説明

乾麺類の製造方法

【課題】喫食時のモチモチ感に優れた乾麺類を提供すること。
【解決手段】生麺類の麺線の表面近傍をα化処理した後、水冷却し、次いで調湿乾燥することを特徴とする乾麺類の製造方法及び当該製造方法にて得られた乾麺類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾麺類の製造方法及び当該製造方法にて得られた乾麺類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乾麺は一般的に、製麺された生麺の麺線を水分含量15%以下に乾燥することによって得られている。乾麺とすることによって保存性は向上するものの、喫食時のモチモチ感が悪くなると云う問題があった。
斯様な乾麺の具体的な製造方法としては、例えば、特許文献1に示されているように、生麺の麺線に水蒸気処理を行い、麺線の断面積のうち表面から5〜20%程度をα化した後、調湿乾燥して溝付き乾麺類が既に知られている。
しかしながら、斯かる製造方法によって得られた乾麺類も、喫食時のモチモチ感について、未だ満足できないと云うのが実状であった(後述の比較例1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−55896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、斯かる従来の問題と実状に鑑み、従来の乾麺類に比し、喫食時のモチモチ感に優れた乾麺類を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、調湿乾燥処理前に生麺類の麺線表面近傍をα化処理した後、水冷却すれば、喫食時のモチモチ感に優れた乾麺類が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、生麺類の麺線の表面近傍をα化処理した後、水冷却し、次いで調湿乾燥することを特徴とする乾麺類の製造方法及び当該製造方法にて得られた乾麺類により、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来の乾麺類に比し、喫食時に優れたモチモチ感を有する乾麺類が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明においては、生麺類の麺線の表面近傍をα化処理する。
【0009】
本発明に用いる生麺類の種類としては、特に限定されないが、生パスタ(生スパゲッティ、生フェットチーネ、生リングイネ等の生ロングパスタ/生マカロニ、生リガトニ等の生ショートパスタ等)、生うどん、生冷麦、生素麺、生蕎麦、生中華麺及び生麺皮等が挙げられる。
当該生麺類の表面から中心までの最短の長さは、0.5〜3.0mm、就中0.7〜2.5mm、特に0.8〜2.2mmとするのが、麺線にもちもちした食感を付与させる点で好ましい。
麺線の断面の形状は、特に限定されないが、例えば、円形状、楕円形状、四角状、管状、星状及びこれらに凹凸が付いた形状等が挙げられる。
【0010】
上記生麺類の麺線の作製方法は、特に限定されないが、例えば、下記の麺用原料及び水を常圧下又は減圧下に混捏して生地を調製した後、圧延又は圧延・複合を行って麺帯を作り、その麺帯を麺線に切り出す方法;当該生地調製後、押出機を用いて麺帯を押出した後に、その麺帯を麺線に切り出す方法;当該生地調製後、押出機を用いて麺線を直接押し出し成型する方法等が挙げられる。
【0011】
麺用原料としては、主成分としての穀粉が挙げられるが、穀粉の種類は特に限定されず、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉(セモリナ、ファリナ)、蕎麦粉、米粉等が挙げられる。麺の種類に応じて、これら穀粉は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。例えば、パスタ類にはデュラム小麦粉、中華麺には準強力粉、うどん、そうめんには中力粉等が主として用いられる。
麺用原料中の穀粉の量は、60〜100質量%とするのが、喫食時の際の穀粉特有の風味を高める点で、好ましい。
【0012】
麺用原料には、上記穀粉の他、食塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、乳酸カルシウム、ポリリン酸カリウム、カンスイ;大豆油、菜種油、バター、マーガリン等の動植物性油脂;グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤;トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉等の生澱粉類やそれらのリン酸架橋等した化工澱粉;食物繊維;卵白等の卵製品;脱脂粉乳やその他の乳製品;小麦粉グルテン等の蛋白強化剤;グアガム、キサンタンガム、カラギーナン等の増粘剤;ショ糖等の糖質;クエン酸、酢酸等の酸味料;ビタミン、ミネラル、アミノ酸等の栄養強化剤;保存剤;酵素剤;pH調整剤;酵母エキス等の成分を用いることができる。これら成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0013】
