説明

乳化食品の安定化法

【課題】本発明の課題は、グアーガム分解物の生理効果を維持しつつ、乳化食品の成分が凝集又は沈降しない懸濁安定性に優れたグアーガム分解物を添加することを特徴とする乳化食品の安定化法を提供することにある。
【解決手段】従来のグアーガム分解物ではゲル化する条件である、グアーガム分解物を10%(w/v)水溶液とした時この水溶液に対して1/5量の5%(w/v)ホウ酸ナトリウム水溶液を加え、混和してもゼリー状とならない。かつマンノースの直鎖の鎖長が3〜29単位の範囲内に60%以上分布するグアーガム分解物を調製することで意外なことに生理効果を維持し、乳化食品に添加しても乳化食品の成分が凝集又は沈降しない乳化食品の安定化法を提供することを見い出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の課題は、グアーガム分解物の生理効果を維持しつつ、乳化食品の成分が凝集又は沈降しない懸濁安定性に優れたグアーガム分解物を添加することを特徴とする乳化食品の安定化法を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
グアーガム分解物は便秘、下痢や脂質改善などの多くの生理学的効果を有する水溶性食物繊維であり、食安発第0701007号「特定保健用食品(規格基準型)制度の創設に伴う規格基準型の設定等について」成分規格の定性の部分に示されているがホウ酸ナトリウムと混ぜるとゲル化する性質がある。
【0003】
このグアーガム分解物は、健康を保つ意味から健常人が良く摂取する牛乳、乳成分含有コーヒー飲料などの飲料、さらには入院患者などが摂取する総合栄養流動食などにも添加することが強く望まれている。しかしながら、グアーガム分解物は乳化食品中に配合すると乳化食品の成分の凝集又は沈降、離水などの乳化破壊を発生することがあるため長期間安定に配合することが難しいという欠点があった。
【0004】
グアーガム分解物についてはいくつかの報告がなされている。例えば、マンノース直鎖の鎖長が30〜200単位の範囲内に80%以上分布するように低分子化したガラクトマンナン(例えば、特許文献1参照。)や1.8×10ダルトン〜1.8×10ダルトンの分子量分布のものを70%含むポリマンノース(例えば、特許文献2参照。)などがある。しかしながら、これらのグアーガム分解物を乳化食品に添加した場合には保存中に乳化食品の成分が凝集又は沈降するなどの問題が発生することがある。
【0005】
他に非常に強い均一化をすることによりグアーガム分解物を乳化食品に安定的に利用する製造方法に関するものがある(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この方法では保存安定性は若干改良されるが、均質化のために高圧処理するため風味が損なわれてしまうなどの問題があり必ずしも満足いくものでなかった。
なお、グアーガム分解物の添加量を少なくすると乳化破壊は若干改善されるが期待される生理効果が得られないといった問題もあり、グアーガム分解物を乳化食品に安定的に添加することは不可能であった。
【特許文献1】特開平6−256197号公報
【特許文献2】国際公開WO00/27219号公報
【特許文献3】特開2003−289830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、グアーガム分解物の生理効果を維持しつつ、乳化食品に添加しても乳化食品の成分が凝集又は沈降しない懸濁安定性に優れたグアーガム分解物を添加することを特徴とする乳化食品の安定化法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前項記載の目的を達成すべく鋭意検討を重ねる中で、従来のグアーガム分解物ではゲル化する条件である、グアーガム分解物を10%(w/v)水溶液とした時この水溶液に対して1/5量の5%(w/v)ホウ酸ナトリウム水溶液を加え、混和してもゼリー状とならない。かつマンノースの直鎖の鎖長が3〜29単位の範囲内に60%以上分布するグアーガム分解物を調製することで意外なことに生理効果を維持し、乳化食品に添加しても乳化食品の成分が凝集又は沈降しない乳化食品の安定化法を提供することを見い出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、グアーガム分解物の生理学的効果を維持しつつ、乳化食品の成分が凝集又は沈降しない懸濁安定性に優れたグアーガム分解物を添加することを特徴とする乳化食品の安定化法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、乳化食品とは、極性溶液と無極性(または、低極性)液体が混合し、一方の液中に他方を微粒子にして分散した状態であり、周知のように、極性相と無極性相とが微妙なバランスを保って乳化されている食品である。なお、乳化の安定をはかるために、乳化食品中にレシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、蔗糖エステル等の乳化剤を添加したものもある。例えば、牛乳、乳成分含有コーヒー飲料や流動食などであるが、水溶性食物繊維の添加による生理効果が求められる点より流動食、介護食等への利用が好ましい。
