説明

二置換フタラジンヘッジホッグ経路アンタゴニスト

本発明は、癌の治療に有用な新規の1,4−二置換フタラジンヘッジホッグ経路アンタゴニストを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッジホッグ経路アンタゴニスト、およびより具体的には、新規の1,4−二置換フタラジンおよびその治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達経路は、細胞分化および増殖に関わることによって胚パターン形成および成体組織維持に重要な役割を果たす。ソニックヘッジホッグ(Shh)、インディアンヘッジホッグ(Ihh)およびデザートヘッジホッグ(Dhh)を含むヘッジホッグ(Hh)タンパク質ファミリーは、自己触媒的切断およびコレステロールのアミノ末端ペプチドへのカップリングを含む翻訳後修飾を受けてシグナル伝達活性を有するフラグメントを生成する、分泌糖タンパク質である。Hhは、12回膜貫通型タンパク質Ptch(Ptch1およびPtch2)と結合し、それによりPtchにより媒介されるSmoothened(Smo)の抑制を軽減する。Smoの活性化が一連の細胞間イベントを引き起こし、最終的にGliの転写因子(Gli1、Gli2およびGli3)を安定化し、細胞増殖、細胞生存、血管新生および浸潤に関与するGli依存性遺伝子を発現させる。
【0003】
Shhシグナル伝達の異常活性化が種々の腫瘍形成(例えば、膵臓癌、髄芽腫、基底細胞癌、小細胞肺癌および前立腺癌)を引き起こすという発見に基づいて、Hhシグナル伝達は近年顕著に関心を集めている。例えばステロイドアルカロイド化合物IP−609、アミノプロリン化合物CUR61414および2,4−二置換チアゾール化合物JK18などの複数のHhアンタゴニストが当該技術分野で報告されている。特許文献1では、ヘッジホッグアンタゴニストと主張されている特定の1,4−二置換フタラジン化合物が開示されている。同様に、特許文献2では、ヘッジホッグ経路に関連する病状の診断および治療に関連する特定の1,4二置換フタラジン化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005033288号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008110611号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有効なヘッジホッグ経路阻害剤、特に望ましい薬力学的、薬物動態学的および毒物学的特性を有するものについての必要性が依然として存在する。本発明は、この経路の有効なアンタゴニストである新規の1,4−二置換フタラジンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式Iの化合物
【化1】

(式中、
は、水素、フルオロ、シアノ、トリフルオロメチルまたはメトキシであり、
は、水素、フルオロまたはトリフルオロメチルであり、
は、水素またはクロロであり、ただしRおよびRのうちの少なくとも1つは水素であり、
は、クロロ、フルオロ、シアノ、トリフルオロメチル、メトキシ、ジフルオロメチルまたはトリフルオロメトキシであり、
【化2】

は、
【化3】

からなる群より選択される置換ピペラジン−1,4−ジイルを表す)
またはその製薬的に許容し得る塩を提供する。
【0007】
上記のピペラジン環構造において、描かれるようにピペラジン環の左側は二環式フタラジンに結合され、ピペラジン環の右側がカルボニルに結合されることは理解されるだろう。
【0008】
本発明の化合物は、第三級アミン部分を含み、多くの無機酸および有機酸と反応して、製薬的に許容し得る酸付加塩を生成できることは当業者によって理解されるだろう。そのような製薬的に許容し得る酸付加塩およびそれらを調製するための一般的な方法論は当該技術分野において周知である。例えば、P.Stahlら,HANDBOOK OF PHARMACEUTICAL SALTS:PROPERTIES,SELECTION AND USE,(VCHA/Wiley−VCH,2002);S.M.Bergeら,「Pharmaceutical Salts」,「Journal of Pharmaceutical Science,Vol 66,No.1,1977年,1月」を参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の特定の実施形態は、式Iの化合物
(式中、
(a)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、
(b)Rは、フルオロであり、
(c)Rは、水素またはフルオロであり、
(d)Rは、水素であり、
(e)Rは、水素であり、
(f)Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメチルであり、
(g)Rは、フルオロまたはシアノであり、
(h)Rは、フルオロであり、
【化4】

【化5】

【化6】

(l)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素またはフルオロであり、
(m)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素であり、
(n)Rは、フルオロであり、Rは、水素またはフルオロであり、
(o)Rは、フルオロであり、Rは、水素であり、
(p)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素またはフルオロであり、Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメトキシであり、
(q)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素であり、Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメチルであり、
(r)Rは、フルオロであり、Rは、水素またはフルオロであり、Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメチルであり、
(s)Rは、フルオロであり、Rは、水素であり、Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメトキシであり、
(t)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素またはフルオロであり、Rは、水素であり、Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメチルであり、
(u)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素であり、Rは、水素であり、Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメチルであり、
(v)Rは、フルオロであり、Rは、水素またはフルオロであり、Rは、水素であり、Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメチルであり、
(w)Rは、フルオロであり、Rは、水素であり、Rは、水素であり、Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメチルであり、
(x)Rは、フルオロであり、Rは、水素であり、Rは、水素であり、Rは、フルオロであり、
(y)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素またはフルオロであり、
【化7】

(z)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素であり、
【化8】

(z)Rは、フルオロであり、Rは、水素またはフルオロであり、
【化9】

(aa)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素またはフルオロであり、Rは、水素であり、Rは、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシまたはトリフルオロメチルであり、
【化10】

