説明

乳幼児用の口腔内の清拭布

【解決手段】
本発明乳の幼児用の口腔内の清拭布は、好適にはメッシュ状の不織布に、キシリトールおよび茶抽出物を含有する水溶液が含浸された乳幼児用の口腔内の清拭布であり、該水溶液中における茶抽出物の量が、0.001〜0.05重量%の範囲内にあり、該水溶液中に含有される成分が食品および/または食品添加物であることを特徴としている。
【効果】
本発明によれば、茶抽出物を含浸されているにも拘らず、メッシュ状の不織布を褐変させることなく、しかも茶抽出物とキシリトールとによって、乳幼児の口腔内を衛生的に保つことができ、特に齲歯の発生を予防することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生後3〜36か月程度の乳幼児、特に歯ブラシを嫌がる傾向が強く、乳歯が生え始める生後3〜12ヶ月程度の乳幼児の口腔内を清潔に保つと共に、特に生え始めた歯牙を清拭するための清拭布に関する。さらに詳しくは本発明は、乳幼児の口腔内、特に歯牙を衛生的に保つことができると共に、経時的に褐変しにくい清拭布に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨きなどに伴って行わなければならない口腔内のものを吐出するという動作は、人間が生来有する機能に基くものではなく後天的に習得する動作であり、生後24〜36ヶ月くらいまでの乳幼児は、歯磨き後に歯磨き粉を吐き出し、さらにうがいをして口腔内を清潔に保つという口腔内の衛生状態を清潔な状態に維持するための基本的な動作が上手くできない。特に、生後3ヶ月〜18ヶ月程度の乳幼児では、うがいを上手く行えないだけでなく、歯ブラシを使用した歯磨き自体を嫌がる傾向が強い。
【0003】
従って、歯磨きが習慣付くまでは、乳幼児の口腔内は母親などの保護者が濡れガーゼや綿棒などを用いて清拭するのが一般的である。
【0004】
しかしながら、標準的にみて、乳幼児の歯牙は、生後半年くらいから乳歯が生え始め、生後12ヶ月くらいで8本程度、生後18ヶ月くらいで16本程度、生後27ヶ月〜30ヶ月くらいで20本程度が生えそろうが、歯磨き習慣が付く前に口腔内の清拭に用いられるガーゼでは、齲歯発生を積極的に防止することは困難である。
【0005】
一般に齲歯は、ミュータント菌などの口腔内細菌が歯牙の表面に付着し、この細菌に含まれる酵素によって産生されるグルカンによってブラーク(歯垢)が形成されることから始まる。このブラーク中で口腔内細菌が砂糖、でんぷん等を代謝することにより生成される酸によって歯牙が侵食されることにより齲歯が生ずる。他方、唾液中にはカルシウムとリン酸塩が存在し、これらが侵食された歯牙の部分に析出して再石灰化することにより、齲歯を自動的に修復するという作用がある。このような歯牙表面における侵食と修復とが一定のバランスを保っていると齲歯には至らないが、ブラークが増大すると両者の均衡が崩れて齲蝕が進行する。
【0006】
キシリトールは、こうしたミュータント菌などの口腔内細菌の代謝物とはなりえないばかりでなく、キシリトール自体がミュータント菌に代謝阻害を起こさせてミュータント菌を減少させ、さらに再石灰化に必要な唾液の分泌を促進させる作用があり、齲歯の発生を防止することができるのである。
【0007】
また、茶抽出物はポリフェノールを豊富に含み、このポリフェノールは、それ自体で殺菌作用があり、口腔内を清拭する際に使用することにより、口腔内を衛生的に保つことができ、さらに前述のキシリトールの有する齲歯発生防止作用と共同して齲歯の発生を予防することができると考えられる。
【0008】
ところが、このポリフェノールを豊富に含む茶抽出物は、本来、薄い褐色であり、このような茶抽出物を口腔内の清拭の際に用いるとすれば、数%の量が必要であると考えられていた。
【0009】
しかし、このような量の茶抽出液を含有する薬液を清拭布に含浸させて放置すると、比較的短時間で茶抽出物の酸化によって、当初は白色であった清拭布が経時的に褐変してし