【0010】
発明品は、グアーガムを加水分解し低分子化することにより得られるものである。加水分解の方法としては、酵素分解法、酸分解法等、特に限定するものではないが、分解物の分子量が揃い易い点から酵素分解法が好ましい。酵素分解法に用いられる酵素は、マンノース直鎖を加水分解する酵素であれば市販のものでも天然由来のものでも特に限定されるものではないが、アスペルギルス属菌やリゾープス属菌等に由来するβ−マンナナーゼが好ましい。上記の方法のみで、所定のガラクトマンナンの分布を得ることができない場合は、膜処理や分子量分画用カラムを使い分子量を調整することにより得ることができる。
【0011】
本発明品のマンノースの鎖長とは、ガラクトマンナンの主鎖であるマンノースの結合している数を指し、その測定は特に限定するものではないが、例えばグルコース数が既知の直鎖デキストリンを水に溶解しTOSO 803D型の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、水を移動相にしてTSKgelG3000PW(東ソー(株)製)のカラムにてゲルろ過を行い、示差屈折計にて検出する。この際にグルコース数が既知の直鎖デキストリン(グルコース数1、2、30、100、200)を指標物質として測定することにより、3〜29単位の範囲に分布する割合を面積から算出できる。
【0012】
本発明品のマンノースの鎖長は、3〜29単位の範囲内に60%以上であるが、好ましくは70%以上である。さらに好ましくは80%以上であると乳化安定性の面で好ましい。
マンノースの鎖長が、3単位より短い場合及び30単位以上である場合の割合が40%をこえると乳化破壊の発生、甘味の発生等の問題が生じる。
【0013】
本発明のホウ酸ナトリウムとゲル化試験は、グアーガム分解物の定性法として食安発第0701007号「特定保健用食品(規格基準型)制度の創設に伴う規格基準型の設定等について」成分規格部分に示されている10%(w/v)水溶液とした時にこの溶液に対して1/5量の5%(w/v)ホウ酸ナトリウム水溶液を加え、混和するとゼリー状となる性質を利用したものである。
本発明品は、ホウ酸ナトリウムと混合した場合にゲル化しないようにマンノース鎖長の分布を調製したものである。
【0014】
本発明品は、従来のグアーガム分解物ではゲル化する10%(w/v)水溶液とした時にこの水溶液の1/5量の5%(w/v)ホウ酸ナトリウム水溶液を加え、混和してもゼリー状とならないものである。
本発明品の摂取量は、生理効果の面から0.1g/食以上であるが、好ましくは0.5g/食以上、さらには1.0g/食以上であると好ましい。
本発明品と配合する食品材料は特に限定されるものではなく、他の糖類、食物繊維、脂質、アミノ酸、蛋白質、さらにこれらに必要に応じて、乳酸菌、ビタミン、ミネラルのようなその他の機能性を有する物質を添加することができる。
【0015】
以下に実施例、比較例、及び試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
実施例1
水9kgにクエン酸を加えてpHを3.0に調整した。これにアスペルキルス属由来のβ−マンナナーゼ180g(10,000IU)とグアーガム粉末1kgを混合添加して65℃で24時間酵素を作用させた。反応後90℃に加熱して酵素を失活させた。ろ過処理で不純物を除去し分取カラム(カラム名;Shim−pack GPC−2003、島津製作所製)を用いて表1の本発明品と比較品が得られた。
なお、マンノースの直鎖長の分析については、TOSO 803D型の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、水を移動相にしてTSKgelG3000PW(東ソー(株)製)のカラムにてゲルろ過を行い、示差屈折計にて検出した後、得られた分子量分布を用いて、グルコース数が既知の直鎖デキストリン(グルコース数1、3、30、100、200)を指標物質として3〜29単位の範囲に分布する割合を面積から算出した。
【0017】
さらに、ゲル化試験は、グアーガム分解物の定性法として食安発第0701007号「特定保健用食品(規格基準型)制度の創設に伴う規格基準型の設定等について」成分規格部分に示されている方法にて実施した。具体的には、10%(w/v)グアーガム分解物水溶液とした時にこの溶液に対して1/5量の5%(w/v)ホウ酸ナトリウム水溶液を加え、混和しゲル化の有無を確認した。
【0018】
【表1】

