説明

乾姜エキス及びその製造方法

【課題】本発明は、性状が非常に良く、水への溶解性に優れ、辛味成分の安定性が向上し、風味も良い乾姜エキスを提供することを課題とする。
【解決手段】水溶性のシクロデキストリンの一種または二種以上を添加した水性溶媒によって乾姜を抽出し濃縮して製した乾姜エキスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性状が良く、水に溶け易く、風味が良く、辛味成分の安定性が良い乾姜のエキス及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乾姜は生姜を蒸して乾燥したものであり、6−ギンゲロール、6−ショーガオールに代表される辛味成分を含んでいる。これらは乾姜の代表的な生理活性成分であり、乾姜をエキス化する場合、上記辛味成分を効率良く抽出することが重要になる。一方、これら辛味成分は水よりもアルコールへの溶解性が高いため、乾姜エキスの製造にあっては、専ら含水エタノールが用いられてきた。一般に、含水エタノールで上記辛味成分を抽出した場合、得られるエキスは非常に性状が悪く、水への溶解性も悪く、しかも辛味成分の安定性が悪く分解しやすいという欠点があった。これら欠点を解決するための手段として、水又は水分含有量20質量%以上の水混和性有機溶媒で天然香辛料を抽出する際、サイクロデキストリン(以下シクロデキストリンと記載する)の存在下で行うことが提案されている(特許文献1)。上記特許文献の実施例2には
β−シクロデキストリンを用いたしょうがの抽出液製造の記載がある。そこで、上記実施例2に従い、効果の確認を行った。対照としてはβ−シクロデキストリンを直鎖状のデキストリンに代えて同一の製造方法で調製した抽出液を用いた。
【0003】
【表1】

【0004】
比較試験を行った結果、抽出時にβ−シクロデキストリンを用いても、風味、溶液の安定性、成分の溶出性に有意差は見られなかった。また、抽出液を濃縮し、エキス化及び乾燥エキス化を試みたが、濃縮時に油層、水層及び粉状の3層に分離してしまい、濃縮物の回収が出来ない状態であった。従って、本特許文献に記載された「経時変化が無く、保存安定性に優れる」という効果が得られないことが確認できた。また、本特許文献の実施例の方法で得られる抽出物を濃縮したエキスは、油層、水層、粉状に分離してしまって使用できない状態であり、実施例の方法では、産業上利用できる性状のエキスを提供することが出来ないことが確認された。
従って、先に述べた問題点を解決する抽出物はいまだ提供されていないと言うことが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−6176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記エキスの性状の悪さ及び水への溶解性の悪さ等の従来の問題点を解決すること、更には、辛味成分の安定性を向上させることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、シクロデキストリンに糖を分枝状に付加させることによって水溶性を向上せしめた分枝状シクロデキストリンの一種または二種以上を添加した水性抽出溶媒を用いて乾姜の抽出を行えば、結果として得られる乾姜エキスは、エキス性状が非常に良く、水への溶解性に優れ、辛味成分の安定性が向上し、更には風味も良いことを発見した。
【発明の効果】
【0008】
従来、乾姜エキスは性状が悪く、水への溶解性も悪く、辛味成分の安定性に欠けていたために、配合可能な剤型も限られ、しかも製品の品質保持期間も短期間にせざるを得ず、製品化に大きな制限があった。しかし、本発明で得られるエキスは性状が良く水への溶解性に優れるため、従前は考えられなかった液剤への配合も容易になり、且つ辛味成分の安定性が向上しており、製品の品質保持期間も延長できるため製造者並びに消費者に大きな利益をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】抽出溶媒へのシクロデキストリン(CD)の添加の有無と辛味成分移行率を示すグラフ。
【図2】40v/v%エタノール抽出時のシクロデキストリンの至適添加量に関するグラフ。
【図3】水抽出時のシクロデキストリン至適添加量に関するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いる水溶性を高めたシクロデキストリンの環状部分は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、クラスターデキストリンから選ばれる少なくとも一種のシクロデキストリンの構造を有しており、これらのシクロデキストリンは任意に二種以上組み合わせていても良い。