まう。このように褐変した清拭布を用いても口腔内を清潔な状態に保つという清拭布の作用効果は低減するものではないが、乳幼児の口腔内の清拭に白色のガーゼが使用されているという現状からすると、茶褐色に褐変した清拭布を使用することに非常に強い抵抗感がうまれる。さらに、この褐変の度合いは、経時的に変化するので、使用するたびに色調が変化する不織布は、乳幼児の口腔内を清拭するようとには使用されにくい。さらに、このような量の茶抽出物を含有する薬液が含浸された清拭布には特有の苦味もある。
【0010】
こうした状況下に、本発明者は、乳幼児の口腔内清拭におけるポリフェノールの有効量について検討したところ、乳幼児の口腔内を清拭するという用途に限ってみると、従来一般的に使用されていた茶抽出物の量は、乳幼児の口腔内清拭には濃度が高すぎることがわかった。そして、このようなポリフェノールを豊富に含有する茶抽出物を不織布に含浸させて乳幼児の口腔内を清拭する際に好適な茶抽出物の使用量を見出したのである。さらに、このような量で茶抽出物を配合した薬液を含浸した不織布は、茶抽出物の酸化による褐変が表在化しにくくなり、ポリフェノールの有する抗菌性(あるいは殺菌性)が著しく損なわれることなく、しかも経時的に不織布の変色を視認することができない程度まで低減することができるものであるだけでなく、乳幼児に苦味を感じさせず、口腔内の清浄を嫌がることを防げる。
【0011】
ところで、口腔内を衛生的に保つために、例えば、特許文献1(特開平11-171742号公
報)の請求項1には、「所定寸法に予め裁断された薄い樹脂製シートと、該シートに実質的に同一の寸法に予め裁断され且つ口腔清浄液を含浸した繊維質シートとからなり、前記樹脂製シート及び繊維質シートを分離可能に積層したことを特徴とする口腔衛生具。」の発明が開示されており、請求項3には、口腔清浄液が、キシリトールを10重量%以下の量で含有するものであることが示されている。さらに、段落[0011]には、口腔清浄液に、消臭剤として、緑茶エキス(消臭剤)を全重量の2重量%以下、例えば1.2乃至1.5wt%の量で配合することができる旨の記載がある。
【0012】
しかしながら、上記のような量で緑茶エキスを使用すると、不織布の褐変を防止することはできない。さらに緑茶エキスの有する苦味を強く感じてしまうので、緑茶の味に慣れていない乳幼児が苦味の強い清拭布を忌避してしまい、このような清拭布を乳幼児の歯牙を清拭するために使用することはたいへん困難である。
【0013】
また、特許文献2(特開平11-12146号公報)の請求項1には、「繊維間に空隙を有した繊維集合体からなるウエーブ状の複合シートに、界面活性剤成分及び研磨剤成分の他に、粘結剤成分、粘稠剤成分及び香料成分から選ばれる1種又は複数種成分を含む液状組成物を含浸させた口腔用擦掃清拭布であって、上記複合シートを、内層の親水性繊維層の一面又は表裏両面側の外層に疎水性繊維層を配することにより構成した、ことを特徴とする口腔用擦掃清拭布。」の発明が開示されている。この口腔用擦掃清拭布には、上記のように界面活性剤成分および研磨剤成分を必須成分として含むものであり、界面活性剤成分および研磨剤成分のように吐き出すことを前提にした成分を含有する清拭布を、口腔内のものを吐き出す能力を未だ習得していない乳幼児に使用することはできない。また、段落[0020]には、粘稠剤成分として、キシリトールを使用することが可能であるとの記載があるが、この口腔用擦掃清拭布は、研磨剤を必須成分とするものであり、キシリトールを含有するとしても、乳歯が生えるかあるいは生え始めの乳幼児による研磨作用によって、乳歯がキシリトールを配合しただけでは修復しきれない程度のダメージを受けることがある。
【0014】
なお、齲歯予防用の組成物にキシリトールを配合することに関しては、例えば、特許文献3(特開平10-81617号公報)の請求項1に記載されているように、「キシリトールとポリアクリル酸ナトリウムとを併用してなることを特徴とする齲歯防止用歯磨組成物。」などがあるが、これらは明らかに一般成人などを対象とした歯磨き組成物であり、不織布に
含浸して使用すること、および、乳歯が生えるかあるいは生え始めの乳幼児に使用するための構成を有していない。
【特許文献1】特開平11-171742号公報、請求項1、請求項3、段落〔0011〕
【特許文献2】特開平11-12146号公報、請求項1、段落〔0020〕
