説明

二次電池電極用バインダー

【課題】集電体や活物質との結着力に優れており、電極塗工層の表面電気抵抗率の低い電極塗工層を形成することができる二次電池電極用バインダーを提供する。
【解決手段】エチレン性不飽和カルボン酸単量体、シアン化ビニル系単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体、脂肪族共役ジエン系単量体のそれぞれを特定比率で構成し、これを乳化重合して得られた共重合体ラテックスからなるバインダーとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池電極用バインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に代表される二次電池は、軽量でエネルギー密度が大きいことから、小型電子機器を初めとして、自動車あるいは住宅の電源としての活用が進められている。リチウムイオン電池の電極の作製においては、通常、結着剤としてポリフッ化ビニリデンやブタジエン系ゴムが用いられ、活物質(正極活物質および負極構成材)に配合して電極用組成物を調製し、その電極用組成物を集電体上に塗布、乾燥することにより、活物質を集電体に結着させている。
【0003】
最近、結着剤としては、有機溶媒に溶解する必要があるポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーから、有機溶媒の回収を必要としない水系のブタジエン系ゴムラテックスへ移行している。
【0004】
ポリフッ化ビニリデン同様、ブタジエン系ゴムラテックスにおいても、二次電池の高性能化、小型化に適合可能な、結着力(少量化可能)に優れ、表面電気抵抗の低い電極の製造を可能にするバインダーが求められている。そのため、ブタジエン系ゴムラテックスを構成する組成および構造に関する研究が進められており、種々提案されている。
【0005】
例えば、特許第3101775号(特開平5−74461号;特許文献1)では、ブタジエン40〜95%で、ゲル含有量が75〜100%のスチレン−ブタジエン系ゴムラテックスが、特開平8−250123号公報(特許文献2)では、ブタジエン40〜98%で、ゲル含有量が20〜74%のスチレン−ブタジエン系ゴムラテックスが、特許第3567618号(特開平9−320604号公報:特許文献3)では、ブタジエン30〜98%で、ゲル含有量が20〜95%のカルボキシ変性スチレン−ブタジエン系ゴムラテックスが、特開平10−302797号(特許文献4)では、シアン化ビニル5〜50%含むアクリロニトリル−ブタジエン系ゴムラテックスが、特許第3721727号(特開平11−25989号公報:特許文献5)では、芳香族ビニル30〜80%、ブタジエン30%未満、エステル10〜40%およびカルボン酸0.1〜10%からなり、ガラス転移温度−15〜150℃のブタジエン系ゴムラテックスが、また、特許第3755544号(特開平9−87571号公報:特許文献6)では、芳香族ビニル25〜60%、ブタジエン15〜50%、エステル0〜40%およびカルボン酸0〜40%、但し、エステルとカルボン酸の合計が15〜40%のブタジエン系ゴムラテックスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3101775号(特開平5−74461号)公報
【0007】
【特許文献2】特開平8−250123号公報
【0008】
【特許文献3】特許第3567618号(特開平9−320604号公報
【0009】
【特許文献4】特開平10−302797号公報
【0010】
【特許文献5】特許第3721727号(特開平11−25989号)公報
【0011】
【特許文献6】特許第3755544号(特開平9−87571号)公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1〜6を初めとする公知文献提案のブタジエン系ゴムラテックスは、今後ますます小型化する二次電池に求められる集電体や活物質との結着力ならびに電極塗工層の表面電気抵抗率の面では、バインダーとしては不十分である。
本発明の目的は、集電体や活物質との結着力に優れ、電極塗工層の表面電気抵抗率の低い電極塗工層を形成することができる優れた二次電池電極用バインダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するため、本発明者は、二次電池電極用バインダーとしての、ブタジエン系ゴムラテックスの組成を検討した結果、特定組成範囲のポリマーが、集電体や活物質との結着力に優れ、電極塗工層の表面電気抵抗率の低い電極塗工層を形成することが可能であることを見出した。その特定ポリマーとは、以下の5成分を必須成分とするポリマーであり、かつ、その組成範囲が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体0.5〜10重量%、シアン化ビニル系単量体5〜20重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体13〜25重量%、芳香族ビニル系単量体35〜55重量%、脂肪族共役ジエン系単量体18〜28重量%から構成される単量体を乳化重合して得られた共重合体ラテックスである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二次電池電極用バインダーを用いることにより、従来提案のバインダー使用に比べ、集電体や活物質との結着力に優れており、電極塗工層の表面電気抵抗率の低い電極塗工層を形成することができ、より高性能な二次電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の二次電池電極用バインダーは、1)エチレン性不飽和カルボン酸単量体0.5〜10重量%、2)シアン化ビニル系単量体5〜20重量%、3)エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体13〜25重量%、4)芳香族ビニル系単量体35〜55重量%、5)脂肪族共役ジエン系単量体18〜28重量%(単量体合計100重量%)から構成される単量体を乳化重合して得られた共重合体ラテックスからなる二次電池電極用バインダーである。好ましくは、1)エチレン性不飽和カルボン酸単量体1〜8重量%、2)シアン化ビニル系単量体8〜15重量%、3)エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体15〜20重量%、4)芳香族ビニル系単量体40〜50重量%、5)脂肪族共役ジエン系単量体20〜25重量%である。
【0016】
