説明

乳癌再発の予防用ワクチン

臨床的寛解状態の患者(低から中レベルのHER2/neu発現を示す患者を含む)における乳癌に対する防御免疫又は治療免疫を誘導し維持する効果を有する、HER2/neu癌遺伝子のペプチドGP2に対する防御性細胞傷害性Tリンパ球応答を誘導し維持する方法を提供する。該方法は、製薬上許容される担体、GM-CSFなどのアジュバント、及びGP2ペプチドを含むワクチン組成物の有効量を該患者に投与することを含む。該方法は更に、GP2特異的T細胞免疫の低下のために、必要に応じて周期的なブースターワクチン用量を投与することを含む。また、該方法において使用するためのワクチン組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、EFS-Webにより提出された配列表を含むものであり、参照によりその全体を本明細書に組み入れる。ASCIIのコピーは、2009年12月7日に作成され、HMJ106PCT.txtという名称で、サイズが11,473バイトである。
【0002】
政府の関与
本発明の一部は政府の支援を受けてなされたものである。政府は本発明について一定の権利を有する。
【0003】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年12月10日出願の米国特許仮出願番号61/121,220(その全開示を参照により本明細書に組み入れることとする)の利益を主張し、その出願日に頼るものである。
【背景技術】
【0004】
乳癌(BCa)は、女性において最もよく見られる癌診断であり、女性における癌関連死の第2位の主要原因である(Ries LAGら(編). SEER Cancer Statistics Review, 1975-2003, National Cancer Institute, Bethesda, MD)。過去20年における乳癌治療における大きな進歩は無病生存(DFS)率の著しい改善をもたらしている。例えば、疾患の進行を遅らせ又は疾患の再発を予防するために、腫瘍関連抗原に対して反応性である抗体を使用して特定の細胞過程を遮断する療法が用いられている。乳癌治療における最近の進歩にもかかわらず、相当数の患者が最終的には再発性疾患により死亡する。
【0005】
ワクチンは、その投与の容易性及び感染症に関して認められているその高い成功率のため、再発性疾患の発症を予防し又は遅らせ又は妨げるための魅力的なモデルである。癌ワクチンの構築の基本概念は理論上は単純である。しかし、実際には、充実性腫瘍に対する有効な癌ワクチンの開発は、限られた成功しか収めていない。例えば、転移性メラノーマに対するペプチドワクチンを投与することを試みた1つのグループは、わずか2.6%の客観的応答率を観察したに過ぎなかった(Rosenberg SAら, (2004) Nat. Med. 10:909-15)。
【0006】
この低い成功率に関しては多くの解釈が可能である(Campoli Mら, (2005) Cancer Treat. Res. 123:61-88)。例えば、抗原が特定のタイプの腫瘍細胞に特異的に関連している場合であっても、該腫瘍細胞は該抗原を低レベルでしか発現できないか、あるいはそれは隠れた部位内に位置するか又は免疫検出から遮蔽されている可能性がある。また、腫瘍は、その発達につれて抗原を取り除くことにより、その抗原プロファイルを変化させることが多い。また、MHCタンパク質及び免疫応答を生成するのに必要な他の共刺激性タンパク質を腫瘍細胞が非常に低レベルでしか発現できないということも低い成功率の一因となっている。
【0007】
腫瘍に対するワクチン接種の試みが直面する他の問題は、進行期癌の患者において発生する。そのような患者は、より大きな原発性及び転移性腫瘍を有する傾向にあり、腫瘍の内部の細胞へは、血流が乏しいためアクセスできない。これは、ワクチン戦略が、悪性血液疾患の治療では、より成功しやすい傾向にあるという観察結果と符合する(Radford KJら, (2005) Pathology 37:534-50及びMolldrem JJ (2006) Biol. Bone Marrow Transplant. 12:13-8)。また、腫瘍が転移性になるにつれて、それは、免疫抑制因子をその微小環境内へ放出する能力を発達させうる(Campoli, 2005; 及びKortylewski Mら, (2005) Nature Med. 11:1314-21)。転移性腫瘍は末梢血リンパ球数の減少及び樹状細胞機能不全にも関連づけられている(Gillanders WEら, (2006) Breast Diseases: A Year Book and Quarterly 17:26-8)。
【0008】
これらの要因の幾つか又は全てが、有効な予防用又は治療用ワクチンの開発を困難にする一因になりうるが、根底にある大きな課題は、ほとんどの腫瘍抗原が自己抗原であるか、又は自己抗原に対して高い相同性を有し、したがって、厳密な免疫寛容を受けると予想される点にある。したがって、免疫刺激性アジュバントを伴う又は伴わない、ペプチドベースの多数の癌ワクチンは、低い免疫原性及び特異性欠如のため、臨床実施において、限られた成功しか収められない定めにあることは明らかである。
【0009】
単一抗原に基づく原型乳癌ワクチンは、動物実験において及び乳癌患者での臨床試験において、測定可能な応答を誘導することに、ある程度成功している。しかし、観察された免疫応答は、標準的な治療(例えば手術、放射線療法及び化学療法)により寛解状態になった疾患の再発に対する臨床的に有意な防御免疫にとして実現されていない。
【0010】
HER2/neuは、多数の上皮悪性疾患において発現される原癌遺伝子である(Slamon DJら, (1989) Science 244:707-12)。HER2/neuは上皮増殖因子受容体ファミリーのメンバーであり、細胞の成長及び増殖の調節に関与する185kdチロシンキナーゼ受容体をコードしている(Popescu NC et al. (1989) Genomics 4:362-366; Yarden Y et al. (2001) Nat Rev Mol Cell Bio 2:127-137)。HER2/neuの過剰発現及び/又は増幅は浸潤性乳癌(BCa)の25〜30%で見られ、より侵襲性の腫瘍及びより不良な臨床結果と関連づけられている(Slamon DJ et al. Science (1987) 235:177-182; Slamon DJ et al. Science (1989) 244:707-12; Toikkanen S et al. J Clin Oncol (1992) 10:1044-1048; Pritchard KI et al. (2006) N. Engl. J. Med. 354:2103-11)。
【0011】
HER2/neuの状態の決定は、主として、2つの試験、すなわち、免疫組織化学法(IHC)及び蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)により行われる。IHCはHER2/neuタンパク質の過剰発現を検出し、0〜3+(0=陰性、1+=低発現、2+=中度、及び3+=過剰発現)の半定量的尺度で記録される。一方、FISHはHER2/neu遺伝子の増幅(過剰コピー)を検出し、それは第17染色体遺伝子コピーに対するHER2/neu遺伝子コピーの比率として表され、FISHが>2.0コピーである場合に「過剰発現」と解釈される(Hicks DG et al. Hum Pathol (2005) 36:250-261)。IHC及びFISHの一致は約90%である(Jacobs et al. J Clin Oncol (1999) 17:1533-1541)。FISHは最も基準となる試験(gold standard)とみなされている。なぜなら、遡及分析は、それがトラスツズマブ(trastuzumab;Tz)応答の、より良好な予測因子であり、それが、より客観的でありかつ再現性に富むことを示しているからである(Press MF et al. J Clin Oncol (2002) 14:3095-3105; Bartlett J et al. J Pathol (2003) 199:411-417; Wolff AC et al. J Clin Oncol (2007) 25:118-145)。
【0012】
原癌遺伝子としてのHER2/neuの同定及び定量は、トラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin(登録商標))Genentech Inc., South San Francisco, CA)の使用を含む、体液性又は抗体に基づく受動免疫療法につながった。トラスツズマブは、HER2/neuタンパク質の細胞外膜近傍ドメインに結合する組換えヒト化モノクローナル抗体である(Plosker GL et al. Drugs (2006) 66:449-475)。TzはHER2/neu過剰発現(IHC 3+ 又はFISH>2.0)のリンパ節陽性(NP)及び転移性BCa患者に適応し(Vogel CL et al. J Clin Oncol (2002) 20:719-726; Piccart-Gebhart MJ et al. N Engl J Med (2005) 353:1659-1672)、低度〜中度のHER2/neu発現を示す患者においては、非常に限られた活性しか示さない(ハーセプチン(登録商標)(トラスツズマブ(Trastuzumab))医療用薬品挿入書。Genentech Inc, South San Francisco, CA: September 2000改訂)。
【0013】
研究途上のもう1つの形態の免疫療法は、HER2/neuのような腫瘍関連抗原上のエピトープに対する細胞性免疫応答を狙ったワクチン接種及び能動免疫療法である。HER2/neuは、HER2/neu発現癌細胞を認識し殺すために免疫系を刺激しうる幾つかの免疫原性ペプチドの源である(Fisk B et al. J Exp Med (1995) 181:2109-2117)。このような2つのペプチドはE75及びGP2と称する。E75及びGP2はいずれもヒト白血球抗原(HLA)-A2制限の9アミノ酸ペプチドであり、CTLがHER2/neu発現癌細胞を認識して溶解するのを刺激する(Fisk B et al. J Exp Med (1995) 181:2109-2117; Peoples GE et al. Proc Natl Acad Sci USA (1995) 92:432-436)。
【0014】
E75は、HER2/neuタンパク質の細胞外ドメインに由来し、HER2/neuアミノ酸配列のアミノ酸369〜377(KIFGSLAFL)(配列番号3)に相当し、米国特許第6,514,942号(この特許は参照によりその全体を本明細書に組み入れる)において配列番号11として開示されている。全長HER2/neuタンパク質配列を以下に示すが、これは米国特許第5,869,445号(この特許は参照によりその全体を本明細書に組み入れる)において配列番号2として開示されている。
【0015】
MKLRLPASPETHLDMLRHLYQGCQVVQGNLELTYLPTNASLSFL
QDIQEVQGYVLIAHNQVRQVPLQRLRIVRGTQLFEDNYALAVLDNGDPLNNTTPVTGA
SPGGLRELQLRSLTEILKGGVLIQRNPQLCYQDTILWKDIFHKNNQLALTLIDTNRSR
ACHPCSPMCKGSRCWGESSEDCQSLTRTVCAGGCARCKGPLPTDCCHEQCAAGCTGPK
HSDCLACLHFNHSGICELHCPALVTYNTDTFESMPNPEGRYTFGASCVTACPYNYLST
DVGSCTLVCPLHNQEVTAEDGTQRCEKCSKPCARVCYGLGMEHLREVRAVTSANIQEF
