説明

乾式タンディッシュコーティング材とその施工方法

【課題】タンディッシュに施される従来の乾式コーティングにおける強度不足と結合剤の添加量の増大によるカーボンピックアップの問題、とくに、短時間の乾燥によって施工体強度を向上し、タンディッシュの稼働率の向上を図る。
【解決手段】耐火性原料と珪酸塩および/またはフェノール樹脂を含むと共に、融点50〜120℃の有機質硬化付与剤を、耐火性原料100質量部に対し0.05〜5質量部添加した乾式コーティング材であって、タンディッシュに中子を入れ、内張り耐火物と中子との間に設けた隙間に、コーティング材を充填し、次いで中子を介してコーティング材を加熱硬化させてコーティングを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温硬化性の乾式タンディッシュコーティング材とその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、タンディッシュは溶鋼の分配・温度均一・脱酸生成物浮上等を行う役割をもつ。タンディッシュの内張り耐火物には通常、溶鋼汚染防止と内張り耐火物保護のために、マグネシア、ドロマイト等の塩基性質耐火原料を主材とした薄肉の耐火性コーティング材が被覆される。その施工は水を添加し、吹き付けまたはコテ塗りによって行われる。
【0003】
コーティング材は施工後、使用前に加熱乾燥される。しかし、コーティング材に添加された水は乾燥によっても完全には抜けきれず、水が原因した水素ピックアップによる鋼製品の品質低下を招いている。
【0004】
また、コーティング材は、損耗等によって残厚が少なくなると解体して新規に施工されるが、内張り耐火物への焼き付きによって解体に相当な手間と時間を要し、タンディッシュの稼働率を低下させている。
【0005】
そこで近年、乾式によるコーティング材施工法が提案されている(特許文献1、2)。この方法は、内張り耐火物を配したタンディッシュ内に中子を設け、内張り耐火物と中子との間に耐火性原料および結合剤よりなる水添加をしない乾粉状のコーティング材を投入し、充填後、中子の内側からガスバーナー等で加熱してコーティング材を硬化させるものである。この乾式法は、吹き付けあるいはコテ塗りと違ってコーティング材に水を添加しないことにより、前記の水素ピックアップや焼き付きの問題が解消される。
【特許文献1】特許第3342427号公報
【特許文献2】特許第2567770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、前記の乾式法に使用されるコーティング材は、加熱乾燥で硬化を図るために結合剤として熱可塑性樹脂が使用されている。しかし、その際の加熱が中子を介したうちがわからであること、さらにはコーティング材自身が断熱性を備えていることで、施工体のうち特に背面部は十分な加熱を受け難い。また、タンディッシュの稼動率の関係から、加熱昇温時間を十分に取れないのが実状である。
【0007】
これらが原因し、コーティング材は施工以後の加熱乾燥において十分な加熱を受けることができず、施工体強度が不足する。コーティング材の施工体は内張り耐火物と違って施工厚みが一般に30〜100mm程度と薄く、施工体強度が不足すると、タンディッシュ移送の際に受ける衝撃等によって倒壊が生じ易い。
【0008】
この乾式法のコーティング材に使用される結合剤としては、フェノール樹脂あるいは珪酸塩の水和物が知られている。結合剤の添加量を増せば、施工体は比較的低温での乾燥であっても十分な強度が得られる。しかし、フェノール樹脂においては、その量が多くなると樹脂炭化による残留炭素成分が増し、カーボンピックアップによる溶鋼汚染の問題が生じ、タンディッシュコーティング材がもつ溶鋼汚染防止の効果が損なわれる。
【0009】
