説明

乳酸エステルからラクチドへの直接転換用触媒及びそれを用いたラクチドの製造方法

【課題】乳酸エステルからポリラクチドのモノマーに使用される環状エステルであるラクチドを直接製造する触媒、及びそれを用いたラクチドの製造方法を提供する。
【解決手段】不活性雰囲気で出発物質である乳酸エステルそれ自体または乳酸と乳酸オリゴマーを少量含んだ乳酸エステル混合物を、チタン系触媒またはチタン系触媒を含む触媒混合物下でエステル交換反応させてラクチドを製造すると同時に、副産物として生成されるアルコールを除去する工程を含むラクチドの製造方法を提供する。本発明によるラクチド製造方法は、乳酸エステルからラクチドを直接製造することができるので、既存の商業化された工程と比較してエネルギー消費が少なく、単純な工程でラクチドを製造することができる新規な方法であり、光学特性(D型またはL型光学異性体)を維持しながらも、高い収率でラクチドを製造することができるので工業的な活用性が非常に高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸エステルからポリラクチドのモノマーに使用される環状エステルであるラクチドへの直接転換用触媒及びそれを用いたラクチドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸ポリマー(Polylactic acidまたはpolylactide、PLA)は、光学特性を有する重合体であり、手術用縫合糸や注射薬用微小カプセルなどの生体分解性医療用素材に使用され、最近は、包装材、家電製品、事務用品、自動車内装材など多様な高分子製品の製造にも活用することができる生分解性バイオプラスチックであり、親環境素材である。
【0003】
乳酸ポリマーが前記用途に使用されるためには、高い光学的純度(D型またはL型光学異性体)と高分子量を有することが求められ、そのためには、乳酸ポリマーの製造に使用されるモノマーであるラクチドの光学的純度及び化学的純度が高くなければならない。
【0004】
ラクチドは、乳酸の脱水(または乳酸エステル化合物の脱アルコール)反応によって生成された2量体で、環状エステルの一種である。
【0005】
従来ラクチドを製造する伝統的な方法は、乳酸や乳酸エステルを一次重合させて分子量100〜5,000程度の予備重合体(prepolymer)を得て、前記予備重合体を金属酸化物やスズ系などの触媒下で不活性ガスの流れ及び減圧条件で解重合(depolymerization)させてラクチドを得る。例えば、特許文献1には、光学的に純粋なL(−)−ラクチドまたはD(+)−ラクチドを前記方法で製造する技術が記載されていて、特許文献2には、複雑な物性のため水分が残っている場合、重合時に低分子量の予備重合体としか重合することができない特性を有する乳酸を濃縮させるために、水と溶媒を除去することを含む、乳酸からのポリラクチドバイオプラスチックの製造方法が記載されている。また、特許文献3には、精製されていない乳酸を原料にして、精製されたラクチドやポリラクチドを製造する方法に関するもので、予備重合体を製造するために乳酸を重合させる工程、触媒を添加して精製されていないラクチドを作るための解重合工程及び精製されていないラクチドを蒸留システムで精製する工程からなる製造方法が記載されている。さらに、特許文献4には、乳酸エステルからの充分に精製されたラクチドとポリラクチドの製造方法に関するもので、重合触媒を使用して低分子量のポリラクチドを製造するために乳酸エステルを縮合する工程、低分子量のポリラクチドを解重合してラクチドを製造する工程及び精製されていないラクチドを精製する工程からなる一連の製造方法が記載されている。また、特許文献5には、L−乳酸水溶液を平均重合度が2以上を超えないように脱水する過程を含んだ、L−ラクチド製造方法が記載されていて、特許文献6には、水と溶媒を除去して得られた乳酸精製液から低分子量のポリラクチド高分子を製造した後、その後触媒をさらに添加してラクチドを容易に合成する工程を含む製造方法が記載されている。さらに、特許文献7には、精製されていないポリラクチドの生成工程を含む、乳酸や乳酸エステルから精製されたラクチドとポリラクチドの製造方法が記載されていて、乳酸エステルの場合には、触媒をさらに使用する製造方法が記載されている。しかし、前記製造方法は、解重合速度が遅く、高温処理による光学純度の低下及び反応基の形態や材質選定などの問題があり、前記方法で製造されたラクチドは、再結晶化や蒸留などを通じた追加精製工程が必要で、工程が複雑で過多のエネルギーを必要とする問題点がある。
【0006】
一方、特許文献8には、ヒドロキシカルボン酸とヒドロキシカルボン酸の誘導体でラクチドやグリコライドのような環状エステルを製造する方法が記載されていて、特許文献9には、溶媒抽出法で薄い乳酸溶液から乳酸を回収して、脱水過程で分子量が大きいオリゴマーの生成分率を調節しながらラクチドのような環状エステルを製造する方法が記載されている。また、特許文献10には、乳酸ブチルエステルを原料に、吸湿性が少ないラクチドを製造する方法が記載されていて、特許文献11には、乳酸エステルをモノブチルスズ化合物触媒の存在下で加熱して、脱アルコール化してモノブチルスズ化合物とともにポリラクチドまたはラクチドを製造する方法が記載されている。また、特許文献12には、高分子量のα−ヒドロキシ有機酸の高分子を製造する方法に関するもので、α−ヒドロキシ有機酸エステルと高級アルコールを脱アルコール縮合でα−ヒドロキシ有機酸オリゴマーの高級アルコールエステルを製造する工程と、前記工程で得られた高級アルコールエステルを減圧下で加熱してグリコライド類を除去する工程が記載されている。
【0007】
