説明

乳由来タンパク質加水分解物の製法

本発明は、乳由来タンパク質加水分解物を製造するための酵素的方法と、例えば人工栄養乳組成物における、かかる加水分解物の使用とに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はコンピューター読取可能な形式の配列表を含む。このコンピューター読取可能形式は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、乳由来タンパク質加水分解物を製造するための酵素的方法と、例えば人工栄養乳組成物中における、かかる加水分解物の使用とに関する。
【背景技術】
【0003】
乳幼児の母乳栄養に代替し得る人工栄養乳が開発されてきた。
かかる人工栄養乳は、適切な離乳食が始まるまで、乳幼児の栄養要求を完全に満たさなければならない。更に、味は重要であり、少なくとも親は苦味のない人工栄養乳を好む。通常の牛乳の代わに加水分解乳タンパク質、例えば部分加水分解ホエータンパク質や高加水分解カゼインを含む人工栄養乳がよく使用される。アレルギー性が低く、味も許容し得るからである。
【0004】
文献記載の部分加水分解物の調製法の多くは、ブタ膵臓組織の抽出により製造されるトリプシン調製物等の膵臓酵素の使用を含む(例えばWO9304593A1、US5039532A等を参照)。文献記載の方法の中には、トリプシン及びキモトリプシンの混合物の使用を含むものもある。例えばEP0353122Aは、キモトリプシン/トリプシン活性の比が1.5〜3.0であるトリプシンとキモトリプシンとの混合物を使用して、低アレルギー性ホエータンパク質加水分解物を調製する方法を開示する。EP0631731A1によれば、トリプシン対キモトリプシン比が1.3〜18、より好ましくは4〜6(USP単位)のトリプシンとキモトリプシンとの混合物が、通常は好適な性質を有する加水分解物を与えるとされている。
【0005】
いくつかの理由から、微生物から産生されるタンパク質分解酵素の使用によって利点が得られる場合がある。例えば、微生物による酵素産生は効率的であり、制御が容易である。よって、かかる酵素は大量に、且つ高純度で生産することができる。また、微生物酵素の使用は、動物材料からの酵素抽出に伴う増大するQA関連の困難を克服する助けにもなるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等の目的の一つは、微生物から産生される酵素を用いて、低アレルギー誘発性の乳由来タンパク質加水分解物を製造する方法を開発することである。別の目的は、トリプシンとキモトリプシンとを含む抽出調製物を用いて調製された加水分解物のタンパク質フラグメントプロフィールと類似のタンパク質フラグメントプロフィールを有する乳由来タンパク質加水分解物を、微生物から産生される酵素を用いて製造する方法を開発することである。別の目的は、微生物から産生される酵素を用いて、許容し得る味の乳由来タンパク質加水分解物を製造する方法を開発することである。特に、低アレルギー誘発性を有し、トリプシンとキモトリプシンとを含む抽出調製物を用いて調製された加水分解物のタンパク質フラグメントプロフィールと類似のタンパク質フラグメントプロフィールを有し、及び/又は、特に苦みの面で許容し得る味を有する、部分的ホエータンパク質加水分解物を得ることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は驚くべきことに、微生物から産生された酵素が、例えば人工栄養乳に含ませる乳由来タンパク質加水分解物の製造に使用できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、乳由来タンパク質加水分解物の調製法であって、
乳由来タンパク性物質の溶液を、
a)微生物から産生されるトリプシン様エンドペプチダーゼ、及び
b)微生物から産生される少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼ、
を用いて処理することを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ブタトリプシン(上のトレース)との比較でフザリウム(Fusarium)トリプシン(下のトレース)のUVクロマトグラムを示すとともに、主なピークのペプチド配列同一性を示す。
【図2】図2は、ウシトリプシン(上のトレース)と比較したブラキスポリエラ(Brachysporiella)プロテアーゼ(下のトレース)のUVクロマトグラムを示すとともに、主なピークのペプチド配列同一性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法では、乳由来タンパク性物質を出発物質として使用する。かかる乳由来タンパク性物質は、例えば、ホエー由来タンパク性物質、カゼイン、又はホエー由来タンパク性物質とカゼインとの混合物からなる。ホエー由来タンパク性物質の原料としては、例えばチーズ製造時に得られるホエー、特にレンネットによるカゼインの凝固から生じるスイートホエーが挙げられる。ホエー由来タンパク性物質は、限外ろ過物(UFホエー)やホエータンパク質分離物等の、タンパク質が35〜80%の範囲の濃縮物の形で使用してもよい。このホエー由来タンパク性物質は、イオン交換及び/又は電気透析により得られるもの(EDホエー)でもよい。好適な実施態様によれば、乳由来タンパク性物質はホエータンパク質濃縮物(WPC)である。
【0011】
カゼイン源は酸性カゼインでも脱脂乳固体でもよい。
ホエー由来タンパク性物質及び/又はカゼインは、例えば液体濃縮物又は粉末の形で使用される。
【0012】
好適な実施態様によれば、乳由来タンパク性物質はホエー由来タンパク性物質である。より好適な実施態様によれば、かかるホエー由来タンパク性物質の供給源は、カゼイノ−グリコ−マクロペプチド(CGMP)を除去したスイートホエー又はホエータンパク質分離物である。更に好適な実施態様によれば、かかるホエー由来タンパク性物質の供給源は、カゼイノ−グリコ−マクロペプチド(CGMP)を除去したスイートホエーである。
【0013】
スイートホエーからCGMPを除去することにより、ヒトの母乳に近いスレオニン含量を有するタンパク性物質が得られる。続いて、この改質スイートホエーに、含量の少ないアミノ酸(基本的にはヒスチジンとアルギニン)を補完してもよい。スイートホエーからCGMPを除去する方法は、EP880902に記載されている。
【0014】
本発明の方法では、タンパク性物質を希釈又は復元し、溶液又は懸濁物とする。そのタンパク性物質の含量は、好ましくは約2〜35重量%、より好ましくは約5〜30重量%とする。
【0015】
本発明の方法では、乳由来タンパク性物質を、少なくとも2種のエンドペプチダーゼで処理する。これらはいずれも微生物から産生されたものである。
【0016】
本発明の方法で使用されるエンドペプチダーゼは、どのような属の微生物から産生されたものでもよい。本発明の目的によれば、所与の生物に関して本明細書において使用される「から産生される」等の語は、本発明で使用されるポリペプチドが、当該所与の生物の細胞の発酵により製造されることを意味する。ポリペプチドは、産生生物が元来有するものであってもよく、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を宿主生物に導入して、異種的に産生させたものであってもよい。
【0017】
本発明の方法で使用されるエンドペプチダーゼの1つは、トリプシン様エンドペプチダーゼである。本明細書では「トリプシン様エンドペプチダーゼ」という語を、ペプチド又はタンパク質をアルギニン及び/又はリジンのL−異性体のC末端側で優先的に切断するエンドペプチダーゼとして定義する。
【0018】
好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、ペプチド又はタンパク質をアルギニン及びリジンのC末端側で優先的に切断する。これはエンドペプチダーゼが、他のアミノ酸の後における切断よりも、アルギニン及びリジンの後における切断に高い特異性を示すことを意味する。
【0019】
別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、ペプチド又はタンパク質をアルギニン又はリジンのC末端側で優先的に切断する。これはエンドペプチダーゼが、他のアミノ酸の後における切断よりも、アルギニン又はリジンの後における切断に高い特異性を示すことを意味する。
【0020】
別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、ペプチド又はタンパク質をアルギニンのC末端側で優先的に切断する。これはエンドペプチダーゼが、他のアミノ酸の後における切断よりも、アルギニンの後における切断に高い特異性を示すことを意味する。
【0021】
別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、リジンのC末端側でペプチド又はタンパク質を優先的に切断する。これはエンドペプチダーゼが、他のアミノ酸の後における切断よりも、リジンの後における切断に高い特異性を示すことを意味する。
【0022】
別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、ペプチド又はタンパク質をアルギニン又はリジンのC末端側で特異的に切断する。
【0023】
好適な実施態様によれば、本発明のトリプシン様エンドペプチダーゼは、トリプシン比が100超である。ここでトリプシン比とは、Arg又はLysの後で切断する時の酵素活性(何れか大きい方)を、Ala、Asp、Glu、Ile、Leu、Met、Phe又はValの何れか1つの後で切断する時の酵素活性(何れか大きい方)で割った値として決定される。すなわち、好適な実施態様によれば、本発明のトリプシン様エンドペプチダーゼは、Ala、Asp、Glu、Ile、Leu、Met、Phe又はVaの何れか1つの後における切断に対する特異性(何れか大きい方)より、Arg又はLysの後における切断に対する特異性(何れか大きい方)の方が少なくとも100倍高い。トリプシン比を求めるための活性測定は、エンドペプチダーゼ活性が最適pHにおけるエンドペプチダーゼ活性の少なくとも半分となるようなpH値で行なうべきである。トリプシン比は、例えば、本願の実施例1に記載のように決定すればよい。