1)エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸(無水物)などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。好ましくは、アクリル酸、フマル酸、イタコン酸が挙げられる。
【0017】
2)シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。好ましくは、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。
【0018】
3)エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなど、“炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル”、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなど、“炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル”、例えば、ジメチルマレエート、ジエチルマレエートなど、“炭素数1〜4のアルキル基を有するマレイン酸アルキルエステル”、例えば、ジメチルイタコネートなど、“炭素数1〜4のアルキル基を有するイタコン酸アルキルエステル”、例えば、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレートなど、“炭素数1〜4のアルキル基を有するフマル酸アルキルエステル”、さらには2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなど“ヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体”などが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル、より好ましくは、メチルメタクリレートが挙げられる。
【0019】
4)芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。好ましくは、スチレンが挙げられる。
【0020】
5)脂肪族共役ジエン系単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。好ましくは、1,3−ブタジエンが挙げられる。
【0021】
さらに、上記の5種類の単量体の他に、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどの不飽和カルボン酸アミド単量体が挙げられ、それらは1種または2種以上用いることができる。好ましくは、アクリルアミド、メタクリルアミドが挙げられる。
【0022】
単量体は、1)エチレン性不飽和カルボン酸単量体0.5〜10重量%、2)シアン化ビニル系単量体5〜20重量%、3)エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体13〜25重量%、4)芳香族ビニル系単量体35〜55重量%、5)脂肪族共役ジエン系単量体18〜28重量%から構成される。
【0023】
単量体の種類が同一でもその組成比率が、上記の範囲を逸脱すると、本発明の効果を得ることができない。
好ましくは、1)エチレン性不飽和カルボン酸単量体1〜8重量%、2)シアン化ビニル系単量体8〜15重量%、3)エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体15〜20重量%、4)芳香族ビニル系単量体40〜50重量%、5)脂肪族共役ジエン系単量体20〜25重量%から構成される。
【0024】
そして、単量体を水中で乳化重合することにより、共重合体ラテックスを得る。
単量体は、乳化剤、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤を初めとする公知の乳化重合に使用される各種化学物質の存在下に重合される。
乳化剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型などのノニオン性界面活性剤などが挙げられ、1種または2種以上用いられる。好ましくは、アニオン性界面活性剤が挙げられ、より好ましくは、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩が挙げられる。
乳化剤は、単量体(合計)100重量部に対して、例えば、0.05〜5重量部、好ましくは、0.1〜3重量部の割合で用いられる。
【0025】
重合開始剤は、ラジカル重合開始剤であって、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドなどの油溶性重合開始剤が挙げられる。好ましくは、水溶性重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムが挙げられ、油溶性重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイドが挙げられる。
【0026】
還元剤としては、例えば、硫酸第一鉄、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、例えば、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類およびその塩、例えば、デキストロース、サッカロースなどの還元糖類、例えば、ジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。好ましくは、硫酸第一鉄、カルボン酸類およびその塩が挙げられ、より好ましくは、硫酸第一鉄、エリソルビン酸が挙げられる。
【0027】
連鎖移動剤としては、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンなど、炭素数6〜18のアルキル基を有するアルキルメルカプタン、例えば、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物、例えば、ターピノレン、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム化合物、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノールなどのフェノール化合物、例えば、アリルアルコールなどのアリル化合物、例えば、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素化合物、例えば、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミドなどのビニルエーテル、例えば、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。好ましくは、α−メチルスチレンダイマー、アルキルメルカプタンが挙げられ、より好ましくは、α−メチルスチレンダイマー、t−ドデシルメルカプタンが挙げられる。
