説明

二次電池用電極活物質の製造方法、二次電池用電極活物質および二次電池

【課題】安全でかつ低い製造コストで、オリビン型構造のリチウム含有リン酸化合物を含む二次電池用電極活物質を製造することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を含む二次電池用電極活物質の製造方法において、リチウム含有原料と鉄含有原料とリン含有原料とを含む出発原料を混合し、得られた混合物を乾燥させ、得られた乾燥物を焼成する。出発原料の合計質量に対して質量比で1.5以上3.0以下の水を出発原料に加えて、出発原料を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には二次電池用電極活物質の製造方法、二次電池用電極活物質および二次電池に関し、特定的には、オリビン型構造を有する二次電池用電極活物質の製造方法、オリビン型構造を有する二次電池用電極活物質、および、その電極活物質を含む電極を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高いエネルギー密度を有する二次電池として、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させることにより、充放電を行うようにした二次電池が用いられている。
【0003】
このような二次電池において、一般的に正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)などのリチウム遷移金属複合酸化物が用いられている。近年、コスト、資源などの観点から、コバルト酸リチウムに代わる安価な正極材料が求められている。そこで、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物が正極材料として注目されている。
【0004】
オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物のうち、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)は、化学的安定性に優れていること、環境負荷が低いこと、コストが低いことなどの特徴を備えているため、近年活発に研究されている正極材料である。しかし、リン酸鉄リチウムは、電子伝導性が十分でないためカーボンで被覆して用いること、イオン導電性が十分でないため微粒化して用いること、などという対策が必要不可欠とされている。
【0005】
リン酸鉄リチウムを効果的に微粒化するためには、湿式で出発原料を混合する方法が採用される。湿式で出発原料を混合する方法としては、電池特性に悪影響を及ぼす三価の鉄の発生を抑制するために、すなわち、二価の鉄の酸化を抑制するために、有機溶媒を用いて不活性雰囲気中で出発原料を混合することが一般的に行われている。
【0006】
たとえば、特開2000‐294238号公報(特許文献1)には、有機溶媒としてアセトンを用いて出発原料を混合してリン酸鉄リチウムを合成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000‐294238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、有機溶媒を用いることは安全性において問題がある。また、有機溶媒の代わりに水を用いたとしても、不活性雰囲気中または真空中で溶媒を除去する工程が必要になる。この場合、溶媒除去工程を上記の雰囲気中で行うことは、製造コストが高くなる要因になる。
【0009】
そこで、本発明の一つの目的は、安全でかつ低い製造コストで、オリビン型構造のリチウム含有リン酸化合物を含む二次電池用電極活物質を製造することが可能な製造方法を提供することである。
【0010】
また、本発明のもう一つの目的は、上記の製造方法によって製造された二次電池用電極活物質と、その電極活物質を含む電極を備えた二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に従った二次電池用電極活物質の製造方法は、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を含む二次電池用電極活物質の製造方法であって、以下の工程を備える。
【0012】
(A)リチウム含有原料と鉄含有原料とリン含有原料とを含む出発原料を混合する混合工程
【0013】
(B)混合工程で得られた混合物を乾燥させる乾燥工程
【0014】
(C)乾燥工程で得られた乾燥物を焼成する焼成工程
【0015】
混合工程が、出発原料の合計質量に対して質量比で1.5以上3.0以下の水を出発原料に加える工程を含む。
【0016】
本発明の二次電池用電極活物質の製造方法では、溶媒として水を出発原料に加えて混合工程が行われる。このため、溶媒として有機溶媒を用いる場合に比べて、安全性を高めることができる。
【0017】
また、本発明の二次電池用電極活物質の製造方法では、乾燥工程において混合物を大気中で乾燥することができる。このため、不活性雰囲気中または真空中で混合物を乾燥させる場合に比べて、製造コストを抑えることができる。
【0018】
さらに、出発原料の合計質量に対して質量比で1.5以上3.0以下の水を出発原料に加えることにより、出発原料の分散性を向上させることができる。これにより、リン酸鉄リチウムの合成反応を促進させることができる。その結果、電池特性に悪影響を及ぼす三価の鉄が発生することを抑制することができると考えられる。したがって、乾燥工程において混合物を大気中で乾燥しても、良好な電池特性を示す、特に高い充放電容量を示す二次電池用電極活物質を得ることができる。なお、出発原料の合計質量に対して質量比が3.0を超える水を出発原料に加えると、出発原料に対して溶媒の比率が大きくなるので、混合物のハンドリングが悪くなり、生産性が低下し、その結果、製造コストが高くなる。
