説明

乗客コンベア用の消音システムおよび乗客コンベア用の消音方法

【課題】騒音源が複数存在する場合にも、より快適なアナウンスを実現する。
【解決手段】定常騒音特性、間欠騒音特性、非定常騒音特性に関し、それぞれの特性を個別の騒音パラメータに関連付けて記憶する記憶部(14)と、定常騒音特性、間欠騒音特性、および非定常騒音特性のそれぞれを、個別の騒音パラメータごとにマイクロホン(40)を介して取得し、記憶部にあらかじめ記憶させておくとともに、乗客コンベアの実運転中に取得した騒音パラメータに応じて記憶部から取り出した定常騒音特性、間欠騒音特性、非定常騒音特性のそれぞれを合成することで特定騒音を算出し、算出した特定騒音を消音するための逆位相信号を消音信号として生成し、メッセージ放送の出力と同時に消音信号を出力する制御部(10)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータおよび動く歩道等において、より快適なアナウンスを行うための乗客コンベア用の消音システムおよび乗客コンベア用の消音方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベアの放送案内に対するシステムとしては、あらかじめ設定しておいた環境騒音の固定音量と、マイクロホンで検出した周囲騒音の音量とを比較し、周囲騒音の音量が固定音量よりも大きい場合には、乗客コンベアの放送案内の音量を大きくする制御を行うものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の別のシステムとしては、センサーマイクアレイを用いて騒音源に関する音響的特性を収集し、収集した音響的特性に対して逆位相信号を創生し記憶し、同一の騒音源が到来する度に、逆位相信号を再生させる消音システムがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−240802号公報
【特許文献2】特許第3370115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の乗客コンベアの放送装置には、以下のような課題が挙げられる。
・慢性的に騒音が大きい環境では、音量調整ができないといった課題。
・大きな騒音に対して大きな音量の放送を流すことで、利用者に不快感、ストレスを与えるといった課題。
・周囲騒音と放送音が混ざり、放送内容に意識が向かないといった課題
【0006】
また、従来の開かれた自由空間での消音システムは、同一の特定の騒音源に対するものであり、不特定な騒音源に対しては対応できないといった課題がある。また、移動体(電車等)からの騒音を想定している環境下においては、移動体から発生する騒音と、その他に発生した騒音と、騒音源が複数存在する場合に、総合的な騒音への対応ができないといった課題がある。
【0007】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、騒音源が複数存在する場合にも、より快適なアナウンスを実現する乗客コンベア用の消音システムおよび乗客コンベア用の消音方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る乗客コンベア用の消音システムは、乗客コンベアの乗客にとってメッセージ放送の聞き取りを妨害する特定騒音の影響を抑制するための乗客コンベア用の消音システムであって、乗客コンベアを駆動することにより定常的に発生する定常騒音特性、乗客コンベアの設置環境に応じて間欠的に発生する間欠騒音特性、および乗客コンベアの設置環境に応じて非定常的に発生する非定常騒音特性に関し、それぞれの特性を個別の騒音パラメータに関連付けて記憶する記憶部と、定常騒音特性、間欠騒音特性、および非定常騒音特性のそれぞれを、個別の騒音パラメータごとにマイクロホンを介して取得し、記憶部にあらかじめ記憶させておくとともに、乗客コンベアの実運転中に取得した騒音パラメータに応じて記憶部から取り出した定常騒音特性、間欠騒音特性、非定常騒音特性のそれぞれを合成することで特定騒音を算出し、算出した特定騒音を消音するための逆位相信号を消音信号として生成し、メッセージ放送の出力と同時に消音信号を出力する制御部とを備えるものである。