【0024】
典型的には、かかるトリプシン様エンドペプチダーゼは、pH約6.0〜約11.0、好ましくはpH約8〜約10で、温度約40℃〜約70℃、好ましくは温度約45℃〜約65℃で、又は約45℃〜約60℃で、最適のタンパク質分解活性を有する。
【0025】
好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、真菌エンドペプチダーゼである。より好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、フザリウム(Fusarium)株、好ましくはフザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)由来である。これは例えば、本願の配列番号2の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を有する(SWISSPROT No. P35049)。配列番号2のアミノ酸25〜248で示されるアミノ酸配列を有するフザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)由来のトリプシン様エンドペプチダーゼが既に報告されている(US5,288,627;US5,693,520)。
【0026】
ある実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)由来のものである。例えば、本願の配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するAP977Sが挙げられる(GENESEQP: ADZ80577)。別の実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼはフザリウムcf.ソラニ(Fusarium cf. solani)由来のものである。例えば、本願の配列番号6として示されるアミノ酸配列を有するAP971が挙げられる。
【0027】
本発明の目的によれば、所与の由来源(すなわち生物)からポリヌクレオチド又はポリペプチドを得ることとの関連で、本明細書で使用される「に由来する」等の語は、そのポリヌクレオチド(又はそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)が、その由来生物中に天然に存在するポリヌクレオチド配列と同一であるか、或いはその配列の変種であることを意味する。ここで、そのポリヌクレオチド配列が別の生物に挿入されたものか否かや、そのポリヌクレオチドが別の生物により産生されたものか否かは無関係である。
【0028】
好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、真菌由来である。更に好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、フザリウム(Fusarium)株由来である。
【0029】
本発明の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは:
i)配列番号2、4又は6の何れの成熟ポリペプチドと少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii)(i)配列番号1、3又は5の何れの成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号1、3又は5の何れの成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、少なくとも低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;
iii)配列番号1、3又は5の何れの成熟ポリペプチドコード配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;及び
iv)配列番号2、4又は6の何れの成熟ポリペプチドの1又は2以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む変種、
よりなる群から選択される。
【0030】
本明細書では「成熟ポリペプチド」という語を、翻訳及び翻訳後修飾(例えばN末端プロセシング、C末端末端切断、グリコシル化、リン酸化等)を経た最終型のエンドペプチダーゼ活性を有するポリペプチドとして定義する。
【0031】
本明細書では「成熟ポリペプチドコード配列」という語を、エンドペプチダーゼ活性を有する成熟ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列として定義する。
【0032】
配列番号2の成熟ポリペプチドは、アミノ酸25〜248でもよい。配列番号4の成熟ポリペプチドは、アミノ酸26〜251でもよい。配列番号6の成熟ポリペプチドは、アミノ酸18〜250でもよい。
【0033】
本発明の目的によれば、2つのアミノ酸配列間の同一性は、Needleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)を用い、EMBOSSパッケージ(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends in Genetics 16: 276-277)のNeedleプログラムの好ましくはバージョン3.0.0又はそれ以降で実行して決定する。使用される任意パラメータは、ギャップオープニングペナルティ10、ギャップエクステンションペナルティ0.5、EBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換マトリックスである。「最長同一性」と表示されるNeedleの出力(-nobriefオプションを用いて得られる)を、同一性パーセントとして使用する。これは以下の式で計算される。
(同一の残基数×100)/
(アラインメント長 − アラインメント中のギャップ総数)
【0034】
本発明の目的によれば、2つのデオキシリボヌクレオチド配列間の同一性は、Needleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, 前述)を使用して、EMBOSSパッケージ(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, 前述)のNeedleプログラムの好ましくはバージョン3.0.0又はそれ以降で実行して決定する。使用される任意パラメータは、ギャップオープニングペナルティ10、ギャップエクステンションペナルティ0.5、EDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックスである。「最長同一性」と表示されるNeedleの出力(-nobriefオプションを用いて得られる)を、同一性パーセントとして使用する。これは以下の式で計算される。
(同一のデオキシリボヌクレオチド数×100)/
(アラインメント長 − アラインメント中のギャップ総数)
【0035】
本発明の好適な一実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号2の成熟ポリペプチドと、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。より好適な本発明の実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号2の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を含む。別のより好適な本発明の実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号2のアミノ酸25〜248を含む。更に好適な本発明の実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号2の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列からなる。本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号2のアミノ酸25〜248からなる。
【0036】
別の好適な本発明の一実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号4の成熟ポリペプチドと、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。より好適な本発明の実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号4の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を含む。別のより好適な本発明の実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号4のアミノ酸26〜251を含む。更に好適な本発明の実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号4の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列からなる。本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号4のアミノ酸26〜251からなる。
【0037】