【0019】
試験例1
調製例1本発明品(A〜J)5%(w/v)と比較品(A〜F)5%(w/v)を用いて、流動食を試作した。流動食の試作方法は以下の通りである。
55〜60℃の水道水1000gにタンパク質(カゼインナトリウム)40g、本発明品又は比較品 50g、デキストリン 140gをスリーワンモーター(700rpm)を用いて溶解し、完全に溶解した事を確認後、水道水に溶解した水酸化カリウム 0.9g、クエン酸 0.9g、塩化ナトリウム 0.7g、カルシウム塩 0.1g、マグネシウム塩 0.05gを添加し、混合した。これに油脂 30g、デカグリセリンモノステアリン酸エステル 3.0gを添加して、ホモミキサー(8000rpm 10分)をかけた。このときpHを測定し、調整した(pH6.8〜7.2)。これを再度60℃に湯煎で加温し、ホモジナイザー(500kgf・cm)をかけて、瓶詰めし、レトルト殺菌(121℃、F15)した。殺菌後、粘度を測定し(粘度;25mPa・cm以下)、37℃の恒温槽に2週間保存した。安定性評価は、レトルト殺菌直後、1週間目と2週間目に行った。なお、評価方法は、非常に均一(クリーミングが全くなし):◎、均一(クリーミングが1mm以下):○、一部分離(クリーミングが5mm以下):△、分離(クリーミングが5mm以上):×の4段階で評価した。
表2に流動食の安定性評価の結果を示した。
【0020】
【表2】

【0021】
表2に示したように流動食に本発明品を使用することでレトルト直後と保存中に成分の凝集又は沈降するなどの問題は起らなかった。
【0022】
試験例2
調製例1の本発明品(A〜J)2g又は、比較品(A〜F)2gを牛乳100mlに完全溶解し、殺菌(80℃、30分)した。安定性評価は、殺菌直後、1週間目に行った。なお、評価方法は、評価方法は、非常に均一(クリーミングが全くなし):◎、均一(クリーミングが1mm以下):○、一部分離(クリーミングが5mm以下):△、分離(クリーミングが5mm以上):×の4段階で評価した。
表3に牛乳の安定性評価の結果を示した。
【0023】
【表3】

【0024】
表3に示したように牛乳に本発明品を使用することで殺菌直後と保存中に成分の凝集又は沈降するなどの問題は起らなかった。
【0025】
試験例3
調製例1の本発明品(A〜J)2g又は、比較品(A〜F)2gをコーヒー牛乳100mlに完全溶解し、レトルト殺菌(123℃、20分)した。安定性評価は、殺菌直後、1週間目に行った。なお、評価方法は、非常に均一(クリーミングが全くなし):◎、均一(クリーミングが1mm以下):○、一部分離(クリーミングが5mm以下):△、分離(クリーミングが5mm以上):×の4段階で評価した。
表4にコーヒー牛乳の安定性評価の結果を示した。
【0026】
【表4】