【0009】
また、本発明に係る乗客コンベア用の消音方法は、乗客コンベアの乗客にとってメッセージ放送の聞き取りを妨害する特定騒音の影響を抑制するための乗客コンベア用の消音方法であって、乗客コンベアを駆動することにより定常的に発生する定常騒音特性、乗客コンベアの設置環境に応じて間欠的に発生する間欠騒音特性、および乗客コンベアの設置環境に応じて非定常的に発生する非定常騒音特性に関し、それぞれの特性を個別の騒音パラメータに関連付けてマイクロホンを介して取得し、あらかじめ記憶部に記憶させておくステップと、乗客コンベアの実運転中に取得した騒音パラメータに応じて記憶部から取り出した定常騒音特性、間欠騒音特性、非定常騒音特性のそれぞれを合成することで特定騒音を算出するステップと、算出した特定騒音を消音するための逆位相信号を消音信号として生成するステップと、メッセージ放送の出力と同時に消音信号を出力するステップとを備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る乗客コンベア用の消音システムおよび乗客コンベア用の消音方法によれば、騒音パラメータに応じて複数の騒音特性をあらかじめ記憶しておき、乗客コンベアの実運転中に測定した騒音パラメータに応じて複数の騒音特性を合成して特定騒音を算出し、特定騒音を打ち消す消音信号をメッセージ放送と同時に出力することにより、騒音源が複数存在する場合にも、より快適なアナウンスを実現する乗客コンベア用の消音システムおよび乗客コンベア用の消音方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1における乗客コンベア用の消音システムを示す全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1において、定常騒音を検出するための制御部の内部構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1における定常的な騒音の情報管理例をまとめた図である。
【図4】本発明の実施の形態1において、間欠騒音を検出するための制御部の内部構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態1における間欠的な騒音の情報管理例をまとめた図である。
【図6】本発明の実施の形態1において、非定常騒音を検出するための制御部の内部構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態1における非定常的な騒音の情報管理例をまとめた図である。
【図8】本発明の実施の形態1において、定常騒音、間欠騒音、非定常騒音に基づいて消音処理を行う乗客コンベア用の消音システムの全体を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の乗客コンベア用の消音システムおよび乗客コンベア用の消音方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における乗客コンベア用の消音システムを示す全体構成図である。本実施の形態1における乗客コンベア用の消音システムは、制御部10、放送部20、消音部30、マイクロホン40、放送スピーカー50、および消音スピーカー60を備えて構成されている。
【0014】
次に、各構成要素の機能について説明する。制御部10は、後述する放送部20および消音部30の統括制御を行う手段である。また、放送部20は、乗客コンベア上の乗客に対して、案内放送や注意放送などのメッセージ放送を行う手段であり、放送スピーカー50を介して放送音信号を出力する。
【0015】
また、消音部30は、マイクロホン40を介してあらかじめ検出しておいた周囲の騒音など、乗客コンベアの乗客にとって聞き取る必要のない不必要な音に相当する特定騒音を消音するために、特定騒音と逆位相の信号を発生する手段であり、消音スピーカー60を介して逆位相信号を出力する。
【0016】
