説明

事故電流表示装置

【課題】事故電流がどの経路を流れたかを容易に且つ外部電源を設けずに判断することができる事故電流表示装置を提供する。
【解決手段】変流器16が吸上線4に取付られており、変流器16は吸上線4を流れる電流を検出し、低電流に変換する。計測部11が変流器16で検出された電流を計測し、閾値比較部12がこの計測電流と予め設定された閾値とを比較して、計測電流が閾値を超えた場合に、事故電流と判別して、表示信号を表示部13に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道における交流BTき電回路において発生する事故電流を検出し、表示する事故電流表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道の交流き電区間においては、トロリー線(以下、Tともいう)から線路(以下、Rともいう)に短絡電流が流れると、これは、通常の電車の運行による負荷電流ではないので、事故電流として、その事故電流が流れた事故点(故障点)を特定する必要がある。図3は、従来の電気鉄道の交流BTき電回路を示す模式図である。
【0003】
図3に示すように、トロリー線1と、線路2と、負き電線(以下,NFともいう)3とが併設され、負き電線(NF)3と線路(R)2とは吸上線4を介して接続されている。トロリー線(T)1と、線路(R)2との間には、例えば,2万ボルトという電圧が印加され、電車が運行されるときに、トロリー線1と線路2との間には、電車を介して負荷電流が流れる。そして、線路2と負き電線3との間は、複数本の吸上線4により接続されており、レール2に流れた電流は、吸上線4を介して負き電線3に戻される。また、ブースタートランス(以下、BTともいう)方式の交流き電回路においては、適宜の距離をおいて、トロリー線1と負き電線3との間にBT5が設置されており、このBT5は変電所SSからトロリー線1を介して負荷(電車)に供給した電流を負き電線3を経由して変電所SSに戻し、安定した電力を負荷(電車)に供給している。トロリー線1から負荷(電車)を介してレール2に流れた電流は、吸上線4により負き電線3に吸い上げられる。吸上線4は、BT5により区分された区間毎に、1本ずつ設置されている。また、負き電線3には、NFコンデンサ6が適宜の箇所に直列に接続されている。このNFコンデンサ6には、トロリー線(T)と、線路(R)との間に短絡電流が流れる事故時に、この事故電流で発生する過電圧の保護回路が設けられている。この保護回路には、動作カウンタがあり、事故電流が流れると、カウント値が一つ増加する。現場巡回の際には、このカウント値の変化から、電流経路を推定することができる。
【0004】
一方、特許文献1乃至3には、従来の事故電流検出装置及び事故点標定装置が開示されている。特許文献1には、吸上線が設けられた負き電線の箇所毎に設けられた放電センサにより放電の有無を検出し、トロリ線と負き電線間又はトロリ線とレール間に短絡が発生したことを故障電流検出手段により検出し、変電所のき電電圧及びき電電流に基づいて変電所から短絡点までの線路リアクタンスを算出し、所定の補正を施したリアクタンス値に基づいて、変電所から短絡点までの距離を求める故障点標定装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、交流き電線に流れる電流を検出し、この電流が事故電流か否かを判別し、事故電流の場合に、それを外部に表示する事故電流検出装置が開示されている。そして、事故電流か否かは、瞬時電流を検出した後、所定時間内に負荷電流を検出しない場合に事故電流と判定する。この事故電流検出装置は、ブースタートランスの配置間毎に設置され、この配置間隔を単位区間として事故区間を判別する。
【0006】
特許文献3には、吸上線を流れる電流が設定値を超えたことを、吸上線毎に感知し、少なくとも1つの吸上線を流れる電流が設定値を超えたと感知された場合に、超えたと感知された吸上線が接続された区間で、トロリー線とレールとの短絡故障が発生したと判定する交流BTき電回路故障判定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−157495号公報
【特許文献2】特開2000−201427号公報
【特許文献3】特開2000−147048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図3に示す従来技術においては、交流BTき電回路において、線路リアクタンス補償のため、負き電線(N)3に直列にコンデンサ6(NFコンデンサ)を設備しており、NFコンデンサ6には、事故時短絡電流等で発生する過電圧の保護回路が設けられていて、この動作回数カウンタを利用して、事故電流の経時推定を行う。しかしながら、NFコンデンサ6が設置されていない区間は、このカウンタがないため、事故電流がどの経路を流れたかということがわからなかった。このため、事故点の特定は、故障点標定装置に依存するしか方法がなかった。また、NFコンデンサ6の過負荷定格に対して、事故電流が少ないときは、保護装置が動作せず、故障点標定装置の指示値を狂わせる場合もあるという問題点がある。
