説明

乳酸エチルの連続製造方法

【課題】触媒の存在下でエタノールを用いた乳酸のエステル化によって乳酸エチルを連続滴に製造する方法。
【解決手段】乳酸エチル、エタノール、水および種々の重質化合物を含む混合物をエステル化反応媒体から乳酸が部分的に変換した段階で連続的に抜き出し、抜き出した混合物を減圧フラッシュ分離装置へ送り、乳酸エチル、エタノールおよび水を含む減圧フラッシュ分離装置の塔頂留分を分留カラムへ供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳酸または乳酸組成物から純度が97%以上の乳酸エチルを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸エチルはそれ単独で(または他の溶剤と一緒に)機械オイルや非水媒体で汚染および/または一時保護された固体表面、例えば金属部品、セラミック、ガラス、プラスチックの表面を洗浄、脱脂する洗浄・脱脂剤として用いることができる。さらに、乳酸エチルは印刷回路のフラックス除去(溶接フラックスを除去する操作)にも用いることができる。
【0003】
工業的に最も広く用いられる乳酸エチルの製造方法は一般に酸を触媒とした下記反応式のエステル化反応である:
【化1】

【0004】
しかし、乳酸分子上にヒドロキシ基が存在するため、この反応の実施は複雑になる。すなわち、エステル化が2つの乳酸分子間で起こり、下記反応式に従って乳酸の各種オリゴマーが生成する:
【化2】

【化3】

または
【化4】

【化5】

【0005】
一般に用いられる運転条件ではラクチド(IV)は生成しない。工業的には市販の乳酸溶液が用いられるためオリゴマー(II)、(III)および/または(V)が検出される。
【0006】
乳酸の組成物とは任意の乳酸水溶液を意味し、その製造方法や特性は任意であり、乳酸水溶液の純度は極めて多様である。市販の乳酸水溶液は有機化合物が50、80、87または90%で、水、乳酸のモノマー、ダイマーおよび高級オリゴマーの混合物である。
従って、乳酸エチル(I)を製造するためには、乳酸モノマーをエステル化するだけでなく、乳酸のオリゴマーを解重縮合する必要がある。
そうしないと下記反応に従って乳酸のオリゴマーのエステル化で乳酸エチルのオリゴマーができる:
【化6】

【0007】
この反応(6)で生じる乳酸エチルのオリゴマーの生成量を最小にする(除去する)ためにはエタノールを大過剰に用いる必要がある。一般に用いられるエタノール/乳酸のモル比は少なくとも2.5である。
さらに、乳酸のエタノールによるエステル化で得られた粗乳酸エチルの精製時に下記の反応に従って2つの乳酸エチル分子間でエステル交換反応が起こる可能性もある:
【化7】

【0008】
このエステル交換反応(7)は一般に塩基性触媒のo−チタン酸アルキルまたはジルコニウムベースの錯体の存在下で起こる。
従って、乳酸をエステル化して乳酸エチルを生成させる場合には下記(1)および(2)の複雑な要因が加わる:
(1)出発材料の乳酸組成物中の乳酸オリゴマーの存在(乳酸を得るためには解重縮合が必要)
(2)所望のエステル化(乳酸、エタノール)と、乳酸エチルオリゴマーが生成する2つのエステル化(乳酸と乳酸エチルとの間のエステル化、エタノールと乳酸のオリゴマーとの間のエステル化)との競合。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、上記方法で水/乳酸エチルの二元共沸混合物が生成する場合があり、乳酸エチルからの水の除去がさらに複雑になるということが分かった。
この問題を解決する一つの解決方法は、乳酸のエタノールによるエステル化中にできる限り含水率の低い乳酸エチルを作り、それを減圧蒸留して精製することである。
【0010】
本発明者は、乳酸エチルと、エタノールと、水と、未変換乳酸および乳酸エチルオリゴマーからなる重質物とを含む混合物を、乳酸が所定変換率の時にエステル化反応媒体から連続的に抜き出し、抜き出した混合物を減圧フラッシュ分離し、この減圧フラッシュ分離装置で下記2つの留分:
(1)フラッシュ分離装置の塔底で得られる乳酸オリゴマーを含む塔底留分(この塔底留分は反応媒体中へ再循環できる)、
(2)フラッシュ分離装置の塔頂で得られる乳酸エチルとエタノールと水との混合物を含む塔頂留分、
に別け、上記の塔頂留分を分留することによってほとんど水を含まない乳酸エチルを得ることができるということを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象は、下記式(I):
【化8】