【特許文献3】特開平10-81617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、生後から歯磨き習慣が身につくまでの間に、保護者が乳幼児に対して用いる乳幼児用の口腔内の清拭布を提供することを目的としている。
【0016】
さらに詳しくは本発明は、有効量の茶抽出物を含有しているにも拘らず、この茶抽出物が空気と接触することによっても、清拭布の褐変を視認することができる程度には至らない乳幼児用の口腔内の清拭布を提供することを目的としている。
【0017】
また、本発明は、生後から歯磨き習慣が身につくまでの間に、保護者が乳幼児に対して用いる乳幼児用の口腔内の清拭布であって、口腔内を衛生的に保てると共に、生え始めた乳歯が齲歯になることを予防することができる乳幼児用の口腔内の清拭布を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布は、不織布に、キシリトールおよび茶抽出物を含有する水溶液が含浸された乳幼児用の口腔内の清拭布であり、該水溶液中における茶抽出物の量が、0.001〜0.05重量%の範囲内にあり、該水溶液中に含有される成分が食品および/または食品添加物であること特徴としている。
【0019】
上記の清拭布を形成する不織布は、通常は、表裏面を貫通する多数の透過孔を有するメッシュ状で、表裏面における平滑度が異なるよう構成された不織布である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の口腔内の清拭布には、キシリトールと茶抽出物とを含有するので、乳幼児の歯牙の清拭に使用することにより、齲歯の発生を有効に防止できるなど、乳幼児の口腔内を衛生に保つことができるが、茶抽出物の配合量が特定の範囲内に制御されているので、清拭布の経時的な褐変を視認することができない程度まで低減することができる。さらに、こうした量で茶抽出物を使用しても、茶抽出物中に含有されるポリフェノールの有する特性は、乳幼児の口腔内の清拭に関しては充分であり、また、茶抽出液を用いることにより発現する茶抽出物特有の苦味(あるいは渋み)が発現することがない。
【0021】
しかも、包装後に高圧蒸気滅菌しているので、不織布に含浸されている薬液中に、殺菌剤、アルコールなどの殺菌成分を含有させる必要はなく、また、メッシュ状不織布を用いることにより、このメッシュ状不織布の表面に凹凸があるのでこの清拭布に研磨材を配合する必要はなく、乳幼児に対して安全に使用することができる。すなわち、本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布を用いて、乳幼児の口腔内を清拭した後、清拭布に含有される成分を洗い出す必要はなく、さらに乳歯の表面は、メッシュ状の不織布の平滑性の低い面を用いて効率よく擦掃することができるために研磨剤を含有していなくとも乳歯の表面の汚れ、特に歯垢などを効率よく除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布について、具体的に説明する。
【0023】
まず、本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布に含浸される薬液について説明する。
【0024】
本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布に含浸される薬液は、キシリトールおよび茶抽出物を含有する。
【0025】
本発明で使用される薬液には、キシリトールが含有されている。ここで薬液中におけるキシリトールの量は、通常は、1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部の範囲内の量で含有されている。
【0026】
