説明

乗客コンベア制動装置

【課題】従来技術においては、例えば、複数台のブレーキを備えたものがあるが、このように複数台のブレーキを備える構成に関してさらなる改善の余地がある。
【解決手段】実施形態の乗客コンベア制動装置は、回転体と、独立した複数の制動装置とを備える。回転体は、乗客コンベアを駆動させる電動機の駆動軸と一体回転する。複数の制動装置は、前記回転体の回転を制動可能である。前記複数の制動装置は、それぞれが発生させる制動力が前記乗客コンベアを停止するために必要な必要制動力と比較して相対的に小さくなるように設定される。前記複数の制動装置は、少なくとも1つが制動解除状態であっても残りで前記回転体を制動し前記乗客コンベアを停止可能な容量に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベア制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エスカレータ等の乗客コンベアは、トラス内に設けられた電動機によって駆動輪を回転させ、チェーンによって連結された踏段を循環させる構成のものが知られている。したがって、このような乗客コンベアは、電動機及び駆動輪に、踏段とその上に乗る乗客の荷重が作用しており、乗客コンベアの停止時にはこれを静止保持する制動装置(ブレーキ装置)に高い安全性が要求される傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−81481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来技術においては、例えば、複数台のブレーキを備えたものがあるが、このように複数台のブレーキを備える構成に関してさらなる改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の乗客コンベア制動装置は、回転体と、独立した複数の制動装置とを備える。回転体は、乗客コンベアを駆動させる電動機の駆動軸と一体回転する。複数の制動装置は、前記回転体の回転を制動可能である。前記複数の制動装置は、それぞれが発生させる制動力が前記乗客コンベアを停止するために必要な必要制動力と比較して相対的に小さくなるように設定される。前記複数の制動装置は、少なくとも1つが制動解除状態であっても残りで前記回転体を制動し前記乗客コンベアを停止可能な容量に設定される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、実施形態に係るエスカレータの概略構成例を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施形態に係るエスカレータブレーキ装置の概略構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は、実施形態に係るエスカレータブレーキ装置の概略構成を示す正面図である。
【図4】図4は、実施形態に係るエスカレータブレーキ装置の制御系を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[実施形態]
図1は、実施形態に係るエスカレータの概略構成例を示すブロック図、図2は、実施形態に係るエスカレータブレーキ装置の概略構成例を示すブロック図、図3は、実施形態に係るエスカレータブレーキ装置の概略構成を示す正面図、図4は、実施形態に係るエスカレータブレーキ装置の制御系を説明するブロック図である。
【0008】
本実施形態の乗客コンベア制動装置としてのエスカレータブレーキ装置30は、図1に示すように、乗客コンベアとしてのエスカレータ1の駆動装置4に適用される。
【0009】
図1に示すエスカレータ1は、踏段2と、移動手スリ3と、駆動装置4と、インバータ装置5と、エスカレータ制御装置6と、監視装置としての遠隔監視装置7とを備える。踏段2は、乗員が乗る複数の踏板を踏段チェーン8により無端で連結して構成されている。踏段2は、エスカレータ設置場所に設置されたトラス(構造フレーム)9に収納されており、トラス9の上部において回転自在に支持されたスプロケット10と、下部において回転自在に支持されたスプロケット11との間を移動する。移動手スリ3は、踏段2の移動とともに移動するものであり、無端で構成されている。駆動装置4は、踏段2および移動手スリ3を移動させるものであり、トラス9に収納されている。駆動装置4は、駆動輪12に減速機13等を介して電動機14から供給される動力により、踏段チェーン8と共に複数の踏段2がスプロケット10とスプロケット11との間を周回移動するよう構成される。また、この駆動装置4は、後述のエスカレータブレーキ装置30が設けられている。
