ1と、ローラ1を連結する複数のリンク2とが無端状に接続されて構成されている。
【0012】
そして、この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構は、チェーンがスプロケット3に引き込まれる手前の水平部Hを移動するローラ1bを所定の距離に亘って水平に案内する踏段ガイドレール5と、スプロケット3により牽引されるとともに踏段ガイドレール5の端から反時計方向に向かって所定の角度回動する脈動抑制部aを移動するローラ1aを案内する脈動制御固定レール6と、を有する。
【0013】
ローラ1aが沿って移動する脈動制御固定レール6の端面は、水平部Hを移動するローラ1bの速度脈動を打ち消す形状に設計された曲線である。
水平部Hを移動するローラ1bの速度に直接影響を与えるのは、ローラ1bとリンク2で連結された脈動抑制部aを移動するローラ1aだけであるため、ローラ1aが踏段ガイドレール5から脈度抑制固定レール6に乗り移ってからリンク2の1つの長さだけ脈動抑制固定レール6を設置すれば良い。
【0014】
図2は、脈動抑制固定レール6とスプロケット3の正面図である。脈動抑制固定レール6は2枚からなり、スプロケット3を両側から挟むように設置している。なお、脈動抑制固定レール6はスプロケット3の左右どちらだけに設置してもよく、また、スプロケット3を2枚の構成にし、その間に脈動抑制固定レール6を設置してもよい。
【0015】
この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構は、スプロケット3の歯の底を円形にし、脈動抑制固定レール6をスプロケット3の頂点の手前からローラ1aが1歯進む角度だけに設置することにより、チェーンを反転する反転部を脈動抑制部aと牽引部bに分けて、先走りと摩擦を防ぐことができる。
ローラ1aは脈動抑制固定レール6が設置された脈動抑制部aの区間を過ぎて牽引部bの区間に入ると、スプロケット3の円形の歯底で噛み合い、駆動力を伝達する役割を果たす。このとき、ローラ1が円形の歯底と噛み合うことで、スプロケット3の角度によってローラ1の位置は一意に決まり、リンク2の張力によってローラ1が動くことはなく、速度脈動も発生しない。
つまり、乗客側と帰路側のチェーン張力に左右されることなく脈動を抑制することができる。
【0016】
最初に踏段速度脈動抑制機構を備えていないときの踏段の速度の脈動について説明する。図3は、踏段速度脈動抑制機構を備えていないときのチェーンとスプロケットの移動の様子を説明する概略図である。図3(a)ではスプロケット13の歯の1つがスプロケット13の頂点に位置するときの様子を表している。図3(b)ではスプロケット13の歯の1つがスプロケット13の頂点から反時計方向に40度回転したときの様子を表している。
ここで、スプロケット13の頂点に移動してきた歯に噛み合っているローラ1aの速度は、スプロケット13の円接線方向の速度Vと同じであるので、スプロケット13の角速度をω、回転半径をRとすると、V=ωRで表される。そして、ローラ1aの後続のローラ1bの速度もVである。
【0017】
スプロケット13が頂点から反時計方向に回転しても、角速度ωと回転半径Rが一定であるので、スプロケット13の歯の速度の円接線方向成分は、Vと同じである。しかし、ローラ1aの移動方向は円接線から傾くので、ローラ1aの速度の水平方向成分は速度の円接線方向成分Vよりも小さい。そして、ローラ1aの後続のローラ1bの速度Vは、ローラ1aの速度の水平方向成分と同じであるので、ローラ1aがスプロケット13の頂点に位置するときが最も大きく、ローラ1bがスプロケット13の頂点に近づく程小さくなる。このように、チェーンがスプロケット13に引き込まれる手前の水平部Hをローラ1bが移動するときには速度に脈動が現われる。
【0018】
次に、踏段の速度に表れる脈動を防止する例について説明する。
この速度脈動に対して、スプロケット13の歯により牽引されるローラ1の回転半径を変えるための固定レール16を設置し、スプロケット13によりチェーンが反転される位置にあるローラ1のスプロケット13の回転軸を中心としたときの速度の円接線方向成分を大きくすることにより、水平部を移動するローラ1の速度の水平方向成分を一定にする方法が考えられる。このように反転部を移動するローラ1の速度の水平方向成分を一定にすることにより、ローラ1に後続するローラ1が水平に移動する速度も一定となるので、踏段の脈動を抑制することができる。
