説明

乗客コンベア

【課題】左右一対のスプロケット支持台を梁で連結した枠形状の台枠で一対の従動スプロケットを一体に支持する構造とした際に、一対の無端状チェーンに片伸びが生じたり、台枠の据え付け精度が良好でない場合であっても、台枠ローラと台枠レールとの干渉やステップとコムとの干渉を有効に防止して、振動や異音の発生などの問題を回避できるようにする。
【解決手段】台枠8に一体に支持されている左右一対の従動スプロケット7の左右方向への移動をガイド18により規制するとともに、このガイド18の位置、従動スプロケット7を支持している位置を支点として、台枠8全体を水平面内において揺動可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客が搭乗する多数のステップを乗口と降口との間で循環移動させて乗客を搬送する乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道等の乗客コンベアは、駆動スプロケットと従動スプロケットの間に巻き掛けられた左右一対の無端状チェーンで多数のステップを連結し、電動機により駆動スプロケットを回転させて無端状チェーンを周回させることで、多数のステップを乗口と降口との間で循環移動させ、ステップ上に搭乗した乗客を搬送する構造である。多数のステップには、それぞれ左右両端部(幅方向の両端部)に一対のローラが配置されている。これら一対のローラは、乗口と降口との間に敷設された左右一対のガイドレールに支持されており、これらのローラがガイドレール上を転動することで、ステップの移動が案内される。また、左右一対の従動スプロケットは、それぞれ駆動スプロケットに対して近接離間する方向(前後方向)に移動可能に設置されたスプロケット支持台上に固定されている。そして、このスプロケット支持台の移動により駆動スプロケットに対する従動スプロケットの位置が調整されることで、左右一対の無端状チェーンにそれぞれ所定の張力が付与される構成となっている。
【0003】
具体的に説明すると、スプロケット支持台は、左右一対の従動スプロケットに対応して各々独立に設置されている。各スプロケット支持台には、側面に脱輪を防止するための鍔を有するローラが設けられており、この各スプロケット支持台のローラが、トラスと呼ばれる構造物に固定された一対のレール上を転動することで、各スプロケット支持台を前後方向に移動可能としている。また、各スプロケット支持台は、トラスとの間に配置されたテンションバネにより駆動スプロケットから離間する方向に付勢されており、無端状チェーンの張力がこのテンションバネの付勢力とバランスする位置で、従動スプロケットを支持する。これにより、例えば経年劣化等によって無端状チェーンに伸びが生じた場合でも、この伸びを吸収して無端状チェーンに常に最適な張力が与えられるようになっている。
【0004】
ところで、従動スプロケットがスプロケット支持台とともに前後方向に移動する構成とした場合、従動スプロケットの位置が変化することによって、上述したガイドレール上を転動するステップのローラが従動スプロケットに乗り移る過程で不連続性が生じ、振動などを発生させてしまう要因となることが懸念される。そのため、近年では、ガイドレールの従動スプロケット側の一部を可動レールとし、この可動レールを従動スプロケットに連動させて前後方向に移動させることで、ステップのローラがガイドレールから従動スプロケットにスムーズに乗り移れるようにする試みがなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この場合、可動レールは、従動スプロケットの移動に追随させる必要があるため、従動スプロケットとともにスプロケット支持台に取り付けることが最も合理的であると考えられる。しかしながら、可動レールにはステップや乗客の荷重に耐え得る強度が要求され、重量の大きい部品であるため、個々のスプロケット支持台にそれぞれ可動レールをバランスよく固定することは極めて困難である。そこで、左右一対のスプロケット支持台を梁で連結し、枠形状の台枠として機械的強度を高め、この台枠で左右一対の従動スプロケットを一体に支持する構造として、左右一対の可動レールをこの台枠に取り付けるようにすることが検討されている。