本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号6の成熟ポリペプチドと、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。本発明の更に好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号6の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を含む。本発明の別の更に好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号6のアミノ酸18〜250を含む。本発明の更に好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号6の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列からなる。本発明の別の更に好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号6のアミノ酸18〜250からなる。
【0038】
本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、非常に低いストリンジェンシー条件下で、好ましくは低いストリンジェンシー条件下で、より好ましくは中程度のストリンジェンシー条件下で、更に好ましくは中程度〜高いストリンジェンシー条件下で、よりいっそう好ましくは高いストリンジェンシー条件下で、最も好ましくは非常に高いストリンジェンシー条件下で(J. Sambrook, E.F. Fritsch, and T. Maniatis, 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2d edition, Cold Spring Harbor, New York)、(i)配列番号1の成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号1の成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、ハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされる。
【0039】
本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、非常に低いストリンジェンシー条件下で、好ましくは低いストリンジェンシー条件下で、より好ましくは中程度のストリンジェンシー条件下で、更に好ましくは中程度〜高いストリンジェンシー条件下で、よりいっそう好ましくは高いストリンジェンシー条件下で、最も好ましくは非常に高いストリンジェンシー条件下で、(i)配列番号3の成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号3の成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、ハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされる。
【0040】
本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、非常に低いストリンジェンシー条件下で、好ましくは低いストリンジェンシー条件下で、より好ましくは中程度のストリンジェンシー条件下で、更に好ましくは中程度〜高いストリンジェンシー条件下で、よりいっそう好ましくは高いストリンジェンシー条件下で、最も好ましくは非常に高いストリンジェンシー条件下で、(i)配列番号5の成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号5の成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、ハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされる。
【0041】
本発明との関連において、非常に低い〜非常に高いストリンジェンシー条件は、5×SSPE、0.3% SDS、200μg/mlの剪断及び変性したサケ精子DNA、及び、非常に低い及び低いストリンジェンシーでは25%ホルムアミド、中程度及び中程度〜高いストリンジェンシーでは35%ホルムアミド、或いは、高い及び非常に高いストリンジェンシーでは50%ホルムアミドの存在下、42℃で、標準的なサザンブロッティング法に従って、最適には12〜24時間行われるプレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションと定義される。担体材料は最終的に、2×SSC、0.2% SDSを用いて、好ましくは45℃(非常に低いストリンジェンシー)で、より好ましくは50℃(低いストリンジェンシー)で、更に好ましくは55℃(中程度のストリンジェンシー)で、よりいっそう好ましくは60℃(中程度〜高いストリンジェンシー)で、更にいっそう好ましくは65℃(高いストリンジェンシー)で、最も好ましくは70℃(非常に高いストリンジェンシー)で、各回15分で3回洗浄される。
【0042】
本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号1の成熟ポリペプチドコード配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる。
【0043】
本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号3の成熟ポリペプチドコード配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる。
【0044】
本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号5の成熟ポリペプチドコード配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる。
【0045】
本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号2、4又は6の成熟ポリペプチドの1又は2以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む変種である。
【0046】
本発明との関連において、かかる変種は、対立遺伝子(天然)多型であってもよく、人工の変種であってもよい。また、成熟ポリペプチドの1又は2以上(又は数個)のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含んでいてもよい。アミノ酸変化は軽微なものであることが好ましい。すなわち、タンパク質の折り畳み及び/又は活性に大きな影響を与えない保存的アミノ酸の置換又は挿入;小さな欠失、典型的には1〜30個程度のアミノ酸の欠失;小さなアミノ末端又はカルボキシ末端の伸長、例えばアミノ末端メチオニン残基の伸長;最大20〜25残基程度の小さなリンカーペプチド;或いは、精製を容易にするために正味荷電や他の作用を改変する小さな伸長、例えばポリヒスチジン部分、抗原性エピトープ又は結合ドメイン等が挙げられる。
【0047】
トリプシン様エンドペプチダーゼの濃度は、好ましくは1gの乳由来タンパク質当たり1,000〜1,000,000USPトリプシン単位、更に好ましくは5,000〜500,000、及び最も好ましくは25,000〜250,000である。
【0048】
1USPトリプシン単位は、pH7.6、25℃で、N−ベンゾイル−L−アルギニンエチルエステル塩酸塩(BAEE)を基質として使用して、253nmで0.003の吸光度変化を引き起こす活性である。
【0049】
比活性は、異なるトリプシン様エンドペプチダーゼ間で非常に大きく変化し得るが、当業者は例えば加水分解度に基づいて、使用されるトリプシン様エンドペプチダーゼの量を容易に決定できるであろう。
【0050】
トリプシン様エンドペプチダーゼと乳由来タンパク質との比は、好ましくは0.01〜10%重量/重量、更に好ましくは0.01〜5%、更に好ましくは0.05〜2.5%、更に好ましくは0.5〜1%、最も好ましくは約0.75%である。
【0051】
本発明の方法において乳由来タンパク性物質は、トリプシン様エンドペプチダーゼと少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼを用いて処理される。
【0052】
好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、セリンエンドペプチダーゼである。
【0053】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼの活性は、トリプシン様エンドペプチダーゼよりも特異性が低い。
【0054】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、哺乳動物のキモトリプシン、例えばブタ膵臓組織から抽出されるキモトリプシンの活性と類似の活性を有する。
【0055】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、任意の他の天然のアミノ酸のカルボキシ末端側での切断よりも、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、メチオニン又はヒスチジンの何れのカルボキシ末端側での切断に対して、より高い特異性を有する。
【0056】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、メチオニン又はヒスチジンの少なくとも1つのカルボキシ末端での切断に対して、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、イソロイシン、リジン、プロリン、セリン、スレオニン、及びバリンの何れか1つのカルボキシ末端側での切断に対する特異性より、少なくとも3倍、好ましくは少なくとも5倍高い特異性を有する。