また、本発明で使用される薬液には、茶抽出物が含有されている。この茶抽出物には、カテキンなどのポリフェノールが含有されており、優れた抗菌作用があるが、空気との接触により変色しやすい。また、この茶抽出物を多量に含有すると、苦味が発生する。本発明では、この茶抽出物は、薬液中に0.001〜0.05重量部の範囲内の量、好ましくは0.001〜0.01重量部の範囲内の量で含有されている。薬液中における茶抽出物の量が上記範囲を下回る量では、茶抽出物の成分が少なすぎて、茶抽出物により奏される効果である抗菌性などが発現しない。他方、上記範囲を上回る量の茶抽出物を配合すると、この薬液が含浸された本発明の清拭布の経時的な変色の度合いがおおきくなる。この変色によって本発明の清拭布の有する作用効果が低下するものではないが、清潔感から白色であるとの認識が高い清拭布が茶褐色に変色していると非常に商品イメージを低下させることになる。本発明においては、薬液中における茶抽出液の濃度が0.05重量%以下であると、茶抽出物の有する所望の作用効果は発現させることができると共に、清拭布の褐変を防止することができる。すなわち、上記の範囲内の量で茶抽出物を配合することによって、メッシュ状の不織布は、視認できる程度にまで褐変することはなく、しかも茶抽出物の有する殺菌、抗菌性能に著しい低下は認められない。
【0027】
また、この薬液中における上記キシリトールと茶抽出物との配合比率(重量)を、通常は400:1〜1000:1、好ましくは500:1〜800:1の範囲内にすることにより、乳幼児の口腔内において、キシリトールと茶抽出物中に含まれるポリフェノールとを有効に作用させることができる。
【0028】
本発明で使用する薬液には、上記キシリトールおよび茶抽出物のほかに、保湿剤、pH
値の調整剤などを配合することができる。ここで保湿剤の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マルチトールなどを挙げることができる。これらの保湿剤は単独であるいは組み合わせて使用することができる。このような保湿剤は、薬液中に、通常は0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部の範囲内の量で配合される。
【0029】
さらに、本発明で使用する薬液は、pH値を弱酸性にすることが好ましく、このように
薬液のpH値を調整するためにpH調整剤を配合することができる。ここで使用することができるpH値の調整剤としては、クエン酸単独での使用や、クエン酸とクエン酸塩との組
合せ、リンゴ酸、リンゴ酸塩、乳酸、乳酸塩、コルク酸、リン酸、酒石酸、酒石酸ナトリウムなどを挙げることができる。これらのpH値の調整剤は、得られる薬液のpH値が通常は5.0〜7.0の範囲内、好ましくは5.5〜6.5の範囲内になるようにその使用量は適宜設定することができるが、通常は、薬液中に0.01〜0.2重量部、好ましくは0.01〜0.15重量部の範囲内の量で配合される。
【0030】
本発明で使用される薬液に配合される上記成分は、すべて、食品であるかあるいは食品添加物である。そして、本発明で使用される薬液には、食品または食品添加物ではない成分は配合されていない。上記の成分以外で本発明で使用する薬液に配合可能な他の成分の例としては、カンゾウ抽出物、グリチルリチン酸ジカリウム、ステビア抽出物、ラカンカ
抽出物らの甘味料、キチン、キトサン、アロエベラ抽出物、アルギン酸などの増粘料、L−アスコルビン酸、dl−αトコフェロールらの酸化防止剤、グルタミン酸、アラニン、タウリン、テアニンなどのアミノ酸、アミラーゼ、パパイン、リパーゼ、セルラーゼなどの酵素などを挙げることができる。
【0031】
上記のような成分を含有する薬液の基材は、通常は水である。
【0032】
上位のように本発明で使用する薬液は、水を基剤として、キシリトール、特定量の茶抽出物、保湿剤、pH値調整剤、さらに前掲のような他の成分であり、この薬液中には、殺
菌剤、抗菌剤、研磨剤、発泡剤は実質的に含有されていない。特に殺菌を目的としてエタノールなどの1級アルコール類は使用されていない。しかも配合されている成分は全て食品あるいは食品添加物であり、従って、このような薬液が含浸された清拭布を用いて乳幼児の歯牙を清拭しても、意図しない影響を乳幼児に及ぼすことはなく、非常に安全性が高い。
【0033】
本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布は、上記のような薬液を不織布に含浸してなる。特に本発明では、通常は55g/m2を超える目付けの不織布が使用され、さらに70g/m2を超える目付けの不織布が好ましく、特に75〜100g/m2の不織布は強度と質感に優れ
ている。本発明で使用する不織布としては、種々の不織布を使用することができるが、表裏面を貫通する多数の貫通孔を有するメッシュ状不織布を使用することが好ましい。
