説明

乗客コンベア

【課題】降り口における一対の欄干間の間隔を口開き状とし、仮に降り口の床板に乗り移った乗客の歩く速度が遅い場合でも、降り口まで搬送されてきた後続の乗客がその乗客を避けて歩けるスペースが確保され、降り口における混雑を解消できる乗客コンベアを得る。
【解決手段】欄干20は、上部水平部Aおよび中間傾斜部Cの領域では、欄干20間の距離を一定として互いに平行に延設されており、上部乗降口14の領域では、欄干20間の距離が上部水平部Aから湾曲部30を経て移動手摺り26の移動方向のエスカレータの外方に、すなわち下部乗降口から離反する方向に向かって徐々に広がる口開き状に延設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに関し、特に降り口の欄干構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエスカレータは、中空体状に構成されたエスカレータ本体が上層階と下層階の間に架設され、踏み段が上下の踏み段スプロケット間に巻き掛けられた一対の踏み段チェーンに係止されてエスカレータ本体内に無端コンベア状に配列され、一対の欄干がエスカレータ本体の左右上部にエスカレータ本体の長手方向にわたって互いに平行に立設されている。そして、モータなどの駆動機器がエスカレータ本体内の下層階側の端部に配設され、踏み段スプロケットを介して踏み段チェーンとともに踏み段を回転走行させる。さらに、欄干に設けられた移動手摺りが踏み段と同期して回転駆動される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04−020497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のエスカレータにおいては、踏み段が一定の速度で移動しており、脚が不自由な乗客やお年寄りの乗客の歩く速度より速くなる場合がある。
しかし、従来のエスカレータでは、一対の欄干が一定の間隔で互いに平行にエスカレータ本体の長手方向に延設されているので、歩く速度の遅い乗客が降り口の床板に乗り移って歩いているときに、次々と踏み段に乗って降り口に搬送されてくる後続の乗客の行き場がなくなり、降り口部が混雑してしまうという課題があった。
【0005】
この発明は、上記課題を解決するためになされたもので、降り口における一対の欄干間の間隔を口開き状とし、仮に降り口の床板に乗り移った乗客の歩く速度が遅い場合でも、降り口まで搬送されてきた後続の乗客がその乗客を避けて歩けるスペースが確保され、降り口における混雑を解消できる乗客コンベアを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による乗客コンベアは、トラスと、乗り口床板により上記トラスの一端側を塞口して構成された乗り口と、降り口床板により上記トラスの他端側を塞口して構成された降り口と、無端状に連結され、上記乗り口床板から上記降り口床板に至り、該降り口床板の乗り口側端部から上記トラス内に入り、降り口側反転部を介して上記トラス内を該乗り口側に至り、乗り口側反転部を介して該乗り口床板の降り口側端部から上記トラス外に出る循環路に沿って循環移動される複数の踏み段と、上記複数の踏み段の幅方向に相対するように上記トラスに立設され、該複数の踏み段の移動方向に沿って上記乗り口から上記降り口に至るように延設された一対の欄干と、上記一対の欄干のそれぞれに案内されて、上記複数の踏み段の循環移動に連動して循環移動される無端状の移動手摺りと、を備えている。そして、上記一対の欄干は、上記乗り口床板の降り口側端部から上記降り口床板の乗り口側端部に至る領域では、上記複数の踏み段の幅方向の間隔を一定として、該複数の踏み段の移動方向に互いに平行に延設され、上記降り口では、該複数の踏み段の幅方向の間隔が、該複数の踏み段の移動方向に上記乗り口から離反するほど広くなるように延設されている。
【発明の効果】
【0007】