【0057】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、アルギニンのカルボキシ末端側での切断よりも、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、メチオニン、及びヒスチジンよりなる群から選択される少なくとも3つのアミノ酸のそれぞれのカルボキシ末端側での切断に対して、より高い特異性を有する。
【0058】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、リジンのカルボキシ末端側での切断よりも、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、メチオニン、及びヒスチジンよりなる群から選択される少なくとも3つのアミノ酸のそれぞれのカルボキシ末端側での切断に対して、より高い特異性を有する。
【0059】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、アルギニンとリジンの両方のカルボキシ末端側での切断よりも、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、メチオニン、及びヒスチジンのそれぞれのカルボキシ末端側での切断に対して、より高い特異性を有する。
【0060】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、キモトリプシン比が少なくとも3、好ましくは少なくとも5である。少なくとも5のキモトリプシン比は、Phe、Leu又はMet(何れか大きい方)の1つの後で切断する時の酵素の活性は、Ala、Arg、Asp、Glu、Ile、Lys又はVal(何れか大きい方)の1つの後で切断する時の活性より、少なくとも5倍高いことを意味する。すなわち、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、Phe、Leu又はMet(何れか大きい方)の1つの後で切断することに対する特異性が、Ala、Arg、Asp、Glu、Ile、Lys又はVal(何れか大きい方)の1つの後で切断することに対する特異性より、少なくとも3倍高く、好ましくは少なくとも5倍高い。キモトリプシン比を測定するためのかかる活性測定は、エンドペプチダーゼの活性が、その最適pHでのエンドペプチダーゼの活性の少なくとも半分であるpH値で行うべきである。キモトリプシン比は、本願の実施例1に記載のように決定される。
【0061】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、細菌性エンドペプチダーゼである。より好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、ノカルジオプシス(Nocardiopsis)株、好ましくはノカルジオプシス(Nocardiopsis)NRRL18262種(例えばWO88/03947に記載のもの)由来である。例えば、本願の配列番号8の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を有する。ノカルジオプシス(Nocardiopsis)NRRL18262種由来であるプロテアーゼのDNA配列とアミノ酸配列は、例えばデンマーク特許出願第199600013号に記載されている。
【0062】
より好適な別の実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、メタリジウム(Metarhizium)、好ましくは例えば本願の配列番号10の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を有するメタリジウム・アニソプリイ(Metarhizium anisopliae)(TREMBL:Q9Y843)由来である。更に好適な別の実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、ブラキスポリエラ(Brachysporiella)、好ましくは例えば本願の配列番号12の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を有するブラキスポリエラ・ガヤナ(Brachysporiella gayana)(CGMCC0865)由来である。メタリジウム・アニソプリイ(Metarhizium anisopliae)とブラキスポリエラ・ガヤナ(Brachysporiella gayana)由来であるプロテアーゼのDNA配列とアミノ酸配列は、例えばWO04072279に公表されている。
【0063】
別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、細菌から産生される。
【0064】
本発明の別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、
i)配列番号8、10又は12の何れの成熟ポリペプチドと少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii)(i)配列番号7、9又は11の何れの成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号7、9又は11の何れの成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、少なくとも低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;
iii)配列番号7、9又は11の何れの成熟ポリペプチドコード配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;及び
iv)配列番号8、10又は12の何れの成熟ポリペプチドの1又は2以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む変種、
よりなる群から選択される。
【0065】
配列番号10の成熟ポリペプチドとしては、アミノ酸187〜374が挙げられる。配列番号12のポリペプチドとしては、アミノ酸190〜375が挙げられる。
【0066】
本発明の別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号8の成熟ポリペプチドと、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。本発明の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号8の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を含む。本発明の別の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号8のアミノ酸1〜188を含む。本発明の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号8の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列からなる。本発明の別の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号8のアミノ酸1〜188からなる。
【0067】
別の本発明の好適な一実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号10の成熟ポリペプチドと、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。本発明の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号10の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を含む。本発明の別の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号10のアミノ酸187〜374を含む。本発明の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号10の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列からなる。本発明の別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号10のアミノ酸187〜374からなる。
【0068】
本発明の別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号12の成熟ポリペプチドと、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。本発明の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号12の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列を含む。本発明の別の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号12のアミノ酸190〜375を含む。本発明の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号12の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列からなる。本発明の別の更に好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号12のアミノ酸190〜375からなる。
【0069】
