説明

乳飲料用乳化安定剤およびこれを含有する乳飲料

【課題】 乳化安定性に優れた乳飲料を提供する。
【解決手段】 乳飲料にモノエステル含量が50重量%以上のジグリセリン脂肪酸エステルと植物性タンパク質(好ましくはジグリセリン脂肪酸エステルと植物性タンパク質及びポリグリセリン脂肪酸エステル)を含有させることにより、乳化安定性に優れた乳飲料が得られる。上記の植物性タンパク質としては大豆タンパク質が好ましく、上記のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては所定の条件で測定した曇点が80℃以上のものが好ましい。また、動物性タンパク質を併用することができ、この場合、動物性タンパク質としては牛乳由来のタンパク質が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化安定剤およびこれを含有する乳飲料に関するものである。詳しくは、植物性タンパク質を含有する乳化安定剤、及び該乳化安定剤を含有した、加熱殺菌を施した際の熱安定性及び長期間の保存安定性に優れた乳飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳成分を含有する乳飲料としてはミルクコーヒーやミルクティーなどが挙げられるが、これらは店頭での長期に亘る静置の場合や自動販売機での長期加温保存中に乳成分が上部に浮上し、時間の経過とともに浮上した乳成分が凝集、合一して、いわゆるネックリングの状態へと至る。この場合、再分散性は悪くなり、再分散後も乳成分の塊が上部に浮遊した状態となる。
【0003】
最近では、焙煎コーヒー豆量が多く、様々な焙煎度の豆を使用したコーヒー飲料が増えつつあるが、焙煎が深いコーヒー豆を使用した場合では、乳成分の浮上が速くなることが知られている。
特に最近では、缶入り飲料に代わり、PETボトル入り飲料が普及してきているため、乳成分の乳化安定性がより重要視されている。これは、PETボトルは透明容器なので消費者は乳飲料の外観を見ることができ、PETボトル飲料において乳成分の分離が起こった場合には、消費者に不快な印象を与え、商品価値が低下したり、クレームの原因につながる可能性があるためである。
【0004】
そこで、乳飲料の保存安定性を向上させるために、乳化剤同士を組み合わせるだけでなく、乳タンパク質などの動物性タンパク質を併用する方法が提案されている。例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルの組み合わせに、牛乳由来のカゼインナトリウムを特定の割合で配合し、乳飲料に添加する方法(特許文献1参照)や、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリドの組み合わせに、同様にカゼインナトリウムを特定の割合で混合し、この乳化安定剤の0.4%水溶液のpHを5〜9に調整した後に乳飲料に添加する方法(特許文献2参照)などが知られている。
【0005】
また、PETボトル入りの乳飲料における長期間の乳化安定性を維持するために、構成脂肪酸がパルミチン酸を主体とするモノエステル含量が高いHLB10以上のショ糖脂肪酸エステルと20%塩化ナトリウム水溶液中1重量%濃度で測定した曇点が90℃以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせて添加する方法が知られている(特許文献3参照)。
また、乳成分含量飲料をレトルト殺菌した後に高温条件下で長期間保存した場合の耐熱性芽胞菌の発芽や増殖を抑制するため、及び内容物の乳化安定性を維持するために、ジグリセリン脂肪酸モノエステルとHLB3〜16のポリグリセリン脂肪酸エステル及びHLB3〜16のショ糖脂肪酸エステルを組み合わせて添加する方法が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−101858号公報
【特許文献2】特開2002−142670号公報
【特許文献3】特開2000−333599号公報
【特許文献4】特開平10−165151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、乳飲料を長期保存した場合において、乳化安定性が充分満足のいくものは得られておらず、特に焙煎コーヒー豆量が多い又はコーヒー豆の焙煎が深いミルクコーヒーでは乳化が不安定であった。
そこで、乳成分の浮上が抑制され、長期間保存しても凝集が起こらない乳飲料の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、乳飲料に特定の乳化安定剤を配合して殺菌した場合に、乳成分の浮上が抑制され、乳化安定性が良好になることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)モノエステル含量が50%以上であるジグリセリン脂肪酸エステル及び植物性タンパク質を含有することを特徴とする乳化安定剤。
