説明

乳化重合用乳化剤

【課題】乳化力及び重合安定性の良好なカチオン系の反応性界面活性剤を提供する。
【解決手段】下記の一般式(1)で表される乳化重合用乳化剤および該乳化重合用乳化剤を使用して得られた重合体。


[Rは、炭素数12〜24の炭化水素基又は炭素数3または4のポリオキシアルキレン基を表し、A及びBは、それぞれ炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基又は炭素数2〜4のポリオキシアルキレン基を表し、Xはハロゲン原子又はCHSOのいずれかを表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化重合のときに使用する反応性で且つカチオン性の乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から樹脂エマルションは、塗料、接着剤、粘着剤、コーティング剤、水性インク、セメント、モルタル、カーワックス等様々な分野に使用されている。これらの用途に使用される樹脂エマルションは、例えば、各種モノマーを乳化重合することによって製造されるが、その製造時には乳化剤が必要となる。乳化剤には、各種ノニオン界面活性剤やアニオン界面活性剤が使用されているが、近年では各種モノマーと共重合し、得られる樹脂エマルションの耐水性等を改善する反応性乳化剤も使用されている。これらの反応性乳化剤を使用すると得られる樹脂の物性が上がるため、最近はその使用量が増加している。
【0003】
反応性乳化剤には、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤等の様々な活性剤が提案されている。例えば、特許文献1には、一般式
【化1】

(式中、Aは炭素数2〜4のアルキレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、R及びRは同一でも相異なっても良く、水素原子または炭素数1〜4の炭化水素基であり、Rは炭素数8〜24の炭化水素基またはアシル基であり、mは0〜50の数であり、Xは水素原子、またはノニオンまたはアニオンまたはカチオンまたは両イオン系の親水基である)で示されることを特徴とする新規反応性界面活性剤が開示されている。
【0004】
更に、特許文献2には、下記の一般式(I)で表わされる乳化重合用乳化剤
【化2】

[但し式中Rは炭素数6〜30のアルキル基、Rは水素またはプロペニル基、Aは炭素数2〜4のアルキレン基または置換アルキレン基、nは1〜200の整数であり、nは2以上の場合、(AO)は、下式(i)であってもよいし、下式(ii)で示される、異なる置換基A(A、A、・・・)を有する2種以上の繰り返し単位からなるブロックポリマーまたはランダムポリマーであってもよい。]
【化3】

が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、下記一般式(I)で表わされる乳化重合用乳化剤
【化4】

[但し、式中、Rは炭素数6〜30のアルキル基、Rは水素またはプロペニル基、MはNHおよび/またはアルカノールアミン残基、アルカリ金属原子である。Aは炭素数2〜4のアルキレン基または置換アルキレン基であり、nは0または1〜200の整数であり、nが2以上の場合、(AO)nは、下式(i)で示される、1種の繰り返し単位からなるホモポリマーであってもよいし、下式(ii)で示される、異なる置換基A(A、A、・・・)を有する2種以上の繰り返し単位からなるブロックポリマーまたはランダムポリマーであってもよい。]
【化5】

が開示されている。
【0006】
更に、特許文献4には、下記の一般式(I)
【化6】

[(式中、Rは分岐脂肪族炭化水素基、2級脂肪族炭化水素基又は分岐の脂肪族アシル基を表わし、AO及びAO’は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表わし、Lは下記の一般式(2)で表わされる基を表わし、zは1〜10の数を表わし、Xは水素原子又はイオン性親水基を表わし、mは0〜1,000の数を表わし、nは0〜1,000の数を表わす。)
【化7】

(式中、R及びRは水素原子又はメチル基を表わし、xは0〜12の数を表わし、yは0又は1の数を表わす。)]で表わされる界面活性剤が開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、分子内にアリル基を含有するカチオン性反応性乳化剤として、下記一般式
【化8】