本発明の別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、非常に低いストリンジェンシー条件下で、好ましくは低いストリンジェンシー条件下で、より好ましくは中程度のストリンジェンシー条件下で、更に好ましくは中程度〜高いストリンジェンシー条件下で、よりいっそう好ましくは高いストリンジェンシー条件下で、最も好ましくは非常に高いストリンジェンシー条件下で、(i)配列番号7の成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号7の成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、ハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされる。
【0070】
本発明の別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、非常に低いストリンジェンシー条件下で、好ましくは低いストリンジェンシー条件下で、より好ましくは中程度のストリンジェンシー条件下で、更に好ましくは中程度〜高いストリンジェンシー条件下で、よりいっそう好ましくは高いストリンジェンシー条件下で、最も好ましくは非常に高いストリンジェンシー条件下で、(i)配列番号9の成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号9の成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、ハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされる。
【0071】
本発明の別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、非常に低いストリンジェンシー条件下で、好ましくは低いストリンジェンシー条件下で、より好ましくは中程度のストリンジェンシー条件下で、更に好ましくは中程度〜高いストリンジェンシー条件下で、よりいっそう好ましくは高いストリンジェンシー条件下で、最も好ましくは非常に高いストリンジェンシー条件下で、(i)配列番号11の成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号11の成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、ハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされる。
【0072】
別の好適な本発明の実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号7の成熟ポリペプチドコード配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる。
【0073】
本発明の別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号9の成熟ポリペプチドコード配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる。
【0074】
本発明の別の好適な実施態様によれば、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼは、配列番号11の成熟ポリペプチドコード配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%又は少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%又は少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる。
【0075】
本発明の別の好適な実施態様によれば、トリプシン様エンドペプチダーゼは、配列番号8、10又は12の成熟ポリペプチドの1又は2以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む変種である。
【0076】
少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼの濃度は、1gの乳由来タンパク質当たり、好ましくは100〜100,000USPキモトリプシン単位、より好ましくは500〜50,000、最も好ましくは1,000〜20,000である。
【0077】
1USPキモトリプシン単位は、pH7.0、25℃で、N−アセチル−L−チロシンエチルエステル(ATEE)を基質とした場合に、237nmで0.0075の吸光度変化を引き起こす活性である。
【0078】
比活性はエンドペプチダーゼの種類に応じて大きく異なる場合があるが、当業者であれば、例えば加水分解度に基づいて、使用される少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼの量を容易に決定できるであろう。
【0079】
少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼの乳由来タンパク質に対する比は、好ましくは0.001〜1%重量/重量、より好ましくは0.001〜0.5%、更に好ましくは0.005〜0.25%、よりいっそう好ましくは0.02〜0.1%、最も好ましくは約0.05%である。
【0080】
少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼの使用濃度は、トリプシン様エンドペプチダーゼの使用濃度に対し、エンドペプチダーゼ重量基準で、好ましくは2%〜50%、より好ましくは5%〜20%、更に好ましくは5%〜15%、最も好ましくは約10%である。
【0081】
USPトリプシン単位で測定されるトリプシン様エンドペプチダーゼの活性は、USPキモトリプシン単位で測定される少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼの活性より、好ましくは5倍〜500倍高く、より好ましくは10倍〜200倍高い。
【0082】
加水分解前の任意の予備工程としては、ホエータンパク質フラグメント、例えば血清アルブミン(BSA)、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、及び免疫グロブリン(特にIgG)を確実に変性するために、乳由来タンパク性物質の溶液又は懸濁物を予備加熱する工程が挙げられる。この工程により通常は、(後述されるように)免疫化学的に評価した場合の残存抗原性が低減される。好適な実施態様によれば、予備工程は、タンパク性物質を約75〜95℃で約5〜30分加熱することにより行われる。別の好適な実施態様によれば、予備工程は、タンパク性物質を135℃より高い温度で約1〜5秒間加熱することにより行われる。別の好適な実施態様によれば、予備工程は、タンパク性物質を130℃より高い温度で約30〜60秒間加熱することにより行われる。
【0083】
加水分解反応に好適に適用される条件は、当業者には周知であろう。これは例えば、US5039532又はEP0631731A1の開示等に従って行われる。例えば、約40℃〜60℃の温度で、1〜6時間、pH6.5〜8.5、好ましくは6.5〜8の範囲で行われる。
【0084】
好適な実施態様によれば、タンパク性物質は、ペプチダーゼによる1回目の処理後、更に2回目のタンパク質分解的加水分解を受け、次にエンドペプチダーゼ不活性化が行われる。より好適な実施態様によれば、タンパク性物質は、US5039532に開示されているように、1回目と2回目のタンパク質分解的加水分解の間で熱処理を受ける。
【0085】
加水分解条件とは無関係に、加水分解物に対して、エンドペプチダーゼを不活性化する追加の工程を行うことが好ましい。好適な実施態様によれば、このペプチダーゼ不活性化は、約70〜110℃、好ましくは75〜95℃の温度で、約0.1〜30分の熱処理を含む。或いは、エンドペプチダーゼは、超高温の滅菌(例えば約130℃で約30〜60秒間)により不活性化される。
【0086】
得られたタンパク質加水分解物は、更に清澄化してもよい。これは液体状態で保存してもよい。加水分解物を限外ろ過し、溶媒留去等により濃縮し、或いは噴霧乾燥や凍結乾燥等の乾燥を行ってもよい。
【0087】
好適な実施態様によれば、得られるタンパク質加水分解物は、中程度の加水分解を有する。別の好適な実施態様によれば、得られるタンパク質加水分解物の加水分解度は、5〜30%、好ましくは10〜25%、更に好ましくは12〜20%である。特に好適な加水分解度は約14%である。別の好適な加水分解度は約15%である。
【0088】
加水分解度(DH)は、この方法により得られるタンパク質加水分解度を示す。本発明との関連において、加水分解度(DH)は以下のように定義される:
DH=(切断されるペプチド結合の数/ペプチド結合の総数)×100%
【0089】
得られるタンパク質加水分解物の加水分解度(DH)は、Church, F. C. et al. (1983) Spectrophotometric Assay Using o-Phthaldialdehyde for Determination of Proteolysis in Milk and Isolated Milk Proteins, J. Dairy Sci. 66: 1219-1227の方法に従って、分光光学的に測定される。
【0090】
得られるタンパク質加水分解物中のペプチドの分子量分布は、例えばサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により決定される。好適な実施態様によれば、本発明の加水分解物を構成するペプチドのうち、分子量20,000kDa超のペプチドは、重量基準で1%未満である。
【0091】