図2は、本発明の実施の形態1において、定常騒音を検出するための制御部10の内部構成を示すブロック図である。具体的には、乗客コンベアの利用者にとって定常騒音(定常的に発生している騒音)である乗客コンベア自身の騒音(ステップ音、モータ音、インバータノイズ等)を検出するための制御部10の内部構成を示している。本実施の形態1における制御部10は、演算部11、速度指令出力部12、A/D変換器13、および騒音情報記憶部14により、定常騒音を検出している。
【0017】
乗客コンベアの運転速度は、数パターンの規則性をもっている。そこで、演算部11は、乗客コンベア自身から発生する騒音に関する情報として、速度指令出力部12からモータ100へ与える速度指令値を入力するとともに、マイクロホン40を介して検出した音をA/D変換器13でデジタルデータ化して入力する。さらに、演算部11は、このようにして収集した乗客コンベア自身から発生する騒音に関する情報を、速度指令値に応じた定常騒音として騒音情報記憶部14へ記憶させておくことで、必要に応じて読み出すことができる。
【0018】
このような定常騒音は、乗客コンベアの種類、設置環境、設置年数によっても異なる。このため、制御部10内の演算部11は、次のような手順で乗客コンベア自身から発生する騒音に関する情報を更新することが考えられる。まず、演算部11は、定期的に(あるいは必要に応じて)、乗客コンベアが停止時においてマイクロホン40を介して収集した周囲環境の騒音が、無音状態時に近い騒音レベルであるか否かを判断する。
【0019】
次に、演算部11は、無音状態時に近い騒音レベルであると判断した場合には、乗客コンベアを規則性のある運転速度で運転させ、そのときの騒音を現状の定常的な騒音として、マイクロホン40を介して検出する。
【0020】
図3は、本発明の実施の形態1における定常的な騒音の情報管理例をまとめた図である。演算部11は、周囲環境の騒音が無音状態時に近い騒音レベルであった場合には、図3に示すような情報を、速度指令出力部12からの異なる速度指令値毎に収集し、騒音情報記憶部14に記憶させることができる。
【0021】
図3では、4種類の速度指令値に対して乗客コンベアを運転した場合の騒音特性S1〜S4を取得した場合を例示している。また、乗客コンベア停止時の騒音特性も、乗客コンベアを運転した場合の騒音特性S1〜S4をそれぞれ取得した日時とともに、4種類の速度指令値ごとの騒音特性T1〜T4として取得した場合を例示している。しかしながら、この乗客コンベア停止時の騒音特性T1〜T4に関しては、必ずしも記憶しておく必要はない。
【0022】
図3における4種類の速度指令値は、定常騒音を特定するための定常騒音パラメータとなる。そして、後述するように、演算部11は、乗客コンベアの実運転中における速度指令値を定常騒音パラメータとして読み取ることで、定常騒音特性S1〜S4を特定することができる。
【0023】
次に、図4は、本発明の実施の形態1において、間欠騒音を検出するための制御部10の内部構成を示すブロック図である。具体的には、乗客コンベアの利用者にとって間欠騒音(定常的に発生してはいないが、間欠的に発生する騒音)である設置環境の騒音(例えば駅の場合、電車の騒音)を検出するための制御部10の内部構成を示している。本実施の形態1における制御部10は、演算部11、A/D変換器13、騒音情報記憶部14、および電車発着通過情報記憶部15により、間欠騒音を検出している。
【0024】
制御部10内の電車発着通過情報記憶部15には、電車情報入力手段41より取得した電車の発着・通過情報があらかじめ記憶されている。ただし、現実的には、電車の発着・通過時刻は、誤差がある。このため、演算部11は、電車感知センサ42からの信号に基づいて、電車の検出および電車の速度を算出し、通過電車か発着電車かを判断する。
【0025】
さらに、演算部11は、電車発着通過情報記憶部15に記憶された電車の発着・通過情報と、電車感知センサ42からの信号に基づく判断結果との整合性が確認できた場合には、マイクロホン40で検出した音をA/D変換器13でデジタルデータ化した音声情報として取り込む。そして、演算部11は、このようにして取り込んだ音声情報を、間欠騒音として騒音情報記憶部14へ記憶させておくことで、必要に応じて読み出すことができる。
【0026】
