説明

二次電池電極のバインダー用樹脂組成物、及びこれを用いてなるバインダー液、二次電池電極、二次電池

【課題】活物質と導電材、さらにこれらと各種金属集電体とを強固に接着させうるバインダーを製造するのに適した二次電池電極のバインダー用樹脂組成物を提供し、このバインダーを用いて、層剥離し難い電極、並びに初期充放電特性は勿論、充放電を繰り返してもサイクル特性に優れる電池を提供すること。
【解決手段】ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)と、フッ素含有樹脂(B)とを含有する二次電池電極のバインダー用樹脂組成物であって、特に、ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)中のダイマー酸の含有量が、ジカルボン酸成分100モル%に対して50モル%以上であることが好ましく、樹脂(A)の酸価が、1〜50mgKOH/gであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池電極のバインダー用樹脂組成物、この樹脂組成物を用いてなるバインダー液、さらにはこのバインダー液を用いてなる電極及び二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やデジタルカメラなどの携帯電子機器の小型軽量化や高機能化の要求に伴い、高性能電池の開発が積極的に進められており、充電により繰り返し使用が可能な二次電池の需要が大きく伸びている。特に、リチウムイオン電池は、携帯電話やノートパソコンなどの用途に加え、電気自動車用途への展開も進められ、その利用範囲は非常に拡大している。
【0003】
リチウムイオン電池は、正極と負極との間にセパレーターが配置された構成の電極を、電解液と共に容器内に収納した構造を有するものである。
【0004】
リチウムイオン電池の電極は、活物質と、必要に応じて主に炭素材料からなる導電材とが、バインダーを用いてアルミニウム箔や銅箔などの金属集電体上に層形成されたものである。正極用活物質としては、コバルト酸リチウムなどの遷移金属を含むリチウム複合酸化物などが用いられ、負極用活物質としては、炭素材料などが用いられる。そして、このようなリチウムイオン電池の電極は、通常、活物質に、必要に応じて、導電材及びバインダーを添加し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶媒の存在下で混練・調製した電極用ペーストを、金属集電体上にドクターブレードなどによりに塗布し、乾燥することによって得られる。ここでバインダーは、活物質と導電材、さらにこれらと金属集電体とを接着するために用いられる。
【0005】
したがって、電極形成のためのバインダーには、(1)活物質間、及び必要に応じて添加する導電材との接着性に優れること、(2)活物質及び導電材と金属集電体との接着性に優れることなどの性能が要求される。
【0006】
従来、二次電池電極用のバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂などのフッ素系樹脂が用いられ、これをNMPに溶解した溶液が多く使用されている。
【0007】
しかしながら、バインダーとしてPVDFのみを使用しただけでは、活物質及び導電材と金属集電体とを強く接着させることができないという問題がある。このため、極板の裁断工程や捲回工程などの製造工程時に、活物質や導電材の一部が金属集電体から剥離・脱落し、微少短絡や電池容量のばらつきを生じさせる原因となっている。
【0008】
さらに、バインダーとしてPVDFだけを用いた場合、電池使用の初期段階においては、所定の初期充放電特性を確保できるものの、充放電を繰り返すと、次第に充放電特性が低下してくるという問題がある。この現象の最大の原因は、金属集電体から活物質及び導電材の一部が徐々に剥離することによると考えられている。
【0009】
したがって、電極には、充放電を繰り返しても層剥離し難い強い接着性が要求される。
【0010】
また、PVDFを溶解させる溶媒として用いられているNMPは、電極ペーストを金属集電体上に塗布・乾燥する際に蒸発するため、これを安全に回収する必要がある。また昨今の環境関連の法規制によって、加工場によっては環境に影響を及ぼす可能性のある有機溶媒を使用できないところも多くなっている。
【0011】
これらの問題に対して、二次電池電極用バインダーに関して以下のような技術が開示されている。特許文献1、2には、電気化学的に安定で電解液に対する膨潤性も小さいオレフィン系重合体をバインダーとして用いることが記載されている。しかしながら、これらのバインダーは活物質や金属集電体に対する接着強度が依然として不十分であり、これらのバインダーを使用した二次電池は長期間の使用が困難であり、サイクル特性に劣るものである。
【0012】
また、特許文献3、4には、ゴム質重合体のラテックスをバインダー組成物に使用することが提案されている。しかし、これらの発明は、充放電を繰り返すことで、活物質が体積変動しても、活物質間の接着強度を維持できる点で優れているものの、バインダーが活物質の表面を被覆、隠蔽してしまうため、二次電池において、サイクル特性どころか満足な初期充放電特性さえ得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−251998号公報
【特許文献2】特開平9−251856号公報
【特許文献3】特開平5−21068号公報
【特許文献4】特開平5−74461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するものであり、活物質と導電材、さらにこれらと各種金属集電体とを強固に接着させうるバインダーを製造するのに適した二次電池電極のバインダー用樹脂組成物を提供することを目的とし、さらにこのバインダーを用いて、層剥離し難い電極、並びに初期充放電特性は勿論、充放電を繰り返してもサイクル特性に優れる電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題について検討した結果、本発明に到達した。
【0016】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)と、フッ素含有樹脂(B)とを含有することを特徴とする二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