本発明の方法により得られる加水分解物は、検出可能な無傷乳タンパク質を有さないことが好ましい。加水分解物に無傷乳タンパク質が存在しないことは、例えばドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により立証される。同一のゲル中で、加水分解物と非加水分解タンパク質出発物質とを直接比較することができる。好適な実施態様によれば、本発明の加水分解物を構成するペプチドのうち、無傷乳由来タンパク質は重量基準で1%未満である。
【0092】
本発明の方法により得られる加水分解物の残存抗原性は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用して測定される。非加水分解乳タンパク質は、アッセイで確立される直線的用量応答内に入る濃度で、固相上に固定化される。以後の、ウサギ抗牛乳タンパク質とウサギIgGに反応性の酵素結合体との連続インキュベーションは、抗原性で認識可能なタンパク質及びペプチドの存在を明らかにする。加水分解物で得られる結果は、非加水分解タンパク質出発物質で得られる結果と、質量ベースで比較される。次に加水分解物の抗原性低下パーセントが算出される。
【0093】
好適な実施態様によれば、本発明の方法により得られるタンパク質加水分解物は、ELISAにより測定すると、対応する非加水分解乳由来タンパク性物質に対して、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、更に好ましくは少なくとも約90%又は少なくとも約95%、最も好ましくは少なくとも約98%の抗原性の低下を有し、更に最も好ましくは抗原性の低下は少なくとも約99%である。
【0094】
好適な実施態様によれば、本発明の方法により得られるタンパク質加水分解物は、人工栄養乳組成物である。
【0095】
好適な実施態様によれば、本発明は、人工栄養乳組成物を調製する方法であって、上記開示に従って乳由来タンパク質加水分解物を得る工程を含むとともに、得られた乳由来タンパク質加水分解物を人工栄養乳組成物に含める工程を更に含む方法に関する。
【0096】
かかる人工栄養乳組成物は、粉末、濃縮液体又は即時使用液体の何れの形でもよい。
【0097】
かかる人工栄養乳組成物は、ヒト乳幼児の栄養要求を満足するように調整された成分を含むことが好ましい。すなわち、人工栄養乳は、本発明の方法に従って得られるタンパク質加水分解物以外に、脂質源、炭水化物源、及び他の栄養物質(例えばビタミンやミネラル)を含有するのが好ましい。典型的には、上記栄養物質の一部又は全部を供給するべく、人工栄養乳に動物油、植物油、デンプン、ショ糖、乳糖及び/又は固形コーンシロップを加えてもよい。
【0098】
本発明のタンパク質加水分解物を含む人工栄養乳組成物は、栄養的に完全であることが好ましい。「栄養的に完全」という用語は、組成物が、健康なヒトの生命を長期間維持するのに充分な栄養物質を含有することを意味する。
【0099】
好適な実施態様によれば、本発明のタンパク質加水分解物を含む人工栄養乳組成物は、タンパク質の0.1〜2重量%の遊離アルギニン及び/又はタンパク質の0.1〜3重量%の遊離ヒスチジンを追加的に含む。本発明の方法において、改質スイートホエー又はホエータンパク質分離物が乳由来タンパク性物質として使用される場合、遊離アルギニン及び/又は遊離ヒスチジンの添加が特に好ましい。
【0100】
別の好適な実施態様によれば、本発明のタンパク質加水分解物を含む人工栄養乳組成物は、少なくとも5%の乾燥固形分、好ましくは約10〜30%の量の乾燥固形分の乳由来タンパク質加水分解物を含む、栄養的に完全な組成物の形である。
【実施例】
【0101】
[実施例1]
抽出されたブタ膵臓トリプシン調製物の微生物代替物
膵臓トリプシンNovo 6.0S(Novozymes A/Sから入手できる−以下のPTNで)は、ブタ膵臓組織の抽出により産生される生成物である。PTNの主要な成分はトリプシンとキモトリプシンであり、トリプシン:キモトリプシンの比は少なくとも12.5:1(活性ベース、すなわちUSPトリプシン単位:USPキモトリプシン単位)である。
【0102】
PTNのような抽出された酵素調製物に対する適切な微生物の代替物を同定するために、Bachemから入手できる10個の異なるSuc−AAPX−pNA基質(X=A、R、D、E、I、L、K、M、F、及びV)に対する異なる微生物プロテアーゼのpH9での活性を測定した。これらの測定値に基づいて、各微生物プロテアーゼのトリプシン比(TR)とキモトリプシン比(CR)とを算出した。トリプシン比とキモトリプシン比は以下のように定義される:
【0103】
TR=Suc−AAP(R/K)−pNAに対する最大活性/Suc−AAP非(R/K)−pNAに対する最大活性
CR=Suc−AAP(F/L/M)−pNAに対する最大活性/Suc−AAP非(F/L/M)−pNAに対する最大活性
【0104】
トリプシン比
トリプシンは、アルギニン残基又はリジン残基のカルボキシ末端側で切断する特異的セリンエンドペプチダーゼであり、すなわちこれらは、P1位のR又はKに対する厳密な優先性を有する。従ってトリプシン様プロテアーゼの適切な定義は、トリプシン比が>100であり、これは、8個の他のSuc−AAP非(R/K)−pNAの何れに対する活性が、最適なSuc−AAP(R/K)−pNA基質に対する活性の1%未満であることを意味する。
【0105】
キモトリプシン比
キモトリプシンは、芳香族アミノ酸残基(Trp、Tyr又はPhe)又は疎水性アミノ酸残基Leu、Met、及びHisの何れのカルボキシ末端側での切断に対してあまり厳密ではない優先性を有する。トリプシンと比較して、キモトリプシンはあまり特異的ではないエンドペプチダーゼであり、キモトリプシン様プロテアーゼの妥当な定義は、キモトリプシン比>5であり、これは、7個の他のSuc−AAP非(F/L/M)−pNA基質の何れの上の活性が、最適なSuc−AAP非(F/L/M)−pNA基質に対する活性の20%未満であることを意味する。
【0106】
Suc−AAPX−pNAアッセイ
プロテアーゼ:
PTN
ブタトリプシン(UNIPROT:P00761)
フザリウムトリプシン(フザリウム・オキシスポルムからのトリプシン様プロテアーゼ、配列番号2)
ウシTLCK-処理キモトリプシン(Sigma, C-3142)
アルカラーゼ(Novozymes A/Sから入手できる)
バシロペプチダーゼ F(バシルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)から, UNIPROT:Q65JX1)
ブラキスポリエラ(Brachysporiella)プロテアーゼ(ブラキスポリエラ・ガヤナから、配列番号12)
エスペラーゼ(Novozymes A/Sから入手できる)
メタリジウムプロテアーゼ(メタリジウム・アニソプリイから入手できる、配列番号10)
ノカルジオプシスプロテアーゼ(ノカルジオプシスNRRL18262種由来である、配列番号8)
サビナーゼ(Novozymes A/Sから入手できる)
【0107】
基質:
Suc-AAPA-pNA(Bachem L-1775)
Suc-AAPR-pNA(Bachem L-1720)
Suc-AAPD-pNA(Bachem L-1835)
Suc-AAPE-pNA(Bachem L-1710)
Suc-AAPI-pNA(Bachem L-1790)
Suc-AAPL-pNA(Bachem L-1390)
Suc-AAPK-pNA(Bachem L-1725)
Suc-AAPM-pNA(Bachem L-1395)
Suc-AAPF-pNA(Bachem L-1400)
Suc-AAPV-pNA(Bachem L-1770)
【0108】
温度:
室温(25℃)
アッセイ緩衝液:100mM コハク酸、100mM HEPES、100mM CHES, 100mM CABS, 1mM CaCl2, 150mM KCl, 0.01% トリトンX-100、pH 9.0。
【0109】
アッセイ:
20μlのペプチダーゼ希釈駅(0.01%トリトンX-100で希釈)をマイクロタイタープレートのウェルに入れた。200μlのpNA基質(50mgを1.0ml DMSOに溶解し、更にアッセイ緩衝液で90×希釈した)を加えることにより、アッセイを開始した。OD405での初期上昇をペプチダーゼ活性の尺度として追跡した。4分間の測定時間内で直線(又はほぼ直線)プロットが達成されなかった場合、ペプチダーゼを更に希釈し、アッセイを繰り返した。
【0110】
データ:
【表1】

【0111】
表で各エンドペプチダーゼについて報告した活性データは、最適なSuc-AAPX-pNA基質の活性に対するものである。
【0112】
結論:
トリプシン比>100を有するプロテアーゼとしてトリプシン様プロテアーゼの上記定義を使用すると、ブタトリプシン(TR=1750)とフザリウム(Fusarium)トリプシン(TR>10,000)は、トリプシン様プロテアーゼである。試験したプロテアーゼの残りは、トリプシン様プロテアーゼではない。
【0113】
キモトリプシン比>5を有するプロテアーゼとしてキモトリプシン様プロテアーゼの上記定義を使用すると、ウシキモトリプシン(CR=160)、アルカラーゼ(CR=40)、ブラキスポリエラプロテアーゼ(CR=2.2)、エスペラーゼ(CR=6.2)、メタリジウムプロテアーゼ(CR=27)、ノカルジオプシスプロテアーゼ(CR=7.7)、及びサビナーゼ(CR=9.7)は、キモトリプシン様プロテアーゼである。残りの試験したプロテアーゼはキモトリプシン様プロテアーゼではない。
【0114】
キモトリプシン様プロテアーゼの別の定義は、キモトリプシンに対する相対的活性差の二乗の和を計算することであろう。この定義を使用して、メタリジウムプロテアーゼは、最高のキモトリプシン様セリンプロテアーゼであり、次にブラキスポリエラプロテアーゼ、ノカルジオプシスプロテアーゼ、サビナーゼ、及びアルカラーゼとなる(データは示していない)。
【0115】
[実施例2]
微生物エンドペプチダーゼの組合せによるWPCの加水分解
次の工程は、微生物エンドペプチダーゼの混合物を使用したホエータンパク質濃縮物(WPC)で、2つの酵素混合物を同様に使用した場合にPTNについて得られるものと同じ程度の加水分解(DH)が得られるかどうかを調べることであった。
