説明

二次電池

【課題】80〜115℃程度の範囲内までの昇温によって電流遮断される二次電池を提供すること。
【解決手段】正極板と負極板11とを重ねてなる電極体を有する二次電池であって,正極板と負極板との少なくともいずれか一方が,金属箔(銅箔21)と,金属箔の表面に形成された電極活物質層(負極活物質層22)と,電極活物質層の上に形成された樹脂微粒子層23とを有するものであり,樹脂微粒子層は,重量平均分子量が,GPC法によるポリスチレンの分子量基準の相対値で5000〜400000の範囲内であるポリエチレン粒子により構成されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,正極板と負極板とを捲回または積層してなる二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より,正極板と負極板とを捲回または積層してなる二次電池がある。このような二次電池では,正極板と負極板との間にイオン透過性を有する絶縁部材が配置される。従来より,絶縁部材として,フィルム状のセパレータが多く使用されている。例えば特許文献1には,二次電池のセパレータとして用いることのできるポリオレフィンとポリエチレンとを含む多孔膜が開示されている。
【0003】
このような多孔膜を捲回型の二次電池のセパレータとして使用するためには,多孔膜に電極板とともに捲回できる程度の強度が要求される。セパレータの材料として多く用いられるポリオレフィンは,分子量の大きいものほど強度が大きい。二次電池のセパレータとしては,通常,分子量40万以上のポリオレフィンが選択されている。
【0004】
セパレータとしては,また,ある程度以上の昇温によって,イオンを通過させる孔が閉孔することによる電流遮断機能をも有しているものが多く採用されている。例えば,ポリエチレンをポリプロピレンで挟んだ3層構成の多孔膜は,ポリエチレンの溶融によって電流を遮断するようになっている。ポリオレフィンの融点は分子量と相関があるため,前述の条件によって分子量40万以上のポリエチレンを用いたセパレータでは,その電流遮断温度が約130℃±5℃の範囲内となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−106237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池に一般的に用いられる電解液の揮発・分解が開始する温度は,およそ130℃である。その上,二次電池の内部の温度は均一ではない。そのため,上記の従来のセパレータの電流遮断温度(約130℃±5℃)では,セパレータの溶融による電流遮断が起きる前に,場所によっては電解液の揮発・分解が始まっているというおそれがある。
【0007】
あるいは,電流遮断が起きた後もさらにもう少し昇温が進めば,さらに電解液の揮発・分解が進行してしまうおそれがある。つまり,130℃前後での電流遮断よりは,もう少し低温で電流遮断することが望まれていた。ただし,電流遮断温度は,通常の使用領域である60℃程度よりは充分に高温側でなければならない。具体的には,80〜115℃程度の範囲内で電流遮断されることが望ましい。
【0008】
本発明は,前記した従来の二次電池が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,80〜115℃程度の範囲内までの昇温によって電流遮断される二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の二次電池は,正極板と負極板とを重ねてなる電極体を有する二次電池であって,正極板と負極板との少なくともいずれか一方が,金属箔と,金属箔の表面に形成された電極活物質層と,電極活物質層の上に形成された樹脂微粒子層とを有するものであり,樹脂微粒子層は,重量平均分子量が,GPC法によるポリスチレンの分子量基準の相対値で5000〜400000の範囲内であるポリエチレン粒子により構成されているものである。
【0010】
本発明の二次電池によれば,正極板または負極板が樹脂微粒子層を有している。さらに,この樹脂微粒子層を構成するポリエチレン粒子は,その重量平均分子量が,GPC法によるポリスチレンの分子量基準の相対値で5000〜400000の範囲内のものである。このようなポリエチレン粒子の溶融温度は,80〜115℃の範囲内である。つまり,本発明の二次電池の温度が80〜115℃の範囲内となると,樹脂微粒子層を構成するポリエチレン粒子が溶融して変形し,粒子間の隙間が塞がれる。この状態となると,樹脂微粒子層のイオン透過性が低下するので,電流が遮断される。これにより,本発明の二次電池は,80〜115℃程度の範囲内までの昇温によって電流遮断されるものとなっている。
【0011】