(2)ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)中のダイマー酸の含有量が、ジカルボン酸成分100モル%に対して50モル%以上であることを特徴とする上記(1)記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
(3)ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)の酸価が、1〜50mgKOH/gであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
(4)ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)とフッ素含有樹脂(B)との質量比が、100:20〜100:100であることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかに記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
(5)フッ素含有樹脂(B)が、ポリフッ化ビニリデン及び/又はポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする上記(1)〜(4)いずれかに記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
(6)上記(1)〜(5)いずれかに記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物と、液状媒体とを含有してなる二次電池電極用バインダー液。
(7)液状媒体が水である上記(6)記載の二次電池電極用バインダー液。
(8)上記(1)〜(5)いずれかに記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物を含有することを特徴とする二次電池電極。
(9)上記(8)記載の二次電池電極を用いて形成された二次電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物を用いたバインダー液は、活物質間、及び必要に応じて添加する導電材との接着性に優れ、活物質及び導電材と金属集電体との接着性に優れるという性能を有する。このバインダー液を用いて形成された二次電池電極は、充放電を繰り返しても、活物質や導電材が金属集電体から脱落し難く、良好な接着性や導電性などを維持することができる。そして、本発明の組成物及びバインダー液を用いることで、初期充放電特性及びサイクル特性に優れる二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物(以下、バインダー用樹脂と略記することがある)は、ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)とフッ素含有樹脂(B)とを含有する組成物である。本発明のバインダー用樹脂を用いることで、活物質および導電材と金属集電体との接着性が良好なバインダー液を得ることができる。
【0020】
本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)は、主鎖にアミド結合を有し、主にジカルボン酸成分とジアミン成分とを用い脱水縮合反応により得られ、本発明では、特にジカルボン酸成分として、ダイマー酸を用いる必要がある。ダイマー酸とは、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することにより得られるもので、水素添加して不飽和度を低下させたものも使用できる。ダイマー酸としては、例えば市販されているハリダイマーシリーズ(ハリマ化成社製)、プリポールシリーズ(クローダジャパン社製)、ツノダイムシリーズ(築野食品工業社製)などを用いることができる。
【0021】
本発明では、ジカルボン酸成分としてダイマー酸を用いたポリアミド樹脂をダイマー酸系ポリアミド樹脂と総称する。ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂として広く使用されているナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などの樹脂と比べ大きな炭化水素グループを有するため、柔軟性に優れている。
【0022】
樹脂(A)におけるダイマー酸の使用量としては、ジカルボン酸成分100モル%に対して50モル%以上の割合で含まれるのが好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。ダイマー酸の含有割合が50モル%未満になると、電極を構成する各材料を強く接着させうるバインダーを得難くなり、さらに、得られる電極の柔軟性、及び得られる電池のサイクル特性も劣る傾向にあり、好ましくない。
【0023】
本発明において、ジカルボン酸成分としてダイマー酸と共にダイマー酸以外の他のジカルボン酸成分を用いる場合、他のジカルボン酸成分としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ノナンジカルボン酸、フマル酸などを用いることができる。他のジカルボン酸成分の含有割合としては、ジカルボン酸成分全体の50モル%未満が好ましく、25モル%以下がより好ましい。これにより、樹脂の軟化点や接着性などの制御が容易となる。なお、単量体であるモノマー酸(炭素数18)、三量体であるトリマー酸(炭素数54)、炭素数20〜54の他の重合脂肪酸などは、本発明にいうダイマー酸には含まれず、上記他の成分に含むものとする。
【0024】
一方、ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)を構成するジアミン成分としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジンなどを用いることができ、中でもエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、m−キシレンジアミン、ピペラジンなどが好適である。
【0025】
そして、樹脂を製造する際、ジカルボン酸成分とジアミン成分との仕込み比を調整することにより、樹脂の重合度や酸価、アミン価などが制御できる。