【0116】
加水分解実験
我々が行った加水分解アッセイは、2工程加水分解法である。8.4%のWPC(80%ホエータンパク質を含有する)をpH8.0の緩衝液に懸濁した。1回目の加水分解工程は、酵素量の半分を加え、溶液を55℃で攪拌しながら2時間インキュベートすることにより行った。次に部分加水分解ホエータンパク質基質を、短時間の熱処理(90℃で5分間)により変性させた。2回目の加水分解工程は、酵素量の他の半分を加え、溶液を55℃で攪拌しながら30分間インキュベートすることにより行った。最後に酵素反応を停止させ、更に短時間の熱処理(90℃で10分間)により酵素を不活性化させた。ホエータンパク質/ペプチドの最終濃度は6.4%WPであった。このアッセイを使用することにより、我々は、PTNを微生物代替物と比較することができるはずである。
【0117】
アルカリ性範囲で加水分解中にH+が生成するために、我々は最大量の酵素の一部についてpHをチェックした。pHの低下を検出することができず、我々のpH8.0緩衝液は、加水分解中のpHを調節するのに充分強力であることを示していた。
【0118】
まず我々は、4種類の異なる量のPTNを試験した(0.625、1.25、2.5、及び5.0mgトリプシン/gホエータンパク質)。最少量について、ホエータンパク質加水分解物は非常に粘性があり、エッペンドルフチューブから出すのがほとんど不可能であり、従ってこの加水分解物のDHは測定できなかった。PTN加水分解物のSDS−PAGE分析は、少なくとも5.0mgトリプシン/gホエータンパク質量について、ほとんどの無傷タンパク質は分解されていることを示した。次にSDS−PAGEゲルでは、等量のタンパク質/ペプチドを各レーンにのせた。5.0mgトリプシン/gホエータンパク質PTN用量についてDH=9.4%であった。
【0119】
次に我々は、精製トリプシン(ブタトリプシンとフザリウム(Fusarium)トリプシン)を用いて加水分解実験を少し行った。比較的多い量でも、約6.5%を超えるDHは得ることができなかった。以下のデータ欄を参照。
【0120】
最後に我々は、3回目の加水分解を行って、フザリウム(Fusarium)トリプシンの量を5.0mgトリプシン/gホエータンパク質で一定に維持し、キモトリプシン様プロテアーゼの量を変化させた(0.25、0.5、及び1.0mgプロテアーゼ/gホエータンパク質)。ここで我々は、PTN用量を等量にしたもの同じ範囲のDH値を得た(DH=9.4%)。
【0121】
2回目のキモトリプシン様プロテアーゼの量を上昇させることのDHに対する作用は、2回目のプロテアーゼに依存して異なる作用を有することがわかる。フザリウム(Fusarium)トリプシンとバシルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)のグルタミルペプチダーゼBL(これはキモトリプシン様プロテアーゼではない)との組合せは、フザリウム(Fusarium)トリプシン単独で見られたように安定するようである。
【0122】
DH値(以下のデータ欄参照)とSDS−PAGE上のホエータンパク質加水分解物の外観には相関関係がある。フザリウム(Fusarium)トリプシンとノカルジオプシス(Nocardiopsis)プロテアーゼとの組合せは(SDS−PAGEゲルから−データは示していない)、WPC基質から無傷タンパク質を除去するのに最適なセリンプロテアーゼの組合せのようである。
【0123】
加水分解アッセイ
使用したエンドペプチダーゼ:
【表2】

【0124】
PTN6.0S中のトリプシンとキモトリプシン含量の算出について我々は、ブタトリプシンの比活性=7000USP/mgとブタキモトリプシンの比活性=4500USP/mgを使用した。他の調製物中の酵素濃度は、A280/E280から推定した。PTNを20mM HEPES/NaOH、5mM CaCl、pH8に溶解した。他の酵素は、融解後「そのまま」使用した。
【0125】
加水分解:
84mg/mlのWPC(全乾燥物質の約80%のタンパク質を含むArlaからのLactProdan80)を、1.0M HEPES/NaOH、50mM CaCl2、pH8.0に懸濁し、27%NaOHを用いてpHをpH8.0に調整した。この懸濁物1000μlを氷上のエッペンドルフチューブに入れた。25μlのプロテアーゼ溶液を加え、エッペンドルフチューブを、あらかじめ55℃に加熱したエッペンドルフサーモミキサーに移した。サーモミキサー上でチューブを120分間インキュベートした(55℃、1400rpm)。チューブを、あらかじめ90℃に加熱した別のエッペンドルフサーモミキサーに移し、このサーモミキサー上で5分間インキュベートした(90℃、1400rpm)。チューブを最初の55℃のエッペンドルフサーモミキサーに戻し、5分後(加水分解混合物を55℃にするため)、25μlのペプチダーゼ溶液を加え、チューブをサーモミキサー上で30分間インキュベートした(55℃、1400rpm)。最後にチューブを再度90℃のサーモミキサーに移し、このサーモミキサー上で10分間インキュベートした(90℃、1400rpm)。
【0126】
加水分解物(64mg/mlホエータンパク質)をSDS−PAGEにより分析し(データは示していない)、OPA法を使用してDHを測定した。
【0127】
SDS−PAGE:
加水分解物を0.1% SDSで5×希釈した。この希釈物の20μlを、還元剤を有する20μlの2×SDS−PAGE試料緩衝液と混合した。この混合物を沸騰させ、10μlを4〜20%トリス−グリシンゲルに適用した。
【0128】
DHを測定するためのOPA法:
加水分解物を0.01% トリトンX−100で80×希釈した。この希釈物30μlをマイクロタイタープレート(MTP)に移し、225μlの新たに調製したOPA試薬を加え、2分後、MTPリーダーで340nmの吸光度を読んだ。未知試料の応答をセリン標準希釈シリーズと比較し、mg/mlセリンとして表した。「OPA応答」を「mg/ml基質」に対する「加水分解物中のmg/mlセリン」として計算した。DHの計算のために、酵素ブランクの「OPA応答」を引いた。
【0129】
OPA試薬
3.81gのテトラホウ酸二ナトリウム(Merch 6308)と1.00gのSDS(BIO-RAD 161-0301)を80mlの脱イオン水に溶解した。使用直前に、2.0mlのエタノール中に溶解した80mgのo−フタルジアルデヒド(MercK 821027)を加え、1.0mlの10%(w/w)DTE(Merch 24511)を加えた。最後に脱イオン水を用いて、容量を100mlに調整した。
【0130】
データ:
【表3】

【0131】
結論:
微生物PTN−リプレーサー(PTNとして与える)を使用して、WPCの同程度の加水分解(DH)を得ることが可能のようである。トリプシン様プロテアーゼ単独では、PTNと同じDHを得ることはできないことも、結果から明らかである。
【0132】
[実施例3]
フザリウム(Fusarium)トリプシンとブラキスポリエラ(Brachysporiella)エンドペプチダーゼの切断特異性分析
初めに:
微生物トリプシン様エンドペプチダーゼであるフザリウム(Fusarium)トリプシンのタンパク質分解的切断特異性を、ブタトリプシンと比較した。ブラキスポリエラ(Brachysporiella)からの微生物キモトリプシン様エンドペプチダーゼのタンパク質分解的切断特異性を、TLCK処理ブタキモトリプシンのタンパク質分解的特異性と比較した(TLCKは、キモトリプシンに影響を与えることなくトリプシンを不活性化する)。
【0133】
記載のエンドペプチダーゼを変性モデル基質ウシベータ−ラクトグロブリンAとともにインキュベートすることにより、切断特異性分析を行った。得られたタンパク質分解性ペプチドの配列を、タンパク質同定に使用されるタンデム質量スペクトルデータ解析プログラム(SEQUEST)と組合せたオンラインRP-HPLC-ESI-Orbitrap MS/MSと、ウシベータ−ラクトグロブリンAのみを含むデータベースにより、決定した。
【0134】
試料:
プロテアーゼ:
ブタトリプシン(UniProt accession: P00761)
フザリウムトリプシン(フザリウム・オキシスポルムのトリプシン様プロテアーゼ、配列番号2)
ウシTLCK処理キモトリプシン(Sigma, C-3142)
ブラキスポリエラプロテアーゼ(ブラキスポリエラ・ガヤナから、配列番号12)
基質:
ベータ−ラクトグロブリンA、牛乳から(Sigma L7880 097K7010)
【0135】
タンパク質分解:
ベータ−ラクトグロブリンAの変性:
牛乳(Sigma L7880 097K7010)からの約11mg量のベータ−ラクトグロブリンAを1mlの緩衝液(100mM 酢酸アンモニウム、1mM CaCl2、pH8)に溶解した。ベータ−ラクトグロブリンのジスルフィド結合をジチオスレイトール(DTT、CAS番号3483-12-3)を加えて還元し、最終濃度20mMとした。混合物を室温(25℃)で30分インキュベートした。次に2−ヨードアセトアミド(CAS番号144-48-9)を最終濃度55mMになるように加えた。後者の混合物を暗所で室温で30分インキュベートした。
【0136】
プロテアーゼでインキュベートする前に、変性したベータ−ラクトグロブリンAを、100mM 酢酸アンモニア、1mM CaCl2、pH8に緩衝液交換した。緩衝液交換は、GE-healthcareのPD−10脱塩カラム(セファデックスG−25カラム材料)で行った。まずカラムを25mlの100mM 酢酸アンモニウム、1mM CaCl2、pH8で平衡化した。ベータ−ラクトグロブリン試料の容量を平衡化緩衝液を用いて最終容量2.5mlに調整し、カラムにのせた。3.5mlの100mM 酢酸アンモニア、1mM CaCl2、pH8でベータ−ラクトグロブリンAを溶出した。280nmで推定吸光係数(A280)1により、緩衝液交換したベータ−ラクトグロブリンの最終タンパク質濃度を2mg/mlであると決定した。
【0137】
タンパク質分解インキュベーション:
