二倍体アーミング酵母及びその製造方法、並びに該二倍体アーミング酵母を用いたポリエステルポリオールの製造方法
【課題】細胞表層に提示したタンパク質が増殖過程においても安定に保持されるアーミング酵母の製造方法、及びかかる方法により得られるアーミング酵母、並びにかかるアーミング酵母を用いたポリエステルポリオールの製造方法を提供する。
【解決手段】一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することを特徴とする二倍体アーミング酵母の製造方法、かかる製造方法により得られることを特徴とする二倍体アーミング酵母、及びかかる二倍体アーミング酵母を用いることを特徴とするポリエステルポリオールの製造方法。
【解決手段】一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することを特徴とする二倍体アーミング酵母の製造方法、かかる製造方法により得られることを特徴とする二倍体アーミング酵母、及びかかる二倍体アーミング酵母を用いることを特徴とするポリエステルポリオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二倍体アーミング酵母及びその製造方法、さらに詳しくは、細胞表層に当該酵母が本来産生しないタンパク質を固定化した一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することにより得られる二倍体アーミング酵母の製造方法、及び係る製造方法により得られる二倍体アーミング酵母に関する。
また、本発明は、当該二倍体アーミング酵母を用いたポリエステルポリオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞表層に酵素を固定化させたアーミング酵母の創製技術により、本来酵母が有していない分泌型酵素、例えば、アミラーゼ、セルラーゼなどを細胞表層に固定化することが可能となり、これまで酵母が分解、利用できなかった炭素源等の基質が利用できるようになった。例えば、細胞表層にアミラーゼを発現及び固定化させた、アミラーゼ・アーミング酵母を用いることで、酵母が利用できないデンプンから、直接アルコールを生産することができるようになっている(特許文献1及び2、非特許文献1参照)。
【0003】
また、アーミング酵母は、アルコール発酵母体としてだけでなく、固定化酵素としても注目されている。発現された酵素が、酵母細胞表層に自発的に固定化され、酵母自体が酵素固定化担体としての役割を果たすため、通常の固定化酵素の製造過程で行われる酵素の分離、精製及び固定化のプロセスを経ることなく、目的の酵素を担体に固定化した状態(固定化酵素剤)で得ることが可能である。アーミング酵母を固定化酵素として利用した例としては、例えば、バイオディーゼル燃料の製造(特許文献3参照)が知られている。すなわち、細胞表層にリパーゼを発現及び固定化させたリパーゼ・アーミング酵母を用いて、廃油とメタノールのエステル交換反応を行うことで、脂肪酸メチルエステルを得るという技術である。このように、アーミング酵母は発酵母体あるいは固定化酵素として様々な利用価値を秘めている。
【0004】
ところで、酵素と基質の相互作用は、「鍵と鍵穴」の関係であると言われ、一般的に基質選択性、位置選択性、立体選択性などの厳密な選択性を有していることが知られている。この特性により、酵素を利用した合成反応においては、副生物の生成を抑制し、目的物質を効率よく、純度高く得られるという利点がある。また、酵素を利用した分解反応は、ラセミ体から目的とする光学活性物質を得る光学分割に応用されている。
しかし見方を変えると、この特性は、特定の基質としか反応できないという欠点であると捉えることもできる。例えば、タンパク質とデンプンといった複数の物質からなる混合物を分解しようとした場合には、各成分を基質として利用できる複数の酵素、すなわち、タンパク質分解酵素とデンプン分解酵素が必要となる。また、タンパク質のみを分解しようとする場合にも、末端からアミノ酸を1分子ずつ分解するエキソ型タンパク質分解酵素と、分子鎖内部のペプチド結合を分解するエンド型タンパク質分解酵素を併用した方が、分解効率が向上する。
【0005】
したがって、アーミング酵母に関しても、単一種の酵素を細胞表層に提示するよりも、複数種の酵素を細胞表層に提示した方が望ましい場合がある。このような要望に対し、二種の酵素を細胞表層に提示したアーミング酵母が開発されている。具体的には、α−アミラーゼをコードする遺伝子とグルコアミラーゼをコードする遺伝子を別々に有する二種のプラスミドを一つの酵母に導入し、一つの酵母の細胞表層にこれら二種の酵素を発現させたアーミング酵母が開発されており、これを用いることで、デンプン分解の効率化を図っている(特許文献2参照)。
【0006】
デンプン分解を行うにあたっては、前記方法に代わり、α−アミラーゼを細胞表層に提示したアーミング酵母とグルコアミラーゼを細胞表層に提示したアーミング酵母を別々に製造し、これらを混合して使用することも考えられるが、この場合、二種のアーミング酵母を別々に製造することは、操作が煩雑で時間を要するという問題点がある。また、アーミング酵母を培養しながら連続的に使用したい場合には、二種のアーミング酵母で生育速度を揃える必要があるが、二種のアーミング酵母の量比を制御することが難しいという問題点がある。
したがって、複数種のタンパク質を細胞表層に提示したアーミング酵母の製造方法があれば、例えばタンパク質として酵素を提示するように設計することで、非常に有用なものとなる。このような中、酵素Aをコードする遺伝子と酵素Bをコードする遺伝子を別々に有する二種のプラスミド(プラスミドAとプラスミドB)を一つの細胞へ導入するという方法が開発されたのは画期的であると言える。
【0007】
ところで、ポリエステルポリオールは、ウレタン原料などとして様々な分野に広く利用されている汎用樹脂である。通常ポリエステルポリオールは200℃から220℃の高温下で、金属触媒を用いてジカルボン酸とジオールの脱水縮合反応により製造されているが、製品へ残存する金属触媒、副生物として生成する環状エステル化合物(揮発性有機化合物)の環境への影響が問われるようになってきている。
そこで、金属触媒に代わる触媒としてエステル加水分解酵素を用いたポリエステルポリオール合成に関する研究が進められている。エステル加水分解酵素を触媒として用いることで、金属フリーのポリエステルポリオールを製造することができるだけでなく、反応温度が40℃〜80℃と低温であることから、副生物である環状エステル量を低減することができ、更に、省エネルギーも大いに期待できる。
この場合、エステル加水分解酵素は金属触媒に比べ高価であることから、繰り返し使用することが望まれる。そのため、樹脂などで作られた担体へエステル加水分解酵素を固定化し、製品から回収、再利用する方法が提案されており、一部のエステル加水分解酵素は固定化酵素として市販されている。現在市販されているこのような固定化酵素は、担体表層の細孔へ酵素を吸着させる物理的固定化法により作成されている。このような方式で作成した固定化酵素を用いて、ポリエステルポリオールを製造すると、反応中に酵素が担体から剥離し、製品中に混入してしまうため、製品の耐加水分解性が低下してしまう。この問題点を解決すべく、担体へアミノ基やエポキシ基などの官能基を導入し、共有結合により酵素を担体へ固定化する方法が考案されているが、酵素活性の低下や固定化工程のコストアップなど新たな問題が生じており、これら問題点の解決に至っていない。
【0008】
そこで、アーミング酵母を用いた酵素反応を、ポリエステルポリオールの製造方法に適用できれば非常に有用である。例えば、遺伝子組み換え技術を駆使し、エステル加水分解酵素を細胞表層に提示した酵母は、酵素の精製、固定化の工程なしに、酵母を培養し、集菌、乾燥するだけで容易に調製することができ、さらに酵素反応に使用後は、製品をフィルター処理することで容易に回収、再利用することができる。そしてこのような中、特定の基質と反応し得るタンパク質を、該基質と該タンパク質との反応性を最適にするように、酵母細胞表層に提示し、酵素反応に利用する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】国際公開第2002/042483号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2003/0166525号パンフレット
【特許文献3】特開平11−290078号公報
【特許文献4】特開2003−235579号公報
【非特許文献1】Ueda et.al. Appl.Environ.Microbiol.,63(1997),1332−1336
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のプラスミドA及びプラスミドBを一つの細胞へ導入する方法では、細胞内へ導入したこれらプラスミドが脱落したり、増殖過程においてこれらプラスミドの分配比率が変化してしまうため、酵母間においてプラスミドAとプラスミドBのコピー数をコントロールすることが困難である。そのため、分裂のたびごとに酵母間で細胞表層に提示される酵素Aと酵素Bの量比が変わってしまうという問題点がある。
また、特許文献4に記載の方法をはじめ、これまでにアーミング酵母を用いた酵素反応を、ポリエステルポリオールの合成へ利用した事例については報告されていない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、細胞表層に提示したタンパク質が増殖過程においても安定に保持されるアーミング酵母の製造方法及びかかる方法により得られるアーミング酵母を提供することを課題とする。
また本発明は、かかるアーミング酵母を用いたポリエステルポリオールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、酵母細胞内に導入した、目的タンパク質をコードするDNAが、安定に保持されるアーミング酵母の創生を目的として、鋭意開発研究を進める過程において、一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することにより得られる二倍体アーミング酵母の創生に成功した。宿主となる酵母として、サッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母に着目し、一倍体a細胞及び一倍体α細胞へ、キャンディダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)由来のリパーゼB表層発現カセットを含む発現ベクターを、該細胞のゲノムDNA中に導入し、各一倍体アーミング酵母を調製した。そして、調製した各一倍体アーミング酵母を細胞融合することにより、二倍体アーミング酵母の創生に成功した。得られた二倍体アーミング酵母のエステル合成活性を測定した結果、全く意外にも、導入したキャンディダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)由来リパーゼB表層発現カセットを含むプラスミドのコピー数から予想される活性よりも高い活性が得られた。また、この高いエステル合成活性は、本二倍体アーミング酵母を継代培養しても安定に保持されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0012】
さらに本発明者らは、この高いエステル合成活性を利用するため、種々検討を行った結果、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有するカルボン酸類と1分子中に2個以上の水酸基を有するアルコール類とを反応せしめて得られるポリエステルポリオールの製造において、好適に前記アーミング酵母を利用でき、且つ、反応終了後に、ろ過等の極めて簡便な手法を用いることにより、前記アーミング酵母を容易に回収できること、さらに、この一連の工程において、細胞表層からリパーゼBがほとんど剥離しないことを見出した。その結果、反応生成物中への該アーミング酵母及びリパーゼBの混入が極めて少なく、従来の酵素固定化方法により得られた固定化酵素を用いた場合よりも、反応生成物においてエステル分解等の好ましくない副反応を顕著に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することを特徴とする二倍体アーミング酵母の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかる製造方法により得られることを特徴とする二倍体アーミング酵母を提供する。
さらに、本発明は、かかる二倍体アーミング酵母を用いることを特徴とするポリエステルポリオールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法により、細胞表層に提示したタンパク質が増殖過程においても安定に保持されるアーミング酵母が得られる。また、従来の一倍体アーミング酵母よりも速い生育速度でかつより高い収量で二倍体アーミング酵母が得られる。
そして、例えば、キャンディダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)由来のリパーゼBを細胞表層に提示した本発明の二倍体アーミング酵母は、細胞融合前の一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のエステル合成活性からは予想できない高いエステル合成活性を示す。そして、従来のプラスミド導入型アーミング酵母とは異なり、継代培養しても安定にその活性が保たれる。
本発明は、複数のタンパク質を細胞表層に提示するシステムとして優れており、様々なタンパク質細胞表層発現カセットを導入した一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を各々複数調製しておき、様々な組み合わせで細胞融合することにより、目的とするアーミング酵母ならびに細胞表層に提示したタンパク質の組み合わせをシーケンシャルに選抜することができる。
また、本発明のポリエステルポリオールの製造方法により、本発明のアーミング酵母細胞表層から酵素がほとんど剥離せず、例えば、ポリエステルポリオールの合成反応終了後に、ろ過等の極めて簡便な手法を用いることにより、前記アーミング酵母を容易に回収できるので、酵素の混入量が極めて少なく、エステル分解等の好ましくない副反応が顕著に抑制されたポリエステルポリオールが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本発明においては、特に断りの無い限り、単位「%」は「w/v%」を示すものとする。また、単位「mM」は「mmol/L」を示す。
【0016】
(アーミング酵母)
本発明において、アーミング酵母とは細胞表層局在タンパク質と種々の機能性タンパク質(酵素・抗原・抗体・レポータータンパク質など)やペプチドを融合させ、細胞表層にディスプレイさせることにより、通常の酵母では有していない新しい機能を有する、あるいは元来有している機能を増強した酵母細胞のことをいう。また、細胞表層とは細胞膜・細胞壁ならびにその間の空間であるペリプラズムのことであり、これらの層を利用し上記の様な要件を満たす酵母細胞をアーミング酵母という。
【0017】
(一倍体アーミング酵母及び二倍体アーミング酵母)
天然界に存在する出芽酵母は二倍体であり、栄養源が豊富にあれば安定に増殖し続けることが知られている。しかしながら、栄養源が枯渇し、生存の危機にさらされると、減数分裂を経て、1つの細胞が4つの胞子を形成する。4つの胞子はそれぞれ一倍体で、a型およびα型という異なる接合型を持つ。各胞子は栄養条件が回復すると発芽し、増殖を開始する。通常、a型細胞とα型細胞が隣接して存在すると、融合し二倍体を形成する。この現象は接合と呼ばれている。
一般的に実験室で使用されている酵母は、接合型変換が起こらないヘテロタリズム株である。これは、1つずつ胞子を単離し、接合が起こらない条件で増殖させたものであり、一倍体でも安定に増殖させることができる。
本発明の二倍体アーミング酵母の製造方法は、a型細胞とα型細胞が接合により細胞融合し、二倍体を形成する現象を利用しており、一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することを特徴とする。細胞表層に提示されるタンパク質を、一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母とで異なる種類とすることにより、複数の機能を二倍体アーミング酵母に付与することが可能であり、新たな機能を有するアーミング酵母の創生に好適である。
なお、以下においては、特に「a型の一倍体」と「α型の一倍体」を区別する必要がない場合は、単に「一倍体」と記すことにする。
【0018】
(異種タンパク質の酵母への導入)
一般的には、一倍体酵母であるa型細胞、α型細胞へ、異種タンパク質をコードする遺伝子を導入するためには、異種タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを用いることが望ましい。この発現ベクターは、プラスミドベクターであっても人工染色体であっても良く、その構築には従来公知の方法が利用できる。酵母への発現ベクターの導入方法は特に限定されず、従来公知の方法を利用できる。例えば、発現ベクターを用いて酵母を形質転換する方法としては、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、酢酸リチウム法、プロトプラスト法などが挙げられる。発現ベクターをエピソーム型プラスミドとして酵母内に保持させる(以下、プラスミド導入型と略記することがある)方法もある。エピソーム型プラスミドを用いると、異種タンパク質発現カセットのコピー数を増やすことができる利点があるが、増殖の際などにプラスミドの脱落、部分的な欠損などが起こり、プラスミドを安定に保持できないことがある。
本発明においては、発現ベクターを一倍体酵母のゲノムDNAに組み込んで(以下、ゲノム組み込み型と略記することがある)、異種タンパク質をコードする遺伝子を導入することが好ましい。これは、従来公知の方法により行うことができる。例えば、異種タンパク質をコードする遺伝子と選択のために必要な選択マーカー遺伝子の他に、両側に酵母染色体のターゲット部位の5’および3’領域に相同性のあるDNA配列を含むものを作成し、酵母に形質転換することで相同組換えによりゲノムDNA中へ組み込むことが出来る。ただし、本発明において、発現ベクターを一倍体酵母のゲノムDNAに組み込む方法はこれに限定されるものではない。
【0019】
このように、ゲノム組み込み型の一倍体アーミング酵母を用いれば、二倍体酵母が増殖する際、二組の相同染色体が安定に複製・保持されるため、確実に異種タンパク質発現カセットも複製・保持される。
得られた酵母の細胞表層に目的タンパク質が提示されていることは、常法により確認することができる。例えば、目的タンパク質に対する抗体とビオチン標識2次抗体を用いた蛍光標識ストレプトアビジン法などが挙げられる。
なお、本発明においては、二倍体酵母の細胞表層に提示するタンパク質は、単一種及び複数種のいずれでも良い。単一種のタンパク質を提示するようにした場合は、多くのタンパク質を効率よく細胞表層に提示することができ、複数種のタンパク質を提示するようにした場合は、多機能のアーミング酵母が得られる。
【0020】
(宿主)
宿主となる酵母としては、一倍体細胞が融合して二倍体細胞となる出芽酵母であればよく、特に限定されない。その中でも、サッカロミセス(Saccharomyces、以下、サッカロミセスと略記する)属に属する酵母が好ましい。すなわち、前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれもが、サッカロミセス属酵母であることが好ましい。
【0021】
本発明において、細胞表層へ提示されるタンパク質及び該タンパク質の配列に関しては次に説明する通りである。
(細胞表層へ提示されるタンパク質)
本発明において、細胞表層へ提示されるタンパク質とは、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の二倍体アーミング酵母の用途に鑑みれば、酵素が好適である。細胞表層へ提示されるタンパク質が酵素である場合は、例えば、分泌型酵素を挙げることができる。
【0022】
(分泌型酵素)
本発明において、分泌型酵素としては、例えば、リパーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ類、セルラーゼ類などが挙げられる。
