説明

乳濁液を用いて金属塩を加水分解する方法

本発明の対象は、加水分解可能な金属塩を加水分解する方法であり、この場合この金属塩は、a)水とb)不活性液体とからなる乳濁液と反応される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と不活性液体とからなる乳濁液を用いて加水分解可能な金属塩を加水分解する方法に関する。
【0002】
例えば、純粋な半導体シリコン、ソーラーシリコンならびに高分散性珪酸の製造に原料として使用されるトリクロロシラン(TCS)および四塩化珪素(STC)への冶金学的シリコンとHClガスとからなるクロロシランの変換の際に、副生成物として金属塩、主に金属クロリドが形成される。殊に、塩化アルミニウムおよび塩化鉄は、反応混合物の冷却の際に固体として析出する。固体の意図的な析出は、液状シランの蒸留による後処理の際に移動を回避するために、処理技術的に重要である。固体の金属クロリドをプロセスから分離するために、種々の方法が公知である。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第2623290号明細書A1には、FeCl3と混合されたAlCl3をクロロシランのガス状反応混合物からリービヒ管(Liebig-Rohren)中で析出することが記載されている。リービヒ管の清浄化は、記載されていない。
【0004】
固体は、たいてい高耐蝕性の化合物の混合物であるので、生じる水溶液のそのまま引続く加水分解および場合による中和は、固体の後処理(1つの利用のために)に有利に利用される。無水の金属クロリド(殊に主要成分の塩化アルミニウム)を加水分解する場合には、周知のように極めて高い熱量が遊離され、この熱量は、不十分な熱導出の際に水の蒸発をまねき、その結果、制御不可能な圧力構成、ひいては爆発するまでの危険なプラント状態をまねきうる。
【0005】
従って、安全性の理由から、前記の金属クロリドで汚染された装置およびプラント部分は、加水分解による清浄化のために取り外される。その結果、プラントの開放および汚染された装置の輸送の際に事故の危険とともに、故障時間を回避させるために論理的に高額の費用が発生する。それと関連した安全性の危険ならびに多額の費用は、莫大なものである。
【0006】
他の選択可能な方法によれば、例えば欧州特許出願公開第1174388号明細書A1には、金属クロリドを沈殿後に急冷器中で費用を掛けて濾別し、それによって利用可能な形で単離する方法が記載されている。しかし、たいてい金属クロリドの混合物が問題であるので、この場合も加水分解および引続く排水清浄化プラントによる廃棄処理は、他の費用の掛かる後処理よりも好ましく、経済的である。更に、加水分解は、フィルターケークのドーピング速度を制御することができる。
【0007】
固体の加水分解可能な金属塩を簡単で危険のない方法で加水分解するという課題が課された。
【0008】
本発明の対象は、加水分解可能な金属塩を加水分解する方法であり、この場合この金属塩は、a)水とb)不活性液体とからなる乳濁液と反応される。
【0009】
本発明による方法により、加水分解反応は、制御して実施されうる。金属塩の加水分解の際の熱の遊離は、水性乳濁液の使用によって減速させることができる。それによって、プラント部分での金属塩付着物の確実で安価な連続的除去を取り付けられた状態で可能にする。
【0010】
加水分解の場合には、特に不活性液体中の水性乳濁液は、望ましい清浄化効果が達成されるまで付着物の固体の表面と接触される。これは、水との直接の反応と比較して次の利点を有する:
反応表面積は、水の小液滴構造に基づいて減少されている。更に、発熱加水分解は、明らかに徐々に行なわれる。反応速度は、乳濁液中の水の割合により熱の導出に適合させることができる。不活性液体は、反応後の乳濁液の破壊によって、加水分解生成物の含量が増大された水相と分離されることができ、ひいては回収させることができる。この結果、本発明による方法には、連続的な運転形式が予定される。
【0011】
表面に付着する金属塩を除去するための方法は、特に好適である。例えば、装置、例えばリービヒ管は、水性乳濁液を望ましい変換率が達成されるまで導通させることにより、付着する金属塩が取り除かれる。完全な除去は、インジケータ(例えば、pH電極、温度測定、導電率測定、熱伝導性測定、屈折率測定、密度測定)により直接に、流出する乳濁液に対して検出することができるか、または既に分離された水相に対して検出することができ、したがってこのプロセスは、簡単に自動化することもできる。
【0012】
乳濁液中の水の最適な濃度は、簡単な前試験によって測定することができ、この場合には、殊に強い発熱的加水分解プロセスは、通常、低い水濃度で開始され、望ましくない過熱が回避される。公知の反応エンタルピー、熱導出ならびに熱容量の場合には、望ましい温度上昇または許容される温度上昇に対して最適な混合を算出することもできる。乳濁液中での水の割合は、有利に0.5質量%から80質量%までで変動することができ、好ましいのは、10〜50質量%の範囲であり、特に好ましいのは、15〜35質量%の範囲である。極めて低い濃度の場合には、加水分解が完結するまでよりいっそう長時間継続され、これに対して、水の割合が高すぎる場合には、乳濁液の不安定化および望ましくない高い温度上昇をまねく。従って、乳濁液の安定化のために、乳化剤を添加することは、好ましい。
