説明

二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムおよびその製造方法

【課題】 透明性と易滑性、特に高湿度下での易滑性に優れるとともに、ボイル加工時の
カールや吸湿時のズレの少ない二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、表面突起形成用の微粒子
を含有したポリアミド系樹脂からなる実質的に未配向のシートを、逐次二軸延伸法により
縦方向に延伸した後に横方向に延伸することによって形成されており、吸湿ズレが2〜4.0mm、ボイル歪みが2〜3%であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂フィルムとラ
ミネートしてレトルト食品等の包装に好適に用いることが可能な強靭で耐ピンホール性に
優れたポリアミド系二軸配向フィルム、およびその製造方法に関するものであり、特に、
高湿度環境下での取り扱い作業性に優れたポリアミド系二軸配向フィルム、さらに透明性あるいは滑り性を兼ね備えたポリアミド系二軸配向フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、二軸配向ポリアミド系延伸フィルムは、機械的特性や熱的特性に優れていると
ともに、高いガスバリアー性を有していることから、各種の食品等の包装用材料等として
広く用いられているが、従来のポリアミド系二軸配向フィルムには、高湿度環境下で吸湿
により軟化して滑り性が悪化するという難点があり、そのため、特に、梅雨季においては
滑り性不足に起因する様々の問題が生じることがあった。
【0003】
そこで、ポリアミド系樹脂フィルムの滑り性を改善するための手段として、(1)シリ
カやカオリン等の微粒子を樹脂に添加し、延伸処理によりこれらの微粒子をフィルム表面
に突出させて微細突起を形成し、フィルム同士の接触面積を減らす方法や、(2)高級脂
肪酸のビスアミド化合物等の有機滑剤をポリアミド樹脂に添加し、フィルム同士の接触し
た部分の相互作用を減らす方法等が提案されている。しかしながら、上記(1)の方法で
は、高湿度下でも満足な作業性を確保するためには、微粒子の添加量を多くせざるを得ず
、そのように微粒子の添加量を多くすると、フィルムの透明性が低下してしまうという不
具合がある。一方、上記(2)の方法では、十分な滑り性を得るために有機滑剤の添加量
を増やすと、他のフィルム材料と積層する際の接着性や濡れ性が悪くなり、印刷、蒸着等
の加工性が悪化する、という不具合がある。
【0004】
上記従来の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの有する問題点を解決し、透明性と易滑性、特に高湿度下での易滑性とを同時に満足させるべく、ポリアミド系樹脂に添加する表面突起形成用微粒子によって形成される突起の密度および突起周辺に形成されるミクロボイドの面積率を調整する方法について提案されている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0005】
特許文献1の方法によれば、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの有する機械的特性や
熱的特性を低下させることなく、高い透明性を維持したまま、高湿度下(特に、75%R
H)での滑り性を良好なものとすることが可能となる。
【0006】
【特許文献1】特開平9−272748号公報
【0007】
しかしながら、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、湿度の高い環境下において吸湿
による伸びに異方性が生じてしまうことがあり、そのような異方性を生じる二軸配向ポリ
アミド系樹脂フィルムを湿度の高い環境下において製袋加工や印刷加工に供した場合には、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムがカールしてしまい、製袋加工の効率の悪化を招くとともに、歩留まりを低下させる、という不具合が生じる。上記した特許文献1の方法も、そのような高湿度下における伸びの異方性の低減に対して有効なものとはいえない。
【0008】
2軸配向ポリアミド系樹脂フィルムはポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィ
ン系樹脂フィルムとラミネートした後、2つ折りにして3方シールすることによって袋状
に成形される場合が多い。従って、この袋の上面と下面では、同一素材のフィルム面が袋
表面に出ることになる。従って、フィルム流れ方向、即ち縦方向に対し+45°方向の沸水収縮率と−45°方向を夫々A、Bとすると、袋の上面のA方向と下面のB方向は、袋に対して同一方向となることになる。即ち、2軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの沸水収縮率の斜め差は、袋の表裏面の斜め対角線方向の収縮率差を意味し、この差が大きいほど袋はそり返り易くなってカールが著しくなる。
そもそも、沸水収縮率の斜め差は、ポリアミド未延伸シートを縦方向に延伸した後、横
方向に延伸し、引き続き熱固定を行った場合(いわゆる、逐次二軸延伸法)に、フィルム
の幅方向に物性に変化が現れることにより生じ、特に端部において顕著に大きくなる。
【0009】
そこで、製膜直後のフィルムの端部から切り出したフィルムであっても、例えばポリエ
チレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂フィルムとラミネートしてレトルト食品等