(bb)Rは、水素、フルオロまたはシアノであり、Rは、水素であり、Rは、水素であり、Rは、フルオロまたはシアノであり、
【化11】


またはその製薬的に許容し得る塩を含む。
【0010】
本発明はまた、式1の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩を、製薬的に許容し得る賦形剤、担体または希釈剤とともに含む、医薬組成物を提供する。
【0011】
本発明の化合物は、好ましくは、種々の経路によって投与される医薬組成物として処方される。好ましくは、そのような組成物は、経口または静脈投与用である。そのような医薬組成物およびそれらを調製するためのプロセスは、当該技術分野において周知である。例えば、REMINGTON:THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY(A.Gennaroら,eds.,第19版,Mack Publishing Co.,1995)を参照のこと。
【0012】
本発明はまた、患者における脳腫瘍、基底細胞癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌または黒色腫を治療する方法であって、そのような治療を必要とする患者に、式Iの化合物、またはその製薬的に許容し得る塩の有効量を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0013】
実際に投与される化合物の量は、治療される状態、選択される投与経路、投与される実際の化合物、個々の患者の年齢、体重および反応、ならびに患者の症状の重症度を含む、関連状況下で医師によって決定されることは理解されるだろう。1日あたりの用量は、通常、体重の約0.1〜約5mg/kgの範囲内である。一部の例において、上述の範囲の下限以下の用量レベルがより適切であってもよく、一方、他の場合において、さらに多い用量が利用されてもよい。従って、上述の用量範囲は、本発明の範囲を決して限定することを意図しない。本発明はまた、医薬として使用するための、式Iの化合物、またはその製薬的に許容し得る塩を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、癌を治療するための医薬の製造における式Iの化合物、またはその製薬的に許容し得る塩の使用を提供する。特に、癌は、脳腫瘍、基底細胞癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌および黒色腫からなる群より選択される。
【0015】
さらに、本発明は、脳腫瘍、基底細胞癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌または黒色腫を治療するための活性成分として、式Iの化合物、またはその製薬的に許容し得る塩を含む、医薬組成物を提供する。
【0016】
式Iの化合物、またはその塩は、当該技術分野において公知の種々の手順、ならびに以下のスキーム、調製物および実施例に記載される手順によって調製され得る。記載される経路の各々についての特定の合成工程は、式Iの化合物、またはその塩を調製するために、異なる方法で組合されるか、または異なるスキームからの工程とともに組み合わされてもよい。
【0017】
他に示さない限り、置換基は前記に定義されたとおりである。試薬および出発物質は、一般に、当業者に容易に利用可能である。他のものは、公知の構造的に類似した化合物の合成と同様である、有機化学および複素環化学の標準的な技術、ならびにいずれかの新規の手順を含む、以下の調製物および実施例に記載される手順によってなされ得る。
【0018】
本明細書に使用される場合、以下の用語は、示される意味を有する:「EtO」はジエチルエーテルを指し;「DMF」はジメチルホルムアミドを指し;「DMSO」はジメチルスルホキシドを指し;「EtOAc」は酢酸エチルを指し;「THF」はテトラヒドロフランを指し;「MeOH」はメタノールを指し;「MTBE」はメチル−tert−ブチルエーテルを指し;「boc」または「t−boc」はtert−ブトキシカルボニルを指し;「SCX」は強カチオン交換を指し;「IC50」は薬剤について可能な50%の最大阻害反応を生じるその薬剤の濃度を指す。
【0019】
【化12】

式(6b)の化合物は、スキーム1に描かれる反応に従って調製できる。
【0020】
スキーム1の工程1において、1,4−ジクロロフタラジン(2)は、求核芳香族置換(SNAr)において置換ピペラジン(3a)または(3b)と反応して、式(4a)または(4b)のピペラジニルフタラジンを得ることができる。反応は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、または炭酸カリウムなどの適切な塩基を有するDMSOまたはDMFなどの双極性非プロトン溶媒中で起こる。混合物は約70〜150℃で加熱する。当業者は、一部の場合において、(S)−tert−ブチル−3−メチルピペラジン−1−カルボキシレートなどのように、少しのヒンダード窒素原子の保護を可能にする、式(3a)のピペラジンにおいてt−boc基などの保護基を使用することは有益であることを認識するだろう。反対に、反応が少しのヒンダード窒素で起こる場合、cis−2,6−ジメチルピペラジンまたはピペラジン−2−イル−メタノールなどの保護されていないピペラジンを使用することが可能であり得る。2,5−ジメチルピペラジンを用いる場合、必要とされる保護はいずれもない。
【0021】
工程2において、式(4)のフタラジニルクロリドは、Suzukiクロスカップリング条件下でフェニルボロン酸と反応する。当業者は、そのようなクロスカップリング反応を促進するのに有用な種々の条件が存在することを認識するだろう。反応条件は、ジオキサンまたはジオキサン/水などの適切な溶媒を使用する。反応は、炭酸セシウムまたはフッ化セシウムなどの塩基の存在下でなされる。反応は、約80〜110℃の温度にて不活性雰囲気下で、ビス(ジ−tert−ブチル(4−ジメチルアミノフェニル)ホスフィン)ジクロロパラジウム(II)、(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィン)フェロセン)パラジウム(II)クロリド、または(SP−4−1)−ビス[ビス(1,1−ジメチルエチル)(4−メトキシフェニル)ホスフィン−κP]ジクロロ−パラジウム(J.Org.Chem.2007,72,5104−5112における触媒Dの合成に従って調製される)などのパラジウム触媒の存在下で起こり、式(6a)または(6b)のフェニルピペラジニルフタラジンを生じる。
【0022】
あるいは、工程3において、式(5)のフェニルフタラジニルクロリドは、上記の工程1に記載したものと同様の求核芳香族置換(SNAr)において式(3a)または(3b)のピペラジンと反応する。
【0023】
スキーム1、工程4において、式(6a)のフェニルピペラジニルフタラジンに存在するものなどのアミン官能性は、(6b)に脱保護され、さらに反応して、本発明の化合物を生じ得る。窒素保護基を除去するための方法は、当該技術分野において周知である(例えば、GreeneおよびWuts,Protective Groups in Organic Synthesis,第3版,John Wiley and Sons,New York(1999)を参照のこと)。例えば、式(6)のフェニルピペラジニルフタラジンのboc脱保護は、塩化水素を含むなどの酸性条件の下でなされ得る。得られたHCl塩は、SCXカラムまたは炭酸水素ナトリウムなどの無機塩基を用いて遊離アミンに変換され得る。
【0024】
スキーム1における式(5)の化合物は、商業的に利用可能であるか、あるいは本明細書に記載されるものと同様の方法によって、または当該技術分野で確立された手順を用いて容易に調製され得ることは、当業者によって理解されるだろう。例えば、フェニルマグネシウムブロミドと無水フタル酸とのグリニャール反応から生成された、2−フェニルカルボニル安息香酸は、ヒドラジンと環化して、4−フェニル−2H−フタラジン−1−オンを生じることができる。オキシ塩化リンでの後の処理により、式(5)の1−クロロ−4−フェニル−フタラジンが生じる。あるいは、1,4−ジクロロフタラジンは、Suzukiクロスカップリング反応においてフェニルボロン酸と反応して、対応する式(5)の1−クロロ−4−フェニル−フタラジンが生じ得る。
【0025】
【化13】

