説明

乳酸発酵ヤーコン茎葉部、その抽出物およびこれらの製造方法

【課題】さらに抗酸化活性(ポリフェノール含量)を高めたヤーコン茎葉部およびその抽出物であって、この抽出物をお茶として飲用した場合にその苦味を著しく改善せしめたものおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ヤーコンの茎葉部を乳酸発酵させた乳酸発酵ヤーコン茎葉部によって達成され、このものはヤーコン茎葉部を殺青、粉砕の後、乳酸菌液を加えて発酵させた後、乾燥させることによって製造される。この乳酸発酵ヤーコン茎葉部を水または水溶性溶媒で抽出することにより、それの抽出物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸発酵ヤーコン茎葉部、その抽出物およびこれらの製造方法に関する。さらに詳しくは、茶の原料等として用いられるヤーコンの茎葉部を用いた乳酸発酵ヤーコン茎葉部、その抽出物およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヤーコン(Yacon:学名Polymnia sonchifolia)は、南米アンデス原産のキク科の植物であり、その利用法が研究されている。その塊根部は、フラクトオリゴ糖を多量に含み、また低カロリーであることから、生のまま根菜として食用に供した場合など、ダイエット食や糖尿病食として有効であると共に、フラクトオリゴ糖やフラクトースの天然原料としても用いられている。一方、塊根収穫時には2mにも達するヤーコンの地上部、特に茎葉部については、原産地では家畜の飼料として用いられている。
【0003】
この地上部(茎葉部)については、その水溶性溶媒抽出物が老化防止・美白用の皮膚外用剤としての有用性が、また自然乾燥させたヤーコン茎葉部を単独でお茶として利用することで糖尿病患者の血糖値を低下し得る効果を有することが知られている。
【特許文献1】特開平8−175964号公報
【特許文献2】WO98/08527
【非特許文献1】農業および園芸、第64巻 第4号 538頁(1989)
【0004】
ここで上記特許文献1には、ヤーコンの抽出物がすぐれた抗酸化力を有することが記載されている。抗酸化活性は、疾病(生活習慣病)予防に有効とされ、活性酸素、フリーラジカル等を消去する物質として知られているポリフェノール含量とも相関性が認められる。従って、ヤーコン抽出物の抗酸化活性およびポリフェノール含量をさらに高めることができれば、さらなる疾病予防効果、老化防止・美白作用などが期待される。
【0005】
また、自然乾燥させたヤーコン茎葉部を単独で利用したお茶は、苦味が強く、そのままでは健康茶としても飲み辛いといった問題を有している。ここで、ヤーコン茎葉を自然乾燥させ、さらに酸化発酵を行ったものが販売されているが、その苦味をまろやかにするといった点についての改善が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、さらに抗酸化活性(ポリフェノール含量)を高めたヤーコン茎葉部およびその抽出物であって、この抽出物をお茶として飲用した場合にその苦味を著しく改善せしめたものおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、ヤーコンの茎葉部を乳酸発酵させた乳酸発酵ヤーコン茎葉部によって達成され、このものはヤーコン茎葉部を殺青、粉砕の後、乳酸菌液を加えて発酵させた後、乾燥させることによって製造される。この乳酸発酵ヤーコン茎葉部を水または水溶性溶媒で抽出することにより、それの抽出物を得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る乳酸発酵させたヤーコンの茎葉部は、これを抽出した場合の抗酸化活性、ポリフェノール量が、乳酸発酵前のヤーコン茎葉部を抽出したものと比べて、ともに増加している。また、ヤーコン茎葉部を水を用いて抽出したものをお茶として飲用した場合には、特有の苦味が著しく改善されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ヤーコンの茎葉部とは、ヤーコンの地上部、さらに詳しくは植物形態学の用語である葉、茎または葉柄の少なくとも一つを指すものであり、産地や収穫時期に関係なく使用することができる。
