説明

乾癬予防治療剤

【課題】新たな乾癬予防治療剤の提供。
【解決手段】ピタバスタチン又はその塩を有効成分とする乾癬予防治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾癬予防治療剤及びクローディン−7遺伝子発現抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
乾癬は、皮膚が赤く盛りあがり、その上に乾燥した白い垢が厚く付着し、それがぽろぽろとはがれ落ちる症状を呈し、痒みを伴なう皮膚疾患である。好発部位としては、肘、膝、腰などであるが、それ以外にも頭、脇の下、陰部、下肢などにも見受けられる。また、皮膚炎以外にも、爪の変形や関節の痛みなどの症状が現れることもある。根本的な原因は未だ解明されておらず、素因のある人に、ストレス、感染症などの種々因子が加わって発症すると考えられている。
乾癬の治療法としては、ステロイド外用薬、ビタミンD3外用薬、紫外線療法の他、重症の患者にはビタミンAの誘導体であるエトレチナートや免疫抑制剤であるシクロスポリンの投与が行なわれているが、どれも治療効果と副作用の両面を満足するものではない。また、特許文献1には、HMG−CoAレダクターゼ阻害剤であるロバスタチンが種々の皮膚疾患治療に有用であることが記載されているが、実際にはアクネに対する改善効果が確認されているに過ぎない。
【0003】
通常、乾癬の診断は、特徴的な発疹とその分布、経過より行うが、アトピー性皮膚炎、白癬、サルコイドーシス、表皮内癌等の炎症を伴なう皮膚疾患と症状が類似しているため、診断が困難な場合も多く、他の皮膚疾患と診断された場合には、治療法も誤ることになり、症状が悪化してしまうこともある。特に頭部、爪、関節などの乾癬は専門医でも診断が難しい時がある(非特許文献1、2、3)。
また、前記のように乾癬の原因は不明であることから、その治療剤の開発も困難である

【0004】
一方、上皮あるいは内皮細胞における細胞間接着部位であるタイトジャンクションには、タイトジャンクション構成タンパクが存在しており、これらタンパクの一般的な機能としては、隣接する細胞を面と面で接着させることによって細胞間隙輸送をコントロールすることなどが知られている。タイトジャンクション構成タンパクとしては、例えば、クローディン(claudin)−1、クローディン−3、クローディン−4、クローディン−5、クローディン−6、クローディン−7、クローディン−11、クローディン−12、クローディン−18、オクルディン(occludin)、JAM−A、ZO−1、ZO−2、チングリン(cingulin)、MUPP−1、シンプレキン(symplekin)、aPKC、Par3、Par6などが確認されているが(非特許文献2)、それらの発現箇所はタイトジャンクション構成タンパクの種類によって大きく異なる。
また、様々な皮膚疾患においてタイトジャンクション構成タンパクの発現量が変化することも知られており、例えば、尋常性魚鱗癬、扁平紅色苔癬においてはオクルディン、クローディン−4、ZO−1の発現が亢進していること、尋常性乾癬においてはクローディン−1の発現が抑制されていることが報告されている(非特許文献4、5)。
さらに、タイトジャンクション構成タンパクの1種であるクローディン−7については、食道癌由来細胞においてノックダウンするとE−カドヘリン(E−cadherin)の減少と細胞増殖が導かれること(非特許文献6)、正常肺上皮細胞と比べて肺ガン細胞においてクローディン−7遺伝子の発現が増加していることから、クローディン−7が肺ガンの診断マーカーになりうること(特許文献2)などの報告もあるが、皮膚における役割及び疾患に伴った発現変化などに関する報告についてはほとんどない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平10−505838号公報
【特許文献2】US2003/01489939
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JIM 18巻6号.462−465、2008
【非特許文献2】病理と臨床 23(7)、723−729、2005
【非特許文献3】Vis Dermatol. 4(6)、596−597、2005
【非特許文献4】Eur J Pharm Biopharm.72(2)2009,289−94
【非特許文献5】Skin Pharmacol Physiol.19(2)2006,71−7
【非特許文献6】Am J Pathol.170(2)2007,709−21.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、新たな乾癬の予防治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、乾癬を生じている皮膚試料における種々のタンパク質の発現量を測定してきたところ、上記のクローディン−7が乾癬皮膚の表皮上層で強く発現しており、正常皮膚ではほとんど発現しないこと、及び当該クローディン−7の皮膚における発現を指標とすれば乾癬の正確な診断及び乾癬予防治療剤のスクリーニングができることを見出した。そして、当該クローディン−7の皮膚における発現の抑制を指標として種々の化合物をスクリーニングしてきたところ、HMG−CoAレダクターゼ阻害剤であるピタバスタチン又はその塩がインビトロ及びインビボで強力な皮膚クローディン−7発現抑制作用を示し、乾癬予防治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ピタバスタチン又はその塩を有効成分とする乾癬予防治療剤を提供するものである。