結合剤に珪酸塩の水和物を使用した場合は、加熱乾燥時に珪酸塩からの水分の溶出によってコーティング材組織が湿潤状態となり、結合剤の拡散が促進され、施工体の硬化発現に効果的である。しかし、加熱乾燥が不十分となりやすい背面部は水分が結晶水として残留し、加熱乾燥時にボイリングを生じ、コーティング材の一部がタンデッシュ内張り層の表面から剥離する現象が見られる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、乾式タンディッシュコーティング材とその施工方法において、上記従来の課題を解決したものである。その特徴とするところは、耐火性原料と結合剤としての珪酸塩および/またはフェノール樹脂を含むと共に、融点50〜120℃の有機質硬化付与剤を、前記耐火性原料100質量部に対し0.05〜5質量部添加してなる乾式タンディッシュコーティング材である。また、タンディッシュに中子を入れ、内張り耐火物と中子との間に設けた隙間に、前記の乾式タンディッシュコーティング材を充填し、次いで中子を介してコーティング材を加熱硬化させる乾式タンディッシュコーティング材の施工方法である。
【0011】
本発明において使用する珪酸塩およびフェノール樹脂は、結合剤としての役割をもち、中子脱枠後の施工体の強度を付与する。珪酸塩はこれに加えて、施工体使用時の高温下における強度付与の効果を持つ。
【0012】
本発明はこれらの結合剤に、融点50〜120℃の有機質硬化付与剤を組み合わせ、その相溶作用によって結合剤の軟化点が低下し、比較的低温での加熱乾燥をもって十分な施工体強度を得ることができる。また、同様の効果によって、結合剤にフェノール樹脂を使用した場合でも、その添加量を増やすことなく十分な施工体強度が得られることから、カーボンピックアップの問題も回避することができる。
【0013】
有機質硬化付与剤による結合剤との相溶化は、コーティング材組織に対する結合剤の拡散を促進させる。また、有機質硬化付与剤が融点50〜120℃であることで、加熱乾燥あるいは予熱の際に有機質硬化付与剤が速やかに揮発し、コーティング材施工体に均一に微細気孔を形成する。その結果、珪酸塩の水和物を使した場合、加熱乾燥時にこの水和物から発生する水蒸気が前記微細気孔から施工体外で容易に逸散し、ボイリング現象を生じることもない。
【0014】
一方、結合剤にフェノール樹脂を使用した場合は、有機質硬化付与剤による前記した微細気孔の形成で、フェノール樹脂の揮発成分の揮発が促進され、コーティング材の硬化促進が図られ、早期の強度付与によって施工体の倒壊防止効果がより一層向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の乾式タンディッシュコーティング材は、以上のように、比較的低温での加熱乾燥においても施工体に十分な乾燥強度を付与することができる。結合剤を多量に添加する必要もなく、カーボンピックアップの問題もない。また、珪酸塩の水和物を結合剤とした場合におけるボイリングを生じることもない。
【0016】
タンディッシュコーティング材の剥離、倒壊は、コーティング材が内張り耐火物と違って施工厚みがごく薄いこと、さらには施工の際に水を添加しないことで焼付きが無い乾式施工であることで顕著に生じる問題である。カーボンピックアップの防止もタンディッシュコーティング材の使用目的からしてきわめて重要な課題である。本発明はこの乾式タンディッシュコーティング材おける特有かつ重要な問題および課題の解決を図ったものであり、その産業上の利用性はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本件発明に用いる耐火性原料は従来材質と特に変わりなく、例えばマグネシア、マグネサイト、ドロマイト、カルシア、アルミナ、シリカ及びその組み合わせとする。中でも鋼清浄の面から、マグネシア、マグネサイト、ドロマイト、カルシアの塩基性原料を主体に使用することが好ましい。また、前記塩基性材質を主体とする耐火物リサイクル品としてもよい。粒度は例えば最大1〜3mmとし、粗粒、中粒、微粒に適宜調整する。
【0018】
結合剤は珪酸塩および/またはフェノール樹脂とし、これら結合剤の使用量は、耐火性原料100質量部に対して1〜10質量部が最適である。1質量部未満では硬化性に劣る傾向にある。10質量部を超えるとフェノール樹脂の場合は残留炭素成分によって溶鋼へのカーボンピックアップが懸念され好ましくない。また、珪酸塩が水和物の場合は、多過ぎると耐食性の低下に加え、結晶水が原因したコーティング材の経時変化を起こしやすい。珪酸塩は、粉末状の珪酸塩またはその水和物とする。その具体例としては、NaSiO、NaSiO・4HO、NaSiO・5HO、NaSiO・6HO、NaSiO・9HO、から選ばれる1種以上である。
【0019】