【0026】
本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂は、酸価が1〜50mgKOH/gであることが好ましく、1〜40mgKOH/gがより好ましく、2〜30mgKOH/gがさらに好ましく、3〜20mgKOH/gが最も好ましい。ここで、酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数で定義されるものであり、JIS K 2501に記載の方法で測定されるものである。ダイマー酸系ポリアミド樹脂の酸価が1mgKOH/g未満になると、活物質及び導電材と金属集電体との接着性が低下することがあり、また後述するように樹脂を水性媒体中に分散させ難くなる傾向にあり、好ましくない。一方、50mgKOH/gを超えると、樹脂の電解液に対する耐性が低下しやすく、かつ電解液中で樹脂が膨潤しやすくなるため、好ましくない。
【0027】
次に、フッ素含有樹脂(B)について説明する。
【0028】
本発明のバインダー用樹脂に用いられるフッ素含有樹脂(B)としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの他、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)など共重合成分を含むものも使用できる。中でも本発明では、PTFE及びPVDFを単独又は混合して用いるのが好ましい。
【0029】
フッ素含有樹脂(B)に適用可能な共重合成分としては、上記以外にも例えば、アクリル酸メチルやメタクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、1−ペンテン、4−メチルー1−ペンテン、3−メチルー1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのアルケン類やジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、及びぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル類の他、ビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビニリデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄などがあげられ、これらを単独で又は混合して用いる。
【0030】
フッ素含有樹脂(B)に共重合成分を導入する場合、かかる共重合成分が酸成分として機能するものでもよい。この場合の成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等の他、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミドなどがあげられる。
【0031】
上記共重合成分の使用量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されるものでないが、一般には、フッ素含有樹脂100質量%に対して20質量%以下の割合で含まれるのが好ましい。含有割合が20質量%を超えると、電極を構成する各材料を強く接着させうるバインダーを得難くなる傾向にあり、好ましくない。
【0032】
フッ素含有樹脂(B)の重量平均分子量としては、結果として電極の強度が保たれ層剥離を抑えることができるものであれば、特に限定されないが、好ましくは15万以上、より好ましくは30万以上、さらに好ましくは40万以上とする。上限としては、高分子量になるにつれ層剥離し難い電極が得難くなる点を考慮し、好ましくは500万以下、より好ましく350万以下、さらにより好ましく200万以下とする。なお、樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン樹脂を標準として求める。
【0033】
本発明のバインダー用樹脂は、上記樹脂(A)と樹脂(B)とを含有するものである。両者の質量比((A):(B))としては、100:20〜100:100の範囲が好ましく、100:30〜100:90がより好ましく、100:50〜100:80がさらに好ましい。フッ素含有樹脂(B)の含有量が(A)100質量部に対し20質量部未満になると、電池においてサイクル特性のさらなる向上が期待できない傾向にあり、一方、100質量部を超えると、電極を構成する各材料を強く接着させうるバインダーを得難くなる傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0034】
次に、本発明の二次電池電極用バインダー液(以下、バインダー液と略記することがある)について説明する。
【0035】
本発明のバインダー液は、上記したような本発明のバインダー用樹脂と液状媒体とを含有するものである。液状媒体としては、水の他、NMP、トリメチルフォスフェート、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒が使用できる。中でも、本発明では、環境面及び作業性などを考慮し、水を主成分とする液体すなわち水性媒体が好ましく採用され、特に水が好ましい。
【0036】
液状媒体として水性媒体を用いると、バインダー液は、水性溶液及び水性分散体のいずれかの形態をとるが、本発明のバインダー液では、特に水性分散体とするのが好ましい。そして、当該水性分散体中では、ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)とフッ素含有樹脂(B)とが均一に混合・分散されていることが好ましい。このような水性分散体を得るには、例えば、それぞれあらかじめ調製されたダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)の水性分散体とフッ素含有樹脂(B)の水性分散体とを混合する方法や、ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)とフッ素含有樹脂(B)とを混合し、水や溶媒と共に加熱・攪拌を行って水性分散体を得る方法が採用できる。中でも、前者の方法が好適である。
【0037】
ここで、前者の方法について説明する。
【0038】