(式中、Rは置換基を有してもよい炭素数8〜22の炭化水素基を表わし、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を表わし、Rは水素原子またはメチル基を示し、Aは1価の陰イオンを表わす)で示される第四級アンモニウム塩を含有する反応性乳化剤が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平8−041112号公報
【特許文献2】特開平11−349610号公報
【特許文献3】特開平11−349612号公報
【特許文献4】特開2002−301353号公報
【特許文献5】特開平8−170035号公報[0032]〜[0034]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の反応性乳化剤は、樹脂エマルションの性能を大幅に改善するが、主に使用されているのはノニオン系とアニオン系の反応性乳化剤である。従来のカチオン系の反応性乳化剤は、モノマーを乳化する能力(乳化力)が弱く、ノニオン系やアニオン系と比較すると重合安定性が悪くなる傾向にあるため凝集物等が発生しやすい。よって乳化重合においては、一般的にカチオン系の反応性乳化剤は使用されていないのが現状である。
【0010】
このように、一般的なカチオン系の乳化剤は、ノニオン系やアニオン系ほど乳化特性が良くないという欠点があるが、カチオン系の乳化剤を使用した樹脂エマルションには、ノニオン系やアニオン系にはない特性がでることが知られている。樹脂エマルションの用途は、塗料や接着剤等、物質の上に塗布する用途が多い。通常の物質は主に負に帯電しているが、カチオン系の乳化剤を使用した樹脂エマルションは正に帯電しているため、電気的な吸着を伴って物質との密着性が上がるという利点がある。こうしたことから市場では、乳化力及び重合安定性の良好なカチオン系の反応性界面活性剤が求められていた。
【0011】
従って、本発明の目的は、乳化力及び重合安定性の良好なカチオン系の反応性界面活性剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者等は鋭意検討し、乳化に最適なカチオン系の反応性界面活性剤の構造を見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、下記の一般式(1)
【化9】

[Rは、炭素数12〜24の炭化水素基又は下記の一般式(2)で表される基を表し、A及びBは、それぞれ炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基又は下記一般式(3)で表される基を表し、Xはハロゲン原子又はCHSOのいずれかを表す。)
【化10】

(Rは、炭素数3又は4のアルキレン基を表し、nは5〜50の数を表す。)
【化11】

(Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、mは1〜100の数を表す。)
で表される乳化重合用乳化剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果は、乳化力及び重合安定性の良好なカチオン系の反応性界面活性剤を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一般式(1)におけるRは、炭素数12〜24の炭化水素基を表し、例えば、ドデシル基、イソドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、イソテトラデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ステアリル基、イソステアリル基、エイコシル基、ドコシル基等のアルキル基;ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基、リノール基等のアルケニル基;ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等のアリール基が挙げられる。これらの炭化水素基の中でも、乳化性が良好なことから脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数14〜20のアルキル基がより好ましく、炭素数16〜18のアルキル基が更に好ましい。炭素数が12より小さい場合や24より大きい場合は、いずれの場合も乳化力が劣り、乳化重合時に凝集物が発生したり、機械安定性が悪くなることがある。
【0015】
また、Rは、下記の一般式(2)で表されるポリエーテル基であってもよい:
【化12】