AGCKKIFGSLAFLPESFDGDPASNTAPLQPEQLQVFETLEEITGYLYISAWPDSLPDL
SVFQNLQVIRGRILHNGAYSLTLQGLGISWLGLRSLRELGSGLALIHHNTHLCFVHTV
PWDQLFRNPHQALLHTANRPEDECVGEGLACHQLCARGHCWGPGPTQCVNCSQFLRGQ
ECVEECRVLQGLPREYVNARHCLPCHPECQPQNGSVTCFGPEADQCVACAHYKDPPFC
VARCPSGVKPDLSYMPIWKFPDEEGACQPCPINCTHSCVDLDDKGCPAEQRASPLTSI
ISAVVGILLVVVLGVVFGILIKRRQQKIRKYTMRRLLQETELVEPLTPSGAMPNQAQM
RILKETELRKVKVLGSGAFGTVYKGIWIPDGENVKIPVAIKVLRENTSPKANKEILDE
AYVMAGVGSPYVSRLLGICLTSTVQLVTQLMPYGCLLDHVRENRGRLGSQDLLNWCMQ
IAKGMSYLEDVRLVHRDLAARNVLVKSPNHVKITDFGLARLLDIDETEYHADGGKVPI
KWMALESILRRRFTHQSDVWSYGVTVWELMTFGAKPYDGIPAREIPDLLEKGERLPQP
PICTIDVYMIMVKCWMIDSECRPRFRELVSEFSRMARDPQRFVVIQNEDLGPASPLDS
TFYRSLLEDDDMGDLVDAEEYLVPQQGFFCPDPAPGAGGMVHHRHRSSSTRSGGGDLT
LGLEPSEEEAPRSPLAPSEGAGSDVFDGDLGMGAAKGLQSLPTHDPSPLQRYSEDPTV
PLPSETDGYVAPLTCSPQPEYVNQPDVRPQPPSPREGPLPAARPAGATLERPKTLSPG
KNGVVKDVFAFGGAVENPEYLTPQGGAAPQPHPPPAFSPAFDNLYYWDQDPPERGAPP
STFKGTPTAENPEYLGLDVPV(配列番号1)
【0016】
HER2/neuタンパク質を過剰発現する進行癌患者において、抗癌ワクチン、例えば種々の免疫アジュバントと組み合わせた単一ペプチドワクチンとして(Zaks TZ et al. (1998) Cancer Res. 58:4902-8;Knutson KL et al. (2002) Clin. Cancer Res. 8:1014-8;及びMurray JL et al. (2002) Clin. Cancer Res. 8:3407-18);自己樹状細胞上にローディングし、再注入して(Brossart P et al. (2000) Blood 96:3102-8;及びKono K et al. (2002) Clin. Cancer Res. 8:3394-3400);又はCD4ヘルパーT細胞を動員するためにHLAクラスII分子に結合することができるより長いペプチドに組み込んで(Disis ML et al. (1999) Clin. Cancer Res. 5:1289-97;及びDisis ML et al. (2002) J. Clin. Oncol. 20:2624-32)、E75を利用する試みがなされている。それぞれの手法はE75特異的細胞傷害性T細胞媒介免疫応答を刺激したが、進行期の乳癌を患う女性において臨床上有意な治療免疫又は防御免疫を証明するものではなかった。他者がE75ワクチン調製物を用いて意義ある臨床利益を示すことができなかったことは、部分的には、E75が「自己」腫瘍抗原に由来するという事実が原因である。「自己」腫瘍抗原を標的とする癌ワクチンは、自己タンパク質に特徴的な免疫寛容のために、HER2/neuに由来するものと同様に、ユニークなチャレンジを示す。さらに、以前の研究は、標準的な治療後の無病患者ではなく、進行疾患、例えばステージIII又はIVの癌の癌患者に対して行われている。このように、抗癌ワクチンとしてE75を使用するこれらの試みのいずれも、寛解後の疾患の再発を予防又は遅延するワクチンの能力を証明してはいない。これらのE75の研究を基に、他者は、より最近になって、E75により誘導される免疫が高リスク乳癌患者における再発の予防による臨床利益をもたらすかどうかを判定するための臨床試験を実施している(Peoples GE et al., J. Clin. Oncol. (2005) 23:7536-45;Peoples GE et al., Clin Cancer Res (2008) 14(3):797-803;Holmes et al., Cancer (2008) 113:1666-75)。これらの研究によるデータは、in vivoにおけるE75により誘導されるDTH反応の増大が、再発の低減及び再発した患者の生存期間の延長と相関することを示す。
【0017】
GP2は、最初にPeoples et al.により記載され、全長配列のアミノ酸654〜662(すなわちIISAVVGIL:配列番号2)に相当するHER2/neuタンパク質の膜貫通部分に由来する9アミノ酸のペプチドである(Peoples GE et al., Proc Natl Acad Sci USA (1995) 92:432-436、参照によりその全体を本明細書に組み入れる)。このペプチドは、乳癌及び卵巣癌を患う患者からの腫瘍関連リンパ球を用いて単離され、のちに数種の上皮悪性腫瘍、例えば非小細胞肺癌及び膵癌の間で共有されていることが見出された(Linehan DC et al., J Immunol (1995) 155:4486-4491;Peiper M et al., Surgery (1997) 122:235-242;Yoshino I et al., Cancer Res (1994) 54:3387-3390;Peiper M et al., Eur J Immunol (1997) 27:1115-1123)。
【0018】
E75は、HLA-A2分子に対する高い結合アフィニティを有し、HER2/neuタンパク質の免疫優性ペプチドであると考えられている。そのため、これは、研究室及び臨床試験において最も研究されているHER2/neu由来ペプチドである(Peoples et al., J. Clin. Oncol. (2005) 23:7536-45)。免疫優性ペプチドとして、E75はより強力な免疫応答を誘導するとも予測されている。一方、GP2は、HLA-A2に対する結合アフィニティが比較的低く、亜優性エピトープと考えられている(Fisk B, et al. J Exp Med (1995) 181:2109-2117)。これは、HER-2/neuエピトープに対する細胞免疫応答を標的とするワクチン戦略がGP2よりもむしろE75に焦点がおかれていたという理由の1つである。
【0019】
GP2の以前の研究では、ex vivoでGP2(及び他のペプチド)で刺激(pulse)した自己樹状細胞を使用して、転移性乳癌又は卵巣癌を有するHER2/neu+患者に皮下(Brossart P et al. Blood (2000) 96:3102-3108)又は静脈内(Dees EC et al. Cancer Immunol Immunother (2004) 53:777-785)に再注射してCTL反応を誘導している。Brossart et al.は、ペプチド特異的(GP2及びE75)CTL反応をin vivoで確認しているが、両方のペプチドが、HLA-A2結合アフィニティの既知の相違にも関わらず類似した免疫応答を示したと記載している。Dees et al.は、転移性乳癌患者におけるGP2で刺激した樹状細胞を評価し、2名の患者において臨床的に安定な疾患を報告することができた。しかし、重要な点は、これらの研究のいずれもがペプチドワクチンとしてGP2を使用していないことである。両方の研究では、むしろ患者にGP2で刺激した樹状細胞を注射している。さらに、E75の研究と同様に、GP2の研究は進行癌を患う患者に限定されている。従って、BrossartもDeesも、GP2刺激樹状細胞が寛解後の疾患再発を予防する又は遅延させる能力を証明するものではない。E75と同様に、GP2が由来するHER2/neuのような「自己」腫瘍抗原を標的とする癌ワクチンは、自己タンパク質に特徴的な免疫寛容のために、ユニークなチャレンジを示す。
【0020】
Peoples et al.は以前に、乳癌患者から得られたGP2刺激樹状細胞及びCD8 T細胞を用いたin vitro細胞傷害性アッセイを実施することにより、ペプチドベースの乳癌ワクチン試験のためのGP2の使用を評価している(Mittendorf EA et al. Cancer (2006) 106:2309-2317)。これらのin vitro実験からの結果は、HER2/neu+乳癌を有する女性におけるGP2特異的前駆体細胞傷害性Tリンパ球の存在を確認しているが、所定のペプチドに対する応答の変動性及びin vivoにおける抗原発現の不均一性のため、免疫優性ペプチドE75を含む複数の異なるペプチドを用いたワクチン接種が、適度の免疫応答をもたらすために必要であるだろうと結論付けられている(Mittendorf EA et al. Cancer (2006) 106:2309-2317)。
【0021】
上述の通り、トラスツズマブは、HER2/neu過剰発現(IHC 3+又はFISH >2.0)のリンパ節転移陽性(NP)の転移性乳癌患者の治療に適応され、低度から中度のHER2/neu発現を示す患者においては非常に制限された活性を示す。同様に、上記研究では、部分的には、HER2/neuを過剰発現する腫瘍の存在に基づいて、E75及びGP2ベースのワクチンを投与する患者が選択されている。従って、GP2ペプチドワクチンは、低から中レベルのHER2/neu腫瘍発現を示す癌患者において有効であるとは予測されていなかった。
【発明の概要】
【0022】
一実施形態において、本発明は、HER2/neu発現腫瘍細胞を有する被験体において癌の再発を予防する方法に関する。好ましい実施形態において、本方法は、標準的な治療コースによる治療後の寛解期にある被験体における乳癌の再発予防に関する。一実施形態において、標準的な治療コースは、トラスツズマブによる治療であり、この治療は本明細書に記載の方法と同時に継続しうる。本方法は、製薬上有効な担体とGP2ペプチドとを含む組成物の有効量を該被験体に投与することを含む。好ましくは、GP2ペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列を有する。一実施形態において、本組成物は、GP2ペプチド以外には、他のHER2/neu由来ペプチド、例えば免疫優性ペプチドE75を含まない。該投与は、当技術分野における適当な任意の手段、例えば接種又は注射により、より具体的には皮内注射により行うことができ、1回又は複数の別個の用量で行うことができる。かかる用量は、等濃度のペプチド及び免疫アジュバントを含み、実質的に同時に投与することができ、そして1つの接種部位に投与してもよいし又は皮膚の表面上の互いに離れた位置に投与してもよい。該組成物は、防御免疫が確立されるまで、月1回で約3〜6回又はそれ以上投与されうる。いくつかの態様においては、該組成物は更に、アジュバント、例えば顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、好ましくは組換えヒトGM-CSFを含む。
【0023】
いくつかの態様においては、本方法は更に、製薬上有効な担体と配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドとを含む組成物の有効量を含むブースター(追加免疫)ワクチン用量を被験体に投与することを含む。いくつかの態様においては、該ブースターの組成物は更に、アジュバント、例えばGM-CSF、好ましくは組換えヒトGM-CSFを含む。ブースターの投与は、当該技術分野において好適な任意の手段、例えば接種又は注射などにより、より具体的には皮内注射により行うことができ、1回又は複数の別個の用量で行うことができる。かかる用量は、等濃度のペプチド及び免疫アジュバントを含み、実質的に同時に投与することができ、そして1つの接種部位に投与してもよいし又は皮膚の表面上の互いに離れた位置に投与してもよい。典型的には、ブースターは、一次免疫スケジュールが完了した後に投与され、必要であれば好ましくは一次免疫後の6ヶ月又は12ヶ月ごとに投与することができる。