【0019】
そのための機構の一例では、図4に示すように、チェーンの反転部に設置した金属板からなる固定レール16と、歯底が直線状で深さが深い歯を有するスプロケット13と、を備える。そして、ローラ1を固定レール16に沿って移動させて、チェーンの反転部を移動するローラ1の速度を変動させることで水平部を移動するローラ1の速度を一定にする。
【0020】
しかし、この機構では、乗客側と帰路側のリンク2の張力の関係と固定レール16の曲線形状によっては速度脈動が発生する場合がある。このことについて図5を用いて説明する。
図5に示すスプロケット13がA方向に回転しているとした場合、ローラ1は歯の左壁面で牽引されながら、固定レール16に沿って移動する。
ここで、図5に示すように、歯には滑らかな噛み合いを実現するためのバックラッシュと呼ぶ隙間Bが設けられている。この隙間Bがあるために、ローラ1は歯内でこの隙間Bだけ動くことができ、図5のように固定レール16の形状が斜面になっている場所ではローラ1がスプロケット13に牽引されることなく先走る現象が起こってしまう。
【0021】
帰路側の右リンク2の張力F2に対して、乗客側の左リンク2の張力F1が充分に大きい場合は固定レール16の形状が斜面になっていても先走りすることはないが、乗客が少ない場合には上述の現象が起こる。
また、図5から分かるように、図4の機構では、ローラ1がスプロケット13と固定レール16の両方に接触しているため、どちらかと摩擦によって磨耗してしまう。
【0022】
次に、本発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構の作用について説明する。
ローラ1が踏段ガイドレール5の端まで移動すると、ローラ1cがスプロケット3の歯に引っ掛けられ、ローラ1aはローラ1cにリンク2で引っ張られて、脈動抑制固定レール6の端面に沿って移動する。そして、脈動抑制固定レール6の主軸の中心からの距離Rθは、踏段ガイドレール5を移動しているローラ1bの速度が一定になるように、設計してあるので、ローラ1aの速度の水平方向成分はVと同じとなる。
ローラ1aがリンク1個分脈動抑制固定レール6に沿って移動したあと、スプロケット3の歯に噛み合って牽引される。
【0023】
この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構は、チェーンがスプロケット3により反転される反転部に、後続の水平に移動するローラ1bの速度が脈動せずに一定に推移するように、ローラ1aの円接線速度を変動する脈動抑制固定レール6が配備されるので、乗客コンベアの踏段速度脈動を抑制し、踏段の速度を一定にすることができる。
【0024】
また、チェーンを水平に案内する踏段ガイドレール5と、それに連なる脈動抑制固定レール6と、を用意すれば良いので、容易な加工と据付が可能である。
また、突入高さを自由に設計することができる。
また、ローラ1aが踏段ガイドレール5から脈動抑制固定レール6に乗り移ってから1リンク2の長さの区間だけであるため、材料費も少なく、主軸の上から簡単に設置可能な構造となる。
【0025】
また、スプロケット3の位置によってローラ1の位置が一意に決まるため、図1においてスプロケット3が時計回りに回転する下り駆動についても往路側の速度は一定になる。
本発明は、スプロケット3の歯型の往路側を高くすることで、スプロケット真下の6時以降の図1のc区間でもローラ1とスプロケット3が噛み合い可能とし、スプロケット3の上部でローラ1と噛み合わない分の代わりに下部でローラ1とスプロケット3が噛み合うようにした。このように、チェーンの反転部を脈動抑制部と牽引部を分けることで、ローラ1がスプロケット3と脈動抑制固定レール6の両方に接触し、摩擦によって磨耗してしまうこともない。
【0026】
なお、図6に示すように、ローラ1の軸を伸ばして同軸上に別ローラ11を固定する構造などのように、ローラ1の同軸上でローラ1に固定されているものを脈動抑制固定レール6によってガイドすることでも同じ効果が得られる。
このとき、ローラ1またはローラ1の同軸上でローラ1に連結されているものは同軸上で速度が異なる2つの部品と接触することになり、どちらかの部品と間で摩耗が発生してしまう。そこで、ローラ1が脈動抑制固定レール6と接触する面とスプロケット3と接触する面をベアリングやリング等により分ける構造にして、回転速度が異なることによる摩耗を防ぐ。
【0027】
実施の形態2.
