説明

二次電池用負極及びこれを用いた二次電池

【課題】負極活物質がケイ素又はケイ素合金からなり、サイクル特性に優れた二次電池用負極を提供する。
【解決手段】バインダーに(1)式で表されるポリイミド樹脂を用いる。


〔式中、Ar1は、少なくとも2個のエーテル結合を有した2価の芳香族ジアミン残基、又は、シロキサン結合を有したジアミン残基を示し、Ar2は、下記式(2)又は式(3)で表される4価の酸二無水物残基を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二次電池用の負極、及びそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池のひとつであるリチウム二次電池は、他の二次電池と比べて高いエネルギー密度を有することから、小型化・軽量化が可能であり、携帯電話、パソコン、携帯情報端末(PDA)、ハンディビデオカメラ等の移動電子機器の電源として多く利用されており、今後もその需要は益々高くなると予想されている。
【0003】
特に、近年においては、エネルギー問題や環境問題に対応するために、電気自動車や、ニッケル水素電池駆動のモーターとガソリンエンジンとを組み合わせたハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle:HEV)への需要も増し、初期効率や充・放電容量のほか、入出力特性やサイクル寿命といったリチウム二次電池の性能の更なる向上が求められている。
【0004】
リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)は、正極と負極の間にリチウムイオンを含んだ電解質が満たされた構造を有し、このうち負極は、リチウムをインターカレーション、或いはコンバージョンにより吸蔵・放出する負極活物質がバインダー(結着剤)で結着されて、集電体上で一体化された活物質層を備える。そして、上記のようバインダーとしては、これまでポリフッ化ビニリデン(PVDF)が主に使用されてきた。
【0005】
ところが、PVDFでは、負極活物質同士や集電体との接着力が十分ではなく、次第に結着性が悪くなり、サイクル寿命が短くなるといった問題が明らかになっている。また、短絡等により電池温度が異常に上昇すると、PVDFが分解してHFが発生し、このHFがLiと激しく発熱反応するため、電池が破損するなど、信頼性の点でも問題があった。
【0006】
更に、今後自動車向け或いは産業用途に適用するための高容量化の流れを受け、負極活物質としてケイ素合金やスズ合金といった合金系化合物を使用する検討が活発化してきている。ところが、これらの合金系化合物は、充放電に伴う体積の膨張収縮が大きいため、バインダーには更に高い接着力が必要となり、接着力の高いバインダーが望まれている。
【0007】
そこで、例えば、ポリイミド等の高強度樹脂を負極のバインダーとして用いるような提案がなされている(下記特許文献1参照)。しかしながら、単にポリイミド樹脂等をバインダーとして用いた場合であっても、未だ密着性や樹脂強度が不十分であって、初期充放電効率やサイクル特性を十分に向上させることができないという問題もある。
【0008】
一方で、集電箔と活物質の接着性を向上させるために、集電箔の表面粗さを大きくする工夫がなされている(下記特許文献2及び3参照)。しかしながら、このように集電箔の表面粗さを大きくするためには生産上の工程が増加し、コストアップに繋がってしまう。
【0009】
更には、集電箔と活物質との接着性を向上させるための別の手段として、バインダー或いはその前駆体を熱処理により分解させる方法が提案されている(下記特許文献4参照)。しかしながら、このような方法における高温で長時間の熱処理は、コストアップとなってしまう。また、バインダー或いはその前駆体の熱分解の程度を精密に制御することは難しいことが予想されるが、その制御に関する具体的な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2004/004031号公報
【特許文献2】特開2002−260637号公報
【特許文献3】特開2008−34352号公報
【特許文献4】特開2007−242405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高容量化が可能であって、リチウムをコンバージョンにより吸蔵・放出するケイ素やスズ、或いはこれら合金系の化合物を負極活物質に利用する試みは、今後盛んになることが予想される。ところが、上述したように、これら金属又はその合金からなる活物質粒子は、リチウムとのコンバージョンの際に、最大400%程度膨張することが知られており、充放電に伴う体積膨張や収縮に起因して、比較的早い段階で性能が劣化してしまう問題がある。そのため、充放電の繰返しに対して耐久性を向上させなければ、その実用化は極めて困難である。
【0012】
そこで、本発明者等は、負極活物質としてケイ素又はケイ素合金からなる活物質粒子を使用する場合について、充放電の耐久性を向上させるべく鋭意検討した結果、特定の酸無水物とジアミンを原料にしたポリイミド樹脂をバインダーとして用いることで、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
したがって、本発明の目的は、負極活物質としてケイ素又はケイ素合金からなる活物質粒子を使用した場合について、充放電の繰り返しに対して耐久性を備えた二次電池用負極を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このような負極を用いて、特に、ハイブリッド自動車や電気自動車用等の車載電源をはじめ、大型蓄電等の用途に好適な二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、負極活物質をバインダーで一体化した活物質層を備えた二次電池用の負極であって、前記負極活物質が、ケイ素又はケイ素合金のうち少なくとも一方を含有した活物質粒子を含み、前記バインダーとして、下記一般式(1)で表されるポリイミド樹脂を用いたことを特徴とする二次電池用負極である。
【化1】