【0024】
被験体は任意の哺乳動物であってよく、好ましくはヒトである。ある態様においては、ヒトは、ヒト白血球抗原A2又はヒト白血球抗原A3として血液型決定される主要組織適合抗原に関して陽性である。他の態様においては、ヒト由来の癌細胞は、検出可能なレベルのHER2/neuの発現に関して陽性である。いくつかの態様においては、癌細胞は低度又は中度のHER2/neu発現を示す。例えば、いくつかの好ましい態様においては、ヒト由来の癌細胞は1+若しくは2+の免疫組織化学(IHC)評価及び/又は2.0未満の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)評価を有する。他の態様においては、ヒト由来の癌細胞は3+までのIHC評価を有しうる。他の態様においては、ヒト由来の癌細胞はHER2/neuの過剰発現を示しうる。例えば、いくつかの好ましい態様においては、ヒト由来の癌細胞は3+の免疫組織化学(IHC)評価及び/又は2.0以上の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)評価を有する。他の実施形態では、ヒトの用量はGP2(配列番号2又は配列番号4)に対する既存の免疫を有しない。
【0025】
別の実施形態において、本発明は、本出願に記載の方法において使用するための組成物を提供する。一態様において、そのような組成物は、製薬上許容される担体、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの有効量、及びアジュバント(例えば顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)を含む。該組成物は、好ましくは最適化された免疫スケジュールで投与される。一実施形態において、ワクチン組成物は、0.1〜1 mg/mlのペプチド及び0.125〜0.5 mg/mlのアジュバントを含む。いくつかの特定の態様においては、ワクチン組成物の好ましい濃度及びスケジュールは、(1)1mg/mlのペプチド及び0.25mg/mlのアジュバント、(2)0.5mg/mlのペプチド及び0.25mg/mlのアジュバント、(3)0.1mg/mlのペプチド及び0.25mg/mlのアジュバント、(4)1 mg/mlのペプチド及び0.125 mg/mlのアジュバント、並びに(5)0.5mg/mlのペプチド及び0.125mg/mlのアジュバントを含み、それぞれは、連続した少なくとも6ヶ月間にわたって月1回接種され、ついで1年、2年又は3年以上にわたって、(好ましくは半年毎又は1年毎で)周期的にブースター接種される。
【0026】
本発明の理解を更に深めるために添付されており、本明細書の一部に含まれ本明細書の一部を構成する添付図面は、本発明の諸態様を例示し、本明細書と共に本発明の原理を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1−1】用量群による平均局所反応 対 GM-CSF用量を示す。患者には、4つの用量群でペプチド及びGM-CSFをワクチン接種した。A. 100μgペプチド/250μg GM-CSF用量群。B. 500μgペプチド/250μg GM-CSF用量群。局所反応はミリメーターで測定した(実線)。>100mmの硬結の局所反応は、GM-CSF用量の50%の用量低減が必要であった(破線)。ペプチドの用量低減はなかった。
【図1−2】C. 1000μgペプチド/250μg GM-CSF用量群。D. 500μgペプチド/125μg GM-CSF用量群。局所反応はミリメーターで測定した(実線)。>100mmの硬結の局所反応は、GM-CSF用量の50%の用量低減が必要であった(破線)。ペプチドの用量低減はなかった。
【図2】GP2フェーズI試験に登録された全患者の毒性及び免疫応答を示す。A. 毒性−グレード3〜5の局所又は全身毒性を示した患者はいなかった。B. ex vivo 免疫応答−統計学的に増大した(p=0.001)、前〜最大の特異的CD8+ T細胞(%)。C. in vivo 免疫応答−統計学的に増大した(p=0.0002)、前〜後のGP2のDTH。通常の生理食塩水(NS)対照もまた比較用に示す。
【図3】GP2フェーズI試験に登録された患者の毒性及び免疫応答を、既存の免疫なし(前-二量体<0.03)対 既存の免疫あり(前-二量体>0.03)で比較して示す。A. 毒性−既存の免疫のない患者では毒性はわずかに増大したが、有意ではなかった。B. ex vivo 免疫応答−既存の免疫のない患者は、ワクチン接種に応答して、前〜最大、前〜後、及び前〜長期の特異的CD8+ T細胞(%)において統計学的に有意な増大を示した(それぞれp=0.003、p=0.03及びp=0.01)。C. in vivo 免疫応答−両群の前〜後のDTH反応が、統計学的に増大した(なしp=0.03及び既存p=0.0004)。後のDTH反応の間に統計学的差は示されなかった(p=0.3)。
【図4】GP2フェーズI試験に登録された患者の毒性及び免疫応答を、GM-CSF用量 125μg対250μgで比較して示す。A. 毒性−GM-CSF 250μg患者では毒性がわずかに増大したが、有意ではなかった。B. ex vivo 免疫応答−GM-CSF 125μgの前〜最大の特異的CD8+ T細胞(%)は有意に増大しなかった(p=0.17)が、GM-CSF 250μgの前〜最大の特異的CD8+ T細胞(%)は統計学的に増大した(p=0.005)。C. in vivo 免疫応答−GM-CSF 125μg及び250μgの前〜後のDTHは統計学的に増大した(それぞれp=0.009及びp=0.008)。GM-CSF 125μgの後のDTHとGM-CSF 250μgの後のDTHとの間には統計学的有意性はなかった(p=0.1)。
【図5】GP2に応答したex vivo免疫応答及びエピトープスプレッディングを示す。GP2ペプチドワクチンによるワクチン接種に応答した平均E75特異的CD8+ Tリンパ球を測定した。ワクチン接種前 対 最大のE75二量体(0.8±0.2% 対 2.0±0.2%、 p=0.0001)、前 対 後(0.8±0.2% 対 1.2±0.2%、p=0.1)、及び前 対 長期(0.8±0.2% 対 1.0±0.2%、p=0.6)を比較した。GP2とE75の値に統計学的差は観察されなかったが、E75の最大の二量体応答が大きくなる傾向が観察された(2.0±0.2% 対 1.4±0.2%、p=0.07)。
【図6】GP2フェーズII試験に登録された患者のin vivo免疫応答を示す。GP2に対する平均DTH反応は、GP2ペプチド群(PG)においてワクチン接種前のレベルからワクチン接種後のレベルで有意に増大し(1.0±0.8 cmから18.0±3.1 cm、p<0.0001)、対照のアジュバント群(AG)ではより程度が小さかった(0.0±1.0 cmから0.5±3.3 cm、p<0.01)。ワクチン接種後DTHは、PGではAGと比較して有意に大きかった(18.0±3.1 cm 対 0.5±3.3 cm、p=0.002)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書及び特許請求の範囲の全体にわたって、本発明の方法及び他の態様に関する種々の用語を使用する。そのような用語には、特に示さない限り、当技術分野における通常の意味が与えられるべきである。他の具体的に定義されている用語は、本明細書に記載されている定義に合致するように解釈されるべきである。
【0029】
「予防する」又は「予防」なる語は、放射線医学検査又は身体診察の結果を含む任意の客観的又は主観的パラメーターにより測定された場合の臨床的寛解状態の患者における乳癌の再発/ぶり返しを未然に防ぐ又は遅延させることにおける任意の成功又は成功の徴候を意味する。
【0030】
「有効量」又は「治療上有効な量」は本明細書中では互換的に用いられ、本明細書中に開示、記載又は例示されている生物学的結果(これらに限定されるものではない)を含む個々の生物学的結果を達成するのに有効な、本明細書に記載の化合物、物質又は組成物の量を意味する。そのような結果には、当技術分野における適当な任意の手段により判定された場合の、乳癌の予防、より詳しくは、再発性乳癌の予防、例えば、被験体におけるぶり返しの予防が含まれるが、これらに限定されるものではない。最適な治療量は、最良の治療結果を達成するための用量、スケジュール及びブースターの使用を意味する。
【0031】
「製薬上許容される」は、組成、製剤化、安定性、患者の容認及びバイオアベイラビリティに関して薬理学的/毒物学的観点から患者に許容される及び物理的/化学的観点から薬品製造化学者に許容される特性及び/又は物質に関して用いられる。「製薬上許容される担体」は、有効成分の生物活性の有効性を妨げない媒体であって、それが投与される宿主に毒性でない媒体を意味する。
【0032】
「防御免疫」又は「防御免疫応答」は、例えば本明細書に記載され例示されている乳癌抗原のような抗原の免疫原性成分に対する能動免疫応答を被験体が備え、後に該抗原に曝された際に、該被験体の免疫系が、該抗原を発現する細胞を標的化し破壊して、該被験体における癌の再発の罹患率及び死亡率を低減することができるようにすることを意味する。本発明の場合の防御免疫は、好ましくは、Tリンパ球により付与されるが、これに限定されるものではない。
【0033】
「既存の免疫」は、少なくとも0.3%のペプチド特異的二量体レベルとして定義される。ペプチド特異的二量体レベルは、標準的なアッセイ、例えば本出願において記載するHLA-A2免疫グロブリン二量体アッセイを用いて測定することができる。
【0034】
量、時間的持続などのような測定可能な値に言及する場合に本明細書中で用いる「約」なる語は、開示されている方法を行うのに適した変動である限り、特定されている値からの±20%又は±10%、より好ましくは±5%、より一層好ましくは±1%、更に好ましくは±0.1%の変動を包含する意である。
【0035】
「ペプチド」は、ペプチド結合又は修飾ペプチド結合(すなわち、ペプチド等量式)により互いに連結された2以上のアミノ酸を含む任意のペプチドを意味する。ポリペプチドは、ペプチド、オリゴペプチド又はオリゴマーと一般に称される短鎖のもの、及びタンパク質と一般に称される、より長鎖のものの両方を意味する。ポリペプチドは、20種の遺伝子コード化アミノ酸以外のアミノ酸を含有しうる。ポリペプチドは、翻訳後プロセシングのような天然プロセスにより、又は当技術分野でよく知られている化学修飾技術により修飾された、アミノ酸配列を含む。そのような修飾は基本的な教科書及びより詳細なモノグラフ並びに大部の研究文献に十分に記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖及びアミノ又はカルボキシル末端を含む、ポリペプチドの任意の位置で生じうる。所与のポリペプチド内の幾つかの部位において、同じ又は異なる度合で、同じタイプの修飾が存在しうることは理解されよう。また、所与のポリペプチドは多くのタイプの修飾を含有しうる。ポリペプチドはユビキチン化の結果として分枝状であってよく、それは、分枝を伴う又は伴わない環状であってよい。環状、分枝状及び分枝状環状ポリペプチドは天然翻訳後プロセスから生じるものであってよく、あるいは合成法により製造されうる。修飾には、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム成分の共有結合、ヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質又は脂質誘導体の共有結合、ホスホチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタマートの形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、タンパク質へのアミノ酸のトランスファーRNA媒介付加、例えばアルギニン化、及びユビキチン化が含まれる。