【特許文献1】特開2004−224567号公報([0022]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、左右一対のスプロケット支持台を梁で連結して枠形状の台枠とし、この台枠で左右一対の従動スプロケットを一体に支持する構造とした場合には、以下の問題が生じる。すなわち、左右一対の従動スプロケットの駆動スプロケットに対する位置(前後方向の位置)は、これら従動スプロケットと駆動スプロケットの間に巻き掛けられた無端状チェーンの伸び量で決まることになるが、無端状チェーンの伸び量は左右で均一になるとは限らず、いわゆる片伸びによって従動スプロケットが左右で異なった位置となる場合も多い。このような場合、左右一対の従動スプロケットを一体に支持する台枠は、トラスに固定された一対のレールに対して非平行となり、台枠の左右、つまり左右一対のスプロケット支持台に設けたローラ(以下、このローラを「台枠ローラ」と呼ぶ。)の鍔が、台枠の移動をガイドするレール(以下、このレールを「台枠レール」と呼ぶ。)に干渉することになる。その結果、台枠ローラの適切な回転が阻害され、振動や異音を発生させたり、台枠ローラに偏磨耗を生じさせて寿命低下を招く要因となることが懸念される。
【0007】
また、台枠が台枠レールに対して非平行となった場合、この台枠に一体に支持されている一対の従動スプロケットの左右方向における位置にずれが生じ、無端状チェーンに連結されているステップの軌道が従動スプロケット側で左右方向にずれる場合がある。乗客コンベアの乗降口には、乗客が乗降する際の挟まれを防止するために、ステップ上面に設けられた溝に噛み合う櫛歯形状を有するコムが設置されているが、ステップの軌道が従動スプロケット近傍において左右方向にずれると、このコムの櫛歯がステップ上面の溝に干渉して、振動や異音発生の要因となることが懸念される。なお、以上のような台枠が台枠レールに対して非平行となることによる問題点は、一対の無端状チェーンに片伸びが生じた場合だけでなく、台枠の据え付け精度が悪い場合にも生じる問題である。
【0008】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みて創案されたものであって、左右一対のスプロケット支持台を梁で連結した枠形状の台枠で一対の従動スプロケットを一体に支持する構造とした際に、一対の無端状チェーンに片伸びが生じたり、台枠の据え付け精度が良好でない場合であっても、台枠ローラと台枠レールとの干渉やステップとコムとの干渉を有効に防止して、振動や異音の発生などの問題を回避することができる乗客コンベアを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る乗客コンベアは、左右一対の従動スプロケットを一体に支持する台枠と、この台枠の左右にそれぞれ取り付けられた台枠ローラと、トラスに固定され、台枠ローラに係合して台枠の前後方向の移動をガイドする左右一対の台枠レールと、台枠に支持された左右一対の従動スプロケットの左右方向への移動を規制する一対の移動規制部材とを備えており、台枠ローラと台枠レールが係合している状態で、台枠が移動規制部材の位置を支点として揺動可能とされている。
【0010】
ここで、前後左右の表記はそれぞれ以下の方向を意味している。まず、前後方向とは、駆動スプロケットと従動スプロケットとを結ぶ方向、つまり、無端状チェーンに連結されたステップの移動方向と一致する方向を意味する。また、左右方向は、ステップの移動方向と直交する方向、つまり、ステップの幅方向と一致する方向を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一対の無端状チェーンに片伸びが生じたり、台枠の据え付け精度が良好でない場合であっても、台枠ローラと台枠レールとの干渉やステップとコムとの干渉を有効に防止することができ、振動や異音の発生、台枠ローラの偏磨耗による寿命低下などの問題を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、本発明を適用した乗客コンベアの例として、多数のステップが連続して水平に移動することで乗客を搬送する動く歩道を例示しているが、本発明は、多数のステップが連続して階段状に上下に移動することで乗客を上下階に亘って搬送するエスカレータに対しても有効に適用可能である。