珪酸塩の水和物は前記したように結晶水が原因した経時変化の問題がある。そこで、珪酸塩の水和物を使用する場合は、その添加量は少ないことが好ましい。本発明においては特定の有機質硬化付与剤を組み合わせたことで、この珪酸塩の水和物の添加量を従来材質に比べて少なくしても十分な施工体強度を得ることができる。
【0020】
フェノール樹脂は、熱可塑性または熱硬化性の粉末状あるいはフレーク状とする。有機質硬化付与剤と相溶性の面から、融点120℃以下の熱硬化性フェノール樹脂が好ましい。
【0021】
有機質硬化付与剤は、融点50〜120℃のものとする。融点が50℃未満では、コーティング材が保管時に耐火性原料と反応して固化し、施工困難となる。融点が120℃を超えるものでは、乾式施工における短時間乾燥において施工体の背面部が十分硬化せず、施工体倒壊が懸念され、本発明の効果が得られない。
【0022】
この本発明で使用する有機質硬化付与剤の具体例は、ラクタム類、アセトアニリド類、アルキルフェノール類等から選ばれる一種以上である。さらに具体的には、ラクタム類であればε−カプロラクタム、アセトアニリド類であればアセトアニリドおよび/またはアセト酢酸アニリド、アルキルフェノール類であればp−t−ブチルフェノールおよび/またはp−オクチルフェノールなどが挙げられる。さらにアセトアニリドおよびアセト酢酸アニリドにおいては、そのメチル・ジメチル誘導体類、メトキシ・エトキシ誘導体類、カルボン酸誘導体類、アセチルアミノ誘導体類、スルファミン酸誘導体類とその塩、クロロ誘導体類なども含まれる。
【0023】
以上の有機質硬化付与剤のうち、特にアセトアニリドもしくはアセト酢酸アニリドのアセトアニリド類が好ましい。アセトアニリド類は他の有機質硬化付与剤と違って非潮解性で且つ無臭である。潮解性の場合は、その水分でコーティング材保管時に耐火性微粉と反応してコーティング材が経時変化しやすい。
【0024】
また、有機質硬化付与剤の残炭性は、乾燥性向上に効果をもつ微細気孔の形成の弊害となりやすい。アセトアニリド類は残炭性の無く、残炭性のアルキルフェノール類に比べてコーティング材の加熱乾燥性に優れている。
【0025】
有機質硬化付与剤の使用量は、耐火性原料粉末100質量部に対して外掛け0.05〜5質量部とする。0.05質量部未満では硬化性が不十分であり、また、乾燥性にも劣る。逆に5質量部超えると施工体が多孔質となり耐食性が低下する。さらに好ましい範囲は0.1〜3質量部とする。
【0026】
本発明のコーティング材組成には、必要によっては他に、有機短繊維、有機湿潤剤等を添加してもよい。例えば有機短繊維を耐火性原料100質量部に対して0.5質量部以下添加することによって施工体の熱膨張応力を緩和させることができる。
【0027】
有機湿潤剤は発塵防止の効果をもつ。具体例としては石炭・石油系オイル、植物オイル、動物オイル等である。その添加量は、耐火性原料粉末100質量部に対する外掛けで0.05〜0.5質量部が好ましい。
【0028】
コーティング材の施工は、耐火物が新規に内張りされたタンディッシュ、あるいは使用後のタンディッシュに対して行う。使用後のタンディッシュに対しては残留コーティング材を除去した後、施工する。
【0029】
中子を入れ、内張り耐火物と中子との間の隙間に前記した乾粉状のコーティング材を投入充填する。充填の際には従来方法と同様に、中子に取り付けた振動機で振動を付与し、コーティング材の充填率を向上させるのが好ましい。コーティング材の厚さは20〜60mmが好ましい。次に、中子の内側からガスバーナー等で加熱し、硬化させた後、中子を取り外す。
【実施例】
【0030】
以下に本発明実施例とその比較例を示す。各例は表1に示す組成のコーティング材をもって各種の試験を行った。試験方法は以下のとおりである。
【0031】
耐火性原料の主材は、マグネシアおよびドロマイトとした。粒度はJISふるい目開きで2.8〜1mm:30質量%、1mm以下:40質量%、75μm以下:30質量%とした。
【0032】
硬化試験は、乾式コーティング材組成を乾粉状態で40×40×160mmの金枠に投入し、一定の振動をかけて充填した後、110℃、150℃、200℃の各温度雰囲気中にて3時間加熱し、その硬化状態を成形体試片の強度で判定した。◎…強度大、○…強度やや小、△…強度小。
【0033】
見掛気孔率・圧縮強さ試験は、前記の硬化試験と同様に金枠内に充填後、110℃で加熱後の成形体試片と、さらにこれを1500℃で加熱した成形体試片について、それぞれJIS:R2205およびJIS:R2206に準じて見掛気孔率・圧縮強さを測定した。