リパーゼとは、油脂から脂肪酸を遊離させ得る活性を有する酵素であり、その起源については特に限定されないが、通常、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、キャンディダ(Candida)属などの微生物由来のリパーゼ、植物種子などから得られるリパーゼ、動物組織から得られるリパーゼなどが挙げられる。なかでも、キャンディダ・アンタルクチカ(Candida antarctica、以下、キャンディダ・アンタルクチカと略記する)由来のリパーゼが好適に用いられる。
クチナーゼとしては、その起源については特に限定されないが、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコラ(Humicola)属などの微生物由来のものが挙げられる。
アミラーゼ類とは、デンプンを加水分解し得る酵素のことであり、その起源については特に限定されない。代表的なものとして、例えば、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼなどが挙げられる。
セルラーゼとは、一般的にエンドβ1,4−グルカナーゼをいうが、本発明においては、β1,4−グルコシド結合を切断し、セルロースからグルコースを生産する一群の酵素を称してセルラーゼ類という。例えば、β1,4−グルカナーゼ、β―グルコシダーゼ、カルボキシメチルセルラーゼなどが挙げられ、その起源については特に限定されない。
【0023】
(細胞表層局在タンパク質)
本発明において、細胞表層局在タンパク質とは、酵母の細胞表層に固定され、細胞表層に存在するタンパク質をいう。例えば、凝集性タンパク質であるα−またはa−アグルチニン、FLOタンパク質、大腸菌の外膜タンパク質OmpAなどが挙げられる。一般に細胞表層局在タンパク質は、N末端側に分泌シグナル配列及びC末端側にGPIアンカー付着認識シグナル配列を有している。分泌シグナル配列を有する点では分泌性タンパク質と共通しているが、細胞表層局在タンパク質は、GPIアンカーを介して生体膜に固定されて輸送される点が分泌性タンパク質と異なる。細胞表層局在タンパク質は細胞膜通過の際、GPIアンカー付着認識シグナル配列が選択的に切断され、新たに突出したC末端部分でGPIアンカーと結合して細胞膜に固定される。その後ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼC(以下、PI−PLCと略記する)によりGPIアンカーの根元部分が切断される。次いで、細胞膜から切り離されたタンパク質は、細胞壁に組み込まれて細胞表層に固定され、細胞表層に局在する。
【0024】
(分泌シグナル配列)
本発明において、分泌シグナル配列とは、一般に細胞外に分泌されるタンパク質のN−末端に結合している、疎水性に富んだアミノ酸を多く含むアミノ酸配列であり、通常、分泌性タンパク質が細胞内から細胞膜を通して細胞外(ペリプラズムも含む)へ分泌される際に除去される。分泌シグナル配列であれば、どのような分泌シグナル配列でも用いることができ、その起源は限定されない。例えば、グルコアミラーゼの分泌シグナル配列、酵母のα−またはa−アグルチニンの分泌シグナル配列、リパーゼの分泌シグナル配列などが好適に用いられている。また、細胞表層へ提示されるタンパク質の活性に影響を与えないのであれば、分泌シグナル配列の一部または全部が該タンパク質のN−末端側に残っても良い(特開平11−290078号公報、国際公開第2002/085935号パンフレット参照)。
【0025】
(GPIアンカー及びGPIアンカリングドメイン)
GPIアンカーとは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)と呼ばれる、エタノールアミンリン酸―6マンノースα1−2マンノースα1−6マンノースα1−4グルコサミンα1−6イノシトールリン脂質を基本構造とする糖脂質をいう。
GPIアンカリングドメインは、通常、細胞表層局在タンパク質のC末端あるいはその近傍に位置する。例えば、α−アグルチニンのC末端から320アミノ酸の配列をコードする配列がこれに相当し、この配列には、GPIアンカーが細胞表層局在タンパク質と結合する際に認識される配列であるGPIアンカー認識付着シグナル配列の他に、4カ所の糖鎖結合部位がある。GPIアンカーの根元部分がPI−PLCにより切断された後、これらの糖鎖結合部位に結合した糖鎖と細胞壁を構成する多糖類とが共有結合することで、α−アグルチニンのC末端配列部分が細胞壁と結合し、α−アグルチニンは細胞表層に保持される。
【0026】
(糖鎖結合タンパク質ドメイン)
本発明において、糖鎖結合タンパク質ドメインとは、複数の糖鎖を有し、この糖鎖が、細胞壁中の糖鎖と相互作用または絡み合うことによって、細胞表層に留まることのできるドメインをいう。例えば、レクチンなどの糖鎖結合部位や、α−アグルチニン、a−アグルチニン、FLOタンパク質などの凝集タンパク質の凝集機能ドメインなどが挙げられる。
【0027】
(凝集機能ドメイン)
細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインとはGPIアンカリングドメインよりもN末端側にあり、複数の糖鎖を有し、凝集に関与していると考えられているドメインをいう。
【0028】
本発明において、前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれか一方あるいは両方の細胞表層へ提示されるタンパク質は、以下の配列を有するDNAによって細胞表層に発現されるものであることが好ましい。
(1)分泌シグナル配列、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
(2)分泌シグナル配列、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
(3)分泌シグナル配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列をこの順で有するDNA
(4)分泌シグナル配列、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列、GPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
【0029】
上記(2)、(3)の場合は、糖鎖結合タンパク質ドメインが、少なくとも細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインを含む部分であることが好ましい。
【0030】
また、上記(1)〜(4)の場合、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列と、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列もしくは糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列またはGPIアンカリングドメインをコードする配列との間には、適当な長さのリンカー配列が挟みこまれてもよく、アミノ酸の種類は限定されないが、好ましくはアミノ酸5個〜50個、より好ましくはアミノ酸5個〜25個をコードするDNA配列である。
【0031】
前記(1)〜(4)のDNAは、従来公知の手法を用いて合成することができる。例えば、(1)のDNAの場合、分泌シグナル配列と細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列との結合は、部位特異的突然変異法を用いて行うことができ、正確な分泌シグナル配列の切断と高活性なタンパク質の発現が可能である。さらに、このようにして得られた配列と、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカー付着シグナル配列とを結合すればよい。結合は、適切な制限酵素、リンカー等を用いて行うことができる。
アーミング酵母は、係るDNAを酵母に導入することにより得ることができる。
【0032】
このようにして得られる本発明の二倍体アーミング酵母は、全く意外にも、細胞融合前の一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のエステル合成活性からは予想できない高いエステル合成活性を示した。また、従来のプラスミド導入型一倍体アーミング酵母に比べ、生育速度が速く、菌体収量も多い。さらに、従来のプラスミド導入型アーミング酵母とは異なり、継代培養しても安定にその活性が保たれる。
このように、本発明の二倍体アーミング酵母は、従来の一倍体アーミング酵母よりも性能面・製造適性面で優れており、複数のタンパク質を細胞表層に提示するシステムとしても優れている。したがって、様々なタンパク質発現カセット、例えば、タンパク質表層発現カセット、タンパク質菌体発現カセット、菌体内代謝系強化タンパク質発現カセットなどを導入した一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を各々複数調製しておき、様々な組み合わせで細胞融合することにより、目的に適した細胞表層提示タンパク質の組み合わせ、並びに細胞表層提示したタンパク質と生体内代謝系の組み合わせによる、より高次な反応をシーケンシャルに、容易に選抜することができる。また、発現プロモーターを選択することにより、目的タンパク質の発現時期を調整することができ、さらに高度にシーケンシャルな選抜を行うことが出来ると考えられる。
【0033】
(ポリエステルポリオールの製造方法)
次に、本発明のポリエステルポリオールの製造方法について述べる。
本発明のポリエステルポリオールの製造方法では、前記二倍体アーミング酵母を用いる。
例えば、前記二倍体アーミング酵母を触媒として用い、カルボン酸類とアルコール類とを反応せしめることによって、目的とするポリエステルポリオールを得ることができる。この場合、二倍体アーミング酵母の細胞表層に提示されている酵素は、リパーゼであることが好ましく、なかでもキャンディダ・アンタルクチカ由来のリパーゼが特に好ましい。
【0034】
使用可能なカルボン酸類に特に制限はないが、好ましいものとして、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有するカルボン酸類を挙げることができる。このようなカルボン酸類としては、例えば、脂肪族多価カルボン酸、脂環族多価カルボン酸、及び芳香族多価カルボン酸が挙げられる。
脂肪族多価カルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸などの炭素原子数が2〜20の飽和多価カルボン酸;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和多価カルボン酸などが挙げられる。
脂環族多価カルボン酸としては、具体的には、シクロブタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。
芳香族多価カルボン酸としては、具体的には、フタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。
これらの中でも、炭素数2〜12の脂肪族カルボン酸、又は炭素数6〜12の芳香族カルボン酸が好ましく、炭素数2〜12の脂肪族カルボン酸がより好ましい。
また、ポリエステルポリオールの合成反応において、反応の進行に伴って生成する水を後記するように減圧下で除去することを考慮すると、これらカルボン酸のうち、沸点が100℃以上のものが好ましい。
【0035】
また、アルコール類も特に制限はないが、好ましいものとして、1分子中に2個以上の水酸基を有するアルコール類を挙げることができる。このようなアルコール類としては、例えば、2〜4価の脂肪族又は芳香族アルコールや、その他の多価脂肪族又は芳香族アルコールが挙げられる。
2価のアルコールとしては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,2−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ヘプタンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなどが挙げられる。
3価のアルコールとしては、具体的には、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
4価のアルコールとしては、具体的には、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
その他の多価アルコールとしては、種々の糖類が挙げられる。
芳香族アルコールとしては、具体的には、p−キシリレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
これらの中でも、炭素数2〜12の脂肪族アルコール、又は炭素数6〜12の芳香族アルコールが好ましく、炭素数2〜12の脂肪族アルコールがより好ましい。
また、ポリエステルポリオールの合成反応において、反応の進行に伴って生成する水を後記するように減圧下で除去することを考慮すると、これらアルコール類のうち、沸点が100℃以上のものが好ましい。
【0036】
また、前記カルボン酸類及び/又はアルコール類の代わりに、1分子中にカルボキシ基と水酸基とを有する化合物を用いることもできる。1分子中にカルボキシ基と水酸基とを有する化合物としては、例えば、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、クエン酸、リンゴ酸などを挙げることができる。
【0037】
反応に用いるカルボン酸類とアルコール類とのモル比は、これらの種類や目的に応じて適宜調整すれば良く、特に限定されない。
また、反応を行うに際し、カルボン酸類及びアルコール類は、いずれも一括添加しても良いし、分割添加しても良い。そして、粉体などの固形状である場合には、適宜溶媒に溶解してから添加しても良く、この場合の溶液の添加は、一括添加、分割添加、滴下のいずれでも良い。このように、カルボン酸類及びアルコール類の添加方法は特に限定されず、例えば、反応液の流動性や溶解性などを考慮して、反応が進行し易くなるように適宜選択すれば良い。
【0038】
反応に用いる溶媒は、カルボン酸類及びアルコール類の種類などに応じて、公知のものから適宜選択すれば良い。有機溶媒であればアセトニトリルや低極性のものが好ましく、低極性の有機溶媒としては、トルエン、キシレン、ヘキサンなどが例示できる。溶媒を用いることで、反応液の流動性を向上させることができる。また溶媒は、減圧時に留去され難いよう沸点の高いものが好ましく、沸点が100℃以上のものがより好ましい。なかでも、通常反応性が良好であることから、トルエンが特に好ましい。
また、反応に用いる溶媒の量は、カルボン酸類及びアルコール類の種類などに応じて、流動性等を考慮して適宜選択すれば良い。
【0039】
また、反応開始時には、少量の水を添加することが好ましい。無水条件下では、ポリエステルポリオールの合成反応が進行し難くなることがある。その理由は定かではないが、反応開始時に、基質であるアルコール類が、アーミング酵母の細胞表層に提示したリパーゼが活性発現のために必要とする水を、リパーゼから奪ってしまうためではないかと推測される。
添加する水の量は、反応開始時の、水を除く原料混合物100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、2〜8質量部であることがより好ましい。添加する水の量が多すぎると、生成したポリエステルポリオールのエステル結合が合成反応中に加水分解され易いが、上記範囲内であれば、加水分解を抑制できる。
【0040】
反応に用いるカルボン酸類及びアルコール類の、少なくともいずれ一方が液体である場合には、無溶媒で反応を行っても良い。カルボン酸類及びアルコール類のいずれ一方が液体である場合には、例えば他方が粉末状で反応液がスラリー状であっても、該反応液が攪拌可能であれば、溶媒を用いた場合よりも高い原料濃度で反応を行うことができる。
【0041】
二倍体アーミング酵母の使用量は、反応に用いるカルボン酸類及びアルコール類の種類や量をはじめ、反応条件に応じて適宜選択すれば良い。その際には、例えば、市販の固定化酵素等と酵素活性を比較して、使用量決定の目安としても良い。
【0042】
反応温度は、二倍体アーミング酵母が活性を発現する温度であればよく、通常、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜70℃である。
反応時間は特に限定されないが、通常、好ましくは3〜120時間、より好ましくは20〜80時間である。
【0043】
反応時の撹拌方法も特に限定されず、周知のいずれの方法でも良い。例えば、攪拌翼や攪拌子を回転させる方法や振とう攪拌などが挙げられる。なかでも、攪拌効率が高いことから、攪拌翼を回転させる方法が好ましい。このような通常の攪拌方法を採用する限り、本発明の二倍体アーミング酵母の細胞表層に提示された酵素が、該二倍体アーミング酵母から剥離することはほとんどない。
【0044】
反応を行う際には、反応の進行に伴って生成する水を除去することが好ましい。水を除去しながら反応を行うことで、合成反応中のエステル結合の加水分解が抑制され、ポリエステルポリオールの収率を向上させることができる。
この時の水の除去は、常圧下で行うことも可能であるが、ポリエステルポリオールの分解等を防ぐためには、減圧下で行うことが好ましい。減圧下で行う方が、常圧下で行う場合よりも低い温度で水の留去が可能であり、温度選択の自由度が高くなる。
減圧時の圧力は、用いるカルボン酸類、アルコール類、溶媒などの種類や量に応じて適宜選択すれば良いが、通常は、5kPa以下であることが好ましく、2kPa以下であることがより好ましい。
減圧は、反応開始直後から開始しても良いし、反応開始から所定時間経過後に開始しても良く、反応の進行に応じて適宜調整すれば良い。
【0045】
水を除去する際には、反応に関与しない気体を反応器中に、好ましくは反応液中に吹き込むことによって、より効率的に水を留去することができる。使用される気体は、空気、窒素、アルゴン等の反応に関与しない気体であれば特に限定されないが、低コストであることから空気が好ましい。また、吹き込む気体の流量は、反応スケールによって異なり、連続的に水が留去できる流量を適宜選択して行うことができる。
【0046】
反応の進行の度合いは、反応液の酸価の減少で確認できることから、反応の終了点は、反応液の酸価の測定値で判断可能である。酸価の測定は公知の方法で行えば良く、例えば、酸価が1以下になった時点を反応終了点とすれば、所望の物性を有するポリエステルポリオールを得るのに好適である。
【0047】
本発明においては、ポリエステルポリオールの合成反応終了後に、用いた二倍体アーミング酵母を回収する工程を行うのが好ましい。従来の固定化酵素を用いた方法では、酵素の回収及び繰り返し利用が可能であるが、現在市販されている固定化酵素の中でもポリエステル合成に最適であるキャンディダ・アンタルクチカ由来のリパーゼ、例えば、ノボ社のNovozym435(登録商標)では、反応中に酵素が担体から剥離したり、担体が破砕したりし、これら剥離物又は破砕物が製品中に混入するため、得られた製品の加水分解が生じ、製品の保存安定性に課題が残っていた。しかしながら、本発明の二倍体アーミング酵母を用いた製造方法の場合には、驚くべきことに、ろ過など公知の簡便な回収工程を行うことにより、製品への二倍体アーミング酵母及び酵素の混入が極めて少なく、製品の分解等の副反応を顕著に抑制できる。
【0048】
二倍体アーミング酵母の回収は、固液分離可能な方法であれば、公知のいずれの方法で行っても良く、好ましい方法としてろ過による回収が挙げられる。
ろ過は加圧ろ過、吸引ろ過など公知のいずれの方法でもよく、特に限定されるものではないが、生成物の粘度が高い場合には加圧ろ過が好ましい。ろ過に使用するろ材は、二倍体アーミング酵母をろ別できるものであれば、その材質等は限定されないが、二倍体アーミング酵母の直径は、通常2〜6μm程度であるので、ろ材の目の孔径がこれより小さい方が好ましい。二倍体アーミング酵母の再利用を考えなければ、ろ過助剤を併用することもできる。この場合のろ過助剤も公知のいずれのものでも良い。また、反応液を反応終了後にそのままろ過することもできるが、有機溶剤などを用いて、二倍体アーミング酵母以外の成分を溶解させてからろ過してもよい。
【0049】