【0034】
本発明の乳幼児の口腔内の清拭布は、図1に示すように、上記の薬液が含浸されたメッシュ状不織布12が二つ折りにされて、密封袋20に包装されており、このメッシュ状不織布12は、通常は55g/m2を超える目付け、好ましくは70g/m2を超える目付けを有しており、さらに、この目付けが75〜100g/m2の範囲内にあることが好ましい。
【0035】
図2に、このメッシュ状不織布を部分的に拡大して模式的に示す。また、図3は、図2におけるA-A断面図である。このようなメッシュ状不織布12は、繊維が絡み合った部分
13と、これらの絡み合った繊維13が存在せずに、メッシュ状不織布12の表面Xと裏
面Yとを貫通する貫通孔14を多数有する。本発明で使用するメッシュ状不織布12にお
いて、貫通孔14の最大差し渡し幅である縦差し渡し幅p(すなわち、目開き)は、通常は、500〜1500μm、好ましくは800〜1200μmの範囲内にあり、この貫通孔14の縦差し渡し幅pと貫通孔14の中心で垂直に交わる横差し渡し幅qは縦差し渡し幅の40〜60%の範囲内とされている。なお、縦差し渡し幅pを結ぶ繊維部13である縦差し渡し幅p−p間の距離は、縦差し渡し幅pと同等とされており、横差し渡し幅qを結ぶ繊維部13である横差し渡し幅q−q間の距離も、横差し渡し幅qと同等とされている。また、本発明で使用するメッシュ状不織布12において、この不織布12の全面積に対する貫通孔14の合計の面積の割合は、通常は、5〜49%、好ましくは15〜30%の範囲内にある。このようなメッシュ状不織布は、表面Xと裏面Yとで平滑性が異なっており、平滑性の低い表面Xを清拭面として使用することが好ましい。すなわち、メッシュ状
不織布を製造する際に繊維が捕捉され始める面(裏面Y)と繊維が捕捉され終わる面(表
面X)とでは、表面状態が異なり、すなわちメッシュ状とされた受け具の上に繊維を配置
して、水流を当てることで繊維を交絡させている場合、受け具面が裏面Yとなり、水流面が表面Xとなるため、形状を有する受け具面側はフラット状であるのに対して、表面Xの
方が表面の凹凸が多く、図3に示すように、このメッシュ状不織布の厚さは、貫通孔14を除いて、通常は、厚さW1で表される最低厚さ450μmから、厚さW2で表される最高厚さ550μmまで、およそ、その厚さの幅は30〜100μm程度ある。この厚さ幅は、おもに表面平滑性の低い表面Xの表面粗度に起因する。本発明の口腔内の清拭布において
は、この表面平滑性の低い表面Xを清拭面として使用することにより、清拭布に研磨材を
配合しなくとも歯牙の表面に付着した汚れを効率よく拭き取ることができる。しかも、こ
の清拭布は、本質的に不織布であり、その硬度自体は高くはないから、乳幼児の歯牙(乳歯)の表面を傷つけることもない。なお、メッシュ加工によって凹凸を付与するだけでなく、不織布における一方の表面(清拭面)を針などによって掻くことで毛羽立たせる加工や、不織布の一方の表面側からエンボス加工を行うなどの各種凹凸加工について、適宜選択して行ってもよいが、薬液を保持しつつ拭き取る機能を有するメッシュ加工と組み合わせることが特に好ましい。
【0036】
このような不織布は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンからなるポリオレフィン繊維、レーヨン等の再生繊維、PET、親水化PET、ナイロンなどからなる合成繊維、特性あるいは組成の異なる複数の樹脂を用いて形成された複合合成繊維、コットンなどの天然繊維を用いて製造することができる。特に本発明では天然繊維であるコットンから形成された不織布を使用することが好ましい。
【0037】
本発明の乳幼児の口腔内の清拭布は、図1に示されるように、メッシュ状不織布12を二つ折りにして包装袋20に収容されているが、この場合、上記のような表面平滑性の低い表面Xが外側に配置されるように二つ折りにすることが好ましい。このように表面平滑
性の低い表面Xを外側にして二つ折りにした方が、母親等の介助者がそのまま指に巻くな
どして使用しやすい。
【0038】