まず、ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)の水性分散体について述べる。樹脂(A)を水性媒体に分散する方法としては、任意の方法が採用でき特に限定されないが、例えば、加圧下、ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)及び水性媒体を密閉容器中で加熱、攪拌することで分散する方法が採用でき、この際、塩基性化合物を併用すると、水性媒体中に樹脂(A)がより均一に分散され、ひいてはバインダー液の分散安定性の向上が期待できるようになる。
【0039】
塩基性化合物としては、アンモニア、有機アミンなどのアミン類などがあげられる。有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N、N−ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどがあげられる。中でもトリエチルアミン、N、N−ジメチルエタノールアミンを用いることが好ましい。
【0040】
樹脂(A)の水性分散体に塩基性化合物を含有させる場合、その含有量としては、樹脂固形分に対して0.01〜100質量%であることが好ましく、中でも0.05〜40質量%であることが好ましく、0.1〜15質量%であることがより好ましい。0.01質量%未満では、塩基性化合物の添加による分散安定性の向上が期待できない傾向にあり、一方、100質量%を超えると、バインダー液が着色もしくはゲル化する傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0041】
また、親水性有機溶剤を用いることも、上記水性分散体の分散安定性向上に資するものである。親水性有機溶剤としては、良好な水性分散体を得る観点から、20℃における水に対する溶解性が10g/L以上のものが好ましく用いられる。さらに好ましくは20g/L以上、特に好ましくは50g/L以上である。
【0042】
また、親水性有機溶剤の沸点としては、常圧時で30〜250℃であることが好ましく、50℃〜185℃未満がより好ましい。沸点が250℃を超えると、通常の乾燥条件では、金属集電体上に塗布した電極用ペーストから親水性有機溶剤を十分に除去できない傾向にあり、しかもペーストと金属集電体との接着性をも悪化させることがあるため、好ましくない。一方、30℃未満になると、扱いづらいバインダー液となるばかりか、保存安定性も悪化することがあり、好ましくない。
【0043】
親水性有機溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルなどのエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体、さらには、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2−ジメチルグリセリン、1,3−ジメチルグリセリン、トリメチルグリセリンなどがあげられる。本発明では、これらの有機溶剤を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記の親水性有機溶剤の中でも、バインダー用樹脂の水性化促進に効果的であるとの点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルが好ましく、これらの中でも水酸基を分子内に1つ有する有機溶剤がより好ましく、少量の添加でも樹脂の水性化促進に寄与できる点から、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールアルキルエーテル類がさらに好ましい。
【0045】
本発明において上記親水性有機溶剤を用いる場合、親水性有機溶剤は、水と混合し、水性媒体として用いるのが一般的である。このとき、水性媒体中に占める親水性有機溶剤の含有割合としては、水性媒体100質量部に対し10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。親水性有機溶剤の含有割合が10質量%未満では、バインダー用樹脂の水性分散化が十分に進行しないことがあり、一方、60質量%を超えると分散体がゲル化する恐れがあり、いずれも好ましくない。
【0046】
また、水性分散体のさらなる分散安定性向上のため、水性媒体中にトルエンやシクロヘキサンなどの炭化水素系有機溶剤を加えてもよい。添加量としては、水性媒体100質量%に対し10質量%以下の割合が好ましい。炭化水素系有機溶剤の添加量が10質量%を超えると、製造工程において水との分離が著しくなって、均一な水性分散体が得られないことがあり、好ましくない。
【0047】
上記親水性有機溶剤や炭化水素系有機溶剤は、基本的にバインダー液を製造する際に添加するのが一般的であるが、バインダー液を得る工程の任意の段階で必要に応じて親水性有機溶剤を留去してもよい。有機溶剤の一部又は全てを除去するための脱溶剤処理を、一般に「ストリッピング」と呼ぶ。かかる脱溶剤処理は、加熱や減圧などの方法によって実施する。脱溶剤処理することにより、有機溶剤含有量を低減することができ、水性分散体及びバインダー液中の有機溶剤含有量を10質量%以下とすることができる。特に、5質量%以下とすれば、環境上好ましい。したがって、脱溶剤処理したときは、樹脂(A)の水性分散体やバインダー液には親水性有機溶剤が含有されないこともありうる。
【0048】
さらに、樹脂(A)の水性分散体は、不揮発性水性分散化助剤を含有しないことが好ましい。不揮発性とは、沸点を有さないか、もしくは高沸点(例えば300℃以上)であることをいう。沸点とは全て大気圧におけるものをいう。
【0049】
次に、フッ素含有樹脂(B)の水性分散体について述べる。フッ素含有樹脂(B)を水性媒体に分散する方法も、特に限定されず、例えば、乳化重合、懸濁重合、分散重合、溶液重合、超臨界重合による方法、又はこれらを経由して得られた乾燥微粒子を乳化剤で再分散する方法などが採用できるが、乳化重合による方法が好適である。
【0050】
樹脂(B)の水性分散体には、分散安定性を向上させるために不揮発性水性分散化助剤を含有させてもよい。
【0051】