【0019】
本発明の二次電池用電極活物質の製造方法において、リチウム含有原料が、水酸化リチウム、炭酸リチウム、および、酢酸リチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0020】
また、本発明の二次電池用電極活物質の製造方法において、鉄含有原料が、シュウ酸鉄を含むことが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の二次電池用電極活物質の製造方法において、リン含有原料が、リン酸水素二アンモニウム、および、リン酸二水素アンモニウムの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0022】
なお、本発明の二次電池用電極活物質の製造方法において、乾燥工程が、乾燥物を大気雰囲気中で乾燥させる工程を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の二次電池用電極活物質は、上述のいずれかの製造方法で製造されたものである。
【0024】
本発明の二次電池は、上記の二次電池用電極活物質を含む電極を備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、安全でかつ低い製造コストで、オリビン型構造のリチウム含有リン酸化合物を含む二次電池用電極活物質を製造することができるとともに、高い充放電容量を示す二次電池用電極活物質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一つの実施の形態としてのコイン型非水電解質二次電池、ならびに本発明の実施例および比較例で作製されたコイン型非水電解質二次電池を示す図である。
【図2】本発明の実施例および比較例で作製されたコイン型非水電解質二次電池の充放電容量と、電極活物質の出発原料の合計質量に対して、出発原料に加える水の質量の比率(注水比)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の二次電池用電極活物質の製造方法の一つの実施の形態は、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物として、LiFePO4で表わされるリン酸鉄リチウムを含む二次電池用電極活物質の製造方法である。本発明の二次電池用電極活物質は、オリビン型構造を有しているのであれば、Feの一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zr、Nbなどで置換してもよい。また、Pの一部をB、Siなどで置換してもよい。
【0028】
本発明の二次電池用電極活物質の製造方法の一つの実施の形態では、まず、二次電池用電極活物質の出発原料としてリチウム含有原料と鉄含有原料とリン含有原料とを混合する(混合工程)。
【0029】
リチウム含有原料としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムなどを用いることができる。
【0030】
鉄含有原料としては、シュウ酸鉄(FeC24)、酸化鉄(Fe23)、リン酸鉄(Fe3(PO42)、金属鉄(Fe)などを用いることができる。
【0031】
リン含有原料としては、リン酸水素二アンモニウム((NH42HPO4)、リン酸二水素アンモニウム(NH42PO4)などを用いることができる。
【0032】
リチウム含有原料とリン含有原料とを兼ねる原料としては、リン酸リチウム(Li3PO4)、メタリン酸リチウム(LiPO3)、リン酸二水素リチウム(LiH2PO4)などを用いることができる。
【0033】
上記の混合工程では、出発原料の合計質量に対して、出発原料に加える水の質量の比率(注水比)が1.5以上3.0以下になるように、水を出発原料に加える。
【0034】
このように、溶媒として水を出発原料に加えて混合工程が行われるため、溶媒として有機溶媒を用いる場合に比べて、安全性を高めることができる。
【0035】
次に、混合工程で得られた出発原料の混合物を乾燥させる(乾燥工程)。
【0036】
この乾燥工程においては、混合物を大気中で乾燥することができるため、不活性雰囲気中または真空中で混合物を乾燥させる場合に比べて、製造コストを抑えることができる。
【0037】
さらに、上記の混合工程において、出発原料の合計質量に対して質量比で1.5以上3.0以下の水を出発原料に加えることにより、出発原料の分散性を向上させることができる。これにより、リン酸鉄リチウムの合成反応を促進させることができる。その結果、電池特性に悪影響を及ぼす三価の鉄が発生することを抑制することができると考えられる。したがって、乾燥工程において混合物を大気中で乾燥しても、良好な電池特性を示す、特に高い充放電容量を示す二次電池用電極活物質を得ることができる。なお、出発原料の合計質量に対して質量比が3.0を超える水を出発原料に加えると、出発原料に対して溶媒の比率が大きくなるので、混合物のハンドリングが悪くなり、生産性が低下し、その結果、製造コストが高くなる。
【0038】
そして、乾燥工程で得られた乾燥物を焼成する(焼成工程)。焼成温度は、結晶質のLiFePO4で表わされるオリビン型構造のリン酸鉄リチウムが得られる温度であり、具体的には550℃〜1000℃であることが好ましい。なお、加熱温度と加熱時間は、二次電池の要求特性、生産性などを考慮し、任意に設定することができる。