【0036】
「ブースター」は、防御免疫を増強し、持続させ又は維持するために及び調節性T細胞により引き起こされるT細胞応答のダウンレギュレーションを克服するために患者に投与される免疫原の投与を意味する。
【0037】
「乳癌を伴わない」又は「無病(疾患を伴わない)」又はNED(No Evidence of Disease; 疾患の証拠無し)は、患者が、現行の標準的なケア療法での治療により誘導された臨床的寛解状態にあることを意味する。「寛解」又は「臨床的寛解」は同義的に用いられ、癌細胞が体内に尚も存在しうるが乳癌の臨床的徴候、放射線医学的徴候及び症状が有意に軽減しており又は臨床診断に基づけば完全に消失していることを意味する。したがって、寛解は部分的及び完全な寛解を含むと意図される。残存癌細胞の存在は例えばCTC(循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells))のようなアッセイにより計数でき、再発の予測因子となりうる。
【0038】
「ぶり返し」又は「再発」又は「復活」は本明細書中では互換的に用いられ、ある期間の改善又は寛解の後の、乳癌の再生の放射線医学的診断又は再発の徴候及び症状を意味する。
【0039】
乳癌は世界中の女性にとって重大な健康問題である。現在までに試みられた乳癌ワクチンは、標準的な治療コース後に寛解状態にある患者の再発の予防に関しては特に、効力が限られたものである。本出願において論じるように、HER2/neu癌遺伝子のペプチドGP2(配列番号2)の投与は、無病の患者における乳癌の再発率の低下と相関することが知られている強力なin vivo免疫応答を誘導することができることが確認された。
【0040】
GP2ペプチドはMHC HLA-A2に関連しており、したがって、HLA-A2ハプロタイプを有する患者において防御免疫を誘導しうる。HLA-A2ハプロタイプは、卵巣癌(Gamzatova et al., Gynecol Oncol (2006) 103:145-50)及び前立腺癌(Hueman et al., Clin Cancer Res (2005) 11:7470-79; De Petris et al., Med Oncol (2004) 21:49-52)における陰性予後因子に関係があるとされており、この知見はおそらく乳癌にも拡張される。従って、HLA-A2+患者は寛解後の癌の再発を生じるリスクが高いと考えられる。それにもかかわらず、予想外にも、GP2+GM-CSFを含むワクチン組成物が、乳癌再発の低リスクと相関し、かつHLA-A2-対照患者と比較して無病生存率が長いことと相関することが知られているHLA-A2+患者において強力なin vivo免疫応答を効果的に誘導したことが証明されている。さらに、驚くべきことに、GP2(亜優性エピトープ)及びGM-CSFで処置された患者が、E75(免疫優性エピトープ)及びGM-CSFを含むワクチン組成物と比較してより強力なDTH反応を示すことが見出された。とりわけ、これらの結果は、GP2と別のエピトープ(E75など)とを組み合わせてマルチエピトープワクチンを生成することにより得られなかったが、代わりに単一エピトープ(すなわちGP2)ワクチンを用いて得られる。さらに、予備試験データに基づいて、GP2はまたHLA-A3ハプロタイプを有する患者において防御免疫を誘導することができると考えられる。
【0041】
GP2はHER2/neuタンパク質に由来するものであるため、HER2/neuを過剰発現する患者は、低度から中度のHER2/neu発現を示す患者よりもGP2ベースのワクチンに対して良好な応答を示すと予測されうる。例えば、別のHER2/neuに基づく治療であるトラスツズマブ(Herceptin(登録商標) Genentech Inc., South San Francisco, CA)は、HER2/neu過剰発現(IHC 3+又はFISH >2.0)でリンパ節転移陽性(NP)の転移性乳癌患者について示されているのみであり、低度から中度のHER2/neu発現を示す患者においては非常に限定的な活性を示す。それにもかかわらず、予想外にも、低から中レベルのHER2/neu発現を示す患者は、HER2/neuを過剰発現する患者においてGP2誘導応答と同程度に、GP2に対する強力な免疫応答を経験したことが観察された。
【0042】
したがって、本発明の一実施形態は、乳癌の再発又はぶりかえしに対する防御免疫を誘導するためのワクチン組成物に関する。別の実施形態は、乳癌に対する防御免疫、より詳しくは再発性乳癌に対する防御免疫を誘導するための及び維持するための方法に関する。いくつかの態様においては、該方法は、配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド、製薬上有効な担体を含み、場合により免疫アジュバント(例えばGM-CSF)を含んでいてもよい組成物の有効量を被験体に投与することを含む。配列番号2の変異体、例えば、米国特許公開番号20050169934(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に記載されているようなアミノ酸の修飾側鎖を有するものも、本出願のワクチン組成物及び方法において使用するのに適している。
【0043】
さらに、配列IVSAVVGIL(配列番号4)を有する多型GP2ペプチドを生じるコドン655における天然多型(イソロイシンからバリンへの置換)が同定されている(Papewalis et al., Nucleic Acid Res. (1991) 19:5452)。この多型GP2ペプチドはまた、本出願のワクチン組成物及び方法において使用するのに好適である。同様に、いくつかのグループが、GP2ペプチドの種々の部位、例えばアンカー残基(位置2及び9)に導入された単一、二重及び三重アミノ酸置換を調べ、いくつかのアミノ酸置換によってGP2のHLA-A2への結合が増大することが見出されている(Tanaka et al., Int J Cancer (2001) 94:540-44;Kuhns et al., J Biol Chem (1999) 274:36422-427;Sharma et al., J Biol Chem (2001) 276:21443-449(これらの参考文献はそれぞれ参照によりその全体を本明細書に組み入れる))。従って、当業者は、いくつかの置換、特にアンカー残基における置換を、その防御免疫応答を誘導する能力に対して負の影響を及ぼすことなくGP2に対して行うことができると理解するだろう。一実施形態において、GP2ペプチドは、HLA-A2分子に対するGP2ペプチドのアフィニティを増大させる残基における置換を除いて、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む。好ましくは、置換は、GP2のアンカー残基(位置2及び9)の一方又は両方に存在する。より好ましくは、置換は、位置2におけるイソロイシンからロイシンへの置換、及び/又は、位置9におけるロイシンからバリンへの置換を含む。別の実施形態において、GP2ペプチドは、HLA-A2分子に対する配列番号2を含む野生型GP2ペプチドのアフィニティと比較して、HLA-A2分子に対するGP2ペプチドのアフィニティに影響を及ぼさない残基における置換を除いて、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を含む。GP2とHLA-A2との結合アフィニティを試験するアッセイは当技術分野で周知であり、例えばSharma et al., J Biol Chem (2001) 276:21443-449に開示されているT2細胞表面アセンブリアッセイが挙げられる。
【0044】
一態様において、GP2ペプチドは、9以下、10以下、11以下、12以下、13以下、14以下、又は15以下のアミノ酸残基を有する。一実施形態において、GP2ペプチドは9以下のアミノ酸残基を有する。好ましくは、9以下のアミノ酸を含むGP2ペプチドは、配列番号2若しくは配列番号4、又は位置2及び/若しくは位置9に置換を有する配列番号2若しくは配列番号4の変異形態である。
【0045】
被験体は任意の動物であることが可能であり、好ましくは哺乳動物、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ブタなどである。ヒトが最も好ましい。非常に好ましい態様においては、ヒトはHLA-A2ハプロタイプに関して陽性である。他の好ましい態様においては、ヒトはヒトHER2/neuの発現に関して陽性であり、主として、低度及び/又は中度のHER2/neuを発現する腫瘍を有するヒト、並びにHER2/neuの過剰発現体であるヒトを含む。
【0046】
さらに、あるグループが以前に、トラスツズマブとex vivoにおけるGP2ペプチド刺激CTLとの間の可能性ある相乗効果を証明している。トラスツズマブによる乳癌細胞の前処理の後、GP2ペプチド誘導CTLとのインキュベーションによって、トラスツズマブ又はGP2特異的CTLのみの処理と比較して、3つの腫瘍細胞系において細胞傷害性が増強された(Mittendorf EA et al., Annals of Surgical Oncology (2006) 13(8):1085-1098)。本出願に開示されたGP2を用いた実験の結果を考慮して、これらの知見は、トラスツズマブ治療過程における同時GP2ワクチン接種は、有効な併用免疫療法であることを示している。
【0047】
ワクチン組成物は、当技術分野における適当な任意の手段により、凍結乾燥製剤又は液体製剤として製剤化されうる。液体形態製剤の非限定的な例には、液剤、懸濁剤、シロップ剤、スラリー及び乳剤が含まれる。適当な液体担体には、好ましくは無菌形態の、任意の適当な有機又は無機溶媒、例えば水、アルコール、食塩水、緩衝生理食塩水、生理食塩水溶液、デキストロース溶液、水プロピレングリコール溶液などが含まれる。
【0048】
ワクチン組成物は中性又は塩形態で製剤化されうる。製薬上許容される塩には、酸付加塩(該活性ポリペプチドの遊離アミノ基と共に形成されるもの)、及び無機酸、例えば塩酸若しくはリン酸、又は有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などと共に形成されるものが含まれる。また、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は水酸化第二鉄、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基から、遊離カルボキシル基から形成される塩が誘導されうる。
【0049】
ワクチン組成物は、好ましくは、被験体への接種又は注射のために製剤化される。注射の場合には、本発明のワクチン組成物は、例えば水若しくはアルコールのような水溶液中、又は例えばハンクス液、リンガー液若しくは生理食塩水緩衝液のような生理的に許容されるバッファー中に製剤化されうる。該溶液は、製剤化剤、例えば懸濁化剤、保存剤、安定剤及び/又は分散剤を含有しうる。注射剤は、例えば無菌水、生理食塩水又はアルコールのような適当なビヒクルでの使用前の再構成により注射に適した液体形態製剤に使用直前に変換されることが意図される固体形態製剤として製造されうる。
【0050】