さらに本発明では,樹脂微粒子層を構成する粒子の90重量%以上が,粒径1〜10μmの範囲内の粒子で占められており,樹脂微粒子層の層厚が,10〜100μmの範囲内であり,樹脂微粒子層が,負極板に形成されているものであることが望ましい。
このようなものであれば,絶縁性能とイオン透過性とをともに適切に有する負極板とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の二次電池によれば,80〜115℃程度の範囲内までの昇温によって電流遮断されるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本形態に係る負極板を示す説明図である。
【図2】温度とインピーダンスとの関係を示すグラフ図である。
【図3】重量平均分子量と抵抗上昇温度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,本発明を具体化した形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池に本発明を適用したものである。
【0015】
本形態の二次電池は,正極板と負極板とを有し,これらが重ねて捲回され,電解液とともにケースに封入されてなるものである。例えば,特開2007−053055号公報の図1に示されているようなものである。本形態の正極板は,アルミ箔の両面に正極活物質層を形成したものである。正極活物質層としては,リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質による正極合剤を含むものであり,例えば,リチウム含有金属酸化物に結着剤と分散溶媒等を混練したものが好適である。また,電解液は,リチウム塩を含む非水電解液またはイオン伝導ポリマー等が好適である。正極板と電解液とは,いずれも従来より用いられている一般的なものとすればよい。
【0016】
本形態の負極板11は,図1にその片面のみを模式的に示すように,銅箔21と負極活物質層22と樹脂微粒子層23とを有するものである。負極活物質層22は,炭素材等を含んでいる。さらに,負極活物質層22の上には,樹脂微粒子層23が形成されている。樹脂微粒子層23は,負極活物質層22の上に固定されており,銅箔21と負極活物質層22と樹脂微粒子層23とが一体的に帯状の負極板11となっている。
【0017】
なお,実際には,本形態の負極板11は,負極活物質層22と樹脂微粒子層23とが,銅箔21の両面に形成されている。つまり,この負極板11の表面は,樹脂微粒子層23によって覆われている。
【0018】
本形態の負極板11の樹脂微粒子層23に用いられている樹脂は,分子量が5000〜400000の範囲内のポリエチレン(PE)を微粒子状としたものである。本形態でいう分子量は,重量平均分子量であり,GPC(Gel Permeation Chromatography)法によって得られるポリスチレン基準の相対値である。なお,このような微粒子状の樹脂としては,例えば,樹脂微粒子を水中に分散した懸濁液状で提供されている,三井化学製の「ケミパール」(商品名)等を使用することができる。本形態で用いるPE微粒子は,メーカーによる公称値で,平均粒径1〜10μmの範囲内のものが好適である。
【0019】
例えば,銅箔21に負極活物質層22を形成したものの両面に,この懸濁液を塗布して乾燥させることにより,負極活物質層22の表面に樹脂の微粒子が付着した状態とすることができる。このとき,樹脂の微粒子同士も互いに付着して層状になる。その結果,図1に示すように,樹脂微粒子層23が形成される。樹脂微粒子層23に含まれる微粒子は,互いの間に多くの隙間を残しているものの,全体として負極活物質層22に重なっている。従って,負極活物質層22が表面に露出している箇所はない。
【0020】
従って,この負極板11を一般的な正極板に重ねて互いに接触させたとしても,負極板11の負極活物質層22と正極板の正極活物質層とが接触することはない。すなわち,負極板11と正極板とは,樹脂微粒子層23によって絶縁された状態となる。従って,樹脂微粒子層23は,絶縁部材として機能する。
【0021】
さらに,樹脂微粒子層23中の微粒子は,元もとの粒子の形状(ここでは,略球状)をほぼ保ったまま固定されており,図1に示したように,粒子同士の間には隙間が多く残っている。従って,リチウムイオンはこの隙間を通過することができる。従って,樹脂微粒子層23はイオン透過性を有している。
【0022】
なお,粒径1〜10μmの範囲内の微粒子を用いているので,樹脂の微粒子は,負極活物質層22の内部まで入り込むことはほとんどない。粒径が小さすぎると,粒子間の隙間が小さくなり,イオン透過性を妨げるおそれがあるので好ましくない。ここでの粒径1〜10μmとは,樹脂微粒子層23を構成する粒子のうち粒径1〜10μmの範囲内のものの割合が重量%で90%以上であるということである。全ての粒子の粒径がこの範囲内であるというわけではない。
【0023】