〔式中、Ar1は、少なくとも2個のエーテル結合を有した2価の芳香族ジアミン残基、又は、シロキサン結合を有するジアミン残基を示し、Ar2は、下記式(2)又は式(3)で表される4価の酸二無水物残基を示す。〕
【化2】

〔式(3)において、Yは、直結合、−CO−、又は−SO2−のいずれかを示す。〕
【0015】
また、本発明は、上記の負極を用いた二次電池である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、負極活物質としてケイ素又はケイ素合金からなる活物質粒子を使用した場合でも、充放電の繰り返しに対して、優れた耐久性を備えた二次電池用負極とすることができる。そのため、この負極を用いれば高容量の二次電池を得ることができ、しかも、長期の使用に亘って、その性能が低下することがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例及び比較例における試験用電池の放電容量の維持率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、二次電池用負極の実施の形態に基づいて、詳細に説明する。
本発明では、バインダーとして、下記のとおり、所定のポリイミド樹脂を用いる。一般に、ポリイミド樹脂は、負極活物質同士の結着力に優れるほか、PVDFと比べて負極を形成する集電体に対する接着性に優れる。加えて、ポリイミド樹脂は、フッ素樹脂の一種であるPVDFと異なり、構造内にフッ素を含有せず、また、熱的に安定で耐熱性が高いため、電池温度が異常に上昇したときでも電池が破損、破裂する危険性が低い。
【0019】
本発明で用いるポリイミド樹脂は、先ず、上記一般式(1)に示したAr1が、少なくとも2個のエーテル結合を有した2価の芳香族ジアミン残基であり、好適には以下のものを挙げることができる。
【化3】

〔式(4)においてXは、芳香環を1以上有する2価の有機基を表し、好ましくは、下記(5)に示した構造のものが挙げられる。〕
【化4】

【0020】
このような芳香族ジアミン残基を与える好ましいジアミン成分として、具体的には2,2'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)等が挙げられる。
【0021】
また、本発明で用いるポリイミド樹脂の他の例は、上記一般式(1)に示したAr1の一部又は全部が、シロキサン結合を有したジアミン残基であるシロキサン変性ポリイミドが挙げられる。シロキサン結合を有するジアミン残基部分は、シロキサン結合の繰り返し数が1〜20の範囲であることが好ましい。また、シロキサン変性ポリイミドにおいて、Ar1の一部がシロキサン結合を有するジアミン残基とする場合、その他の部分は、芳香族ジアミン残基とすることが好ましい。このようなジアミン残基を与えるシロキサンジアミンは一般的に市販されているものを用いることが出来る。
【0022】
また、本発明で用いるポリイミド樹脂は、上記一般式(1)に示したAr2が、下記式(2)又は式(3)で表される4価の酸二無水物残基である。
【化5】