(Rは、炭素数3又は4のアルキレン基を表し、nは5〜50の数を表す。)
【0016】
は、炭素数3又は4のアルキレン基であるが、こうした基としては、例えば、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、イソブチレン基等が挙げられる。これらのポリエーテル基は通常、プロピレンオキシドやブチレンオキシドの付加重合によって得ることができる。また、nの値は5〜50であるが、乳化力が良好なことから8〜40が好ましく、10〜30がより好ましい。nの値が5未満であると乳化力が不足し、50より大きくなると水溶性が低下して、いずれの場合も乳化重合時に凝集物が発生したり、機械安定性が悪くなったりする。
【0017】
一般式(1)におけるRは、炭素数12〜24の炭化水素基又は一般式(2)で表される基であるが、凝集物が発生しにくいことから、Rは、炭素数12〜24の炭化水素基であることが好ましい。
【0018】
一般式(1)におけるA及びBは、それぞれ独立した炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基又は一般式(3)で表される基を表す。炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャルブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、イソテトラデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ステアリル基、イソステアリル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基等が挙げられる。これらの中でも、乳化力が良好で凝集物の発生が少ないことから、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、ブチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0019】
また、一般式(3)におけるRは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、例えば、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、イソブチレン基等が挙げられる。mは1〜100の数を表し、−(R−O)−Hは、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等、炭素数2〜4のアルキレン基それぞれ単独の重合体であっても、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基から選ばれる2種以上のブロック状あるいはランダムの重合体でもかまわない。
【0020】
A及びBの組み合わせについては、脂肪族炭化水素基同士、ポリエーテル基同士、または脂肪族炭化水素基とポリエーテル基のいずれの組み合わせでもよいが、乳化力が良好なことから、脂肪族炭化水素基同士又はポリエーテル基同士の組み合わせが好ましい。
【0021】
一般式(3)のポリエーテル基は、炭素数2〜4のアルキレンオキシドから誘導されることが好ましく、アルキレンオキシドの単独重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれでもよい。なお、mが1や2のときは一般的に重合体とは呼ばないが、便宜上、一般式(3)で表される化合物をここでは全て重合体と呼ぶ。これらの重合体の中でも、乳化力が良好なことから、Rはエチレン基を含有する重合体であることが好ましく、エチレン基がm個あるR2の50%以上であることがより好ましく、エチレン基が80%以上であることが更に好ましく、全てエチレン基であることが最も好ましい。また、同様に乳化力が良好なことから、mの値は1〜50であることが好ましく、1〜30であることがより好ましく、1〜10であることが更に好ましい。
【0022】
一般式(1)におけるXは、ハロゲン原子又はCH3OSO(モノメチル硫酸)の中から選ばれるが、Cl(塩素原子)、Br(臭素原子)、CH3OSO(モノメチル硫酸)が好ましく、原料事情に優れていることからClであることがより好ましい。
【0023】
一般式(1)で表される化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、アルキルジメチルアミン等の3級アミン化合物にアリルクロライドで4級化させる方法、アルキルアリルメチルアミン等のアリル基含有の3級アミン化合物を、メチルクロライドやメチルブロマイド、ジメチル硫酸等で4級化させる方法、アルキルアミン等の1級アミン化合物や、アルキルメチルアミン等の2級アミン化合物にアルキレンオキシドを反応させた後にアリルクロライドで4級化させる方法、アルキルアリルアミン等のアリル基含有の2級アミン化合物にアルキレンオキシドを反応させた後に、メチルクロライドやメチルブロマイド、ジメチル硫酸等で4級化させる方法等が挙げられる。
【0024】
これらの反応で得られる生成物には固体になるものもあり、そうしたものを製造する場合には溶媒を使用することが好ましい。溶媒としては、水やメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンゼン、トルエン、ヘキサン等の有機溶媒を使用することができるが、得られた生成物は乳化重合(水系)に使用するため、水またはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の水溶性有機溶媒を使用することが好ましく、水を使うことがより好ましい。また、アルキル鎖長の長いものになると、水への溶解性が低くなったり融点が上がったりするため、溶媒が水だけであると固形物が析出する場合があるので、水に1〜50質量%の水溶性有機溶媒を添加してもよい。これらの溶媒の添加量は、反応固形物全体に対して10〜200質量%になるように添加するのが好ましい。
【0025】
3級アミン化合物をアリルクロライドやメチルクロライド等で4級化させる方法は公知の方法であれば特に限定されないが、例えば、等モル量の3級アミン化合物とアリルクロライドを、40〜100℃で1〜20時間混合撹拌すればよく、メチルクロライド等の沸点の低い化合物を使用する場合には、オートクレーブ等の密閉容器で、常圧〜1MPaの圧力で、40〜100℃で1〜20時間混合撹拌すればよい。
【0026】
アルキレンオキシドを付加する方法は、公知の方法をいずれも使用ことができる。最も一般的な方法としては、例えば、触媒の存在下、0.03MPa〜1MPaの圧力下、50℃〜180℃で反応する方法であるが、反応温度は70℃〜160℃が好ましく、80℃〜150℃が更に好ましい。反応温度が50℃以下になると、反応速度が遅くなるため反応が終結しない場合があり、反応温度が180℃を超えると、着色等の問題が生じる場合がある。また、圧力が0.03MPaより低いと、反応装置内に入れることのできるアルキレンオキシドの量が少なすぎて、反応時間がかかってしまう場合があり、1MPaを超えると、反応装置内のアルキレンオキシドの量が多くなり、反応を制御することが困難になる場合がある。
【0027】
使用できる触媒としては、例えば、硫酸やトルエンスルフォン酸などの強酸;四塩化チタン、塩化ハフニウム、塩化ジルコニウム、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、塩化鉄、塩化スズ、フッ化硼素等の金属ハロゲン化物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ソヂウムメチラート、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アルコラート物、炭酸塩;酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ナトリウム等の金属酸化物;テトライソプロピルチタネート、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキサイド等の有機金属化合物が挙げられる。
【0028】