【0010】
インバータ装置5は、トラス9内に設置され、エスカレータ制御装置6からの制御指令に応じて電動機14の駆動を制御する。インバータ装置5は、電動機14を所定速度で駆動させているときにエスカレータ制御装置6から減速指令信号を受信すると、電動機14を緩やかに減速させ停止させる。
【0011】
エスカレータ制御装置6は、トラス9内に設置され、踏段2、移動手スリ3の移動開始・移動停止、移動速度などを制御することでエスカレータ1を駆動制御するものである。エスカレータ制御装置6は、通常の形式の双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU(中央演算処理装置)、所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory)、CPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、予め用意されたマップデータ、エスカレータ1の仕様等の情報を記憶するバックアップRAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を備えている。エスカレータ制御装置6は、種々のセンサ、検出器や、インバータ装置5、電動機14、後述のエスカレータブレーキ装置30等のエスカレータ1の各部と電気的に接続され、各部の動作を統括的に制御する。このエスカレータ1は、基本的には、上記インバータ装置5及びエスカレータ制御装置6がエスカレータ1の運転を停止させ、より詳細には、エスカレータ1の運転速度を緩やかに低減させてエスカレータ1の運転を緩停止させる。
【0012】
遠隔監視装置7は、例えば、エスカレータ1から離れた遠隔管理センタに配置される。遠隔監視装置7は、エスカレータ1と電気的に接続され、相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行う。遠隔監視装置7は、監視員がエスカレータ制御装置6を通じてエスカレータ1の各部を遠隔監視する。
【0013】
エスカレータブレーキ装置30は、エスカレータ1、より具体的には、踏段2を制動するものであり、エスカレータ制御装置6によりその駆動が制御される。エスカレータブレーキ装置30は、図2に示すように、駆動装置4に設けられ、例えば、エスカレータ1の踏段2が停止している間や緊急停止の際等に作動し、電動機14の駆動軸15の回転を制動することで駆動輪12を制動し、ひいてはエスカレータ1の踏段2を制動する。
【0014】
そして、本実施形態のエスカレータブレーキ装置30は、図3、図4に示すように、複数の制動装置、ここでは、4つの制動装置31a、31b、31c、31dを備えることで、電動機14の駆動軸15に対して適正に制動力(制動トルク)を付与することができるようにしている。なお、以下の説明では、エスカレータブレーキ装置30は、4つの制動装置31a、31b、31c、31dを備えるものとして説明するが、これに限らず、2つ、3つ、あるいは、5つ以上を備えるものであってもよい。
【0015】
具体的には、このエスカレータブレーキ装置30は、電動機14に設けられ、電動機14の駆動軸15の回転を制動することで、乗員が乗る移動部材としての踏段2を制動する。エスカレータブレーキ装置30は、4つの制動装置31a、31b、31c、31dと共に、回転体としてのブレーキディスク33と、複数の検出装置としての複数のブレーキセンサ35a、35b、35c、35dと、制御装置としてのブレーキ制御装置40とを含んで構成される。
【0016】
ここでまず、ブレーキディスク33は、円盤状に形成され、電動機14の駆動軸15に結合され、この駆動軸15と一体回転する。駆動軸15は、電動機14のロータと一体回転する出力回転軸である。
【0017】
各制動装置31a、31b、31c、31dは、それぞれブレーキ制御装置40からの動作指令に応じて、ブレーキディスク33に制動力(制動トルク)を付与するものである。本実施形態の各制動装置31a、31b、31c、31dは、ブレーキディスク33の外縁部に設けられるキャリパ式の制動装置であり、例えば、それぞれ、キャリパに支持された電磁コイル、アーマチュア、ディスクパッド、バネ等を含んで構成される。
【0018】