【0013】
図1は、乗客コンベアの全体構造を概略的に示す模式図である。この図1に示す乗客コンベアは動く歩道として構成されており、左右一対の無端状チェーン1(一方のみ図示)によって連結された多数のステップ2を乗口3aと降口3bとの間で循環移動させることで、乗口3aからステップ2に搭乗した乗客を降口3bへと搬送する構造である。
【0014】
この乗客コンベアは、自重を支える構造物であるトラス4を備えている。このトラス4内には、例えば降口3b側に、電動機や減速機などを有する駆動装置5及びこの駆動装置5により回転駆動される左右一対の駆動スプロケット6(一方のみ図示)が配置されている。また、トラス4の乗口3a側には、駆動スプロケット6と連動して回転する左右一対の従動スプロケット7(一方のみ図示)が、台枠8に支持された状態で配置されている。そして、これら左右一対の駆動スプロケット6と従動スプロケット7との間に、それぞれ無端状チェーン1が巻き掛けられている。この無端状のチェーン1は、駆動スプロケット6が駆動装置5の駆動により回転することで駆動力が伝達され、トラス4内で乗口3aと降口3bとの間を周回する。
【0015】
左右一対の従動スプロケット7を一体に支持する台枠8には、左右両端部のそれぞれに複数の台枠ローラ9が取り付けられている。また、台枠8の下方には、これら左右の台枠ローラ9に対応して、左右一対の台枠レール10(一方のみ図示)が敷設されている。これら左右一対の台枠レール10は、それぞれ所定の長さで前後方向(駆動スプロケット6と従動スプロケット7とを結ぶ方向、つまり、無端状チェーン1に連結されたステップ2の移動方向と一致する方向)に敷設され、トラス4に固定されている。台枠8は、左右の台枠ローラ9がそれぞれ左右の台枠レール10と係合して台枠レール10上を転動することで、前後方向に移動可能とされている。また、台枠9は、左右一対のテンションバネ11(一方のみ図示)により駆動スプロケット6から離間する方向に付勢されており、駆動スプロケット6と従動スプロケット7との間に巻き掛けられた無端状チェーン1の張力がこのテンションバネ11の付勢力とバランスする位置で、従動スプロケット7を支持する。これにより、例えば経年劣化等によって無端状チェーン1に伸びが生じた場合でも、この伸びを吸収して無端状チェーン1に常に最適な張力が与えられるようになっている。
【0016】
多数のステップ2には、それぞれ幅方向の両端部に一対のローラ(一方のみ図示)12が設けられている。そして、各ステップ2の一対のローラ12が、それぞれ所定ピッチで無端状チェーン1に連結されている。これにより、多数のステップ2が無端状チェーン1によって相互に連結され、無端状チェーン1の周回に伴って各ステップ2が乗口3aと降口3bとの間を循環移動する。
【0017】
また、トラス4内には、乗口3a側から降口3b側に亘って、ステップ2の移動をガイドするための左右一対のガイドレール13(一方のみ図示)が敷設されている。各ステップ2の幅方向の両端部に設けられたローラ12は、このガイドレール13上に支持されており、無端状チェーン1が駆動されるとこのガイドレール13上を転動する。これにより、乗口3aと降口3bとの間におけるステップ2の循環移動がガイドされる。また、乗口3a及び降口3bには、それぞれ櫛歯形状を有するコム14が設けられている。そして、往路側を移動するステップ2上面の溝が、乗口3a及び降口3bにおいてこのコム14の櫛歯と噛み合わされることにより、乗客が乗降する際の挟まれが防止される。
【0018】
ステップ2の移動をガイドするガイドレール13は、トラス4に固定されたレール本体13aと、従動スプロケット7側の端部に位置する可動レール13bとからなる。可動レール13bは、レール本体13aとの間の連続性を保ちながら前後方向に移動可能とされたレールであり、従動スプロケット7を支持する台枠8に固定されている。つまり、可動レール13aは、従動スプロケット7に対する相対位置を維持しながら、台枠8の移動に伴って従動スプロケット7とともに前後方向に移動可能とされている。これにより、例えば無端状チェーン1の伸びなどに応じて従動スプロケット7の位置が変化しても、ガイドレール13上を転動するステップ2のローラ12が従動スプロケット7にスムーズに乗り移れるようになっている。