このとき用いうる不揮発性水性分散化助剤としては、乳化剤などがあげられる。具体的には、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤があげられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネートなどがあげられる。ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体などがあげられる。そして、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドなどがあげられる。
【0052】
フッ素含有樹脂(B)の水性分散体としては、例えば、Kynar Aquatec(アルケマ社製)、VINYCOAT PVDF アクア(東日本塗料社製)、ポリフロンPTFE Dシリーズ(ダイキン工業社製)などの市販品を用いてもよい。
【0053】
本発明のバインダー液は、上記のようにダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)とフッ素含有樹脂(B)と液状媒体とを含有するものである。樹脂(A)と樹脂(B)とを合わせた樹脂の固形分濃度としては、1〜50質量%であることが好ましく、3〜40質量%であることがより好ましく、5〜30質量%であることが特に好ましい。(A)と(B)とを合わせた樹脂の固形分濃度が50質量%を超えると、バインダー液の著しい粘度増加あるいは固化により扱いづらくなる傾向にあり、一方、1質量%未満になると、バインダー液の著しい粘度低下により、同じく扱いづらくなる傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0054】
また、本発明のバインダー液には、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の重合体を含有させてもよい。他の重合体としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素含有樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などがあげられる。
【0055】
本発明では、上記のバインダー液を得た後、これと、活物質と、必要に応じて導電材とを混合することにより、二次電池電極用ペーストとなす。
【0056】
ここで、正極用活物質としては、リチウムイオンを可逆的に放出、吸蔵でき、電子伝導度が高い材料が好ましく、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの遷移金属酸化物があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
一方、負極用活物質としては、例えばグラファイトなどの炭素材があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
導電材としては、炭素材又は金属もしくはその化合物を用いることができる。炭素材としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維などをあげることができ、金属もしくはその化合物としては、ニッケル、コバルト、チタン、酸化コバルト、酸化チタンなどをあげることができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
二次電池電極用ペーストにおけるバインダー用樹脂の含有量((A)と(B)の合計の含有量)は、ペーストの固形分100質量%に対し0.01〜8質量%であることが好ましい。8質量%を超えると、電極の電気抵抗値が高くなる傾向にあり、一方、0.01質量%未満になると、電極を構成する各材料同士の接着強度が低下する傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0060】
また、電極用ペーストには、本発明の効果を損なわない範囲内で、樹脂(A)(B)以外のポリマーを含有させてもよい。このときのポリマーとしては、水溶性ポリマーが好ましい。具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体、変性ポリビニルアルコール、変性ポリアクリル酸などが例示される。中でも、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体が効果的である。これらのセルロース類は、金属集電体、活物質、導電材料の各材料間の濡れ性を向上させる。
【0061】
ペーストへ上記(A)(B)以外のポリマーを含有させる際のその配合割合としては、バインダー用樹脂、活物質、導電材の計100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.01〜3質量部、さらに好ましくは0.01〜1.5質量部である。
【0062】
本発明における二次電池電極用ペーストを製造する際の条件、方法としては、特に限定されず、バインダー液と、活物質と、導電材とを常温下もしくは適温調整された温度下で混合した後、機械的分散処理、超音波分散処理などを経て製造することができる。混合順序については特に限定されない。また、必要に応じて上述した他成分や溶媒などを添加してもよい。
【0063】
本発明の二次電池電極は、本発明の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物を含有するものであり、本発明の二次電池電極用バインダー液を用いて形成することができる。例えば、上記のようにして製造した二次電池電極用ペーストを金属集電体上に塗布し、乾燥することにより、二次電池電極を形成することができる。
【0064】
金属集電体としては、導電性を有する物質であればどのようなものでも使用でき、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅などが好適である。集電体の厚みとしては任意でよいが、通常は、5〜50μm程度とするのがよい。
【0065】
ペーストを集電体上に塗布する方法としては、例えばドクターブレードを用いる方法があげられ、塗布後、乾燥することにより水性媒体を除去することができる。乾燥方法としては、例えば60〜150℃、好ましくは70〜130℃で5〜120分間乾燥した後、さらに、120℃で12時間減圧乾燥する方法があげられる。塗布、乾燥後の電極の厚みとしては、30〜150μm程度が好ましく。電極の厚みや密度を制御するために、例えばロールプレス機によってプレス工程してもよい。
【0066】