スキーム2において、脱保護された式(6b)のピペラジニルフタラジンは、ジクロロメタンなどの不活性溶媒中で置換フェニルイソシアネートを用いてアシル化されて、式(1)の尿素を生じ得る。
【0026】
以下の調製物および実施例は、さらに詳細に本発明を例示し、式(I)の化合物の典型的な合成を表すために提供される。本発明の化合物の命名は、一般に、ChemDraw Ultra(登録商標)10.0によって提供される。
【0027】
調製物1
(S)−tert−ブチル4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート
【化14】

DMSO(97mL)中の1−クロロ−4−(4−フルオロフェニル)フタラジン(5.0g,19.3mmol)、(S)−tert−ブチル2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(5.03g,25.1mmol)およびトリエチルアミン(8.1mL,59.0mmol)の混合物を、3日間、115℃にて加熱する。反応混合物を水に注ぎ、CHClでリンスする。EtOで抽出する。有機層を水(2×)で洗浄し、次いで、NaSOで乾燥させ、減圧下で濃縮する。得られた残渣をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中の0〜20%EtOAcの勾配)により精製して、淡黄色の泡状物として標題化合物(7.05g,84%)を得る。ES/MS m/z 423.2(M+1)。
【0028】
別法
25℃にて、(S)−tert−ブチル2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(276g,1.38mol)を、DMSO(2.56L)中の1−クロロ−4−(4−フルオロフェニル)フタラジン(275g,1.06mol)およびジイソプロピルエチルアミン(346mL,1.99mol)のスラリーに加える。混合物を9時間、102℃まで加熱する。反応物を25℃まで冷却し、48時間攪拌する。混合物をEtOAc(2.5L)および水(3.5L)に加える。水相を酢酸エチル(2×2.0L)で抽出する。有機層を合わせ、水(2.5L)で洗浄し、茶色の泡状物まで濃縮する。泡状物をアセトニトリル(1.0L)に溶解し、30分間、1℃まで冷却する。沈殿物を濾過して、黄褐色の固体を得る。母液を濃縮し、残渣を30分間、アセトニトリル(500mL)中でスラリーにする。混合物を濾過して、黄褐色の固体を得る。固体沈殿物を合わせ、真空オーブン(14torr,25℃)中で25時間乾燥させて、黄褐色の固体として標題化合物(435g,96%)を得る。ES/MS m/z 423.0(M+1)。
【0029】
3〜6日間、115〜150℃の温度にて、1.5当量の適切に置換したピペラジンおよび3〜5当量のトリエチルアミンを用いて、調製物1に記載した手順に本質的に従って、以下の表のピペラジニルフタラジンを調製する。
【0030】
【表1】

【0031】
調製物2の別法
1−クロロ−4−(4−フルオロフェニル)フタラジン(200g,773mmol)を、(S)−tert−ブチル3−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(232g,1.16mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(674mL,28.1mol)、およびDMSO(2.0L)の溶液に加える。混合物を60時間、120℃まで加熱する。混合物を25℃まで冷却し、氷水(3.0L)に注ぎ、濾過する。固体を回収し、CHCl(2.0L)に溶解し、水(2.0L)で抽出する。有機相を濃縮し、CHCl中の3%THFで溶出するシリカプラグ(3.0kgのシリカ)に加えて、黄色の泡状物(126g,38%)として標題化合物を得る。ES/MS m/z 423.0(M+1)。
【0032】
調製物7
(S)−tert−ブチル2−エチル−4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)ピペラジン−1−カルボキシレート
【化15】