【0012】
に従って乳酸とエタノールとをエタノール/乳酸のモル比を少なくとも2.5、好ましくは2.5〜4.5にして触媒の存在下で50〜90℃、好ましくは80〜90℃の温度および大気圧下で反応させる、乳酸[または乳酸の組成物]をエタノールでエステル化して乳酸エチルを製造する方法において、
下記の(1)〜(5)を特徴とする方法を提供する:
(1)乳酸の変換率が80%以下の反応媒体から大気圧下で乳酸エチル、未変換乳酸、エタノール、水および少量の重質物を含む混合物を連続的に抜き出し、
(2)得られた混合物を80〜90℃の温度、65mbar以下の圧力でフラッシュ分離し、
(3)フラッシュ分離した乳酸エチル、エタノールおよび水を含む塔頂留分を分留カラムの特定段に導入して大気圧下で連続的に分留し、
(4)一方、未変換乳酸および重質物を主成分とする塔底留分はエステル化反応媒体へ連続的に再循環し、
(5)分留カラムの塔頂からエタノールと水との混合物を回収し、その塔底から含水率が0.3%以下、エタノール含有率が0.5%以下、純度が94%以上の乳酸エチルを回収する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、乳酸の変換率が最大80%、好ましくは65〜75%に達したときに反応媒体から混合物を連続的に抜き出す。この混合物の抜出しは攪拌反応媒体から単純なオーバーフローによって行うことができる。抜出した混合物はフラッシュ分離装置へ送られる。
反応はエステル化反応媒体に可溶または不溶な触媒の存在下で行われる。本発明で使用可能な可溶な触媒の例としては98%H2SO4、H3PO4またはメタンスルホン酸が挙げられる。98%H2SO4を用いるのが好ましい。
【0014】
本発明では触媒は用いる乳酸に対して0.1〜4重量%の範囲、好ましくは0.2〜3重量%のモル含有率で用いる。
反応は攪拌反応器または固定層反応器を用いて行うことができる。後者の場合には固体触媒、例えばAmberlyst 15型のイオン交換樹脂を用いる。
本発明では、フラッシュ分離装置から出た塔頂留分を分留カラムの適切な位置、好ましくは塔底部分から分留カラムに供給する。この位置はカラムの理論段数、還流比、所望分別度を考慮して当業者が計算によって決めることができる。この分留は大気圧下でカラム塔底温度を152〜165℃にして行う。
【0015】
分留カラムの塔頂留分は85重量%以下のエタノールと、水と、痕跡量の乳酸エチルとを含む。この混合物は脱水でき、アルコール(共沸混合物の形)をエステル化反応媒体へ再循環できる。分留カラの塔底物として得られた乳酸エチルは含水率が0.3重量%以下であり、この乳酸エチルは減圧蒸留によって精製できる(重質化合物、例えば乳酸エチルのダイマーおよび痕跡量の乳酸の除去)。
【0016】
本発明方法は上記のような市販の乳酸組成物中に存在するエタノールによる乳酸のエステル化に特に適用できる。87重量%の乳酸を含む乳酸組成物を用いるのが好ましい。
分留カラムの塔底で得られる乳酸エチルは実質的に水もアルコールも含まないので簡単な精製後に純粋な乳酸エチルを得ることができる。
【0017】
本発明方法は[図1]に示す装置で実施できる。この装置は下記a)〜d)を含む:
a)攪拌器、温度計、乳酸供給装置(2)、エタノール供給装置(3)および触媒供給装置(4)を備えた反応器(1)
b)反応器(1)から抜き出した相が供給ライン(6)を介して供給されるフラッシュ分離装置(5)、
c)フラッシュ分離装置(5)の塔頂留分が供給ライン(8)を介して供給される分留カラム(7)(エタノール−水混合物の塔頂出口(9)と、乳酸エチルの塔底出口(10)とを有する)
d)フラッシュ分離装置(5)の塔底で生じる重質物を反応器へ戻す供給装置(11)。
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0018】
[図1]に示す装置を用いて87重量%の乳酸を含む乳酸組成物をエステル化する。
分留カラム(7)は直径が70cmで、充填物Sulzer B X 70が充填されている。この分留カラムの理論段は35である。
試験
反応器(1)に下記成分を導入した:
87%乳酸組成物、
無水エタノール、
98%硫酸。
【0019】
エタノール/乳酸のモル比は2.5にした。エステル化は大気圧下で80℃で行った。反応の進行状態は乳酸をGCで定量してモニターした。乳酸の変換率が70%に達したときに、乳酸エチル、エタノール、乳酸および水を含む混合物を反応器(1)から連続的に抜き出した。
この混合物を50mbarの圧力下、85℃でフラッシュ分離装置(5)でフラッシュ分離した。フラッシュ分離装置(5)の塔頂留分は乳酸エチル、エタノール、乳酸および水からなる。
【0020】
フラッシュ分離装置(5)の塔頂留分は44重量%のエタノール、42重量%の乳酸エチルおよび14重量%の水を含む。これを分留カラム(7)で分留した。上記塔頂留分は分留カラム(7)の13番目の理論段に供給した。
分留はカラム塔底温度を155℃にして行った。塔頂温度は77.2℃になる。還流比は1.3に設定した。塔頂物として76重量%のエタノール、24重量%の水および痕跡量の乳酸エチル(<0.3重量%)を含む混合物が得られる。塔底物としては純度が94.6重量%以上で、1重量%以下の水と、1重量%以下のエタノールとを含む乳酸エチルが得られる。この粗乳酸エチルは減圧分留によって精製できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明方法を実施するための装置の概念図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