本発明の二次電池は、本発明の二次電池電極を用いて形成されたものである。この場合、例えば、上記のようにして製造した二次電池電極と、セパレーターと、電解液とを常法に従って容器に封入することにより、目的の二次電池を得ることができる。
【0067】
二次電池を構成するセパレーターとしては、ポリエチレン微多孔膜、ポリプロピレン微多孔膜、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布、ガラス繊維などが使用できる。
【0068】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどの非水溶媒を単独で又は混合して得た溶媒に、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウムなどの支持電解塩を添加したものなどがあげられる。
【0069】
また、セパレーターに代えて固体電解質、ゲル電解質のいずれかを用いてもよい。この場合、電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、イオン性液体、硫酸水溶液、水酸化カリウム水溶液などがあげられる。電解質を溶解させる溶媒(電解液溶媒)も、一般的に電解液溶媒として用いられるものであれば特に限定されない。具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類、γ−ブチロラクトンなどのラクトン類、スルホラン類、アセトニトリルなどのニトリル類、イオン性液体などがあげられ、これらは単独で又は混合して使用される。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
なお、後述する各種の特性は、以下の方法によって測定又は評価した。
【0071】
(1)ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性値
〔酸価、アミン価〕
JIS K 2501に記載の方法により測定した。
〔軟化点温度〕
樹脂10mgをサンプルとし、顕微鏡用加熱(冷却)装置ヒートステージ(リンカム社製、Heating−Freezing ATAGE TH−600型)を備えた顕微鏡を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定し、樹脂が溶融した温度を軟化点とした。
〔溶融粘度〕
ブルックフィールド溶融粘度計DV−II+PRO型を用いて、樹脂温度200℃、ずり速度1.25/秒の条件で測定した。溶融開始後、約25分間回転させ、粘度がほぼ経過時間で安定した時点での溶融粘度の値を読み取った。
【0072】
(2)バインダー用樹脂と金属集電体との接着性
メイヤーバーを用いて、銅箔上並びにアルミ箔上のそれぞれに二次電池電極用バインダー液を塗布し、150℃で90秒間乾燥して、厚み3μmの接着層を形成した。そして、それぞれの接着層上に当該接着層を支える金属箔と同一の金属箔を重ねた後、これらを、ヒートプレス機(シール圧0.3MPaで5秒間)を用いて160℃でプレスすることで、銅積層体及びアルミ箔積層体を得た。
【0073】
次に、得られた銅積層体及びアルミ箔積層体から幅15mm、長さ10cmの測定サンプルをそれぞれ切り出し、引張り試験機(インテスコ社製精密万能材料試験機2020型)を用いて、引張り速度200mm/分の条件にてT型剥離試験を行うことで、バインダー用樹脂と金属集電体との接着性を評価した。なお、測定は各サンプル5回実施し、その平均値を接着強度とした。
【0074】
(3)電極接着強度(層剥離試験)
銅箔上に負極用ペーストを塗布、乾燥することにより得た負極電極と、アルミ箔上に正極用ペーストを塗布、乾燥することにより得た正極電極とを用意し、それぞれの電極から幅2.5cm、長さ10cmの測定サンプルを切り出した。そして、両面テープを用いて、金属集電体(金属箔)側を設置面にして鋼板上にサンプルを固定した。次に、サンプルの活物質層(ペーストを塗布、乾燥することにより形成された層)にセロハンテープ(ニチバン社製、CT−18、18mm幅)を貼り付け、その一辺から180°の方向に50mm/分の速度で引き剥がしたときの応力を測定した。なお、測定は各サンプル3回実施し、その平均値を電極接着強度とした。
【0075】
(4)初期充放電効率(負極)
二次電池負極電極とコバルト酸リチウム電極と組み合わせて作製したコイン型電池を使用して、充放電試験を行った。25℃環境下、0.2C−4.1V定電流定電圧充電後、0.2C−2.5V定電流放電を行い、測定した放電容量と充電容量とを下記式に代入し、初期充放電効率を算出した。
初期充放電効率(%)=(0.2C放電容量/0.2C充電容量)×100
【0076】
(5)初期充放電効率(正極)
二次電池正極電極と黒鉛電極と組み合わせて作製したコイン型電池を使用して、充放電試験を行った。25℃環境下、0.2C−4.1V定電流定電圧充電後、0.2C−2.5V定電流放電を行い、測定した放電容量と充電容量とを下記式に代入し、初期充放電効率を算出した。
初期充放電効率(%)=(0.2C放電容量/0.2C充電容量)×100
【0077】
(6)サイクル特性(負極)
二次電池負極電極とコバルト酸リチウム電極と組み合わせて作製したコイン型電池を使用して、充放電試験を行った。50℃環境下、1C−4.1V定電流定電圧充電後、1C−2.5V定電流放電を繰り返し行うことにより、サイクル特性を評価した。初期容量を100%とし、30サイクル後の電池容量を求め、維持率を算出した。
【0078】
(7)サイクル特性(正極)
二次電池正極電極と黒鉛電極と組み合わせて作製したコイン型電池を使用して、充放電試験を行った。50℃環境下、1C−4.1V定電流定電圧充電後、1C−2.5V定電流放電を繰り返し行うことにより、サイクル特性を評価した。初期容量を100%とし、30サイクル後の電池容量を求め、維持率を算出した。
【0079】
(8)反復電極接着強度(充放電を繰り返した後の層剥離試験)
サイクル特性の試験後、電池を解体して正極及び負極電極を取り出した。それぞれの電極表面に付着した電解液をキムワイプで拭き取り、活物質層にセロハンテープ(ニチバン社製、CT−18、18mm幅)を貼り付け、その一辺から180度の方向に50mm/分の速度で引き剥がした際の電極の状態を観察した。反復電極接着強度の評価は、全く活物質層の剥離を確認しなかったものを○、活物質の剥離を確認したものを×とした。