この情報は、乗客コンベア自身の騒音(ステップ音、モータ音、インバータノイズ等)の影響を受ける。このため、制御部10内の演算部11は、乗客コンベアの状態に応じた間欠騒音データとして、騒音情報記憶部14へ記憶させておくことが考えられる。
【0027】
図5は、本発明の実施の形態1における間欠的な騒音の情報管理例をまとめた図である。図5に示すように、演算部11は、電車速度、乗客コンベアの状態に応じた電車種類ごとに、電車通過時の騒音特性U1、U2、および電車発着時の騒音特性V1、V2として、間欠騒音のデータをあらかじめ騒音情報記憶部14へ記憶させておくことができる。
【0028】
なお、電車の発着・通過時刻は、時刻表の更新等で定期的に更新される。このような時刻表の更新に対応するために、演算部11は、電車情報入力手段41を介して取得した最新のデータにより、電車発着通過情報記憶部15内の電車発着通過情報を更新することができる。
【0029】
図5における電車速度、および乗客コンベアの状態は、間欠騒音を特定するための間欠騒音パラメータとなる。そして、後述するように、演算部11は、乗客コンベアの実運転中における電車速度、および乗客コンベアの状態を間欠騒音パラメータとして読み取ることで、間欠騒音特性U1、U2、V1、V2を特定することができる。
【0030】
次に、図6は、本発明の実施の形態1において、非定常騒音を検出するための制御部10の内部構成を示すブロック図である。具体的には、乗客コンベアの利用者にとって非定常騒音(定常騒音でも間欠騒音でもなく、非定常的に発生する騒音)である人ごみの騒音や雨の騒音を検出するための制御部10の内部構成を示している。本実施の形態1における制御部10は、演算部11、A/D変換器13、騒音情報記憶部14、および時刻情報発生部16により、非定常騒音を検出している。
【0031】
例えば、乗客コンベアが駅に設置されているような環境の場合には、朝晩の通勤時間帯と昼間の時間帯では、人ごみの騒音が大きく異なる。そこで、制御部10内の演算部11は、時刻情報発生部16からの時刻情報に基づいて、特定の時間間隔毎にマイクロホン40を介して検出した音をA/D変換器13でデジタルデータ化した音声情報として取り込む。そして、演算部11は、このようにして取り込んだ音声情報を、時間帯毎の非定常騒音として騒音情報記憶部14へ記憶させておくことで、必要に応じて読み出すことができる。
【0032】
また、時刻情報発生部16は、カレンダー機能を有しており、演算部11は、時刻情報発生部16からの時刻情報に関し、平日と、土日祝日や年末年始等の特定日の区別をすることができる。
【0033】
また、演算部11は、乗客コンベア乗込み率情報入力手段43から、モータ100の電流値に基づく乗客コンベアの乗込み率情報を取得でき、この乗込み率情報と関連付けて非定常騒音に関する情報を区別することができる。
【0034】
さらに、演算部11は、設置環境の天候により騒音への影響がある場合には、天候情報入力手段44から天候情報を取得することで、天候と関連付けて非定常騒音に関する情報を区別することもできる。
【0035】
図7は、本発明の実施の形態1における非定常的な騒音の情報管理例をまとめた図である。図7に示すように、演算部11は、騒音取得時刻、曜日、天候、乗客コンベア乗込み率、乗客コンベアの状態に応じて、騒音特性W1〜W8として、非定常騒音のデータをあらかじめ騒音情報記憶部14へ記憶させておくことができる。
【0036】
図7における騒音取得時刻、曜日、天候、乗客コンベア乗込み率、乗客コンベアの状態は、非定常騒音を特定するための非定常騒音パラメータとなる。そして、後述するように、演算部11は、乗客コンベアの実運転中における時刻、曜日、天候、乗客コンベア乗込み率、乗客コンベアの状態を非定常騒音パラメータとして読み取ることで、非定常騒音特性W1〜W8を特定することができる。
【0037】
図8は、本発明の実施の形態1において、定常騒音、間欠騒音、非定常騒音に基づいて消音処理を行う乗客コンベア用の消音システムの全体を示すブロック図である。本実施の形態1では、上述したように、定常騒音、間欠騒音、非定常騒音のそれぞれを、以下のように定義している。