各制動装置31a、31b、31c、31dは、ブレーキ制御装置40からの動作指令により電磁コイルが非通電状態となることで、アーマチュアに支持されたディスクパッドが釈放され、バネからの押圧力によって、ブレーキディスク33の外縁部を両面側から挟持するように押圧接触する。そして、各制動装置31a、31b、31c、31dは、アーマチュアに作用する押圧力の大きさに応じてブレーキディスク33とディスクパッドとの接触面に生じる摩擦力によって、ブレーキディスク33の回転を制動する制動力を発生させる。これにより、各制動装置31a、31b、31c、31dは、電動機14の駆動軸15の回転を制動し踏段2を制動することができる。
【0019】
一方、各制動装置31a、31b、31c、31dは、ブレーキ制御装置40からの動作指令により電磁コイルが通電状態となることで、アーマチュアが電磁コイルからの吸引力によってブレーキディスク33から離間する側に吸引されて移動し、ブレーキディスク33とディスクパッドとが離間し、押圧接触した状態が解除される。これにより、各制動装置31a、31b、31c、31dは、電動機14の駆動軸15の回転を制動した状態を解放し、踏段2を移動可能な状態とすることができる。
【0020】
本実施形態の制動装置31a、31b、31c、31dは、ブレーキディスク33の外縁部に、このブレーキディスク33の周方向に沿って等間隔で4つ配置される。つまり、制動装置31a、31b、31c、31dは、ブレーキディスク33の中心点に対して点対称な位置関係となるように配置される。
【0021】
これら4つの制動装置31a、31b、31c、31dは、独立してブレーキディスク33の回転を制動可能である。そして、これら4つの制動装置31a、31b、31c、31dは、それぞれが発生させる制動力(制動トルク)がエスカレータ1の踏段2を停止するために必要な必要制動力と比較して相対的に小さくなるように設定されると共に、少なくとも1つが制動力を発生させていない非制動状態(制動解除状態)であっても残りでブレーキディスク33を制動しエスカレータ1の踏段2を停止可能な容量に設定される。
【0022】
典型的には、各制動装置31a、31b、31c、31dは、それぞれ、全体で必要とされる必要制動力を設置個数(ここでは4つ)で等分した制動力以上の大きさの制動力を発生可能な容量に設定される。ここでは、制動装置31a、31b、31c、31dの各容量は、それぞれ、例えば、1つ、ないし、2つの制動装置によってブレーキディスク33を制動し踏段2を停止可能な場合の各容量と比較して、相対的に小さく設定される。この結果、各制動装置31a、31b、31c、31dは、それぞれの外形を相対的に小型化することができ、例えば、大容量の電動機14に適用され、エスカレータブレーキ装置30全体で要求される必要制動力が相対的に大きい場合であっても、十分な制動性能を確保した上で、エスカレータブレーキ装置30全体での大型化を抑制することができる。
【0023】
複数のブレーキセンサ35a、35b、35c、35dは、複数の制動装置、ここでは、4つの制動装置31a、31b、31c、31dの状態をそれぞれ検出可能である。ブレーキセンサ35a、35b、35c、35dは、4つの制動装置31a、31b、31c、31dに対応して4つ設けられる。ブレーキセンサ35aは、制動装置31aの状態を検出し、ブレーキセンサ35bは、制動装置31bの状態を検出し、ブレーキセンサ35cは、制動装置31cの状態を検出し、ブレーキセンサ35dは、制動装置31dの状態を検出する。各ブレーキセンサ35a、35b、35c、35dは、制動装置31a、31b、31c、31dの状態として、例えば、個々の動作状態(制動力を発生させる制動状態、制動力を発生させない非制動状態(制動解除状態)等)や消耗状態(ブレーキギャップ値、ディスクパッドの磨耗状態等)等を種々の手法によって検出する。各ブレーキセンサ35a、35b、35c、35dは、個々の動作状態や消耗状態等の動作状況を表す検出信号をエスカレータ制御装置6に出力する。
【0024】
ブレーキ制御装置40は、エスカレータ1の運行状況等に基づいて、各制動装置31a、31b、31c、31dに動作指令を出力するものである。ブレーキ制御装置40とエスカレータ制御装置6とは、それぞれ別個に構成され、相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行う。なお、このブレーキ制御装置40とエスカレータ制御装置6とは、これに限らず、一体に構成されていてもよい。ブレーキ制御装置40は、エスカレータ制御装置6からエスカレータ1の運行情報(踏段2の積載荷重、昇降速度、加減速度、故障モード、点検モード等)や周辺環境情報(温度、湿度、振動等)を取得し、これら運行情報、周辺環境情報に基づいたエスカレータ1の運行状況に応じて、4つの制動装置31a、31b、31c、31dをそれぞれ個別に、あるいは、複数を同期して制御可能である。ブレーキ制御装置40は、状況に応じて各制動装置31a、31b、31c、31dの制御量(電磁コイルへの供給電圧/電流)を可変制御することで、例えば、各制動装置31a、31b、31c、31dの動作時間、動作個数、制動トルク、動作タイミング等をそれぞれ個別に、あるいは、複数を同期して制御する。