【0080】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)〕
ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)としては、以下のP−1、P−2を用いた。なお、P−1、P−2製造時には、ダイマー酸原料として、築野食品工業社製「ツノダイム395(商品名)」を用いた(ダイマー酸を94質量%、モノマー酸を3質量%、トリマー酸を3質量%含有)。
【0081】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂「P−1」〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを70モル%、エチレンジアミンを30モル%含有し、酸価が5.0mgKOH/g、アミン価0.1mgKOH/g、軟化点140℃、200℃における溶融粘度が23000mPa・s。
【0082】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂「P−2」〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を85モル%、アゼライン酸を15モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が10.0mgKOH/g、アミン価0.1mgKOH/g、軟化点158℃、200℃における溶融粘度が10000mPa・s。
【0083】
参考例1
〔樹脂(A)の水性分散体「E−1」の製造〕
撹拌機及びヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのダイマー酸系ポリアミド樹脂P−1、75.0gのイソプロパノール(IPA、和光純薬社製)、75.0gのテトラヒドロフラン(THF、和光純薬社製)、6.0gのN,N−ジメチルエタノールアミン(和光純薬社製)、7.5gのトルエン(和光純薬社製)及び136.5gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、130℃で60分間加熱攪拌した。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、230gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、IPA、THF、トルエン、水の混合媒体約230gを留去し、乳白色の均一なダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)の水性分散体「E−1」(固形分濃度20質量%)を得た。
【0084】
参考例2
〔樹脂(A)の水性分散体「E−2」の製造〕
撹拌機及びヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのダイマー酸系ポリアミド樹脂P−2、93.8gのIPA、6.0gのN,N−ジメチルエタノールアミン及び200.3gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間加熱攪拌した。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、130gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、IPA、水の混合媒体約130gを留去し、乳白色の均一なダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)の水性分散体「E−2」(固形分濃度20質量%)を得た。
【0085】
参考例3
〔樹脂(B)の水性分散体「E−3」の製造〕
6L−ステンレス製オートクレーブ中でポリフッ化ビニリデン樹脂を乳化重合することにより、フッ素含有樹脂(B)の水性分散体「E−3」を得た。なお、乳化重合の条件としては、重合温度を80℃とし、開始剤としてアンモニウムパーサルフェート(APS)を、界面活性剤としてポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル(日本油脂(株)製「ディスパノールTOC(商品名)」)を、連鎖移動剤としてIPAをそれぞれ使用した。そして、重合圧力と、連鎖移動剤及び開始剤の使用量とを適宜調節して、樹脂の重量平均分子量を330000に調製した。
【0086】
参考例4
〔樹脂(B)の水性分散体「E−4」の製造〕
重合圧力と、連鎖移動剤及び開始剤の使用量とを適宜変更する以外は、参考例3と同様に行い、フッ素含有樹脂(B)の水性分散体「E−4」を得た。「E−4」中のフッ素含有樹脂の重量平均分子量は、400000であった。
【0087】
実施例1
ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)の水性分散体「E−1」と、フッ素含有樹脂(B)の水性分散体「E−3」とを室温で5分間、混合攪拌し、バインダー用樹脂の水性分散体たる二次電池電極用バインダー液「T−1」を得た。「T−1」には、ダイマー酸系ポリアミド樹脂(固形分)100質量部に対してフッ素含有樹脂(固形分)が20質量部含まれていた。バインダー用樹脂と各金属集電体との接着性を表1に示す。
【0088】
実施例2〜8
樹脂(A)(B)の水性分散体の種類、及びその固形分の含有量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に行い、二次電池電極用バインダー液「T−2」〜「T−8」を得た。各バインダー用樹脂と各金属集電体との接着性を表1に示す。
【0089】
比較例1〜4
参考例1〜4で得た「E−1」〜「E−4」をそのまま二次電池電極用バインダー液として用いた。各バインダー用樹脂と各金属集電体との接着性を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
実施例9〜16、比較例5〜8
実施例1〜8、比較例1〜4で得られた二次電池電極用バインダー液を用いて、二次電池電極及び電池を下記の通り製造した。得られた二次電池電極及び電池の特性値と評価結果とを表2に示す。
【0092】
〔二次電池電極の製造〕