また、ワクチン組成物は徐放ビヒクル中又はデポー剤に製剤化されうる。そのような長期作用性製剤は接種若しくは植え込み(移植)(例えば皮下若しくは筋肉内)により又は注射により投与されうる。したがって、例えば、ワクチン組成物は、(例えば、許容される油中のエマルションとして)適当な重合性若しくは疎水性物質又はイオン交換樹脂で、あるいは難溶性誘導体として、例えば難溶性塩として製剤化されうる。リポソーム及びエマルションは、担体としての使用に適した送達ビヒクルの良く知られた例である。
【0051】
ワクチン組成物は、該ワクチンの防御効力を増強する物質、例えばアジュバントを含みうる。アジュバントには、GP2ペプチド抗原に対する防御免疫応答を増強して該ワクチン中で必要な抗原の量及び/又は防御免疫応答の生成に必要な投与頻度を減少させるよう作用する任意の化合物(1種若しくは複数)が含まれる。アジュバントには、例えば、乳化剤、ムラミルジペプチド、アブリジン、水性アジュバント、例えば水酸化アルミニウム、キトサンに基づくアジュバント、並びに種々のサポニン、油及び当技術分野で公知の他の物質のいずれか、例えばアンフィゲン(Amphigen)、LPS、細菌細胞壁抽出物、細菌DNA、CpG配列、合成オリゴヌクレオチド及びそれらの組合せ(Schijnsら, (2000) Curr. Opin. Immunol. 12:456)、マイコバクテリアルフレイ(Mycobacterialphlei)(M. phlei)細胞壁抽出物(MCWE)(米国特許第4,744,984号)、M.フレイDNA(M-DNA)及びM-DNA-M.フレイ細胞壁複合体(MCC)が含まれうる。乳化剤として働きうる化合物には、天然及び合成乳化剤、並びに陰イオン性、陽イオン性及び非イオン性化合物が含まれる。合成化合物における陰イオン性乳化剤には、例えば、ラウリン酸及びオレイン酸のカリウム、ナトリウム及びアンモニウム塩、脂肪酸のカルシウム、マグネシウム及びアルミニウム塩、並びに有機スルホナート、例えばラウリル硫酸ナトリウムが含まれる。合成陽イオン性物質には、例えば、セチルトリエチルアンモニウムブロミドが含まれ、一方、合成非イオン性物質としては、グリセリルエステル(例えば、モノステアリン酸グリセリル)、ポリオキシエチレングリコールエステル及びエーテル、並びにソルビタン脂肪酸エステル(例えば、モノパルミチン酸ソルビタン)及びそれらのポリオキシエチレン誘導体(例えば、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン)が例示される。天然乳化剤には、アカシア、ゼラチン、レシチン及びコレステロールが含まれる。
【0052】
他の適当なアジュバントは、油成分、例えば単一の油、油の混合物、油中水型エマルション又は水中油型エマルションで形成されうる。該油は鉱油、植物油又は動物油でありうる。鉱油は、蒸留技術によりペトロラタムから得られる液体炭化水素であり、当技術分野においては流動パラフィン、液体ペトロラタム又は白色鉱油とも称される。適当な動物油には、例えば、タラ肝油、オヒョウ油、ニシン油、オレンジ・ラフィー(orange roughy)油及びサメ肝油(これらは全て商業的に入手可能である)が含まれる。適当な植物油には、例えばキャノーラ油、アーモンド油、綿実油、トウモロコシ油、オリーブ油、ラッカセイ油、サフラワー油、ゴマ油、ダイズ油などが含まれる。フロイント完全アジュバント(FCA)及びフロイント不完全アジュバント(FIA)は、ワクチン製剤中で一般に使用される2つの一般的なアジュバントであり、本発明での使用にも適している。FCA及びFIAは共に鉱油中水型エマルションであるが、FCAは死菌Mycobacterium sp.をも含有する。
【0053】
ワクチン効力を増強するために、例えばアジュバントとして免疫調節性サイトカインも該ワクチン組成物において使用されうる。そのようなサイトカインの非限定的な例には、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターロイキン-2(IL-2)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)又はそれらの組合せが含まれる。GM-CSFが非常に好ましい。
【0054】
GP2ペプチド抗原を含み更にアジュバントを含むワクチン組成物は、混合、超音波処理及びマイクロフルイデーション(microfluidation)(これらに限定されるものではない)を含む、当業者によく知られた技術を用いて製造することができる。アジュバントは、ワクチン組成物の約10%〜約50%(v/v)、より好ましくは約20%〜約40%(v/v)、より好ましくは約20%〜約30%(v/v)、又はこれらの範囲内の任意の整数パーセントを構成しうる。約25%(v/v)が非常に好ましい。
【0055】
ワクチン組成物の投与は注入又は注射(例えば、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、鞘内、十二指腸内、腹腔内など)によるものでありうる。ワクチン組成物は鼻腔内、膣内、直腸内、経口的又は経皮的にも投与されうる。また、ワクチン組成物は「無針」送達系により投与されうる。好ましくは、該組成物は皮内注射により投与される。投与は医師又は医師の補助者の監督により行われる。
【0056】
注射は複数の注射に分割することが可能であり、そのような分割接種は、好ましくは、実質的に同時に投与される。分割接種として投与される場合、免疫原の用量は、好ましくは、それぞれの別個の注射において等しく配分されるが、必ずしもこれが必要なわけではない。ワクチン組成物中にアジュバントが存在する場合、該アジュバントの用量は、それぞれの別個の注射において等しく配分されるが、必ずしもこれが必要なわけではない。分割接種のための別個の注射は、好ましくは、患者の身体上で互いに実質的に近接して投与される。いくつかの好ましい態様においては、それらの注射は、身体上で互いに少なくとも約1cm離して投与される。いくつかの好ましい態様においては、それらの注射は、身体上で互いに少なくとも約2.5cm離して投与される。非常に好ましい態様においては、それらの注射は、身体上で互いに少なくとも約5cm離して投与される。いくつかの態様においては、それらの注射は、身体上で互いに少なくとも約10cm離して投与される。いくつかの態様においては、それらの注射は、身体上で互いに少なくとも10cm以上離して、例えば、身体上で互いに少なくとも約12.5、15、17.5、20cm又はそれ以上離して投与される。一次免疫注射及びブースター注射は、本明細書中に記載され例示されているとおりに分割接種として投与されうる。
【0057】
種々の代替的な医薬送達系が用いられうる。そのような系の非限定的な例には、リポソーム及びエマルションが含まれる。ある種の有機溶媒、例えばジメチルスルホキシドも使用することができる。また、ワクチン組成物は、徐放系を用いて、例えば治療用物質を含有する固体ポリマーの半透性マトリックスを用いて送達しうる。利用可能な種々の徐放性物質が当業者によく知られている。徐放性カプセル剤は、その化学的性質に応じて、数日間から数週間から数ヶ月間の範囲にわたって該ワクチン組成物を放出しうる。
【0058】
乳癌寛解状態にある患者における乳癌の再発を予防するために、ワクチン組成物の治療上有効な量が被験体に投与される。治療上有効な量は、当技術分野における適当な任意の手段により測定された場合の、該患者におけるGP2特異的細胞傷害性Tリンパ球(CD8+)の数の臨床的に有意な増加、及び該抗原に対する細胞傷害性Tリンパ球応答の臨床的に有意な増強をもたらす。さらに、エピトープスプレッディングのために、治療上有効な量のGP2ワクチン組成物は、当技術分野で好適な任意の手段によって測定した場合に、E75特異的細胞傷害性Tリンパ球(CD8+)の数の増大をもたらすだろう。該患者においては全体として、ワクチン組成物の治療上有効な量は、該患者における残存する顕微疾患を破壊し、該患者における乳癌の再発のリスクを有意に減少させ又は排除する。
【0059】
ワクチン組成物の有効量は、患者の種、血統、サイズ、身長、体重、年齢、全身的健康状態、製剤のタイプ、投与の方法又は様態、あるいは患者において乳癌が再発する可能性を有意に増加させるリスク因子の存在又は非存在(これらに限定されるものではない)を含む多数の変数に左右されうる。そのようなリスク因子には、手術のタイプ、リンパ節の状態及び陽性の数、腫瘍のサイズ、腫瘍の組織学的等級、ホルモン受容体(エストロゲン及びプロゲステロン受容体)の存在/非存在、HER2/neu発現、リンパ管浸潤及び遺伝的素因(BRCA1及び2)が含まれるが、これらに限定されるものではない。いくつかの好ましい態様においては、有効量は、患者がリンパ節陽性であるかリンパ節陰性であるかどうかに左右され、該患者がリンパ節陽性である場合には、該陽性節の数及び度合に左右される。全ての場合において、適当な有効量は、通常の最適化技術並びに実施者の熟練した且つ告知された判断及び当業者に明らかな他の要因に従い、当業者により常套的に決定されうる。好ましくは、本明細書に記載のワクチン組成物の治療上有効な量は、実質的な毒性を被験体に与えることなく療法上の予防的利益をもたらす。
【0060】
ワクチン組成物の毒性及び治療効力は、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)及びED50(集団の50%において治療上有効な用量)を決定するための細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手法により決定されうる。毒性作用及び治療効果の間の用量比は治療係数であり、それはLD50/ED50の比として表されうる。大きな治療係数を示すワクチン組成物が好ましい。細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは患者における使用のための投与量の範囲の決定に用いられうる。そのようなワクチン組成物の投与量は、好ましくは、毒性をほとんど又は全く伴わないED50を含む循環濃度の範囲内である。該投与量は、使用する剤形及び用いる投与経路に応じて、この範囲内で変動しうる。
【0061】
特定の被験体(例えば、ヒト)における有用な用量をより正確に決定するために、毒性の情報が用いられうる。治療医師は、毒性又は臓器機能不全に応じて投与を終了、中断又は調節することが可能であり、臨床応答が適切でない場合には、該応答を改善するために、必要に応じて治療を調節することが可能である。再発性乳癌の予防における投与量の規模は、患者の状態の重症度、再発の相対リスク又は投与経路などのような要因によって変動するであろう。患者の状態の重症度は、例えば、部分的には、標準的な予後評価法により評価されうる。
【0062】
ワクチン組成物は、乳癌のぶり返しに対する防御免疫を誘導及び/又は維持するのに適した、より詳しくは、GP2及び/又はE75(エピトープスプレッディングのため)に対する細胞傷害性Tリンパ球応答を誘導及び/又は維持するのに適した任意のスケジュールで患者に投与することができる。例えば、本明細書中に記載され例示されているとおりに一次免疫としてワクチン組成物を患者に投与し、ついで防御免疫を増強及び/又は維持するためにブースターの投与を行うことが可能である。
【0063】
いくつかの態様においては、ワクチン組成物を1ヶ月当たり1回、2回又はそれ以上、患者に投与することが可能である。一次免疫スケジュールに関しては特に、防御免疫応答を確立するためには、連続した6ヶ月間にわたり月1回が好ましい。いくつかの態様においては、ブースターは、一次免疫スケジュールの完了後、一定間隔(例えば、6ヶ月ごと、又はそれ以上の間隔)で投与されうる。ブースターの投与は、好ましくは、6ヶ月ごとに行われる。また、ブースターは、必要に応じて投与されることも可能である。
【0064】
一次免疫及びブースター投与を含むワクチン投与スケジュールは、患者に必要な期間にわたって継続されることが可能であり、例えば数年間から該患者の生涯にわたって継続されうる。いくつかの態様においては、該ワクチンスケジュールは、ワクチン投与計画の開始時における、より頻繁な投与を含み、そして、防御免疫を維持するための経時的なそれほど頻繁でない投与(例えば、ブースター)を含む。