〔式(3)において、Yは、直結合、−CO−、又は−SO2−のいずれかを示す。〕
【0023】
このような酸二無水物残基を与える好ましい酸二無水物として、具体的には無水ピロメリット酸(PMDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)等が挙げられる。なお、ポリイミド樹脂の原料となるジアミン及び酸無水物は、それぞれ2種以上の成分を混合してもよく、また、上記Ar1及びAr2で表される以外のジアミンや酸無水物を併用してもよいが、その場合には、上記Ar1及びAr2で表される以外の成分の割合が、それぞれの成分においてモル比で40%以下となるようにするのが望ましい。なお、上記シロキサン変性ポリイミドにおいては、バインダー特性との関係からシロキサン結合を有するジアミン残基以外の割合が多くなってもよく、この場合、その他の部分は、モル比で20〜80%の範囲とすることが良い。
【0024】
一般式(1)のポリイミド樹脂を得る際には、原料のジアミンと酸無水物とを溶媒の存在下で重合し、ポリイミド前駆体樹脂とした後、熱処理してイミド化することにより製造することができる。ここで用いる溶媒としては、例えばジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用してもよい。また、ポリイミド前駆体樹脂は、バインダーとしての結着性・接着性と活物質と混ぜて得られるスラリーの粘度とのバランスの観点から、得られるポリイミド樹脂の重量平均分子量が10,000〜500,000の範囲となるようにするのが好ましい。
【0025】
また、本発明における負極活物質は、ケイ素又はケイ素合金のうち少なくとも一方を含有した活物質粒子を含む。これらは単独で用いられて、ケイ素又はケイ素合金からなる活物質粒子を形成してもよく、ケイ素又はケイ素合金の2種以上が混合されて用いられてもよい。このうち、ケイ素合金の具体的な種類については、二次電池の種類に応じて適宜選定することができ、リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)の場合には、リチウムをコンバージョン反応により吸蔵・放出することができるものであればよい。ケイ素合金の組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらの2種以上が共存するものもある。ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル、銅、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を有するものなどが挙げられる。これらの他、本発明の好ましいケイ素又はケイ素合金からなる活物質粒子としては、例えばケイ素質粒子中のケイ素と炭素とホウ素とからなり、主として(C,Si,B)312で表される化合物なども挙げられる。
【0026】
また、ケイ素又はケイ素合金からなる活物質粒子の粒度に関しては、その粉末の50%累積径(d50)が1〜100μmを満たすことが望ましく、10〜50μmを満たすことがさらに望ましい。d50が1μm未満の場合には、小さな粒径の粉体が多く含まれるためハンドリング性が悪くなる傾向が認められることや、バインダーや導電剤が多く必要となり、単位体積あたりのエネルギー密度が低下する可能性がある。一方、d50が100μmを超える場合には、リチウムが活物質粉末の内部まで拡散することが困難となる可能性や、現行のリチウムイオン電池の電極厚みが200μm以下程度であることから、電極作製が困難となる可能性がある。
【0027】
そして、本発明では、上記ポリイミド樹脂と負極活物質とを、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)あるいは水、アルコール等の溶媒を用いて混合することによりスラリーを作製し、集電体上に塗布、乾燥することにより、活物質層を備えた負極を得ることができる。
【0028】
ここで、集電体として使用される導電性基材の材質は、特に制限されるものではないが、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属箔を用いることができる。また、このような導電性基材の形態は、連続シート、穴あきシート、ネット状(網状)シートなど、いろいろな形態とすることができるが、特に連続シートとすることが好ましい。さらに、導電性基材の厚さは2〜30μmとすることが好ましい。
【0029】
集電体上への活物質層の形成にあたっては、ポリイミド樹脂又はその前駆体をNMP等の有機溶媒に溶かした溶液に、負極活物質及び必要に応じて導電助剤を混合してスラリーとした後、エクストルージョン塗布、カーテン塗布、ロール塗布、グラビア塗布等の公知の手段により集電体に均一な厚みで塗工し、乾燥して有機溶媒を除去した後、加熱硬化させることにより活物質層を形成する。この際、結着性と放電容量とのバランスの観点から、負極活物質に対するポリイミド樹脂の含有割合が0.5〜30質量%の範囲となるようにするのが良く、好ましくは1〜20質量%の範囲となるようにするのが良い。また、活物質層の厚みについては、公知の二次電池用の負極を形成する場合と同程度であればよく、特に制限はないが、一般には10〜500μm程度である。
【0030】
本発明の負極を得る上で、必要に応じて添加する導電助剤については、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、或いはケッチェンブラックなどの炭素材料を含んだものを挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。なお、導電助剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などを含んでいてもよい。