【0027】
表4に示したようにコーヒー牛乳に本発明品を使用することでレトルト殺菌直後と保存中に成分の凝集又は沈降するなどの問題は起らなかった。
【0028】
試験例4
調製例1の本発明品(A〜J)1.00g又は、比較品(A〜E)1.00g、ゲル化剤(商品名 ネオソフト、太陽化学社製)0.80g、食塩0.05g、グラニュー糖8.00g、脱脂粉乳5.50g、牛乳30.00g、生クリーム4.00g、全脂練乳 0.50g、水50.15、香料 適量にて牛乳プリンを試作した。香料のほかの材料を混合し90℃まで加熱溶解した後、ホモジナイザー(150kg/cm)にて均質化した。その後、香料を適量添加してから60℃でカップに充填し水冷した。安定性評価は、試作直後に行った。なお、評価方法は、非常に均一(クリーミングが全くなし):◎、均一(クリーミングが1mm以下):○、一部分離(クリーミングが5mm以下):△、分離(クリーミングが5mm以上):×の4段階で評価した。
表5に牛乳プリンの安定性評価の結果を示した。
【0029】
【表5】

【0030】
表5に示したように牛乳プリンに本発明品を使用することで試作直後にクリーミングの問題は起らなかった。
【0031】
試験例5
調製例1の本発明品(A〜J)2g又は、比較品(A〜F)2gを飲むヨーグルト100mlに完全溶解した。安定性評価は、殺菌直後、24時間後に行った。なお、評価方法は、非常に均一(クリーミングが全くなし):◎、均一(クリーミングが1mm以下):○、一部分離(クリーミングが5mm以下):△、分離(クリーミングが5mm以上):×の4段階で評価した。
表6に飲むヨーグルトの安定性評価の結果を示した。
【0032】
【表6】

【0033】
表6に示したようにヨーグルトに本発明品を使用することで試作直後と保存中に成分の離水などの問題は起らなかった。
【0034】
試験例6
便秘女性60名を対象に調製例1の本発明品(A〜E)又は、比較品Bを用いて便通改善効果の試験した。
試験方法は、排便回数に有意差が生じないようにランダムに各グループ10名の6群に分け、試験サンプル一日5gを2週間連続して摂取して摂取前後での排便回数を調べた。
表7に排便回数を示す。
【0035】
【表7】

【0036】
表7より明らかなように比較品と同様に本発明品においても便通改善効果が認められた。
【0037】
試験例7
試作例1の本発明品A〜E又は、比較品Bを用いて糞便培養法により生理効果に重要である短鎖脂肪酸(SCFA)の産生量を測定した。方法は、健常人3人の便を均一にし、それに各サンプルを1.0%(W/W)添加し後、48時間の嫌気培養を行った。なお、SCFAの測定はガスクロマトグラフィーにて行った。
表8に短鎖脂肪酸(SCFA)の産生量を示す。
【0038】
【表7】

【0039】
表8より明らかなように比較品と同様に本発明品も生理効果に重要である48時間後のSCFA産生量が同じであることから本発明品の生理効果が維持されていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、グアーガム分解物の生理効果を維持しつつ、乳化食品の成分が凝集又は沈降しない懸濁安定性に優れたグアーガム分解物を添加することを特徴とする乳化食品の安定化法を提供することから、乳化食品のおいしさとヒトの健康増進に貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアーガム分解物を10%(w/v)水溶液とした時にこの水溶液に対して1/5量の5%(w/v)ホウ酸ナトリウム水溶液を加え、混和するホウ酸ゲル化試験においてゼリー状とならない、かつマンノースの直鎖の鎖長が3〜29単位の範囲内に60%以上分布するように調製したグアーガム分解物を添加することを特徴とする乳化食品の安定化法

【公開番号】特開2009−261331(P2009−261331A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115792(P2008−115792)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】