特許文献13には、ポリラクチドを製造する方法に関するもので、発酵で得られる澱粉系作物から乳酸を得る工程、乳酸を限外ろ過、ナノろ過膜及び/または電気透析で精製する工程、予備重合体を提供する工程及びジラクチドを形成するための解重合工程による製造方法が記載されている。また、特許文献14には、発酵によって得られたアンモニウムラクテート(乳酸アンモニウム塩)から乳酸エステルを合成する工程、触媒下で乳酸エステルを縮重合する工程、及びポリラクチドの解重合からラクチドを製造する方法が記載されていて、特許文献15には、乳酸と乳酸エステルの混合物から乳酸オリゴマーを製造して、前記方法で製造された乳酸オリゴマーを加熱重合してラクチドを製造する方法が記載されている。前記製造方法は、予備重合工程で乳酸または乳酸エステルの線形二量体であるラクチルラクテート(lactyl lactate)含量が高いオリゴマーを製造することで、解重合工程での工程負荷を減らすという共通的な特徴を有しているが、伝統的な方法を大きく改善することができなかった。
【0008】
特許文献16には、乳酸溶液からラクチドを直接的に製造する方法に関するもので、乳酸または乳酸オリゴマー(重合度4以下)を固定相触媒下で直接縮合させる製造方法が記載されていて、特許文献17には、乳酸及び/または乳酸アンモニウム塩を2分子縮合環化反応させて蒸留塔でラクチドを回収する技術が記載されている。しかし、前記製造方法は、触媒の非活性化問題が深刻で、連続工程が難しいという問題があり、蒸留塔でラクチドのみを回収する技術は、ラクチドの製造収率が低く、未反応の乳酸や乳酸オリゴマー(乳酸の線形二量体、三量体など)から高い純度のラクチドを得にくいという問題がある。
【0009】
一方、重合級純度のラクチドモノマーを得るためには高い純度の乳酸を原料に使用しなければならないが、乳酸は濃縮過程で容易にオリゴマーを形成するため、蒸留法では精製しにくい。したがって、発酵法で得られた乳酸の発酵液から高純度乳酸を得るためには、発酵液を前処理した後、乳酸エステル化合物に変換させて、その乳酸エステル化合物を精製した後、加水分解して高純度乳酸を得ることが一般的である(非特許文献1)。したがって、前記方法で得られた高純度乳酸を予備重合して、再び解重合してラクチドを得るよりは、乳酸エステル化合物からラクチドを直接得ることが、工程を単純化させることができ、エネルギー費用を画期的に節減することができる効率的な方法であると考えられる。
【0010】
乳酸エステルからラクチドを直接得る公知技術として、特許文献10には、モノブチルスズ酸化物(monobutyltin oxide)、ジブチルスズ酸化物(dibutyltin oxide)、乳酸ジブチルスズ(dibutyltin lactate)、オクタン酸第一スズ(Stannous octanoate)などの有機スズ化合物や、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化カルシウム、リン酸、及びパラトルエンスルホン酸などの触媒を使用して、加温、減圧条件下で炭素数1〜8のアルキル基を含む乳酸エステルを縮合させる方法が記載されている。また、特許文献18には、塩化ジブチルスズ (dibutyltin chloride)触媒、または二塩化ジブチルスズ(dibutyltin dichloride)に五酸化リンまたは三酸化リンを組合させた触媒下で、炭素数1〜6の低級アルキル基を含む乳酸エステルを2分子縮合環化反応させてラクチドを得る方法が記載されている。
【0011】
しかし、前記の有機スズ触媒を使用した技術は、メソ光学異性体のラクチドが生成される分率が大きくて、ラクチドの収率が低いという短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5053522号
【特許文献2】米国特許第5142023号
【特許文献3】米国特許第5274073号
【特許文献4】米国特許第5247059号
【特許文献5】米国特許第5274127号
【特許文献6】米国特許第6277951号
【特許文献7】米国特許第6326458号
【特許文献8】米国特許第5319107号
【特許文献9】米国特許第5420304号
【特許文献10】特開平5−286966号公報
【特許文献11】特開平11−209370号公報
【特許文献12】特開2001−181273号公報
【特許文献13】米国特許第6875839号
【特許文献14】米国特許第6569989号
【特許文献15】特開平7−304763号公報
【特許文献16】米国特許第5332839号
【特許文献17】特開平11−092475号公報
【特許文献18】特開平6−031175号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Separation and Purification Technology,2006年,第52巻,1−17頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、乳酸エステルそれ自体または乳酸と乳酸オリゴマーを少量含んだ乳酸エステルの混合物からポリラクチドのモノマーに使用されるラクチドを直接製造する方法を提供することにある。
【0015】
本発明のまた他の目的は、前記製造方法に使用される乳酸エステルそれ自体または乳酸と乳酸オリゴマーを少量含んだ乳酸エステルの混合物からラクチドへの直接転換用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねる中で、光学特性を維持して高い収率でラクチドを乳酸エステルから直接得る方法を研究する中、チタン系触媒を用いることにより、光学特性(D型またはL型光学異性体)を維持しながらも、高い収率を示す乳酸エステルからラクチドを直接製造する方法を見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、不活性雰囲気で出発物質として化学式1の乳酸エステル2分子をチタン系触媒または前記チタン系触媒を含む触媒混合物下でエステル交換反応させて化学式2のラクチドを製造するとともに、副産物として生成されるアルコール(ROH)を除去する工程を含む、下記スキーム1
【化1】