の包装に使用されたときに強靭で耐ピンホール性に優れ、かつ沸騰水処理時の耐カール性
に優れた2軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを提案されている(特許文献2参照。)
【0010】
【特許文献2】特開平8−174663号公報
【0011】
しかしながら、上記した特許文献2の方法で、製膜直後のフィルムの端部2軸配向ポリ
アミド系樹脂フィルムの沸水収縮率の斜め差を抑制した場合であっても、二軸配向ポリア
ミド系樹脂フィルムを湿度の高い環境下において製袋加工や印刷加工に供した場合には、
二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムがカールすることがありため、製袋加工の効率のさら
なる向上を求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を背景になされたもので、機械的特性や熱的特性が良好であり、透
明性が高く、高湿度下での滑り性に優れているとともに、高湿度下での伸びの異方性が低
減された二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成す
るに至った。すなわち、本発明の内、請求項1に記載された発明の構成は、ポリアミド系
樹脂からなる二軸配向フィルムであって、吸湿ズレが2.0〜4.0mm幅、ボイル歪み
が2〜3%であることにある。
【0014】
この場合において、前記フィルムのヘイズが1〜2%であることが好適である。
【0015】
またこの場合において、前記フィルムの65%RHでの動摩擦係数が0.5〜0.8で
あることが好適である。
【0016】
請求項4に記載された発明の構成は、表面突起形成用の微粒子を含有したポリアミド系
樹脂からなる実質的に未配向のシートを逐次二軸延伸法により縦方向に延伸した後に横方
向に3倍以上延伸するポリアミド系樹脂フィルムの製造方法であって、上記縦延伸を、第
一延伸として低温結晶化温度(Tc)+5〜Tc+20℃にて1.2〜3.0倍延伸した
後、ガラス転移温度(Tg)以上に保持し、次いで第二延伸としてTc〜Tc+15℃に
て、総縦延伸倍率が3.0〜5.0倍となるように延伸することにある。
【0017】
請求項5に記載された発明の構成は、請求項2に記載された発明において、縦延伸にお
ける第一延伸の倍率が、第二延伸の倍率よりも大きいことにある。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、高湿度下での伸びの異方性が低
いため、カール現象が起こらないので、製袋加工や印刷加工における作業性が非常に良好
である。
【0019】
請求項2記載の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、高湿度下での伸びの異方性が低
いため、カール現象が起こらないので、製袋加工や印刷加工における作業性が非常に良好
である。その上、透明性が高いので、各種の包装用途に好適に用いることができる。
【0020】
請求項3記載の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、高湿度下での伸びの異方性が低
いため、カール現象が起こらないので、製袋加工や印刷加工における作業性が非常に良好
である。その上、高湿度下での易り性に優れているので、各種の包装用途に好適に用いる
ことができる。
【0021】
請求項4に記載された二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法によれば、上述の
如く高透明で滑り性に優れている上、印刷加工、製袋加工等における作業性の良好な二軸
配向ポリアミド系樹脂フィルムを歩留まり良く安価に製造することができる。
【0022】
請求項5に記載された二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法によれば、上述の
如く高透明で滑り性に優れている上、印刷加工、製袋加工等における作業性の良好な二軸
配向ポリアミド系樹脂フィルムを歩留まり良く安価に製造することができる。
【0023】
本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムおよびその製造方法により、機械的特性や
熱的特性が良好であり、透明性が高く、高湿度下での滑り性に優れているとともに、高湿
度下での伸びの異方性が低減された二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを製造できるとい
う利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムおよびその製造方法の実施の形態を
詳細に説明する。
【0025】
本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、吸湿ズレが2.0〜4.0mmであり、ボイル歪みが2〜3%である。
【0026】
二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムのヘイズは、1〜2%であることが好適である。ヘ
イズが2%を超えると透明性が十分に改善されず、高透明性が要求される用途で使用する
ことができなくなる。
【0027】
また、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの65%RHでのμdは、0.5〜0.8で
あることが好適である。65%RHでのμdが0.9を超えると、滑り性が十分に改善さ
れず、良好な印刷加工時の取り扱い性が十分でない。反対に、65%RHでのμdが0.