【0019】
なお、図示を省略するが、トラス4上にはステップ2の幅に相当する所定間隔をおいて一対の欄干が互いに平行に立設されおり、この欄干の周囲にハンドレールが装着されている。ハンドレールは、ステップ2に搭乗した乗客が把持する手摺となるものであり、駆動装置5の駆動力が伝達されて、ステップ2の循環移動と同期して欄干の周囲を周回する。
【0020】
以上を基本構造とする乗客コンベアにおいて、本発明では、左右一対の従動スプロケット7を一体に支持する台枠8を、台枠ローラ9が台枠レール10に係合している状態で、従動スプロケット7の位置を支点として水平面内において揺動可能としている。本発明を適用した乗客コンベアは、このような構成とすることで、左右一対の無端状チェーン1に片伸びが生じたり、台枠8の据え付け精度が良好でない場合であっても、台枠ローラ9と台枠レール10との干渉(せり)やステップ2とコム14との干渉(せり)を有効に防止して、振動や異音の発生、台枠ローラ9の偏磨耗による寿命低下などの問題を回避できるようにしている。以下、この本発明を適用した乗客コンベアの特徴部分について、さらに詳しく説明する。
【0021】
図2はトラス4内部の従動スプロケット7近傍を拡大して示す平面図であり、図3は台枠8の従動スプロケット7を支持している部分(図2におけるA部)をさらに拡大して一部破断した状態で示す平面図、図4は台枠ローラ9の取付位置における台枠8の縦断面図(図2におけるB−B断面図)である。なお、これらの図においては、特徴部分を分かり易く示すために、ステップ2が連結された無端状チェーン1の図示を省略している。
【0022】
図2に示すように、台枠8は、左右一対のスプロケット支持台15をその前後の両端部において一対の梁16で連結した枠形状に形成されている。台枠ローラ9は、この台枠8を構成する左右一対のスプロケット支持台15に、それぞれ回転可能に取り付けられている。また、台枠レール10は、左右一対のスプロケット支持台15の下方にそれぞれ前後方向に亘って敷設されており、スプロケット支持台15に回転可能に取り付けられた台枠ローラ9と係合している。
【0023】
左右一対の従動スプロケット7は、図2に示すようにシャフト17により連結されている。そして、シャフト17の両端部がそれぞれ左右一対のスプロケット支持台15上面に回転可能に取り付けられることで、左右一対の従動スプロケット7が一体となって台枠8に支持される構造となっている。なお、左右一対のガイドレール13の従動スプロケット7側の一部である可動レール13bは、例えば台枠8の梁16に固定され、左右一対の従動スプロケット7とともに台枠8に支持されている。
【0024】
台枠8の左右の側面部、すなわち左右一対のスプロケット支持台16の側面部には、図2及び図3に示すように、左右一対の従動スプロケット7を連結するシャフト17の延長線上に位置して、外周面が曲面とされたガイド18が取り付けられている。このガイド18は、左右一対の従動スプロケット7の左右方向への移動を規制するための部材であり、例えば超高分子ポリエチレンやポリアミド系樹脂(ナイロン)などの耐摩耗材より形成されている。そして、このガイド18は、曲面形状の先端部を、例えばトラス4に固定されたガイド受け部材19の側面部に当接させることにより、従動スプロケット7の左右方向への移動を規制している。ガイド受け部材19は、台枠8の前後方向の移動量に対して十分な長さを有しており、台枠レール10と平行となるように前後方向に亘ってトラス4に固定されている。したがって、台枠8が台枠レール10に沿って前後方向に移動した場合でも、ガイド18の先端部は常に左右方向において一定の位置でガイド受け部材19の側面部に当接し、これにより、従動スプロケット7の左右方向における位置も常に一定となる。また、台枠8が前後方向に移動すると、ガイド18の先端部がガイド受け部材19の側面部上を摺動するが、ガイド18を超高分子ポリエチレンやポリアミド系樹脂(ナイロン)などの耐摩耗材で形成しておくようにすれば、摺動による磨耗が抑制され、ガイド18を長期に亘って交換することなく使用することが可能となる。
【0025】