【0013】
金属塩として、例えばアルミニウム、鉄、チタンおよびクロムのハロゲン化物、殊に塩化アルミニウムおよび塩化鉄がこれに該当する。
【0014】
シラン製造による塩化アルミニウム付着物の加水分解の場合には、塩酸溶液が形成され、したがって、この場合には、特に酸性環境中で化学的に安定性である乳化剤が使用される。このような乳化剤の例は、スルホン酸誘導体、ホスホン酸誘導体およびポリエチレングリコール誘導体であり、これらは、混合物として使用されてもよい。この場合には、アルミニウムイオンと難溶性の生成物を形成する乳化剤、例えばドデシルベンゼンスルホン酸は、特に有利であり、したがって、十分に高い濃度の場合には、実際に乳濁液の安定化は、加水分解プロセス中、維持されるが、しかし、乳化剤の沈殿によってプロセスの終結時に乳濁液のよりいっそう簡単な分離が可能になる。前記混合物中での乳化剤の濃度は、通常、0.01〜10質量%、有利に0.1〜2質量%、特に有利に0.1〜1質量%である。
【0015】
不活性液体としては、水中で難溶性の液体だけが好ましく、この液体は、選択された条件下で金属塩付着物または加水分解生成物と反応しない。特に、不活性液体は、10℃で液状である。好ましいのは、オルガノポリシロキサン、例えば環式または線状ポリジメチルシロキサンまたは炭化水素、例えばパラフィン油、トルエン、ポリアルキルベンゼンである。特に好ましいのは、ポリジメチルシロキサン、例えば商業的に入手可能な線状ポリジメチルシロキサン、例えばMe3Si−O(SiMe2O)m−SiMe3、この場合m=10〜40であるものとする、または環式(Me2SiO)nからなる混合物、この場合n=4〜6であるものとする、である。しかし、不活性液体からなる混合物が使用されてもよい。
【0016】
特に、不活性液体は、20℃で0.5〜1000mPas、殊に10〜50mPasの粘度を有する。
【0017】
乳化プロセスは、特に乳化の実地において典型的な機械的混合装置、例えばディスソルバーによって実現されるか、または同時に輸送システムとして利用されるポンプによって実現される。乳濁液は、ストックとして製造され、容器中に中間貯蔵されることができるか、または使用直前に新しく製造されることができる。
【0018】
加水分解プロセスは、原理的に0℃〜100℃の温度で実施されることができる。しかし、水の蒸発が過圧の実現によって阻止される限り、よりいっそう高い温度も考えられる。水の沸点に対して十分な温度間隔が保証され、圧力構成が阻止されうるようにするために、通常の実地においては、80℃を下廻る温度範囲で常圧下で反応が行なわれる。
【0019】
この方法は、バッチ法で実施されてよいし、連続的に実施されてもよい。バッチ法の場合には、加水分解すべき金属塩は、適当な容器中に装入され、乳濁液が添加されるか、または乳濁液が装入され、固体計量供給装置または固体輸送装置(例えば、スクリューコンベヤー、固体スルースゲート)により金属塩が制御して供給される。特に、生産プラントにおいて、本発明による方法は、連続的に稼働される。この場合、清浄化すべき装置(管路、例えばリービヒ管、容器等)は、できるだけ取り付けられた状態で乳濁液で洗浄される。そのために、前記装置は、特に堅固な管路結合で乳濁液供給装置と結合されている。それによって、大気中への放出は、回避させることができる。しかし、本発明による方法は、取り外された装置に対して実施されてもよく、この装置は、特殊な装置(清浄化機構(Reinigungsstand))に接続されかつ乳濁液で十分に洗浄される。洗浄プロセスは、特に乳濁液をポンプ(メンブランポンプ、ジャイロポンプ、シュパルトロールポンプ(Spaltrohrpumpe)、歯車ポンプ、ピストンポンプ等)により乳濁液を輸送することによって実施される。この結果、場合によっては、輸送装置が成分の十分に強力な混合を可能にする限り、乳化プロセスおよび輸送プロセスを唯一の工程で行なうことができるという利点を有する。この場合には、水および(場合によっては再循環された)不活性液体および場合によっては乳化剤は、特に混合区間で合わさり、ポンプの吸い込み側に供給され、ポンプによって輸送され、その際に同時に乳化される。しかし、清浄化すべきプラント部分を通じての乳濁液の輸送は、例えば高い容器による静水圧の構成またはガス圧(例えば、圧縮空気、窒素)の印加によって行なうことができる。しかし、この場合には、乳濁液は、先に製造されていなければならないか、または分散システムは、清浄化すべき装置に前接続されていなければならない。
【0020】
乳濁液の通過量は、特に清浄化ができるだけ迅速かつ安全に進行するように選択される。この通過量は、乳濁液中での水の濃度ならびに乳濁液のプロセス温度および安定性により左右される。最適なプロセスパラメーターは、簡単な前試験で、例えば洗浄液の出口での温度を測定することによって算出することができる。この場合には、望ましくない過熱を阻止するために、好ましくは最初にできるだけ低い水濃度が使用される。