本発明の乳幼児の口腔内の清拭布においては、上記のような二つ折りにされたメッシュ状不織布12および薬液が、包装袋20に密封されている。ここで使用する包装袋は、内包される薬液が漏出することがなく、かつ細菌学的に外部との接触を遮断できるものであり、さらに、酸素などの気体を遮断できる素材で形成されていることが好ましい。特に本発明の乳幼児の口腔内の清拭布は、上述のように殺菌剤、抗菌剤を実質的には含有していないので、上記のような包装袋に密封した後、例えば高圧加熱滅菌することが好ましいために、この包装袋は、高圧加熱滅菌などの際の加熱などに耐える耐熱性を有するものであることが望ましい。
【0039】
上記のような本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布の配合成分および製造工程を考慮すると、本発明の乳幼児の口腔内の清拭布を包装する包装袋は、アルミニウム箔などの金属層の両面にポリオレフィン層などのプラスチック層が形成された複合フィルムから形成されていることが好ましい。ここで好適に使用されるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。このような複合フィルムには、一方の表面にヒートシール層を有する。
【0040】
図4に図1に示す包装された清拭布のB−B断面を模式的に示す断面図を示す。
【0041】
図4に示すように、本発明の乳幼児の口腔内の清拭布12は、包装袋20内に密封されており、この包装袋20は、内側から、ヒートシール層24、内側ポリオレフィン層23、アルミニウム層22、外側ポリオレフィン層21とからなる複合フィルム28を、ヒートシール層24が互いに対峙するようにして、側部31,32および底部30をヒートシールした包装袋20の内部に上述の不織布および薬液が充填されており、さらに、この上部33もヒートシールすることにより、不織布と薬液とからなる清拭布が密封される。このように清拭布12を内包する包装袋20は、後の工程で高圧加熱滅菌されることから、この包装袋20内部には空隙25ができるだけ生じないようにすることが望ましい。また、この包装袋20には切り取り線となるスリット状やジグザグ状の切れ目を外周に設け、開封しやすいよう構成しているが、その他、積層された一層にミシン目等を設けてもよい。
【0042】
なお、清拭布12は、薬液が含浸される前の不織布を、二枚の複合フィルム28の間に
挟んで側部31,32および底部30をヒートシールした後、この包装袋にノズルを挿入して薬液を注入し、ノズルを引き抜いて上部33をヒートシールして密封することもできるし、薬液が予め含浸された不織布を二枚の複合フィルム28の間に挟んで四方向をヒートシールして密封してもよい。
【0043】
本発明の乳幼児の口腔内の清拭布は、殺菌剤、抗菌剤、さらにはエタノールのような殺菌作用がある成分を実質的には含有していないことが好ましく、このために乳幼児の口腔内の清拭布を包装袋に密封した状態で滅菌することが好ましい。
【0044】
図5に本発明の乳幼児の口腔内の清拭布を製造する工程の例を示す。
【0045】
図5に示すように、本発明の乳幼児の口腔内の清拭布を製造するに際しては、メッシュ状不織布、包装用の複合フィルム、薬液を用意する。まず、メッシュ状不織布を、所定の大きさ、例えば5〜10cm×5〜10cmの任意の大きさに裁断する。こうして裁断されたメッシュ状不織布を折り機によって中心線に沿って二つ折りする。この折り機の先端にはノズルが設けられており、二つ折りと同時にノズル先端から別途調整した薬液が染み出すことで不織布に薬液を含浸させる。他方、包装材料である複合フィルムを、ヒートシール面が対峙するように包装装置に供給する。このような複合フィルムの間に、上記二つ折りされた不織布を挟むよう配置する。
【0046】
その後、薬液を含浸させた不織布を二枚の複合フィルム間に挟持して四方向をヒートシールして密封する。
【0047】
こうして外周をヒートシールした清拭布入り包装袋を、滅菌処理する。本発明では、高圧蒸気滅菌処理することが好ましい。すなわち、本発明の乳幼児の口腔内の清拭布には、エタノールのようなアルコール類、殺菌剤、抗菌剤などは含有されていないので、清拭布を密封状態にした後、滅菌処理することが必要になる。
【0048】