本発明の二倍体アーミング酵母は、ポリエステルポリオールの製造に用いても、酵素が細胞表層から剥離したり、二倍体アーミング酵母が破砕されることがほとんど無い。当該効果が発現されるメカニズムについては定かではないが、従来の樹脂製あるいは無機物製の固定化担体に比べ、柔軟な酵母細胞が固定化担体となっているために、担体の破砕が生じないものと推定される。また例えば、Flo1タンパク質との融合タンパク質の形でリパーゼを細胞表層に提示する本法では、リパーゼは細胞表層の糖鎖と複数の水素結合で固定化されていると推定されており、このように、従来の共有結合による固定化担体への固定化に比べ、細胞表層と酵素との結合点が多いために、高粘度流体中で撹拌されても、細胞表層と酵素との間の結合が切れにくく、酵素が細胞表層から剥離し難いものと推測される。
【0050】
したがって、二倍体アーミング酵母を回収した後に得られるポリエステルポリオールには、上記のように二倍体アーミング酵母及び酵素の混入が極めて少ない。これは、ポリエステルポリオールに水を添加し、加熱して、酸価を指標として加水分解の度合いを測定した際に、ほとんど加水分解が見られないことからも確認できる。すなわち、本発明により得られるポリエステルポリオールは、従来の固定化酵素を用いて得られるものに比べ、安定性が極めて高い。
【0051】
そして本発明においては、ポリエステルポリオールの製造後に、使用した二倍体アーミング酵母をほぼ全量回収できる。その理由は、上記のように酵素が細胞表層から剥離したり、二倍体アーミング酵母が破砕されたりすることがほとんど無いからであると推測される。
【0052】
回収した二倍体アーミング酵母は、繰り返しポリエステルポリオールの製造に使用できる。回収した二倍体アーミング酵母は、そのまま使用しても良いが、例えば、トルエンなどの有機溶媒で洗浄してから、使用することが好ましい。洗浄後はそのまま使用しても良いが、乾燥してから使用することが好ましい。乾燥は加熱乾燥でも良いが、酵素が失活しない温度で乾燥することが必要であり、風乾により乾燥することが好ましい。
【0053】
本発明においては、回収した二倍体アーミング酵母は、繰り返しポリエステルポリオールの製造に使用しても、酵素活性の低下がほとんど見られない。すなわち、回収した二倍体アーミング酵母と調製後未使用の二倍体アーミング酵母は、酵素活性が同等であり、本発明の二倍体アーミング酵母は、経済性で極めて優れたものである。
【0054】
本発明の製造方法では、得られるポリエステルポリオールの数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)は、用いるカルボン酸類及びアルコール類の種類や使用比率、その他の反応条件を調整することで調整できる。特に、質量平均分子量(Mw)が500〜100000のポリエステルポリオールを得るのに好適である。数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)は、公知のGPCカラムを用いた分析法によって、決定することができる。また、前記したように、本発明の製造方法で得られるポリエステルポリオールの酸価は、好ましくは1以下である。
【0055】
本発明の製造方法により得られるポリエステルポリオールの用途としては、例えば、ウレタン樹脂や塗料用樹脂の原料などが挙げられる。
【0056】
ここでは、反応器内でカルボン酸類及びアルコール類を、二倍体アーミング酵母と共に撹拌してポリエステルポリオールを合成する方法を中心に説明したが、反応の様式はこれに限定されず、例えば、アーミング酵母をカラムに充填し、該充填部に対してカルボン酸類やアルコール類などを含む液体を通過させる方法で、ポリエステルポリオールを合成しても良い。この場合の温度や溶媒など反応の諸条件は、上記説明に準じれば良い。
【実施例】
【0057】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(製造例)<CALB表層発現プラスミドの作成>
(1−A.キャンディダ・アンタルクチカ由来リパーゼB遺伝子の取得)
次のようにしてキャンディダ・アンタルクチカ由来リパーゼB(CALB)遺伝子を取得した。
すなわち、キャンディダ・アンタルクチカCBS6678株ゲノムをテンプレートとし、従来公知の方法でDNA合成装置にて合成した、配列番号1及び2に示す塩基配列からなるプライマーを用いてPCR増幅を行い、BglII及びXhoIで切断して、約1000bpの長さのBglII−XhoI断片(BglII−XhoI ProCALB CBS6678断片)を得た。このCALBは、Uppenbergらの文献(structure,2:293(1994))に記載され、もっとも広く知られているキャンディダ・アンタルクチカ LF058株由来リパーゼBのアミノ酸配列(CALB WT)と比較して7アミノ酸が変異している。すなわち25番目のアラニンがトレオニンに、28番目のセリンがトレオニンに、31番目のセリンがトレオニンに、46番目のグルタミンがグリシンに、89番目のアラニンがトレオニンに、97番目のアスパラギンがアルギニンに、286番目のバリンがイソロイシンにそれぞれ変異している、特徴的なCALBであった。
【0059】
(1−B.CALB遺伝子導入プラスミドの取得)
CALB遺伝子中への変異の導入を効率よく行うため、上記1−Aで得られたCALB CBS6678遺伝子を、一度サイズの小さいプラスミドに導入した。
すなわち、プラスミドpUC19(TaKaRa BIO社製)をBamHI及びSalIで切断し、上記Aで得られたBglII−XhoI ProCALB CBS6678断片を挿入して、プラスミドpUC19−ProCALB CBS6678を得た。作成の模式図を図1に示す。
【0060】
(1−C.CALB1遺伝子ならびにCALB1導入プラスミドの取得)
上記1−Bで得られたプラスミドpUC19−ProCALB CBS6678をテンプレートとし、従来公知の方法でDNA合成装置にて合成した、配列番号3及び4に示す塩基配列からなるプライマーを用いてPCR増幅を行うことにより、CALB CBS6678中にポイントミューテーションを導入し、CALB CBS6678中のアミノ末端から25番目のトレオニンをアラニンに、28番目のトレオニンをセリンに、31番目のトレオニンをセリンにそれぞれ置換したCALB1遺伝子を含むプラスミドpUC19−ProCALB1を得た。
【0061】
(1−D.CALB2遺伝子ならびにCALB2導入プラスミドの取得)
上記1−Cで得られたプラスミドpUC19−ProCALB1をテンプレートとし、従来公知の方法でDNA合成装置にて合成した、配列番号5及び6に示す塩基配列からなるプライマーを用いてPCR増幅を行うことにより、CALB1中にポイントミューテーションを導入し、CALB1中のアミノ末端から46番目のグリシンをグルタミンに置換したCALB2遺伝子を含むプラスミドpUC19−ProCALB2を得た。
【0062】
(1−E.リンカー導入型CALB遺伝子の取得)
上記1−Dで得られた各CALB2導入プラスミドをテンプレートとし、従来公知の方法でDNA合成装置にて合成した、配列番号7及び8に示す塩基配列からなるプライマーを用いてPCR増幅を行い、次いでBglII及びXhoIで切断して、約1000bpの長さのBglII−XhoI FLAG−ProCALB2断片を得た。BglII−XhoI FLAG−ProCALB2断片は、FLAG tag、リパーゼのプロ配列、及びCALB2の成熟タンパク質配列を有している。ここで、プロ配列とは、リパーゼの立体構造を形成するために必要とされる配列のことであり、FLAG tagとは、リンカー配列のことであり、成熟タンパク質配列とは、実際にリパーゼの触媒反応機能を有する配列のことである。
【0063】
(1−F.CALB表層発現カセットの作成)
CALB表層発現カセットは、発現プロモーターの配列とターミネーターの配列、並びにこれらの間にFLO1誘導体であるShort型FLO1アンカー遺伝子と上記1−Eで得られたリンカー導入型CALB遺伝子を接続したものをそれぞれ有するDNA配列である。該CALB表層発現カセットを作成するために、以下の操作を行った、作成の模式図を図2に示す。
すなわち、プラスミドpWIFS(T.Matsumotoら、Appl.Environ.Microbiol.,68:4517(2002))をBglIIとXhoIで切断し、上記1−Eで得られたBglII−XhoI FLAG−ProCALB2断片を挿入して、pWIFS−FLAG−ProCALB2を得た。そしてこれをBssHIIで切断し、約6300bpのCALB表層発現カセットを得た。
【0064】
(1−G.CALB表層発現プラスミドの作成)
目的のDNAを有するプラスミドは、上記1−Fで得られたCALB表層発現カセットを、各種選択マーカーを有するプラスミドに導入することで得られる。作成の模式図を図3に示す。
すなわち、プラスミドpRS402(ATCC87477)、pRS403(ATCC87514)、pRS404(ATCC87515)、pRS405(ATCC87516)、pRS402(ATCC87517)をそれぞれBssHIIで切断し、上記Fで得られたCALB表層発現カセットを挿入してpRSAIFS−FLAG−ProCALB2、pRSHIFS−FLAG−ProCALB2、pRSWIFS−FLAG−ProCALB2、pRSLIFS−FLAG−ProCALB2、pRSUIFS−FLAG−ProCALB2を得た。
【0065】
(実施例1)<ゲノム組み込み型二倍体CALB−アーミング酵母の調製>
(2−A.サッカロミセス属酵母への遺伝子の導入)
上記1−Gで得られたCALB表層発現プラスミドを、表1に示す制限酵素を用いて、それぞれ選択マーカー中に存在する制限酵素サイトで切断した。次いで、YEAST MAKERTM(Clontech Laboratories Inc. USA)を用いて、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae、以下、サッカロミセス・セレヴィシエと略記する)YPH499(MATa,ura3,lys2,ade2,his4,trp1,leu2)には、pRSUIFS−FLAG−ProCALB2、pRSLIFS−FLAG−ProCALB2、pRSHIFS−FLAG−ProCALB2、pRSAIFS−FLAG−ProCALB2をこの順で、サッカロミセス・セレヴィシエYPH500(MATalpha,ura3,lys2,ade2,his4,trp1,leu2)には、pRSUIFS−FLAG−ProCALB2、pRSLIFS−FLAG−ProCALB2、pRSWIFS−FLAG−ProCALB2、pRSAIFS−FLAG−ProCALB2をこの順で、それぞれのゲノム中に導入した。各形質転換の選択においては、アミノ酸並びに核酸(0.002%L−ヒスチジン、0.01%L−ロイシン、0.002%L−トリプトファン、0.002%L−リシン、0.002%アデニン、0.002%ウラシル)のうち、選択に必要なものを含むSD寒天培地(2%グルコース、0.67% Yeast Nitrogen Base without amino acids)を用いて培養した。生育した酵母を選択し、ゲノム組み込み型CALBアーミング酵母である、サッカロミセス・セレヴィシエYPH499−U、YPH499−UL、YPH499−ULH、YPH499−ULHA、並びにYPH500−U、YPH500−UL、YPH500−ULW、YPH500−ULWAアーミング酵母を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
(2−B.一倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母の調製)
上記2−Aで創製したサッカロミセス・セレヴィシエYPH499−U、YPH499−UL、YPH499−ULH、YPH499−ULHA、並びにYPH500−U、YPH500−UL、YPH500−ULW、YPH500−ULWAアーミング酵母を、SDC培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、2%カザミノ酸、appropriate amino acids and nucleic acids)に植菌し、30℃で6日間浸透培養した。次いで、遠心分離により培地と菌体に分離し、得られた菌体を一倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母とした。得られた一倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母の、酪酸p−ニトロフェニル(以下、PNPBと略記する)を基質とした30℃におけるリパーゼ活性を確認した(比較例5参照)。
【0068】
(2−C.二倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母の創製)
一倍体アーミング酵母YPH499−ULHA、YPH500−ULWAをYPD培地(2%グルコース、2%peptone、1%yeast extract)に植菌し、30℃で1時間培養後、遠心分離により培地と菌体に分離し、得られた菌体を混合してYPD培地に再懸濁し、30℃で一晩培養した。これを適切な菌体密度に希釈した後、SD+K寒天培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、0.002%L−リシン)を用いて培養した。生育した酵母を選択し、ゲノム導入型二倍体CALB−アーミング酵母である、サッカロミセス・セレヴィシエYPH501−U2L2HWA2アーミング酵母を得た。
【0069】
(2−D.二倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母の調製)
上記2−Cで得られたサッカロミセス・セレヴィシエYPH501−U2L2HWA2アーミング酵母を、SDC+K培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、2%カザミノ酸、0.002%L−リシン)に植菌し、30℃で6日間浸透培養した。次いで、遠心分離により培地と菌体に分離し、PNPBを基質とした菌体の30℃におけるリパーゼ活性(エステル分解活性)を確認した。
エステル分解活性の測定には、PNPB法を用いた。培養液を遠心分離することで菌体を回収し、得られた菌体を蒸留水で2回洗浄した。次いで、菌体を20mMリン酸緩衝液に懸濁し、30℃で5分間プレインキュベートした。一方、基質にはPNPBを用いた。PNPBは少量のエタノールに溶解させた後、蒸留水で適当に希釈して基質液を調製した。プレインキュベートした菌体懸濁液へ基質液を加え、よく撹拌し、振盪させながら30℃で10分間反応させた。次いで、5%トリクロロ酢酸水溶液を添加し、反応を停止したのち、遠心分離し、上清を回収し、200mMリン酸緩衝液で希釈し、400nmの吸光度を測定した。そして、生成したp−ニトロフェノール(PNP)量を求め、エステル分解活性とした。活性を定義するにあたり、PNPが1分間に1μmol生成する酵素量を1Uと定義した。
【0070】
(比較例1)<プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2の調製>
(3−A.サッカロミセス属酵母へのプラスミドによる遺伝子の導入)
上記1−Fで得られたプラスミドpWIFS−FLAG−ProCALB2を、YEAST MAKERTM(Clontech Laboratories Inc.USA)を用いて、サッカロミセス・セレヴィシエYPH501(MATa/alpha, ura3/ura3,lys2/lys2,ade2/ade2,his4/his4,trp1/trp1,leu2/leu2)に導入した。これを、SD−W寒天培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、0.002%L−ヒスチジン、0.01%L−ロイシン、0.002%L−リシン、0.002%アデニン、0.002%ウラシル)を用いて培養した。生育した酵母を選択し、プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2を得た。
【0071】
(3−B.プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2の調製)
上記3−Aで得られたプラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2を、SDC−W培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、2%カザミノ酸、0.002%L−ヒスチジン、0.01%L−ロイシン、0.002%L−リシン、0.002%アデニン、0.002%ウラシル)に植菌し、30℃で6日間浸透培養した。次いで、遠心分離により培地と菌体に分離し、実施例1と同様にPNPBを基質とした菌体の30℃におけるリパーゼ活性(エステル分解活性)を確認した。
【0072】
(実施例2)<二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2の凍結乾燥菌体の調製>
上記2−Cに示すように創生した、細胞融合した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を、SDC培地(2%カザミノ酸、2%グルコース、0.67%YNB、0.008%L−トリプトファン、0.008%L−リジン、0.008%L−ヒスチジン)にて30℃で6日間培養し、培養液を得た。得られた培養液を遠心分離して菌体を回収し、この菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した後、再び50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。得られた菌体懸濁液を1日間凍結乾燥し、乾燥菌体を得た。
【0073】
(比較例2、3)<一倍体アーミング酵母YPH499−ULHA及びYPH500−ULWAの凍結乾燥菌体の調製>
二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2の代わりに、上記2−Aに示すように創生した一倍体アーミング酵母YPH499−ULHA及びYPH500−ULWAを用いたこと以外は実施例2と同様にして、一倍体アーミング酵母YPH499−ULHAの乾燥菌体(比較例2)及びYPH500−ULWAの乾燥菌体(比較例3)を得た。
【0074】
(比較例4)<プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2の凍結乾燥菌体の調製>
上記3−Aに示すように創生したプラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2を、SDC培地(2%カザミノ酸、2%グルコース、0.67%YNB、0.04%L−ロイシン、0.008%L−ヒスチジン、0.008%ウラシル、0.04%アデニン)にて、30℃で7日間培養し、培養液を得た。得られた培養液を遠心分離して菌体を回収し、この菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した後、再び50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。得られた菌体懸濁液を1日間凍結乾燥し、乾燥菌体を得た。
【0075】
(比較例5)<一倍体アーミング酵母YPH499−U、YPH499−UL、YPH499−ULH、YPH499−ULHA、YPH500−U、YPH500−UL、YPH500−ULW及びYPH500−ULWAのエステル分解活性の測定>
上記2−Bで調製した一倍体アーミング酵母YPH499−U、YPH499−UL、YPH499−ULH、YPH499−ULHA、YPH500−U、YPH500−UL、YPH500−ULW及びYPH500−ULWAを用いて、実施例1と同様にPNPBを基質とした30℃におけるリパーゼ活性(エステル分解活性)を確認した。結果を図4に示す。
図4より、宿主細胞としてYPH499及びYPH500を用いた一倍体アーミング酵母のそれぞれにおいて、CALB表層発現カセットのゲノム上への導入数の増加に伴い、リパーゼ活性の向上が確認された。これにより、目的タンパク質発現カセットを複数個宿主細胞のゲノム中へ導入することにより、アーミング酵母の酵素活性を向上させることが可能であることが示された。
【0076】
(実施例3)<二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2のエステル合成活性の測定>