5〜0.8であると滑りすぎて、二軸延伸後のフィルムを巻き取る際に巻きズレが起こり
やすくなるので好ましくない。
【0028】
本願発明においては、ボイル歪が2〜3%抑制されている製膜直後のフィルムの端部の
2軸配向ポリアミド系樹脂フィルムをその対象にしている。
さらに、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの吸湿ズレは、2.0〜4.0mmである
ことが必要であり、吸湿ズレが4.0mm以上であると、印刷等の加工時においてカール
等が発生して作業性が悪くなる。また、ボイル歪みが3%以上であると、製袋加工時にお
ける作業性が悪くなるとともに、仕上がった袋の品位が悪くなるので、好ましくない。好
適には、2.0〜3.5mmである。
【0029】
また、本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法は、表面突起形成用微粒
子を含有したポリアミド系樹脂からなる実質的に未配向のシートを逐次二軸延伸法により
縦方向(長手方向)に延伸した後に横方向(幅方向)に延伸するポリアミド系樹脂フィル
ムの製造方法であって、上記縦延伸を、第一延伸として低温結晶化温度(Tc)〜Tc+
30℃にて1.2〜3.0倍延伸した後、ガラス転移温度(Tg)以上に保持し、次いで
第二延伸としてTc〜Tc+15℃にて、総縦延伸倍率が3.0〜5.0倍となるように
延伸するものである。
【0030】
本発明で使用されるポリアミド系樹脂は、分子鎖中にアミド基を有する高分子であり、
具体例としては、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66
、ナイロン6T、ナイロンMXD6、ナイロン6I、ナイロン46などのポリアミド系樹
脂およびそれらの共重合体、ブレンド物、アロイを挙げることができる。
【0031】
表面突起形成用微粒子としては、シリカ、カオリン、ゼオライト等の無機滑剤、アクリ
ル系、ポリスチレン系等の高分子系有機滑剤等の中から適宜選択して使用することができ
る。なお、透明性、滑り性の面から、シリカ粒子を好適に用いることができる。
【0032】
表面突起形成用微粒子の好ましい平均粒子径は、0.5〜5.0μmであり、より好ま
しくは1.0〜3.0μmである。平均粒子径が0.5μm未満であると、良好な滑り性
を得るのに多量の添加量が必要となるので好ましくなく、反対に、5.0μmを越えると
、フィルムの表面粗さが大きくなりすぎて実用特性を満たさなくなるので好ましくない。
【0033】
また、シリカ微粒子としては、細孔容積が0.8〜1.8ml/gのものを好適に用い
ることができ、細孔容積が1.1〜1.4ml/gの範囲である多孔質のものを用いると
より好ましい。なお、細孔容積とは、微粒子1g当たりに含まれる細孔の容積(ml/g
)のことをいう。そのようなシリカ微粒子は、一般には合成シリカを粉砕し分級すること
によって得られるが、合成時に直接に球状微粒子として得られる多孔質シリカ微粒子を用
いることも可能である。また、そのようなシリカ微粒子は、一次粒子が凝集してできた凝
集体であり、一次粒子と一次粒子の隙間が細孔を形成する。
【0034】
細孔容積は、シリカ微粒子の合成条件を変えることによって調整することができ、細孔
容積の小さいほど、少量で良好な滑り性を与えることが可能となるが、細孔容積の小さい
シリカ微粒子を使用すると、配合したポリアミド系樹脂の延伸工程において多くのボイド
を生じ、フィルムの透明性が損なわれることがある。それゆえ、延伸工程におけるボイド
の生成を抑え、包装用途として求められる2.0%以下のヘイズ(曇価)を確保するには
、細孔容積が0.8ml/g以上のシリカ微粒子を選択することが必要である。一方、細
孔容積が大きいシリカ微粒子を使用する場合、添加量を高くすることにより、高湿度条件
下での滑り性が良好で透明性の高いフィルムを得ることが可能となるが、そのように添加
量を高くすると、シリカ微粒子のポリアミド系樹脂への分散不良によってフィルムにフィ
ッシュアイ等の欠陥が生じ易くなる、という不具合がある。それゆえ、そのようなフィッ
シュアイ等の欠陥の生成を抑えるためには、1.8ml/g以下のシリカ微粒子を選択す