本発明の乳化重合用乳化剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分と併用することができる。その他の成分としては、例えば、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、アルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤;ステアリルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ポリジメチルジアリルアンモニウム等のカチオン性界面活性剤;アルキルカルボベタイン、アミドプロピルカルボベタイン、イミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤;アルキルアミンオキサイド等の半極性界面活性剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、エタノール、パラトルエンスルホン酸等の溶剤;エチレンジアミン4酢酸塩(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(HEDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、アスパラギン酸−N,N−ジ酢酸、N−ヒドロキシエチルイミノジ酢酸又はこれらの塩等のアミノカルボン酸類、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、酒石酸又はこれらの塩等のオキシカルボン酸類等の金属イオン封鎖剤;硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム(芒硝)、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等の無機塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ;モノエタノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、N−エチルモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、アミノエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム−オレフィン共重合体等の分散剤;増粘剤等を含有することができる。
【0029】
本発明の乳化重合用乳化剤は、通常の使用量の範囲で任意に使用することができるが、概ね原料モノマーに対して、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.2〜10重量%、更に好ましくは0.5〜8重量%添加して使用することができる。又、本発明の乳化重合用乳化剤と他の反応性又は非反応性乳化剤との併用も可能であるが、アニオン系の乳化剤とはコンプレックスを作ってしまうために併用はできない。
【0030】
乳化重合する原料モノマーに特に制限はないが、乳化重合時の安定性が良好なことから、アクリレート系エマルション、スチレン系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、SBR(スチレン/ブタジエン)エマルション、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)エマルション、BR(ブタジエン)エマルション、IR(イソプレン)エマルション、NBR(アクリロニトリル/ブタジエン)エマルション等を製造する時に使用するのが好ましい。
【0031】
アクリレート系エマルションとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(エステル)同士、(メタ)アクリル酸(エステル)/スチレン、(メタ)アクリル酸(エステル)/酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸(エステル)/アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸(エステル)/ブタジエン、(メタ)アクリル酸(エステル)/塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸(エステル)/アリルアミン、(メタ)アクリル酸(エステル)/ビニルピリジン、(メタ)アクリル酸(エステル)/アルキロールアミド、(メタ)アクリル酸(エステル)/N,N―ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸(エステル)/N,N−ジエチルアミノエチルビニルエーテル、シクロヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
【0032】
スチレン系エマルションとしては、例えば、スチレン単独の他例えば、スチレン/アクリロニトリル、スチレン/ブタジエン、スチレン/フマルニトリル、スチレン/マレインニトリル、スチレン/シアノアクリル酸エステル、スチレン/酢酸フェニルビニル、スチレン/クロロメチルスチレン、スチレン/ジクロロスチレン、スチレン/ビニルカルバゾール、スチレン/N,N−ジフェニルアクリルアミド、スチレン/メチルスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、スチレン/アクリロニトリル/メチルスチレン、スチレン/アクリロニトリル/ビニルカルバゾール、スチレン/マレイン酸等が挙げられる。
【0033】
酢酸ビニル系エマルションとしては、例えば、酢酸ビニル単独の他、例えば、酢酸ビニル/スチレン、酢酸ビニル/塩化ビニル、酢酸ビニル/アクリロニトリル、酢酸ビニル/マレイン酸(エステル)、酢酸ビニル/フマル酸(エステル)、酢酸ビニル/エチレン、酢酸ビニル/プロピレン、酢酸ビニル/イソブチレン、酢酸ビニル/塩化ビニリデン、酢酸ビニル/シクロペンタジエン、酢酸ビニル/クロトン酸、酢酸ビニル/アクロレイン、酢酸ビニル/アルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0034】
本発明の乳化重合用乳化剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分と併用することができる。その他の成分としては、例えば、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、アルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤;ステアリルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ポリジメチルジアリルアンモニウム等のカチオン性界面活性剤;アルキルカルボベタイン、アミドプロピルカルボベタイン、イミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤;アルキルアミンオキサイド等の半極性界面活性剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、エタノール、パラトルエンスルホン酸等の溶剤;エチレンジアミン4酢酸塩(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(HEDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、アスパラギン酸−N,N−ジ酢酸、N−ヒドロキシエチルイミノジ酢酸又はこれらの塩等のアミノカルボン酸類、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、酒石酸又はこれらの塩等のオキシカルボン酸類等の金属イオン封鎖剤;硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム(芒硝)、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等の無機塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ;モノエタノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、N−エチルモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、アミノエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム−オレフィン共重合体等の分散剤;増粘剤等を含有することができる。
【0035】
本発明の乳化重合用乳化剤は、従来の反応性界面活性剤が用いられてきた用途、即ち、乳化重合用乳化剤に使用することができるが、その他の用途、例えば、懸濁重合用分散剤、樹脂用改質(撥水性向上、親水性調節、相溶性向上、帯電防止性向上、防曇性向上、耐水性向上、接着性向上、染色性向上、造膜性向上、耐候性向上、耐ブロッキング性向上等)剤、繊維加工助剤、繊維防汚加工剤等にも使用することができる。
【0036】
次に、本発明の重合物は、本発明の乳化重合用乳化剤を使用して、例えば、上記に挙げた原料モノマーを公知の方法を用いて乳化重合することによって得ることができる。得られた重合物は、各種プラスチック製品、塗料、接着剤、粘着剤、インク、フィルム、コーティング剤、紙塗工剤、サイズ剤、シーラー等に使用することができるが、他の物質に塗布する用途や他の物質の塗布を補助する用途である、塗料、接着剤、粘着剤、コーティング剤や、紙塗工剤、シーラー等に使用することが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において、「%」及び「ppm」は、特に記載が無い限り質量基準である。
製造例1(本発明品1)
攪拌装置、温度計、フィード管及び窒素ガス導入管を備えた3リットルオートクレーブにジメチルステアリルアミン297g(1.0モル)、アリルクロライド76.5g(1.0モル)及び溶媒として水を373.5g仕込み、系内を窒素で置換して密閉した後、反応温度60〜70℃で10時間反応し、下記の本発明品1の50質量%水溶液を得た。
【化13】