台枠8のスプロケット支持台15に取り付けられる台枠ローラ9は、図4に示すように、スプロケット支持台15に挿通された回転軸20の軸周りにベアリング21を介して外輪22が装着され、この外輪22が回転軸20を回転中心として回転する構造である。台枠8のスプロケット支持台15は、所定間隔を存して対向する一対の側板15aを有しており、一方の側板15aから他方の側板15aに亘って、台枠ローラ9の回転軸20が左右方向に挿通されている。そして、これらスプロケット支持台15の一対の側板15a間に位置して、台枠ローラ9の外輪22が、ベアリング21を介して回転軸20の軸周りに装着され、回転軸20を回転中心として回転可能とされている。
【0026】
台枠ローラ9の外輪22は、例えば左右に鍔22aを有する形状とされており、これら左右の鍔22aの間で台枠レール10の突起部10aに噛み合うことで、台枠レール10と係合している。また、台枠ローラ9の外輪22の左右の鍔22aの内側にはそれぞれテーパ23が形成されており、外輪22が台枠レール10の突起部10aに噛み合った状態で、外輪22の左右の鍔22aと台枠レール10の突起部10aとの間に隙間が設けられるようになっている。そして、この外輪22の左右の鍔22aと台枠レール10の突起部10aとの間の隙間の作用により、台枠ローラ9が、台枠レール10に対する姿勢をある程度変化させることが可能となっている。
【0027】
また、台枠8のスプロケット支持台15と台枠ローラ9との間には、弾性変形可能な皿バネ24が配置されている。具体的に説明すると、台枠ローラ9は、回転体である外輪22がスプロケット支持台15の側板15aに接触しないようにするために、スプロケット支持台15の側板15aとの間に所定の隙間を存して、一対の側板15a間に配置されている。そして、通常はこの隙間を埋めるようにカラー25が配設され、スプロケット支持台15に対する台枠ローラ9の位置決めが図られている。本例では、図4に示すように、カラー25として厚みが薄いものを用い、残りの隙間に弾性変形可能な皿バネ24を配置した構造としている。そして、この皿バネ24の伸縮作用によって、台枠ローラ9が台枠8に対する姿勢をある程度変化させることを可能とし、また、台枠ローラ9に外力が加わらない状態では、スプロケット支持台15に対する台枠ローラ9の位置決めが図られるようにしている。なお、図4においては左右の隙間にそれぞれ2枚ずつの皿バネ24を向かい合わせて配置しているが、皿バネ24の数は1枚であってもよいし、3枚以上であってもよい。また、カラー25を取り除いて台枠ローラ9とスプロケット支持台15の一対の側板15aとの間の隙間を全て皿バネ24で埋めるようにしてもよい。
【0028】
以上の構成を有する乗客コンベアでは、例えば左右一対の無端状チェーン1の片伸びなどによって、台枠8の左右一対のスプロケット支持台15の前後方向における適正な位置が左右で異なるものとなった場合、左右一対のスプロケット支持台15が梁16により連結されているために、台枠8全体を一対の台枠レール10に対して非平行とする力が働くことになる。このとき、左右一対のスプロケット支持台15の側面部に設けられたガイド18の作用により、台枠8に支持された左右一対の従動スプロケット7の左右方向への移動が規制される。また、台枠ローラ9の外輪22の左右の鍔22aと台枠レール10の突起部10aとの間の隙間の作用により、台枠レール10に対する台枠ローラ9の姿勢には自由度が生じ、また、スプロケット支持台15と台枠ローラ9との間に配置された皿バネ24の作用により、台枠8に対する台枠ローラ9の姿勢にも自由度が生じている。したがって、台枠ローラ9が台枠レール10に係合している状態で、ガイド受け部材19に対するガイド18の当接位置、つまり、一対のスプロケット支持台15における従動スプロケット7支持位置を支点として、台枠8全体が水平面内において揺動可能となる。
【0029】
本発明を適用した乗客コンベアでは、以上のように、台枠ローラ9が台枠レール10に係合している状態で、一対の従動スプロケット7を一体に支持する台枠8全体が、ガイド18の当接位置(従動スプロケット7の位置)を支点として水平面内で揺動可能とされているので、例えば左右一対の無端状チェーン1に片伸びが生じた場合や台枠8の据え付け精度が良好でない場合であっても、台枠ローラ9と台枠レール10との干渉(せり)やステップ2とコム14との干渉(せり)を有効に防止することができ、振動や異音の発生、台枠ローラ9の偏磨耗による寿命低下などの問題を回避することができる。