本形態の二次電池は,負極板11と一般的な正極板とを重ねて捲回し,電解液とともにケースに封入することによって製造されたものである。この二次電池が,樹脂微粒子層23の樹脂の溶融温度以上に昇温すると,樹脂微粒子層23の微粒子が溶融して変形し,微粒子間の隙間が塞がれる。そうなると,樹脂微粒子層23のイオン透過性が大きく低下し,二次電池の電流が遮断される。従って,この樹脂微粒子層23は,昇温時の電流遮断機能を有している。ただし,本形態の樹脂微粒子層23は負極板11と一体になっているので,このように溶融しても,従来のフィルム状のセパレータのように面方向に収縮することはない。
【0024】
また,本形態の樹脂微粒子層23は,負極板11と一体化しているので,捲回のための強度を単体で要求されることはない。従って,その材料として,分子量が比較的小さい樹脂を用いることができる。本形態の樹脂微粒子層23は,分子量が5千〜40万の範囲内のPE微粒子によって形成されている。そして,分子量5千〜40万の範囲内のPE粒子の溶融温度は80〜115℃の範囲内であるため,この樹脂微粒子層23を有する負極板11を用いた二次電池の電流遮断温度は80〜115℃の範囲内である。
【0025】
つまり,本形態の二次電池は,樹脂微粒子層23に用いる樹脂の分子量により,電流遮断温度を選択することができる。その選択可能な範囲は,従来のフィルム状のセパレータよりかなり広い。本形態の負極板11では,分子量5千〜40万の範囲内のPEを採用しているので,適切な範囲内の電流遮断温度を得ることができる。なお,負極板11の樹脂微粒子層23が,従来のセパレータの機能を発揮するため,本形態の二次電池はフィルム状のセパレータを有していない。
【0026】
なお,樹脂微粒子層23の層厚は10〜100μmの範囲内が適切である。平均粒径より薄い樹脂微粒子層23は,適切に形成することができない。また層厚が厚すぎると,負極板11が厚くなりすぎるため好ましくない。
【0027】
本発明者は,分子量25万のPEによる樹脂微粒子層23を形成した負極板11を用いて,実験用の模擬二次電池を作成し,温度と両極間のインピーダンス値との関係を調べた。その結果,図2中に実線L1で示すように,ある特定の温度範囲においてインピーダンスが急上昇し,その前後には,インピーダンスのほとんど変化しない温度範囲があることが分かった。この例では,インピーダンスが急上昇する温度は,104〜108℃程度であった。この温度が,樹脂微粒子層23のイオン透過性の低下する温度に相当している。なお,この図のグラフは,縦軸を対数軸で表記している。以下では,このインピーダンスが急上昇する温度を抵抗上昇温度という。
【0028】
さらに発明者は,正極板と負極板との間にフィルム状のセパレータを配置した従来の二次電池について,同様に,温度と両極間のインピーダンス値との関係を調べた。このセパレータは,分子量50万のPEを含む3層構造のフィルムセパレータである。その結果は,図2中に実線L2で示すようなものであった。すなわち,実線L1の場合と同様にインピーダンスが急上昇する箇所があるものの,インピーダンスが急上昇する温度は実線L1よりかなり高いという結果が得られた。この例の抵抗上昇温度は,130〜132℃程度であった。
【0029】
この実験によって,二次電池の抵抗上昇温度は,樹脂微粒子層23またはセパレータの材料として使用されているPEの分子量に依存することが確認できた。そこで,本発明者は,次に,分子量の異なるPEによる樹脂微粒子層23を有する負極板11を用いた二次電池を製造し,分子量と抵抗上昇温度との関係を調べた。また,フィルム状セパレータについても同様に抵抗上昇温度を測定した。なお,この実験では,二次電池の内部抵抗が,初期状態から50倍以上になったときの温度を抵抗上昇温度とした。
【0030】
この実験では,実施例1〜4として,樹脂微粒子層23に重量平均分子量で5千,4万,25万,40万のPE粒子を用いたものを製造した。なお,本実験での重量平均分子量Mwの測定方法については後述する。これらの樹脂微粒子層23はそれぞれ,平均粒径2.5μmのPE微粒子を用い,PE微粒子99.7%に対して0.3%のCMC(カルボキシメチルセルロース)を増粘剤として追加したものを用いて製造した。樹脂微粒子層23の厚さは,いずれも30μmとした。
【0031】
また,比較例1,2として,分子量の異なるフィルム状セパレータを用いた2種類の二次電池を用意した。さらに,本発明の範囲外である分子量3千のPE粒子を用いた樹脂微粒子層23を有する負極板11による二次電池を,実施例と同様に製造し,これを比較例3とした。
【0032】
【表1】

【0033】
この実験の結果を,上の表1および図3に示した。樹脂微粒子層に用いたPEの重量平均分子量と,抵抗上昇温度との関係は,図3中に実線L3で示すように,重量平均分子量が増加するにつれて抵抗上昇温度は上昇する関係であった。実施例1〜4は,いずれも抵抗上昇温度が80〜115℃の範囲内であった。従って,本発明の形態として適切なものであることが確認できた。