【0038】
製造例2(本発明品2)
製造例1と同様の装置に、ジメチルイソプロパノールアミン103g(1.0モル)と触媒として水酸化カリウム0.2gを仕込み、系内を窒素置換して120℃に昇温した後、反応温度が120〜130℃になるように調整しながら、プロピレンオキシド812g(14.0モル)を3時間かけて系内に添加し、その後1時間熟成して系内のプロピレンオキシドを完全に反応させた。反応終了後、系内の温度を60℃に冷却してからアリルブロマイド120.9g(1.0モル)を仕込み、反応温度60〜70℃で10時間反応した。その後、無機吸着剤として合成ケイ酸アルミニウム(協和化学製、商品名キョーワード700)を10g添加して100℃で1時間攪拌して触媒の水酸化カリウムを吸着させ、ろ過によって無機吸着剤を除去して下記の本発明品2を得た。
【化14】

【0039】
製造例3(本発明品3)
製造例1と同様の装置に、パルミチルメチルアミン255g(1.0モル)と触媒として水酸化カリウム0.2gを仕込み、系内を窒素置換して120℃に昇温した後、反応温度が120〜130℃になるように調整しながら、エチレンオキシド220g(5.0モル)を2時間かけて系内に添加し、その後1時間熟成して系内のエチレンオキシドを完全に反応させた。反応終了後、無機吸着剤として合成ケイ酸アルミニウム(協和化学製、商品名キョーワード700)を10g添加して100℃で1時間攪拌して触媒の水酸化カリウムを吸着させ、ろ過によって無機吸着剤を除去した。得られた化合物を再び製造例1と同様の装置に入れ、系内の温度を60℃にしてから水551.5gとアリルクロライド76.5g(1.0モル)を仕込み、反応温度60〜70℃で10時間反応し、下記の本発明品3の50質量%水溶液を得た。
【化15】

