説明

乗用型作業機

【課題】昇降シリンダのような油圧機器を有する乗用型農作業機において、バルブユニットを他の部材に邪魔されずに安全な状態に配置する。
【手段】農作業機は走行機体1と苗植装置とを有する。走行機体1走行ミッションケース13を有しており、走行ミッションケース13にエンジンの動力が入力される。走行ミッションケース13にはHST33と油圧ポンプ41とが左右に振り分けて取り付けられており、また、パワーステアリングユニット32とバルブユニット42とが前後に振り分けた状態で取り付けられている。バルブユニット42を経由して昇降シリンダ6と苗植装置とに圧油が送られる。バルブユニット42は走行ミッションケース13の段部に配置されているため、安全である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば乗用型田植機のような乗用型作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用型農作業機の一例として例えば乗用型田植機がある。この乗用型田植機はエンジンが搭載された走行機体とその後ろに配置した苗植装置とを有しており、苗植装置はリンク機構によって走行機体に昇降自在に連結されている。リンク機構を油圧式の昇降シリンダで回動させることで、苗植装置が昇降するようになっている。また、走行機体は左右の前輪と後輪とを有しており、エンジンの動力は走行変速装置を介して前輪及び後輪に伝達される。
【0003】
田植機は、走行ミッションケースを必須部材とした走行変速装置を有しており、走行ミッションケースの内部に軸群、ギア群、シフター、走行クラッチ、デフ装置、ブレーキなどを配置している。走行ミッションケースは大きな負担がかかるため頑丈な構造になっており、そこで、走行ミッションケースとリアアクスルケースとを連結フレームで連結し、走行ミッションケースを走行機体の強度メンバー(骨組み)に兼用することが行われている。かかる構成にすることにより、走行機体の構造を簡素化して軽量化やコストダウンに貢献できる。
【0004】
さて、苗植装置は、フロート、苗載せ台、ロータリー式等の植付け機構などを有しており、植付け機構に設けた植付け爪で苗マットから苗を1株ずつ掻き取って圃場に植え付けているが、植付け機構は苗植装置の後部に配置されており、苗植装置のうちリンク機構との連結箇所と植付け爪の間に前後間隔が空いているため、走行機体又は苗植装置が圃場面の凹凸に起因して前傾したり後傾したりすると、植付け機構の補助面からの高さが変化し、その結果、植付け深さが適性深さよりも深くなったり浅くなったり変化してしまう。
【0005】
そこで、走行機体又は苗植装置の側面視での傾斜姿勢をポテンショメータ等の傾斜検知手段で検知し、その検知結果に基づいて昇降シリンダを伸ばしたり縮めたり制御し、これによって苗植装置の側面視での姿勢をできるだけ水平に近づけ、以って、苗の植え付け深さを一定化することが行われている。昇降シリンダの制御は電磁式のバルブユニットで行われており、従来、例えば特許文献1,2に示すように、バルブユニットは車体フレームにブラケットを介して取り付けられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−289826号公報
【特許文献2】特開2001−169621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、田植機の車体フレームは車体カバー(ステップ)で覆われており、このため車体フレームと車体カバーとの間に僅かしか空間がないことがあるが、バルブユニットはある程度の大きさがあるため、設置場所の選定に苦労することがあった。また、油圧源とバルブユニット、及びバルブユニットと昇降シリンダとはパイプで接続されるため、バルブユニットは任意の位置に配置できると言えるものの、バルブユニットが油圧源と昇降シリンダとから離れていると、田植機の組み立てが面倒になる等の不都合が生じるおそれがある。
【0008】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、バルブユニットの配置等に関して改良された乗用型作業機を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく、本願発明者たちは各請求項の発明を成した。このうち請求項1の発明に係る乗用型作業機は、走行ミッションケースを有する走行機体と、油圧機器を駆動する油圧源と、前記油圧源で駆動される油圧機器を制御するバルブユニットとを有しており、前記バルブユニットを前記走行ミッションケースに取り付けている。