120℃にて1日間、DMSO(75mL)中の1−クロロ−4−(4−フルオロフェニル)フタラジン(5.02g,19.4mmol)、(S)−tert−ブチル2−エチルピペラジン−1−カルボキシレート(5.00g,23.3mmol)およびKCO(5.38g,38.9mmol)の混合物を加熱する。反応混合物を水に注ぎ、EtOAcでリンスする。EtOAcで抽出する。有機層を水(2×)、次いでブラインで洗浄し、NaSOで乾燥させ、減圧下で濃縮する。得られた残渣をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中に20〜80%EtOAcの勾配)により精製して、標題化合物(5.11g,60%)を得る。ES/MS m/z 437.2(M+1)。
【0033】
cis−2,6−ジメチルピペラジンを用いて、調製物7に記載した手順に本質的に従って、以下の表のピペラジニルフタラジンを調製する。
【0034】
【表2】

【0035】
調製物9
(R)−(4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)ピペラジン−2−イル)メタノール
【化16】

1−クロロ−4−(4−フルオロフェニル)フタラジン(0.1g,0.39mmol)、(R)−ピペラジン−2−イルメタノール(0.07g,0.58mmol)およびジイソプロピルエチルアミン(0.34mL,1.93mmol)をDMSO(1mL)に溶解する。反応物を120℃にて64時間攪拌する。反応混合物を、フラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中の0〜10%の2Mアンモニア/MeOH)により精製して、茶色の固体として標題化合物(0.11g,84%)を得る。ES/MS m/z 339.0(M+1)。
【0036】
適切に置換されたピペラジンを用いて、調製物9に記載した手順に本質的に従って、以下の表のピペラジニルフタラジンを調製する。
【0037】
【表3】

【0038】
調製物14
(S)−tert−ブチル4−(4−クロロフタラジン−1−イル)−3−メチルピペラジン−1−カルボキシレート
【化17】

120℃にて2日間、DMSO(200mL)中の1,4−ジクロロフタラジン(10.0g,50.2mmol)、(S)−tert−ブチル3−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(15.1g,75.4mmol)およびトリエチルアミン(21.0mL,150.7mmmol)の混合物を加熱する。反応混合物を水に注ぎ、CHClでリンスする。EtOで抽出する。有機層を水(2×)で洗浄し、NaSOで乾燥させ、減圧下で濃縮する。得られた残渣を、フラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中に0〜20%EtOAcの勾配)により精製して、淡黄色の固体として標題化合物(6.0g,33%)を得る。ES/MS m/z (35Cl)363.0(M+1)。
【0039】
調製物15
(S)−tert−ブチル4−(4−クロロフタラジン−1−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート
【化18】

80℃にて18時間、DMSO(110mL)中の1,4−ジクロロフタラジン(7.80g,39.2mmol)、(S)−tert−ブチル2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(4.98g,24.9mmol)およびトリエチルアミン(10.3mL,73.9mmol)の混合物を加熱する。反応混合物を水に注ぎ、EtOAcでリンスする。EtOAcで抽出する。有機層を水(2×)およびブラインで洗浄し、NaSOで乾燥させ、減圧下で濃縮する。得られた残渣をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中に20%〜80%EtOAcの勾配)により精製して、標題化合物(4.13g,46%)を得る。ES/MS m/z (35Cl)363.0(M+1)。
【0040】
調製物16
(S)−tert−ブチル4−(4−(4−シアノフェニル)フタラジン−1−イル)−3−メチルピペラジン−1−カルボキシレート
【化19】

90℃にて一晩、1,4−ジオキサン(80mL)および水(20mL)中の(S)−tert−ブチル4−(4−クロロフタラジン−1−イル)−3−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(4.0g,11.0mmol)、4−シアノフェニルボロン酸(2.43g,16.5mmol)、炭酸セシウム(14.4g,44.1mmol)、および(SP−4−1)−ビス[ビス(1,1−ジメチルエチル)(4−メトキシフェニル)ホスフィン−κP]ジクロロパラジウム(J.Org.Chem.2007,72,5104−5112)(75.4mg,0.11mmol)の混合物を加熱する。反応混合物を水とCHClとの間に分離する。水層をCHClで抽出する。合わせた有機層をNaSOで乾燥させ、減圧下で濃縮する。得られた残渣をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中に0〜20%EtOAcの勾配)により精製して、淡い橙色の泡状物として標題化合物(4.46g,94%)を得る。ES/MS m/z 430.2(M+1)。
【0041】
適切な4−クロロフタラジンおよびボロン酸を用いて、調製物16に記載した手順に本質的に従って、以下の表のピペラジニルフタラジンを調製する。触媒としてビス(ジ−tert−ブチル(4−ジメチルアミノフェニル)ホスフィン)ジクロロパラジウム(II)を加える前に、調製物19〜20を脱気し、90℃にて72時間、得られた混合物を加熱する。
【0042】
【表4】

【0043】
調製物21
(S)−tert−ブチル4−(4−(4−メトキシフェニル)フタラジン−1−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート
【化20】

1,4−ジオキサン(30mL)中の(S)−tert−ブチル4−(4−クロロフタラジン−1−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(0.81g,2.23mmol)、4−メトキシベンゼンボロン酸(1.07g,7.05mmol)およびフッ化セシウム(1.05g,6.94mmol)の脱気した混合物を(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィン)フェロセン)パラジウム(II)クロリド(0.27g,0.33mmol)で処理する。95℃にて一晩、得られた混合物を加熱する。反応混合物を、水とEtOAcとの間に分離する。水層をEtOAcで抽出する。有機部分を水およびブラインで洗浄し、NaSOで乾燥させ、減圧下で濃縮する。得られた残渣を、フラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中に15〜70%EtOAcの勾配)により精製して、標題化合物(0.94g,96%)を得る。ES/MS m/z 435.2(M+1)。
【0044】
調製物22
(S)−1−(4−フルオロフェニル)−4−(3−メチルピペラジン−1−イル)フタラジン
【化21】