また、本発明は、ピタバスタチン又はその塩を有効成分とするクローディン−7遺伝子発現抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の医薬を用いれば、皮膚のクローディン−7遺伝子の発現が顕著に抑制され、優れた乾癬の予防治療効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】同一人での乾癬病変部と非病変部(健常部)におけるクローディン−7の発現を示す図である。
【図2】図1の乾癬病変部の拡大図である。
【図3】アトピー性皮膚炎病変部におけるクローディン−7の発現を示す図である。
【図4】ヒト表皮細胞におけるクローディン−7遺伝子発現におよぼすピタバスタチンの影響を示す図である。
【図5】マウス皮膚におけるクローディン−7遺伝子発現におよぼすピタバスタチンの影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の乾癬予防治療剤及びクローディン−7遺伝子発現抑制剤の有効成分はピタバスタチン又はその塩である。ピタバスタチン又はその塩は、例えば米国特許第5856336号、日本国特許第2569746号等に記載されている、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)−3−キノリル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸又はその塩であり、強力なHMG−CoAレダクターゼ阻害作用を有し、コレステロール低下剤として知られている。しかし、当該ピタバスタチン又はその塩が、乾癬及びクローディン−7に対してどのような作用を示すかについては全く知られていない。ピタバスタチンの塩としては、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられるが、このうちカルシウム塩が特に好ましい。
【0013】
後記参考例に示すように、クローディン−7遺伝子の発現は皮膚の乾癬の病変部で特異的に高くなっており、クローディン−7遺伝子の発現量を測定すれば乾癬が正確に診断できることが判明した。また、後記試験例に示すように、ピタバスタチン又はその塩は、皮膚中のクローディン−7遺伝子発現量を顕著に抑制する作用を有する。従って、ピタバスタチン又はその塩を投与すれば、乾癬が予防治療できることは明らかである。
【0014】
また本発明の乾癬予防治療剤及びクローディン−7遺伝子発現抑制剤は、必要に応じて従来から乾癬の治療に用いられている薬剤、例えば、副腎皮質ステロイド、ビタミンD3、エトレチナート、シクロスポリン、メトトレキサート、TNFα阻害薬などを配合または併用することもできる。
【0015】
本発明におけるピタバスタチン又はその塩の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与及び静脈内注射剤、筋肉注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤等による非経口投与が挙げられる。
またこのような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、この有効成分を単独で、又は他の1種以上の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌昧剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0016】
本発明は上記の投与形態のうち、経口投与及び経皮吸収剤が好ましい。経口投与用製剤の調製にあたっては、有効成分の安定性を考慮してpHを調整(特開平2−6406号、日本国特許第2,774,037号、WO97/23200号等)するのが好ましい。経皮吸収剤の形態としては、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、貼付剤等が好ましい。
【0017】
これらの医薬の投与量は、患者の体重、年齢、性別及び症状によって異なるが、通常成人の場合、経口投与では、ピタバスタチンとして、一日0.01〜100mg、さらに0.1〜50mg、特に1〜30mgを、1回又は数回に分けて投与するのが好ましい。また非経口投与では、製剤中のピタバスタチン又はその塩の含有量を、0.001〜20質量%、さらに0.01〜10質量%、特に0.1〜5質量%とするのが好ましい。
【実施例】
【0018】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0019】
参考例1
(1)皮膚組織の入手
疾患関連皮膚組織は包括同意が得られている皮膚生検あるいは手術切除における余剰組織を用いた。正常皮膚組織は包括同意の得られたボランティアから採取されたものを用いた。
【0020】
(2)クローディン−7発現の測定方法