実施例2で調製した二倍体アーミング酵母YPH501U2L2HWA2の乾燥菌体を100mg試験管に採り、これにアジピン酸150mg、n−ブタノール3ml及び蒸留水0.12mlを加え、60℃で3時間、150rpmで撹拌しながら反応させた。反応終了後、反応液を12000rpmで5分間遠心分離し、上清を、0.45μmフィルターを用いて濾過した。得られた濾液をn−ブタノールで適当な倍率に希釈し、ガスクロマトグラフィーで分析して、生成したジブチルアジピン酸(以下、DBAと略記する)の量を測定した。結果を図5に示す。なお、ガスクロマトグラフィーの分析条件は次の通りである。
カラム:TC−5(ジー・エル・サイエンス製)長さ30m、内径0.32mmID、液相膜厚0.25μm
スプリット分析
気化室温度:270℃、カラム温度:120℃、4分間保持、温度上昇速度20℃/min、300℃、10分間保持
検出器:FID
検出器温度:350℃
【0077】
(比較例6、7)<一倍体アーミング酵母YPH499−ULHA及びYPH500−ULWAのエステル合成活性の測定>
実施例2で調製した二倍体アーミング酵母YPH501U2L2HWA2の乾燥菌体に代わり、比較例2で調製した一倍体アーミング酵母YPH−499ULHAの乾燥菌体、及び比較例3で調製した一倍体アーミング酵母YPH−500ULWAをそれぞれ別々に用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で一倍体アーミング酵母のエステル合成活性を測定した。(比較例2の一倍体アーミング酵母を用いた測定を比較例6、比較例3の一倍体アーミング酵母を用いた測定を比較例7とする。)結果を図5に示す。
【0078】
図5に示すように、一倍体アーミング酵母YPH499−ULHAよりも一倍体アーミング酵母YPH500−ULWAの方が、エステル合成活性が高かった。YPH499−ULHAとYPH500−ULWAとでは、CALB表層発現カセットが異なる選択マーカー中に組み込まれており、このことが活性発現量に何らかの影響を与えているのではないかと推定している。
一方、これら一倍体アーミング酵母を細胞融合して得た二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2は、全く意外にも、これら一倍体アーミング酵母の活性からは予想し得ない高活性を示した。
【0079】
(実施例4)<細胞融合した二倍体アーミングYPH501−U2L2HWA2のエステル合成活性の安定性の確認>
二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2をSDC培地(2%カザミノ酸、2%グルコース、0.67%YNB、0.008%L−トリプトファン、0.008%L−リジン、0.008%L−ヒスチジン)にて30℃で培養を開始し、1日後、この培養液の一部を前記SDC培地と同一組成の新たなSDC培地へ1%の植菌率で植え継いだ。残りの培養液はさらに4日間培養を継続し、実施例2と同様の方法にて凍結乾燥菌体Aを得た。植え継いだ培養液は30℃で培養し、1日後、再び新たな同一組成のSDC培地へ1%の植菌率で植え継いだ。残りの培養液はさらに4日間培養を継続し、実施例2と同様の方法にて凍結乾燥菌体Bを得た。植え継いだ培養液は30℃で培養し、以降、同様の操作を繰り返して、順次凍結乾燥菌体C、D、Eを得た。このように継代培養することにより、凍結乾燥菌体A、B、C、D、Eを得て、これらの凍結乾燥菌体を用いて、実施例3と同様の方法でエステル合成活性を測定した。結果を図6に示す。
図6に示すように、凍結乾燥菌体A、B、C、D、Eを用いた時のエステル合成活性は、いずれもほぼ一定の値を示した。すなわち、この結果は、二倍体アーミング酵母YPH−501に導入されたCALB表層発現カセットは、該酵母の増殖過程においても安定に保持され、安定に発現し、細胞表層に提示され、機能していることを示している。
【0080】
(比較例8)<プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2のリパーゼ活性の安定性>
比較例1で得たプラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2を用い、培地としてSDC培地(2%カザミノ酸、2%グルコース、0.67%YNB、0.04%L−ロイシン、0.008%L−ヒスチジン、0.008%ウラシル、0.04%アデニン)を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で継代培養を行い、凍結乾燥菌体F、G、H、I、Jを得、これらの凍結乾燥菌体を用いてエステル合成活性を測定した。結果を図6に示す。
図6に示すように、凍結乾燥菌体F、G、H、I、Jは、そのエステル合成活性が不安定で、培養ロットごとにエステル合成活性に大きなばらつきがみられた。
【0081】
実施例4及び比較例8の結果から、CALB−アーミング酵母は、プラスミド導入型よりもゲノム組み込み型の方が、導入したタンパク質の発現が安定しており、プラスミド導入型で目的タンパク質発現カセットを導入するよりも、ゲノム組み込み型で目的タンパク質発現カセットを導入した方が性能面で優れていると考えられる。
さらに、比較例5の結果も考え合わせると、複数のタンパク質発現カセットを導入する場合には、プラスミド導入型で導入するよりもゲノム組み込み型で導入した方が、目的タンパク質の発現量と導入したカセット数の関係が明確であり、導入するカセット数に応じて目的タンパク質の発現量を制御し易いと考えられる。すなわち、複数種のタンパク質を細胞表層に提示する場合、導入する各目的タンパク質のカセット比率を変えることで、細胞表層提示タンパク質の発現量比を調節することが可能となると考えられる。また、発現プロモーターを選別することにより、目的タンパク質の細胞表層発現時期も調整することが可能であると考えられる。本発明は、このようにアーミング酵母の細胞表層発現パターンを設計する場合に、極めて有利である。
【0082】
(実施例5)<二倍体アーミングYPH501−U2L2HWA2を用いたポリエステルポリオールの合成>
1,4−ブタンジオール64g、アジピン酸93.6g、水8gを300mlガラス反応器に仕込み、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を8.2g添加し、撹拌しながら60℃で反応を開始した。反応開始から6時間経過した時点で、ガラス反応器内を1.5kPaに減圧すると共に、乾燥空気を0.2L/minの流量で吹き込み、反応系から脱水を促した。反応の進行は酸価の減少で追跡した。この時の反応の進行の様子を図7に示す。反応開始から80時間で酸価が1以下まで低下したため、反応を終了し、濾紙(商品名:Advantec28−3)を用いた加圧濾過により、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を回収し、無色透明なポリエステルポリオールを得た。得られたポリエステルポリオールの分子量及び分子量分布を、東ソー社製GPCカラム(G1000HXL×1本、G2000HXL×1本、G3000HXL×1本、G40000HXL×1本、いずれも商品名)を用い、流量1ml/min、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。その結果、数平均分子量(Mn)が3526、質量平均分子量(Mw)が6701、Mw/Mnが1.90であった。
【0083】
(実施例6)<二倍体アーミングYPH501−U2L2HWA2を用いたポリエステルポリオールの合成>
3−メチルペンタンジオール74g、アジピン酸73g、水4gを300mlガラス反応器に仕込み、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を6.3g添加し、撹拌しながら60℃で反応を開始した。反応開始から8時間経過した時点で、ガラス反応器内を1.5kPaに減圧すると共に、乾燥空気を0.2L/minの流量で吹き込み、反応系から脱水を促した。反応の進行は酸価の減少で追跡した。この時の反応の進行の様子を図8に示す。反応開始から48時間で酸価が1以下まで低下したため、反応を終了し、濾紙(商品名:Advantec28−3)を用いた加圧濾過により、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を回収し、無色透明なポリエステルポリオールを得た。得られたポリエステルポリオールの分子量及び分子量分布を、東ソー社製GPCカラム(G1000HXL×1本、G2000HXL×1本、G3000HXL×1本、G40000HXL×1本、いずれも商品名)を用い、流量1ml/min、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。その結果、数平均分子量(Mn)が1867、質量平均分子量(Mw)が2970、Mw/Mnが1.59であった。
【0084】
(実施例7)<二倍体アーミングYPH501−U2L2HWA2の繰り返し使用>
実施例5で使用し、回収した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を、トルエンで2回洗浄し、室温にて風乾した。実施例5と同様に、1,4−ブタンジオール64g、アジピン酸93.6g、水8gを300mlガラス反応器に仕込み、この風乾した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を0.5gだけ活性測定用に分け採り、残りを全量投入した。そして、実施例5と同様の反応条件にて合成を進め、酸価が1以下となった時点で反応を停止した。得られた反応液を、濾紙(商品名:Advantec28−3)を用いた加圧濾過により、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2とポリエステルポリオールに分画し、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2は回収し、再びトルエンで2回洗浄し、次の反応に供した。一方、得られたポリエステルポリオールについては、実施例5と同様に、GPCにて分子量及び分子量分布を確認した。このような方法にて、実施例5で回収した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を4回繰り返し使用して、ポリエステルポリオールの合成を行った。この時の反応の進行の様子を図9に示す。なお、この時の二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2の使用量は、2.7〜5.5質量%であった。
図9に示すように、回収した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2は、繰り返し回収しながら使用してもエステル合成活性の低下が見られず、例えば、実施例5で使用した、回収を経ていない二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2と比べても、全く遜色ないエステル合成活性を有していることが確認された。
【0085】
(実施例8)<二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2のエステル合成活性の測定>
実施例5で使用した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2(回収0回)、及び実施例7で使用した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2(回収1〜4回)のエステル合成活性を、実施例3と同様の方法で測定した。結果を図10に示す。
図10に示すように、上記二倍体アーミング酵母は、4回繰り返し回収しながらポリエステルポリオール合成に使用しても、エステル合成活性の顕著な低下は認められず、繰り返し使用できることが確認された。この結果は、実施例7の結果を裏付けるものであった。
【0086】
(実施例9)<二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を用いて合成したポリエステルポリオールの耐加水分解性の確認>
実施例5で得られたポリエステルポリオールを80℃にて溶解し、そこへ蒸留水5質量部を加え、よく混合した後、再び80℃でインキュベートした。そして、約80時間に亘って経時的に酸価を測定し、耐加水分解性を確認した。結果を図11に示す。
図11に示すように、ほとんど酸価の上昇はなく、ポリエステルポリオールの加水分解はみられなかった。
【0087】
(比較例9)<市販品CALB固定化酵素を用いたポリエステルポリオールの合成>
1,4−ブタンジオール64g、アジピン酸93.6gを300mlガラス反応器に仕込み、市販品のCALB固定化酵素(ノボザイムズ社製、商品名:ノボザイム435)を1.6g添加し、撹拌しながら60℃で反応を開始した。反応開始時よりガラス反応器内を1.5kPaに減圧すると共に、乾燥空気を0.2L/minの流量で吹き込み、反応系から脱水を促した。反応の進行は酸価の減少で追跡した。反応開始から50時間で酸価が1以下まで低下したため、反応を終了し、濾紙(商品名:Advantec28−3)を用いた加圧濾過により、CALB固定化酵素を回収し、ポリエステルポリオールを得た。得られたポリエステルポリオールの分子量及び分子量分布を、東ソー社製GPCカラム(G1000HXL×1本、G2000HXL×1本、G3000HXL×1本、G40000HXL×1本、いずれも商品名)を用い、流量1ml/min、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。その結果、数平均分子量(Mn)が2250、質量平均分子量(Mw)が4260、Mw/Mnが1.89であった。
【0088】
(比較例10)<市販品CALB固定化酵素を用いて合成したポリエステルポリオールの耐加水分解性の確認>
比較例9で得られたポリエステルポリオールを80℃にて溶解し、そこへ蒸留水5質量部を加え、よく混合した後、再び80℃でインキュベートした。そして、1週間に亘って経時的に酸価を測定し、耐加水分解性を確認した。結果を図11に示す。
図11に示すように、インキュベート開始から72時間後には酸価が25まで上昇し、加水分解が顕著に進行することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】製造例におけるプラスミドpUC19−ProCALB CBS6678作成の模式図である。
【図2】製造例におけるCALB表層発現カセット作成の模式図である。
【図3】製造例におけるCALB表層発現プラスミド作成の模式図である。
【図4】比較例5における一倍体アーミング酵母のエステル分解活性の試験結果を示すグラフである。
【図5】実施例3における二倍体アーミング酵母、並びに比較例6及び7における一倍体アーミング酵母のエステル合成活性の試験結果を示すグラフである。
【図6】実施例4におけるゲノム組み込み型二倍体アーミング酵母のリパーゼ活性の安定性及び比較例8におけるプラスミド導入型CALB−アーミング酵母のリパーゼ活性の安定性に関する試験結果を示すグラフである。
【図7】実施例5におけるポリエステルポリオール合成反応の進行の様子を示すグラフである。
【図8】実施例6におけるポリエステルポリオール合成反応の進行の様子を示すグラフである。
【図9】実施例7におけるポリエステルポリオール合成反応の進行の様子を示すグラフである。
【図10】実施例8における二倍体アーミング酵母のエステル合成活性の試験結果を示すグラフである。
【図11】実施例9及び比較例10におけるポリエステルポリオールの耐加水分解性の試験結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、二倍体アーミング酵母及びその製造方法、さらに詳しくは、細胞表層に当該酵母が本来産生しないタンパク質を固定化した一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することにより得られる二倍体アーミング酵母の製造方法、及び係る製造方法により得られる二倍体アーミング酵母に関する。
また、本発明は、当該二倍体アーミング酵母を用いたポリエステルポリオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞表層に酵素を固定化させたアーミング酵母の創製技術により、本来酵母が有していない分泌型酵素、例えば、アミラーゼ、セルラーゼなどを細胞表層に固定化することが可能となり、これまで酵母が分解、利用できなかった炭素源等の基質が利用できるようになった。例えば、細胞表層にアミラーゼを発現及び固定化させた、アミラーゼ・アーミング酵母を用いることで、酵母が利用できないデンプンから、直接アルコールを生産することができるようになっている(特許文献1及び2、非特許文献1参照)。
【0003】
また、アーミング酵母は、アルコール発酵母体としてだけでなく、固定化酵素としても注目されている。発現された酵素が、酵母細胞表層に自発的に固定化され、酵母自体が酵素固定化担体としての役割を果たすため、通常の固定化酵素の製造過程で行われる酵素の分離、精製及び固定化のプロセスを経ることなく、目的の酵素を担体に固定化した状態(固定化酵素剤)で得ることが可能である。アーミング酵母を固定化酵素として利用した例としては、例えば、バイオディーゼル燃料の製造(特許文献3参照)が知られている。すなわち、細胞表層にリパーゼを発現及び固定化させたリパーゼ・アーミング酵母を用いて、廃油とメタノールのエステル交換反応を行うことで、脂肪酸メチルエステルを得るという技術である。このように、アーミング酵母は発酵母体あるいは固定化酵素として様々な利用価値を秘めている。
【0004】
ところで、酵素と基質の相互作用は、「鍵と鍵穴」の関係であると言われ、一般的に基質選択性、位置選択性、立体選択性などの厳密な選択性を有していることが知られている。この特性により、酵素を利用した合成反応においては、副生物の生成を抑制し、目的物質を効率よく、純度高く得られるという利点がある。また、酵素を利用した分解反応は、ラセミ体から目的とする光学活性物質を得る光学分割に応用されている。
しかし見方を変えると、この特性は、特定の基質としか反応できないという欠点であると捉えることもできる。例えば、タンパク質とデンプンといった複数の物質からなる混合物を分解しようとした場合には、各成分を基質として利用できる複数の酵素、すなわち、タンパク質分解酵素とデンプン分解酵素が必要となる。また、タンパク質のみを分解しようとする場合にも、末端からアミノ酸を1分子ずつ分解するエキソ型タンパク質分解酵素と、分子鎖内部のペプチド結合を分解するエンド型タンパク質分解酵素を併用した方が、分解効率が向上する。
【0005】
したがって、アーミング酵母に関しても、単一種の酵素を細胞表層に提示するよりも、複数種の酵素を細胞表層に提示した方が望ましい場合がある。このような要望に対し、二種の酵素を細胞表層に提示したアーミング酵母が開発されている。具体的には、α−アミラーゼをコードする遺伝子とグルコアミラーゼをコードする遺伝子を別々に有する二種のプラスミドを一つの酵母に導入し、一つの酵母の細胞表層にこれら二種の酵素を発現させたアーミング酵母が開発されており、これを用いることで、デンプン分解の効率化を図っている(特許文献2参照)。
【0006】
デンプン分解を行うにあたっては、前記方法に代わり、α−アミラーゼを細胞表層に提示したアーミング酵母とグルコアミラーゼを細胞表層に提示したアーミング酵母を別々に製造し、これらを混合して使用することも考えられるが、この場合、二種のアーミング酵母を別々に製造することは、操作が煩雑で時間を要するという問題点がある。また、アーミング酵母を培養しながら連続的に使用したい場合には、二種のアーミング酵母で生育速度を揃える必要があるが、二種のアーミング酵母の量比を制御することが難しいという問題点がある。
したがって、複数種のタンパク質を細胞表層に提示したアーミング酵母の製造方法があれば、例えばタンパク質として酵素を提示するように設計することで、非常に有用なものとなる。このような中、酵素Aをコードする遺伝子と酵素Bをコードする遺伝子を別々に有する二種のプラスミド(プラスミドAとプラスミドB)を一つの細胞へ導入するという方法が開発されたのは画期的であると言える。
【0007】
ところで、ポリエステルポリオールは、ウレタン原料などとして様々な分野に広く利用されている汎用樹脂である。通常ポリエステルポリオールは200℃から220℃の高温下で、金属触媒を用いてジカルボン酸とジオールの脱水縮合反応により製造されているが、製品へ残存する金属触媒、副生物として生成する環状エステル化合物(揮発性有機化合物)の環境への影響が問われるようになってきている。
