説明

乗客コンベア

【課題】クリート体の溝部毎のスポット溶接を要することなく、製作精度を維持し、強固な踏段とすることのできる乗客コンベアの提供。
【解決手段】鋼板を波形状に折り曲げて奥行方向に沿って平行に複数のクリートを形成したクリート体1aと、このクリート体1aを支えるクリート補強体1bとをスポット溶接sで一体化するとともに、クリート体1aの進行方向の端部1acを下方に押し曲げ、かつクリート補強体1bに巻き付けるようにプレス固定している。スポット溶接固定とプレス固定を組み合わせてクリート体1aとクリート補強体1bとを接合することにより、スポット溶接sをクリート体1aの溝部1g毎に行わなくとも、プレス固定部分で必要な強度を補完し、これにより製作精度を維持するとともに、強固な踏段とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する踏段間に段差が生じるエスカレーター、隣接する踏段間に段差を生じない電動道路を含む乗客コンベアに係り、特に、波形の金属製クリート体を有する踏段を備えた乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
図5は従来の乗客コンベアを示す上部付近側面図、図6は従来の踏段の斜視図、図7は従来のクリート体とクリート補強体の構成を示す要部断面図である。
【0003】
一般に、乗客コンベアは図5に示すように、乗降床間を無端状に連結されて循環移動する踏段1と、この踏段1と同期的して回動するハンドレール2と、踏段1の側方に立設される欄干3と、側面を覆う外装板4とを有して構成され、これらを枠体5が支持する構造になっている。
【0004】
また、乗客コンベアの踏板1は図6に示すように、鋼板を波形状に折り曲げて奥行方向に沿って平行に複数のクリートを形成したクリート体10aと、このクリート体10aを支える後述するクリート補強体と、クリート体10a及びクリート補強体を支えるフレーム部1cと、一端がクリート体10aの後部と連結し下方に延設されて間隙を塞ぐライザー部1dと、その前後に配設されて転動するローラ1e、1fと、クリート体1aの周囲に配設される注意体1aa、1abとを備えている。
【0005】
さらに、クリート体10aは図7に示すように、溝部1gと頂部1hとを有する複数の波山状のクリートを形成しており、クリート体10aの裏面には、中央に凹部が形成された略ひの字断面を逆にした形状の3本のクリート補強体10bが配設され、スポット溶接sでクリート体10aとクリート補強体10bが一体化されている。
【0006】
そして、従来、スポット溶接sを同一直線上で施すとクリート補強体10bに歪みが発生して精度を維持できないという問題点、及びこれを防ぐ為に接合箇所を断続的にした場合には接合していない部分が異物等と接触したときに変形しやすくなるという問題点のそれぞれを改善する為に、クリート体10aの溝毎にスポット溶接sをするとともに、隣接する溶接箇所を、交互にずらして千鳥状になるように構成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−246575号公報(段落番号〜、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した従来の踏段構造は、製作精度の維持、強度を高めるという点では優れているが、比較的多数あるクリート体の溝部毎にスポット溶接を行うことから、製作効率及び省エネルギー化の観点で問題があった。例えば一般の踏段幅1000mmの場合、3列同時にスポット溶接を行った場合でも1つの踏段を作るのに100回以上の溶接が必要となり、製作時間が多く掛かる。また、消費電力も多くなり、製作コストに影響を及ぼすとともに環境にもやさしいとは言えない。
【0009】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、クリート体の溝部毎のスポット溶接を要することなく、製作精度を維持し、強固な踏段とすることのできる乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、建築構造物に設置された枠体と、これら枠体の長手方向両端部に設けた乗降床と、これら乗降床間を無端状に連結されて循環移動する踏段とを備えた乗客コンベアにおいて、前記踏板は、鋼板を波形状に折り曲げて奥行方向に沿って平行に複数のクリートを形成したクリート体と、このクリート体を支えるクリート補強体と、前記クリート体及び前記クリート補強体を支えるフレーム部と、一端が前記クリート体の後部と連結し下方に延設されて間隙を塞ぐライザー部とを備え、前記クリート体と前記クリート補強体とをスポット溶接で一体化するとともに、前記クリート体の進行方向の端部を下方に押し曲げ、かつ前記クリート補強体に巻き付けるようにプレス固定したことを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明は、スポット溶接固定とプレス固定を組み合わせて前記クリート体と前記クリート補強体とを接合することにより、スポット溶接を前記クリート体の溝部毎に行わなくとも、プレス固定部分で必要な強度が補完されることから前記クリート体に歪みを生じることなく、したがって、製作精度を維持できるとともに、強固な踏段とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、スポット溶接固定とプレス固定を組み合わせてクリート体とクリート補強体とを接合することにより、製作精度を維持できるとともに強固な踏段とし、したがって、高品質な乗客コンベアとすることができる。また、クリート体の溝部毎のスポット溶接を要することがないことから、省エネルギー化を図り、ひいては、製作コストの低減及び環境への配慮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る乗客コンベアの実施の形態を図に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明の乗客コンベアの一実施形態を示す斜視図、図2はクリート体のプレス固定部を示す斜視図、図3は図1のA−A線に沿う踏段の要部断面図、図4はクリート体とクリート補強体の構成を示す図3のB−B線に沿う断面図である。なお、前述した図5、図6に示すものと同等のものには同一符号が付してある。すなわち、1は踏段、1cはフレーム部、1dはライザー部、1e、1fはローラ、1aa、1abは注意体、1gは溝部、1hは頂部、sはスポット溶接である。