【0031】
こうして得た負極は、リチウム二次電池をはじめとした二次電池の電極として好適に用いることができる。本発明の負極を用いてリチウム二次電池を構成する場合、相対する正極としては、リチウム含有遷移金属酸化物LiM(1)x2(式中、xは0≦x≦1の範囲の数値であり、式中M(1)は遷移金属を表し、Co、Ni、Mn、Ti、Cr、V、Fe、Zn、Al、Sn、Inの少なくとも1種類からなる)、あるいはLiM(1)yM(2)2-y4(式中、yは0≦y≦1の範囲の数値であり、式中、M(1)及びM(2)は遷移金属を表し、Co、Ni、Mn、Ti、Cr、V、Fe、Zn、Al、Sn、Inの少なくとも1種類からなる)、遷移金属カルコゲン化物(Ti、S2、NbSe等)、バナジウム酸化物(V25、V613、V24、V36等)およびリチウム化合物、一般式MxMo6Ch6-y(式中、xは0≦x≦4、yは0≦y≦1の範囲の数値であり、式中Mは遷移金属をはじめとする金属、Chはカルコゲン金属を表す)で表されるシュブレル相化合物、あるいは活性炭、活性炭素繊維等の正極活物質を用いることができる。
【0032】
また、上記正極と負極との間を満たす電解質としては、従来公知のものをいずれも使用することができ、例えばLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiB(C65)、LiCl、LiBr、Li3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(CF3SO2)3C、Li(CF3CH2OSO2)2N、Li(CF3CF2CH2OSO2)2N、Li(HCF2CF2CH2OSO2)2N、Li((CF3)2CHOSO2)2N、LiB[C63(CF3)2]4等の1種または2種以上の混合物を挙げることができる。
【0033】
また、非水系電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,1−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−2−オキサゾリドン、エチレングリコール、サルファイト、ジメチルサルファイト等の単独溶媒もしくは2種類以上の混合溶媒を使用できる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0035】
(実施例1)
ケイ素粉末(純度99質量%、d50=25μm)に炭化ホウ素粉末(純度98質量%、d50=1.5μm)を質量換算で40%添加し、ニーダーを用いて十分混合した後、この混合物をアルゴン気流中1230℃まで昇温し、この温度で70時間保持した。次いで、15℃/分程度の速度で600℃まで急冷した後、5℃/分程度の速度で室温付近まで冷却した。このようにして得られた熱処理物をインペラーミルによって解砕後、空気分級機を用いて粒度調整することにより、50%累積径(d50)が20μmの負極活物質Aを得た。
【0036】
上記で得られた負極活物質Aの比表面積は0.8m2/gであった。また、この負極活物質AをX線回折測定した結果、この中には、ケイ素と炭素とホウ素とからなる化合物(C,Si,B)312が生成していることが分かった。さらに、この得られたケイ素質粉末を埋込・研磨を行った上で、EPMAで10個程度分析した。その結果、ケイ素質粒子には、ケイ素と炭素とホウ素とからなる化合物が、非常に微細に析出しており、ケイ素質粒子中に析出したケイ素と炭素とホウ素の化合物の粒子の体積は、ケイ素質粒子の体積の1/100程度以下であった。
【0037】
一方、バインダーの合成は、酸二無水物として無水ピロメリット酸(PMDA)と、ジアミンとして2,2'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)とをほぼ同モル使用して、ジメチルアセトアミド(DMAC)中において常温で4時間反応させることにより、重量平均分子量が144,000のポリイミド樹脂1の前駆体を得た。
【0038】
次に、上記で得られた負極活物質A、ポリイミド樹脂1の前駆体、及び導電助剤としてのアセチレンブラックを用いて、以下の要領で負極を作製し、二次電池としての性能を評価した。
【0039】
下記表1に示すように、負極活物質A、アセチレンブラック、及びポリイミド樹脂1の前駆体を、それぞれ76質量%、19重量%、及び5質量%の比率で加え、ジメチルアセトアミド(DMAC)を溶媒として用いて混練してスラリーを作製した。これを表面粗さRaが0.08μmであって厚さ18μmの銅箔に対し、厚みが均一となるように塗布し、その後、窒素雰囲気中350℃で30分間熱処理することにより、銅箔上に活物質層を形成した。活物質層を備えた銅箔を乾燥し、所定の電極密度になるようにプレスして、トータル厚みとして60μmの電極シートを作製し、このシートから直径15mmΦの円形に切り出すことにより負極電極を得た。
【0040】
得られた負極電極について、負極電極単極での電極特性を評価するために、次のようにして試験用リチウム二次電池を作製した。対極には約15.5mmΦに切り出した金属リチウムを用いた。また、電解液としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1混合)にLiPF6を1mol/lの濃度で溶解したものを用い、セパレーターにプロピレンの多孔質膜を用いてコインセルを作製した。
【0041】