1,4−ジオキサン(50mL)中の(S)−tert−ブチル4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(7.05g,16.2mmol)の溶液を1,4−ジオキサン(25mL)中の4M HClで処理する。MeOHを加えて、得られた沈殿物を溶解し、周囲温度にて2時間攪拌する。反応混合物を減圧下で濃縮する。残渣をMeOHに溶解し、50gのVarian(登録商標)SCXカラムに注ぐ。MeOHおよびCHClでリンスし、次いでMeOH中の1:1のCHCl:2Mアンモニアで生成物を溶出する。減圧下で溶出液を濃縮して、淡い黄色の泡状物として標題化合物(4.83g,93%)を得る。ES/MS m/z 323.2(M+1)。
【0045】
調製物22についての別法
メタノール(2.82L)を、ドライアイスを含む1:1アセトン/水浴槽により0℃まで冷却し、30分にわたって塩化アセチル(142mL,2.0mol)を滴下し、添加の間、温度を15℃以下に維持する。混合物を15分間攪拌する。(S)−tert−ブチル4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシレート(282g,667mmol)を一度に加える。25℃にて12時間、混合物を攪拌する。濃縮し、残渣を水(3.0L)に溶解する。pHが7になるまで固体のNaHCOを加える。生成物をCHCl(2×2.0L)で抽出し、有機層を合わせ、濃縮して、定量的収率(236g,>100%)で茶色の押しつぶせる泡状物として標題化合物を得る。ES/MS m/z 323.0(M+1)。
【0046】
2時間〜一晩の反応時間で、適切なboc保護ピペラジニルフタラジンを用いて、調製物22に記載した手順に本質的に従って、以下の表のピペラジニルフタラジンを調製する。調製物30〜34に関して、溶媒としてMeOHを使用する。
【0047】
【表5−1】

【表5−2】

【0048】
調製物35
3−フルオロ−4−イソシアネートベンゾニトリル
【化22】

氷水浴槽中のトルエン(20mL)中のトリホスゲン(1.09g,3.67mmol)の溶液を冷却する。トルエン(30mL)中の4−アミノ−3−フルオロベンゾニトリル(1.36g,10.0mmol)およびトリエチルアミン(2.8mL,20.0mmol)の溶液を滴下して処理する。70℃にて5時間、得られた混合物を加熱する。反応混合物を周囲温度まで冷却し、固体を濾過する。減圧下で濾液を濃縮して、白色固体(1.44g,84%)を得て、それをさらに精製せずに使用する。GC/MS m/z 162(M)。
【0049】
調製物35に記載した手順に本質的に従って、適切なアニリンから以下の表の既知のイソシアネートを調製する。
【0050】
【表6】

【実施例】
【0051】
実施例1
(S)−N−(4−フルオロフェニル)−4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシアミド塩酸塩
【化23】

CHCl(31mL)中の(S)−1−(4−フルオロフェニル)−4−(3−メチルピペラジン−1−イル)フタラジン(1.0g,3.1mmol)の溶液を、1−フルオロ−4−イソシアネートベンゼン(0.42mL,3.72mmol)で処理する。周囲温度にて3日間攪拌する。減圧下で反応混合物を濃縮する。残渣をEtOで粉砕し、濾過する。固体をペンタンでリンスし、次いで45℃にて真空オーブン中で乾燥させる。固体をCHClおよびMeOHの混合物に溶解し、EtO中の3当量の1M HClで処理する。得られた混合物を攪拌し、減圧下で濃縮し、45℃にて真空オーブン中で乾燥させて、黄色の泡状物として標題の塩酸塩(1.5g,98%)を得る。ES/MS m/z 460.0(M+1)。
【0052】
実施例1の別法
25℃にて、1−フルオロ−4−イソシアネートベンゼン(105mL,930mmol)を、CHCl(4.5L)中の(S)−1−(4−フルオロフェニル)−4−(3−メチルピペラジン−1−イル)フタラジン(300g,930mmol)の溶液に1時間にわたって滴下する。混合物を25分間攪拌し、泡状物まで濃縮する。泡状物をMTBE(3.0L)中でスラリーにし、湿ったケーキをMTBE(500mL)で洗浄する。母液を油状物まで濃縮する。油状物を酢酸エチル(2.0L)中でスラリーにして、固体を得、濾過する。濾過した固体を合わせ、乾燥させて、黄褐色の固体(344g,80%)として標題化合物を得る。42℃にて、固体(327g,711mmol)をイソプロパノール(3.27L)中でスラリーにして、1,4−ジオキサン(177mL,711mmol)中の4M HClで処理する。得られた混合物を30分間、60℃まで加熱する。2時間にわたって25℃までゆっくりと冷却する。濾過し、湿ったケーキをイソプロパノール(200mL)およびヘプタン(200mL)で洗浄する。真空オーブン(12torr,35℃,2時間)中でケーキを乾燥させて、淡い黄色の固体として標題化合物(308g,87%)を得る。ES/MS m/z 460.0(M+1)。
【0053】
実施例2
(S)−N−(4−フルオロフェニル)−4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−3−メチルピペラジン−1−カルボキシアミド塩酸塩
【化24】