ることが必要である。なお、二軸延伸フィルムの透明性は、延伸条件(温度や倍率)ある
いはその後の緩和処理条件(緩和率や温度)によっても変わってくるので、これらの条件
も適正にコントロールすることが望ましい。
【0035】
シリカ微粒子をポリアミド樹脂に添加する方法としては、ポリアミド系樹脂を製造する
際の重合工程で添加する方法が好ましく、この方法を採用すれば、ポリアミド系樹脂中に
シリカ微粒子を容易に均一に分散させることができる。特に、細孔容積が相対的に大きい
シリカ微粒子では、重合後のポリアミド系樹脂に溶融混練等によって均一に分散させるの
が難しく、延伸フィルム後のフィルムにフィッシュアイ等の欠点が生じ易くなるので、シ
リカ微粒子は重合反応時に添加するのが望ましい。
【0036】
一方、ポリアミド樹脂、特に、ラクタムの開環重合によって製造されるナイロン6等は
、重合生成物中に多量のモノマーやオリゴマーを含んでおり、これらはフィルムの物性に
悪影響を及ぼすので、重合反応終了後に熱水等で抽出除去する必要があるが、重合反応時
にシリカ微粒子を添加した場合、当該抽出工程でモノマーやオリゴマーとともにシリカ微
粒子も多量に流出する。そして、流出したシリカ微粒子は、モノマーやオリゴマーを回収
する際の障害となる。加えて、シリカ粒子の流出による経済的な損失も軽視できない。し
かるに、上述した細孔容積が0.8〜1.8ml/gのシリカ微粒子を使用すれば、添加
量が抑えられるため、抽出工程で失われるシリカ微粒子の流出量を低減することも可能と
なる。
【0037】
また、シリカ微粒子の好ましい平均粒子径は、1.0〜10.0μmであり、より好ま
しくは1.5〜3.0μmである。平均粒子径が1.0μm未満のものでは、良好な滑り
性を得るのに多量の添加量が必要となるので好ましくなく、反対に、10.0μmを超え
るものでは、フィルムの表面粗さが大きくなり過ぎて外観が悪くなるので好ましくない。
【0038】
シリカ微粒子の平均粒子径は下記のようにして測定した値である。
高速撹拌機を使用して所定の回転速度(約5000rpm)で撹拌したイオン交換水中
にシリカ微粒子を分散させ、その分散液をイソトン(生理食塩水)に加えて超音波分散機
でさらに分散した後に、コールターカウンター法によって粒度分布を求め、重量累積分布
の50%における粒子径を平均粒子径として算出した。
【0039】
さらに、シリカ微粒子のポリアミド系樹脂フィルム中に占める含有比率は0.03〜0
.60重量%であり、より好ましくは0.08〜0.30重量%である。シリカ微粒子の
含有量が0.03重量%未満であると、二軸延伸フィルムの高湿度下での滑り性が十分に
改善されないので好ましくなく、反対に、含有量が0.60重量%を超えると、抽出工程
での流出量が多くなる上、フィルムの透明性が許容できないほど悪くなるので好ましくな
い。なお、重合反応工程でシリカ微粒子を添加する方法を採用した場合には、上述した好
適な細孔容積を有する微粒子であっても、モノマーやオリゴマーの抽出工程で5〜20重
量%程度の流出ロスが起こるので、その流出ロスを考慮に入れた上で、最終的にフィルム
中の含有量が上述した好適な範囲となるように微粒子の添加量を調整することが必要であ
る。
【0040】
本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、ポリアミド系樹脂と表面突起形成用の
微粒子を必須の成分として含有するが、前記した特性を阻害しない範囲で他の種々の添加
剤、たとえば潤滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤
、耐衝撃性改良剤などを含有することも可能である。特に、表面エネルギーを下げる効果
のある有機系潤滑剤を、接着性や濡れ性に問題が生じない程度に添加すると、延伸フィル
ムに一段と優れた滑り性と透明性を与えることができるので好ましい。
【0041】