そこで、金属触媒に代わる触媒としてエステル加水分解酵素を用いたポリエステルポリオール合成に関する研究が進められている。エステル加水分解酵素を触媒として用いることで、金属フリーのポリエステルポリオールを製造することができるだけでなく、反応温度が40℃〜80℃と低温であることから、副生物である環状エステル量を低減することができ、更に、省エネルギーも大いに期待できる。
この場合、エステル加水分解酵素は金属触媒に比べ高価であることから、繰り返し使用することが望まれる。そのため、樹脂などで作られた担体へエステル加水分解酵素を固定化し、製品から回収、再利用する方法が提案されており、一部のエステル加水分解酵素は固定化酵素として市販されている。現在市販されているこのような固定化酵素は、担体表層の細孔へ酵素を吸着させる物理的固定化法により作成されている。このような方式で作成した固定化酵素を用いて、ポリエステルポリオールを製造すると、反応中に酵素が担体から剥離し、製品中に混入してしまうため、製品の耐加水分解性が低下してしまう。この問題点を解決すべく、担体へアミノ基やエポキシ基などの官能基を導入し、共有結合により酵素を担体へ固定化する方法が考案されているが、酵素活性の低下や固定化工程のコストアップなど新たな問題が生じており、これら問題点の解決に至っていない。
【0008】
そこで、アーミング酵母を用いた酵素反応を、ポリエステルポリオールの製造方法に適用できれば非常に有用である。例えば、遺伝子組み換え技術を駆使し、エステル加水分解酵素を細胞表層に提示した酵母は、酵素の精製、固定化の工程なしに、酵母を培養し、集菌、乾燥するだけで容易に調製することができ、さらに酵素反応に使用後は、製品をフィルター処理することで容易に回収、再利用することができる。そしてこのような中、特定の基質と反応し得るタンパク質を、該基質と該タンパク質との反応性を最適にするように、酵母細胞表層に提示し、酵素反応に利用する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】国際公開第2002/042483号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2003/0166525号パンフレット
【特許文献3】特開平11−290078号公報
【特許文献4】特開2003−235579号公報
【非特許文献1】Ueda et.al. Appl.Environ.Microbiol.,63(1997),1332−1336
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のプラスミドA及びプラスミドBを一つの細胞へ導入する方法では、細胞内へ導入したこれらプラスミドが脱落したり、増殖過程においてこれらプラスミドの分配比率が変化してしまうため、酵母間においてプラスミドAとプラスミドBのコピー数をコントロールすることが困難である。そのため、分裂のたびごとに酵母間で細胞表層に提示される酵素Aと酵素Bの量比が変わってしまうという問題点がある。
また、特許文献4に記載の方法をはじめ、これまでにアーミング酵母を用いた酵素反応を、ポリエステルポリオールの合成へ利用した事例については報告されていない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、細胞表層に提示したタンパク質が増殖過程においても安定に保持されるアーミング酵母の製造方法及びかかる方法により得られるアーミング酵母を提供することを課題とする。
また本発明は、かかるアーミング酵母を用いたポリエステルポリオールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、酵母細胞内に導入した、目的タンパク質をコードするDNAが、安定に保持されるアーミング酵母の創生を目的として、鋭意開発研究を進める過程において、一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することにより得られる二倍体アーミング酵母の創生に成功した。宿主となる酵母として、サッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母に着目し、一倍体a細胞及び一倍体α細胞へ、キャンディダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)由来のリパーゼB表層発現カセットを含む発現ベクターを、該細胞のゲノムDNA中に導入し、各一倍体アーミング酵母を調製した。そして、調製した各一倍体アーミング酵母を細胞融合することにより、二倍体アーミング酵母の創生に成功した。得られた二倍体アーミング酵母のエステル合成活性を測定した結果、全く意外にも、導入したキャンディダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)由来リパーゼB表層発現カセットを含むプラスミドのコピー数から予想される活性よりも高い活性が得られた。また、この高いエステル合成活性は、本二倍体アーミング酵母を継代培養しても安定に保持されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0012】
さらに本発明者らは、この高いエステル合成活性を利用するため、種々検討を行った結果、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有するカルボン酸類と1分子中に2個以上の水酸基を有するアルコール類とを反応せしめて得られるポリエステルポリオールの製造において、好適に前記アーミング酵母を利用でき、且つ、反応終了後に、ろ過等の極めて簡便な手法を用いることにより、前記アーミング酵母を容易に回収できること、さらに、この一連の工程において、細胞表層からリパーゼBがほとんど剥離しないことを見出した。その結果、反応生成物中への該アーミング酵母及びリパーゼBの混入が極めて少なく、従来の酵素固定化方法により得られた固定化酵素を用いた場合よりも、反応生成物においてエステル分解等の好ましくない副反応を顕著に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することを特徴とする二倍体アーミング酵母の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかる製造方法により得られることを特徴とする二倍体アーミング酵母を提供する。
さらに、本発明は、かかる二倍体アーミング酵母を用いることを特徴とするポリエステルポリオールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法により、細胞表層に提示したタンパク質が増殖過程においても安定に保持されるアーミング酵母が得られる。また、従来の一倍体アーミング酵母よりも速い生育速度でかつより高い収量で二倍体アーミング酵母が得られる。
そして、例えば、キャンディダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)由来のリパーゼBを細胞表層に提示した本発明の二倍体アーミング酵母は、細胞融合前の一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のエステル合成活性からは予想できない高いエステル合成活性を示す。そして、従来のプラスミド導入型アーミング酵母とは異なり、継代培養しても安定にその活性が保たれる。
本発明は、複数のタンパク質を細胞表層に提示するシステムとして優れており、様々なタンパク質細胞表層発現カセットを導入した一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を各々複数調製しておき、様々な組み合わせで細胞融合することにより、目的とするアーミング酵母ならびに細胞表層に提示したタンパク質の組み合わせをシーケンシャルに選抜することができる。
また、本発明のポリエステルポリオールの製造方法により、本発明のアーミング酵母細胞表層から酵素がほとんど剥離せず、例えば、ポリエステルポリオールの合成反応終了後に、ろ過等の極めて簡便な手法を用いることにより、前記アーミング酵母を容易に回収できるので、酵素の混入量が極めて少なく、エステル分解等の好ましくない副反応が顕著に抑制されたポリエステルポリオールが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本発明においては、特に断りの無い限り、単位「%」は「w/v%」を示すものとする。また、単位「mM」は「mmol/L」を示す。
【0016】
(アーミング酵母)
本発明において、アーミング酵母とは細胞表層局在タンパク質と種々の機能性タンパク質(酵素・抗原・抗体・レポータータンパク質など)やペプチドを融合させ、細胞表層にディスプレイさせることにより、通常の酵母では有していない新しい機能を有する、あるいは元来有している機能を増強した酵母細胞のことをいう。また、細胞表層とは細胞膜・細胞壁ならびにその間の空間であるペリプラズムのことであり、これらの層を利用し上記の様な要件を満たす酵母細胞をアーミング酵母という。
【0017】
(一倍体アーミング酵母及び二倍体アーミング酵母)
天然界に存在する出芽酵母は二倍体であり、栄養源が豊富にあれば安定に増殖し続けることが知られている。しかしながら、栄養源が枯渇し、生存の危機にさらされると、減数分裂を経て、1つの細胞が4つの胞子を形成する。4つの胞子はそれぞれ一倍体で、a型およびα型という異なる接合型を持つ。各胞子は栄養条件が回復すると発芽し、増殖を開始する。通常、a型細胞とα型細胞が隣接して存在すると、融合し二倍体を形成する。この現象は接合と呼ばれている。
一般的に実験室で使用されている酵母は、接合型変換が起こらないヘテロタリズム株である。これは、1つずつ胞子を単離し、接合が起こらない条件で増殖させたものであり、一倍体でも安定に増殖させることができる。
本発明の二倍体アーミング酵母の製造方法は、a型細胞とα型細胞が接合により細胞融合し、二倍体を形成する現象を利用しており、一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することを特徴とする。細胞表層に提示されるタンパク質を、一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母とで異なる種類とすることにより、複数の機能を二倍体アーミング酵母に付与することが可能であり、新たな機能を有するアーミング酵母の創生に好適である。
なお、以下においては、特に「a型の一倍体」と「α型の一倍体」を区別する必要がない場合は、単に「一倍体」と記すことにする。
【0018】
(異種タンパク質の酵母への導入)
一般的には、一倍体酵母であるa型細胞、α型細胞へ、異種タンパク質をコードする遺伝子を導入するためには、異種タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクターを用いることが望ましい。この発現ベクターは、プラスミドベクターであっても人工染色体であっても良く、その構築には従来公知の方法が利用できる。酵母への発現ベクターの導入方法は特に限定されず、従来公知の方法を利用できる。例えば、発現ベクターを用いて酵母を形質転換する方法としては、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、酢酸リチウム法、プロトプラスト法などが挙げられる。発現ベクターをエピソーム型プラスミドとして酵母内に保持させる(以下、プラスミド導入型と略記することがある)方法もある。エピソーム型プラスミドを用いると、異種タンパク質発現カセットのコピー数を増やすことができる利点があるが、増殖の際などにプラスミドの脱落、部分的な欠損などが起こり、プラスミドを安定に保持できないことがある。
本発明においては、発現ベクターを一倍体酵母のゲノムDNAに組み込んで(以下、ゲノム組み込み型と略記することがある)、異種タンパク質をコードする遺伝子を導入することが好ましい。これは、従来公知の方法により行うことができる。例えば、異種タンパク質をコードする遺伝子と選択のために必要な選択マーカー遺伝子の他に、両側に酵母染色体のターゲット部位の5’および3’領域に相同性のあるDNA配列を含むものを作成し、酵母に形質転換することで相同組換えによりゲノムDNA中へ組み込むことが出来る。ただし、本発明において、発現ベクターを一倍体酵母のゲノムDNAに組み込む方法はこれに限定されるものではない。
【0019】
このように、ゲノム組み込み型の一倍体アーミング酵母を用いれば、二倍体酵母が増殖する際、二組の相同染色体が安定に複製・保持されるため、確実に異種タンパク質発現カセットも複製・保持される。
得られた酵母の細胞表層に目的タンパク質が提示されていることは、常法により確認することができる。例えば、目的タンパク質に対する抗体とビオチン標識2次抗体を用いた蛍光標識ストレプトアビジン法などが挙げられる。
なお、本発明においては、二倍体酵母の細胞表層に提示するタンパク質は、単一種及び複数種のいずれでも良い。単一種のタンパク質を提示するようにした場合は、多くのタンパク質を効率よく細胞表層に提示することができ、複数種のタンパク質を提示するようにした場合は、多機能のアーミング酵母が得られる。
【0020】
(宿主)
宿主となる酵母としては、一倍体細胞が融合して二倍体細胞となる出芽酵母であればよく、特に限定されない。その中でも、サッカロミセス(Saccharomyces、以下、サッカロミセスと略記する)属に属する酵母が好ましい。すなわち、前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれもが、サッカロミセス属酵母であることが好ましい。
【0021】
本発明において、細胞表層へ提示されるタンパク質及び該タンパク質の配列に関しては次に説明する通りである。
(細胞表層へ提示されるタンパク質)
本発明において、細胞表層へ提示されるタンパク質とは、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の二倍体アーミング酵母の用途に鑑みれば、酵素が好適である。細胞表層へ提示されるタンパク質が酵素である場合は、例えば、分泌型酵素を挙げることができる。
【0022】
(分泌型酵素)
本発明において、分泌型酵素としては、例えば、リパーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ類、セルラーゼ類などが挙げられる。
リパーゼとは、油脂から脂肪酸を遊離させ得る活性を有する酵素であり、その起源については特に限定されないが、通常、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、キャンディダ(Candida)属などの微生物由来のリパーゼ、植物種子などから得られるリパーゼ、動物組織から得られるリパーゼなどが挙げられる。なかでも、キャンディダ・アンタルクチカ(Candida antarctica、以下、キャンディダ・アンタルクチカと略記する)由来のリパーゼが好適に用いられる。
クチナーゼとしては、その起源については特に限定されないが、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコラ(Humicola)属などの微生物由来のものが挙げられる。
アミラーゼ類とは、デンプンを加水分解し得る酵素のことであり、その起源については特に限定されない。代表的なものとして、例えば、グルコアミラーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼなどが挙げられる。
セルラーゼとは、一般的にエンドβ1,4−グルカナーゼをいうが、本発明においては、β1,4−グルコシド結合を切断し、セルロースからグルコースを生産する一群の酵素を称してセルラーゼ類という。例えば、β1,4−グルカナーゼ、β―グルコシダーゼ、カルボキシメチルセルラーゼなどが挙げられ、その起源については特に限定されない。
【0023】
(細胞表層局在タンパク質)
本発明において、細胞表層局在タンパク質とは、酵母の細胞表層に固定され、細胞表層に存在するタンパク質をいう。例えば、凝集性タンパク質であるα−またはa−アグルチニン、FLOタンパク質、大腸菌の外膜タンパク質OmpAなどが挙げられる。一般に細胞表層局在タンパク質は、N末端側に分泌シグナル配列及びC末端側にGPIアンカー付着認識シグナル配列を有している。分泌シグナル配列を有する点では分泌性タンパク質と共通しているが、細胞表層局在タンパク質は、GPIアンカーを介して生体膜に固定されて輸送される点が分泌性タンパク質と異なる。細胞表層局在タンパク質は細胞膜通過の際、GPIアンカー付着認識シグナル配列が選択的に切断され、新たに突出したC末端部分でGPIアンカーと結合して細胞膜に固定される。その後ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼC(以下、PI−PLCと略記する)によりGPIアンカーの根元部分が切断される。次いで、細胞膜から切り離されたタンパク質は、細胞壁に組み込まれて細胞表層に固定され、細胞表層に局在する。
【0024】
(分泌シグナル配列)
本発明において、分泌シグナル配列とは、一般に細胞外に分泌されるタンパク質のN−末端に結合している、疎水性に富んだアミノ酸を多く含むアミノ酸配列であり、通常、分泌性タンパク質が細胞内から細胞膜を通して細胞外(ペリプラズムも含む)へ分泌される際に除去される。分泌シグナル配列であれば、どのような分泌シグナル配列でも用いることができ、その起源は限定されない。例えば、グルコアミラーゼの分泌シグナル配列、酵母のα−またはa−アグルチニンの分泌シグナル配列、リパーゼの分泌シグナル配列などが好適に用いられている。また、細胞表層へ提示されるタンパク質の活性に影響を与えないのであれば、分泌シグナル配列の一部または全部が該タンパク質のN−末端側に残っても良い(特開平11−290078号公報、国際公開第2002/085935号パンフレット参照)。
【0025】
(GPIアンカー及びGPIアンカリングドメイン)
GPIアンカーとは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)と呼ばれる、エタノールアミンリン酸―6マンノースα1−2マンノースα1−6マンノースα1−4グルコサミンα1−6イノシトールリン脂質を基本構造とする糖脂質をいう。
GPIアンカリングドメインは、通常、細胞表層局在タンパク質のC末端あるいはその近傍に位置する。例えば、α−アグルチニンのC末端から320アミノ酸の配列をコードする配列がこれに相当し、この配列には、GPIアンカーが細胞表層局在タンパク質と結合する際に認識される配列であるGPIアンカー認識付着シグナル配列の他に、4カ所の糖鎖結合部位がある。GPIアンカーの根元部分がPI−PLCにより切断された後、これらの糖鎖結合部位に結合した糖鎖と細胞壁を構成する多糖類とが共有結合することで、α−アグルチニンのC末端配列部分が細胞壁と結合し、α−アグルチニンは細胞表層に保持される。
【0026】
(糖鎖結合タンパク質ドメイン)
本発明において、糖鎖結合タンパク質ドメインとは、複数の糖鎖を有し、この糖鎖が、細胞壁中の糖鎖と相互作用または絡み合うことによって、細胞表層に留まることのできるドメインをいう。例えば、レクチンなどの糖鎖結合部位や、α−アグルチニン、a−アグルチニン、FLOタンパク質などの凝集タンパク質の凝集機能ドメインなどが挙げられる。
【0027】
(凝集機能ドメイン)
細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインとはGPIアンカリングドメインよりもN末端側にあり、複数の糖鎖を有し、凝集に関与していると考えられているドメインをいう。
【0028】
本発明において、前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれか一方あるいは両方の細胞表層へ提示されるタンパク質は、以下の配列を有するDNAによって細胞表層に発現されるものであることが好ましい。
(1)分泌シグナル配列、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
(2)分泌シグナル配列、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
(3)分泌シグナル配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列をこの順で有するDNA
(4)分泌シグナル配列、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列、GPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