CHCl(15.5mL)中の(S)−1−(4−フルオロフェニル)−4−(2−メチルピペラジン−1−イル)フタラジン(0.5g,1.55mmol)の溶液を、1−フルオロ−4−イソシアネートベンゼン(0.194mL,1.71mmol)で処理する。周囲温度にて一晩攪拌する。反応混合物をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(CHCl中の0〜3%の2Mアンモニア/MeOHの勾配)により精製する。精製した遊離塩基をCHClおよびMeOHの混合物に溶解し、EtO中の3当量の1M HClで処理する。得られた混合物を攪拌し、減圧下で濃縮し、45℃にて真空オーブン中で乾燥させて、黄色の泡状物として塩酸塩(0.72g,94%)を得る。ES/MS m/z 460.0(M+1)。
【0054】
実施例2についての別法
25℃にて、1−フルオロ−4−イソシアネートベンゼン(27.9mL,245mmol)を、CHCl(500mL)中の(S)−1−(4−フルオロフェニル)−4−(2−メチルピペラジン−1−イル)フタラジン(72g,223mmol)の溶液に1時間にわたって滴下する。混合物を25分間攪拌し、泡状物まで濃縮する。0℃にて塩化アセチル(16.5mL,231mmol)をメタノールに加え、5分間攪拌する。泡状物をメタノール溶液に加え、1時間攪拌する。溶液を泡状物まで濃縮する。泡状物をアセトニトリル(200mL)およびCHCl(30mL)中でスラリーにし、濾過し、黄色の固体として標題化合物(91g,86%)を収集する。ES/MS m/z 460.0(M+1)。
【0055】
適切なピペラジニルフタラジンおよびわずかに過剰の適切なイソシアネートを用いて、実施例1または実施例2に記載した手順に本質的に従って以下の表の尿素を調製する。反応時間を0.5時間〜3日に変化させる。粉砕(EtOまたは1:1のCHCl:ヘキサンで)またはフラッシュシリカゲルクロマトグラフィーにより化合物を精製する。実施例57〜60および66〜69に関して、質量誘導逆相クロマトグラフィー(Waters XBridge C18 ODB MS HPLCカラム、30×75mm、5μm粒径、水中に20〜70%アセトニトリルの勾配、0.01M炭酸アンモニウム含有、8分間85mL/分の流速にて)により精製する。実施例75〜82に関して、1.5〜2倍過剰で粗イソシアネート(調製物35〜36)を使用する。実施例18、29および38に関して、HCl塩形成プロセスからMeOHを除く。
【0056】
【表7−1】

【表7−2】

【表7−3】

【表7−4】

【表7−5】

【表7−6】

【表7−7】

【表7−8】

【表7−9】

【表7−10】

【表7−11】

【表7−12】

【表7−13】

【表7−14】

【0057】
実施例90
(R)−N−(4−フルオロフェニル)−4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−2−(ヒドロキシメチル)ピペラジン−1−カルボキシアミド塩酸塩
【化25】

CHCl(3ml)中の(R)−(4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)ピペラジン−2−イル)−メタノール(0.15g,0.44mmol)の溶液を、1−フルオロ−4−イソシアネートベンゼン(0.04g,0.31mmol)で処理する。反応物を周囲温度で30分間攪拌し、次いで反応混合物を濃縮する。得られた残留物を、フラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中に0〜50%EtOAc、次いでCHCl中に3%MeOHに交換する)により精製して、固体を得る。固体をMeOH(1mL)に溶解し、1NのHCl水溶液(0.13mL,0.13mmol)で処理する。溶液を濃縮して、固体として標題化合物(0.065g,29%)を得る。ES/MS m/z 476.0(M+1)。
【0058】
適切なピペラジニルフタラジンおよびイソシアネートを用いて、実施例90に記載した手順に本質的に従って以下の表のピペラジニルフタラジン尿素を調製する。
【0059】
【表8】

【0060】
実施例94および95
N−(4−フルオロフェニル)−4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−trans−2,5−ジメチルピペラジン−1−カルボキシアミド塩酸塩、異性体1および異性体2
【化26】

CHCl(5mL)中の1−(trans−2,5−ジメチルピペラジン−1−イル)−4−(4−フルオロフェニル)フタラジン(0.3g,0.89mmol)の溶液を、1−フルオロ−4−イソシアネートベンゼン(0.17g,1.25mmol)で処理する。反応物を周囲温度で1時間攪拌する。反応混合物を、フラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中に0〜50%EtOAc)により精製する。適切な画分をプールし、濃縮する。N−(4−フルオロフェニル)−4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−trans−2,5−ジメチルピペラジン−1−カルボキシアミド異性体(0.3g,0.59mmol)の混合物をMeOH(2mL)に溶解する。キラルクロマトグラフィー(Chiralcel OJ−H、流速30mL/分、検出225nm、6:4のMeOH:アセトニトリル)によりtrans−異性体の混合物を分離する。異性体1として第1の溶出ピークおよび異性体2として第2の溶出ピークを収集する。適切な画分をプールし、濃縮する。分離した異性体をMeOH(1mL)に溶解し、各溶液を1当量の1NのHCl水溶液で処理する。濃縮して、異性体1(0.131g,44%)および異性体2(0.129g,43%)の塩酸塩を得る。異性体1:ES/MS m/z 474.2(M+1),99%ee。異性体2:ES/MS m/z 474.2(M+1),99%ee。
【0061】
実施例96および97
N−(4−フルオロフェニル)−4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−cis−2,5−ジメチルピペラジン−1−カルボキシアミド塩酸塩、異性体1および異性体2
【化27】