この発明では、一対の欄干は、降り口では、踏み段の幅方向の間隔が、踏み段の移動方向に乗り口から離反するほど広くなるように延設されているので、踏み段に乗って降り口に到達した乗客が、移動手摺りにつかまって降り口床板に乗り移ると、移動手摺りの移動方向に誘導される。そこで、降り口床板に乗り移った乗客は、踏み段に乗って搬送されてくる後続の乗客の移動方向に対して踏み段の幅方向の外方にずれるように歩くことになり、後続の乗客の歩行スペースが広がる。これにより、降り口床板に乗り移った乗客がゆっくり歩いていても、後続の乗客はその乗客を避けて歩くことができ、降り口における混雑が解消される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の一実施の形態に係るエスカレータにおける全体構成を模式的に示す側面図である。
【図2】図1のII−II矢視断面図である。
【図3】この発明の一実施の形態に係るエスカレータにおける降り口周りを示す要部上面図である。
【図4】この発明の一実施の形態に係るエスカレータにおける欄干の湾曲部の構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明による乗客コンベアの好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0010】
図1はこの発明の一実施の形態に係るエスカレータにおける全体構成を模式的に示す側面図、図2は図1のII−II矢視断面図、図3はこの発明の一実施の形態に係るエスカレータにおける降り口周りを示す要部上面図、図4はこの発明の一実施の形態に係るエスカレータにおける欄干の湾曲部の構成を説明する断面図である。
【0011】
図1において、エスカレータ1は、上下階床間に架け渡されたトラス2と、トラス2の上部機械室3内に設置された電動機5と、上部機械室3内に設置され、電動機5と駆動チェーン6により連結された駆動スプロケット7と、駆動スプロケット7と同軸に取付けられた上部踏み段スプロケット8と、トラス2の下部機械室4内に設置された下部踏み段スプロケット9と、上部踏み段スプロケット8と下部踏み段スプロケット9とに巻き掛けられた無端状の踏み段チェーン10と、踏み段チェーン10に一定の間隔で取付けられた階段軸(図示せず)に固定され、電動機5により駆動されて上部乗降口14と下部乗降口15との間を循環移動する複数の踏み段11と、循環移動する踏み段11の往路側で、踏み段11の両側に踏み段11の移動方向に沿って延在するようにトラス2に立設された一対の欄干20と、移動手摺り駆動装置12により踏み段11と同じ速度で欄干20に案内されて移動する無端状の移動手摺り26と、上部機械室3に設けられ、電動機5の駆動を制御する制御盤13と、を備えている。
【0012】
また、上部乗降口14は、上部機械室3を塞口するように床板16をトラス2に設置して構成されている。下部乗降口15は、下部機械室4を塞口するように床板17をトラス2に設置して構成されている。
【0013】
踏み段11の循環路は、床板16と床板17との間を走行する往路側区間と、床板16の下部で走行方向を反転する上部反転部、床板17の下部で走行方向を反転する下部反転部、上部反転部と下部反転部との間のトラス2内を走行する復路側区間を有している。ここで、踏み段11が下部乗降口15から上部乗降口14に移動するとすれば、踏み段11は、往路側区間を床板16まで移動し、床板16の下部乗降口15側の端部からトラス2内に沈み込み、上部反転部を介して移動方向を反転され、トラス2内の帰路側区間を床板17の下部まで移動し、下部反転部を介して移動方向を反転されて床板17の上部乗降口14側の端部から現れて往路側区間を上部乗降口14側に移動する。
【0014】
また、踏み段11の往路側区間は、上部乗降口14に至る上部水平部A、下部乗降口15に至る下部水平部B、および上部水平部Aと下部水平部Bとの間の中間傾斜部Cを有している。そこで、下部乗降口15から踏み段11に乗った乗客は、下部水平部Bを経て中間傾斜部Cに至り、中間傾斜部Cを搬送されて上部水平部Aに至り、上部水平部Aから上部乗降口14の床板16に降りることになる。
【0015】
欄干20は、図2に示されるように、踏み段11の両側に、踏み段11の移動方向に所定の間隔でトラス2に立設された欄干柱21と、欄干柱21の頭部に装着されて、上部乗降口14と下部乗降口15との間に延設された案内レールフレーム22と、案内レールフレーム22に装着されて、踏み段11の往路側を画成する内側板23と、案内レールフレーム22の上面に取付けられ、上部乗降口14と下部乗降口15との間に延設された案内レール24と、踏み段11の両側に踏み段11との間の隙間を保って踏み段11の移動方向に沿って延設されたスカートガード(図示せず)などを備えている。