【0029】
上記(2)、(3)の場合は、糖鎖結合タンパク質ドメインが、少なくとも細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインを含む部分であることが好ましい。
【0030】
また、上記(1)〜(4)の場合、細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列と、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列もしくは糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列またはGPIアンカリングドメインをコードする配列との間には、適当な長さのリンカー配列が挟みこまれてもよく、アミノ酸の種類は限定されないが、好ましくはアミノ酸5個〜50個、より好ましくはアミノ酸5個〜25個をコードするDNA配列である。
【0031】
前記(1)〜(4)のDNAは、従来公知の手法を用いて合成することができる。例えば、(1)のDNAの場合、分泌シグナル配列と細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列との結合は、部位特異的突然変異法を用いて行うことができ、正確な分泌シグナル配列の切断と高活性なタンパク質の発現が可能である。さらに、このようにして得られた配列と、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカー付着シグナル配列とを結合すればよい。結合は、適切な制限酵素、リンカー等を用いて行うことができる。
アーミング酵母は、係るDNAを酵母に導入することにより得ることができる。
【0032】
このようにして得られる本発明の二倍体アーミング酵母は、全く意外にも、細胞融合前の一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のエステル合成活性からは予想できない高いエステル合成活性を示した。また、従来のプラスミド導入型一倍体アーミング酵母に比べ、生育速度が速く、菌体収量も多い。さらに、従来のプラスミド導入型アーミング酵母とは異なり、継代培養しても安定にその活性が保たれる。
このように、本発明の二倍体アーミング酵母は、従来の一倍体アーミング酵母よりも性能面・製造適性面で優れており、複数のタンパク質を細胞表層に提示するシステムとしても優れている。したがって、様々なタンパク質発現カセット、例えば、タンパク質表層発現カセット、タンパク質菌体発現カセット、菌体内代謝系強化タンパク質発現カセットなどを導入した一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を各々複数調製しておき、様々な組み合わせで細胞融合することにより、目的に適した細胞表層提示タンパク質の組み合わせ、並びに細胞表層提示したタンパク質と生体内代謝系の組み合わせによる、より高次な反応をシーケンシャルに、容易に選抜することができる。また、発現プロモーターを選択することにより、目的タンパク質の発現時期を調整することができ、さらに高度にシーケンシャルな選抜を行うことが出来ると考えられる。
【0033】
(ポリエステルポリオールの製造方法)
次に、本発明のポリエステルポリオールの製造方法について述べる。
本発明のポリエステルポリオールの製造方法では、前記二倍体アーミング酵母を用いる。
例えば、前記二倍体アーミング酵母を触媒として用い、カルボン酸類とアルコール類とを反応せしめることによって、目的とするポリエステルポリオールを得ることができる。この場合、二倍体アーミング酵母の細胞表層に提示されている酵素は、リパーゼであることが好ましく、なかでもキャンディダ・アンタルクチカ由来のリパーゼが特に好ましい。
【0034】
使用可能なカルボン酸類に特に制限はないが、好ましいものとして、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有するカルボン酸類を挙げることができる。このようなカルボン酸類としては、例えば、脂肪族多価カルボン酸、脂環族多価カルボン酸、及び芳香族多価カルボン酸が挙げられる。
脂肪族多価カルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸などの炭素原子数が2〜20の飽和多価カルボン酸;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和多価カルボン酸などが挙げられる。
脂環族多価カルボン酸としては、具体的には、シクロブタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。
芳香族多価カルボン酸としては、具体的には、フタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。
これらの中でも、炭素数2〜12の脂肪族カルボン酸、又は炭素数6〜12の芳香族カルボン酸が好ましく、炭素数2〜12の脂肪族カルボン酸がより好ましい。
また、ポリエステルポリオールの合成反応において、反応の進行に伴って生成する水を後記するように減圧下で除去することを考慮すると、これらカルボン酸のうち、沸点が100℃以上のものが好ましい。
【0035】
また、アルコール類も特に制限はないが、好ましいものとして、1分子中に2個以上の水酸基を有するアルコール類を挙げることができる。このようなアルコール類としては、例えば、2〜4価の脂肪族又は芳香族アルコールや、その他の多価脂肪族又は芳香族アルコールが挙げられる。
2価のアルコールとしては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,2−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ヘプタンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなどが挙げられる。
3価のアルコールとしては、具体的には、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
4価のアルコールとしては、具体的には、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
その他の多価アルコールとしては、種々の糖類が挙げられる。
芳香族アルコールとしては、具体的には、p−キシリレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
これらの中でも、炭素数2〜12の脂肪族アルコール、又は炭素数6〜12の芳香族アルコールが好ましく、炭素数2〜12の脂肪族アルコールがより好ましい。
また、ポリエステルポリオールの合成反応において、反応の進行に伴って生成する水を後記するように減圧下で除去することを考慮すると、これらアルコール類のうち、沸点が100℃以上のものが好ましい。
【0036】
また、前記カルボン酸類及び/又はアルコール類の代わりに、1分子中にカルボキシ基と水酸基とを有する化合物を用いることもできる。1分子中にカルボキシ基と水酸基とを有する化合物としては、例えば、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、クエン酸、リンゴ酸などを挙げることができる。
【0037】
反応に用いるカルボン酸類とアルコール類とのモル比は、これらの種類や目的に応じて適宜調整すれば良く、特に限定されない。
また、反応を行うに際し、カルボン酸類及びアルコール類は、いずれも一括添加しても良いし、分割添加しても良い。そして、粉体などの固形状である場合には、適宜溶媒に溶解してから添加しても良く、この場合の溶液の添加は、一括添加、分割添加、滴下のいずれでも良い。このように、カルボン酸類及びアルコール類の添加方法は特に限定されず、例えば、反応液の流動性や溶解性などを考慮して、反応が進行し易くなるように適宜選択すれば良い。
【0038】
反応に用いる溶媒は、カルボン酸類及びアルコール類の種類などに応じて、公知のものから適宜選択すれば良い。有機溶媒であればアセトニトリルや低極性のものが好ましく、低極性の有機溶媒としては、トルエン、キシレン、ヘキサンなどが例示できる。溶媒を用いることで、反応液の流動性を向上させることができる。また溶媒は、減圧時に留去され難いよう沸点の高いものが好ましく、沸点が100℃以上のものがより好ましい。なかでも、通常反応性が良好であることから、トルエンが特に好ましい。
また、反応に用いる溶媒の量は、カルボン酸類及びアルコール類の種類などに応じて、流動性等を考慮して適宜選択すれば良い。
【0039】
また、反応開始時には、少量の水を添加することが好ましい。無水条件下では、ポリエステルポリオールの合成反応が進行し難くなることがある。その理由は定かではないが、反応開始時に、基質であるアルコール類が、アーミング酵母の細胞表層に提示したリパーゼが活性発現のために必要とする水を、リパーゼから奪ってしまうためではないかと推測される。
添加する水の量は、反応開始時の、水を除く原料混合物100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、2〜8質量部であることがより好ましい。添加する水の量が多すぎると、生成したポリエステルポリオールのエステル結合が合成反応中に加水分解され易いが、上記範囲内であれば、加水分解を抑制できる。
【0040】
反応に用いるカルボン酸類及びアルコール類の、少なくともいずれ一方が液体である場合には、無溶媒で反応を行っても良い。カルボン酸類及びアルコール類のいずれ一方が液体である場合には、例えば他方が粉末状で反応液がスラリー状であっても、該反応液が攪拌可能であれば、溶媒を用いた場合よりも高い原料濃度で反応を行うことができる。
【0041】
二倍体アーミング酵母の使用量は、反応に用いるカルボン酸類及びアルコール類の種類や量をはじめ、反応条件に応じて適宜選択すれば良い。その際には、例えば、市販の固定化酵素等と酵素活性を比較して、使用量決定の目安としても良い。
【0042】
反応温度は、二倍体アーミング酵母が活性を発現する温度であればよく、通常、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜70℃である。
反応時間は特に限定されないが、通常、好ましくは3〜120時間、より好ましくは20〜80時間である。
【0043】
反応時の撹拌方法も特に限定されず、周知のいずれの方法でも良い。例えば、攪拌翼や攪拌子を回転させる方法や振とう攪拌などが挙げられる。なかでも、攪拌効率が高いことから、攪拌翼を回転させる方法が好ましい。このような通常の攪拌方法を採用する限り、本発明の二倍体アーミング酵母の細胞表層に提示された酵素が、該二倍体アーミング酵母から剥離することはほとんどない。
【0044】
反応を行う際には、反応の進行に伴って生成する水を除去することが好ましい。水を除去しながら反応を行うことで、合成反応中のエステル結合の加水分解が抑制され、ポリエステルポリオールの収率を向上させることができる。
この時の水の除去は、常圧下で行うことも可能であるが、ポリエステルポリオールの分解等を防ぐためには、減圧下で行うことが好ましい。減圧下で行う方が、常圧下で行う場合よりも低い温度で水の留去が可能であり、温度選択の自由度が高くなる。
減圧時の圧力は、用いるカルボン酸類、アルコール類、溶媒などの種類や量に応じて適宜選択すれば良いが、通常は、5kPa以下であることが好ましく、2kPa以下であることがより好ましい。
減圧は、反応開始直後から開始しても良いし、反応開始から所定時間経過後に開始しても良く、反応の進行に応じて適宜調整すれば良い。
【0045】
水を除去する際には、反応に関与しない気体を反応器中に、好ましくは反応液中に吹き込むことによって、より効率的に水を留去することができる。使用される気体は、空気、窒素、アルゴン等の反応に関与しない気体であれば特に限定されないが、低コストであることから空気が好ましい。また、吹き込む気体の流量は、反応スケールによって異なり、連続的に水が留去できる流量を適宜選択して行うことができる。
【0046】
反応の進行の度合いは、反応液の酸価の減少で確認できることから、反応の終了点は、反応液の酸価の測定値で判断可能である。酸価の測定は公知の方法で行えば良く、例えば、酸価が1以下になった時点を反応終了点とすれば、所望の物性を有するポリエステルポリオールを得るのに好適である。
【0047】
本発明においては、ポリエステルポリオールの合成反応終了後に、用いた二倍体アーミング酵母を回収する工程を行うのが好ましい。従来の固定化酵素を用いた方法では、酵素の回収及び繰り返し利用が可能であるが、現在市販されている固定化酵素の中でもポリエステル合成に最適であるキャンディダ・アンタルクチカ由来のリパーゼ、例えば、ノボ社のNovozym435(登録商標)では、反応中に酵素が担体から剥離したり、担体が破砕したりし、これら剥離物又は破砕物が製品中に混入するため、得られた製品の加水分解が生じ、製品の保存安定性に課題が残っていた。しかしながら、本発明の二倍体アーミング酵母を用いた製造方法の場合には、驚くべきことに、ろ過など公知の簡便な回収工程を行うことにより、製品への二倍体アーミング酵母及び酵素の混入が極めて少なく、製品の分解等の副反応を顕著に抑制できる。
【0048】
二倍体アーミング酵母の回収は、固液分離可能な方法であれば、公知のいずれの方法で行っても良く、好ましい方法としてろ過による回収が挙げられる。
ろ過は加圧ろ過、吸引ろ過など公知のいずれの方法でもよく、特に限定されるものではないが、生成物の粘度が高い場合には加圧ろ過が好ましい。ろ過に使用するろ材は、二倍体アーミング酵母をろ別できるものであれば、その材質等は限定されないが、二倍体アーミング酵母の直径は、通常2〜6μm程度であるので、ろ材の目の孔径がこれより小さい方が好ましい。二倍体アーミング酵母の再利用を考えなければ、ろ過助剤を併用することもできる。この場合のろ過助剤も公知のいずれのものでも良い。また、反応液を反応終了後にそのままろ過することもできるが、有機溶剤などを用いて、二倍体アーミング酵母以外の成分を溶解させてからろ過してもよい。
【0049】
本発明の二倍体アーミング酵母は、ポリエステルポリオールの製造に用いても、酵素が細胞表層から剥離したり、二倍体アーミング酵母が破砕されることがほとんど無い。当該効果が発現されるメカニズムについては定かではないが、従来の樹脂製あるいは無機物製の固定化担体に比べ、柔軟な酵母細胞が固定化担体となっているために、担体の破砕が生じないものと推定される。また例えば、Flo1タンパク質との融合タンパク質の形でリパーゼを細胞表層に提示する本法では、リパーゼは細胞表層の糖鎖と複数の水素結合で固定化されていると推定されており、このように、従来の共有結合による固定化担体への固定化に比べ、細胞表層と酵素との結合点が多いために、高粘度流体中で撹拌されても、細胞表層と酵素との間の結合が切れにくく、酵素が細胞表層から剥離し難いものと推測される。
【0050】
したがって、二倍体アーミング酵母を回収した後に得られるポリエステルポリオールには、上記のように二倍体アーミング酵母及び酵素の混入が極めて少ない。これは、ポリエステルポリオールに水を添加し、加熱して、酸価を指標として加水分解の度合いを測定した際に、ほとんど加水分解が見られないことからも確認できる。すなわち、本発明により得られるポリエステルポリオールは、従来の固定化酵素を用いて得られるものに比べ、安定性が極めて高い。
【0051】
そして本発明においては、ポリエステルポリオールの製造後に、使用した二倍体アーミング酵母をほぼ全量回収できる。その理由は、上記のように酵素が細胞表層から剥離したり、二倍体アーミング酵母が破砕されたりすることがほとんど無いからであると推測される。
【0052】
回収した二倍体アーミング酵母は、繰り返しポリエステルポリオールの製造に使用できる。回収した二倍体アーミング酵母は、そのまま使用しても良いが、例えば、トルエンなどの有機溶媒で洗浄してから、使用することが好ましい。洗浄後はそのまま使用しても良いが、乾燥してから使用することが好ましい。乾燥は加熱乾燥でも良いが、酵素が失活しない温度で乾燥することが必要であり、風乾により乾燥することが好ましい。
【0053】
本発明においては、回収した二倍体アーミング酵母は、繰り返しポリエステルポリオールの製造に使用しても、酵素活性の低下がほとんど見られない。すなわち、回収した二倍体アーミング酵母と調製後未使用の二倍体アーミング酵母は、酵素活性が同等であり、本発明の二倍体アーミング酵母は、経済性で極めて優れたものである。
【0054】
本発明の製造方法では、得られるポリエステルポリオールの数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)は、用いるカルボン酸類及びアルコール類の種類や使用比率、その他の反応条件を調整することで調整できる。特に、質量平均分子量(Mw)が500〜100000のポリエステルポリオールを得るのに好適である。数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)は、公知のGPCカラムを用いた分析法によって、決定することができる。また、前記したように、本発明の製造方法で得られるポリエステルポリオールの酸価は、好ましくは1以下である。
【0055】
本発明の製造方法により得られるポリエステルポリオールの用途としては、例えば、ウレタン樹脂や塗料用樹脂の原料などが挙げられる。
【0056】
ここでは、反応器内でカルボン酸類及びアルコール類を、二倍体アーミング酵母と共に撹拌してポリエステルポリオールを合成する方法を中心に説明したが、反応の様式はこれに限定されず、例えば、アーミング酵母をカラムに充填し、該充填部に対してカルボン酸類やアルコール類などを含む液体を通過させる方法で、ポリエステルポリオールを合成しても良い。この場合の温度や溶媒など反応の諸条件は、上記説明に準じれば良い。
【実施例】
【0057】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(製造例)<CALB表層発現プラスミドの作成>
(1−A.キャンディダ・アンタルクチカ由来リパーゼB遺伝子の取得)
次のようにしてキャンディダ・アンタルクチカ由来リパーゼB(CALB)遺伝子を取得した。
すなわち、キャンディダ・アンタルクチカCBS6678株ゲノムをテンプレートとし、従来公知の方法でDNA合成装置にて合成した、配列番号1及び2に示す塩基配列からなるプライマーを用いてPCR増幅を行い、BglII及びXhoIで切断して、約1000bpの長さのBglII−XhoI断片(BglII−XhoI ProCALB CBS6678断片)を得た。このCALBは、Uppenbergらの文献(structure,2:293(1994))に記載され、もっとも広く知られているキャンディダ・アンタルクチカ LF058株由来リパーゼBのアミノ酸配列(CALB WT)と比較して7アミノ酸が変異している。すなわち25番目のアラニンがトレオニンに、28番目のセリンがトレオニンに、31番目のセリンがトレオニンに、46番目のグルタミンがグリシンに、89番目のアラニンがトレオニンに、97番目のアスパラギンがアルギニンに、286番目のバリンがイソロイシンにそれぞれ変異している、特徴的なCALBであった。
【0059】
(1−B.CALB遺伝子導入プラスミドの取得)
CALB遺伝子中への変異の導入を効率よく行うため、上記1−Aで得られたCALB CBS6678遺伝子を、一度サイズの小さいプラスミドに導入した。
すなわち、プラスミドpUC19(TaKaRa BIO社製)をBamHI及びSalIで切断し、上記Aで得られたBglII−XhoI ProCALB CBS6678断片を挿入して、プラスミドpUC19−ProCALB CBS6678を得た。作成の模式図を図1に示す。
【0060】
(1−C.CALB1遺伝子ならびにCALB1導入プラスミドの取得)
上記1−Bで得られたプラスミドpUC19−ProCALB CBS6678をテンプレートとし、従来公知の方法でDNA合成装置にて合成した、配列番号3及び4に示す塩基配列からなるプライマーを用いてPCR増幅を行うことにより、CALB CBS6678中にポイントミューテーションを導入し、CALB CBS6678中のアミノ末端から25番目のトレオニンをアラニンに、28番目のトレオニンをセリンに、31番目のトレオニンをセリンにそれぞれ置換したCALB1遺伝子を含むプラスミドpUC19−ProCALB1を得た。
【0061】
(1−D.CALB2遺伝子ならびにCALB2導入プラスミドの取得)