【0040】
製造例4(本発明品4)
製造例1と同様の装置に、ドコシルジエタノールアミン413g(1.0モル)と触媒として水酸化カリウム0.2gを仕込み、系内を窒素置換して120℃に昇温した後、反応温度が120〜130℃になるように調整しながら、エチレンオキシド352g(8.0モル)を3時間かけて系内に添加し、その後1時間熟成して系内のエチレンオキシドを完全に反応させた。反応終了後、無機吸着剤として合成ケイ酸アルミニウム(協和化学製、商品名キョーワード700)を10g添加して100℃で1時間攪拌して触媒の水酸化カリウムを吸着させ、ろ過によって無機吸着剤を除去した。得られた化合物を再び製造例1と同様の装置に入れ、系内の温度を60℃にしてから水841.5gとアリルクロライド76.5g(1.0モル)を仕込み、反応温度60〜70℃で10時間反応し、下記の本発明品4の50質量%水溶液を得た。
【化16】

【0041】
製造例5(本発明品5)
製造例1と同様の装置及び反応方法で、ジメチルステアリルアミンのかわりにジプロピルステアリルアミン358g(1.0モル)を使用し、水の量を434.5gにして、下記の本発明品5の50質量%水溶液を得た。
【化17】

【0042】
製造例6(本発明品6)
製造例1と同様の装置及び反応方法で、ジメチルステアリルアミンのかわりにジメチルミリスチルアミン241g(1.0モル)を使用し、水の量を317.5gにして、下記の本発明品6の50質量%水溶液を得た。
【化18】

【0043】
製造例7(比較品1)
製造例1と同様の装置及び反応方法で、ジメチルステアリルアミンのかわりにジメチルデシルアミン185g(1.0モル)を使用し、水の量を261.5gにして、下記の比較品1の50質量%水溶液を得た。
【化19】

【0044】
製造例8(比較品2)
製造例1と同様の装置及び反応方法で、ジメチルステアリルアミンのかわりにジメチルヘキサコシルアミン353g(1.0モル)を使用し、水の量を429.5gにして、下記の比較品2の50質量%水溶液を得た。
【化20】