【0021】
経済的な理由から、不活性の乳濁液成分を再び回収することは、好ましい。そのために、清浄化プロセスで生じる乳濁液は、通常の方法(例えば、塩の添加、ガラス織物で充填された分離器/コアレッサー上への移行)で破壊され、水相は、分離され、不活性液体に再び水および場合によっては乳化剤が混入される。
【0022】
以下の実施例および比較例において、特に記載がない限り、全ての量の表記およびパーセントの表記は、質量に対するものであり、かつ全ての反応は、0.10MPa(絶対)及び20℃の温度で実施される。
【実施例】
【0023】
実施例1:(連続的方法)
試験機構において、貯蔵容器からのシリコーン油AK35(35mPasの粘度を有するポリジメチルシロキサン、商業的にWacker Chemie AG社から入手可能)と水を4:1の比でドデシルベンゼンスルホン酸0.5%の添加下にディスソルバーとして作用する循環ポンプ中で混合し、同時に輸送する。生じる乳濁液を塩化アルミニウム60kgで占められたリービヒ管に100kg/hの通過量で付着物が完全に溶解するまでポンプ輸送する。後接続されガラス織物で充填されたコアレッサー中で、流出する混合物を水相とシリコーン油相とに分離する。水相は、黄色の海綿状粒子を含有し、吸着器を経て活性炭から排水清浄化プラントに導出され、シリコーン油相は、貯蔵容器中に返送される。分離器から連続的に導出される排水量を絶えず新しい水によって代替する。反応を環境温度(18℃)で実施する。流出する混合物は、管の付加的な冷却なしに34℃に昇温した。1時間後および55分後、流入量と流出量との間のpH値の差異は、もはや全く確認することができず、付着物は、完全に溶解されている。水1000kg/hでの10分間の後洗浄によって、管内部に付着するシリコーン油残分は、ティッシュペーパーでの拭き取り試験が示すように完全に除去されている。
【0024】
実施例2:(バッチ試験)
600mlのビーカー中に水109gとシリコーン油AK35 313.5gとからなる混合物を装入し、分散棒(Ultraturrax)で20秒間、乳化させる。引続き、乳濁液を羽根型攪拌機で220rpmで攪拌し、クロロシラン生産からの重い金属クロリドブロック14g(塩化アルミニウム)を添加する。温度は、23℃から16分以内に44℃の最大値に上昇し、その後に固体は、32分後に完全に溶解し、再び40℃に低下する。
【0025】
実施例3:(バッチ試験)
600mlのビーカー中に水105.3gとシリコーン油AK35 302.4gとMarion(登録商標)AS3酸 1.5g(=ドデシルベンゼンスルホン酸)とからなる混合物を装入し、分散棒(Ultraturrax)で20秒間、乳化させる。引続き、乳濁液を羽根型攪拌機で220rpmで攪拌し、クロロシラン生産からの重い金属クロリドブロック13.5g(塩化アルミニウム)を添加する。温度は、23℃から13分以内に46℃の最大値に上昇し、その後に固体は、30分後に完全に溶解し、再び39℃に低下する。
【0026】
実施例3に対する比較例(本発明によらない)
600mlのビーカー中に水196.6gを装入する。220rpmで羽根型攪拌機で攪拌しながら、クロロシラン生産からの重い金属クロリドブロック12.6g(塩化アルミニウム)を添加する。温度は、23℃から30秒以内に54℃の最大値に上昇し、固体が1分後に完全に溶解するまで、再び53℃に低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解可能な金属塩を加水分解する方法において、この金属塩をa)水とb)不活性液体とからなる乳濁液と反応させることを特徴とする、加水分解可能な金属塩を加水分解する方法。
【請求項2】
乳濁液中の水の割合は、10〜50質量%である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
金属塩は、塩化アルミニウムである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
不活性液体としてオルガノポリシロキサンまたは炭化水素、またはこれらの混合物を使用する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
不活性液体は、20℃で0.5〜1000mPasの粘度を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
表面に付着する金属塩を除去する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−519724(P2011−519724A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507877(P2011−507877)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055217
【国際公開番号】WO2009/135795
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】