(式中、Rは炭素数が1〜4のアルキル基である)
で表わされるラクチドの製造方法に関する。
【0018】
また、本発明は、出発物質として乳酸エステルが、さらに乳酸、乳酸オリゴマーまたはこれらの混合物を20重量%以下で含むことを特徴とする、前記方法に関する。
さらに、本発明は、チタン系触媒が、テトラアルコキシチタン[(R’O)Ti]、チタンハライド(TiX、TiX、X=F、Cl、Br)、アルコキシチタンハライド[(R’O)4−xTiX、X=F、Cl、Br、x=1−3]、チタンアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate))、チタンアルコキシドアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate)(OR’))からなる群から選択される1種または2種以上のチタン系触媒であることを特徴とする、前記方法に関する(ここで、R’は炭素数が1〜4のアルキル基である)。
【0019】
また、本発明は、チタン系触媒が、下記化学式5または化学式6
【化2】

【化3】

(式中、R及びR’は各々炭素数が1〜4のアルキル基であり、Xはハロゲンであり、nは1〜4の整数である)
で表される化合物をさらに含むことを特徴とする、前記方法に関する。
さらに、本発明は、チタン系触媒を含む触媒混合物が、前記チタン系触媒にさらにアルコキシドを形成することができるアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ガリウム(Ga)及びこれらの混合物からなる群から選択される1種または2種以上を0.1〜30重量%で含むことを特徴とする、前記方法に関する。
【0020】
また、本発明は、チタン系触媒または前記チタン系触媒を含む触媒混合物の使用量が、乳酸エステルに対して0.01〜10モル%であることを特徴とする、前記方法に関する。
さらに、本発明は、チタン系触媒または前記チタン系触媒を含む触媒混合物の使用量が、乳酸エステルに対して0.05〜3モル%であることを特徴とする、前記方法に関する。
【0021】
また、本発明は、出発物質である乳酸エステルが、L型またはD型光学異性体の中のいずれか一形態単独であることを特徴とする、前記方法に関する。
さらに、本発明は、エステル交換反応温度が、出発物質である乳酸エステルの沸騰点より低い温度で始まり徐々に上昇することを特徴とする、前記方法に関する。
【0022】
また、本発明は、反応温度が、30〜250℃の範囲であることを特徴とする、前記方法に関する。
さらに、本発明は、反応温度が、70〜180℃の範囲であることを特徴とする、前記方法に関する。
【0023】
また、本発明は、反応が、1〜750mmHgの範囲で行われることを特徴とする、前記方法に関する。
さらに、本発明は、反応が、20〜700mmHgの範囲で行われることを特徴とする、前記方法に関する。
【0024】
また、本発明は、出発物質である乳酸エステルの供給が、反応経過時間につれて断続的に反応系に供給されることを特徴とする、前記方法に関する。
さらに、本発明は、出発物質である乳酸エステルの供給速度が、乳酸エステル基準で時間当り、触媒1モル当り乳酸エステルのモル比が10〜300であることを特徴とする、前記方法に関する。
【0025】
また、本発明は、出発物質である乳酸エステルの供給速度が、乳酸エステル基準で時間当り、触媒1モル当り乳酸エステルのモル比が30〜200であることを特徴とする、前記方法に関する。
さらに、本発明は、反応で生成されたラクチドによって縮合反応が阻害されることを防止し、反応を円滑に進行させるために、乳酸エステルより沸騰点が高い溶媒を使用することを特徴とする、前記方法に関する。
【0026】
また、本発明は、溶媒が、トリエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γブチロラクトンおよびジフェニルエーテルからなる群から選択されることを特徴とする、前記方法に関する。
さらに、本発明は、反応によって製造されるラクチドが、出発物質である乳酸エステルの光学特性をそのまま維持することを特徴とする、前記方法に関する。
【0027】
また、本発明は、炭素数が1〜4のアルキル基(R)を含む下記スキーム1
【化4】

の化学式1で表わされる出発物質である乳酸エステルからラクチドを直接製造するのに使用されるチタン系触媒に関する。
さらに、本発明は、チタン系触媒が、テトラアルコキシチタン[(R’O)Ti]、チタンハライド(TiX、TiX、X=F、Cl、Br)、アルコキシチタンハライド[(R’O)4−xTiX、X=F、Cl、Br、x=1−3]、チタンアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate))、チタンアルコキシドアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate)(OR’))からなる群から選択される1種または2種以上のチタン系均一触媒であることを特徴とする、前記チタン系触媒に関する(ここで、R’は炭素数が1〜4のアルキル基である)。
【0028】
また、本発明は、触媒が、下記化学式5または化学式6
【化5】