調製物12からのcis−ジメチルピペラジンの混合物を用いて、実施例94および95に記載した手順に本質的に従って、実施例96および97を調製する。キラルHPLCによってcis−異性体の混合物を分離し、HCl塩を生成して、異性体1(0.21g,34%)および異性体2(0.20g,33%)を得る。異性体1:ES/MS m/z 474.2(M+1),95%ee。異性体2:ES/ME m/z 474.2(M+1),92%ee。
【0062】
生物学
ヘッジホッグは以下の癌についての生存因子として関与する:基底細胞癌;上部消化管癌(食道、胃、膵臓、および胆道);前立腺癌;乳癌;小細胞肺癌;非小細胞肺癌;B細胞リンパ腫;多発性骨髄腫;胃癌;卵巣癌;結腸直腸癌;肝臓癌;黒色腫;腎臓癌;および脳腫瘍。
【0063】
ヘッジホッグ経路の要素は癌の治療のための潜在的な薬剤標的であるとされている。骨芽腫から確立されたDaoy細胞株(ATCC,HTB−186)はHhリガンドに応答する。これらの細胞を外から加えられたShh馴化培地で処理する場合、Hhシグナル伝達経路は活性化され、Glilの増大された発現を生じる。コーンリリー(corn lily)Veratrum californicumから単離されたアルカロイドであるシクロパミンは弱いヘッジホッグアンタゴニストであり、Shh刺激に応答するGlilの発現を抑制することが示されている。最近の観測により、シクロパミンが、培養された髄芽腫細胞および同種移植片の増殖を阻害することが示唆されている。このDaoy細胞モデルシステムを用いて、ヘッジホッグシグナル伝達経路の潜在的な阻害剤が同定され得る。本発明の化合物はヘッジホッグアンタゴニストであるため、それらは上述の腫瘍タイプを治療するのに適している。
【0064】
生物学的活性IC50の測定
以下のアッセイプロトコルおよびその結果は、本発明の化合物および方法の有用性および効果をさらに実証する。機能的アッセイは、本発明の化合物がShhシグナル伝達を阻害する能力を示すという支持を提供する。以下のアッセイに利用される全てのリガンド、溶媒、および試薬は、市販の供給業者から容易に入手可能であるか、または当業者により容易に調製され得る。
【0065】
生物活性を、DAoyニューロン癌細胞において機能的アッセイを用いて測定し、bDNA(分枝デオキシリボ核酸)アッセイ系(Panomics,Inc.,Fremont,CA)によってGlilリボ核酸のレベルを測定する。Gliは最初に膠芽腫細胞株において発見され、Shhシグナル伝達によって活性化される亜鉛フィンガータンパク質をコードする。最大反応は、24時間、馴化培地を用いてDaoy細胞(ヒト胎児腎臓細胞である、組み換えShhを安定発現するHEK−293細胞)におけるGlil転写を誘発することによって得られ、次いで、刺激されたGlil転写産物の量を測定する。最小反応は、24時間、馴化培地で刺激されているDaoy細胞(ヒト胎児腎臓細胞である、組み換えShhを安定発現するHEK−293細胞)においてコントロール化合物で阻害されるGlil転写産物の量である。
【0066】
Daoy細胞におけるGlilの阻害を測定するための機能的アッセイ
bDNAアッセイ系は、標的リボ核酸(転写産物)の増幅を可能にする分枝鎖DNAの技術を利用する。この技術は、ハイブリダイゼーションシグナルを増幅するために標的転写産物との複合体としてハイブリダイズする標的転写産物の特異性を測定する3種類の合成ハイブリッド短Glil−特異的cDNAプローブ[捕捉増量剤(CE)、標識増量剤(LE)および遮断剤(BL)]を利用する。増幅工程の間の化学発光基質の添加により、発光を用いる検出が可能となる。
【0067】
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から得たDaoy細胞株は、Shh反応ヒトニューロン腫瘍細胞株であり、生理学的に関連する腫瘍細胞株である、線維形成小脳髄芽腫から1985年に確立された。Glil転写産物レベルの内因性レベルはDaoy細胞において低いが、ヒトShhを安定に過剰発現する細胞(hShhで安定にトランスフェクトされたHEK−293細胞株)から得た馴化培地を用いることによって刺激され得る。
【0068】
Daoy細胞を、0.1nMの非必須アミノ酸および1mMのピルビン酸ナトリウムを有する最小必須培地(MEM)および10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するDaoy増殖培地中で組織培養T225フラスコにおいてコンフルエンシーまで増殖させる。細胞を、トリプシンエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用いてT225フラスコから除去し、遠心分離し、培地に再懸濁し、次いで計数した。
【0069】
次いで、Daoy細胞を、Costar96ウェル透明組織培養プレートにおいて増殖培地中で1ウェルあたり50,000細胞にて播種し、5%二酸化炭素(CO)下で37℃にて一晩、インキュベートする。細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1度洗浄し、続いて、100μLのShh馴化培地(Shh−CM)を加えて、Glil発現のレベルを刺激する。Shh−CMを希釈して、コントロール増殖培地−0.1%FBS/DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)を用いて最大刺激を達成する。次いで、Shh−CMで処理したDaoy細胞を、約1μM〜0.1nMの範囲の種々の濃度のヘッジホッグ阻害剤で処理する。試験化合物を、5%CO下で37℃にて24時間インキュベートする。
【0070】
Glil転写産物の測定を、製造業者(Panomics,Inc.)によって記載されるQuantigene2.0 Glilアッセイを用いて実施する。プロテイナーゼKを含む、希釈した溶解混合物(DLM)緩衝液を調製する。化合物との24時間のインキュベーション後、細胞をPBSで1度洗浄し、180μLのDLMを細胞に加える。溶解緩衝液を含有する細胞プレートを密閉し、55℃にて30〜45分間、静置させる。次いで、得られた細胞溶解物を5回粉砕する。Glilプローブを含有する作業プローブセットを、製造業者の指示に従って、DLM中でプローブを希釈することによって作製し、次いで、20μLの作業プローブセットを、80μLのDaoy溶解物とともにbDNAアッセイプレートに加える。プレートを密閉し、55℃にて一晩インキュベートする。次いで、bDNAプレートを、製造業者の指示に従って処理する。シグナルを、発光を検出するPerkin Elmer Envisionリーダーでプレートを読み取ることによって定量化する。発光シグナルは、サンプルに存在する標的転写産物の量と正比例する。
【0071】
機能的アッセイからの発光シグナルデータを、インビトロでのアッセイに関するIC50を算出するために使用する。データを、最大コントロール値(Shh−CMで処理したDaoy細胞)および最小コントロール値(Shh−CMで処理したDaoy細胞およびコントロール化合物、1μMのN−(3−(1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)−4−クロロフェニル)−3,5−ジメトキシベンズアミドの阻害濃度)に基づき算出する。4パラメーターロジスティック曲線フィットを使用して、ActivityBaseソフトウェアプログラムバージョン5.3、等式205(Assay Guidance Manual Version5.0,2008,Eli Lilly and Company and NIH Chemical Genomics Center)を用いてIC50値を生成する。
【0072】
記載されるプロトコルによれば、本明細書に例示した本発明の化合物は、40nM未満のIC50を示す。例えば、実施例2の化合物は、上記のアッセイにおいて0.21(n=2)の標準誤差で約0.42nMのIC50を有する。これらの結果は、本発明の化合物がヘッジホッグアンタゴニストであり、例えば抗癌剤として有用であるという証拠を与える。
【0073】
CYP3A4阻害アッセイ
インキュベーションサンプルを、ヒト肝ミクロソーム調製物を試験阻害剤(最終濃度0.05mg/mLタンパク質、100mMのNaPO中の10μMの阻害剤、pH7.4緩衝液)に加えることによって調製し、混合する。サンプルを、37℃にて約5分間、プレインキュベートする。プレインキュベートの時間後、反応を、NADPHおよび酵素基質としてミダゾラム(最終濃度、1mMのNADPH、5μMのミダゾラム)を含有する溶液の添加により開始する。NADPH溶液の添加後、サンプルを、約37℃にて3分間、インキュベートする。インキュベーション時間の後、反応を、50μLのメタノール(およびクロマトグラフィーについての内部標準物)を添加することによってクエンチし、サンプルを十分に混合する。反応をクエンチした後、混合物を、約5℃、約4000rpmにて15分間、遠心分離し、LC/MS解析により解析する。
【0074】
サンプルを、短い従来のC18カラム(負荷移動相−1%酢酸を有する95/5 Milli−Q HO/メタノール(v/v))で勾配溶出を用いてHPLC/MSを用いて解析する。移動相B−1%酢酸を有する80/20 Milli−Q HO/メタノール(v/v)。移動相C−1%酢酸を有する5/95 Milli−Q HO/メタノール(v/v)。移動相−75/25 Milli−Q HO/アセトニトリル(v/v)をリンスする。
【0075】
サンプルを、陽性条件下でターボイオンスプレーを用いて、342.1(1−OH−ミダゾラム)および346.1(α−ヒドロキシミダゾラム−d4内部標準物)の質量で選択イオンモニタリング(SIM)のために質量スペクトル分析器に注入する。データを、10μMの阻害濃度の存在下での1−OH−ミダゾラム生成の阻害%として報告する。
【0076】
記載したプロトコルによれば、本明細書に例示した本発明の以下の化合物(実施例1〜18、26、33〜35、44〜51、57〜60、66〜69および85〜94)は、45%未満の阻害を示す。さらに、実施例1〜5、7〜17、33〜35、44、46、49〜51、57〜59、66〜68、85および89〜94の化合物は、10%未満の阻害を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式の化合物
【化1】