また、本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法は、未配向のシートを二段で縦延伸した後に横延伸することを特徴とするものである(以下、かかる延伸方法を縦−縦−横延伸方法という)。さらに、本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法において重要なことは、第一延伸を二段階で縦方向に延伸するとともに、その縦第一延伸倍率と第二延伸倍率の比を“1”以上とすることである。そのような工程を採用することによって、縦延伸後の配向を低減し、横延伸における延伸応力の低減を図ることが可能となり、その結果として、他の特性を落とすことなく吸湿ズレを低減することができるものと考えられる。また、その縦第一延伸倍率と第二延伸倍率の比が“2”以下が好ましい。
【0042】
縦延伸における第一延伸の温度は、Tc+5〜Tc+30℃が好ましい。第一段目の延
伸温度がTc未満であると、配向が進行し、第二延伸時の応力が増大するので好ましくな
く、反対に、Tc+30℃を越えると、熱結晶化が促進され、第二延伸はできるものの横
延伸での結晶化による白化が生じるので好ましくない。また、第一延伸倍率は、1.8〜
2.5倍が好ましい。第一延伸の倍率が1.8倍未満であると、延伸張力が低すぎるため
に均一な延伸ができない上、総縦延伸倍率を高くすることができないし、反対に、第一延
伸の倍率が2.5倍を越えると、配向結晶化が進行しすぎ、第二延伸が困難になるので好
ましくない。なお、そのような第一延伸を達成するためには、延伸ロール間隙を密接させ
た密間隙での急延伸よりも、フィルムの変形区間を長くした緩延伸によって延伸応力を低
下させる方が好ましく、第一延伸を多段に分けて行うことも可能である。
ここでいうガラス転移温度(Tg)及び低温結晶化温度(Tc)は、未配向のポリアミ
ド系樹脂シートを液体窒素中で凍結し、減圧解凍後にセイコー電子(株)製DSCを用い、昇温速度10℃/分の条件にて、Tg,Tcを測定した。
【0043】
さらに、第一延伸後のフィルムをTg以上に保持し、次いで縦方向に1.1〜2.0倍
にて総縦延伸倍率が3.0〜5.0倍となるように第二延伸する。第一延伸の後でフィル
ムの温度が所定の温度より低下すると、第二延伸への再加熱過程で結晶化と水素結合の生
成が促進され、第二延伸しにくくなるので好ましくない。
かかる点から、第一延伸と第二延伸の間では、Tg+10℃以上の温度に保持することが
好ましい。また、工業生産上においては、高速で第一延伸した後の残熱をそのまま利用で
きるので、非常に効率的である。
【0044】
また、縦延伸における第二延伸の温度は、Tc〜Tc+15℃が好ましい。第二延伸の温度が、Tc未満であると、配向が進行し、その後に均一な横延伸を行いにくくなって吸湿ズレが大きくなるので好ましくなく、反対に、第二延伸温度がTc+15℃を越えると、結晶化によって、同様に吸湿ズレが大きくなるので好ましくない。加えて、総縦延伸倍率は、3.3〜4.5倍が好ましい。総縦延伸倍率が3.0倍未満であると、生産性が極端に悪くなるので好ましくなく、反対に、総縦延伸倍率が6.0倍を越えると、配向が著しく進行して横延伸で破断が頻発するようになるので好ましくない。
【0045】
また、本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法においては、横延伸を、
120〜140℃の温度下で約4.0〜5.5倍延伸するものとするのが好ましい。横延
伸の倍率が上記範囲を外れて低くなると、幅方向の強度(5%伸長時強度等)が低くなり
実用性のないものとなるので好ましくなく、反対に、横延伸の倍率が上記範囲を外れて高
くなると、幅方向の熱収縮率が大きくなるので好ましくない。一方、横延伸の温度が上記
範囲を外れて低くなると、ボイル歪みが大きくなり実用性のないものとなるので好ましく
なく、反対に、横延伸の温度が上記範囲を外れて高くなると、幅方向の強度(5%伸長時
強度等)が低くなり実用性のないものとなるので好ましくない。
【0046】
さらに、本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法においては、熱固定処
理を、180〜230℃の温度にて行うのが好ましい。熱固定処理の温度が上記範囲を外
れて低くなると、長手方向および幅方向の熱収縮率が大きくなるので好ましくなく、反対
に、熱固定処理の温度が上記範囲を外れて高くなると、二軸延伸フィルムのインパクト強
度が低くなるので好ましくない。
【0047】