4%中性ホルマリンで固定されパラフィンに包埋された皮膚組織を、ミクロトームを用いて3μmにて薄切にした。スライドグラス上でキシレン及びアルコールを用いて脱パラフィン処理をしたのち、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて5分づつ3回洗浄した。次に内因性ペルオキシダーゼのブロッキング処理(3%H22)を行い、再度PBSにて5分づつ3回の洗浄を行った。引き続き、Protein block serum−free solution(DAKO,USA)にてブロッキングを行い、抗クローディン−7抗体(Abcam,USA)で1時間反応させた。PBSで3回洗浄したのち、Chem mate ENVISION kit(DAKO,USA)を用いてジアミノベンジジン(DAB)による発色を行い、クローディン−7を可視化した。
【0021】
(3)結果
図1及び2に示すように、同一人において乾癬の病変部では表皮上層にクローディン−7の高発現が認められたが、非病変部ではほとんど発現が認められなかった。
一方、図3に示すように、同じ皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎の病変部ではクローディン−7の発現は認められなかった。
従って、皮膚のクローディン−7の発現量を指標にすれば、乾癬の診断及び乾癬治療剤のスクリーニングが可能である。
【0022】
試験例1:成人ヒト表皮角化細胞におけるクローディン−7遺伝子発現におよぼすピタバスタチンの影響
(1)細胞培養及びRNA抽出
細胞は成人ヒト表皮角化細胞を使用した。細胞(1.0×106個)を10cmφディッシュに播種し、10mLのEpilife培地にて3日間培養した後、ピタバスタチン溶液を培養液に最終濃度0.1μMとなるよう添加し、6時間培養した。また、mock処理として溶媒であるDMSOのみを同量添加し、培養した(培養条件:5% CO2、37℃)。このとき、ピタバスタチン処理した細胞とmock処理した細胞が同一継代数となるようにした(各n=2で実施)。培養終了後、細胞を回収しSV total RNA isolation System(promega)を用いてtotal RNAを抽出した。
【0023】
(2)成人ヒト表皮角化細胞由来RNAの逆転写及びReal−Time PCR
ピタバスタチン処理した細胞とmock処理した細胞のクローディン−7遺伝子発現量を比較するためにReal−Time PCRによる定量を行った。すなわち、それぞれtotal RNA 800ngを用い、逆転写酵素により1st strandのcDNAを合成した。これを鋳型とし、ヒトクローディン−7に特異的なプライマーを用いてPCR反応(Real−Time PCR)を行った。なお18S rRNAを内部標準とした。その結果を図4に示す。
【0024】
図4から明らかなように、ピタバスタチン処理することによりクローディン−7遺伝子の顕著な抑制効果が認められた。
【0025】
試験例2:マウス皮膚におけるクローディン−7遺伝子発現におよぼすピタバスタチンの影響
(1)マウス皮内投与及び皮膚RNA抽出
ピタバスタチン投与マウス群と生理食塩水投与マウス群(以下、コントロール群)を作成した。各群のマウスとして7週齢のC3H/He雄性マウスを使用し、これらマウスの背部を除毛して、投与部位とした。
翌日、各群において以下の操作を行った。ピタバスタチン投与群のマウスにおいては、ピタバスタチン含有生理食塩水(ピタバスタチン濃度;200μg/mL)を、50μL/個体で除毛した背部に皮内投与した。コントロール群のマウスにおいては、生理食塩水を50μL/個体で除毛した背部に皮内投与した。投与後2時間後にピタバスタチン群及びコントロール群から各3匹ずつ投与部位の皮膚を採取し、直径6mmのポンチで打ち抜いた。打ち抜いた皮膚切片を4℃のRNAlater(Ambion)に一晩浸漬させた。
翌日皮膚片よりRNeasy Fibrous Tissue Mini kit(QIAGEN)を用いて添付のプロトコールに従いtotal RNAを抽出した。
【0026】
(2)マウス皮膚由来RNAの逆転写及びReal−Time PCR
ピタバスタチン投与群及びコントロール群の皮膚中クローディン−7遺伝子発現量を比較するためにReal−Time PCRによる定量を行った。すなわち、それぞれtotal RNA400ngを用い、逆転写酵素により1st strandのcDNAを合成した。これを鋳型とし、マウスクローディン−7に特異的なプライマーを用いてPCR反応(Real−Time PCR)を行った。なお18S rRNAを内部標準とした。その結果を図5に示す。
【0027】
図5から明らかなように、ピタバスタチン処理することによりマウス皮膚中のクローディン−7遺伝子は投与後2時間で顕著な抑制効果を示した。従って、ピタバスタチン又はその塩は、乾癬の予防治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピタバスタチン又はその塩を有効成分とする乾癬予防治療剤。
【請求項2】
ピタバスタチン又はその塩を有効成分とするクローディン−7遺伝子発現抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−87071(P2012−87071A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232751(P2010−232751)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】