【0030】
なお、以上説明した乗客コンベアは、本発明の一適用例を例示したものであり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、上述した例では、従動スプロケット7の左右方向への移動を規制するガイド18として、曲面形状の外周面を有する耐磨耗材からなる部材を用いたが、例えば図5や図6に示すように、台枠8のスプロケット支持台15の移動に伴って回転する鉄球や筒状のコロなどの回転体をスプロケット支持台15の側面部に設け、これをガイド18として用いるようにしてもよい。この場合には、スプロケット支持台15が移動する際にガイド18である回転体が回転し、ガイド受け部材19の側面部上を摺動することがないので、ガイド18の寿命を更に長くすることができる。
【0031】
また、上述した例では、台枠8のスプロケット支持台15と台枠ローラ9との間に弾性変形可能な皿バネ24を配置することで、台枠ローラ9の台枠8に対する姿勢に自由度を持たせるようにしているが、例えば図7に示すように、板ゴム26などの他の弾性部材を皿バネ24の代わりに用いて、台枠ローラ9の台枠8に対する姿勢に自由度を持たせるようにしてもよい。この場合も、台枠ローラ9に外力が加わらない状態では、板ゴム26などの弾性部材でスプロケット支持台15と台枠ローラ9との間の隙間が埋められているので、台枠ローラ9はスプロケット支持台15に対して適切な位置に位置決めされる。なお、このようなスプロケット支持台15に対する台枠ローラ9の位置決めを考慮しない場合には、例えば図8に示すように、スプロケット支持台15と台枠ローラ9との間の皿バネ24や板ゴム26などの弾性部材とカラー25とを取り除いて隙間を設け、台枠ローラ9がスプロケット支持台15の一対の側板15aの間で自由に動けるようにしてもよい。この場合には、部品点数が削減されることになるので、コストの低減が期待できる。
【0032】
また、上述した例では、台枠ローラ9の外輪22の左右の鍔22aの内側にテーパ23を形成することで、これら外輪22の左右の鍔22aと台枠レール10の突起部10aとの間に隙間を設けて、台枠ローラ9の台枠レール10に対する姿勢に自由度を持たせるようにしているが、例えば図9に示すように、外輪22の左右の鍔22aの厚みを薄くすることで、これら外輪22の左右の鍔22aと台枠レール10の突起部10aとの間に隙間を設けて、台枠ローラ9の台枠レール10に対する姿勢に自由度を持たせるようにしてもよい。
【0033】
また、上述した例では、従動スプロケット7の左右方向への移動を規制するガイド18をシャフト17の延長線上に配置し、ガイド受け部材19をトラス4に配置し、ガイド18をガイド受け部材19の側面部に当接させることにより、従動スプロケット7の左右方向への移動を規制しているが、例えば台枠8の前後方向への移動量が微小な場合には、図10に示すように、ガイド18をスプロケット支持台15の側板15aに当接するように、トラス4に固定してもよい。
【0034】
この場合、台枠8が台枠レール10に沿って前後方向に移動した場合でも、その移動量が微小であるため、ガイド18の先端部は、シャフト17の延長線上とほぼ同等の位置で従動スプロケット7の左右方向の位置を規制することができ、ほぼ同等の規制効果を得ることができる。
【0035】
また、上述した例では、台枠ローラ9の台枠8に対する姿勢と台枠ローラ9の台枠レール10に対する姿勢との双方に自由度を持たせるようにすることで、台枠ローラ9が台枠レール10に係合している状態で、台枠8全体がガイド18の当接位置を支点として水平面内で揺動できるようにしているが、台枠ローラ9の台枠8に対する姿勢と台枠ローラ9の台枠レール10に対する姿勢との何れか一方で十分な自由度が得られる場合には、何れか一方のみに自由度を持たせることで台枠8を揺動可能とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明を適用した乗客コンベアの全体構造を概略的に示す模式図。