上記1−Cで得られたプラスミドpUC19−ProCALB1をテンプレートとし、従来公知の方法でDNA合成装置にて合成した、配列番号5及び6に示す塩基配列からなるプライマーを用いてPCR増幅を行うことにより、CALB1中にポイントミューテーションを導入し、CALB1中のアミノ末端から46番目のグリシンをグルタミンに置換したCALB2遺伝子を含むプラスミドpUC19−ProCALB2を得た。
【0062】
(1−E.リンカー導入型CALB遺伝子の取得)
上記1−Dで得られた各CALB2導入プラスミドをテンプレートとし、従来公知の方法でDNA合成装置にて合成した、配列番号7及び8に示す塩基配列からなるプライマーを用いてPCR増幅を行い、次いでBglII及びXhoIで切断して、約1000bpの長さのBglII−XhoI FLAG−ProCALB2断片を得た。BglII−XhoI FLAG−ProCALB2断片は、FLAG tag、リパーゼのプロ配列、及びCALB2の成熟タンパク質配列を有している。ここで、プロ配列とは、リパーゼの立体構造を形成するために必要とされる配列のことであり、FLAG tagとは、リンカー配列のことであり、成熟タンパク質配列とは、実際にリパーゼの触媒反応機能を有する配列のことである。
【0063】
(1−F.CALB表層発現カセットの作成)
CALB表層発現カセットは、発現プロモーターの配列とターミネーターの配列、並びにこれらの間にFLO1誘導体であるShort型FLO1アンカー遺伝子と上記1−Eで得られたリンカー導入型CALB遺伝子を接続したものをそれぞれ有するDNA配列である。該CALB表層発現カセットを作成するために、以下の操作を行った、作成の模式図を図2に示す。
すなわち、プラスミドpWIFS(T.Matsumotoら、Appl.Environ.Microbiol.,68:4517(2002))をBglIIとXhoIで切断し、上記1−Eで得られたBglII−XhoI FLAG−ProCALB2断片を挿入して、pWIFS−FLAG−ProCALB2を得た。そしてこれをBssHIIで切断し、約6300bpのCALB表層発現カセットを得た。
【0064】
(1−G.CALB表層発現プラスミドの作成)
目的のDNAを有するプラスミドは、上記1−Fで得られたCALB表層発現カセットを、各種選択マーカーを有するプラスミドに導入することで得られる。作成の模式図を図3に示す。
すなわち、プラスミドpRS402(ATCC87477)、pRS403(ATCC87514)、pRS404(ATCC87515)、pRS405(ATCC87516)、pRS402(ATCC87517)をそれぞれBssHIIで切断し、上記Fで得られたCALB表層発現カセットを挿入してpRSAIFS−FLAG−ProCALB2、pRSHIFS−FLAG−ProCALB2、pRSWIFS−FLAG−ProCALB2、pRSLIFS−FLAG−ProCALB2、pRSUIFS−FLAG−ProCALB2を得た。
【0065】
(実施例1)<ゲノム組み込み型二倍体CALB−アーミング酵母の調製>
(2−A.サッカロミセス属酵母への遺伝子の導入)
上記1−Gで得られたCALB表層発現プラスミドを、表1に示す制限酵素を用いて、それぞれ選択マーカー中に存在する制限酵素サイトで切断した。次いで、YEAST MAKERTM(Clontech Laboratories Inc. USA)を用いて、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae、以下、サッカロミセス・セレヴィシエと略記する)YPH499(MATa,ura3,lys2,ade2,his4,trp1,leu2)には、pRSUIFS−FLAG−ProCALB2、pRSLIFS−FLAG−ProCALB2、pRSHIFS−FLAG−ProCALB2、pRSAIFS−FLAG−ProCALB2をこの順で、サッカロミセス・セレヴィシエYPH500(MATalpha,ura3,lys2,ade2,his4,trp1,leu2)には、pRSUIFS−FLAG−ProCALB2、pRSLIFS−FLAG−ProCALB2、pRSWIFS−FLAG−ProCALB2、pRSAIFS−FLAG−ProCALB2をこの順で、それぞれのゲノム中に導入した。各形質転換の選択においては、アミノ酸並びに核酸(0.002%L−ヒスチジン、0.01%L−ロイシン、0.002%L−トリプトファン、0.002%L−リシン、0.002%アデニン、0.002%ウラシル)のうち、選択に必要なものを含むSD寒天培地(2%グルコース、0.67% Yeast Nitrogen Base without amino acids)を用いて培養した。生育した酵母を選択し、ゲノム組み込み型CALBアーミング酵母である、サッカロミセス・セレヴィシエYPH499−U、YPH499−UL、YPH499−ULH、YPH499−ULHA、並びにYPH500−U、YPH500−UL、YPH500−ULW、YPH500−ULWAアーミング酵母を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
(2−B.一倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母の調製)
上記2−Aで創製したサッカロミセス・セレヴィシエYPH499−U、YPH499−UL、YPH499−ULH、YPH499−ULHA、並びにYPH500−U、YPH500−UL、YPH500−ULW、YPH500−ULWAアーミング酵母を、SDC培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、2%カザミノ酸、appropriate amino acids and nucleic acids)に植菌し、30℃で6日間浸透培養した。次いで、遠心分離により培地と菌体に分離し、得られた菌体を一倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母とした。得られた一倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母の、酪酸p−ニトロフェニル(以下、PNPBと略記する)を基質とした30℃におけるリパーゼ活性を確認した(比較例5参照)。
【0068】
(2−C.二倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母の創製)
一倍体アーミング酵母YPH499−ULHA、YPH500−ULWAをYPD培地(2%グルコース、2%peptone、1%yeast extract)に植菌し、30℃で1時間培養後、遠心分離により培地と菌体に分離し、得られた菌体を混合してYPD培地に再懸濁し、30℃で一晩培養した。これを適切な菌体密度に希釈した後、SD+K寒天培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、0.002%L−リシン)を用いて培養した。生育した酵母を選択し、ゲノム導入型二倍体CALB−アーミング酵母である、サッカロミセス・セレヴィシエYPH501−U2L2HWA2アーミング酵母を得た。
【0069】
(2−D.二倍体サッカロミセス−CALBアーミング酵母の調製)
上記2−Cで得られたサッカロミセス・セレヴィシエYPH501−U2L2HWA2アーミング酵母を、SDC+K培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、2%カザミノ酸、0.002%L−リシン)に植菌し、30℃で6日間浸透培養した。次いで、遠心分離により培地と菌体に分離し、PNPBを基質とした菌体の30℃におけるリパーゼ活性(エステル分解活性)を確認した。
エステル分解活性の測定には、PNPB法を用いた。培養液を遠心分離することで菌体を回収し、得られた菌体を蒸留水で2回洗浄した。次いで、菌体を20mMリン酸緩衝液に懸濁し、30℃で5分間プレインキュベートした。一方、基質にはPNPBを用いた。PNPBは少量のエタノールに溶解させた後、蒸留水で適当に希釈して基質液を調製した。プレインキュベートした菌体懸濁液へ基質液を加え、よく撹拌し、振盪させながら30℃で10分間反応させた。次いで、5%トリクロロ酢酸水溶液を添加し、反応を停止したのち、遠心分離し、上清を回収し、200mMリン酸緩衝液で希釈し、400nmの吸光度を測定した。そして、生成したp−ニトロフェノール(PNP)量を求め、エステル分解活性とした。活性を定義するにあたり、PNPが1分間に1μmol生成する酵素量を1Uと定義した。
【0070】
(比較例1)<プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2の調製>
(3−A.サッカロミセス属酵母へのプラスミドによる遺伝子の導入)
上記1−Fで得られたプラスミドpWIFS−FLAG−ProCALB2を、YEAST MAKERTM(Clontech Laboratories Inc.USA)を用いて、サッカロミセス・セレヴィシエYPH501(MATa/alpha, ura3/ura3,lys2/lys2,ade2/ade2,his4/his4,trp1/trp1,leu2/leu2)に導入した。これを、SD−W寒天培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、0.002%L−ヒスチジン、0.01%L−ロイシン、0.002%L−リシン、0.002%アデニン、0.002%ウラシル)を用いて培養した。生育した酵母を選択し、プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2を得た。
【0071】
(3−B.プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2の調製)
上記3−Aで得られたプラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2を、SDC−W培地(2%グルコース、0.67%Yeast Nitrogen Base without amino acids、2%カザミノ酸、0.002%L−ヒスチジン、0.01%L−ロイシン、0.002%L−リシン、0.002%アデニン、0.002%ウラシル)に植菌し、30℃で6日間浸透培養した。次いで、遠心分離により培地と菌体に分離し、実施例1と同様にPNPBを基質とした菌体の30℃におけるリパーゼ活性(エステル分解活性)を確認した。
【0072】
(実施例2)<二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2の凍結乾燥菌体の調製>
上記2−Cに示すように創生した、細胞融合した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を、SDC培地(2%カザミノ酸、2%グルコース、0.67%YNB、0.008%L−トリプトファン、0.008%L−リジン、0.008%L−ヒスチジン)にて30℃で6日間培養し、培養液を得た。得られた培養液を遠心分離して菌体を回収し、この菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した後、再び50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。得られた菌体懸濁液を1日間凍結乾燥し、乾燥菌体を得た。
【0073】
(比較例2、3)<一倍体アーミング酵母YPH499−ULHA及びYPH500−ULWAの凍結乾燥菌体の調製>
二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2の代わりに、上記2−Aに示すように創生した一倍体アーミング酵母YPH499−ULHA及びYPH500−ULWAを用いたこと以外は実施例2と同様にして、一倍体アーミング酵母YPH499−ULHAの乾燥菌体(比較例2)及びYPH500−ULWAの乾燥菌体(比較例3)を得た。
【0074】
(比較例4)<プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2の凍結乾燥菌体の調製>
上記3−Aに示すように創生したプラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2を、SDC培地(2%カザミノ酸、2%グルコース、0.67%YNB、0.04%L−ロイシン、0.008%L−ヒスチジン、0.008%ウラシル、0.04%アデニン)にて、30℃で7日間培養し、培養液を得た。得られた培養液を遠心分離して菌体を回収し、この菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄した後、再び50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。得られた菌体懸濁液を1日間凍結乾燥し、乾燥菌体を得た。
【0075】
(比較例5)<一倍体アーミング酵母YPH499−U、YPH499−UL、YPH499−ULH、YPH499−ULHA、YPH500−U、YPH500−UL、YPH500−ULW及びYPH500−ULWAのエステル分解活性の測定>
上記2−Bで調製した一倍体アーミング酵母YPH499−U、YPH499−UL、YPH499−ULH、YPH499−ULHA、YPH500−U、YPH500−UL、YPH500−ULW及びYPH500−ULWAを用いて、実施例1と同様にPNPBを基質とした30℃におけるリパーゼ活性(エステル分解活性)を確認した。結果を図4に示す。
図4より、宿主細胞としてYPH499及びYPH500を用いた一倍体アーミング酵母のそれぞれにおいて、CALB表層発現カセットのゲノム上への導入数の増加に伴い、リパーゼ活性の向上が確認された。これにより、目的タンパク質発現カセットを複数個宿主細胞のゲノム中へ導入することにより、アーミング酵母の酵素活性を向上させることが可能であることが示された。
【0076】
(実施例3)<二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2のエステル合成活性の測定>
実施例2で調製した二倍体アーミング酵母YPH501U2L2HWA2の乾燥菌体を100mg試験管に採り、これにアジピン酸150mg、n−ブタノール3ml及び蒸留水0.12mlを加え、60℃で3時間、150rpmで撹拌しながら反応させた。反応終了後、反応液を12000rpmで5分間遠心分離し、上清を、0.45μmフィルターを用いて濾過した。得られた濾液をn−ブタノールで適当な倍率に希釈し、ガスクロマトグラフィーで分析して、生成したジブチルアジピン酸(以下、DBAと略記する)の量を測定した。結果を図5に示す。なお、ガスクロマトグラフィーの分析条件は次の通りである。
カラム:TC−5(ジー・エル・サイエンス製)長さ30m、内径0.32mmID、液相膜厚0.25μm
スプリット分析
気化室温度:270℃、カラム温度:120℃、4分間保持、温度上昇速度20℃/min、300℃、10分間保持
検出器:FID
検出器温度:350℃
【0077】
(比較例6、7)<一倍体アーミング酵母YPH499−ULHA及びYPH500−ULWAのエステル合成活性の測定>
実施例2で調製した二倍体アーミング酵母YPH501U2L2HWA2の乾燥菌体に代わり、比較例2で調製した一倍体アーミング酵母YPH−499ULHAの乾燥菌体、及び比較例3で調製した一倍体アーミング酵母YPH−500ULWAをそれぞれ別々に用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で一倍体アーミング酵母のエステル合成活性を測定した。(比較例2の一倍体アーミング酵母を用いた測定を比較例6、比較例3の一倍体アーミング酵母を用いた測定を比較例7とする。)結果を図5に示す。
【0078】
図5に示すように、一倍体アーミング酵母YPH499−ULHAよりも一倍体アーミング酵母YPH500−ULWAの方が、エステル合成活性が高かった。YPH499−ULHAとYPH500−ULWAとでは、CALB表層発現カセットが異なる選択マーカー中に組み込まれており、このことが活性発現量に何らかの影響を与えているのではないかと推定している。
一方、これら一倍体アーミング酵母を細胞融合して得た二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2は、全く意外にも、これら一倍体アーミング酵母の活性からは予想し得ない高活性を示した。
【0079】
(実施例4)<細胞融合した二倍体アーミングYPH501−U2L2HWA2のエステル合成活性の安定性の確認>
二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2をSDC培地(2%カザミノ酸、2%グルコース、0.67%YNB、0.008%L−トリプトファン、0.008%L−リジン、0.008%L−ヒスチジン)にて30℃で培養を開始し、1日後、この培養液の一部を前記SDC培地と同一組成の新たなSDC培地へ1%の植菌率で植え継いだ。残りの培養液はさらに4日間培養を継続し、実施例2と同様の方法にて凍結乾燥菌体Aを得た。植え継いだ培養液は30℃で培養し、1日後、再び新たな同一組成のSDC培地へ1%の植菌率で植え継いだ。残りの培養液はさらに4日間培養を継続し、実施例2と同様の方法にて凍結乾燥菌体Bを得た。植え継いだ培養液は30℃で培養し、以降、同様の操作を繰り返して、順次凍結乾燥菌体C、D、Eを得た。このように継代培養することにより、凍結乾燥菌体A、B、C、D、Eを得て、これらの凍結乾燥菌体を用いて、実施例3と同様の方法でエステル合成活性を測定した。結果を図6に示す。
図6に示すように、凍結乾燥菌体A、B、C、D、Eを用いた時のエステル合成活性は、いずれもほぼ一定の値を示した。すなわち、この結果は、二倍体アーミング酵母YPH−501に導入されたCALB表層発現カセットは、該酵母の増殖過程においても安定に保持され、安定に発現し、細胞表層に提示され、機能していることを示している。
【0080】
(比較例8)<プラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2のリパーゼ活性の安定性>
比較例1で得たプラスミド導入型CALB−アーミング酵母YPH501/pWIFS−FLAG−ProCALB2を用い、培地としてSDC培地(2%カザミノ酸、2%グルコース、0.67%YNB、0.04%L−ロイシン、0.008%L−ヒスチジン、0.008%ウラシル、0.04%アデニン)を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で継代培養を行い、凍結乾燥菌体F、G、H、I、Jを得、これらの凍結乾燥菌体を用いてエステル合成活性を測定した。結果を図6に示す。
図6に示すように、凍結乾燥菌体F、G、H、I、Jは、そのエステル合成活性が不安定で、培養ロットごとにエステル合成活性に大きなばらつきがみられた。
【0081】
実施例4及び比較例8の結果から、CALB−アーミング酵母は、プラスミド導入型よりもゲノム組み込み型の方が、導入したタンパク質の発現が安定しており、プラスミド導入型で目的タンパク質発現カセットを導入するよりも、ゲノム組み込み型で目的タンパク質発現カセットを導入した方が性能面で優れていると考えられる。
さらに、比較例5の結果も考え合わせると、複数のタンパク質発現カセットを導入する場合には、プラスミド導入型で導入するよりもゲノム組み込み型で導入した方が、目的タンパク質の発現量と導入したカセット数の関係が明確であり、導入するカセット数に応じて目的タンパク質の発現量を制御し易いと考えられる。すなわち、複数種のタンパク質を細胞表層に提示する場合、導入する各目的タンパク質のカセット比率を変えることで、細胞表層提示タンパク質の発現量比を調節することが可能となると考えられる。また、発現プロモーターを選別することにより、目的タンパク質の細胞表層発現時期も調整することが可能であると考えられる。本発明は、このようにアーミング酵母の細胞表層発現パターンを設計する場合に、極めて有利である。
【0082】
(実施例5)<二倍体アーミングYPH501−U2L2HWA2を用いたポリエステルポリオールの合成>