【0010】
乳酸発酵ヤーコン茎葉部は、ヤーコン茎葉部を殺青して粉砕した後、乳酸菌液を加えて発酵させたものを乾燥させることによって製造される。
【0011】
乳酸発酵ヤーコン茎葉部としては、採取した生葉を、洗浄・選別によって汚れや異物が除去されたものを、直ちに殺青処理したうえで用いられる。殺青処理は、生葉自身が有する酵素による酸化発酵を防止するために行われるものであり、その条件は、生葉の持つ酸化酵素を失活させることが可能であれば特に限定されるものではないが、一般にはヤーコン茎葉を80〜400℃で15秒〜10分間加熱することにより行われる。
【0012】
ヤーコン茎葉の粉砕は、フードカッター、ミキサー、ハンマーミル等を用いることによって行われ、粉砕後の大きさは特に限定されるものではないが、ヤーコン茎葉が約10mm以下程度の細かさになるまで行われる。この粉砕により、抽出物の濃度が高くなり、また取扱いも容易となる。
【0013】
乳酸発酵は、あらかじめ乳酸菌液を、20〜40℃で2〜12日間程度の前培養した乳酸菌培養液を遠心して集菌した後、上清を除いた上で水を加えて調製した乳酸菌液を、粉砕した茶葉が浸せきする程度、一般には茶葉(湿重量)に対して重量比で約0.1倍以上、好ましくは0.5〜20倍程度加え、20〜40℃、好ましくは25〜35℃で2〜20日間、好ましくは3〜6日間発酵させることにより行われる。ここで、乳酸菌としては、Streptcoccus属、
Pediococcus属、Leuconostoc属、Lactobacillus属などに属する細菌が挙げられ、好ましくはLeuconostoc属に属する細菌、さらに好ましくはLactobacillus brevisまたは
Leuconostoc mesenteroidesが用いられる。乳酸発酵工程では、これらの乳酸菌と共に
Saccharomyces属などの酵母菌を併用することもできる。酵母は、乳酸菌と共存しやすく、アルコールを生成して茶葉中の雑菌の生育を抑制するといった働きをする。
【0014】
乳酸発酵後のヤーコン茎葉は、好ましくは保存性を高めるといった観点から乾燥される。乾燥は、ヤーコン茎葉を十分に乾燥できる条件であれば特に限定されないが、一般には80〜200℃で30分〜8時間の条件下で行われる。
【0015】
得られた乳酸発酵ヤーコン茎葉は、水またはエタノール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコールなどの水溶性抽出溶媒のうち少なくとも一種を乳酸発酵ヤーコン茎葉に対して重量比で約10〜1000倍程度用い、特にお茶の場合には、水が用いられ、常温または加熱下での抽出が行われる。
【0016】
以上の殺青、粉砕、乳酸発酵、乾燥および抽出の各工程を経ることにより乳酸発酵ヤーコン茎葉抽出物を得ることができる。
【0017】
ヤーコン茎葉の抽出物は、抽出された溶液のまま用いても良く、また必要に応じて濃縮、希釈、ろ過などの処理を施したうえで、お茶、皮膚外用薬などとして用いられる。
【実施例】
【0018】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0019】
実施例1
乳酸菌用培地(酵母エキス2.5g/L、ポリペプトン5g/L、グルコース1g/L、Tween80 1g/L、L-システイン0.1g/L、pH 6.8)を用い、乳酸菌Lactobacillus brevisを30℃で3日間静置培養して前培養菌液(OD=1.0)を得た。得られた前培養菌液を遠心して集菌した後上清を除いた上で、10mLの水を加えて希釈乳酸菌液を調製した。ヤーコン茎葉を30秒間沸騰水中で殺青し、次いで粉砕して得た茶葉10g(湿重量)に、上記希釈乳酸菌液10mLを添加し、25℃で5日間静置して発酵を行った後、100℃で3時間乾燥して、乳酸発酵ヤーコン茎葉を得た。得られた乳酸発酵ヤーコン茎葉1gに対して熱湯100mLを加え、5分間抽出した後、固形分をろ過によって分離除去して、液状抽出物を得た。
【0020】
得られた液状抽出物について、下記の方法により抗酸化活性およびポリフェノール含量の測定が行われたところ、それぞれ3204μmol trolox 当量/mLおよび661μg/mLであった。