(2)ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する(1)に記載の乳化安定剤。
【0010】
(3)動物性タンパク質を含有する(1)又は(2)に記載の乳化安定剤。
(4)ポリグリセリン脂肪酸エステルが、20重量%塩化ナトリウム水溶液中1重量%濃度で測定した曇点が80℃以上のものである(2)又は(3)に記載の乳化安定剤。
(5)植物性タンパク質が大豆タンパク質である(1)〜(4)の何れかに記載の乳化安定剤。
(6)動物性タンパク質が牛乳由来のタンパク質である(3)〜(5)の何れかに記載の乳化安定剤。
(7)(1)〜(6)の何れかに記載の乳化安定剤を含有することを特徴とする乳飲料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の乳化安定剤を乳飲料に添加することにより、加熱殺菌後に乳成分の浮上を抑制することができ、さらに、長期保存後の乳化安定性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明の乳化安定剤の概要について説明する。
本発明の乳化安定剤は、モノエステル含量が50%以上であるジグリセリン脂肪酸エステル及び植物性タンパク質を含有するものである。
また、モノエステル含量が50%以上であるジグリセリン脂肪酸エステル及び植物性タンパク質に、ポリグリセリン脂肪酸エステルを併用することにより、乳飲料の乳化安定性をより一層向上させることが出来る。
次に、本発明の乳化安定剤に用いられる成分に関し、詳細に説明する。
【0013】
[タンパク質]
タンパク質は動物性タンパク質と植物性タンパク質に大別される。動物性タンパク質としては、卵由来の卵黄、卵白、全卵、及びこれらより分離されたオボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド、オボグロブリンなどや牛乳由来の脱脂粉乳、乳清タンパク、バターミルクパウダー及びこれらより分離されたカゼイン類、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、血清アルブミン、免疫グロブリンなどを挙げることが出来る。
一方、植物性タンパク質としては、大豆由来の脱脂大豆粉、濃縮大豆タンパク、分離大豆タンパク、抽出大豆タンパクなど及びこれらより分離された7Sグロブリン、11Sグ
ロブリンなどを挙げることができる。本発明では植物性タンパク質を用いることにより、乳化安定性が向上する。
【0014】
植物性タンパク質としては、大豆タンパク質が好ましい。さらに、動物性タンパク質と植物性タンパク質を併用することにより、両者の相乗効果が発現され、乳化安定性が一層向上することから、最も好ましく用いることができる。動物性タンパク質としては、牛乳由来の乳タンパク質を用いるのが好ましく、牛乳由来の乳清タンパク質を用いるのが特に好ましい。
植物性タンパク質と動物性タンパク質の混合比率は、植物性タンパク質/動物性タンパク質の重量比が99/1〜1/99であることが好ましく、特に、この重量比が1/0.01〜1である時が最も好ましく、乳成分の浮上抑制に効果がある。
植物性タンパク質の乳飲料への添加量は、通常0.001〜0.1重量%である。添加量が多すぎると風香味に悪影響を及ぼしたり、沈殿が増加する。一方、少なすぎると、乳化安定性が低下する。
ミルクコーヒー、カフェオレ、ミルク紅茶等の乳飲料に、乳化安定剤を添加する場合は、乳飲料に含まれる植物性タンパク質及び動物性タンパク質の量を考慮して、乳化安定剤への各タンパク質の混合量、混合比率、及び、乳飲料への乳化安定剤の添加量を調節することが好ましい。
【0015】
[ジグリセリン脂肪酸エステル]
本発明のコーヒーに使用されるジグリセリン脂肪酸エステルは、通常、モノエステル含量が50重量%以上であり、70重量%以上であることが好ましい。ジグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数は、通常8〜22、好ましくは10〜22、更に好ましくは14〜18である。構成脂肪酸は、飽和または不飽和のいずれでも良いが、好ましくは飽和脂肪酸である。具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸等が例示されるが、中でもパルミチン酸が好ましい。構成脂肪酸は2種以上組み合わせて使用してもよい。モノエステル含量が70重量%以上であり、かつパルミチン酸を主成分(好ましくは80重量%以上)とするものは、高温芽胞菌の増殖を抑制する効果が高く好ましい。モノエステル含量が50%以上のジグリセリン脂肪酸エステルの乳飲料への添加量としては、0.03〜0.1重量%が好ましい。
【0016】
[ポリグリセリン脂肪酸エステル]