上記シクロデキストリンの水溶性を向上せしめるために分枝状に付加される糖類としては、グルコース、フルクトース等の単糖類、トレハロース、サッカロース、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース等の二糖類など水溶性を高めることが出来る糖ならばどのような糖であってよく、上記糖は任意に二種以上選択して組み合わせられてもよい。
上記糖類は上記シクロデキストリンに対して1質量%以上付加されることが望ましい。付加量が1質量%に満たない場合にはシクロデキストリンの水溶性が顕著に向上しない。
上記分枝状シクロデキストリン、あるいは上記シクロデキストリンの一種または二種以上を組み合わせた混合物を、乾姜の1質量%を超える任意の量でとり、乾姜の量の2倍以上の容量の水又は水性溶媒に溶解して乾姜に加え、0℃〜沸騰までの範囲の任意の温度で抽出を行う。上記水性溶媒としては主として水に60質量%以下のメタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールを添加した混合溶媒が用いられる。
【0011】
得られた抽出液は、濃縮してエキスにすることで目的の乾姜エキスが得られる。この乾姜エキスはそのまま利用して良く、所望ならば加熱殺菌などの手段によって滅菌しても良い。
本発明を実施例によって説明する。但し、本発明の範囲は以下に示される実施例に限定されるものではない。
【0012】
〔実施例1〕
マルトースを付加した分枝状シクロデキストリン(分枝状シクロデキストリン含有比率20質量%、α:β:γ=6:3:1質量比、商品名イソエリート40L 日研化成株式会社)を乾姜質量の100質量%とり、乾姜質量の20倍容量の0、10,20、30及び40v/v%エタノールになるようにそれぞれ溶媒を調製した。この抽出溶媒に乾姜を投入し、室温下20分間超音波照射機内で超音波を照射した。抽出液は遠心分離後上清を分析用の試料溶液とした。対照として、乾姜質量の20倍容量の0,10、20、30及び40v/v%エタノールをそれぞれ抽出溶媒として、乾姜を投入し、室温下20分間超音波照射機内で超音波を照射した。抽出液は遠心分離後上清を分析用の試料溶液とした。各試料溶液は常法に従い辛味成分濃度をHPLCで測定した。尚、抽出液量は全て18倍量として計算を行った。結果を図1に示す。測定対象の辛味成分としては6−ギンゲロール(6−G)、6−ショーガオール(6−S)を選択した。
【0013】
図1のグラフを参照すると、シクロデキストリンを抽出溶媒に添加して抽出を行った場合には、添加しない場合と比べ、全く異なる溶出挙動を示すことが分かった。即ち、
1. アルコール濃度が20v/v%以下の領域では水が辛味成分の移行率が最も高く、アルコール濃度が上昇するにつれ辛味成分移行率はむしろ下降する。
2. 20v/v%を超える領域ではアルコール濃度の上昇に対しほぼ同じ傾きで移行率が上昇する。
辛味成分をより多く含むエキスが求められるなら、40v/v%エタノールを選択すればよく、アルコールを使用することなく低コストのエキスで辛味成分もある程度必要であれば、水を選択すればよいことが分かった。
【0014】
〔実施例2〕
マルトースを付加した分枝状シクロデキストリン(分枝状シクロデキストリン含有比率20質量%、α:β:γ=6:3:1質量比、商品名 イソエリート40L 日研化成株式会社)を乾姜質量の6.25,12.5,50,100質量%とり、乾姜質量の10倍容量の40v/v%エタノールになるようにそれぞれ溶媒を調製した。この抽出溶媒に乾姜を投入し、室温下20分間超音波照射機内で超音波を照射した。抽出液は遠心分離後上清を分析用の試料溶液とした。各試料溶液は常法に従い辛味成分濃度をHPLCで測定した。尚、抽出液量は全て6.2倍量として計算を行った。結果を図2に示す。測定対象は実施例1と同じく6−ギンゲロール(6−G)、6−ショーガオール(6−S)を選択した。
【0015】
図2のグラフより、辛味成分移行率が最も上がるシクロデキストリン添加量は乾姜質量に対し凡そ30質量%であることが分かった。
【0016】
〔実施例3〕
マルトースを付加した分枝状シクロデキストリン(分枝状シクロデキストリン含有比率20質量%、α:β:γ=6:3:1質量比、商品名 イソエリート40L 日研化成株式会社)を乾姜質量の6.25,12.5,50,100質量%とり、乾姜質量の10倍容量の水になるようにそれぞれ溶媒を調製した。この抽出溶媒に乾姜を投入し、室温下20分間超音波照射機内で超音波を照射した。得られた抽出液は遠心分離後上清を分析用の試料溶液とした。各試料溶液は常法に従い辛味成分濃度をHPLCで測定した。尚、抽出液量は全て6.2倍量として計算を行った。結果を図3に示す。測定対象は実施例1と同じく6−ギンゲロール(6−G)、6−ショーガオール(6−S)を選択した。