【0010】
請求項2の発明は請求項1を具体化したもので、この発明では、前記バルブユニットで制御される油圧機器は前記走行機体に昇降自在に連結した苗植装置を昇降させるための昇降シリンダであって、前記走行機体の前後傾動姿勢を傾斜検知手段で検知し、前記傾斜検知結果に基づいて前記バルブユニットを作動させることで前記昇降シリンダが駆動されるようになっている。
【0011】
請求項3の発明は請求項1又は2を具体化したもので、この発明では、前記走行機体は左右の前輪と左右の後輪とて走行自在に支持されており、前記走行ミッションケースには、前輪を回転自在に支持する左右一対のフロントアクスル装置が取り付けられていると共に、後ろ向きに延びる連結フレームが固定されており、前記連結フレームに固定されたリアアクスルケースで後輪が回転自在に支持され、前記フロントアクスル装置とリアアクスルケースと連結フレームとで車体フレームが支持されており、更に、前記走行ミッションケースの後面は、その下部が後ろに位置して上部が手前に位置するように側面視で段違いになっており、前記後面のうち下部に前記連結フレームを固定して上部に前記バルブユニットを固定している。
【0012】
請求項4の発明は請求項1〜3を具体化したもので、この発明では、前記走行ミッションケースに、エンジンから動力伝達される入力軸で駆動される油圧ポンプを取り付けており、前記油圧ポンプを前記油圧源と成している一方、前記走行ミッションケースを前記油圧ポンプに供給される作動油のタンクに兼用している。
【0013】
請求項5の発明は請求項3又は4を具体化したもので、この発明では、前記走行ミッションケースにおける左右側面のうち一方の側面に、入力軸及び出力軸を左右横長の姿勢とした無段変速機が取り付けられており、前記走行ミッションケースにおける他方の側面に、前記無段変速機の入力軸で駆動される前記油圧ポンプが配置されており、かつ、前記走行ミッションケースの前部には油圧式のパワーステアリングユニットを取り付けており、前記油圧ポンプで発生した圧油が前記パワーステアリングユニットを経由して前記バルブユニットに供給されている。
【発明の効果】
【0014】
さて、例えば乗用型田植機では走行ミッションケースは車体カバーの下方に配置されており、走行ミッションケースの外側にはデッドスペースが広がっていることが多い。そして、請求項1の発明では、ミッションケースの外側にあるデッドスペースを有効利用してバルブユニットを配置できるため、それだけ設計の自由性を向上できる。また、走行ミッションケースとバルブユニットとを1つにユニット化できるため、作業機の組み立て作業の手間や部材管理・保管の手間も軽減できる。
【0015】
請求項2の発明は田植機に適用したものであるが、田植機では車体カバーと車体フレームとの間には余分な空間がないことが多いため、本願発明を適用すると特に有益であると言える。
【0016】
請求項3のように構成すると、走行ミッションケースを走行機体の強度メンバーに兼用できて、走行機体の構造の簡素化や軽量化に貢献できる。そして、バルブユニットは走行ミッションケースの段部に固定されており、走行ミッションケース自身と連結フレームとで下方からガードされた状態になっているため、例えば石ころが跳ね上がってもバルブユニットに当たることはないのであり、このため高い安全性を確保できる。
【0017】
油圧源としては一般に油圧ポンプが使用されており、この油圧ポンプはエンジンが運転されている限り常に回転し続けている。そして、エンジンの動力は走行ミッションケースの内部に入力されるため、請求項4のように構成すると、走行ミッションケースと油圧ポンプとが一体化することと、走行ミッションケースがオイルタンクとして機能することとにより、いわば走行ミッションケースが油圧ユニットに兼用される。このため、全体の構造を簡素化できる。
【0018】
乗用型田植機を初めとした近年の乗用型農作業機では、走行フィーリングを向上させるためにHST(静油圧式無段変速機)等の無段変速機を搭載することが多い。この場合、一般に無段変速機は走行ミッションケースに取り付けられており、エンジンの動力は無段変速機の入力軸に伝達される。そして、本願の請求項5の構成を採用すると、無段変速機と油圧ポンプとが走行ミッションケースの左右両側に振り分けた状態で配置されるため、左右バランスが取れて油圧ポンプの駆動系統も無理のないシンプルな形態になる。