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の具体例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸などの炭素数14〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が挙げられ、特にミリスチン酸を主成分とするものが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度は、通常3〜20、好ましくは4〜12である。ポリグリセリンの平均重合度が大きすぎると大部分が水中に分散し、乳脂肪への吸着量が少なくなるため乳化安定性が悪くなり、小さすぎると水中に分散する量が少なくなるために乳化安定性が悪くなる。
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、20重量%塩化ナトリウム水溶液中1重量%で測定した曇点範囲が80℃以上であるものが好ましく、特に、20重量%塩化ナトリウム水溶液中1重量%で測定した曇点範囲が90℃以上である高親水性のポリグリセリン脂肪酸エステルが最も好ましい。曇点が高すぎると大部分が水中に分散し、乳脂肪への吸着量が少なくなるため乳化安定性が悪くなり、低すぎると水中に分散する量が少なくなるために乳化安定性が悪くなる。
【0017】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの分析には、これまで種々の化学的分析方法が用いられてきた。例えば、エステル化度や残存脂肪酸量を把握するため、酸価、ケン化価、水酸基価がしばしば用いられ、また、石鹸あるいは残存触媒量を知るための灰分の分析等による
評価方法も用いられてきた。
しかし、ポリグリセリン脂肪酸エステルの原料のポリグリセリンは、グリセリンの重縮合物であり、精製が困難であるため、重合度分布を有し、直鎖状重合体ばかりでなく分岐状重合体や環状重合体等を含む。従って、そのエステル体であるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリン骨格が異なる種々のエステル化度のポリグリセリン脂肪酸エステルと未反応ポリグリセリンを含む組成物となる。さらにポリグリセリン脂肪酸エステルには、エステル化反応に使用されるアルカリ触媒と原料の脂肪酸との反応で生ずる副生成物の石鹸や、エステル化反応が不十分な場合及び化学量論量を越えた脂肪酸が過剰に使われた場合等には未反応の脂肪酸が含まれることもある。
【0018】
このように、ポリグリセリン脂肪酸エステルは複雑な混合物であるために、従来の化学分析では、ポリグリセリン脂肪酸エステルの総合的特性を特定することが困難であった。例えばポリグリセリン脂肪酸エステルの平均エステル化度が近似又は同じであっても、乳化安定性等の物性が格段に異なることもあり、平均エステル化度や未反応ポリグリセリン等従来の化学的分析手法のみでは物性を十分に把握できず、物性評価方法において不都合が生じていた。そこで、ポリグリセリン脂肪酸エステル組成物の総合的特性規定として、近年、「曇点」が採用されている。
【0019】
ポリグリセリンは多数の水酸基を持つために、ポリオキシエチレン系の界面活性剤と比較すると、ポリグリセリン脂肪酸エステルは全般的に曇点が高く、水の沸点を越えることもある。その様な場合、適当な塩水溶液を用いることにより、容易に測定することができる(特開平9−157386号公報)。通常、親水性が高いほど曇点は高くなり、エステル化率が同じであってもモノエステル含量が多いほど曇点は高くなる。
【0020】
曇点測定法としては、通常、1〜30重量%の塩化ナトリウム又は硫酸ナトリウム水溶液にポリグリセリン脂肪酸エステルを溶解した後、測定する必要があり、その条件は対象となる試料の溶解性により異なるが、本発明の測定法について説明する。本発明の場合、先ず、ポリグリセリン脂肪酸エステルを1重量%となるように20重量%塩化ナトリウム水溶液に分散し、加熱しながら攪拌し、均一な水溶液とする。そして得られたポリグリセリン脂肪酸エステル均一水溶液を、0℃以上100℃以下の任意の温度で2〜5℃刻みに振とう攪拌・静置し、ポリグリセリン脂肪酸エステルが油状あるいはゲル状の如く分離し、不均一水溶液となった状態を測定する。この不均一状態を「曇点」と呼び、本発明ではその温度を求める。
【0021】
20重量%塩化ナトリウム水溶液中1重量%で測定した曇点範囲が80℃以上のポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンに対して脂肪酸の仕込比率を小さくし、アルカリ触媒存在下に180〜260℃の温度で反応させることにより得られる。一般に、仕込み比率は脂肪酸がポリグリセリンに対して2モル倍以下であり、アルカリ金属触媒はK2CO3,KOH,Na2CO3,NaOHなどをポリグリセリンに対して5×10-7〜1モル倍用いる。
【0022】
20重量%塩化ナトリウム水溶液中1重量%で測定した曇点範囲が90℃以上のポリグリセリン脂肪酸エステルは、通常、アルカリ触媒の量を減じ(例えば、K2CO3,KOH,Na2CO3,NaOHなど、ポリグリセリンに対して5×10-7〜1モル倍用いる)て、2段階反応で後半の温度を高める方法、例えば、反応温度180〜260℃でのエステル化反応後に、さらに反応温度を10〜50℃上昇させて1〜4時間反応させる方法を用いることができる(特開平7−145104号公報参照)。