190μlの溶液に対応する400μg量のベータ−ラクトグロブリンを40℃で以下の量のプロテアーゼを用いてインキュベートした:
ブタトリプシン 8μg
フザリウムトリプシン 16μg
ウシTLCK処理キモトリプシン 4μg
ブラキスポリエラプロテアーゼ 4μg
【0138】
18時間後、10%トリフルオロ酢酸(TFA、CAS番号76-05-1)水溶液を試料中に最終濃度1% TFAになるように加えて、タンパク質分解工程を停止させた。すべての試料を、LC−MS/MSで分析するまで−20℃で保存した。
【0139】
LC−MS/MS法:
すべてのタンパク質分解試料を、Waters C18カラム(ACQUITY UPLC(商標)BEH C18、1.7μm、2.1×100mm)、Thermo ScientificのAccela液体クロマトグラフィーシステム、及びThermo ScientificのLTQ Orbitrap XL ETDハイブリッド質量スペクトル装置からなるRP-HPLC-ESI-Orbitrap MS/MS装置で分析した。20μlの容量をカラムに注入した。ペプチドを以下の勾配により分離した:
【0140】
溶媒A:UHQ水中0.1%ギ酸(CAS番号64-18-6)、溶媒B:アセトニトリル(CAS番号75-05-8)中0.1%ギ酸。
【表4】

【0141】
溶出するペプチドをオンラインでUV検出器により214nmで追跡し、次にMS/MSモードで質量スペクトル装置により追跡した。得られるUVクロマトグラムを図1と2に示す。質量スペクトル装置中の前駆体イオンを30,000(FWHM)の分解能で検出し、フラグメントイオンを15,000(FWHM)の分解能で検出した。得られるMSとMS/MSスペクトルをSEQUESTソフトウェア(米国特許第6,017,693号と5,538,897号のアルゴリズム)を用いてProteome Discoverer(バージョン1.0、Thermo Fisher Scientific)を介して、ベータ−ラクトグロブリンに対して解析した。切断酵素を、「非特異的」切断特異性で「酵素無し」と規定した。強いUV強度の一部のタンパク質分解フラグメントを、図1と2に示すように同定した。
【0142】
結果:
比較のために、フザリウム(Fusarium)トリプシンアッセイ(下のトレース)のUVクロマトグラムを、ブタトリプシンアッセイ(上のトレース)とともに図1に示し、いくつかの主要なペプチドの配列同一性を示す。同様に図2では、ブラキスポリエラ(Brachysporiella)プロテアーゼアッセイ(下のトレース)のUVクロマトグラムを、ウシキモトリプシン(下のトレース)とともに示す。すべての場合で、同定されたペプチドは、上のトレースと下のトレースの両方で検出されている。
【0143】
結論:
図1では、ウシベータ−ラクトグロブリンAの共通のタンパク質分解ペプチドが、フザリウム(Fusarium)トリプシンとブタトリプシンについて検出され、従って2つのエンドペプチダーゼは両方ともトリプシン様特異性を有する。図2では、ベータ−ラクトグロブリンAの一部の共通のタンパク質分解ペプチドがブラキスポリエラ(Brachysporiella)プロテアーゼとウシキモトリプシンについて検出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来タンパク質加水分解物の調製法であって、
乳由来タンパク性物質の溶液を、
a)微生物から産生されるトリプシン様エンドペプチダーゼ、及び
b)微生物から産生される少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼ、
を用いて処理することを含む方法。
【請求項2】
トリプシン様エンドペプチダーゼが、フザリウム(Fusarium)株由来である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
トリプシン様エンドペプチダーゼが、
i)配列番号2、4又は6の何れの成熟ポリペプチドと少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii)(i)配列番号1、3又は5の何れの成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号1、3又は5の何れの成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、少なくとも低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;
iii)配列番号1、3又は5の何れの成熟ポリペプチドコード配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;及び
iv)配列番号2、4又は6の何れの成熟ポリペプチドの1又は2以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む変種
よりなる群から選択される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
トリプシン様エンドペプチダーゼと乳由来タンパク質との比が、0.01〜10重量/重量%、好ましくは0.01〜5%、より好ましくは0.05〜2.5%、更に好ましくは0.5〜1%である、請求項1〜3の何れか1項記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼが、アルギニン及びリジンのカルボキシ末端側での切断よりも、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、メチオニン、及びヒスチジンのカルボキシ末端側での切断に対して、より高い特異性を有する、請求項1〜4の何れか1項記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼのキモトリプシン比が少なくとも3である、請求項1〜5の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼが、ノカルジオプシス(Nocardiopsis)、メタリジウム(Metarhizium)又はブラキスポリエラ(Brachysporiella)株由来である、請求項1〜6の何れか1項記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼが、
i)配列番号8、10又は12の何れの成熟ポリペプチドと少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
ii)(i)配列番号7、9又は11の何れの成熟ポリペプチドコード配列と、(ii)配列番号7、9又は11の何れの成熟ポリペプチドコード配列を含むゲノムDNA配列と、或いは(iii)(i)又は(ii)の完全長相補鎖と、少なくとも低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;
iii)配列番号7、9又は11の何れの成熟ポリペプチドコード配列と少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド;及び
iv)配列番号8、10又は12の何れの成熟ポリペプチドの1又は2以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を含む変種、
よりなる群から選択される、請求項1〜7の何れか1項記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼの乳由来タンパク質に対する比が、0.001〜1%重量/重量、好ましくは0.001〜0.5%、より好ましくは0.005〜0.25%、更に好ましくは0.02〜0.1%である、請求項1〜8の何れか1項記載の方法。
【請求項10】
エンドペプチダーゼ重量基準で、少なくとも1つの他のエンドペプチダーゼの濃度が、トリプシン様エンドペプチダーゼの濃度の2%〜50%である、請求項1〜9の何れか1項記載の方法。
【請求項11】
加水分解が、約40℃〜60℃の温度で1〜6時間、pH値6.5〜8.5の範囲内で行われる、請求項1〜10の何れか1項記載の方法。
【請求項12】
得られるタンパク質加水分解物の加水分解度が、5〜30%、好ましくは10〜25%、より好ましくは12〜20%である、請求項1〜11の何れか1項記載の方法。
【請求項13】
得られるタンパク質加水分解物を構成するペプチドのうち、20,000kDaより大きい分子量を有するペプチドが、重量基準で1%未満である、請求項1〜12の何れか1項記載の方法。
【請求項14】
得られるタンパク質加水分解物のELISAにより測定される抗原性が、対応する非加水分解乳由来タンパク性物質に比べて、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、又は少なくとも約95%、とりわけ好ましくは少なくとも約98%、特に好ましくは少なくとも約99%低い、請求項1〜13の何れか1項記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14の何れか1項記載の方法において、人工栄養乳組成物中に乳由来タンパク質加水分解物を含める工程を更に含んでなる、人工栄養乳組成物を調製する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−522498(P2012−522498A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502662(P2012−502662)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054290
【国際公開番号】WO2010/112546
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(500586299)ノボザイムス アクティーゼルスカブ (164)
【Fターム(参考)】