案内レール24は、欄干20の幅方向両側に突出し、踏み段11の移動方向に延在する一対のフランジ部25を有している。そして、断面C字状の移動手摺り26が、フランジ部25を耳部26a内に納めるようにして案内レール24に装着されている。
【0016】
欄干20は、図3に示されるように、上部水平部Aおよび中間傾斜部Cの領域では、欄干20間の距離を一定として互いに平行に延設されており、上部乗降口14の領域では、欄干20間の距離が上部水平部Aから湾曲部30を経て踏み段11の移動方向のエスカレータ1の外方に、すなわち下部乗降口15から離反する方向に向かって徐々に広がる口開き状に延設されている。なお、図示していないが、下部水平部Bの領域では、欄干20間の距離を一定として互いに平行に延設されており、下部乗降口15の領域では、欄干20間の距離が下部水平部Bから湾曲部を経て踏み段11の移動方向のエスカレータ1の外方に、すなわち上部乗降口14から離反する方向に向かって徐々に広がる口開き状に延設されている。
【0017】
このように構成されたエスカレータ1においては、乗客は、下部乗降口15の床板17から移動手摺り26につかまって踏み段11に乗り移り、踏み段11に乗って下部水平部Bから中間傾斜部Cに至り、中間傾斜部Cを上部乗降口14に向かって移動する。そして、乗客が健常者ならば、上部水平部Aまで来ると、移動手摺り26から手を離し、踏み段11から上部乗降口14の床板16に乗り移り、床板16上を所望の方向に歩いて行く。
【0018】
しかし、脚が不自由な乗客やお年寄りの乗客の場合、移動手摺り26につかまりながら上部乗降口14の床板16に乗り移ることになる。そして、乗客は、口開き状の移動手摺り26に案内されて、踏み段11の幅方向外方に導かれつつ、踏み段11の走行方向のエスカレータ1の外方に向かって床板16上をゆっくり歩いて行くことになる。つまり、上部乗降口14の床板16に降りた乗客は、踏み段11に乗って移動してくる後続の乗客の移動方向に対して幅方向の外方にそれる方向に歩くことになる。これにより、後続の乗客の床板16上を歩くスペースが拡大され、後続の乗客は、踏み段11から床板16に乗り移り、前の乗客を避けて床板16上を歩いて行くことができ、上部乗降口14が混雑するような事態が未然に回避される。
【0019】
つぎに、欄干20を口開き状に構成する具体例について図3および図4を参照にしつつ説明する。
まず、中間傾斜部Cの領域では、欄干20は、移動手摺り26の走行方向を含む鉛直面と直交する鉛直面における案内レール24の上辺(以下、案内レール24の上辺という)が略水平となり、かつ踏み段11から案内レール24の上辺までの高さが略一定となるように、踏み段11の移動方向と平行に延在している。また、上部水平部Aの領域では、欄干20は、案内レール24の上辺が略水平となり、かつ踏み段11からの案内レール24の上辺までの高さが略一定となるように、踏み段11の移動方向と平行に延在している。そして、上部乗降口14の領域では、図3に示されるように、欄干20は、湾曲部30で曲げられた後、案内レール24の上辺が略水平となり、かつ床板16からの案内レール24の上辺までの高さが略一定となるように、踏み段11の移動方向に対して所定角度傾斜する直線状に延在している。さらに、案内レール24は、欄干20の上部端部で折り返されて、インレットに導かれる。
【0020】
欄干20の湾曲部30では、図4に示されるように、案内レールフレーム22の上面の垂線と鉛直線とのなす角度θが、湾曲始点aから徐々に大きくなり、点bを経て湾曲中央点cで最大となった後徐々に小さくなり、点dを経て湾曲終点eでゼロに戻るように作製されている。そして、案内レールフレーム22の上面に取り付けられている案内レール24の内側板23側(外周側)のフランジ部25の延出端の高さ位置が、湾曲始点aから湾曲終点eに至るまで一定となっている。また、案内レールフレーム22の上面に取り付けられている案内レール24の内側板23と逆側(内周側)のフランジ部25の延出端の高さ位置が、湾曲始点aから徐々に高くなり、湾曲中央点cを超えると徐々に低くなり、湾曲終点eで湾曲始点aと同じ高さに戻っている。