【0009】
また、特許文献1に開示された従来技術は、放電センサを設けたり、線路リアクタンスを算出する必要がある等、事故電流の検出のための装置構成が複雑である。更に、特許文献2に開示された従来技術は、事故電流検出装置が、瞬間電流を検出した後、所定時間内に負荷電流を検出しない場合に事故電流と判定するため、事故電流の検出のための装置が複雑である。更に、特許文献3に開示された従来技術は、吸上線電流感知部の他に、フィーダ線電流感知部も設けて、両者を電流が流れるか否かにより、トロリー線と、負き電線又はレールとのいずれで短絡故障が発生したかを検知するので、装置構成が複雑である。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、事故電流がどの経路を流れたかを容易に且つ外部電源を設けずに判断することができる事故電流表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る事故電流表示装置は、
トロリー線と、負き電線と、レールとが並設され、前記トロリー線と前記負き電線との間に接続され、前記トロリー線を介して負荷に供給した電流を前記負き電線を経由して変電所に戻す複数個のブースタートランスが、前記トロリー線及び前記負き電線に沿って適宜の間隔で配置され、前記ブースタートランスにより区分けされた区間毎に1本の吸上線が、前記レールと前記負き電線との間に接続された交流BTき電回路における事故電流表示装置において、
前記各吸上線に設けられ、前記吸上線を通流する電流を低電流に変換して検出する変流器と、
前記変流器からの出力電流を計測する計測部と、
前記計測部にて計測された電流計測値が所定の閾値を超えた場合に表示信号を出力する比較部と、
前記比較部からの表示信号を入力したときに表示する表示部と、
を有することを特徴とする。
【0012】
この事故電流表示装置において、前記変流器は、1個のCT箱にまとめて収容され、前記計測部、前記比較部及び前記表示部は、1個の表示器にまとめて収納され、前記CT箱と前記表示器とは別体で設けられていることが好ましい。また、前記計測部の感度を調整するタップを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、既存の吸上線に、計器用変流器を取り付け、この変流器により低電流に変換された電流を計測部により計測し、この計測電流が所定の閾値を超えたときに、比較部は表示信号を表示部に出力して、表示させるので、事故電流がどの経路を流れたかを、事故電流のエネルギで外部電源を必要とせずに表示することができる。吸上線を流れる電流の計測結果が前記閾値より低い場合は、事故電流ではなく電車を運行するための負荷電流であると判断し、吸上線を流れる電流の計測結果が前記閾値より高い場合に、事故電流と判断するので、事故電流を容易に、且つ格別の設備変更なく、検出して表示することができる。
【0014】
また、前記変流器を収容するCT箱と、前記計測部、前記比較部及び前記計測部を収容する表示器とを、別体とした場合は、表示器を視認しやすい位置に設置すると共に、CT箱の吸上線への設置位置を、取り付けやすい位置にすることができる。
【0015】
更に、電車の相違により負荷電流が相違するので、前記計測部の感度をタップにより調整可能とすることにより、電車の相違によらず、負荷電流か事故電流かの見極めを適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る事故電流表示装置が取り付けられた交流BTき電回路を示す図である。
【図2】変流器等を示す図である。
【図3】従来の交流BTき電回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係る事故電流表示装置が設置された交流BTき電回路を示す回路図である。トロリー線(T)1と、レール(R)2と、負き電線(NF)3とが並設されている。電車電力は、トロリー線1から給電され、電車の走行に供された負荷電流はレール2に流れる。また、レール2と負き電線3との間には吸上線4が接続されており、レール2に流れた負荷電流は、吸上線4を介して負き電線3に流れる。この負き電線3とトロリー線1との間には、ブースタートランス(BT)5が接続されており、ブースタートランス5は変電所SSからトロリー線1を介して負荷(電車)に供給した電流を負き電線3を経由して変電所SS)に戻す役割をもっている。これにより、トロリー線1に安定した電力を供給している。
【0018】
ブースタートランス5は、トロリー線1に沿って複数箇所に設けられており、このブースタートランス5により区分けされた区間毎に、吸上線4が1本設けられている。そして、この吸上線4に事故電流表示装置のCT箱10が取り付けられている。また、各CT箱10には、表示器20が接続されている。
【0019】