【化6】

(式中、R及びR’は各々炭素数が1〜4のアルキル基であり、Xはハロゲンであり、nは1〜4の整数である)
で表される化合物をさらに含むことを特徴とする、前記チタン系触媒に関する。
さらに、本発明は、前記チタン系触媒にさらにアルコキシドを形成することができるアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イットリウム(Y)及びガリウム(Ga)からなる群から選択される1種または2種以上を、0.1〜30重量%で含むことを特徴とするチタン系触媒を含む触媒混合物に関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によるラクチドの製造方法は、乳酸エステルそれ自体または乳酸と乳酸オリゴマーを少量含んだ乳酸エステルの混合物からラクチドを直接製造することができるので、既存の商業化された工程と比較して、エネルギー消費が少なく、単純な工程でラクチドを製造することができる新規な方法であり、光学特性(D型またはL型光学異性体)を維持しながらも、高い収率でラクチドを製造することができるので、工業的な活用性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による乳酸エステルからラクチドを製造する反応システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、下記スキーム1に示されるように、不活性雰囲気で出発物質として化学式1の乳酸エステル2分子をチタン系触媒または前記チタン系触媒を含む触媒混合物下でエステル交換反応させて、化学式2のラクチドを製造するのと同時に、副産物として生成されるアルコール(ROH)を除去する工程を含む、ラクチドを直接製造する方法を提供する。
【0032】
【化7】

【0033】
本発明による前記製造方法は、短時間に高収率でラクチドを得るために生成されたアルコール(ROH)を除去する工程を含むことが好ましい。これは、前記製造方法で副産物として生成されるアルコール(ROH)が、化学式2のラクチドとともに残留する場合、出発物質である化学式1の乳酸エステルへの逆反応や、または化学式3の線形二量体ラクチルラクテート(n=1の場合)を含んだオリゴマー(n=2以上の場合)に転換反応が起き易いので、所望する化学式2のラクチドを高収率で短時間に得るためには、スキーム1のエステル交換反応によって生成されたアルコールを反応系で可能なかぎり早く除去することが重要だからである。したがって、アルコールの除去が容易なように本発明による前記化学式1の乳酸エステルと、生成されるアルコールの置換基Rは、炭素数が1〜4の低級アルキル基であることが好ましい。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、イソブチル、n−ブチル基などからなるアルキルラクテート(または乳酸エステル)が好ましい。一方、下記スキーム2の経路を通じた製造方法によって、化学式2のラクチドが製造され得るが、このような反応が行われる触媒/反応系では、化学式3のラクチルラクテートからラクチド生成のみならず、重合度の大きなオリゴマーが生成され得るので、ラクチドの選択性が下がり、反応時間が長くなるという問題がある。
【0034】
【化8】