【0023】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの乳飲料への添加量は、通常0.01〜0.1重量%である。添加量が多すぎると蝋臭が増し風香味が悪くなるため好ましくなく、少なすぎると
乳脂肪への吸着量が不足するため乳化安定性が低くなる。
本発明の乳化安定剤において、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる場合、植物性タンパク質/ポリグリセリン脂肪酸エステルの重量比は、通常99/1〜1/99であるが、乳成分の浮上抑制の効果の観点から、好ましくは1/0.01〜2である。ジグリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステルとの比率は、通常1/0.01〜1、好ましくは1/0.1〜0.5である。
【0024】
本発明の乳化安定剤は、上記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含有してもよい。例えば、本発明の乳化安定剤が粉末状である場合には、各成分の混合状態を良くする為に、通常デキストリンなどの賦形剤(増量剤)を含有させる。
本発明の乳化安定剤は、水溶液の状態でもよいが、粉末状の製剤であることが好ましい。粉末状の製剤は、通常、各成分を粉末状態で混合して均一化するか、または各成分を水に添加して水溶液としたものを乾燥することにより調製される。粉末状の製剤としての乳化安定剤中に含まれるジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、植物性タンパク質の合計の含有率は、通常50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%、さらに好ましくは90〜100重量%である。含有率が低すぎると乳化安定性が低下する。
【0025】
[乳飲料の調製方法]
本発明の乳化安定剤を含有してなる乳飲料は、乳成分である乳脂肪、乳タンパク質を含有する飲料であって、具体的には、ミルクコーヒー、カフェオレ、ミルク紅茶等が挙げられる。
ミルクコーヒーで用いるコーヒー豆は特に限定されず、同一の種類のコーヒー豆を使用しても、2種類以上のコーヒー豆を混合して用いてもよい。通常は焙煎されたコーヒー豆が使用される。焙煎の方法としては、直火式焙煎機や熱風式焙煎機などの装置を使用し、200〜300℃の温度で目標の焙煎度になるまで加熱を行う。焙煎コーヒー豆から得られるコーヒー抽出液の本発明の乳飲料中での含有量は、生豆換算で通常5〜10重量%である。含有率が高すぎると乳化が不安定となり乳成分が分離しやすくなる。一方、含有率が低すぎるとコーヒーの風味が減少する。
【0026】
乳成分としては、牛乳、全脂粉乳、スキンミルクパウダー、フレッシュクリーム等が挙げられるが、脱脂粉乳などの蛋白質とバターやミルクオイル等の乳脂とを個別に加えて調整してもよい。中でも牛乳は粉乳よりも口当たりの滑らかさが損なわれないため好ましく用いることができる。乳成分の含量は、通常牛乳換算で4〜60重量%、好ましくは8〜25重量%である。含有率が高すぎるとコーヒーの風味が低下し、低すぎるとコク味が低下する。乳飲料のpHとしては、通常、5〜7の中性または弱酸性であることが好ましい。pHが高すぎると風香味に悪影響を与え、低すぎると乳化が不安定になり沈殿が発生する。
【0027】
本発明の乳飲料はコーヒーや紅茶の抽出液と砂糖および牛乳等の乳成分を混合した後、乳化安定剤の水溶液を混合し、さらに重曹を加えてpHを調整した後にホモジナイザーを用いて均質化処理を行なう。本発明の乳化安定剤の乳飲料に対する添加量は、通常0.04〜0.3重量%である。
均質化された乳飲料は、続いて加熱殺菌が施されるが、本発明の乳飲料は、缶飲料の殺菌に使用されるレトルト殺菌やPETボトル飲料に使用されるUHT殺菌のいずれを用いても構わない。通常レトルト殺菌は、乳飲料を缶に充填し、レトルト殺菌機により、121℃、20〜40分の条件で行われる。また、UHT殺菌は、より高温、例えば、殺菌温度130〜150℃で、且つ、121℃での殺菌価(F0)が10〜50に相当する超高温殺菌である。UHT殺菌は飲料に直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式や飲料を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式などの直接加熱方式、プレートやチューブなど表面熱交換器を用いる間接加熱方式など公知の方法で行うことができ、例えばプレート式殺菌装置を用いることができる。
【0028】