【0019】
また、油圧駆動式のパワーステアリングユニットも走行ミッションケースに取り付けているため、油圧ポンプとパワーステアリングユニットとバルブユニットとが走行ミッションケースに一体化されることになり、その結果、作業機の組み立てや部材管理の手間を著しく軽減できる。請求項5において、無段変速機にHSTを採用すると、HSTの作動油も油圧ポンプから供給できるため、油圧関連の機器類が走行ミッションケースに組み込まれることになって、作業機全体としてのコンパクト化に一層貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る田植機の側面図である。
【図2】田植機全体の平面図である。
【図3】走行機体の概略を示す側面図である。
【図4】走行機体の概略を示す底面図である。
【図5】(A)は走行機体の部分的な平面図、(B)は走行ミッションケースの平面図である。
【図6】走行機体の骨組みを示す斜視図である。
【図7】油圧回路図である。
【図8】走行ミッションケースとこれに取り付く部材との分離平面図である。
【図9】昇降機構を示す図で、(A)は右側から見た斜視図、(B)は左側から見た分離斜視図である。
【図10】配管を表示した状態での要部の分離斜視図である。
【図11】(A)は配管を省略した状態での要部の分離斜視図、(B)は分離側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本願発明を乗用型田植機(以下、単に「田植機」という)に適用した実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では方向を特定するために「前後」「左右」の文言を使用するが、これは、前進方向を向いたオペレータの姿勢を基準にしている。
【0022】
(1).田植機の概要
図1,2示すように、田植機は、走行機体1とその後ろに配置した苗植装置2とを有している。走行機体1は左右の前輪3及び左右の後輪4で走行自在に支持されている。苗植装置2は昇降リンク機構5を介して走行機体1に昇降自在に連結されており、昇降リンク機構5を油圧式の昇降シリンダ6で回動させることで苗植装置2が昇降する。
【0023】
明瞭には表示していないが苗植装置2はフレーム構造体を有しており、このフレーム構造体に、ロータリー式植付け機構7、苗載せ台8、フロート9等を設けている。整地ロータ12も設けている。本実施形態の田植機は8条植であり、従って8個の植付け機構7を有している。図示していないが、走行機体1の後部には施肥装置を取り付けることができる。
【0024】
図3〜6に示すように、走行機体1は機体フレーム10を有しており、機体フレーム10の前部でエンジン12を支持している。エンジン12の後ろには走行ミッションケース13が配置されており、走行ミッションケース13の前部にスペーサ14を介して左右のフロントアクスル装置15が取り付けられており、左右のフロントアクスル装置15に前輪3が水平旋回自在に取り付けられている。後輪4はリヤアクスルケース16に取り付けられており、走行ミッションケース13とリアアクスルケース16とは円筒状の連結フレーム17で連結されている。
【0025】
例えば図4に示すように、機体フレーム10は、走行機体1の前部に位置された左右の前側サイドフレーム10a、左右前側サイドフレーム10aの前端に連結された左右横長のフロントフレーム10b、左右前側サイドフレーム10aの後端に連結された左右横長のミドルフレーム10c、ミドルフレーム10cから後ろ向きに延びる左右の後ろ側サイドフレーム10d、後ろ側サイドフレーム10dの後端に固定された左右横長のリアフレーム10eを有しており、リアフレーム10eはリア支柱18を介してリアアクスルケース16で支持されている。リアアクスルケース16には左右横長のステー19が固定されており、リア支柱18の下端はステー19に固定されている。
【0026】
連結フレーム17とミドルフレーム10cとは、正面視U形で側面視では前傾した第1補強フレーム21で連結されている。図示していないが、燃料タンク用は平面視において第1補強フレーム21で前側から囲われた状態に配置されている。第1補強フレーム21とリアアクスルケース16とは左右一対の第1補強フレーム22で連結されている。ミドルフレーム10cは前側サイドフレーム10aの左右外側に張り出しており、張出部に補助フレーム類が取り付けられている。