【0065】
ワクチンは、ワクチン投与計画の開始時には、より低用量で投与され、経時的に、より高用量で投与されうる。また、ワクチンは、ワクチン投与計画の開始時に、より高用量で投与され、経時的に、より低用量で投与されうる。一次ワクチン及びブースター投与の頻度並びに投与されるGP2の用量は、当技術分野における適当な任意の手段に従い投与医師により決定されるとおりに、個々の患者の個々の要求を満たすよう修飾及び/又は調節されうる。
【0066】
いくつかの態様においては、ブースターとしての投与のための組成物を含むワクチン組成物は約0.1mg〜約10mgのGP2ペプチドを含む。いくつかの好ましい態様においては、該組成物は約0.1mgのGP2を含む。いくつかの好ましい態様においては、該組成物は約1mgのGP2を含む。いくつかの最も好ましい態様においては、該組成物は約0.5mgのGP2を含む。
【0067】
いくつかの好ましい態様においては、ブースターとしての投与のための組成物を含む、GP2を含むワクチン組成物は更に、GM-CSFを含む。そのような組成物は、好ましくは、約0.01mg〜約0.5mgのGM-CSFを含む。いくつかの好ましい態様においては、該組成物は約0.125mgのGM-CSFを含む。いくつかの好ましい態様においては、該組成物は約0.25mgのGM-CSFを含む。
【0068】
いくつかの特に好ましい態様においては、ワクチン組成物は1mlの総体積中に約0.5mg〜1mgのGP2ペプチド及び0.125mg〜0.250mgのGM-CSFを含み、それぞれ0.5mlの分割接種物として月1回投与され、患者の身体上で約5cm離れた部位における注射により投与され、そして同時に投与され又は混合される。投与スケジュールは、好ましくは、6ヶ月間にわたり月1回である。約48時間の期間の後、紅斑及び硬結の局所反応に関して注射部位を評価する。両方の部位における反応が融合し全体的な硬結の領域が>100mmである(又は患者がいずれかの>グレード2の全身毒性を経験している)場合には、ペプチド用量は同じままにしてGM-CSFの用量を例えば半減させることが可能である。患者が後続の投与において強い反応を示す場合には、GM-CSFを更に減少させることが可能であり、例えば更に半減させることが可能である。患者が強い反応を示さない場合には、該患者において、より高用量のGM-CSFで継続することが可能である。いくつかの態様においては、ブースターの投与スケジュール及び用量は同様に決定され、ブースターは、1mgのGP2及び0.25mgのGM-CSFを含むワクチン組成物の投与で開始され、一次免疫ワクチンスケジュールの終結の後、約6ヶ月ごとに投与される。
【実施例】
【0069】
本発明をより詳細に説明するために以下の実施例を提供する。これらは、本発明を例示するものであり、限定するものではない。
【0070】
実施例1:GP2+GM-CSFのフェーズI試験
患者の特性及び臨床プロトコール:
これは、無病の乳癌患者におけるGM-CSF免疫アジュバントと一緒のHER2/neu由来GP2ペプチドの最初のフェーズI臨床試験である。試験は、施設内試験審査委員会(Institutional Review Boards)により承認され、試験新薬申請(BB-IND #11730)に基づいてWalter Reed Army Medical Centerにおいて実施された。全ての患者は、組織学的に確認されたリンパ節転移陰性の乳癌を有し、標準的な免疫組織化学によりHER2/neuのあらゆるレベルを発現していた(IHC 1〜3+)。患者は、登録前に手術、化学療法及び放射線療法(必要に応じて)の標準的なコースを完了しており、ホルモン化学的予防を受けている患者はその特定の治療計画を継続した。適格基準についてスクリーニングし、適切なカウンセリング及び同意の後、適格なHLA-A2+患者を本試験に登録した。ワクチン接種前に、患者を一連の想起(recall)抗原(マントゥー法)で皮膚検査した。患者が≧2の抗原と反応(>5mm)した場合には、該患者は免疫応答性とされた。
【0071】
全てのレベルのHER2/neu発現(IHC 1〜3+)を示す18名のリンパ節転移陰性の無病乳癌患者を登録し、ワクチン接種した。この試験を取りやめた又は追跡期間までにいなくなった患者はいなかった。患者層、予後因子及び治療プロフィールを表1に示す。
【表1】

【0072】
ワクチン接種及び臨床プロトコール
ワクチン:
GP2ペプチド(HER2/neu, 654-662)は、連邦ガイドラインに従って、適正製造基準(good manufacturing practices)(GMP)で、NeoMPS, Inc.(San Diego, CA)により商業的に製造された。ペプチド純度(>95%)は高速液体クロマトグラフィー及び質量分析により確認され、アミノ酸含量はアミノ酸分析により決定された。無菌性、エンドトキシン(リムルス変形細胞溶解物試験)及び一般安全性試験は上記製造業者により行われた。無菌生理食塩水中に以下の濃度の凍結乾燥ペプチド(100μg/0.5ml、500μg/0.5ml及び1mg/0.5ml)を再構成した。GP2ペプチドを、250μg/0.5mlのGM-CSF(Berlex, Seattle, WA)で混合し、その1.0mlの接種物を分割し、同じ四肢で5cm離れた2つの部位に皮内投与した。
【0073】
一連のワクチン接種:
アジュバントGM-CSFと組み合わせたGP2ペプチドの安全性、免疫原性及び最適な最良用量を決定するために、用量漸増安全性試験として試験を設計し実施した。最適な最良用量は、最良のin vivo及びex vivo免疫応答を示すワクチン及びアジュバントの最少用量と定義した。
【0074】
3名の患者をGP2及び250μgのGM-CSFの6回の毎月の接種を受ける最初の3つの用量群のそれぞれに割り当てた。用量群は、GP2ペプチド(μg):GM-CSF(μg):接種の回数(#)として表示され、100:250:6、500:250:6、及び1000:250:6が含まれる。GM-CSFは、100mmを超える局所反応測定又はグレード2を超える全身毒性を発症した場合には50%低減した。患者の最後の群では、GM-CSFを125μgに低減して、これらの9名の患者に500:125:6を投与した。
【0075】
この用量漸増試験は、漸増するGP2ペプチド用量(100μg、500μg、及び1000μg)を250μgのGM-CSFと共に使用し、最初の3つの用量群については6回毎月接種した(略:GP2ペプチド(μg):GM-CSF(μg):接種の回数(#)−100:250:6、500:250:6、及び1000:250:6)。GM-CSFは、100mmを超える局所反応測定又はグレード2を超える全身毒性を発症した場合には50%低減した。最初の9名の患者のうち8名(89%)は、大きな局所反応のためにGM-CSF用量の低減が必要であった。数回の用量低減が必要であったため、9名の患者の4番目及び最後の群についてはGM-CSFの開始用量を接種当たり250μgから125μgへ低減した(500:125:6)。最終用量群における9名の患者のうち2名のみ(22%)が、さらなるGM-CSF用量の低減を必要とした。一連のワクチン接種について、ペプチドの用量低減は必要ではなかった。図1は、各用量群についての平均局所反応 対 平均GM-CSF用量を示す。最終用量群における局所反応は、接種当たり125μgの開始用量のGM-CSFを用いた一連のワクチン接種全体で変動が少なかった。
【0076】
毒性:
患者をワクチン接種後1時間にわたって即時型過敏症に関して観察し、48〜72時間後に呼び戻して注射部位を測定し、毒性に関して質問した。毒性をNCI Common Terminology Criteria for Adverse Events, v3.0(CTCAE)によりグレード決定した。過敏性反応又はグレード3以上の毒性を示す用量群内2名の患者として定義される用量制限毒性がない場合に限り、1つの用量群から次の用量群へと進めた。
【0077】
末梢血単核細胞(PBMC)の単離及び培養:
各ワクチン接種の前並びに一連のワクチン接種の完了の1ヶ月後(ワクチン後(post-vaccine))及び6ヶ月後(長期(long-term))に血液を採取した。50mlの血液を採取し、PBMCを単離した。PBMCを洗浄し、培養培地に再懸濁させ、リンパ球源として使用した。
【0078】
HLA-A2:免疫グロブリン二量体アッセイ:
患者からの新たに単離されたPBMCにおけるGP2特異的CD8+ T細胞の存在を、逐次ワクチン接種の各回の前並びに一連のワクチン接種完了の1ヶ月、6ヶ月及び12ヶ月後に、ベースラインにおける二量体アッセイにより直接的にex vivoでアッセイした(Woll MM et al., J Clin Immunol (2004) 24:449-461)。簡潔に説明すると、HLA-A2:免疫グロブリン(Ig)二量体(PharMingen, San Diego, CA)をGP2、E75又は対照ペプチド(E37, 葉酸結合性タンパク質(25-33)RIAWARTEL)と共に添加した。これは、1μgの二量体を過剰(5μg)のペプチド及び0.5μgのβ2-ミクログロブリン(Sigma , St. Louis, MO)と共に37℃で一晩インキュベートすることにより行った。ついでそれらを、使用するまで4℃で保存した。PBMCを洗浄し、PharMingen染色バッファー(Stain Buffer)(PharMingen)に再懸濁させ、5ml丸底ポリスチレンチューブ(Becton Dickinson, Mountain View, CA)内に5×105細胞/100μl/チューブで加え、添加された二量体及び抗体で染色した。各患者において、それぞれの逐次ワクチン接種に応答したGP2特異的及びE75特異的CD8+細胞のレベルを決定し、平均接種後レベルを接種前レベルと比較した。
【0079】
遅延型過敏症(DTH):
GP2ペプチドに対するDTH反応は、一連のワクチン接種の前及び後に実施した。0.5mlの生理食塩水中の100μgのGP2(GM-CSFなし)を用いた背中又は四肢(ワクチン接種とは反対側)における皮内注射を、等量の生理食塩水接種対照と比較した。感受性ボールペン法を用いることにより、48〜72時間の時点で二次元で該DTH反応を測定し、直交平均(orthogonal mean)として記録した(Sokol JE, Measurement of delayed skin test responses. N Engl J Med (1975) 293:501-501)。
【0080】
統計学的分析:
臨床病理学的因子についてのp値は、必要に応じてWilcoxon、Fisherの直接確率検定又はχ2を用いて算出した。ワクチン接種前及び後のDTHの比較並びに二量体アッセイのためのp値は、必要に応じて対応のある又は対応のないスチューデントt検定を用いて算出した。p<0.05の場合に差を有意とみなした。
【0081】
結果
GP2及びGM-CSFを含む組成物は、いずれも安全で免疫原性が高かった。免疫応答は、ex vivo及びin vivoの両方で、一連の接種の開始時におけるGP2特異的免疫の存在又は不在により、及び使用するGM-CSF用量により、影響を受けると考えられる。さらに、GP2ワクチン接種は、抗原内(intra-antigenic)エピトープスプレッディングを効率的に生じる。
【0082】
毒性は軽度の局所反応(所望のものであり、免疫原性の代替的測定手段として機能する)及び軽度の全身反応に限定され、それらの多くはGM-CSFの既知の副作用である。用量制限毒性はなく、GM-CSFの用量低減は、一連の接種により受ける局所反応をグレード2以下に限定するのに十分であった。全体として、ワクチンの組合せは十分に許容された。
【0083】