【0017】
図3のグラフを参照すると、水抽出時は、シクロデキストリンをより多く添加するほど辛味成分の移行率が上がることが分かった。
【0018】
〔実施例4〕
マルトースを付加した分枝状シクロデキストリン(分枝状シクロデキストリン含有比率20質量%、α:β:γ=6:3:1質量比、商品名 イソエリート40L 日研化成株式会社)を乾姜質量の30質量%とり、乾姜質量の10倍容量の30v/v%エタノールになるように調製した。この抽出溶媒に乾姜を投入し、40℃まで昇温後、1時間抽出した。得られた抽出液は常法に従い濃縮して水分約40質量%のエキスAとした。
これに対し、乾姜に10倍容量の30v/v%エタノールを加えて40℃まで昇温後、1時間抽出した。得られた抽出液は常法に従い濃縮して水分約40質量%のエキスBとした。
得られたエキスA,Bの性状、風味及び水への溶解性(1→100)を評価した。辛味成分は常法に従いHPLCで定量を行った。両エキスの安定性を比較する目的で、40℃で1ヶ月経過した試料について製造時点を100%として残存率%の評価を行った。結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
表2より、抽出時に水溶性のシクロデキストリンを加えることで、エキス性状が良く、水溶性に優れ、辛味成分の安定性が高いエキスができることが分かった。また、このエキスは風味に優れていた。
【0021】
〔実施例5〕
マルトースを付加した分枝状シクロデキストリン(分枝状シクロデキストリン含有比率20質量%、α:β:γ=6:3:1質量比、商品名 イソエリート40L 日研化成株式会社)を乾姜質量の30質量%とり、乾姜質量の10倍容量の30v/v%エタノールになるように調製した。この抽出溶媒に乾姜を投入し、40℃まで昇温後、1時間抽出した。抽出液は常法に従い濃縮して水分約40%のエキスCとした。
これに対し、直鎖状のデキストリンを乾姜質量の30質量%とり、乾姜質量の10倍容量の30v/v%エタノールになるように調製した。この抽出溶媒に乾姜を投入し、40℃まで昇温後、1時間抽出した。抽出液は常法に従い濃縮して水分約40%のエキスDとした。
得られたエキスC,Dの性状、風味及び水への溶解性(1→100)を評価した。辛味成分は常法に従いHPLCで定量を行った。両エキスの安定性を比較する目的で、両エキスをそれぞれ凍結乾燥した試料を、60℃で1週間経過したものについて製造時点を100%として残存率%の評価を行った。結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
表3より、直鎖状のデキストリンでは、水溶性と辛味成分の安定性の改善に寄与しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の、水溶性のシクロデキストリンの一種または二種以上を添加した水性溶媒によって乾姜を抽出し濃縮して製したエキスは、性状が良く、水に対する溶解性に優れることから、固形剤はもとより飲料へ配合しやすくなった利点がある。更には、成分の安定性に優れることから、製品の品質保持期限を長く取ることができるため、製造者・消費者双方にとってメリットが大きい。また、風味に優れることから、服用しやすい製剤化が可能になる。また、従前の30%エタノール抽出と比べて、アルコールを使用せず水による抽出で辛味成分を同程度移行させることが出来る。以上のことから、本発明の抽出物並びに製造方法は、従前の乾姜の抽出方法(単に含水アルコールで抽出する方法)に代わるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性のシクロデキストリンの一種または二種以上を添加した水性溶媒によって乾姜を抽出し濃縮して製したことを特徴とする乾姜エキス。
【請求項2】
水溶性のシクロデキストリンの一種または二種以上を添加した水性溶媒によって乾姜を抽出し濃縮することを特徴とする乾姜エキスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−50298(P2011−50298A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201518(P2009−201518)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000187471)松浦薬業株式会社 (7)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】