【0027】
左右の前側サイドフレーム10aには上向きに開口U形の前後2本のエンジンフレーム23が固定されており、エンジンフレーム23でエンジン12を支持している。エンジン12はクランク軸が左右方向を向くように横置きしている。エンジン12と走行ミッションケース13とは前部ブラケット24を介して連結されている。
【0028】
エンジン12はボンネント25で覆われており、ボンネット25の左右両側に予備苗台26を配置している。ボンネット25の後ろ側に運転席27を配置している。走行機体1はオペレータが載る車体カバー(ステップ)28を有している。運転席27の前方に回転式の操向ハンドル29を配置している。
【0029】
図5(A),図6に示すように、フロントアクスル装置15は、前側サイドフレーム10aにブラケット30を介して固定された固定支持部15aと、固定支持部15aに略水平回転可能に取り付けられた回動支持部15bとから成っており、回動支持部15bに設けた前車軸に前輪3を取り付けている。回動支持部15bにタイロッド31が相対回動可能に連結されている。そして、操向ハンドル19を回転操作すると、パワーステアリングユニット32を介して左右のタイロッド31が逆方向に同時に動き、これによって左右の前輪3が同じ方向に水平旋回する。
【0030】
例えば図7に示すように、走行ミッションケース13の左側面にはHST33を装着している。HST33は、入力軸34で駆動される油圧ポンプ33aと、油圧ポンプ33aで駆動される油圧モータ33bとを有している。入力軸34にエンジン12の出力軸からベルト35を介して動力が伝達される。入力軸34には冷却用のファン36を固定している。油圧モータ33bの動力は遊星歯車機構73を介して出力される。従って、HST33と遊星歯車機構73とが共働してHMT(油圧機械式無段変速機)を構成している。
【0031】
HST33で変速された動力は、ギア群よりなる副変速機構を介してフロントアクスル装置10を介して前輪3に伝達されると共に、ドライブ軸40(例えば図6参照)を介してリアアクスルケース16の内部に伝達され、ここから後輪4に伝達される。また、例えば図5に示すように、走行ミッションケース13の右側面部からは作業動力軸40′が後ろ向きに突出しており、作業動力軸40′の回転は株間ケース16′(図6参照)及びPTO軸40″(図1参照)を介して苗植装置2に伝達される。
【0032】
敢えて述べるまでもないが、HST33の入力軸34及び出力軸は左右横長の姿勢になっている。また、HST33は、油圧ポンプ33aが手前で油圧モータ33bが後ろに位置するように配置されている。
【0033】
良く知られているように、HST33には、油圧ポンプの動力が油圧モータに伝達される割合を制御するための斜板が内蔵されており、この斜板は、例えば図5(B)に示す制御軸37を回転することで駆動される。他方、図4に示すように、操縦フロアのうち平面視で走行ミッションケース13よりも右側の部位には変速ペダル38を設けている。変速ペダル38の回動角度(踏み込み量)はポテンショメータで検知される。
【0034】
そして、ポテンショメータの検知信号に基づいて制御モータ(図示せず)を駆動し、この制御モータによって動くリンク装置(図示せず)で制御軸37を回転させることにより、HST33における油圧ポンプから油圧モータへの動力伝達割合が変化し、これにより、変速ペダル38の踏み込み量に応じて車速が無段階に調節される。
【0035】
図3に示すように、操向ハンドル29はハンドルポスト39に取り付けられており、操向ハンドル29を回転させるとハンドルポスト39に内蔵したハンドル軸が回転し、ハンドル軸の回転トルクがパワーステアリングユニット32で増幅されてタイロッド31に伝達される。
【0036】
例えば図5,6に示すように、走行ミッションケース13の右側面には油圧源の一例としてのポンプユニット41が取り付けられており、また、走行ミッションケース13の後端にはバルブユニット42が固定されている。
【0037】
(2).構造の詳細
次に、図7以下の図面も参照してバルブユニット42を中心にした部分の詳細を説明する。例えば図8に示すように、走行ミッションケース13は深さが深い本体部13aとこれを塞ぐ蓋部13bとで構成されており、その内部に軸やギア、走行クラッチ、ブレーム、デフ装置などが配置されている。走行ミッションケース13はオイルタンクも兼用しており、ポンプユニット41にはオイルフィルター43(図7参照)を介して作動油が供給される。