【0045】
比較品3〜7
公知の方法(特許文献1〜4等)を参考に次の比較品3〜7の化合物を合成した:
【化21】

【0046】
本発明品1〜6及び比較品1〜7について、乳化重合用乳化剤としての性能を評価するために、アクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸の混合物をモノマーとして乳化重合を行い、得られたポリマーエマルジョンについてその粒径、凝集物量、機械安定性、耐水性、密着性を測定した。重合方法及び試験方法を下記に示し、試験結果を下記の表1に示す。
【0047】
<重合方法>
還流冷却器、攪拌機、滴下ロート及び温度計を備えた反応容器に、水150部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した。別にアクリル酸2−エチルヘキシル/アクリル酸=97/3(重量比)の混合モノマー100部に本発明品1〜6及び比較品1〜7をそれぞれ固形分で2部溶解し、このうちの10部と、アゾ系の重合開始剤である2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)ジヒドロクロライド(和光純薬工業株式会社製:商品名V−50)0.1部を反応容器に加えて60℃で重合を開始した。その後、残りの混合モノマー/乳化重合用乳化剤の混合物を2時間にわたって反応容器内に連続的に滴下し、滴下終了後2時間熟成しエマルジョンを得た。
【0048】
<粒径>
電気泳動光散乱光度計(大塚電子製ELS−800)を使用して測定した。
【0049】
<凝集物量>
重合後の上記重合体エマルジョンを325メッシュの金網でろ過し、ろ過残渣を水で洗浄後、105℃で2時間乾燥させ、この重量を測定し重合体エマルションの固形分に対する質量%で表した。
【0050】
<機械安定性>
重合後の上記エマルションをディスパーにて、2,000rpmで2分間攪拌した後、上記の方法で凝集物量を測定し機械安定性として評価した。
【0051】
<耐水性>
重合後の上記重合体エマルションをガラス板に塗布して厚さ0.2mmのポリマーフィルムを作成し、このポリマーフィルムを50℃の水に浸漬し、白化して、ポリマーフィルムを通して8ポイントの文字が判別できなくなるまでの時間を測定し、耐水性を評価した。評価の基準は以下のとおりである。
◎:24時間以上
○:5〜24時間
△:1〜5時間
×:1時間未満
【0052】
<密着性>
JIS K−5400碁盤目テープ法に準拠し、ガラス板に上記重合体エマルションを塗布して、0.2mmの厚さのポリマーフィルムを作成した。このポリマーフィルムを1mm×1mmのマス目が100個(縦10、横10)になるようにカッターで切込みを入れた後、セロハン製の粘着テープを貼着し、急激に剥した後の剥がれた碁盤目塗膜の数を数え、下記基準で評価した。
◎:0個
○:1〜5個
△:6〜39個
×:40個以上
【0053】
【表1】

【0054】
比較品1及び2のようにアルキル鎖長が本発明の範囲外のものは、乳化力が弱くなるため、乳化重合が不安定になって、得られるエマルションの粒径が大きく凝集物が多くなってしまう。そのため、これらの乳化剤とモノマーとの反応が十分にいかず、耐水性や密着性は本発明品に比べると劣ってしまう。比較品3の非反応性の乳化剤は耐水性に劣り、更にモノマーと反応しないため、密着性においても本発明品より劣る結果となった。また、比較品4及び5の従来の反応性乳化剤はカチオンではないので密着性に劣っている。比較品6及び7は本発明品と同様に、アリル基を含有するカチオン性の反応性乳化剤だが、比較品1及び2と同様に、乳化力に劣るためエマルションの粒径が大きく凝集物が多くなり、その結果として耐水性及び密着性が劣ってしまう。これらは構造の違いからくるものであると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の乳化重合用乳化剤は、塗料、接着剤、粘着剤、コーティング剤、水性インク、セメント、モルタル、カーワックス等に使用される樹脂エマルションを、各種モノマーから乳化重合することによって製造する際に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)
【化1】

[Rは、炭素数12〜24の炭化水素基又は下記の一般式(2)で表される基を表し、A及びBは、それぞれ炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基又は下記一般式(3)で表される基を表し、Xは、ハロゲン原子又はCHOSOのいずれかを表す。)
【化2】

(Rは、炭素数3又は4のアルキレン基を表し、nは5〜50の数を表す。)
【化3】

(Rは、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、mは1〜100の数を表す。)]
で表される乳化重合用乳化剤。
【請求項2】
一般式(1)のRが、炭素数12〜24の脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載の乳化重合用乳化剤。
【請求項3】
一般式(3)のRが、エチレン基である、請求項1又は2に記載の乳化重合用乳化剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のある乳化重合用乳化剤を使用して得られた重合物。

【公開番号】特開2008−222731(P2008−222731A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58462(P2007−58462)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】