【0039】
上記の混合工程における混合方法と混合条件、上記の乾燥工程における乾燥方法と乾燥条件、および、上記の焼成工程における焼成方法と焼成条件は、二次電池の要求特性、生産性などを考慮して任意に設定することができる。たとえば、本発明の二次電池用電極活物質の製造方法として、溶媒として水を加えて、リチウム含有原料と鉄含有原料とリン含有原料とを混合して分散させることにより得られたスラリーを大気中で噴霧乾燥した後、窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気中で焼成することが好ましい。
【0040】
次に、本発明の電極活物質を正極活物質に用いた場合の非水電解質二次電池の製造方法の一例を以下で詳細に説明する。
【0041】
まず、正極を形成する。たとえば、正極活物質を導電助剤および結合剤とともに混合し、水を加えて正極活物質スラリーとし、この正極活物質スラリーを電極集電体上に任意の塗工方法で塗工し、乾燥することにより正極を形成する。
【0042】
次に、負極を形成する。たとえば、負極活物質を導電助剤および結合剤とともに混合し、有機溶剤または水を加えて負極活物質スラリーとし、この負極活物質スラリーを電極集電体上に任意の塗工方法で塗工し、乾燥することにより負極を形成する。
【0043】
本発明において、負極活物質は特に限定されるものではないが、リチウムチタン複合酸化物(たとえば、スピネル型構造のチタン酸リチウム(Li4Ti512))などを使用することができる。基準電位の高いリチウムチタン複合酸化物を負極活物質に用いても、上記の本発明の効果を得ることができる。
【0044】
本発明において結合剤は特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロースなどの各種樹脂を使用することができる。
【0045】
また、有機溶剤についても、特に限定されるものではなく、たとえば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N‐メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、γ‐ブチロラクトンなどの塩基性溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、アセトンなどの非水溶媒、メタノール、エタノールなどのプロトン性溶媒などを使用することができる。また、有機溶剤の種類、有機化合物と有機溶剤との配合比、添加剤の種類とその添加量などは、二次電池の要求特性、生産性などを考慮し、任意に設定することができる。
【0046】
次いで、図1に示すように、上記で得られた正極14を電解質に浸漬し、この正極14に電解質を含浸させた後、正極端子を兼ねたケース11の底部中央の正極集電体上に正極14を載置する。その後、電解質を含浸させたセパレータ16を正極14上に積層し、さらに負極15と集電板17を順次積層し、内部空間に電解質を注入する。そして、集電板17上に金属製のばね部材18を載置すると共に、ガスケット13を周縁に配し、かしめ機などで負極端子を兼ねた封口板12をケース11に固着して外装封止することによってコイン型非水電解質二次電池1が作製される。
【0047】
なお、電解質は、正極14と対向電極である負極15との間に介在して両電極間の荷電担体輸送を行う。このような電解質としては、室温で10-5〜10-1S/cmのイオン伝導度を有するものを使用することができる。たとえば、電解質塩を有機溶剤に溶解させた電解液を使用することができる。ここで、電解質塩としては、たとえば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、Li(C25SO22N、Li(CF3SO23C、Li(C25SO23Cなどを使用することができる。
【0048】
上記の有機溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ‐ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N‐メチル‐2‐ピロリドンなどを使用することができる。
【0049】
また、電解質には、固体電解質を使用してもよい。固体電解質に用いられる高分子化合物としては、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン‐エチレン共重合体、フッ化ビニリデン‐モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン‐トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン‐テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン‐テトラフルオロエチレン三元共重合体などのフッ化ビニリデン系重合体、アクリロニトリル‐メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル‐メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル‐エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル‐エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル‐メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル‐アクリル酸共重合体、アクリロニトリル‐ビニルアセテート共重合体などのアクリルニトリル系重合体、さらにはポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド‐プロピレンオキサイド共重合体、および、これらのアクリレート体、メタクリレート体の重合体などを挙げることができる。また、これらの高分子化合物に電解液を含ませてゲル状にしたものを電解質として使用してもよい。あるいは電解質塩を含有させた高分子化合物のみをそのまま電解質に使用してもよい。なお、電解質として、Li2S‐P25系、Li2S‐B23系、Li2S‐SiS2系に代表される硫化物ガラスなどの無機固体電解質を用いてもよい。