【0038】
図7に示すように、ポンプユニット41はチャージポンプ41aと補助ポンプ41bとを並設したタンデム型であり、両ポンプ41a,41bはHST24の入力軸34で駆動される。HST33は走行ミッションケース13の本体部13aに固定されており、油圧ポンプ41は走行ミッションケース13の蓋部13bに固定されている。
【0039】
チャージポンプ41a及び補助ポンプ41bには、オイルフィルター43を介してオイルが吸入される。HST33の入力軸34はエンジンが運転されている限り常に回転しており、従って、チャージポンプ41a及び補助ポンプ41bも常に回転している。チャージポンプ41aで発生した圧油はHST33の作動油供給ポートに第1パイプ53で送られる。補助ポンプ41bで発生した圧油はパワーステアリングユニット32に第2パイプ54で送られる。HST33から排出された余剰油やリーク油は第3パイプ55で走行ミッションケース9に戻る。
【0040】
なお、図5に一点鎖線で示すように、第3パイプ55の中途部にオイルクーラ55′を介在させるというように、HST33とステアリク支持部44との間に冷却手段を配置することも可能である。
【0041】
走行ミッションケース13における本体部13aの前端面の下部にはステアリグ支持部44を突設しており、このステアリグ支持部44にパワーステアリングユニット32を取り付けている。また、既述したフロントブラケット24(図5参照)は本体部13aのステアリグ支持部44にボルトで連結されている。パワーステアリングユニット32は油圧ポンプやステアリングギア等を有している。
【0042】
例えば図10から明瞭に把握できるように、走行ミッションケース13を構成する本体図13aの後面は、略上半部を構成する上部後面45が手前に位置して、略下半部を構成する下部後面46が後ろに位置しており、このため本体部13aの後面は段違いになっている。換言すると、上下後面45,46の間は段部になっている。そして、上部後面45にバルブユニット42を固定して、下部後面46に連結フレーム10を固定している。連結フレーム17の前端にはフランジ17aを設けており、フランジ17aをボルト17bで走行ミッションケース13お下部後面46に締結している。
【0043】
上下後面45,46には後ろ向きに開口した空所が形成されており(肉厚をできるだけ均等化するためである)、その周縁やボス部に雌ねじ穴47を空けている。バルブユニット42は本体ブロック49を有している。図11(B)に示すように、本体ブロック49の下端部にフランジ49aが形成されていて、このフランジ49aが頭付きボルト50で上部後面45に固定されている。他方、本体ブロック49の上部には上方と左右側方とに開口して凹所51が形成されており、この凹所51に配置したナット52を上部後面45に突設したスタッドボルト52′にねじ込んでいる。
【0044】
パワーステアリングユニット32から排出された作動油はバルブユニット42の入力ポートに送られ、ここから分岐して第4パイプ56で昇降シリンダ6に送られると共に、第5パイプ57によって苗植装置用のローリング制御装置58′に送られる。昇降シリンダ6と走行ミッションケース13とはドレンパイプである第7パイプ59で接続されており、また、ローリング制御装置58′と走行ミッションケース13もドレンパイプである第8パイプ60で接続されている。
【0045】
例えば図9に示すように、昇降シリンダ6は側面視で鉛直節に対して後傾した姿勢に配置されており、基端部を中心にして側面視で傾動するようにブラケット62を介して連結フレーム17に取り付けられてている。他方、例えば図6に示すように、昇降リンク機構5はトップリンク63とロアリンク64とで構成されており、両リンク63,64の後端はヒッチ65に相対回動自在に連結されている。詳細は省略するが、ヒッチ65にキングピンを介して苗植装置が連結されている。
【0046】
図6から理解できるように、トップリンク63及びロアリンク64の前端はそれぞれ左右のリア支柱15に横長の上部支軸66及び下部支軸67(図9も参照)を介して回動自在に連結されている。そして、ロアリンク64の後端部に前後長手の駆動リンク68を横長軸69で回動自在に連結していると共に、ロアリンク64の前端から斜め上向きに突設した補助リンク70の上端と駆動リンク68の前端とを左右横長のピン71で連結し、昇降シリンダ6おけるピストンロッド6aの先端にピン71を貫通させている。
【0047】