図2は、CT箱10及び表示器20の構成を示す回路図である。変流器16は計器用変流器(所謂、カレントトランスフォーマー)であり、その一次側は吸上線4が貫通し、二次側はコイル状をなし、吸上線4を流れる電流(例えば、500A)を低電流(5A)に変換して検出する。この変流器16の二次側出力17には、感度調整用タップ15が直列に接続された状態で、計測部11が接続されている。計測部11では、変流器16により低電流に変換された検出電流が計測される。この計測部16には閾値比較部12が接続されており、閾値比較部12は、計測部11にて計測された電流が、所定の閾値を超えた場合に、表示部13に表示信号を出力する。これにより、表示部13は表示色を変更する等をして、閾値を超えた電流、即ち、事故電流が検出されたことを表示する。
【0020】
次に、上述のごとく構成された事故電流表示装置の動作について説明する。先ず、電車通行時に電車を負荷として負荷電流が吸上線4に流れるが、これは、変流器16にて検出され、計測部11で計測されるが、この計測電流は、閾値比較部12で閾値と比較されて、閾値以下であるので、閾値比較部12からは表示信号が出力されない。一方、地絡事故が発生して事故電流が流れた場合には、この事故電流は、地絡が発生した地点の近傍の吸上線4を経由して、変電所に戻る。そこで、この吸上線4を流れる事故電流は、変流器16を介して低電流に変換されて検出され、この検出電流は、計測部11で計測され、閾値比較部12で所定の閾値と比較され、事故電流の計測値は、予め設定された閾値を超えるので、閾値比較部12から表示信号が表示部13に出力される。表示部13は、表示信号を入力して、例えば、表示部の色を変化させる等によりこれを表示する。
【0021】
このように、BTき電において、地絡事故が発生した場合、事故電流はいずれかの吸上線4を経由して、変電所に戻る。よって、色等が変化した表示部13が収容された表示器20を判別すれば、事故点の範囲を特定することができる。
【0022】
また、CT箱10は吸上線4の取り付けやすい位置に取り付けることができ、表示器20は、屋外の電柱等、巡回する作業員が視認しやすい位置に取り付けることができる。また、計器用変流器16は通常貫通型のものであり、中心孔に吸上線4を通すだけで取り付けることができ、吸上線4を切断することなく、取り付けることができるため、既存の設備に対し、格別、設備変更することなく、事故電流表示装置を取り付けることができる。
【0023】
また、計測部11による計測電流の感度をタップ15により調整できるようにすれば、電車の種類に応じて、負荷電流が異なる場合に、負荷電流で不要動作しないよう電車条件に応じて調整できるので、電車の相違に拘わらず、負荷電流か事故電流かの見極めを適切に行うことができる。
【0024】
本発明では、CT箱10と表示器20を組合せた事故電流表示装置を吸上線4に設備し、事故電流が流れた吸上線4を容易に判別して、事故点の範囲を限定することができる。この事故電流の検出は、事故電流を利用するので、動作用電源を必要としない。また、事故電流表示装置は、き電回路に影響せず、故障点標定装置とも干渉しない。
【符号の説明】
【0025】
1:トロリー線(T)
2:レール(R)
3:負き電線(NF)
4:吸上線
5:ブースタートランス(BT)
11:計測部
12:閾値比較部
13:表示部
15:タップ
16:変流器
20:表示器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリー線と、負き電線と、レールとが並設され、前記トロリー線と前記負き電線との間に接続され、前記トロリー線を介して負荷に供給した電流を前記負き電線を経由して変電所に戻す複数個のブースタートランスが、前記トロリー線及び前記負き電線に沿って適宜の間隔で配置され、前記ブースタートランスにより区分けされた区間毎に1本の吸上線が、前記レールと前記負き電線との間に接続された交流BTき電回路における事故電流表示装置において、
前記各吸上線に設けられ、前記吸上線を通流する電流を低電流に変換して検出する変流器と、
前記変流器からの出力電流を計測する計測部と、
前記計測部にて計測された電流計測値が所定の閾値を超えた場合に表示信号を出力する比較部と、
前記比較部からの表示信号を入力したときに表示する表示部と、
を有することを特徴とする事故電流表示装置。
【請求項2】
前記変流器は、1個のCT箱にまとめて収容され、前記計測部、前記比較部及び前記表示部は、1個の表示器にまとめて収納され、前記CT箱と前記表示器とは別体で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の事故電流表示装置。
【請求項3】
前記計測部の感度を調整するタップを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の事故電流表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−201185(P2012−201185A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66618(P2011−66618)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(390006471)株式会社三輝製作所 (3)
【Fターム(参考)】