【0021】
この時、湾曲部30における湾曲始点aから湾曲終点eに至る案内レール24の内側板23側のフランジ部25の延出端の軌道長さが、湾曲始点aから湾曲終点eに至る案内レール24の内側板23と逆側のフランジ部25の延出端の軌道長さと等しくなるように、湾曲部30における案内レールフレーム22の上面の垂線と鉛直線とのなす角度θを設定する。
【0022】
これにより、欄干20の湾曲部30を通過する移動手摺り26の両耳部26aの走行距離が等しくなるので、湾曲部30における案内レール24の内周側と外周側との曲率半径差に起因して移動手摺り26に発生する応力が抑えられる。そこで、欄干30に湾曲部30を設けても、移動手摺り26のスムーズな走行が実現されるとともに、移動手摺り26の長寿命化が図られる。
【0023】
なお、上記実施の形態では、エスカレータについて説明しているが、本発明はエスカレータに限定されるものではなく、例えば動く歩道などの乗客コンベアに適用してもよい。
また、上記実施の形態では、欄干の湾曲部で、案内レールの外周側の高さ位置を一定に維持し、内周側の高さ位置を徐々に最高高さ位置まで高くし、その後徐々に低くするものとしているが、欄干の湾曲部で、案内レールの外周側の高さ位置を一定に維持し、内周側の高さ位置を徐々に最低高さ位置まで低くし、その後徐々に高くしてもよい。
また、上記実施の形態では、欄干の上部乗降口の上部水平部側のみを湾曲部として欄干の上部乗降口に対応する部位全体を口開き状に構成するものとしているが、欄干の上部乗降口に対応する部位全体を口開き状に湾曲させてよい。
【0024】
また、上記実施の形態では、欄干の上部乗降口に対応する部位全体を口開き状に構成するものとしているが、欄干の上部乗降口の上部水平部側を湾曲部として欄干間の距離を広げた後、欄干間の広げられた距離を維持するように上部乗降口を構成してもよい。
また、上記実施の形態では、上部乗降口および下部乗降口に対応する欄干の部位が、一対の欄干間の距離が上部水平部および下部水平部から湾曲部を経て踏み段の移動方向のエスカレータの外方に向かって徐々に広がる口開き状に構成されているものとしているが、少なくとも降り口に対応する欄干の部位が、一対の欄干間の距離が湾曲部を経て踏み段の移動方向のエスカレータの外方に向かって徐々に広がる口開き状に構成されていればよい。
【符号の説明】
【0025】
2 トラス、11 踏み段、14 上部乗降口、15 下部乗降口、16、17 床板、20 欄干、26 移動手摺り、30 湾曲部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラスと、
乗り口床板により上記トラスの一端側を塞口して構成された乗り口と、
降り口床板により上記トラスの他端側を塞口して構成された降り口と、
無端状に連結され、上記乗り口床板から上記降り口床板に至り、該降り口床板の乗り口側端部から上記トラス内に入り、降り口側反転部を介して上記トラス内を該乗り口側に至り、乗り口側反転部を介して該乗り口床板の降り口側端部から上記トラス外に出る循環路に沿って循環移動される複数の踏み段と、
上記複数の踏み段の幅方向に相対するように上記トラスに立設され、該複数の踏み段の移動方向に沿って上記乗り口から上記降り口に至るように延設された一対の欄干と、
上記一対の欄干のそれぞれに案内されて、上記複数の踏み段の循環移動に連動して循環移動される無端状の移動手摺りと、を備え、
上記一対の欄干は、上記乗り口床板の降り口側端部から上記降り口床板の乗り口側端部に至る領域では、上記複数の踏み段の幅方向の間隔を一定として、該複数の踏み段の移動方向に互いに平行に延設され、上記降り口では、該複数の踏み段の幅方向の間隔が、該複数の踏み段の移動方向に上記乗り口から離反するほど広くなるように延設されていることを特徴とする乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−247926(P2010−247926A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98013(P2009−98013)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】