従って、ピストンロッド6aが後退すると駆動リンク68はその後端が上昇するように回動し、これによって苗植装置1は上昇する。第5パイプ57は昇降シリンダ6の前端部に接続されており、第7パイプ59は昇降シリンダ6の基端部に接続されている。つまり、ピストンロッド6aは苗植装置2の重量によって常に前進し勝手となっており、昇降シリンダ6の前端部に圧油を送ることでピストンロッド6aが後退して苗植装置2が上昇する。第5パイプ57から圧油が戻るとピストンロッド6aが前進して苗植装置2は下降する。従って、第5パイプ57への圧油の供給を制御することで苗植装置2を昇降させることができる。
【0048】
苗植装置2はヒッチ65に対して左右ローリング可能に連結されている。そして、左右方向の傾斜センサ(図示せず)の信号に基づいて苗植装置ローリング制御装置58′を駆動することにより、苗植装置2の左右傾きを補正して各条の苗の植付け深さを均等化できる。
【0049】
バルブユニット42は、圧油の流れを昇降シリンダ6と苗植装置ローリング制御装置58′とに分ける分流弁74、昇降シリンダ6への圧油の流れを制御する昇降制御弁75と昇降電磁弁76、昇降制御用電磁弁75への圧油の流れ方向を制御するための一対の電磁制御弁77、圧油を走行ミッションケース13に戻すリリーフ弁78を有している。なお、分流弁74も油圧機器の制御部材に該当する。
【0050】
電磁制御弁77をON・OFF制御して昇降制御弁75のスプルーを軸方向に移動させることにより、昇降シリンダ6への圧油の供給・停止・戻りが選択され、これによって苗植装置1の側面視での姿勢が制御される。電磁制御弁77は、走行機体1又は苗植装置2に設けたポテンショメータ(或いは傾斜センサ:図示せず)からの信号によって行うことが多いが、機械的連動手段で駆動することも可能である。
【0051】
本実施形態では、昇降制御弁75は、急上昇ポート79、ゆっくり上昇ポート80、ゆっくり下降ポート81、急下降ポート82を有しており、昇降制御弁75からの圧油供給口及び戻し口をこれらのポートに選択的に連通させることで苗植装置2の昇降制御が的確に行われる。苗植装置2は例えば調整等のために手動操作したい場合がある。そこで、昇降制御弁75には手動操作ロッド83を設けている。手動操作ロッド83は、走行機体1の側部から人が手を伸ばして操作することができる。
【0052】
苗植装置ローリング制御装置58はローリングシリンダ84とこれを制御する電磁バルブ85とを有している。ローリングシリンダ84はその両端から突出した一対のピストンロッド85aを有しており、中立位置を境にしてピストンロッド85aの突出状態を変えることでローリング姿勢が制御される。
【0053】
(3).まとめ
以上の構成において、走行ミッションケース13は車体カバー28の下方に配置されているが、走行ミッションケース13の周囲は広いデッドスペースになっている。そして、バルブユニット42は車体カバー28の下方の広いデッドスペースを利用して走行ミッションケース13に固定しているため、ある程度の大きさがあるバルブユニット42でも支障なく配置できる。
【0054】
また、バルブユニット42は走行ミッションケース13の上部後面に固定しているため、バルブユニット42は走行ミッションケース13自身と連結フレーム17とによって下方から保護されており、このため、例えば小石の跳ね上がりがあっても的確に保護される。
【0055】
更に、本実施形態では、油圧関連機器としてHST33とパワーステアリングユニット32と油圧ポンプ41とバルブユニット42とが走行ミッションケース13に取り付けられているのみならず、走行ミッションケース13がオイルタンクも兼用しているため、油圧関連の部材や機器類が走行ミッションケース13を中心にしてユニット化されており、このため田植機の組み立ての手間を軽減できると共に、部材の管理・保管の手間も軽減できる。
【0056】
バルブユニット42は走行ミッションケース13の蓋部13bに設けることも可能であるが、本実施形態のように本体部13aに設けると、バルブユニット42は固定したままで蓋部13bを取り外しできるため、走行ミッションケース13の内部に配置した部材のメンテナンスや交換の手間を軽減できる利点がある。また、本実施形態では、苗植装置ローリング制御装置58との関係ではバルブユニット42に分流弁74を設けているだけであるが、苗植装置ローリング制御装置58の制御弁85をバルブユニット42に設けることも可能である。
【0057】