【0035】
また、本発明によるラクチドの製造方法において、前記出発物質として、さらに乳酸及び乳酸オリゴマーまたはそれらの混合物を20重量%以下で含む乳酸エステル混合物を使用することができる。
【0036】
乳酸の発酵過程では、発酵菌株及びpH条件によって乳酸アンモニウム塩、乳酸カルシウム塩などの乳酸塩、乳酸または乳酸と乳酸塩の混合物などが生成され得るが、このような発酵化合物をエステル化したり乳酸を濃縮したりする過程で、反応物中に乳酸オリゴマーが生成され得るので、乳酸エステルだけではなく乳酸及び乳酸オリゴマーが含まれた混合物を反応物に使用することもできる。乳酸エステル以外の乳酸及び乳酸オリゴマー含量が20重量%を超過する場合には、乳酸エステルからラクチドへのエステル交換反応選択性が阻害される問題があるが、20重量%以下の場合には、ラクチド製造選択性に大きな影響を与えない。ここで、乳酸及び乳酸オリゴマーは、触媒及び反応系の特性上、水分が含まれないことが好ましい。
【0037】
さらに、本発明によるラクチドの製造方法において、前記チタン系触媒は、テトラアルコキシチタン[(R’O)Ti]、チタンハライド(TiX、TiX、X=F、Cl、Br)、アルコキシチタンハライド[(R’O)4−xTiX、X=F、Cl、Br、x=1−3]、チタンアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate))、チタンアルコキシドアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate)(OR’))などを使用することができる。ここで、これら触媒の置換基R’は、炭素数が1〜4の低級アルキルであることが好ましく、前記R’は、上述した化学式2の置換基Rと同一の炭素数を有する同一のアルキル置換基であることがさらに好ましい。
【0038】
これは、下記スキーム3またはスキーム4に示すように、本発明によるチタン系触媒が、前記触媒のアルコキシ基またはハライド基が反応物質である乳酸エステル基に置き換えられた活性化状態で反応に関与すると考えられるからであり、さらに、スキーム5に示すように、触媒で遊離されたアルコールは、乳酸エステルや、または生成物であるラクチドと反応してアルコール基が交換された乳酸エステルになり得る。
【0039】
それゆえ、乳酸エステルのアルキル基Rとチタン系触媒のアルキル基R’が相異している場合、二つの種類の乳酸エステル及び乳酸エステルのオリゴマーが存在するようになり、その結果、これらが未反応物として残留する場合に分離・回収工程を複雑にする問題がある。したがって、RとR’は、同一の炭素数を有する同一のアルキル基であることが、後の工程を考慮するとさらに好ましい。
【0040】
また、上述した観点で、本発明による前記チタン系触媒だけではなく、さらに前記チタン系触媒のアルコキシ基やハライド基が少なくとも一つ以上の乳酸エステルのα−オキシ基に置換されたチタン系化合物を使用することができる。
【0041】
さらに、本発明による前記チタン系触媒を含む触媒混合物は、前記チタン系触媒にさらにアルコキシドを形成することができるアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ガリウム(Ga)またはこれらの2種以上の混合物を0.1〜30重量%で含む触媒混合物を使用することができる。前記アルコキシドを形成することができる金属成分の含量が、0.1重量%未満の場合には、チタン系触媒にさらに含まれるアルコキシドを形成することができる金属成分が充分に提供され得ず、30重量%を超過する場合には、ラクチドの選択性を低下させる問題がある。
【0042】
また、前記のチタン系触媒以外にも表面改質されたシリカまたはチタン表面にチタン系触媒が担持された不均一系エステル化触媒も反応後、触媒回収を容易にするためにさらに使用することができる。
【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
(式中、R及びR’は各々炭素数が1〜4の低級アルキル基であり、Xはハロゲン元素であり、nは1〜4の整数である。)
【0047】
また、本発明によるチタン系触媒または前記チタン系触媒を含む前記触媒混合物の使用量は、化学式1の乳酸エステルに対して0.01〜10モル%であることが好ましく、0.05〜3モル%であることがさらに好ましい。触媒の使用量が、0.01モル%未満の場合には、触媒効果が不十分で、長い反応時間が必要になる問題があり、10モル%を超過する場合には、触媒使用量と比較して触媒効果が大きく向上しないという問題がある。
【0048】
さらに、本発明によるラクチドの製造方法は、光学的に純粋ないずれか一つの形態(L型またはD型)のラクチドを提供する。これは、前記反応物質に使用される化学式1の乳酸エステルをL型またはD型の中でいずれか一形態を単独で使用することで達成することができる。すなわち、本発明によって製造されるラクチドは、反応物である乳酸エステルの光学特性をそのまま維持することができる。
【0049】
また、本発明によるラクチドの製造方法において、反応温度は一定の温度に維持する条件や、低い温度で反応を始めて徐々に上昇させる方法などを使用することができる。具体的に、前記反応温度は、30〜250℃の範囲が好ましく、70〜180℃の範囲がさらに好ましい。30℃未満の場合には、反応速度が遅い問題があり、250℃を超過する場合には、反応物である乳酸エステルの過度な沸騰によって反応が円滑になされないという問題がある。
【0050】
さらに、本発明によるラクチドの製造方法において、前記反応は生成されたアルコールを反応系から効率的に除去するために一定圧力条件下で行うことができ、反応進行経過時間によって徐々に減圧する方法などで行うことができる。ここで、前記一定圧力条件は、1〜750mmHg中の一定した圧力で行うことができ、減圧条件の範囲は、1〜750mmHgであることが好ましく、20〜700mmHgであることがさらに好ましい。前記圧力が1mmHg未満の場合には、真空を維持するためにエネルギー消費が多くなる問題があり、750mmHgを超過する場合には、反応系内で生成されたアルコールの分離が容易ではなく、スキーム2のようにラクチドと反応して化学式3の線形二量体への逆反応が起きるようになり、ラクチドの選択性が大きく下がるという問題がある。
【0051】
また、本発明によるラクチドの製造方法において、前記出発物質である化学式1の乳酸エステルは、反応経過時間によって断続的に反応系に供給することができる。副産物として生成されるアルコールが生成物であるラクチドと逆反応するのと同様に、出発物質である乳酸エステルも生成物であるラクチドと反応して乳酸エステルのオリゴマーを生成させるので、ラクチドの選択度を低下させることを防止して反応時間を短縮させるという観点から、乳酸エステルを断続的に供給することが好ましい。
【0052】
ここで、前記出発物質である乳酸エステルの供給速度は、時間当り、触媒1モル当り乳酸エステルのモル比が10〜300の範囲であることが好ましく、30〜200の範囲であることがさらに好ましい。前記供給速度が時間当り、触媒1モル当り乳酸エステルのモル比が10未満の場合には、低い供給速度によって乳酸エステルを供給した時の反応速度が遅くなる問題があり、300を超過する場合には、速い供給速度によって乳酸エステルとの反応効果が低下する問題がある。
【0053】