以下にさらに詳述するように、ワクチンのex vivo免疫原性が証明されたが、既存の免疫を示さない患者のサブグループ分析を行った場合に主に明らかとなった。既存の免疫を示さない患者は、以前にペプチド特異的二量体レベルが<0.3%であるものとして定義され、GP2ワクチン接種に対するCTL反応の最大の誘導を達成した。この反応は、GP2ペプチドの用量に関係なく均一であった。既存の免疫を示す患者はより小さいCTL反応を示しており、これは、ペプチドワクチン接種に対する許容性のレベル又は以前に最適化された内因性免疫応答のいずれかを示唆している。
【0084】
GP2+GM-CSFワクチンのin vivo免疫原性は、一連のワクチン接種の前及び後のGP2ペプチド(GM-CSFなし)に応答したDTH反応の増大によって証明された。この応答の差は、累積的に各用量群内で統計学的有意差に達した。注目すべき点は、既存の免疫を示さない患者がより大きなDTH反応を示す傾向があったことである。また、250μg GM-CSF用量の投与を受けた患者は、より大きなDTH反応を示す傾向があったが、この知見は、低用量のGM-CSF用量群における既存の免疫のある患者の割合(%)がより高いことと混同する。従って、250μg GM-CSF患者において観察された差がアジュバントの用量によるものなのか又は寛容の欠如によるものであるのかは不明である。まとめると、これらのDTH反応は、ワクチン接種に応答した全ての群においてin vivo免疫が維持され増強されることを示している。
【0085】
用量群:
この用量漸増試験では、漸増するGP2ペプチド用量(100μg、500μg、及び1000μg)を250μgのGM-CSFと共に使用し、最初の3つの用量群については6回毎月接種した(略:GP2ペプチド(μg):GM-CSF(μg):接種の回数(#)−100:250:6、500:250:6、及び1000:250:6)。GM-CSFは、100mmを超える局所反応測定又はグレード2を超える全身毒性を発症した場合には50%低減した。最初の9名の患者のうち8名(89%)は、大きな局所反応のためにGM-CSF用量の低減が必要であった。数回の用量低減が必要であったため、9名の患者の4番目及び最後の群についてはGM-CSFの開始用量を接種当たり250μgから125μgへ低減した(500:125:6)。最終用量群における9名の患者のうち2名のみ(22%)が、さらなるGM-CSF用量の低減を必要とした。一連のワクチン接種について、ペプチドの用量低減は必要ではなかった。図1は、各用量群についての平均局所反応 対 平均GM-CSF用量を示す。最終用量群における局所反応は、接種当たり125μgの開始用量のGM-CSFを用いた一連のワクチン接種全体で変動が少なかった。
【0086】
組合せ投与群:
合計180用量のGP2+GM-CSFを投与した18名の患者のうちグレード3〜5の毒性はなかった。全ての患者の中で、一連の接種全体の間に生じた最大局所毒性はグレード1(38.9%)又はグレード2(61.1%)であった。一連の接種の間に生じた最大全身毒性はグレード0(5.6%)、グレード1(61.1%)及びグレード2(33.3%)であった。最も一般的な局所反応には、紅斑及び硬結(患者の100%)、掻痒(25%)、及び炎症(23%)が含まれる。最も一般的な全身反応は、グレード1の倦怠(40%)及びグレード1の関節痛/筋肉痛(15%)が含まれる。全体的な局所及び全身毒性率のまとめを図2のaに示す。
【0087】
GP2+GM-CSFワクチンは、ex vivo及びin vivoの両方で免疫応答を誘発することができた。ex vivoでの免疫応答は、HLA-A2:Ig二量体アッセイにより評価し、循環GP2特異的CD8+ T細胞の割合(%)を検出した。GP2特異的CTLは、総循環CD8+集団の割合(%)の平均±標準誤差として報告した。分析した時点には、ワクチン前(前=0.5±0.1%)、全ての接種の完了の1ヵ月後(後=0.6±0.1%)、一連の接種の間の最大値(最大=1.4±0.2%)、及び全ての接種の完了の6ヵ月後(長期=0.9±0.2%)が含まれる。前 対 最大のワクチンレベルを比較した場合には患者に統計学的に有意な増大が生じた(p=0.0003)が、前 対 後又は長期のワクチン二量体レベルを比較した場合には有意な増大は観察されなかった(それぞれp=0.7及びp=0.2)(図2b)。
【0088】
ワクチンのin vivo有効性は、GP2(GM-CSFなし)及び生理食塩水容量対照を用いた一連のワクチン前及び後のDTH反応により分析した。GP2ワクチンの前 対 後のDTH反応には統計学的に有意な増大がみとめられた(2.5±1.4mm 対 35.1±7.0mm、p=0.0002)(図2c)。
【0089】
GP2ワクチンに対する免疫応答をより良好に解明するため、2つの異なるサブセット分析を行った。すなわち、既存のGP2特異的免疫の存在に基づく応答と、GM-CSFの用量に基づく応答である。これらを以下に示す。
【0090】
既存の免疫あり 対 既存の免疫なし:
以前に定義されているように、既存の免疫は、>0.3%のペプチド特異的二量体レベルである(Peoples GE et al., J Clin Oncol (2005) 23:7536-7545)。10名の患者(56%)は、GP2に対する既存の免疫と一致する二量体レベルを有し、8名の患者(44%)は既存の免疫を有しなかった。2つの群のワクチン前のGP2-二量体レベルには統計学的差があった(0.8+0.1% 対 0.06+0.02%、p=0.0007)。
【0091】
既存の免疫のない患者は、既存の免疫のある群と比較してわずかに高い局所毒性で局所反応のわずかな増大を示したが、これは統計学的に有意ではなかった(図3a)。
【0092】
ex vivo及びin vivoでの免疫応答は、両方の群で観察されたが、既存の免疫のない患者の群ではより強力であった。既存の免疫のない群からのGP2二量体レベルは、前 対 最大(0.06±0.02% 対 1.4±0.4%、p=0.009)、前 対 後(0.06±0.02% 対 0.5±0.2%、p=0.07)、及び前 対 長期(0.06+0.02% 対 0.9+0.4%、p=0.06)であった。既存の免疫のある10名の患者では、ワクチン接種に対するCTL反応は、前 対 最大(0.8±0.1% 対 1.5±0.2%、p=0.02)、前 対 後(0.8±0.1% 対 0.6±0.2%、p=0.2)、及び前 対 長期(0.8±0.1 対 0.9±0.2; p=0.7)であった(図3b)。
【0093】
in vivo免疫応答の群を比較した場合、両方の群は、その前 対 後のDTH反応において統計学的に有意な増大があった(既存の免疫なし=3.3±2.1mm 対 43.9±14.6mm、p=0.02;既存の免疫あり=2.0±2.0mm 対 28.0±4.6mm、p=0.0001)。
【0094】
既存の免疫のない患者は、既存の免疫のある群の後のDTH反応と比較して後のDTH反応が大きかったが、この差は統計学的に有意ではなかった(それぞれ43.9+14.6mm 対 28.0+4.6mm、p=0.3)(図3c)。
【0095】
GM-CSF 250μg 対 125μg:
2つの開始用量のGM-CSFによる患者の分析も実施した。局所毒性及び全身毒性の両方が125μg GM-CSFの最終用量群で低下したが、これは統計学的に有意ではなかった(図4a)。
【0096】
250μg用量群(n=9)におけるワクチン接種に対するCTL反応は、前 対 最大(0.3±0.1% 対 1.1±0.2%、p=0.004)、前 対 後(0.3±0.1% 対 0.5±0.2%、p=0.07)、及び前 対 長期(0.3±0.1% 対 0.4±0.09%、p=0.2)であった。125μg用量群(n=9)におけるCTL反応は、前 対 最大(0.8±0.2% 対 1.8±0.3%、p=0.04)、前 対 後(0.8±0.2% 対 0.6±0.2%、p=0.5)、及び前 対 長期(0.8±0.2% 対 1.4±0.3%、p=0.5)であった(図4b)。250μg及び125μg GM-CSFの両方の群は、前〜最大の二量体反応において有意な増大を示し、250μgの群は有意になる傾向があった。この分析は、250μgの群の患者の33%(3/9)が既存の免疫を有するが、125μgの群の77.8%(7/9)の患者が既存の免疫を有するという事実によって混同しうる。
【0097】
in vivo免疫応答については、全ての患者は、GM-CSF用量とは無関係に、ワクチン前 対 後の測定を比較した場合にDTH反応の統計学的に有意な増大を示した(125μg=3.8±2.5mmから24.4±5.5mm、p=0.009;250μg=1.3±1.3mmから45.7±12.2mm、p=0.008)。250μgのGM-CSFの投与を受けた患者は、ワクチン後のDTH反応が大きくなる傾向があったが、これは統計学的に有意ではなかった(45.7±12.2mm 対 24.4±5.5mm、p=0.1)(図4c)。
【0098】
HER2発現状態:
以下の表2に示すように、HER2発現のレベル(IHC 1+、IHC 2+、又はIHC 3+)に従って分類した患者についてin vivo 免疫応答データを分析した。3つの群全てがワクチン後に実質的なDTH反応が増大した。驚くべきことに、低度から中度のHER2/neu発現を示す患者は、IHC 3+患者において観察されたワクチン後のDTH反応と同程度のin vivo免疫応答を示した。低度から中度のHER2/neuを発現する患者はまた、IHC 3+患者と比較した場合に、ワクチン前及び後のDTH反応の間により統計学的に有意な差がある傾向を示した。具体的には、IHC 2+患者は、ワクチン前 対 後の測定を比較した場合に、DTH反応に統計学的に有意な増大があった(2.3±2.3mmから32.5±6.6mm、p=0.02)。IHC 1+及びIHC 3+の患者は、より強力なワクチン後のDTH反応の傾向があり、IHC 1+患者はIHC 3+患者よりも統計学的有意性に近かった(IHC 1+=2.1±2.1mmから33.0±12.8mm、p=0.06、及びIHC 3+=3.9±3.9mmから44.0±17.9mm、p=0.1)。低度から中度の発現を示す患者のDTHデータをまとめた場合(「LE」)、そしてIHC 3+患者からのDTHデータと比較した場合(「OE」)、LE患者は、予想外にも、OE患者(3.9±3.9mmから44.0±17.9mm、p=0.1)と比較して、ワクチン前 対 後の測定で比較したDTH反応の統計学的に有意な増大を有することが観察された(2.0±1.4mmから31.7±7.1mm、p=0.002)。
【表2】

【0099】
エピトープスプレッディング:
最後に、GP2+GM-CSFによるワクチン接種に応答した抗原内エピトープスプレッディングの証拠を評価した。ワクチン接種の前、その間及びその後のGP2特異的及びE75特異的CTLの両方の測定を行った。E75特異的CTLの割合(%)は、GP2ペプチドによるワクチン接種に応答して、前 対 最大レベルを比較した場合に有意に上昇し(0.8±0.2% 対 2.0±0.2%、p=0.0001)、そして有意ではないが、ワクチン前 対 後(0.8±0.2% 対 1.2±0.2%; p=0.1)及び前 対 長期(0.8±0.2% 対 1.0±0.2%; p=0.6)で増大したことが観察された(図5)。注目すべき点は、E75特異的CTLのこれらのレベルはE75による一次ワクチン接種と同程度であり、GP2と比較してE75最大二量体応答が大きくなる傾向があるというわずかな違いしかなかった(2.0±0.2% 対 1.4±0.2%、p=0.07)。
【0100】