負極活物質として黒鉛粉末(日本黒鉛工業社製「CGC−20(商品名)」)と、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック(商品名)」)と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)(第一工業製薬社製「セロゲンBSH−6(商品名)」)水溶液と、表2に記載された二次電池電極用バインダー液とを、それぞれの固形分濃度が、92.2質量%、4質量%、0.8質量%、3質量%になるように配合した。そして、これを蒸留水で希釈した後、十分に混練することにより、固形分濃度45質量%の二次電池負極用ペーストとした。
【0093】
次に、フィルムアプリケーターを用いて、厚さ18μmの銅箔上に上記ペーストを塗布し、80℃で30分熱風乾燥した後、さらに120℃で15時間真空乾燥して、厚さ約80μmの活物質層を形成することにより、二次電池負極電極とした。
【0094】
〔コイン型電池の製造〕
上記の二次電池負極電極から面積2cmの円形状電極を切り出し、切り出した電極をプレスすることで、活物質層の膜密度が1.2g/cmの負極電極を作製した。次に、この電極と、予め用意しておいたコバルト酸リチウム正極電極(宝泉社製)とを、ポリプロピレンメンブレンセパレーター(セルガード社製「セルガード#2400(商品名)」)を介して重ね合わせることで、コイン型電池とした。
【0095】
【表2】

【0096】
実施例17〜24、比較例9〜12
実施例1〜8、比較例1〜4で得られた二次電池電極用バインダー液を用いて、二次電池電極及び電池を下記の通り製造した。得られた二次電池電極及び電池の特性値と評価結果とを表3に示す。
【0097】
〔二次電池電極の製造〕
正極活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業社製「セルシードC−10N(商品名)」)と、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック(商品名)」)と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)(第一工業製薬社製「セロゲンBSH−6(商品名)」)水溶液と、表3に記載された二次電池電極用バインダー液とを、それぞれの固形分濃度が92質量%、4質量%、1質量%、3質量%になるように配合した。そして、これを蒸留水で希釈した後、十分に混練することにより、固形分濃度55質量%の二次電池正極用ペーストとした。
【0098】
次に、フィルムアプリケーターを用いて、厚さ18μmのアルミ箔上に上記ペーストを塗布し、80℃で30分熱風乾燥した後、さらに120℃で15時間真空乾燥して、厚さ約80μmの活物質層を形成することにより、二次電池正極電極とした。
【0099】
〔コイン型電池の製造〕
上記の二次電池正極電極から面積2cmの円形状電極を切り出し、切り出した電極をプレスすることで、活物質層の膜密度が3.0g/cmの正極電極を作製した。次に、この電極と、予め用意しておいた黒鉛負極電極(宝泉社製)とを、ポリプロピレンメンブレンセパレーター(セルガード社製「セルガード#2400(商品名)」)を介して重ね合わせることで、コイン型電池とした。
【0100】
【表3】

【0101】
表1から明らかなように、実施例1〜8で得られた二次電池電極用バインダー液は、金属集電体との接着性に優れるものであった。
【0102】
また、表2、3から明らかなように、実施例9〜24で得られた電極は、初期は勿論、充放電を繰り返した後の接着性にも優れるものであった。そして、得られた二次電池は、初期特性、サイクル特性共に優れるものであった。
【0103】
一方、比較例1〜2におけるバインダー液では、バインダー用樹脂として樹脂(A)しか使用されなかったため、金属集電体との接着性には優れていたものの、そのバインダー液を用いて得られた電池は、サイクル特性に劣るものであった(比較例5〜6、9〜10)。また、比較例3〜4におけるバインダー液では、樹脂(B)しか使用されなかったため、金属集電体との接着性に劣り、その結果、電極は層剥離しやすく、得られた電池もサイクル特性に劣るものであった(比較例7〜8、11〜12)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)と、フッ素含有樹脂(B)とを含有することを特徴とする二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
【請求項2】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)中のダイマー酸の含有量が、ジカルボン酸成分100モル%に対して50モル%以上であることを特徴とする請求項1記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
【請求項3】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)の酸価が、1〜50mgKOH/gであることを特徴とする請求項1又は2記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
【請求項4】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂(A)とフッ素含有樹脂(B)との質量比が、100:20〜100:100であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
【請求項5】
フッ素含有樹脂(B)が、ポリフッ化ビニリデン及び/又はポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物と、液状媒体とを含有してなる二次電池電極用バインダー液。
【請求項7】
液状媒体が水である請求項6記載の二次電池電極用バインダー液。
【請求項8】
請求項1〜5いずれかに記載の二次電池電極のバインダー用樹脂組成物を含有することを特徴とする二次電池電極。
【請求項9】
請求項8記載の二次電池電極を用いて形成された二次電池。


【公開番号】特開2012−164521(P2012−164521A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23983(P2011−23983)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】