尚、本発明の乳飲料には、その他の乳化安定剤、甘味料、香料、ビタミン、抗酸化剤などの公知の配合剤等を本発明の効果を損なわない範囲で加えてもよい。その他の乳化安定剤として、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル等を添加して例示できる。
本発明の乳化安定剤の乳飲料への添加量は、通常、0.04〜0.3重量%である。添加量が多すぎると風香味に悪影響を及ぼし、少なすぎると乳脂肪への吸着量が不足するため乳化安定性が悪くなる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、「比」、「%」及び「部」はいずれも重量比、重量%および重量部を表す。
[実施例1〜3]
L値26の焙煎コーヒー豆((株)ユニカフェ製「コロンビアEX」)2.5kgを95℃の脱塩水で抽出し、コーヒー抽出液26.4kgを得た。コーヒー抽出液5.2kg、牛乳2.0kg、グラニュー糖0.5kg、及び表−1に記載の乳化安定剤を脱塩水に50℃で溶解して調製した水溶液を加えて全量を10kgとした。この溶液に重曹を加えて殺菌後のpHが6.4となるように調整し、これを高圧ホモジナイザーを用いて60〜70℃の温度で150kg/50kgの圧力で均質化後、100mlのガラス耐熱瓶に充填し、レトルト殺菌機(アルプ(株)RK3030)により殺菌温度121℃、殺菌時間40分の条件で殺菌し(F0=40)、冷却することによりミルクコーヒーを得た。
これらのミルクコーヒーを55℃で2週間保存し、FormulAction社製「TurbiScan Lab」により乳成分の浮上速度(乳化安定性)について評価した。評価結果を表−1に示す。
【0030】
[比較例1]
実施例2において、タンパク質を併用しない以外は、実施例2と同様に行った。評価結果を表−1に示す。
【0031】
[比較例2]
実施例1において、植物性タンパク質(大豆タンパク質)を併用しない以外は、実施例2と同様に行った。評価結果を表−1に示す。
なお、表−1における乳化安定性は以下のように評価した。
【0032】
<Turbiscan Labによる乳化安定性の評価>
光源を一定時間間隔でサンプル管の上下方向にスキャンすることにより、サンプルか
らの後方散乱光を検出し、測定時間に対して後方散乱光強度の変化率を観測することにより、クリームオフの状態を把握することができる。サンプル管上部の測定により、クリームオフ量の情報が得られる。時間とともに後方散乱光強度の変化率が正に大きくなるほどクリームオフ量が多く、乳化安定性は劣る。そこで、乳成分浮上速度(測定時間と後方散乱光強度の変化率をプロットして得られる直線の傾き)を算出し、以下の基準(尚、「dB(%)」は後方散乱光強度の変化率である「deltaBackscattering」の略である。)で評価し、結果を表1に記した。
【0033】
◎:乳成分浮上速度が130dB(%)/day未満
○:乳成分浮上速度が130dB(%)/day以上〜180dB(%)/day未満
△:乳成分浮上速度が180dB(%)/day以上〜230dB(%)/day未満
×:乳成分浮上速度が230dB(%)/day以上
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の乳化安定剤を乳飲料に添加することにより、加熱殺菌後に乳成分の浮上を抑制することが出来、さらに、長期保存後の乳化安定性も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノエステル含量が50%以上であるジグリセリン脂肪酸エステル及び植物性タンパク質を含有することを特徴とする乳飲料用乳化安定剤。
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する請求項1に記載の乳飲料用乳化安定剤。
【請求項3】
動物性タンパク質を含有する請求項1又は2に記載の乳飲料用乳化安定剤。
【請求項4】
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、20重量%塩化ナトリウム水溶液中1重量%濃度で測定した曇点が80℃以上のものである請求項2又は3に記載の乳飲料用乳化安定剤。
【請求項5】
動物性タンパク質が牛乳由来のタンパク質である請求項3〜4の何れかに記載の乳飲料用乳化安定剤。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の乳飲料用乳化安定剤を含有することを特徴とする乳飲料。

【公開番号】特開2009−189369(P2009−189369A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108293(P2009−108293)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【分割の表示】特願2004−212131(P2004−212131)の分割
【原出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】