【0025】
上記のように構成されるエスカレータブレーキ装置30は、各制動装置31a、31b、31c、31dがそれぞれブレーキ制御装置40からの動作指令に応じて、ディスクパッドでブレーキディスク33を挟持することで、電動機14の駆動軸15の回転を制動しエスカレータ1の踏段2を制動することができる。したがって、エスカレータブレーキ装置30は、相対的に小型な複数の制動装置31a、31b、31c、31dによって装置全体での大型化を抑制しつつ、適正に電動機14の駆動軸15の回転を制動しエスカレータ1の踏段2を制動することができる。
【0026】
この間、エスカレータブレーキ装置30は、ブレーキ制御装置40がエスカレータ制御装置6からエスカレータ1の現在の運行情報や周辺環境情報をリアルタイムに取得し、これらの運行情報や周辺環境情報に基づいたエスカレータ1の運行状況に応じて、例えば、各走行場面に合わせて定められた減速度を予測演算する。そして、エスカレータブレーキ装置30は、ブレーキ制御装置40が予測演算した減速度に基づいて4つの制動装置31a、31b、31c、31dに対して、それぞれ個別に、あるいは、複数を同期して動作時間、動作個数、制動トルク、動作タイミング等の動作指令を出力する。この結果、エスカレータブレーキ装置30は、例えば、ブレーキ制御装置40が4つの制動装置31a、31b、31c、31dに対して、場合によっては異なる動作を行わせるように制御することで、状況に合わせた制動力(制動トルク)を発生させることができ、制動パターンのバリエーションを多様化することができる。すなわち、エスカレータブレーキ装置30は、複数の制動装置31a、31b、31c、31dを用いてエスカレータ1の様々な走行状態に対応する最適な制動力を発生させることができる。
【0027】
例えば、ブレーキ制御装置40は、踏段2の緊急停止の際に、4つの制動装置31a、31b、31c、31dのうち制動状態とするものの数を段階的に徐々に増やすように制御することで、緊急停止時に踏段2に大きなショックが発生することを確実に防止することができ、さらなる安全性の向上を図ることができる。また、ブレーキ制御装置40は、例えば、大きな制動力が即座に必要なときには、4つの制動装置31a、31b、31c、31dのうちの複数(最大で4つ)を同時に制動状態とすることで、相対的に大きな制動力を瞬時に発生させることができる。
【0028】
また、ブレーキ制御装置40は、例えば、エスカレータ1の運転方向、すなわち、踏段2の進行方向に応じて4つの制動装置31a、31b、31c、31dをそれぞれ個別に、あるいは、複数を同期して制御するようにしてもよい。例えば、ブレーキ制御装置40は、踏段2の緊急停止の際に、踏段2の進行方向がアップ方向である場合には、4つの制動装置31a、31b、31c、31dのうちの複数を同時に制動状態とすることで、相対的に大きな制動力を瞬時に発生させて、踏段2を緊急停止させることができる。一方、ブレーキ制御装置40は、踏段2の緊急停止の際に、踏段2の進行方向がダウン方向である場合には、4つの制動装置31a、31b、31c、31dのうち制動状態とするものの数を段階的に徐々に増やすように制御することで、踏段2に大きなショックが発生することを抑制しながら、踏段2を緊急停止させることができる。この結果、ブレーキ制御装置40は、エスカレータ1を緊急停止させる際に、踏段2の進行方向に応じて乗客が転倒しないような適度な減速度を保ちつつ可能な限り素早く踏段2を停止させることができる。
【0029】
また、ブレーキ制御装置40は、例えば、エスカレータ1の負荷に応じて4つの制動装置31a、31b、31c、31dをそれぞれ個別に、あるいは、複数を同期して制御するようにしてもよい。ここで、エスカレータ1の負荷は、エスカレータ1の乗客数に応じた値となり、更に言えば、電動機14の負荷あるいは消費電力に相当する。エスカレータ1は、乗客数が多くなるほどこのエスカレータ1の負荷が大きくなり、電動機14の負荷(消費電力)が大きくなる。一方、エスカレータ1は、乗客数が少なくなるほどこのエスカレータ1の負荷が小さくなり、電動機14の負荷(消費電力)が小さくなる。