に従って乳酸とエタノールとをエタノール/乳酸のモル比を少なくとも2.5にして触媒の存在下で50〜90℃、好ましくは80〜90℃の温度および大気圧下で反応させる、乳酸[または乳酸の組成物]をエタノールでエステル化して乳酸エチルを製造する方法において、
下記の(1)〜(5)を特徴とする方法:
(1)乳酸の変換率が80%以下の反応媒体から大気圧下で乳酸エチル、未変換乳酸、エタノール、水および少量の重質物を含む混合物を連続的に抜き出し、
(2)得られた混合物を80〜90℃の温度、65mbar以下の圧力でフラッシュ分離し、
(3)フラッシュ分離した乳酸エチル、エタノールおよび水を含む塔頂留分を分留カラムの特定段に導入して大気圧下で連続的に分留し、
(4)一方、未変換乳酸および重質物を主成分とする塔底留分はエステル化反応媒体へ連続的に再循環し、
(5)分留カラムの塔頂からエタノールと水との混合物を回収し、その塔底から後段で精製可能な含水率の乳酸エチルを回収する。
【請求項2】
エタノール/乳酸のモル比を2.5〜4.5にする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記混合物を乳酸の変換率が65〜75%の反応媒体から連続的に抽出する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
フラッシュ分離装置の塔頂留分を分留カラムの塔底位置に供給する請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
フラッシュ分離装置からの塔頂留分を分留カラムの底部温度を152〜165℃にして分留する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法で得られる含水率が0.3重量%以下の乳酸エチル。

【図1】
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【公表番号】特表2006−509024(P2006−509024A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558173(P2004−558173)
【出願日】平成15年12月5日(2003.12.5)
【国際出願番号】PCT/FR2003/003598
【国際公開番号】WO2004/052825
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(591004685)アルケマ (112)
【Fターム(参考)】