従来機構では、ローラ1がスプロケット3に噛み合う前の踏段ガイドレール5の高さは、ピッチ円半径Rに合わせて設計されていた。ピッチ円半径Rは式(1)で表され、チェーンピッチPとスプロケット歯数Zから一意に決められるために、踏段ガイドレール5の高さを自由に設計することはできなかった。
【0028】
【数1】

【0029】
図1に示す本発明では、チェーンを反転する反転部に自由に高さの設計が可能な脈動抑制固定レール6を設置するため、その高さに合わせて踏段ガイドレール5の高さも自由に設計することができる。
【0030】
実施の形態3.
本発明のスプロケット3の歯型を図7に示す。本発明ではスプロケット3の歯型が左右非対称になっている。これは、ローラ1が踏段ガイドレール5からスプロケット3に噛み合う直前で干渉することを避けるために低くしてある。
ローラ1は歯底で噛み合うために、歯が低くても問題がなく、左右対称の歯型形状でも脈動抑制効果を得ることができる。
しかし、歯が低いとリンク張力が大きい場合に歯飛びを起こす可能性があるため、乗客が乗ることでより大きな張力がかかる可能性がある図1中の右歯のみ歯を高くした。
【0031】
実施の形態4.
本発明に係る乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構の別の実施例の側面図を図8に示す。板材やアングル材を曲げ加工によって脈動抑制経路の形に変形させ、これを脈動抑制固定レール6として設置してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1、1a、1b ローラ、2 リンク、3 スプロケット、5 踏段ガイドレール、6 脈動抑制固定レール、11 別ローラ、13 スプロケット、16 固定レール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプロケットと、上記スプロケットに噛み合って駆動される複数のローラおよび上記ローラを無端状に連結する複数のリンクを有するチェーンと、を備える乗客コンベアの脈動速度抑制機構において、
上記チェーンが上記スプロケットより反転される手前で上記チェーンを水平に案内する踏段ガイドレールと、
上記スプロケットと噛み合って牽引される上記ローラに後続する上記ローラが上記踏段ガイドレールに案内されて移動する速度が脈動しないように、上記牽引されるローラを案内して回転半径を変動する脈動抑制固定レールと、
有することを特徴とする乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構。
【請求項2】
上記脈動抑制固定レールは、上記ローラが踏段ガイドレールの端の地点から上記ローラが上記リンク1つ分移動する地点まで上記ローラを案内することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構。
【請求項3】
上記スプロケットは、歯底形状が平らでない歯が設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構。
【請求項4】
上記スプロケットは、1枚または2枚からなり、
上記脈動抑制固定レールは、上記スプロケットが1枚の場合上記スプロケットの左右のいずれかまたは両側から挟み、上記スプロケットが2枚の場合間に介挿されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構。
【請求項5】
上記ローラは、上記脈動抑制固定レールと接触する面と上記スプロケットと接触する面とをベアリングまたはリングにより分けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の乗客コンベアの踏段速度脈動抑制機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−73822(P2011−73822A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226554(P2009−226554)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】