連鎖移動剤は、例えば、単量体(合計)100重量部に対して、0〜5重量部、好ましくは、0.05〜3重量部の割合で用いられる。
【0028】
また、乳化重合において、必要により、不飽和炭化水素を用いることができる。不飽和炭化水素としては、例えば、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセンなどが挙げられ、好ましくは、シクロヘキセンが挙げられる。シクロへキセンは、低沸点で重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすく、環境負荷の観点から好適である。
【0029】
その他の重合助剤として、必要により、例えば、老化防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤などを添加することができる。
また、重合方法としては、特に限定されず、バッチ重合、セミバッチ重合、シード重合などを用いることができる。また、各種成分の添加方法についても特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、パワーフィード法などを用いることができる。
【0030】
これにより、単量体が乳化重合され、得られた共重合体が水中で分散する共重合体ラテックスを得ることができる。
得られた共重合体ラテックスの固形分には特に制限はないが、輸送形態、その後の取り扱いを考慮し、例えば、40〜55重量%、好ましくは、47〜52重量%である。
【0031】
得られた共重合体ラテックス中の共重合体のガラス転移温度(Tg)やトルエンに対する不溶分(ゲル含有量)にも制限はないが、例えば、Tg−20〜90℃、好ましくは、−15〜70℃である。また、トルエンに対する不溶分(ゲル含有量)は、50〜100重量%、好ましくは、60〜99重量%である。Tgならびにゲル含有量が上記範囲外では、電極塗工層の結着力が低下する傾向がある。
さらに、得られた共重合体ラテックス中の共重合体粒子の数平均粒子径にも、特に制限はないが、電極塗工層の結着力の面より、数平均粒子径で、好ましくは50〜300nm、より好ましくは、70〜250nmである。
【0032】
そして、本発明の二次電池電極用バインダーは、例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池などの二次電池の電極を形成するために用いられ、負極構成材または正極活物質の粒子同士および負極構成材または正極活物質と集電体とを結着させる。
具体的には、二次電池電極用バインダーを、負極構成材または正極活物質に配合することにより、電池電極用組成物が調製される。すなわち、二次電池電極用バインダーを負極構成材に配合することにより、二次電池の負極に用いられる負極用組成物が調製される。また、二次電池電極用バインダーを正極活物質に配合することにより、二次電池の正極に用いられる正極用組成物が調製される。
【0033】
負極構成材としては、特に限定されないが、非水電解液二次電池の場合、例えば、フッ化カーボン、黒鉛、炭素繊維、樹脂焼成炭素、リニア・グラファイト・ハイブリット、コークス、熱分解気層成長炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ系炭素、黒鉛ウィスカー、擬似等方性炭素、天然素材の焼成体、およびこれらの粉砕物などの導電性炭素質材料、例えば、ポリアセン系有機半導体、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子が挙げられ、1種あるいは2種以上用いることができる。
【0034】
正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、MnO2、MoO3、V2O5、V6O13、Fe2O3、Fe3O4などの遷移金属酸化物、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiXCoYSnZO2などのリチウムを含む複合酸化物、LiFePO4などのリチウムを含む複合金属酸化物、例えば、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、例えば、CuF2、NiF2などの金属フッ化物が挙げられ、1種あるいは2種以上用いることができる。
【0035】
電池電極用組成物を調製する場合には、二次電池電極用バインダーを、負極構成材または正極活物質100重量部に対して、共重合体ラテックスの固形分が、例えば、0.1〜7重量部、好ましくは0.5〜4重量部となるように配合する。
負極構成材または正極活物質100重量部に対する共重合体ラテックスの固形分が、0.1重量部未満では、集電体などに対する良好な接着力が得られない傾向があり、7重量部を超えると、二次電池として組み立てたときに過電圧が著しく上昇し、電池特性を低下させる傾向がある。
【0036】
また、電池電極用組成物には、必要により、水溶性増粘剤、分散剤、安定化剤などの各種添加剤を添加することができる。水溶性増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどが挙げられ、分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダなどが挙げられ、安定化剤としては、例えば、ノニオン性、アニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0037】
電池電極用組成物に水溶性増粘剤を添加する場合には、例えば、水溶性増粘剤を、負極構成材または正極活物質100重量部に対して固形分換算で、例えば、0.1〜10重量部、好ましくは、0.5〜5重量部の割合で配合する。
電池電極用組成物は、集電体に塗布、乾燥されることにより、集電体上に電極塗工層を形成し、電極シートを得る。そのような電極シートは、リチウムイオン二次電池の正極板または負極板として用いられる。
【0038】
集電体としては、負極用集電体として、例えば、銅やニッケルなどの金属箔が挙げられ、正極用集電体として、例えば、アルミニウムなどの金属箔が挙げられる。