【図2】前記乗客コンベアのトラス内部の従動スプロケット近傍を拡大して示す平面図。
【図3】図2におけるA部をさらに拡大して一部破断した状態で示す平面図。
【図4】図2におけるB−B断面図。
【図5】従動スプロケットの左右方向への移動を規制するガイドとして鉄球(回転体)を用いた例を示す図。
【図6】従動スプロケットの左右方向への移動を規制するガイドとして筒状のコロ(回転体)を用いた例を示す図。
【図7】台枠のスプロケット支持台と台枠ローラとの間に皿バネに代えて板ゴムを配置した例を示す図。
【図8】台枠のスプロケット支持台と台枠ローラとの間に隙間を設けるようにした例を示す図。
【図9】台枠ローラの外輪の左右の鍔の厚みを薄くすることで、これら外輪の左右の鍔と台枠レールの突起部との間に隙間を設けるようにした例を示す図。
【図10】ガイド(移動規制部材)をトラスに設置し、ガイドの先端をスプロケット支持台に当接させるように配置した例を示す図。
【符号の説明】
【0037】
1 無端状チェーン
2 ステップ
4 トラス
6 駆動スプロケット
7 従動スプロケット
8 台枠
9 台枠ローラ
10 台枠レール
15 スプロケット支持台
16 梁
18 ガイド(移動規制部材)
19 ガイド受け部材
20 回転軸
21 ベアリング
22 外輪
22a 鍔
23 テーパ
24 皿バネ
26 板ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のステップを左右一対の無端状チェーンで連結し、各無端状チェーンを左右一対の駆動スプロケットと従動スプロケットとの間に各々巻き掛けて、前記駆動スプロケットに対する従動スプロケットの位置を調整することで各無端状チェーンに所定の張力を与えた状態で各無端状チェーンを駆動して、前記多数のステップを乗口と降口との間で循環移動させる乗客コンベアにおいて、
前記左右一対の従動スプロケットを一体に支持する台枠と、
前記台枠の左右にそれぞれ取り付けられた台枠ローラと、
トラスに固定され、前記台枠ローラに係合して前記台枠の前後方向の移動をガイドする左右一対の台枠レールと、
前記台枠に支持された左右一対の従動スプロケットの左右方向への移動を規制する一対の移動規制部材とを備え、
前記台枠ローラと台枠レールが係合している状態で、前記台枠が前記移動規制部材の位置を支点として揺動可能とされていることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記台枠と前記台枠ローラとの間に弾性体を配置することにより、前記台枠が前記移動規制部材の位置を支点として揺動可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記弾性体として皿バネを用いたことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記弾性体として板ゴムを用いたことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記台枠と前記台枠ローラとの間に隙間を設けることにより、前記台枠が前記移動規制部材の位置を支点として揺動可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記台枠ローラと前記台枠レールとの間の係合部分に隙間を設けることにより、前記台枠が前記移動規制部材の位置を支点として揺動可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記移動規制部材は、超高分子ポリエチレン又はポリアミド系樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項8】
前記移動規制部材が回転体であることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−156080(P2008−156080A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348195(P2006−348195)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】