(4).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象は田植機には限らず、他の乗用型農作業機にも適用できる。更に、バルブユニットの構造や機能は必要に応じて選択できる。更に、バルブユニットの配置位置は走行ミッションケースの後面には限らず、走行ミッションケースの側面等の他の部位に固定することも可能である。
【0058】
バルブユニットを保護するカバーを設けることも可能である。バルブユニットを走行ミッションケースの段部に配置する場合、段部を走行ミッションケースを左又は右の側面に設けた前面に設けたりすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本願発明は田植機等の乗用型農作業機に具体化して有用性を発揮する。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 走行機体
2 苗植装置
5 昇降リンク機構
6 昇降シリンダ
12 エンジン
13 走行ミッションケース
15 フロントアクスル装置
16 リヤトアクスルケース
17 車体フレーム
28 車体カバー(ステップ)
32 パワーステアリングユニット
33 無段変速機の一例としてのHST
34 HSTの入力軸
41 油圧源としての油圧ポンプ
42 バルブユニット
45 走行ミッションケースの上部後面
46 走行ミッションケースの下部後面
49 本体ブロック
58 苗植装置ローリング制御装置
75 昇降制御弁
84 苗植装置ローリング制御装置の制御バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行ミッションケースを有する走行機体と、油圧機器を駆動する油圧源と、前記油圧源で駆動される油圧機器を制御するバルブユニットとを有しており、前記バルブユニットを前記走行ミッションケースに取り付けている、
乗用型作業機。
【請求項2】
前記バルブユニットで制御される油圧機器は前記走行機体に昇降自在に連結した苗植装置を昇降させるための昇降シリンダであって、前記走行機体の前後傾動姿勢を傾斜検知手段で検知し、前記傾斜検知結果に基づいて前記バルブユニットを作動させることで前記昇降シリンダが駆動されるようになっている、
請求項1に記載した乗用型作業機としての乗用型農作業機としての乗用型田植機。
【請求項3】
前記走行機体は左右の前輪と左右の後輪とて走行自在に支持されており、前記走行ミッションケースには、前輪を回転自在に支持する左右一対のフロントアクスル装置が取り付けられていると共に、後ろ向きに延びる連結フレームが固定されており、前記連結フレームに固定されたリアアクスルケースで後輪が回転自在に支持され、前記フロントアクスル装置とリアアクスルケースと連結フレームとで車体フレームが支持されており、
更に、前記走行ミッションケースの後面は、その下部が後ろに位置して上部が手前に位置するように側面視で段違いになっており、前記後面のうち下部に前記連結フレームを固定して上部に前記バルブユニットを固定している、
請求項1又は2に記載した乗用型作業機。
【請求項4】
前記走行ミッションケースに、エンジンから動力伝達される入力軸で駆動される油圧ポンプを取り付けており、前記油圧ポンプを前記油圧源と成している一方、前記走行ミッションケースを前記油圧ポンプに供給される作動油のタンクに兼用している、
請求項1〜3のうちのいずれかに記載した乗用型作業機。
【請求項5】
前記走行ミッションケースにおける左右側面のうち一方の側面に、入力軸及び出力軸を左右横長の姿勢とした無段変速機が取り付けられており、前記走行ミッションケースにおける他方の側面に、前記無段変速機の入力軸で駆動される前記油圧ポンプが配置されており、かつ、前記走行ミッションケースの前部には油圧式のパワーステアリングユニットを取り付けており、前記油圧ポンプで発生した圧油が前記パワーステアリングユニットを経由して前記バルブユニットに供給されている、
請求項3又は4に記載した乗用型作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−50409(P2012−50409A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197644(P2010−197644)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】