【0030】
例えば、ブレーキ制御装置40は、踏段2の緊急停止の際に、乗客数が比較的に多い場合、すなわち、エスカレータ1の負荷が比較的に大きく、電動機14の負荷(消費電力)が比較的に大きい場合には、4つの制動装置31a、31b、31c、31dのうちの複数を同時に制動状態とすることで、相対的に大きな制動力を瞬時に発生させて、踏段2を緊急停止させることができる。一方、ブレーキ制御装置40は、踏段2の緊急停止の際に、乗客数が比較的に少ない場合、すなわち、エスカレータ1の負荷が比較的に小さく、電動機14の負荷(消費電力)が比較的に小さい場合には、4つの制動装置31a、31b、31c、31dのうち制動状態とするものの数を段階的に徐々に増やすように制御することで、踏段2に大きなショックが発生することを抑制しながら、踏段2を緊急停止させることができる。この結果、ブレーキ制御装置40は、エスカレータ1を緊急停止させる際に、乗客数、エスカレータ1の負荷、あるいは、電動機14の負荷(消費電力)に応じて乗客が転倒しないような適度な減速度を保ちつつ可能な限り素早く踏段2を停止させることができる。またこの場合、ブレーキ制御装置40は、乗客数等に応じて制動時の減速度や制動距離が変わってしまうことを抑制することができる。
【0031】
そして、遠隔監視装置7は、エスカレータ制御装置6を通じてエスカレータ1の各部を遠隔監視する。遠隔監視装置7は、エスカレータ制御装置6から取得する複数のブレーキセンサ35a、35b、35c、35dによる検出結果に基づいて、4つの制動装置31a、31b、31c、31dを監視可能であると共に、この4つの制動装置31a、31b、31c、31dを個別に動作確認可能である。
【0032】
このエスカレータブレーキ装置30は、上述したように、4つの制動装置31a、31b、31c、31dのうちの少なくとも1つが制動力を発生させていない制動解除状態であっても残りでブレーキディスク33を制動しエスカレータ1の踏段2を停止可能な容量に設定されることから、1つを動作させなくても要求される適正な必要制動力を発生させることができる。
【0033】
遠隔監視装置7は、このことを利用して、エスカレータ制御装置6を介して4つの制動装置31a、31b、31c、31dを遠隔操作し動作状態を異ならせることで、例えば、3つを制動状態とする一方で、残りの1つを制動状態と非制動状態(制動解除状態)とを交互に繰り返すように操作すると共にブレーキセンサ35a、35b、35c、35dによる検出結果に基づいて動作を確認する。遠隔監視装置7は、これを4つの制動装置31a、31b、31c、31dに対して順次行うことで、エスカレータ1の運行を止めずに、4つの制動装置31a、31b、31c、31dすべての動作確認を行うことができる。
【0034】
この結果、このエスカレータブレーキ装置30は、遠隔監視装置7によって、エスカレータブレーキ装置30全体で適正に電動機14の駆動軸15の回転を制動しエスカレータ1の踏段2を制動することができる必要制動力を確保した上で、各制動装置31a、31b、31c、31dの状態を常に遠隔点検することができる。したがって、このエスカレータブレーキ装置30は、エスカレータ1の運行効率の低下を抑制しつつ、各制動装置31a、31b、31c、31dの状態を適正に監視することができ、また、保守点検員の負担も軽減することができる。
【0035】
そして、遠隔監視装置7は、制動装置31a、31b、31c、31dの監視結果、及び、動作確認結果に基づいて、エスカレータ1の運行制限を行うことも可能である。遠隔監視装置7は、監視結果、及び、動作確認結果に基づいて、制動装置31a、31b、31c、31dのうちのいずれかに不具合が生じ、予め設定された適正な制動力を発生できないような場合に、エスカレータ1の運行制限を行う。遠隔監視装置7は、例えば、制動装置31a、31b、31c、31dのうちの適正に動作しているもので発生させることができる制動力に見合った運転となるように、踏段2の走行速度や積載荷重を制限したり、場合によってはエスカレータ1の運行を停止したりすることで、エスカレータ1の運行制限を行う。
【0036】
この結果、エスカレータ1は、エスカレータブレーキ装置30の制動装置31a、31b、31c、31dのうちのいずれかが予め設定された適正な制動力を発生できないような場合であっても、それに見合った運転を行うことができ、例えば、機器の予防保全を図ることができ、また、さらなる安全性の向上を図ることができる。
【0037】