【0050】
上記の実施の形態では、コイン型二次電池について説明したが、電池形状は特に限定されるものでないのはいうまでもなく、円筒型、角型、シート型などにも適用できる。また、外装方法も特に限定されず、金属ケース、モールド樹脂、アルミニウムラミネートフイルムなどを使用してもよい。
【0051】
また、上記の実施の形態では、本発明の電極活物質を正極に使用したが、負極にも適用可能である。
【0052】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は一例であり、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
以下の実施例1〜2と比較例1〜3で説明するように、オリビン型構造のLiFePO4で表わされるリン酸鉄リチウムを合成し、それを用いたコイン型非水電解質二次電池を作製した。なお、比較例4では、リン酸鉄リチウムを合成することができなかった。
【0054】
(実施例1)
【0055】
上記のリン酸鉄リチウムの合成を以下の方法で行った。
【0056】
リチウム(Li)含有原料として水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)、鉄(Fe)含有原料としてシュウ酸鉄二水和物(FeC24・2H2O)、リン(P)含有原料としてリン酸水素二アンモニウム((NH42HPO4)を準備した。これらの原料を、モル比でLi:Fe:P=1:1:1となるように、かつ、焼成後の質量が100gになるように秤量した。1リットルの容器内で、秤量した出発原料の合計質量に対して、出発原料に加える水の質量の比率(以下、「注水比」という)が1.5になるように、純水を出発原料に加え、25時間湿式混合してスラリーを作製した。得られたスラリーを大気雰囲気中で噴霧乾燥し、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を、窒素ガス雰囲気中で700℃の温度にて10時間焼成することにより、上記のリン酸鉄リチウムを合成した。
【0057】
得られたリン酸鉄リチウムを正極活物質として用いて、図1に示すようなコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0058】
図1に示すように、コイン型非水電解質二次電池1は、正極端子を兼ねたケース11と、負極端子を兼ねた封口板12と、ケース11と封口板12とを絶縁するガスケット13と、正極14と、負極15と、正極14と負極15との間に介在したセパレータ16と、負極15の上に配置された集電板17と、集電板17と封口板12との間に配置されたばね部材18とから構成され、ケース11の内部には電解液が充填されている。
【0059】
具体的には、上記で作製されたリン酸鉄リチウムとアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとを88:6:6の質量比率で混合して正極合材を作製した。この正極合材を溶媒(N‐メチル‐2‐ピロリドン)中に分散させて正極スラリーを作製した。この正極スラリーを厚みが20μmのアルミニウム箔の表面上に10mg/cm2の塗布量で塗布して140℃の温度で乾燥させた後、1トン/cm2の圧力でプレスすることにより正極シートを作製した。この正極シートを直径12mmの円板に打ち抜くことにより、正極14を作製した。対極としての負極15には、直径が15.5mmの金属リチウム箔からなる円板を用いた。この負極15に集電板17を張り合わせた。セパレータ16には、直径が16mmの円板状のポリエチレン多孔膜を用いた。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比3:7で混合した溶媒に、溶媒1リットル当たり1モルの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解した有機電解液を用いた。このようにして、直径が20mm、厚みが3.2mmのコイン型非水電解質二次電池1を作製した。
【0060】
以上のようにして作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて充放電特性を評価した。25℃の恒温槽内にて、150μAの電流値、2.0〜4.2Vの電圧範囲で充放電させた。電池の充放電特性の評価として、正極活物質に適用された、オリビン型構造のLiFePO4で表わされるリン酸鉄リチウムの単位重量当たりの初回充電容量[mAh/g]と初回放電容量[mAh/g]を測定した。
【0061】
(実施例2)
【0062】
実施例1と同様の方法でリン酸鉄リチウムを合成した。ただし、注水比を2.0とした。
【0063】
得られたリン酸鉄リチウムを正極活物質として用いて、実施例1と同様の方法でコイン型非水電解質二次電池1を作製した。作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて実施例1と同様の方法で電池の充放電特性を評価した。