抗酸化活性:検液0.5mLに、80μg/mLの1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DP
PH)のエタノール溶液0.5mLを混合し、室温にて30分間静置した後、51
7nmにおける吸光度を測定し、別途Trolox(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テ
トラメチルクロマン-2-カルボン酸)のエタノール溶液を用いて作成し
た検量線より、抗酸化活性(μmol trolox当量/mL)を算出
ポリフェノール含量:検液200μLに対して、蒸留水を用いて2倍に希釈したフォリ
ン-チオカルト試薬(シグマ社製品)100μLを混和後、0.4M炭
酸ナトリウム(関東化学製品)水溶液1mLを加え、30分間静置
後、660nmにおける吸光度を測定し、別途タンニン溶液を用
いて作製した検量線から、ポリフェノール濃度(μg/mL)を
算出
【0021】
実施例2
実施例1において、乳酸菌としてLeuconostoc mesenteroidesが用いられたところ、抗酸化活性およびポリフェノール含量は、それぞれ3260μmol trolox当量/mLおよび698μg/mLであった。
【0022】
比較例1
実施例1において、乳酸発酵ヤーコン茎葉の代わりに、ヤーコン葉を30秒間沸騰水中で殺青、粉砕、乾燥して得た不発酵ヤーコン茎葉が同量用いられたところ、抗酸化活性およびポリフェノール含量は、それぞれ2748μmol trolox当量/mLおよび576μg/mLであった。
【0023】
比較例2
実施例1において、乳酸発酵ヤーコン葉の代わりに、ヤーコン茎葉を室温で3日間酸化発酵を行ったものについて、粉砕後乾燥して得た酸化発酵ヤーコン茎葉が同量用いられたところ、抗酸化活性(相対活性値)およびポリフェノール含量は、それぞれ196μmol trolox 当量/mLおよび383μg/mLであった。
【0024】
以上の実施例2および比較例1で得られた各お茶について、20〜30代のパネラー8名によって、「苦味」、「渋味」、「酸味」および「後味」の4項目について、それぞれ弱い(1点)〜強い(3点)の3点評価を用いて官能評価を行った。得られた結果(合計点数)は、次の表に示される。

苦味 渋味 酸味 後味
実施例2 8 8 11 9
比較例1 16 16 13 15
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の乳酸発酵させたヤーコンの茎葉部より得られる抽出物は、高い抗酸化活性と高ポリフェノール含量を有するため、健康促進茶あるいは皮膚外用剤など、高抗酸化活性が求められる用途に有効に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤーコンの茎葉部を乳酸発酵させた乳酸発酵ヤーコン茎葉部。
【請求項2】
ヤーコン茎葉部を、乳酸菌を用いて発酵させることを特徴とする乳酸発酵ヤーコン茎葉部の製造方法。
【請求項3】
乳酸発酵が、Leuconostoc属に属する細菌によって行われる請求項2記載の乳酸発酵ヤーコン茎葉部の製造方法。
【請求項4】
Leuconostoc属に属する細菌とともに酵母菌を併用する請求項3記載の乳酸発酵ヤーコン茎葉部の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の乳酸発酵ヤーコン茎葉部を水または水溶性抽出溶媒を用いて抽出して得られた乳酸発酵ヤーコン茎葉部の抽出物。
【請求項6】
茶として飲用される請求項5記載の乳酸発酵ヤーコン茎葉部の抽出物。
【請求項7】
ヤーコンの茎葉部を、殺青工程、粉砕工程、乳酸発酵工程および乾燥工程を経た後、水または水溶性抽出溶媒を用いて抽出することを特徴とする請求項5記載の乳酸発酵ヤーコン茎葉部抽出物の製造方法。

【公開番号】特開2009−207458(P2009−207458A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56310(P2008−56310)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(501218566)学校法人片柳学園 (10)
【出願人】(593059773)富士ソフト株式会社 (28)
【Fターム(参考)】