説明

乗客コンベア

【課題】1台毎に異なる設置環境であっても異常検出を行うための閾値を正確に、かつ、簡単に設定できる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】エスカレータ1の手すりの速度を検出する手すりセンサ6と、手すりセンサ6からのパルスが閾値を超えた場合に、手すりベルト3が異常であることを検出する制御装置4とを有し、制御装置4は、前記閾値を設定するために行う専用運転時に手すりセンサ6からのパルスに基づいて閾値を算出し、予め設定された初期閾値をこの閾値に書き換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアは、利用者の挟まれなどを検出する安全装置とは別に、乗客コンベアを動作させる動作機器の異常を検出して停止する検出装置を設けている。例えば、手すりの速度の低下を検出する検出装置やブレーキの異常を検出する検出装置などを設けている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
ところで、据付、調整中に発見できる動作機器の異常や、破損などの異常状態を除くと、動作機器の異常は、据付、調整完了直後に検出できるものでなく、ある程度長期間使用を継続することで、手すりの張力が低下するか、ブレーキシューが磨耗するなどといった経年変化に起因して発生する。
【0004】
そして、従来よりこの異常を検出した場合は、乗客コンベアを緊急停止するように制御している。しかし、乗客コンベアが、緊急停止した場合には、原因調査から復旧までは、利用者を運搬することができず、設置場所の動線に影響が出る。
【0005】
そのため、近年この影響を緩和するため、検出装置が作動し、停止する前に保守員に警告するか、外部へ警告信号を発信するなどの機能を付加する要求が増えている。
【0006】
この異常前の状態を検出するためには、制御装置に乗客コンベアの正常状態から異常状態へ動作データが変化するときの閾値を設定する必要がある。この閾値の設定は、動作機器仕様(例えば階高、使用モータ、減速機、スプロケット、周波数など)により若干異なり、この条件に合わせ人的計算により閾値を算出して制御装置に設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−103586号公報
【特許文献2】特開2003−20185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、正常状態の動作データと異常状態の動作データの変化分が少なく検出精度が必要とする場合には、閾値を正確に算出する必要があるという問題点があった。
【0009】
また、この閾値は、工場の出荷時には設定しており、現地搬入後、最終調整を実施した後に再設定することができない。そのため、1台毎で異なる設置環境による若干の誤差(電源電圧、周波数など)や、製造誤差、調整誤差などにより、前記設定した閾値が、実際の正常状態とは完全には一致せず、若干の誤差が生まれることがある。このとき、正常状態の動作データと異常状態の動作データとの差が少ない検出装置では、その誤差によって、正常な場合でも誤検出してしまうという問題点があった。
【0010】
また、1台毎に異なる動作機器仕様を見て、人的計算により閾値の算出を行う場合に、様々な条件を考慮し、正確に数値を算出する必要があるため、計算ミスをする可能性が高くなるという問題点があった。
【0011】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、1台毎に異なる設置環境であっても異常前の状態を表す閾値を正確に、かつ、簡単に設定できる乗客コンベアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態は、乗客コンベアを動作させる動作機器の動作データを検出する検出手段と、前記動作データが閾値を超えた場合に、前記動作機器が異常であることを検出する制御手段と、を有する乗客コンベアにおいて、前記制御手段は、前記閾値を設定するために行う専用運転時に前記検出手段からの動作データに基づいて前記閾値を算出し、予め設定された初期閾値を前記閾値に書き換える、ことを特徴とする乗客コンベアである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態におけるエスカレータの構成を示した説明図である。
【図2】専用運転における第1のフローチャートである。
【図3】専用運転における第2のフローチャートである。
【図4】通常運転におけるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、一実施形態の乗客コンベアについて図1〜図4に基づいて説明する。本実施形態では、乗客コンベアとしてエスカレータ1を例に説明する。また、本実施形態では、エスカレータ1の手すりスリップを検出する場合について説明する。
【0015】
(1)エスカレータ1の構成
エスカレータ1の構成について図1に基づいて説明する。
【0016】
エスカレータ1は、モータ2が回転することにより、手すりベルト3及び図示しない踏段が回転することで運転が行われる。
【0017】
手すりに沿って動く手すりベルト3は、手すりベルト駆動装置5のローラによって駆動され、手すりベルト駆動装置5は、モータ2の回転軸に連結され、その動力により駆動する。手すりベルト駆動装置5には、検出手段である手すりセンサ6が設置されている。手すりセンサ6は、手すりベルト駆動装置5のローラーの回転に同期して動作データであるパルスを発生して出力する。