麺用原料に添加する水の量は、麺用原料100質量部に対して、25〜45質量部、特に30〜40質量部とするのが、良好な食感を得る上で、好ましい。
【0014】
本発明において上記麺線の表面近傍とは、麺線の表面から中心までの最短の長さの10〜30%を云う。
ここに、α化処理された麺線の表面近傍、すなわち麺線のα化処理された部分については、以下のようにして求める。
以下の蛍光顕微鏡観察方法にて、麺線の断面を観察し、このときα化処理された部分は黒色部分として観察され、他方α化処理されていない部分は白色部分として観察される。麺線の表面から中心までの最短の長さ(長さA)と、この長さA上で、表面から蛍光染色部分が消失するまでの長さ(長さa)とを求める。そして、麺線の表面から中心までの最短の長さ(長さA)を100%とし、α化処理された麺線の表面近傍(%)を、(長さa/長さA)×100で算出する。尚、管状のような麺の場合には、麺線方向に沿って切断し、この断面を観察する。
【0015】
<蛍光顕微鏡観察方法>
茹で上げ後の麺線をOTCコンパウンドに包埋後、凍結する。ミクロトームで麺線断面の薄片処理(30μm)を行い、スライドグラスの上で風乾する。タンパク質蛍光染色剤(フクシン)にて染色後、水洗、風乾した後、蛍光顕微鏡にて観察する(BX−51、WUキューブ、オリンパス社製)。その結果、未糊化部分は白色に見え、糊化部分は白色が抜け黒色に見える。
【0016】
上記α化処理としては、生麺類の麺線を水蒸気にて加熱処理、好ましくは蒸煮処理するのが、喫食の際に良好な食感の乾麺類が得られる上で、有利である。
当該水蒸気としては、飽和水蒸気や過熱水蒸気が挙げられるが、この水蒸気の温度は、100〜130℃程度で良い。このときの処理時間は、10〜120秒間、就中10〜60秒間、特に30〜50秒間とするのが、好ましい。
【0017】
次いで、本発明においては、上記麺線の表面近傍をα化処理された麺線(以下、「部分α化麺線」とも云う)を、水冷却する。水冷却後に、麺線の水切りを行うのが、喫食時の食感を良好にする点から、好ましい。
【0018】
ここに、上記水冷却の手段としては、水浸漬及び/又は水シャワー等が挙げられる。当該水浸漬の手段としては、流水又は静水中に麺線を浸漬する方法が挙げられ、また当該水シャワーの手段としては、滝状に流す水の中に又は噴霧する水の中に、麺線を通過させる方法等が挙げられる。このときの水冷却は、速やかに均一に麺線を冷却できるのが望ましい。
【0019】
上記水冷却の水温は、5〜25℃、特に5〜15℃とするのが、喫食時のモチモチ感が良好となるので、好ましい。このときの処理時間は、10〜40秒間、特に20〜30秒間とするのが、冷却効率と麺の吸水抑制の点で好ましい。
【0020】
上記部分α化麺線を水冷却後に、麺線表面を急速に通風乾燥するのが、良好な食感を得ることと乾燥効率向上の点で好ましい。
上記通風乾燥は、水冷却後の麺線の水切りを行った後、乾燥室内入る前に、空気を送風して麺線に直接吹き付けて行うのが好ましい。特に、水冷却後の麺線表面に付着している水分を除去する程度に乾燥する、すなわち部分α化麺線の表面のみを乾燥するように通気乾燥するのが、喫食時の食感を良好にする点と乾燥の効率化の点で、有利である。
【0021】
上記風(気体)の温度は、5〜35℃、特に15〜25℃とするのが、好ましい。このときの麺線に吹き付ける気体の流速は、5〜30m/s、特に10〜20m/sとし、かつこの時間は、10〜30秒間、特に20〜30秒間とするのが、効率的に麺線表面の水を飛ばす点で、好ましい。
【0022】
更に、本発明においては、上記処理された麺線を、調湿乾燥する。
当該調湿乾燥条件としては、30〜90℃の温度かつ60〜85%の湿度の環境下で行う。このときの処理時間は、5〜20時間とするのが好ましい。
【0023】
上述のようにして、喫食時に優れた食感、特にモチモチ感を有する乾麺類が得られる。
当該乾麺類の水分含量は、15質量%以下であり、好ましくは14質量%〜11質量%とする。尚、当該水分含量は、常圧加熱乾燥法(五訂 日本食品標準成分表分析マニュアル)に従って測定する。
当該乾麺類は、喫食の際に、茹で、蒸し、電子レンジ調理等の加熱調理によって、喫食可能な加熱調理麺となり、当該加熱調理麺は、優れた食感、特にモチモチ感を有し、しかも、従来の乾麺の加熱調理麺よりも生麺に近いモチモチ感を有している。