また、本発明によるラクチドの製造方法は、無溶媒状態で反応を進行することもでき、溶媒を使用することもできる。前記方法で、溶媒を使用する場合には、生成されたラクチドによって縮合反応が阻害されることを防止し、反応が円滑に進行されるようにするために、乳酸エステルより沸騰点が高い溶媒を使用することが好ましい。具体的に、前記溶媒としては、トリエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γブチロラクトン、ジフェニルエーテルなどを使用することができる。
【0054】
さらに、本発明は、炭素数が1〜4のアルキル基を含む前記スキーム1の化学式1で表わされる出発物質である乳酸エステルからラクチドを直接製造するのに使用されるチタン系触媒を提供する。
【0055】
前記チタン系触媒では、上述したテトラアルコキシチタン[(R’O)Ti]、チタンハライド(TiX、TiX、X= F、Cl、Br)、アルコキシチタンハライド[(R’O)4−xTiX、X=F、Cl、Br、x=1−3]、チタンアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate))、チタンアルコキシドアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate)(OR’))などが好ましい。ここで、これら触媒の置換基R’は、炭素数が1〜4の低級アルキルであることが好ましく、前記R’は、上述した化学式2の置換基Rと同一な炭素数を有する同一アルキル置換基であることがさらに好ましい。そして、前記チタン系触媒は、ラクチド製造時、出発物質の中で乳酸エステルのL型またはD型光学異性体の種類にかかわらず、高い活性と選択性を示すことができる。
【0056】
また、本発明による前記チタン系触媒は、前記チタン系触媒にさらにアルコキシドを形成することができるアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ガリウム(Ga)またはこれらの2種以上の混合物を0.1〜30重量%で含む触媒混合物が好ましい。
【0057】
さらに、本発明による前記チタン系触媒では上述したチタン系触媒だけではなく、表面改質されたシリカまたはチタン担体上に上述したチタン系均一触媒が担持された不均一系エステル化触媒も含むことができる。例えば、シリカ、メソ細孔体、有無機メソ細孔体、有機ポリマーなど表面積が大きい支持体の表面を有機官能基であるシランカップリング剤を使用して支持体表面のOH基濃度を調節して、前記チタン系有機金属または金属化合物を担持させて製造した不均一系触媒なども、反応後、触媒回収を容易にするためにラクチドモノマー製造に使用することもできる。
【0058】
本発明による乳酸エステルからポリラクチドのモノマーに使用されるラクチドの製造工程は、図1のような反応システムによって行うことができる。前記反応システムを説明すると、1と2はコンデンサであり、4と5は冷媒循環装置である。コンデンサ1と反応器3との間にコネクタ6が連結されていて、外部はヒーティングテープで巻かれている。自動圧力調節真空ポンプ7を用いて圧力を維持させて、8はシリコン油浴で反応器の温度を維持する。熱電対(thermocouple:9)で反応物の温度をチェックして、1口丸底フラスコ11には出発物質である乳酸エステルそれ自体または乳酸エステル混合物が装入されている。カニューレ10を用いて出発物質である乳酸エステルそれ自体または乳酸エステル混合物を反応器内部に流入させる。微細調節バルブ12を通じてアルゴンガス流量を調節して、ラクチドとともに生成されるエチルアルコールは、氷浴(ice bath)13中の2口丸底フラスコ14で凝縮させて捕集する。
【0059】
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示するだけのものであり、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるのではない。
【0060】
<実施例1>L−ラクチド製造1
図1の反応装置で、コンデンサ1の循環冷媒温度を20℃に調節し、コンデンサ2の循環冷媒温度を−10℃に維持した。
【0061】
水分が充分に除去された3口丸底フラスコを高純度アルゴンガスでパージ(purge)させて、そこにトリエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME、Aldrich社、Molecular sieveで水分除去)0.17モルとチタンエトキシド[Ti(OEt)、Acros社]2.5×10−3モルを入れた後、図1のように装着した。また、出発物質である乳酸エステルL−エチルラクテート(化学純度98%、光学純度98.1%)0.34モルを水分及び空気が除去されたバイアルに入れて、カニューレで反応器に連結した。反応系内にアルゴンガスを20ml/分で流しながら、真空ポンプを作動させて圧力を50mmHgに維持した。前記状態の反応器を120℃に維持されている油浴に入れて、撹拌を始めて熱平衡になったのを確認して、L−エチルラクテートを断続的に注入した。L−エチルラクテート0.17モルを1.5時間の間に注入完了後、総6時間反応させてラクチドを製造した。
【0062】
<実施例2>L−ラクチド製造2
コンデンサ1の循環冷媒温度を30℃に調節して、反応圧力を210mmHgに調節することを除き、実施例1と同様に行った。210mmHgで4時間反応後、反応圧力を50mmHgに下げて、さらに2時間反応を継続させてラクチドを製造した。
【0063】
<実施例3>L−ラクチド製造3
実施例1で出発物質としてL−乳酸及び乳酸オリゴマー含量がL−エチルラクテート対比10重量%を含んだ乳酸エステル混合物を使用することを除き、実施例1と同様に行ってラクチドを製造した。
【0064】
<実施例4>L−ラクチド製造4
ラクチド製造触媒にチタンエトキシドの代わりに四塩化チタン(TiCl、Aldrich社)2.7×10−3モルを使用して、図1の反応器にTEGDME、TiClとともに約4.2×10−2モルのL−エチルラクテートを同時に入れて、TiClのクロライド陰イオンがエチルラクテートによって置換されるように誘導することを除き、実施例1と同様に行ってラクチドを製造した。
【0065】
<比較例1>L−ラクチド製造5
図1の反応器にTEGDMEとチタンエトキシド及びL−エチルラクテートを最初から同時にすべて入れて反応を進行することを除き、実施例1と同様に行ってラクチドを製造した。
【0066】
前記反応の場合、反応初期温度は、L−エチルラクテート及び反応によって生成されたアルコールの沸騰で75℃を越さず、以後、反応が進行するにつれて漸進的に上昇した。
【0067】
<比較例2>L−ラクチド製造6
ラクチド製造触媒にチタンエトキシドの代わりに公知の触媒であるスズ化合物を使用した。オクタン酸スズ(Sn(Oct)、Aldrich社)2.7×10−3モルを使用して反応を進行することを除き、実施例1と同様に行ってラクチドを製造した。
【0068】
<実験例1>L−エチルラクテートの注入方法による転換率と選択度分析
L−エチルラクテートの注入方法による転換率と選択度を分析するために、反応生成物をFID−GCガスクロマトグラフ(ドーナン社、DS6200)とDB−200(Agilent Technologies社,30m×0.53μm×1μm)と光学異性体分離のためのCyclosil B(Agilent Technologies社)カラムを使用して分析し、その結果を表1に示した。
【0069】
【表1】