電池電極用組成物を集電体に塗布する方法としては、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法などの公知の方法を用いることができ、乾燥には、放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが用いられる。乾燥温度は、通常、50℃以上である。
【0039】
本発明の二次電池電極用バインダーによれば、集電体や活物質との結着力に優れており、表面電気抵抗率の低い電極塗工層を形成することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、配合割合を示す部および%は重量基準によるものである。
【0041】
1.共重合体ラテックスの合成
(1)実施例1〜4および比較例1〜6
耐圧性の重合反応器に、純水100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、過硫酸カリウム1部を仕込み、十分攪拌した。次いで、重合反応器に、表1に示すカルボン酸全量とカルボン酸以外の各単量体10%およびt−ドデシルメルカプタン0.3部と、シクロへキセン4部とを投入した。攪拌しながら内温を70℃まで昇温させ、重合開始による発熱を確認した後、重合開始から480分まで、内温を70℃に保ちながら、各単量体の残り(90%)、純水10部およびアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.3部を連続添加した。
480分から780分までは、内温を75℃に保って重合を継続した。重合転化率が97%を超えたことを確認して、内温を35℃以下に冷却した。
水酸化カリウム水溶液を用いて、pHを約8に調整した後、水蒸気蒸留により未反応単量体などを除去し、各種共重合体ラテックスを得た。
【0042】
(2)共重合体ラテックスのゲル含有量の測定方法。
温度80℃、湿度85%の雰囲気にてラテックスフィルムを作成する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量し、これを400mlのトルエンに入れ48時間膨張溶解させる。その後、これを300メッシュの金網で濾過し、金網に捕捉されたトルエン不溶部を乾燥後秤量し、この重量のはじめのラテックスフィルムの重量に占める割合をゲル含有量として重量%で算出した。
【0043】
(3)共重合体ラテックスの数平均粒子径測定方法。
共重合体ラテックスの数平均粒子径を動的光散乱法により測定した。尚、測定に際しては、FPAR−1000(大塚電子製)を使用した。
【0044】
(4)共重合体ラテックスのガラス転移点(Tg)測定方法。
共重合体ラテックスをガラス板上に流延し、70℃、4時間乾燥してフィルムを作製した。このフィルムをアルミパンに詰め、示差走査熱量計(DSC6200:セイコーインスツルメンツ社製)にセットした。
あらかじめ、予想されるTgより約50℃低い温度まで装置を冷却した後、加熱速度10℃/minで昇温し、DSC曲線を描かせた。
ガラス転移温度(Tg)は各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
【0045】
2.電極シートの作製
(1)電極用組成物の作製
導電性炭素質材料として平均粒子径が15μmの天然黒鉛を使用し、天然黒鉛100重量部に対して、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液(固形分)2重量部と、各実施例および各比較例で得られた共重合体ラテックス(固形分)3重量部とを、電極用組成物の固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、各実施例および各比較例の各種電極用組成物を調製した。
【0046】
(2)電極シートの作製
各実施例および各比較例の電極用組成物を、集電体となる厚さ20μmの銅箔の両面に塗布し、100℃で25分間乾燥後、室温でプレスして、塗工層の厚みが80μm(片面あたり)の電極シートを得た。
【0047】
3.電極シートの性能試験
(1)電極塗工層の結着力の測定
各実施例および各比較例の電極シートの表面に、ナイフを用いて、塗工層から集電体に達する深さまでの切り込みを、2mm間隔で縦横それぞれ6本入れ、25個(5個×5個)のマス目を有する碁盤目を形成した。この碁盤目に粘着テープを貼付けた。
結着力−1:直ちに粘着テープ引き剥がし、黒鉛の脱落の程度を目視評価した。
結着力−2:30℃、2kg/cm2加重、24時間放置後、粘着テープ引き剥がし、黒鉛の脱落の程度を目視評価した。結果を表1に示す。
◎:剥離なし。
○:1〜3個のマス目が剥離。
△:4〜10個のマス目が剥離。
×:11個以上のマス目が剥離。
【0048】
(2)電極塗工層の表面電気抵抗の測定
各実施例および各比較例の電極用組成物を、市販のポリエステルフィルムに塗工し、130℃で5分間乾燥した。さらにロールプレスにて圧延することにより、塗工層厚みが約60μm、塗工層密度が約1.3g/cm3の塗工層サンプルを得た。
三菱化学アナリテック株式会社製ロレスタ−GPにて、塗工層の表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の二次電池電極用バインダーは、二次電池の電極において、活物質(正極活物質および負極構成材)同士および活物質を集電体に結着させるための二次電池電極用バインダーとして利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体0.5〜10重量%、シアン化ビニル系単量体5〜20重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体13〜25重量%、芳香族ビニル系単量体35〜55重量%、脂肪族共役ジエン系単量体18〜28重量%から構成される単量体を乳化重合して得られた共重合体ラテックスからなる二次電池電極用バインダー。
【請求項2】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体1〜8重量%、シアン化ビニル系単量体8〜15重量%、エチレン性不飽和カルボン酸エステル系単量体15〜20重量%、芳香族ビニル系単量体40〜50重量%、脂肪族共役ジエン系単量体20〜25重量%から構成される単量体を乳化重合して得られた共重合体ラテックスからなる二次電池電極用バインダー。

【公開番号】特開2011−154981(P2011−154981A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17445(P2010−17445)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】