1,4−ブタンジオール64g、アジピン酸93.6g、水8gを300mlガラス反応器に仕込み、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を8.2g添加し、撹拌しながら60℃で反応を開始した。反応開始から6時間経過した時点で、ガラス反応器内を1.5kPaに減圧すると共に、乾燥空気を0.2L/minの流量で吹き込み、反応系から脱水を促した。反応の進行は酸価の減少で追跡した。この時の反応の進行の様子を図7に示す。反応開始から80時間で酸価が1以下まで低下したため、反応を終了し、濾紙(商品名:Advantec28−3)を用いた加圧濾過により、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を回収し、無色透明なポリエステルポリオールを得た。得られたポリエステルポリオールの分子量及び分子量分布を、東ソー社製GPCカラム(G1000HXL×1本、G2000HXL×1本、G3000HXL×1本、G40000HXL×1本、いずれも商品名)を用い、流量1ml/min、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。その結果、数平均分子量(Mn)が3526、質量平均分子量(Mw)が6701、Mw/Mnが1.90であった。
【0083】
(実施例6)<二倍体アーミングYPH501−U2L2HWA2を用いたポリエステルポリオールの合成>
3−メチルペンタンジオール74g、アジピン酸73g、水4gを300mlガラス反応器に仕込み、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を6.3g添加し、撹拌しながら60℃で反応を開始した。反応開始から8時間経過した時点で、ガラス反応器内を1.5kPaに減圧すると共に、乾燥空気を0.2L/minの流量で吹き込み、反応系から脱水を促した。反応の進行は酸価の減少で追跡した。この時の反応の進行の様子を図8に示す。反応開始から48時間で酸価が1以下まで低下したため、反応を終了し、濾紙(商品名:Advantec28−3)を用いた加圧濾過により、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を回収し、無色透明なポリエステルポリオールを得た。得られたポリエステルポリオールの分子量及び分子量分布を、東ソー社製GPCカラム(G1000HXL×1本、G2000HXL×1本、G3000HXL×1本、G40000HXL×1本、いずれも商品名)を用い、流量1ml/min、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。その結果、数平均分子量(Mn)が1867、質量平均分子量(Mw)が2970、Mw/Mnが1.59であった。
【0084】
(実施例7)<二倍体アーミングYPH501−U2L2HWA2の繰り返し使用>
実施例5で使用し、回収した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を、トルエンで2回洗浄し、室温にて風乾した。実施例5と同様に、1,4−ブタンジオール64g、アジピン酸93.6g、水8gを300mlガラス反応器に仕込み、この風乾した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を0.5gだけ活性測定用に分け採り、残りを全量投入した。そして、実施例5と同様の反応条件にて合成を進め、酸価が1以下となった時点で反応を停止した。得られた反応液を、濾紙(商品名:Advantec28−3)を用いた加圧濾過により、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2とポリエステルポリオールに分画し、二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2は回収し、再びトルエンで2回洗浄し、次の反応に供した。一方、得られたポリエステルポリオールについては、実施例5と同様に、GPCにて分子量及び分子量分布を確認した。このような方法にて、実施例5で回収した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を4回繰り返し使用して、ポリエステルポリオールの合成を行った。この時の反応の進行の様子を図9に示す。なお、この時の二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2の使用量は、2.7〜5.5質量%であった。
図9に示すように、回収した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2は、繰り返し回収しながら使用してもエステル合成活性の低下が見られず、例えば、実施例5で使用した、回収を経ていない二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2と比べても、全く遜色ないエステル合成活性を有していることが確認された。
【0085】
(実施例8)<二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2のエステル合成活性の測定>
実施例5で使用した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2(回収0回)、及び実施例7で使用した二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2(回収1〜4回)のエステル合成活性を、実施例3と同様の方法で測定した。結果を図10に示す。
図10に示すように、上記二倍体アーミング酵母は、4回繰り返し回収しながらポリエステルポリオール合成に使用しても、エステル合成活性の顕著な低下は認められず、繰り返し使用できることが確認された。この結果は、実施例7の結果を裏付けるものであった。
【0086】
(実施例9)<二倍体アーミング酵母YPH501−U2L2HWA2を用いて合成したポリエステルポリオールの耐加水分解性の確認>
実施例5で得られたポリエステルポリオールを80℃にて溶解し、そこへ蒸留水5質量部を加え、よく混合した後、再び80℃でインキュベートした。そして、約80時間に亘って経時的に酸価を測定し、耐加水分解性を確認した。結果を図11に示す。
図11に示すように、ほとんど酸価の上昇はなく、ポリエステルポリオールの加水分解はみられなかった。
【0087】
(比較例9)<市販品CALB固定化酵素を用いたポリエステルポリオールの合成>
1,4−ブタンジオール64g、アジピン酸93.6gを300mlガラス反応器に仕込み、市販品のCALB固定化酵素(ノボザイムズ社製、商品名:ノボザイム435)を1.6g添加し、撹拌しながら60℃で反応を開始した。反応開始時よりガラス反応器内を1.5kPaに減圧すると共に、乾燥空気を0.2L/minの流量で吹き込み、反応系から脱水を促した。反応の進行は酸価の減少で追跡した。反応開始から50時間で酸価が1以下まで低下したため、反応を終了し、濾紙(商品名:Advantec28−3)を用いた加圧濾過により、CALB固定化酵素を回収し、ポリエステルポリオールを得た。得られたポリエステルポリオールの分子量及び分子量分布を、東ソー社製GPCカラム(G1000HXL×1本、G2000HXL×1本、G3000HXL×1本、G40000HXL×1本、いずれも商品名)を用い、流量1ml/min、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。その結果、数平均分子量(Mn)が2250、質量平均分子量(Mw)が4260、Mw/Mnが1.89であった。
【0088】
(比較例10)<市販品CALB固定化酵素を用いて合成したポリエステルポリオールの耐加水分解性の確認>
比較例9で得られたポリエステルポリオールを80℃にて溶解し、そこへ蒸留水5質量部を加え、よく混合した後、再び80℃でインキュベートした。そして、1週間に亘って経時的に酸価を測定し、耐加水分解性を確認した。結果を図11に示す。
図11に示すように、インキュベート開始から72時間後には酸価が25まで上昇し、加水分解が顕著に進行することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】製造例におけるプラスミドpUC19−ProCALB CBS6678作成の模式図である。
【図2】製造例におけるCALB表層発現カセット作成の模式図である。
【図3】製造例におけるCALB表層発現プラスミド作成の模式図である。
【図4】比較例5における一倍体アーミング酵母のエステル分解活性の試験結果を示すグラフである。
【図5】実施例3における二倍体アーミング酵母、並びに比較例6及び7における一倍体アーミング酵母のエステル合成活性の試験結果を示すグラフである。
【図6】実施例4におけるゲノム組み込み型二倍体アーミング酵母のリパーゼ活性の安定性及び比較例8におけるプラスミド導入型CALB−アーミング酵母のリパーゼ活性の安定性に関する試験結果を示すグラフである。
【図7】実施例5におけるポリエステルポリオール合成反応の進行の様子を示すグラフである。
【図8】実施例6におけるポリエステルポリオール合成反応の進行の様子を示すグラフである。
【図9】実施例7におけるポリエステルポリオール合成反応の進行の様子を示すグラフである。
【図10】実施例8における二倍体アーミング酵母のエステル合成活性の試験結果を示すグラフである。
【図11】実施例9及び比較例10におけるポリエステルポリオールの耐加水分解性の試験結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することを特徴とする二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項2】
前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれか一方あるいは両方の細胞表層へ提示されるタンパク質が、分泌シグナル配列、前記タンパク質の構造遺伝子配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNAによって細胞表層に発現されるものである請求項1に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項3】
前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれか一方あるいは両方の細胞表層へ提示されるタンパク質が、分泌シグナル配列、前記タンパク質の構造遺伝子配列、GPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNAによって細胞表層に発現されるものである請求項1に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項4】
前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれか一方あるいは両方の細胞表層へ提示されるタンパク質が、分泌シグナル配列、前記タンパク質の構造遺伝子配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列をこの順で有するDNA、あるいは分泌シグナル配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列、前記細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAによって細胞表層に発現されるものである請求項1に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項5】
前記糖鎖結合タンパク質ドメインが、少なくとも細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインを含む部分である請求項4に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項6】
前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母が、サッカロミセス(Saccharomyces)属酵母である請求項1〜5のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項7】
前記細胞表層に提示されるタンパク質が酵素である請求項1〜6のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項8】
前記細胞表層に提示されるタンパク質が分泌型酵素である請求項1〜6のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項9】
前記細胞表層に提示されるタンパク質がリパーゼである請求項1〜6のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項10】
前記細胞表層に提示されるタンパク質がキャンディダ・アンタルクチカ(Candida Antarctica)由来のリパーゼである請求項1〜6のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法により得られることを特徴とする二倍体アーミング酵母。
【請求項12】
請求項11に記載の二倍体アーミング酵母を用いることを特徴とするポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項13】
細胞表層にリパーゼが提示された前記二倍体アーミング酵母を触媒として用い、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有するカルボン酸類と、1分子中に2個以上の水酸基を有するアルコール類とを反応させる請求項12に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項14】
前記カルボン酸類が、炭素数2〜12の脂肪族カルボン酸、又は炭素数6〜12の芳香族カルボン酸である請求項13に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項15】
前記アルコール類が、炭素数2〜12の脂肪族アルコール、又は炭素数6〜12の芳香族アルコールである請求項13又は14に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項16】
ポリエステルポリオールの合成反応終了後に、前記二倍体アーミング酵母を回収する工程を有する請求項12〜15のいずれか一項に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項17】
前記二倍体アーミング酵母を回収する工程が、ろ過による回収工程である請求項16に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項1】
一倍体a細胞アーミング酵母と一倍体α細胞アーミング酵母を細胞融合することを特徴とする二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項2】
前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれか一方あるいは両方の細胞表層へ提示されるタンパク質が、分泌シグナル配列、前記タンパク質の構造遺伝子配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNAによって細胞表層に発現されるものである請求項1に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項3】
前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれか一方あるいは両方の細胞表層へ提示されるタンパク質が、分泌シグナル配列、前記タンパク質の構造遺伝子配列、GPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNAによって細胞表層に発現されるものである請求項1に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項4】
前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母のいずれか一方あるいは両方の細胞表層へ提示されるタンパク質が、分泌シグナル配列、前記タンパク質の構造遺伝子配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列をこの順で有するDNA、あるいは分泌シグナル配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列、前記細胞表層へ提示されるタンパク質の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAによって細胞表層に発現されるものである請求項1に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項5】
前記糖鎖結合タンパク質ドメインが、少なくとも細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインを含む部分である請求項4に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項6】
前記一倍体a細胞アーミング酵母及び一倍体α細胞アーミング酵母が、サッカロミセス(Saccharomyces)属酵母である請求項1〜5のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項7】
前記細胞表層に提示されるタンパク質が酵素である請求項1〜6のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項8】
前記細胞表層に提示されるタンパク質が分泌型酵素である請求項1〜6のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項9】
前記細胞表層に提示されるタンパク質がリパーゼである請求項1〜6のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項10】
前記細胞表層に提示されるタンパク質がキャンディダ・アンタルクチカ(Candida Antarctica)由来のリパーゼである請求項1〜6のいずれか一項に記載の二倍体アーミング酵母の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法により得られることを特徴とする二倍体アーミング酵母。
【請求項12】
請求項11に記載の二倍体アーミング酵母を用いることを特徴とするポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項13】
細胞表層にリパーゼが提示された前記二倍体アーミング酵母を触媒として用い、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有するカルボン酸類と、1分子中に2個以上の水酸基を有するアルコール類とを反応させる請求項12に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項14】
前記カルボン酸類が、炭素数2〜12の脂肪族カルボン酸、又は炭素数6〜12の芳香族カルボン酸である請求項13に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項15】
前記アルコール類が、炭素数2〜12の脂肪族アルコール、又は炭素数6〜12の芳香族アルコールである請求項13又は14に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項16】
ポリエステルポリオールの合成反応終了後に、前記二倍体アーミング酵母を回収する工程を有する請求項12〜15のいずれか一項に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【請求項17】
前記二倍体アーミング酵母を回収する工程が、ろ過による回収工程である請求項16に記載のポリエステルポリオールの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−92943(P2008−92943A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198810(P2007−198810)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】
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