【0034】
実機試験はアルミナ質れんがで内張りした30tタンディッシュに対し、中子を入れ、中子に取り付けた振動機をもって振動を付与しつつコーティング材を投入し、充填させた。コーティング材の厚さは約50mmとした。加熱乾燥は中子内面部からのガスバーナーによる加熱で行った。
【0035】
表1の試験結果が示すように、本発明実施例によるコーティング材は、いずれも110℃の低温域での加熱乾燥で十分な強度と緻密性を備えている。このことは、見掛気孔率および圧縮強さの測定からも確認できる。その結果、十分な昇温、長時間乾燥を待たずに施工体強度が得られ、乾式タンディッシュコーティング材に求められる短時間での加熱乾燥が可能となる。ついで、中子とコーティング材層との間、コーティング材層と内張りれんがとの間のそれぞれに熱電対温度計を配置し、温度を測定した。コーティング材層と内張りれんが間の温度が110℃に達した時点で加熱を中止し、コーティング材層の一部を切り出し、目視観察と圧縮強さの測定によって硬化状況の良否を判定した。
【0036】
この実施例の中でも有機質硬化付与剤にアセト酢酸アニリドを使用したものでは、他の実施例に比べて圧縮強さが一層大きい。これは、他と違ってアセト酢酸アニリドが非潮解性のために、コーティング材が施工前に経時変化により固化がまったく進行せず、内張り耐火物と中子との間への充填率が高いことによる。
【0037】
硬化付与剤を添加しない比較例1〜4は、硬化試験および加熱試験において、110℃はもとより150℃での加熱においても十分な強度が得られていない。比較例5では、有機質硬化付与剤の添加量が本発明で限定した範囲より多いため、低温域での乾燥において成形体の見掛気孔率が大きく、耐食性に劣る材質である。
【0038】
比較例6は、融点が本発明で限定した範囲より高いo−クロロ安息香酸を有機質硬化付与剤としたものである。熱可塑性フェノール樹脂との相溶温度が高くなり、110℃の低温域での施工体強度が得られにくい。
【0039】
比較例7は、融点が本発明で限定した範囲より低い2,6−di−tert−ブチルフェノールを有機質硬化付与剤としたものである。コーティング材が保管時に耐火性原料と反応して固化し、施工が容易でないため成形体試片が得られず、試験を行なわなかった。
【0040】
実機試験は実施例1、2、10および比較例1、3について行った。実施例のものはいずれも十分な施工体強度を示し、タンディッシュ移送の際に受ける衝撃等によって施工体が倒壊する等の懸念もない。また、表には示していないが、加熱乾燥時において剥離の問題も無い。
【0041】
比較例1は実施例に比べて施工体強度が大幅に劣る。比較例1の材質も高温で且つ長時間での加熱乾燥を行えば施工体強度が向上するが、本発明が目的とする短時間乾燥ができず、タンディッシュ稼働率向上の効果が得られない。結合剤にメタ珪酸ナトリウム9水和物を使用したものであり、加熱乾燥後にもメタ珪酸ナトリウム9水和物の結晶水が残留していたことにより、表には示していないがタンディシュ受湯時にボイリング現象が生じ、施工体は一部において剥離損傷が生じた。
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性原料と結合剤としての珪酸塩および/またはフェノール樹脂を含むと共に、融点50〜120℃の有機質硬化付与剤を、前記耐火性原料100質量部に対し0.05〜5質量部添加してなる乾式タンディッシュコーティング材。
【請求項2】
有機質硬化付与剤が、アセトアニリド類である請求項1記載の乾式タンディッシュコーティング材。
【請求項3】
タンディッシュに中子を入れ、内張り耐火物と中子との間に設けた隙間に、請求項1または2記載の乾式タンディッシュコーティング材を充填し、次いで中子を介して前記乾式タンディッシュコーティング材を加熱硬化させる乾式タンディッシュコーティング材の施工方法。

【公開番号】特開2006−7317(P2006−7317A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118680(P2005−118680)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】