【0070】
表1を参照すると、L−エチルラクテートを断続的に注入した実施例1の場合には、エチルラクテートの転換率は98.0%、L−ラクチドの選択度は88.7%で、Meso−ラクチドの選択度は1.93%、D−ラクチドの選択度は0.15%だった。一方、最初から同時に入れて反応を進行させた比較例1の場合には、6時間反応後、L−エチルラクテートの転換率は84.5%、L−ラクチドの選択度は63.0%で、8時間反応後のL−エチルラクテートの転換率は87.2%、L−ラクチドの選択度は67.1%だった。また、Meso−ラクチドの選択度は1.87%、D−ラクチドの選択度が0.17%だった。
【0071】
したがって、L−エタルラクテートを断続的に注入した場合、L−エチルラクテートの転換率及びL−ラクチドの選択度が増加することが分かった。
【0072】
<実験例2>一定圧力下と減圧条件での転換率と選択度分析
一定圧力下と減圧条件での転換率と選択度を分析するために、反応生成物をガスクロマトグラフィーで分析して、その結果を表2に示した。
【0073】
【表2】

【0074】
表2を参照すると、一定圧力下で反応を行った実施例1の場合には、エチルラクテートの転換率は98.0%、L−ラクチドの選択度は88.7%で、Meso−ラクチドの選択度は1.93%、D−ラクチドの選択度は0.15%だった。減圧条件で反応を行った実施例2の場合には、前記6時間反応後のL−エチルラクテートの転換率は97.6%、L−ラクチドの選択度は77.3%で、Meso−ラクチドの選択度は1.98%、D−ラクチドの選択度は0.1%以下だった。
【0075】
したがって、実施例1及び実施例2で、エチルラクテートの転換率は類似しているが、L−ラクチドの選択度は低くなったことが分かった。
【0076】
<実験例3>出発物質に乳酸エステル及び乳酸エステル混合物を使用した各々の場合の転換率及び選択度分析
出発物質に乳酸エステル及び乳酸エステル混合物を使用した各々の場合の転換率及び選択度を分析するために、反応生成物をガスクロマトグラフィーで分析して、その結果を表3に示した。
【0077】
【表3】

【0078】
表3を参照すると、出発物質にL−乳酸を使用した実施例1の場合には、エチルラクテートの転換率は98.0%、L−ラクチドの選択度は88.7%で、Meso−ラクチドの選択度は1.93%、D−ラクチドの選択度は0.15%だった。L−乳酸及び乳酸オリゴマーがL−エチルラクテート対比モル比で10重量%を含んだ混合物を使用した実施例3の場合には、L−エチルラクテートの転換率は96.2%、L−ラクチドの選択度は84.5%、Meso−ラクチドの選択度は1.96%、D−ラクチドの選択度は0.1%以下だった。
【0079】
したがって、出発物質にL−乳酸及び乳酸オリゴマーを少量含む場合、L−ラクチドの選択度には大きな影響を与えないということが分かった。
【0080】
<実験例4>チタン系ラクチド触媒による転換率及び選択度分析
チタン系ラクチド触媒による転換率及び選択度を分析するため、ガスクロマトグラフィーで分析して、その結果を表4に示した。
【0081】
【表4】

【0082】
表4を参照すると、チタンエトキシドを使用した実施例1の場合には、エチルラクテートの転換率は98.0%、L−ラクチドの選択度は88.7%で、Meso−ラクチドの選択度は1.93%、D−ラクチドの選択度は0.15%だった。一方、四塩化チタンを使用した実施例4の場合には、エチルラクテートの転換率は98.1%、L−ラクチドの選択度は82.8%で、Meso−ラクチドの選択度は2.17%、D−ラクチドの選択度は0.1%以下だった。
【0083】
チタンエトキシドを使用した実施例1と四塩化チタンを使用した実施例4を比較すると、エチルラクテートの転換率は、同一であるが、実施例1のL−ラクチド選択度が若干高く示されることが分かった。
【0084】
<実験例5>触媒による転換率及び選択度分析
チタン系触媒と比較触媒としてスズ系触媒を使用した時の転換率及び選択度を分析するために、反応生成物をガスクロマトグラフィーで分析して、その結果を表5に示した。
【0085】
【表5】