【0064】
(比較例1)
【0065】
実施例1と同様の方法でリン酸鉄リチウムを合成した。ただし、注水比を1.0とした。
【0066】
得られたリン酸鉄リチウムを正極活物質として用いて、実施例1と同様の方法でコイン型非水電解質二次電池1を作製した。作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて実施例1と同様の方法で電池の充放電特性を評価した。
【0067】
(比較例2)
【0068】
実施例1と同様の方法でリン酸鉄リチウムを合成した。ただし、注水比を1.2とした。
【0069】
得られたリン酸鉄リチウムを正極活物質として用いて、実施例1と同様の方法でコイン型非水電解質二次電池1を作製した。作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて実施例1と同様の方法で電池の充放電特性を評価した。
【0070】
(比較例3)
【0071】
実施例1と同様の方法でリン酸鉄リチウムを合成した。ただし、注水比を1.3とした。
【0072】
得られたリン酸鉄リチウムを正極活物質として用いて、実施例1と同様の方法でコイン型非水電解質二次電池1を作製した。作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて実施例1と同様の方法で電池の充放電特性を評価した。
【0073】
(比較例4)
【0074】
実施例1と同様の方法で出発原料を準備し、秤量した出発原料の合計質量に対して、注水比が0.6になるように、純水を出発原料に加えて湿式混合した。
【0075】
混合物の粘度が高すぎたため、出発原料が凝集し、スラリー状にならず、湿式混合が不可能であるので、リン酸鉄リチウムを合成することができなかった。
【0076】
上記の実施例1〜2、比較例1〜3で評価された電池の充放電特性の評価結果を表1に示す。実施例1〜2、比較例1〜3で評価された初回充電容量および初回放電容量と注水比との関係を図2に示す
【0077】
【表1】

【0078】
表1と図2に示す結果から、注水比が1.5以上2.0以下であれば、高い充放電容量を示すことがわかる。特に、注水比が1.5以上2.0以下の範囲内で、充放電容量が安定した値を示すことがわかる。
【0079】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、安全でかつ低い製造コストで、オリビン型構造のリチウム含有リン酸化合物としてリン酸鉄リチウムを含む二次電池用電極活物質を製造することができるとともに、高い充放電容量を示す二次電池用電極活物質を得ることができるので、本発明は非水電解質二次電池の製造に有用である。
【符号の説明】
【0081】
1:コイン型非水電解質二次電池、11:ケース、12:封口板、13:ガスケット、14:正極、15:負極、16:セパレータ、17:集電板、18:ばね部材。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を含む二次電池用電極活物質の製造方法であって、
リチウム含有原料と鉄含有原料とリン含有原料とを含む出発原料を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られた乾燥物を焼成する焼成工程と、を備え、
前記混合工程が、前記出発原料の合計質量に対して質量比で1.5以上3.0以下の水を前記出発原料に加える工程を含む、二次電池用電極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム含有原料が、水酸化リチウム、炭酸リチウム、および、酢酸リチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む、請求項1に記載の二次電池用電極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記鉄含有原料が、シュウ酸鉄を含む、請求項1または請求項2に記載の二次電池用電極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記リン含有原料が、リン酸水素二アンモニウム、および、リン酸二水素アンモニウムの少なくともいずれかを含む、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の二次電池用電極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程が、前記乾燥物を大気雰囲気中で乾燥させる工程を含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の二次電池用電極活物質の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の製造方法で製造された二次電池用電極活物質。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池用電極活物質を含む電極を備えた、二次電池。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−150976(P2012−150976A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8475(P2011−8475)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】