この滅菌処理を高圧蒸気滅菌する場合に、通常は密閉機能を有する高圧蒸気滅菌機に収容して、通常は115〜132℃程度、好ましくは115〜121℃程度の温度に通常は15〜90分間、好ましくは15〜60分間加熱することにより、温度が高い場合には滅菌時間は短時間となるよう、温度と時間の関係を調整することで、包装袋内に密封された清拭布を滅菌することができる。このように滅菌処理することにより、本発明の乳幼児の口腔内の清拭布が茶抽出物を含有しているにも拘らず、不織布の着色を低減することができる。しかも、清拭布に殺菌剤、抗菌剤などを配合しなくともよいので、安全性が高くなる。
【0049】
このようにして得られた口腔内の清拭布は、茶抽出物を含有しているにも拘らず、上記のような包装袋に入れて保存する限り、褐変することがほとんど起こらず、さらに細菌学的に衛生な状態を保持することができる。
【0050】
しかも、メッシュ状不織布を用いているので、柔らかい乳幼児の歯牙を傷つけることなく、その表面を清拭することができる。さらに、キシリトールおよび特定量の茶抽出物により口腔内を衛生な状態に保ちつつ、齲歯の発生を予防することができる。
【0051】
そして、本発明の乳幼児の口腔内の清拭布は、茶抽出物を含有しており、これを用いることにより、乳幼児の口腔内を好適な衛生状態にすることができるが、含有される茶抽出物を特定の範囲内の量で使用することにより、この清拭布の経時的な褐変を有効に防止することができる。
【0052】
〔実施例〕
次に本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布について実施例を示して説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
10重量部の水に、攪拌下に、キシリトール3.00重量部、茶抽出物0.005重量部、プロピレングリコール3.0重量部、クエン酸ナトリウム0.05重量部とを加えて溶解させた。
【0054】
これとは別に、水にクエン酸を加えて溶解させて調製したクエン酸水溶液を上記水溶液に加えて、この水溶液のpH値を6.0に調整した。
【0055】
この水溶液に水を加えて全量を100重量部にして歯牙清拭布用の薬液とした。
【0056】
目付け80g/m2のメッシュ状不織布から、約7.5cm×7.5cmの小片を多数
切り出し、この小片を二つ折りにした。
【0057】
この二つ折りした小片にノズルから薬液を吐出した後、アルミ箔の表裏面にポリプロピレン層が配置された包装用フィルム(一方の面がヒートシール性を有する)間に挟み、開口部をヒートシールした。
【0058】
この包装体を高圧蒸気滅菌機に入れ、容器内を115℃の水蒸気を用いて60分間、高圧蒸気滅菌して、口腔内の清拭布を製造した。
【0059】
得られた清拭布を、1日間、7日間、14日間、28日間、56日間、112日間放置して、基材である不織布に対する着色変化を観察したが、清拭布の色調はほとんど変化しなかった。また、乳幼児の口腔内の清拭に使用したところ、ほのかな甘味があり、乳幼児が嫌がることもなかった。
〔比較例1〕
実施例1において、茶抽出物の量を0.005重量部から0.1重量部に変えた以外は同様にして歯牙清拭布用の薬液を調製し、この薬液を用いた以外は同様にして口腔内の清拭布を製造した。
【0060】
得られた清拭布を、1日間、7日間、14日間、28日間、56日間、112日間放置して、基材である不織布に対する着色変化を観察したところ、時間の経過と共に、清拭布の色調が次第に褐色になり、14日後には不織布が著しく褐変した。そのため、乳幼児に使用することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布には、キシリトールと茶抽出物とを含有するので、乳幼児の口腔内、特に歯牙の清拭に使用することにより、齲歯の発生を有効に防止できるなど、乳幼児の口腔内を衛生に保つことができる。このような乳幼児の口腔内を衛生的に保つことができるが、茶抽出物の配合量を、本発明で規定するように特定の範囲内に制御することによって、純白であることが好まれる清拭布が、茶抽出物の褐変により変色するのを、視認することができない程度にまで低減することができる。また、上記のような量で茶抽出物を配合することにより、清拭布に茶抽出物特有の苦味が発現することがなく、このような清拭布を使用することを、乳幼児がこれを忌避することがない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布の例を示す部分切欠斜視図である。