【0086】
表5を参照すると、本発明による触媒を使用した実施例1の場合には、エチルラクテートの転換率は98.0%、L−ラクチドの選択度は88.7%で、Meso−ラクチドの選択度は1.93%、D−ラクチドの選択度は0.15%だった。一方、オクタン酸スズ化合物を使用した比較例2の場合には、L−エチルラクテートの転換率が86.7%、L−ラクチドの選択度は50.3%で、Meso−ラクチドの選択度は1.23%、D−ラクチドの選択度は0.10%だった。
【0087】
したがって、本発明によるチタン系触媒を使用してラクチドを製造すると、既存の乳酸及び乳酸エステル重合触媒として使用されるスズ系触媒を使用した場合より、エチルラクテートの転換率だけではなく、L−ラクチドの選択度も増加して効率的にラクチドを製造することができることが分かった。
【符号の説明】
【0088】
1、2:コンデンサ
3:反応器
4、5:冷媒循環装置
6:コネクタ
7:真空ポンプ
8:シリコン油浴
9:熱電対
10:カニューレ
11:1口丸底フラスコ
12:微細調節バルブ
13:氷浴(ice bath)
14:2口丸底フラスコ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性雰囲気で出発物質として化学式1の乳酸エステル2分子をチタン系触媒または前記チタン系触媒を含む触媒混合物下でエステル交換反応させて化学式2のラクチドを製造するとともに、副産物として生成されるアルコール(ROH)を除去する工程を含む、下記スキーム1
【化1】

(式中、Rは炭素数が1〜4のアルキル基である)
で表わされるラクチドの製造方法。
【請求項2】
出発物質として乳酸エステルが、さらに乳酸、乳酸オリゴマーまたはこれらの混合物を20重量%以下で含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
チタン系触媒が、テトラアルコキシチタン[(R’O)Ti]、チタンハライド(TiX、TiX、X=F、Cl、Br)、アルコキシチタンハライド[(R’O)4−xTiX、X=F、Cl、Br、x=1−3]、チタンアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate))、チタンアルコキシドアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate)(OR’))からなる群から選択される1種または2種以上のチタン系触媒であることを特徴とする、請求項1に記載の方法(ここで、R’は炭素数が1〜4のアルキル基である)。
【請求項4】
チタン系触媒が、下記化学式5または化学式6
【化2】

【化3】

(式中、R及びR’は各々炭素数が1〜4のアルキル基であり、Xはハロゲンであり、nは1〜4の整数である)
で表される化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
チタン系触媒を含む触媒混合物が、前記チタン系触媒にさらにアルコキシドを形成することができるアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ガリウム(Ga)及びこれらの混合物からなる群から選択される1種または2種以上を0.1〜30重量%で含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
チタン系触媒または前記チタン系触媒を含む触媒混合物の使用量が、乳酸エステルに対して0.01〜10モル%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
チタン系触媒または前記チタン系触媒を含む触媒混合物の使用量が、乳酸エステルに対して0.05〜3モル%であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
出発物質である乳酸エステルが、L型またはD型光学異性体の中のいずれか一形態単独であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
エステル交換反応温度が、出発物質である乳酸エステルの沸騰点より低い温度で始まり徐々に上昇することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
反応温度が、30〜250℃の範囲であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
反応温度が、70〜180℃の範囲であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
反応が、1〜750mmHgの範囲で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
反応が、20〜700mmHgの範囲で行われることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
出発物質である乳酸エステルの供給が、反応経過時間につれて断続的に反応系に供給されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
出発物質である乳酸エステルの供給速度が、乳酸エステル基準で時間当り、触媒1モル当り乳酸エステルのモル比が10〜300であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
出発物質である乳酸エステルの供給速度が、乳酸エステル基準で時間当り、触媒1モル当り乳酸エステルのモル比が30〜200であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
反応で生成されたラクチドによって縮合反応が阻害されることを防止し、反応を円滑に進行させるために、乳酸エステルより沸騰点が高い溶媒を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
溶媒が、トリエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γブチロラクトンおよびジフェニルエーテルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
反応によって製造されるラクチドが、出発物質である乳酸エステルの光学特性をそのまま維持することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
炭素数が1〜4のアルキル基(R)を含む下記スキーム1
【化4】

の化学式1で表わされる出発物質である乳酸エステルからラクチドを直接製造するのに使用されるチタン系触媒。
【請求項21】
チタン系触媒が、テトラアルコキシチタン[(R’O)Ti]、チタンハライド(TiX、TiX、X=F、Cl、Br)、アルコキシチタンハライド[(R’O)4−xTiX、X=F、Cl、Br、x=1−3]、チタンアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate))、チタンアルコキシドアセチルアセトネート(Ti(acetylacetonate)(OR’))からなる群から選択される1種または2種以上のチタン系均一触媒であることを特徴とする、請求項20に記載のチタン系触媒(ここで、R’は炭素数が1〜4のアルキル基である)。
【請求項22】
触媒が、下記化学式5または化学式6
【化5】

【化6】

(式中、R及びR’は各々炭素数が1〜4のアルキル基であり、Xはハロゲンであり、nは1〜4の整数である)
で表される化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項20に記載のチタン系触媒。
【請求項23】
請求項20のチタン系触媒にさらにアルコキシドを形成することができるアルミニウム(Al)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イットリウム(Y)及びガリウム(Ga)からなる群から選択される1種または2種以上を、0.1〜30重量%で含むことを特徴とするチタン系触媒を含む触媒混合物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−270102(P2010−270102A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220301(P2009−220301)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(505386867)コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー (6)
【Fターム(参考)】