(式中、
は、水素、フルオロ、シアノ、トリフルオロメチルまたはメトキシであり、
は、水素、フルオロまたはトリメチルフルオロであり、
は、水素またはクロロであり、ただしRおよびRのうちの少なくとも1つは水素であり、
は、クロロ、フルオロ、シアノ、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル、メトキシまたはトリフルオロメトキシであり、
【化2】

は、
【化3】

からなる群より選択される置換ピペラジン−1,4−ジイルを表す)
またはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項2】
は、水素、フルオロまたはシアノである、請求項1に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項3】
は、フルオロである、請求項1または2に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項4】
は、水素またはフルオロである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項5】
は、水素である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項6】
は、水素である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項7】
は、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルまたはジフルオロメチルである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項8】
は、フルオロまたはシアノである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項9】
【化4】

請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
(S)−N−(4−フルオロフェニル)−4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシアミドである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項11】
(S)−N−(4−フルオロフェニル)−4−(4−(4−フルオロフェニル)フタラジン−1−イル)−2−メチルピペラジン−1−カルボキシアミド塩酸塩である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩を、製薬的に許容し得る担体、希釈剤または賦形剤とともに含む、医薬組成物。
【請求項13】
哺乳動物における脳腫瘍、基底細胞癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎臓癌または黒色腫を治療する方法であって、そのような治療を必要とする哺乳動物に、請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩の有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項14】
医薬として使用するための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。
【請求項15】
癌の治療に使用するための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物、あるいはその製薬的に許容し得る塩。

【公表番号】特表2012−507535(P2012−507535A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534624(P2011−534624)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/061573
【国際公開番号】WO2010/062507
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】