定常騒音:定常的に発生している騒音であり、乗客コンベア自身から発生する騒音(ステップ音、モータ音、インバータノイズ等)などに相当
間欠騒音:定常的に発生してはいないが、設置環境に応じて間欠的に発生する騒音であり、電車の騒音等の周囲環境の音に相当
非定常騒音:定常騒音でも間欠騒音でもなく、設置環境に応じて非定常的に発生する騒音であり、時間帯等による人ごみ等の外乱要素による騒音に相当
【0038】
そして、定常騒音情報は、先の図2、図3を用いて説明した手順および内容で、騒音情報記憶部14にあらかじめ記憶されており、演算部11は、乗客コンベアの実運転中に、定常騒音パラメータの測定結果に基づいて、定常騒音特性を特定することができる。
【0039】
また、間欠騒音情報は、先の図4、図5を用いて説明した手順および内容で、騒音情報記憶部14にあらかじめ記憶されており、演算部11は、乗客コンベアの実運転中に、間欠騒音パラメータの測定結果に基づいて、間欠騒音特性を特定することができる。
【0040】
さらに、非定常騒音情報は、先の図6、図7を用いて説明した手順および内容で、騒音情報記憶部14にあらかじめ記憶されており、演算部11は、乗客コンベアの実運転中に、非定常騒音パラメータの測定結果に基づいて、非定常騒音特性を特定することができる。
【0041】
そこで、演算部11は、騒音情報記憶部14にあらかじめ記憶されている各種特性の中から、各種の騒音パラメータに応じた定常騒音特性、間欠騒音特性、および非定常騒音特性を特定して合成する。このようにして、演算部11は、乗客コンベアに対し不必要な音である特定騒音を連続的に算出することができる。
【0042】
そして、消音部30は、演算部11により連続的に算出された特定騒音に対して逆位相となる消音信号を創生し、消音スピーカー60を介して消音信号を出力する。このようにして、消音信号を繰り返し創生して出力することにより、現状の各種の騒音パラメータに即して、不必要な騒音を効果的に消音することができる。
【0043】
なお、定常騒音特性、間欠騒音特性、非定常騒音特性の検出は、案内放送や注意放送や乗客コンベア自身から発生する必要な警告音等が出力されていない状態で行われる。従って、これらの情報に基づいて創生された消音信号は、放送部20から放送スピーカー50を介して出力される案内放送や注意放送、あるいは乗客コンベア自身から発生する必要な警告音に対しては、消音することがなく、先に定義した各種の騒音のみを消音することができる。
【0044】
また、演算部11は、案内放送や注意放送や乗客コンベア自身から発生する必要な警告音等が出力されている状態の音声データを、必要音声情報データとしてあらかじめ算出しておくこともできる。この場合には、案内放送や注意放送や乗客コンベア自身から発生する必要な警告音等が出力されている状態で収集したそれぞれの騒音特性から必要音声情報データを差し引くことによって、上述で定義した所望の騒音データを得ることが可能となり、定義された騒音のみを消音することができる。
【0045】
また、演算部11は、消音信号を消音スピーカー60を介して出力している際に、マイクロホン40を介して検出した音をA/D変換器13でデジタルデータ化して取得することで、消音効果を検出することができる。従って、本実施の形態1における消音システムは、実際に流れている音声データの消音効果に基づいて、放送スピーカーからの出力音量を上げる、あるいは他の異常の早期発見を行うことができ、以下に具体的に説明する。
【0046】
演算部11は、取得した実際の音声データと、放送スピーカー50を介して出力している案内放送や注意放送や警告音に関する音声データ(メッセージ放送)とを比較することで、予測不能な不規則な非定常騒音が大きく、消音効果が得られないような状態が発生しているか否かを判断することができる。一例として、演算部11は、取得した実際の音声データと、出力したメッセージ放送のデータとの一致度が所定値以下の場合には、消音効果が得られないような状態が発生したと判断することができる。
【0047】
そして、演算部11は、所定の消音効果が得られていないと判断した場合には、放送部20および放送スピーカー50を介して出力する案内放送や注意放送や警告音の音量を大きくすることができる。
【0048】