【図2】図2は、本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布を形成するメッシュ状の不織布の表面を拡大して模式的に示す図である。
【図3】図3は、図2におけるA-A断面を模式的に示す図である。
【図4】図4は、図1においけるB-B断面を模式的に示す図である。
【図5】図5は、本発明の乳幼児用の口腔内の清拭布を製造する工程の一例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0063】
12・・・メッシュ状不織布
13・・・繊維が絡み合った部分
14・・・貫通孔
20・・・包装袋
21・・・外側ポリオレフィン層
22・・・アルミニウム層
23・・・内側ポリオレフィン層
24・・・ヒートシール層
25・・・空隙
28・・・複合フィルム
30・・・底部
31、32・・・側部
33・・・上部
p・・・縦(最大)差し渡し幅(目開き)
q・・・横差し渡し幅
W1・・・最低厚さ
W2・・・最高厚さ
X・・・表面(繊維が捕捉され終わる面:表面平滑度の低い面)
Y・・・裏面(繊維が捕捉され始める面:表面平滑度の高い面)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布に、キシリトールおよび茶抽出物を含有する水溶液が含浸された乳幼児用の口腔内の清拭布であり、該水溶液中における茶抽出物の量が、0.001〜0.05重量%の範囲内にあり、該水溶液中に含有される成分が食品および/または食品添加物であることを特徴とする乳幼児用の口腔内の清拭布。
【請求項2】
上記不織布が、表裏面を貫通する多数の透過孔を有するメッシュ状とされており、表裏面における平滑度が異なるよう構成されていることを特徴とする請求項第1項記載の乳幼
児用の口腔内の清拭布。
【請求項3】
上記清拭布が、個別包装されており、該清拭布が、アルミ箔の両面に合成樹脂層が形成された密閉袋に包装されており、該清拭布は、密封袋に包装された状態で高圧蒸気滅菌処理されたものであることを特徴とする請求項第1項記載の乳幼児用の口腔内の清拭布。
【請求項4】
上記不織布の目付けが70g/m2を超えることを特徴とする請求項第1項記載の乳幼児
用の口腔内の清拭布。
【請求項5】
上記乳幼児用の口腔内の清拭布が、実質的に、殺菌剤、抗菌剤、研磨剤、発泡剤を含有しないことを特徴とする請求項第1項記載の乳幼児用の口腔内の清拭布。
【請求項6】
上記不織布の目開きが、500〜1500μmの範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の乳幼児用の口腔内の清拭布。
【請求項7】
上記メッシュ状の不織布が、平滑度の異なる表裏面を有し、清拭布が平滑度の低い主たる清拭面を外側にして折りたたまれて上記水溶液と共に密閉袋に密封包装されていることを特徴とする請求項第1項記載の乳幼児の口腔内の清拭布。
【請求項8】
上記密閉袋に密封されたメッシュ状の不織布の重量と、該不織布に含有される水溶液の重量とが、1:2〜1:5の範囲内の量であることを特徴とする請求項第1項記載の乳幼
児の口腔内の清拭布。
【請求項9】
上記水溶液中におけるキシリトールの含有率が1〜10重量%の範囲内にあり、該水溶液中に含有されるキシリトールと茶抽出物とが、400:1〜1000:1の範囲内の重量比で含有されていることを特徴とする請求項第1項記載の乳幼児用の口腔内の清拭布。
【請求項10】
上記乳幼児用の口腔内の清拭布が、実質的に褐変しないことを特徴とする請求項第1項
記載の乳幼児用の歯牙の清拭布。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−8613(P2006−8613A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189230(P2004−189230)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000112288)ピジョン株式会社 (144)
【Fターム(参考)】