【0018】
制御手段である制御装置4には、モータ2、手すりセンサ6、記憶部8、スピーカーやブザーなどの警報装置9、表示装置10が接続されている。また、制御装置4には、後から説明する専用運転を行うための専用運転スイッチ7も接続されている。記憶部8は、各種の異常検出制御によって使用する各パラメータや閾値が、設定されるエリアにそれぞれ記憶されている。
【0019】
制御装置4は、モータ2に給電し、運転/停止、速度、方向の制御を行う。また、制御装置4は、手すりセンサ6からのパルスを採取することで手すりベルト3の移動速度を監視し、このパルスと、記憶部8に記憶された閾値により、手すり速度が異常か否かを判断する。すなわち、手すりスリップを検出する。さらに、制御装置4は、通常運転における正常状態と異常状態とを切り分ける閾値を設定するするための専用運転を行う。
【0020】
(2)専用運転の動作状態
次に、エスカレータ1の専用運転における動作状態について、図2及び図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0021】
エスカレータ1は、現地における据付が完了し、各種の最終調整(手すりの張力調整など)が実施済の状態で、又は、定期検査が終了した後に、正常状態と異常状態とを切り分ける閾値を算出する専用運転を行う。
【0022】
ステップS1において、作業員が専用運転スイッチ7を操作し、ステップS2に進む。
【0023】
ステップS2において、制御装置4が、「閾値を算出するための専用運転を開始する旨」を、警報装置9を用いて周囲に報知し、ステップS3に進む。
【0024】
ステップS3において、制御装置4は、プログラムに予め設定された専用運転を開始し、ステップS4に進む。
【0025】
ステップS4において、制御装置4が専用運転を開始し、エスカレータ1の走行速度が安定した後、手すりセンサ6からのパルスを採取し始め、ステップS5に進む。
【0026】
ステップS5において、制御装置4は警報装置9を用いて、「閾値算出中である旨」を警報装置9を用いて定期的に報知し、ステップS6に進む。
【0027】
ステップS6において、制御装置4は、手すりセンサ6からのパルスの採取が一定時間経過したか否かを判断し、経過していなければステップS4に戻り(Nの場合)、経過していればステップS7に進む(Yの場合)。
【0028】
ステップS7において、制御装置4は、採取したパルスの時間割りによる平均値を算出する。例えば、専用運転を10分間行った場合には、制御装置4は、100秒間隔でパルスの数をそれぞれ採取して記憶部8に記憶し、その100秒間のパルスの数の10分間における平均値を算出する。そしてステップS8に進む。
【0029】
ステップS8において、制御装置4は、平均値をパルスの正常値として確定し、ステップS9に進む。
【0030】
ステップS9において、制御装置4は、正常値から閾値を算出する。例えば、手すりベルトの速度が正常値から3%低下した場合を異常状態への前段階とする場合には、

閾値=正常値*0.97

の演算処理を行う。そしてステップS10に進む。なお、3%は例示であって、必要に応じて数値を変えるものであり、例えば、1%〜20%の間で変化させる。
【0031】
ステップS10において、制御装置4は、算出した閾値が許容範囲内であるかを否かを判断し、許容範囲内であった場合には(Yの場合)、ステップS11に進み、許容範囲を超えている場合には(Nの場合)、ステップS16に進む。
【0032】
ステップS11において、制御装置4は、閾値が許容範囲内であるため、閾値を確定し、ステップS12に進む。
【0033】
ステップS12において、制御装置4は、確定した閾値を、記憶部8に予め記憶された初期閾値と書き換える。この初期閾値は、工場出荷時に予め記憶しておく。そしてステップS13に進む。
【0034】
ステップS13において、制御装置4は、閾値の書き換えが完了しているため、閾値設定完了フラグをONにし、ステップS14に進む。
【0035】
ステップS14において、制御装置4は、「専用運転を終了する旨」を警報装置9を用いて報知し、ステップS15に進む。
【0036】
ステップS15において、制御装置4は、エスカレータ1の専用運転を停止し、終了する。
【0037】
一方、ステップS16において、閾値が許容範囲を超過しているため、制御装置4は、「閾値の算出内容に異常があった旨」を警報装置9で報知し、ステップS17に進む。
【0038】
ステップS17において、制御装置4は、エスカレータ1の専用運転を停止し、終了する。
【0039】
(4)通常運転の動作状態
次に、エスカレータ1が、通常運転中における専用運転との関係について図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0040】
ステップS20において、制御装置4はエスカレータ1を通常運転している。そしてステップS21に進む。
【0041】
ステップS21において、制御装置4は、上記のステップS13において行った閾値設定完了フラグがONであるか否かを判断し、ONでなければステップS22に進み(Nの場合)、ONであればステップS25に進む(Yの場合)。
【0042】
ステップS22において、閾値設定完了フラグがONでないため、制御装置4は、通常運転の運転時間を積算し、ステップS23に進む。