【0034】
一方,比較例1,2は,抵抗上昇温度が高すぎた。比較例3は,抵抗上昇温度が低すぎた。この実験からも,本形態の範囲内である分子量5千〜40万の範囲内のPE粒子で形成した樹脂微粒子層23を用いることで,抵抗上昇温度が80〜115℃の二次電池とすることができることが確認できた。
【0035】
次に,本形態におけるPEの分子量の測定方法について説明する。樹脂の分子量の測定方法は色々あるが,本形態でいう分子量は,標準試料を標準ポリスチレンとし,ポリスチレンの分子量を基準とする相対値である。すなわち,この測定結果は,ポリスチレンの分子量の対数と溶出時間の関係を3次式で近似し作成した。測定条件は,以下に記載した通りである。この測定は,PEの分子量を測定する測定方法として一般的なものである。さらに本形態では,測定結果を用いて,以下の式によって算出した重量平均分子量(Mw)を単に分子量と呼んでいる。
【0036】
装置 : 高温GPC装置(Polymer Laboratories 製 PL−220)
検出器 : 示差屈折率検出器 RI
カラム : Shodex UT−G + HT−806M (2本)
溶媒 : 1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB,和光純薬製)(0.1%BHT添加)
流速 : 1.0mL/min
カラム温度 : 145℃
試料調整 : 試料5mgにGPC測定溶媒5mLを添加し,150〜160℃で約20分間加熱攪拌した。
注入量 : 0.200mL
標準試料 : 標準ポリスチレン
【0037】
さらに本形態では,以下の式のように定義した重量平均分子量(Mw)を用いた。
重量平均分子量 Mw = Σ(Ni・Mi2) / Σ(Ni・Mi)
ここで,
Miは,分子量校正曲線を介して得られたGPC曲線の各溶出位置の分子量
Niは,分子数
である。
【0038】
以上詳細に説明したように本形態の二次電池によれば,その負極板11に樹脂微粒子層23が設けられているので,フィルム状のセパレータを用いなくても,絶縁性能,昇温時の電流遮断性能を有している。特に,樹脂微粒子層23として,重量平均分子量がGPC法によるポリスチレンの分子量基準の相対値で5000〜400000の範囲内であるようなPE粒子を用いているので,その抵抗上昇温度は,80〜115℃の範囲内である。従って,本形態の二次電池は,80〜115℃の範囲までの昇温によって電流遮断されるものとなっている。
【0039】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,本形態で樹脂微粒子層23を負極板11に設けているのは,加工のしやすさや,二次電池中で負極板の方が正極板よりやや大きいものを一般的に用いること等の理由によるが,正極板の両面に設けることとしても良い。あるいは,負極板と正極板とにそれぞれ片面ずつ設けることとしても良い。また,本形態では,PE粒子にCMCを加えたものを塗布するとしたが,それ以外の材料を入れてはいけないわけではない。例えば,PE以外の樹脂粒子や接着剤等を加えても良い。また,フィルム状のセパレータと併用してはいけないということはない。また本発明は,捲回型に限らず,積層タイプの二次電池に適用することもできる。
【符号の説明】
【0040】
11 負極板
21 銅箔
22 負極活物質層
23 樹脂微粒子層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とを重ねてなる電極体を有する二次電池において,
前記正極板と前記負極板との少なくともいずれか一方が,
金属箔と,
前記金属箔の表面に形成された電極活物質層と,
前記電極活物質層の上に形成された樹脂微粒子層とを有するものであり,
前記樹脂微粒子層は,重量平均分子量が,GPC法によるポリスチレンの分子量基準の相対値で5000〜400000の範囲内であるポリエチレン粒子により構成されていることを特徴とする二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池において,
前記樹脂微粒子層を構成する粒子の90重量%以上が,粒径1〜10μmの範囲内の粒子で占められており,
前記樹脂微粒子層の層厚が,10〜100μmの範囲内であり,
前記樹脂微粒子層が,前記負極板に形成されているものであることを特徴とする二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−80654(P2013−80654A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220840(P2011−220840)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】