また、演算部11は、所定の消音効果が得られていないと判断し、かつ、乗客コンベア乗込み率情報入力手段43を介して取得した乗客コンベア乗込み率情報がある所定の閾値を超えた場合には、放送部20からの案内放送や注意放送や警告音の音量を大きくすることができる。
【0049】
また、演算部11は、所定の消音効果が得られていないと判断し、かつ、天候情報入力手段44を介して取得した天候情報により、雨が降り出してきたと判断した場合には、放送部20からの案内放送や注意放送や警告音の音量を大きくすることができる。
【0050】
なお、演算部11は、上述した種々のケースにおいて音量を所定量だけ大きくした後に、再度、消音効果を検出することもできる。
【0051】
また、間欠騒音に関して、例えば、駅の場合を考えると、演算部11は、電車発着通過情報記憶部15内の電車の発着・通過情報と、電車感知センサ42を介して取得した情報との整合性を確認し、整合性が確認できない場合には、消音信号が騒音になる可能性があるため、消音信号を出力しないことができる。
【0052】
さらに、本実施の形態1における消音システムは、速度指令値毎の乗客コンベア自身の騒音を、定期的に検出して更新し、記憶している。このため、更新処理時に取得したデータの騒音レベルが許容レベルを超えて著しく上昇していた場合には、演算部11は、乗客コンベアの機器の異常を早期に予知、また、点検前に異常を判断することも可能となる。
【0053】
以上のように、実施の形態1によれば、各種の騒音パラメータに応じて、定常騒音特性、間欠騒音特性、非定常騒音特性をあらかじめ記憶しておくことができる。そして、乗客コンベアの実運転中の騒音パラメータの測定結果に応じて、各種の騒音特性を合成した特定騒音を求めることができる。この結果、特定騒音に対して逆位相となる消音信号を、メッセージ放送と同時に出力することで、騒音源が複数存在する場合にも、より快適なアナウンスを実現する乗客コンベア用の消音システムおよび乗客コンベア用の消音方法を得ることができる。
【0054】
さらに、メッセージ放送と同時に消音信号を出力している際の実際の音声データを解析することで、消音効果を検出することができる。そして、所定の消音効果が得られず、メッセージ放送が聞き取りにくい場合には、メッセージ包装の音量を上げることで、聞き取り易いアナウンスを実現する乗客コンベア用の消音システムおよび乗客コンベア用の消音方法を得ることができる。
【符号の説明】
【0055】
10 制御部、11 演算部、12 速度指令出力部、13 A/D変換器、14 騒音情報記憶部、15 電車発着通過情報記憶部、16 時刻情報発生部、20 放送部、30 消音部、40 マイクロホン、41 電車情報入力手段、42 電車感知センサ、43 乗客コンベア乗込み率情報入力手段、44 天候情報入力手段、50 放送スピーカー、60 消音スピーカー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの乗客にとってメッセージ放送の聞き取りを妨害する特定騒音の影響を抑制するための乗客コンベア用の消音システムであって、
前記乗客コンベアを駆動することにより定常的に発生する定常騒音特性、前記乗客コンベアの設置環境に応じて間欠的に発生する間欠騒音特性、および前記乗客コンベアの設置環境に応じて非定常的に発生する非定常騒音特性に関し、それぞれの特性を個別の騒音パラメータに関連付けて記憶する記憶部と、
前記定常騒音特性、前記間欠騒音特性、および前記非定常騒音特性のそれぞれを、前記個別の騒音パラメータごとにマイクロホンを介して取得し、前記記憶部にあらかじめ記憶させておくとともに、前記乗客コンベアの実運転中に取得した騒音パラメータに応じて前記記憶部から取り出した定常騒音特性、間欠騒音特性、非定常騒音特性のそれぞれを合成することで前記特定騒音を算出し、算出した前記特定騒音を消音するための逆位相信号を消音信号として生成し、前記メッセージ放送の出力と同時に前記消音信号を出力する制御部と
を備えることを特徴とする乗客コンベア用の消音システム。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベア用の消音システムにおいて、