【実施例】
【0024】
次に本発明を更に具体的に説明するために、実施例を掲げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1
デュラム小麦セモリナ100質量部に対して、30質量部の水を加えて、常温(25℃)常圧下で15分間混練して麺生地を作製し、これを押出し成型機にて生スパゲティーを得た。
この生スパゲティーを竿に吊るした状態で、100℃の飽和水蒸気により30秒間蒸煮処理して麺線の表面近傍をα化処理し、部分α化麺線を得た。
次いで、この部分α化麺線を、15℃の水に25秒間浸漬して水冷却し、水切りした。水切り後、この麺線に、風速 15m/sの風(空気:20℃)を20秒間吹き付けて麺線の表面乾燥を行った。
上記の水冷却し、次いで表面乾燥した後の麺線を、70℃かつ相対湿度75%の環境条件下で、11時間調湿乾燥を行い、直径1.7mmの乾物スパゲティーを得た。このときの水分含量は12%であった。
【0026】
尚、部分α化麺線のα化された部分については、部分α化処理後の麺線(円形状)の一部を切断し、麺線の麺線方向に対する横断面を、下記の蛍光顕微鏡観察の方法にて、蛍光顕微鏡観察で観察した。麺線の表面から麺線の中心までの最短の長さ(長さA:0.90mm)と、この長さA上で、麺線の表面から蛍光染色部分が消失するまでの長さ(長さa:0.18mm)を求めた。そして、麺線の表面から中心までの最短の長さは、(長さa/長さA)×100で算出した。この算出結果によると、麺線の表面から中心までの最短の長さの20%がα化されていた。
蛍光顕微鏡観察方法:茹で上げ後のパスタをOTCコンパウンドに包埋後、凍結した。ミクロトームでパスタ断面の薄片処理(30μm)を行い、スライドグラスの上で風乾した。タンパク質蛍光染色剤(フクシン)にて染色後、水洗、風乾した後、蛍光顕微鏡にて観察した(BX−51、WUキューブ、オリンパス社製)。その結果、未糊化部分は白色に見え、糊化部分は白色が抜け黒色に見えた。
【0027】
また、スパゲティーの水分含量は、常圧加熱乾燥法(五訂 日本食品標準成分表分析マニュアル/水分含量測定条件:試料の麺3g、乾燥温度135℃、乾燥時間3時間)にて、測定した。
【0028】
実施例2
麺線の表面近傍をα化処理する際の飽和水蒸気の蒸煮時間を、「30秒」から「60秒」に代えた以外は、上記実施例1と同様にして、乾物スパゲティーを得た。
尚、部分α化麺線のα化された部分は、(a: 0.27mm/A: 0.90mm)×100に基づき算出した結果、麺線の表面から30%がα化されていた。
【0029】
実施例3
麺線の表面近傍をα化処理する際の飽和水蒸気の蒸煮時間を、「30秒」から「10秒」に代えた以外は、上記実施例1と同様にして、乾物スパゲティー(水分含量12%)を得た。
尚、部分α化麺線のα化された部分は、(a: 0.10mm/A: 0.90mm)×100に基づき算出した結果、麺線の表面から10%がα化されていた。
【0030】
比較例1
部分α化麺線を水冷却、次いで表面乾燥を行わなかった以外は、上記実施例1と同様にして、乾物スパゲティー(水分含量12%)を得た。
【0031】
【表1】

【0032】
官能試験
各乾物スパゲティーを歩留まり230%まで茹で上げた後、湯切りして、茹でスパゲティーを得た。
これら各スパゲティーの官能評価を10名のパネラーにより表2に示す評価基準により行い、その結果は、表1に示すとおりであった。
【0033】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生麺類の麺線の表面近傍をα化処理した後、水冷却し、次いで調湿乾燥することを特徴とする乾麺類の製造方法。
【請求項2】
前記麺線の表面近傍が、当該麺線の表面から中心までの最短の長さの10〜30%であることを特徴とする請求項1項記載の乾麺類の製造方法。
【請求項3】
前記α化処理が、飽和水蒸気又は過熱水蒸気による加熱処理であることを特徴とする請求項1又は2項記載の乾麺類の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理の処理時間が、10〜120秒間であることを特徴とする請求項3記載の乾麺類の製造方法。
【請求項5】
前記水冷却が、水浸漬及び/又は水シャワーによる冷却であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1記載の乾麺類の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項記載の乾麺類の製造方法にて得られたものであることを特徴とする乾麺類。