以上で説明したエスカレータブレーキ装置30は、エスカレータ1を駆動させる電動機14の駆動軸15と一体回転するブレーキディスク33と、ブレーキディスク33の回転を制動可能である独立した複数の制動装置、ここでは、4つの制動装置31a、31b、31c、31dとを備え、4つの制動装置31a、31b、31c、31dは、それぞれが発生させる制動力がエスカレータ1を停止するために必要な必要制動力と比較して相対的に小さくなるように設定されると共に、少なくとも1つが制動解除状態であっても残りでブレーキディスク33を制動しエスカレータ1を停止可能な容量に設定される。したがって、エスカレータブレーキ装置30は、相対的に小型な複数の制動装置31a、31b、31c、31dによって十分な制動性能を確保した上で装置全体での大型化を抑制することができ、例えば、設置スペースの自由度を確保しつつ、適正に電動機14の駆動軸15の回転を制動しエスカレータ1の踏段2を制動することができる。エスカレータブレーキ装置30は、例えば、小型化、状況に応じた最適動作、遠隔監視が可能となり、設置の自由度、利用者における安全性、利便性を向上することができる。
【0038】
なお、上述した実施形態に係る乗客コンベア制動装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0039】
以上の説明では、乗客コンベアとしてエスカレータ1を例示して説明したが、本実施形態は、エスカレータ1に限らず、動く歩道など他のタイプの乗客コンベアにも同様に適用することができる。
【0040】
以上で説明した実施形態、変形例に係る乗客コンベア制動装置によれば、電動機の駆動軸の回転を制動し乗客コンベアを制動することができる。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0042】
1 エスカレータ(乗客コンベア)
2 踏段
3 移動手スリ
4 駆動装置
5 インバータ装置
6 エスカレータ制御装置
7 遠隔監視装置(監視装置)
8 踏段チェーン
9 トラス
10、11 スプロケット
12 駆動輪
13 減速機
14 電動機
15 駆動軸
30 エスカレータブレーキ装置(乗客コンベア制動装置)
31a、31b、31c、31d 制動装置
33 ブレーキディスク(回転体)
35a、35b、35c、35d ブレーキセンサ(検出装置)
40 ブレーキ制御装置(制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアを駆動させる電動機の駆動軸と一体回転する回転体と、
前記回転体の回転を制動可能である独立した複数の制動装置とを備え、
前記複数の制動装置は、それぞれが発生させる制動力が前記乗客コンベアを停止するために必要な必要制動力と比較して相対的に小さくなるように設定されると共に、少なくとも1つが制動解除状態であっても残りで前記回転体を制動し前記乗客コンベアを停止可能な容量に設定されることを特徴とする、
乗客コンベア制動装置。
【請求項2】
前記乗客コンベアの運行状況に応じて、前記複数の制動装置をそれぞれ個別に、あるいは、複数を同期して制御可能な制御装置を備える、
請求項1に記載の乗客コンベア制動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記乗客コンベアの運転方向、又は、前記乗客コンベアの負荷に応じて前記複数の制動装置をそれぞれ個別に、あるいは、複数を同期して制御可能である、
請求項2に記載の乗客コンベア制動装置。
【請求項4】
前記複数の制動装置の状態をそれぞれ検出可能な複数の検出装置を備え、
前記乗客コンベアの監視装置によって、前記複数の検出装置による検出結果に基づいて、前記複数の制動装置を監視可能であると共に、当該複数の制動装置を個別に動作確認可能である、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の乗客コンベア制動装置。
【請求項5】
前記監視装置は、前記制動装置の監視結果、及び、動作確認結果に基づいて、前記乗客コンベアの運行制限を行う、
請求項4に記載の乗客コンベア制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49539(P2013−49539A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189184(P2011−189184)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】