前記制御部は、前記メッセージ放送の出力と同時に前記消音信号を出力した結果である音声データを、前記マイクロホンを介して取得し、前記音声データと前記メッセージ放送との一致度が所定値以下の場合には、前記特定騒音の影響が抑制できていないと判断し、前記メッセージ放送の音量を所定量増加させる
ことを特徴とする乗客コンベア用の消音システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の乗客コンベア用の消音システムにおいて、
前記制御部は、前記乗客コンベアを駆動するための速度指令値を定常騒音特性用の騒音パラメータとして、前記騒音パラメータごとに前記マイクロホンを介して取得した音声データを前記定常騒音特性として前記記憶部にあらかじめ記憶させ、前記乗客コンベアの実運転中における前記速度指令値に応じた定常騒音特性を前記記憶部から取り出す
ことを特徴とする乗客コンベア用の消音システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の乗客コンベア用の消音システムにおいて、
前記制御部は、前記乗客コンベアが駅に設置され、電車の通過、発着によって間欠的に騒音が発生する場合に、前記電車の速度を間欠騒音特性用の騒音パラメータとして、前記騒音パラメータごとに前記マイクロホンを介して取得した音声データを前記間欠騒音特性として前記記憶部にあらかじめ記憶させ、前記乗客コンベアの実運転中における前記電車の速度に応じた間欠騒音特性を前記記憶部から取り出す
ことを特徴とする乗客コンベア用の消音システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の乗客コンベア用の消音システムにおいて、
前記制御部は、前記乗客コンベアが設置された環境における日時、天候、前記乗客コンベアの乗込み率によって非定常的に騒音が発生する場合に、前記日時、前記天候、前記乗客コンベアの乗込み率を非定常騒音特性用の騒音パラメータとして、前記騒音パラメータごとに前記マイクロホンを介して取得した音声データを前記非定常騒音特性として前記記憶部にあらかじめ記憶させ、前記乗客コンベアの実運転中における前記日時、前記天候、前記乗客コンベアの乗込み率に応じた非定常騒音特性を前記記憶部から取り出す
ことを特徴とする乗客コンベア用の消音システム。
【請求項6】
乗客コンベアの乗客にとってメッセージ放送の聞き取りを妨害する特定騒音の影響を抑制するための乗客コンベア用の消音方法であって、
前記乗客コンベアを駆動することにより定常的に発生する定常騒音特性、前記乗客コンベアの設置環境に応じて間欠的に発生する間欠騒音特性、および前記乗客コンベアの設置環境に応じて非定常的に発生する非定常騒音特性に関し、それぞれの特性を個別の騒音パラメータに関連付けてマイクロホンを介して取得し、あらかじめ記憶部に記憶させておくステップと、
前記乗客コンベアの実運転中に取得した騒音パラメータに応じて前記記憶部から取り出した定常騒音特性、間欠騒音特性、非定常騒音特性のそれぞれを合成することで前記特定騒音を算出するステップと、
算出した前記特定騒音を消音するための逆位相信号を消音信号として生成するステップと、
前記メッセージ放送の出力と同時に前記消音信号を出力するステップと
を備えることを特徴とする乗客コンベア用の消音方法。
【請求項7】
請求項6に記載の乗客コンベア用の消音方法において、
前記メッセージ放送の出力と同時に前記消音信号を出力した結果である音声データを、前記マイクロホンを介して取得し、前記音声データと前記メッセージ放送との一致度が所定値以下の場合には、前記特定騒音の影響が抑制できていないと判断し、前記メッセージ放送の音量を所定量増加させるステップ
をさらに備えることを特徴とする乗客コンベア用の消音方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−1483(P2013−1483A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132369(P2011−132369)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】