より高用量のGM-CSFで開始した患者においてより大きなCTL反応と共により強力なDTH反応及び局所反応を観察した結果は、免疫アジュバントの用量が免疫原性に対し役割を果たしており、おそらくHER2/neuペプチドワクチンの効力に役割を果たしうることを示唆している。以前に報告されているように、より高用量のE75+GM-CSFはより強力なDTH反応となり、再発した患者の生存率の改善と共に再発が少なくなる傾向がある(Peoples GE et al., Clin Cancer Res (2008) 14(3):797-803)。E75を用いた別の最近の研究は、最適用量群(ODG)である1000μg E75及び250μg GM-CSFの無病の乳癌患者に対する6回の毎月接種(1000:250:6)によるE75及びGM-CSFの投与によって、ワクチン接種後の平均DTH反応が21.5 mmとなったことが示されている(Holmes et al., Cancer (2008) 113:1666-75)。準最適用量群(SDG)のワクチン接種後DTH反応は、OBDよりも有意に低かった。興味深いことに、ODGの患者は、より進行性の疾患を有しているにもかかわらず、疾患の再発症例が少なかった。このことは、DTH反応が、臨床転帰に有用なマーカーを提供し、特に、疾患の再発についての高い素因又は短い無病生存時間と相関する小さなDTH(あるいはその逆)を示す、疾患の再発についての素因を測定するための有用なマーカーを提供することを示している。
【0101】
驚くべきことに、GP2はHLA-A2に対する結合アフィニティが比較的低く、亜優性エピトープであるが、GP2及びGM-CSFで処置された患者は、免疫優性エピトープであるE75(+GM-CSF)で誘導されたものと比較して著しく大きなDTH反応を示した。GP2を用いたこの試験では、既存の免疫のない患者(43.9 mm)、そしてより高用量のGM-CSFの投与を受けた患者(45.7 mm)においてより大きなDTH反応が観察された。具体的には、GP2+GM-CSF患者の全てについてのワクチン接種後の平均DTH反応は35.1 mmであったのに対し、E75+GM-CSF患者についてのワクチン接種後の平均DTH反応は11.3 mm(SDG)及び21.5 mm(ODG)であった。GP2及び250μg GM-CSFで処置された患者は、ワクチン接種後の平均DTHがE75 OBD(1000:250:6)で同様に処置された患者のサイズの2倍を超えていた(45.7 mm 対 21.5 mm)。驚くべきことに、免疫優性ペプチドE75を用いた以前の試験と比較して、GP2に対する平均DTH反応は、E75により誘導されたサイズの約2倍のサイズであり、平均半分のペプチド用量であった。これらの知見はさらにGP2の免疫原性を説明し、その臨床的関連を強調するだけではなく、in vivoでのDTHデータはまた、GP2が、亜優性エピトープであるにもかかわらず、E75よりも乳癌の再発を低減するのに有効でありうることを強く示唆している。
【0102】
実施例2:GP2+GM-CSFのフェーズII試験
方法
標準的な補助療法を完了した無病の高リスク乳癌患者を、複数の施設で登録し、無作為に500μgのGP2と125μgのGM-CSF(ペプチド群;PG)又は125μgのGM-CSF単独(アジュバント群;AG)のいずれかを6回の毎月接種を行った。毒性を各接種後に評価した。免疫応答は、遅延型過敏反応(DTH)の測定、及びGP2特異的CD8+ Tリンパ球を検出するためのHLA-A2:免疫グロブリン二量体アッセイによりモニターした、患者は、再発について、臨床的、X線写真により及び病理学的にモニターした。
【0103】
結果
今までのところ、計画した200名の患者のうち50名(27名PG、23名AG)が一連の一次接種を完了した。PG及びAGは類似したX線写真/予後特徴を有する(表3)。
【表3】

【0104】
PG及びAGにおける毒性プロフィールは、いずれの腕でもグレード4〜5の局所毒性なし及びグレード3〜5の全身毒性なしでほぼ同じであった。GP2に対するDTH反応の中央値は、PG群においてワクチン接種前のレベルから一連の一次接種の完了後(ワクチン接種後)に有意に増大し(1.0±0.8 cmから18.0±3.1 cm; p<0.0001)、AG群ではより程度が低かった(0.0±1.0 cmから0.5±3.3 cm; p<0.01)(図6)。ワクチン接種後のDTHは、PGではAGと比較して有意に大きかった(18.0±3.1 cm 対 0.5±3.3 cm, p=0.002)(図6)。AG患者の45.5%(10/22)と比較して、全て(27/27)のPG患者がワクチン接種後にDTHによる有意な免疫(SI)(1 cmより大きい反応)を示した。ワクチン接種後にSIを示す10名のAG患者のうち50%(5/10)が、ワクチン接種後のSIなしの16.6%(2/12)と比較してワクチン接種前SIを示した(p=0.38)。GP2特異的CD8+リンパ球(%)は、PGでは、一連の一次接種完了の6ヵ月後においてベースラインより有意に増大しており(0.65±0.15から1.82±0.23, p=0.002)、AGにおいては有意な変化はなかった(1.08±0.16から1.41±0.49, p=0.45)。
【0105】
これは複数施設における試験であるため、訪れる基準で登録された患者では再発データはまた完全ではない。しかしながら、予備試験データは、PG患者が対照のAG患者と比較して再発率が約50%低減したことを示しており、これはE75+GM-CSFで処置された患者の24ヶ月に観察された再発率と同様である(Peoples GE et al., Clin Cancer Res (2008) 14(3):797-803)。より具体的には、中央値17.9ヶ月の追跡において、PGにおける再発率は、AGにおける再発率13%(3/23)と比較して7.4%(2/27)である。より多くの患者が24ヶ月以上の追跡期間となるにつれて、またより多くの患者がこの試験に登録されるにつれて、より多くの再発率データが入手できるはずである。
【0106】
本明細書で引用した特許、特許出願及び公開された参考文献は全て、参照によりそれらの全体を本明細書に組み入れる。本発明の好ましい実施形態を参照して本発明を具体的に示し、記載したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を形式的及び細部においてなしうることを理解するだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準的な治療コースによる治療後の寛解期にある被験体において乳癌再発を予防する方法であって、製薬上有効な担体、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチド、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含む組成物を、乳癌の再発を予防するのに有効な量で該被験体に投与することを含み、該組成物が配列番号3のアミノ酸配列を有するE75ペプチドを含まない、上記方法。
【請求項2】
該組成物を注射又は接種により投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該注射が皮内注射である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該組成物を1以上の分割用量として注射する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
該被験体上の複数の注射部位が互いに約5cm離れて位置する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該組成物を6ヶ月にわたって各月に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
製薬上有効な担体と配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドとを含むワクチンブースター組成物の有効量を含むブースターを該被験体に投与することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
一次免疫スケジュールが完了した後、6ヶ月又は12ヶ月ごとに該ブースターを投与する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該被験体がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該ヒトがヒト白血球抗原A2を発現する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該ヒト由来の癌細胞が検出可能なレベルのHER2/neuを発現する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
該ヒト由来の癌細胞が低度又は中度のHER2/neu発現を有し、低度又は中度のHER2/neu発現が、タンパク質発現1+若しくは2+の免疫組織化学(IHC)評価、又はHER2/neu遺伝子発現に関して約2.0未満の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)評価を有する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子が組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
該ワクチンブースター組成物がアジュバントを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
該アジュバントが顆粒球マクロファージコロニー刺激因子である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該組成物の投与が、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドに対する細胞傷害性Tリンパ球応答を誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
製薬上許容される担体、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの有効量及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含み、配列番号3のアミノ酸配列を有するE75ペプチドを含まないワクチン組成物。
【請求項18】
該ペプチドの有効量が1mg/mlであり、該アジュバントの用量が0.1〜0.5mg/mlである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
該ペプチドの有効量が1mg/mlであり、該顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の用量が0.25mg/mlである、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
被験体が、配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドに対して既存の免疫を有しない、請求項1に記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−511578(P2012−511578A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540853(P2011−540853)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/067264
【国際公開番号】WO2010/068647
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(500213720)ザ・ヘンリー・エム・ジャクソン・ファンデイション・フォー・ジ・アドヴァンスメント・オヴ・ミリタリー・メディシン、インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】