【0043】
ステップS23において、制御装置4は、積算した運転時間が、設定時間を超過したか否かを判断し、超過していればステップS24に進み(Yの場合)、超過していなければステップS21に戻る(Nの場合)。
【0044】
ステップS24において、制御装置4は、表示装置10を用いて、「通常運転の積算時間が設定時間を超えた旨」を警告表示し、終了する。
【0045】
一方、ステップS25において、閾値設定完了フラグがONであるため、制御装置4は、通常運転の積算時間をクリアし、終了する。
【0046】
(5)効果
以上、本実施形態では、エスカレータ1の設置環境、機種、仕様などにより1台毎で異なる正常状態を、現地据付、調整完了後、又は、定期検査後に専用運転を1回行うことでその号機の正常状態の動作データを採取し、その採取した動作データを基に各異常検出における閾値を算出することで、検出精度が要求される場合であっても、異常の誤検出の発生を削減し、異常の検出精度を向上できる。
【0047】
また、制御装置4が閾値を算出することにより、人的計算によって閾値を算出することが不要となり、計算ミスの防止に繋がるため、品質面も向上する。
【0048】
また、専用運転において、運転開始、運転中、及び、運転終了時に警報装置9によってアラーム、音声によるアナウンスなどの報知を行うことで、作業者に注意を喚起し、専用運転を行っている最中の事故を防止できる。
【0049】
また、閾値に関して許容範囲を設けているので、何らかの不具合により正常な値を算出できなかった場合でも、異常な値の閾値に設定されることがない。
【0050】
また、専用運転を実施せずに、エスカレータ1の通常運転を行った場合でも、制御装置4によって警告表示することで、作業者や保守員が後日確認でき、確実に専用運転を実施できる。また、本警告は、表示装置10による表示のみで、エスカレータ1を停止、又は、運転不能にするものでなく、仮に作業工程などの影響で専用運転が実施できなかった場合でも、初期閾値の精度で、運転を行うことができる。
【0051】
(6)変更例
上記実施形態では、異常を検出するための検出装置として手すりセンサで説明したが、これに代えて、ブレーキモータにおけるトルク値(動作データ)をトルクセンサで検出し、その閾値を制御装置4が専用運転で算出してもよい。また、それ以外の検出装置の閾値を算出してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、エスカレータ1で説明したが、これに代えて動く歩道に適用してもよい。
【0053】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1・・・エスカレータ、2・・・モータ、3・・・手すりベルト、4・・・制御装置、5・・・手すりベルト駆動装置、6・・・手すりセンサ、7・・・専用運転スイッチ、8・・・記憶部、9・・・警報装置、10・・・表示装置
常検出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアを動作させる動作機器の動作データを検出する検出手段と、
前記動作データが閾値を超えた場合に、前記動作機器が異常であることを検出する制御手段と、
を有する乗客コンベアにおいて、
前記制御手段は、前記閾値を設定するために行う専用運転時に前記検出手段からの動作データに基づいて前記閾値を算出し、予め設定された初期閾値を前記閾値に書き換える、
ことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記制御手段は、前記専用運転を行うための専用スイッチを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記制御手段は、前記専用運転の開始時、運転中、又は、終了時に報知を行う、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記制御手段は、前記閾値が、予め記憶した許容範囲を超えたときは報知を行い、前記初期閾値の書き換えを行わない、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記制御手段は、前記専用運転を行わずに通常運転を行った場合に、その旨を報知する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記専用運転は、前記乗客コンベアを現地に据え付けて調整が完了した後に行わか、又は、定期検査後に行う、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記動作機器が前記乗客コンベアの手すりベルトであって、前記検出手段が手すりベルトの速度を検出する手すりセンサである、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項8】
前記動作機器が前記乗客コンベアのブレーキモータであって、前記検出手段が前記ブレーキモータのトルクを検出するトルクセンサである、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−250835(P2012−250835A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126489(P2011−126489)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】