【0015】
本実施形態の乗客コンベアの踏段1は図1に示すように、鋼板を波形状に折り曲げて奥行方向に沿って平行に複数のクリートを形成したクリート体1aと、このクリート体1aを支える後述するクリート補強体とを備えている。そして、図2に示すように、クリート体1aとクリート補強体1bとをスポット溶接sで一体化するとともに、クリート体1aの進行方向の端部1acを下方に押し曲げ、かつクリート補強体1bに巻き付けるようにプレス固定している。
【0016】
また、クリート体1aとクリート補強体1bとのスポット溶接sは図3に示すように、クリート体1aの溝部1gに所定間隔Tを置いて施されている。
【0017】
さらに、クリート補強体1bは図4に示すように、中央に凹部が形成された略ひの字断面を有しており、クリート体1aと断続的にスポット溶接sされるとともに、クリート体1aの端部1acが巻き付けられてプレス固定されている。この端部1acのクリート補強体1bへのプレス固定は、クリート体1aの溝部1gの幅寸法をクリート補強体1bの端部を越えるものとし、この部分をプレス機械で下方にプレスし、その後横方向にプレスすることで、複数箇所を同時に成型して行われるものである。なお、このクリート補強体1bは、前述した従来のクリート補強体10bの向きを変えただけのものである。
【0018】
本実施形態によれば、スポット溶接固定とプレス固定を組み合わせてクリート体1aとクリート補強体1bとを接合することにより、製作精度を維持できるとともに強固な踏段1とし、したがって、高品質な乗客コンベアとすることができる。また、クリート体1aの溝部1g毎のスポット溶接sを要することがないことから、省エネルギー化を図り、ひいては、製作コストの低減及び環境への配慮を図ることができる。さらに、本実施形態のクリート補強体1bは従来のクリート補強体10bを流用したものであることから、さらなる製作コストの低減を図ることができる。
【0019】
なお、前述した本実施形態では、クリート体1aの端部1acのクリート補強体1bへのプレス固定は、前述した図2に示すようにクリート体1aの溝部1g毎に施されているが、本発明はこれに限らず、このプレス固定を所定間隔に施すことによって、必要な強度を確保するとともに、プレス固定箇所を低減することによるコストの削減を図ることもできる。また、本発明は、隣接する踏段間に段差が生じるエスカレーターに限らず、隣接する踏段間に段差を生じない電動道路を含めた乗客コンベア一般について適用できるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の乗客コンベアの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】クリート体のプレス固定部を示す斜視図である。
【図3】図1のA−A線に沿う踏段の要部断面図である。
【図4】クリート体とクリート補強体の構成を示す図3のB−B線に沿う断面図である。
【図5】従来の乗客コンベアを示す上部付近側面図である。
【図6】従来の踏段の斜視図である。
【図7】従来のクリート体とクリート補強体の構成を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 踏段
2 欄干
1a クリート体
1ac 端部
1b クリート補強体
1c フレーム部
1d ライザー部
s スポット溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物に設置された枠体と、これら枠体の長手方向両端部に設けた乗降床と、これら乗降床間を無端状に連結されて循環移動する踏段とを備えた乗客コンベアにおいて、
前記踏板は、鋼板を波形状に折り曲げて奥行方向に沿って平行に複数のクリートを形成したクリート体と、このクリート体を支えるクリート補強体と、前記クリート体及び前記クリート補強体を支えるフレーム部と、一端が前記クリート体の後部と連結し下方に延設されて間隙を塞ぐライザー部とを備え、前記クリート体と前記クリート補強体とをスポット溶接で一体化するとともに、前記クリート体の進行方向の端部を下方に押し曲げ、かつ前記クリート補強体に巻き付けるようにプレス固定したことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記クリート体の端部の前記クリート補強体へのプレス固定は所定間隔を置いて施されることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−62942(P2007−62942A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251727(P2005−251727)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】