得られたこのコインセルを使用して、25℃の恒温下、端子電圧の充電下限電圧を0V、放電の上限電圧を1.5Vとした電圧範囲で、定電流放電及び充電を100サイクル繰り返して、1サイクル目の放電容量に対する容量維持率の変化を調べた。結果を図1に示す。このグラフからも分るように、100サイクル後の容量維持率は77%であった。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同様の手法により、負極活物質Aを得た。一方、バインダーの合成は、酸二無水物として、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)を使用し、ジアミンとして、2,2'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)と、シロキサン結合の繰り返し数が8のシロキサンジアミンとを、それぞれ60モル%と40モル%の比率で使用して、N-メチルピロリドン(NMP)とキシレンの混合溶媒中において常温で4時間反応させることにより、ポリイミド前駆体を得た。このポリイミド前駆体溶液を190℃に昇温し、4時間加熱攪拌しキシレンと縮合水を共沸させながら閉環し、重量平均分子量が84,000のポリイミド樹脂2の溶液を得た。
【0043】
次に、実施例1と同様に負極活物質A、アセチレンブラック、及びポリイミド樹脂2を、それぞれ76質量%、19重量%、及び5質量%の比率で加え、N-メチルピロリドン(NMP)を溶媒として用いて混練してスラリーを作製した。これを、表面粗さRaが0.08μmであって厚さ18μmの銅箔に対し、厚みが均一となるように塗布し、活物質層を備えた銅箔を乾燥し、所定の電極密度になるようにプレスして、トータル厚みとして60μmの電極シートを作製し、このシートから直径15mmΦの円形に切り出すことにより負極電極を得た。
【0044】
得られた負極電極を用いて、実施例1と同様にコインセルを作製し、実施例1と同様のサイクル特性を評価したところ、図1のグラフに示したように、100サイクル後の容量維持率は66%であった。
【0045】
(比較例1)
上記実施例1において使用したバインダーをポリフッ化ビニリデン(PVDF)とし、350℃での熱処理を省略した以外は実施例1と同様にして負極電極を得た。得られた負極電極について、実施例1と同様にして試験用リチウム二次電池を作製し、評価したところ、図1のグラフに示したように、定電流放電及び充電を100サイクル繰り返して求めた100サイクル後の容量維持率は8%であった。
【0046】
(比較例2)
先ず、バインダーの合成について、酸二無水物として、無水ピロメリット酸(PMDA)と3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とを、それぞれ80モル%と20モル%の比率で使用し、ジアミンとして、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル(m-TB)と、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)とを、それぞれ90モル%と10モル%の比率で使用し、これらをジメチルアセトアミド(DMAC)中において常温で4時間反応させることにより、重量平均分子量が125,000のポリイミド樹脂3の前駆体を得た。
【0047】
そして、上記実施例1において使用したバインダーを、上記で得られたポリイミド樹脂3の前駆体とした以外は、実施例1と同様にして負極電極を得た。得られた負極電極について、実施例1と同様にして試験用リチウム二次電池を作製し、評価したところ、図1のグラフに示したように、定電流放電及び充電を100サイクル繰り返して求めた100サイクル後の容量維持率は13%であった。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の負極によれば、高容量であって、充放電の繰り返しに対しても優れた耐久性を備えた二次電池を得ることができる。そのため、本発明の負極は各種二次電池に利用することができ、なかでも、ハイブリッド自動車や電気自動車用等の車載用途のほか、定置電源用途等の大型蓄電用途や、パワーツール等に用いる二次電池の負極として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質をバインダーで一体化した活物質層を備えた二次電池用の負極であって、前記負極活物質が、ケイ素又はケイ素合金のうち少なくとも一方を含有した活物質粒子を含み、前記バインダーとして、下記一般式(1)で表されるポリイミド樹脂を用いたことを特徴とする二次電池用負極。
【化1】

〔式中、Ar1は、少なくとも2個のエーテル結合を有した2価の芳香族ジアミン残基、又は、シロキサン結合を有したジアミン残基を示し、Ar2は、下記式(2)又は式(3)で表される4価の酸二無水物残基を示す。〕
【化2】

〔式(3)において、Yは、直結合、−CO−、又は−SO2−のいずれかを示す。〕
【請求項2】
負極活物質に対するポリイミド樹脂の含有割合が、0.5〜30質量%の範囲である請求項1に記載の二次電池用負極。
【請求項3】
表面粗さRaが0.3μm以下の導電性集電箔上に活物質層が形成される請求項1又は2に記載の二次電池用負極。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の負極を用いた二次電池。
【請求項5】
ハイブリッド自動車若しくは電気自動車用の車載電源、又は大型蓄電用途として用いる請求項4に記載の二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−216320(P2011−216320A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83137(P2010−83137)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】