また、本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの厚さは、5〜250μmの範囲内
で任意に設定することができる。一般的な食品包装用途としては、10〜50μmのもの
を好適に用いることができる。
【0048】
加えて、本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、用途によっては、寸法安定性
を一層向上させるために、さらなる熱処理や調湿処理を施すことも可能であり、接着性や
濡れ性を一層向上させるために、コロナ処理、コーティング処理や火炎処理を施すことも
可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明はもとより下記実施例に
よって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合する範囲で変更を加えて実施する
ことが可能であり、それらは全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、フィルムの物
性、特性の評価方法は、以下の通りである。
【0050】
[65%RHのμd]
20℃、65%RHの雰囲気下において、ASTM−D1894に準じてμdを測定し
た。65%RHのμdが1.2以下のフィルムは、滑り性が良好で作業性に優れていると
評価することができる。
【0051】
[TgおよびTc]
未配向のポリアミド系樹脂シートを液体窒素中で凍結し、減圧解凍後にセイコー電子(
株)製DSCを用い、昇温速度10℃/分の条件にて、Tg,Tcを測定した。
【0052】
[ヘイズ]
JIS−K−7105(プラスチックの光学的特性試験法)に準拠して、積分球式光線
透過率測定装置により5cm角の試料フィルムの拡散透過率および全光線透過率を測定し
、下式1により拡散透過率と全光線透過率との比をヘイズとして算出した。
H=Td/Tt×100・・(1)
なお、式1において、Hはヘイズ(%)、Tdは拡散透過率(%)、Ttは全光線透過率(%)である。
【0053】
[吸湿ズレ]
図1(a)の如く、製膜直後の二軸配向ポリアミドフイルムの左右の端部からそれぞれ550mm内側の各位置を中心として、一辺が700mmの正方形状の2枚のサンプルを切り出し、各サンプルを23℃×65%RHの雰囲気で24時間以上放置した(なお、切り出した各サンプルの前方外側、後方外側、前方内側、後方内側の各頂点を、それぞれ、a,b,c,dとする)。しかる後、図1(b)の如く、α,β,γ,δを頂点とする一辺700mmの正方形(基準正方形)の頂点αおよび辺αβとサンプルの頂点aおよび辺a,bとが合致するように、各サンプルを基準正方形に重ね合わせて、サンプルのbと基準正方形のβとの長手方向におけるズレ量(B)、サンプルのcと基準正方形のγとの長手方向におけるズレ量(C)、および、サンプルのdと基準正方形のδとの幅方向におけるズレ量(D)を求め、下式2を用いて右側および左側の各サンプルの吸湿ズレをそれぞれ算出した。そして、それらの各サンプルの吸湿ズレの平均値を算出した。
吸湿ズレ(mm/700mm)=(B+C+D)/2・・(2)
【0054】
[ボイル歪み]
一辺21cmの正方形状に切り出した以外は上記「吸湿ズレ」と同様にサンプルを切り出し、各サンプルを23℃、65%RHの雰囲気で2時間以上放置した。そして、その試料の中央を中心とする直径20cmの円を描き、縦方向を0°として、15°間隔で時計回りに0〜165°方向に円の中心を通る直線を引き、各方向の直径を測定して処理前の長さとする。次いで、その試料を沸水中で30分間加熱処理した後、取り出して表面に付着した水分を拭き取り、風乾してから23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置し、各直径方向に引かれた直線の長さを再度測定して処理後の長さとし、下記式3によって沸水収縮率を算出した。しかる後に、45°方向および135°方向の沸水収縮率の差の絶対値(%)をボイル歪みとして算出した。そして、それらの各サンプルの吸湿ズレの平均値を算出した。
沸水収縮率=[(処理前の長さ−処理後の長さ)/処理前の長さ]×100(%)・・(3)
【0055】
[加工適性]
二軸延伸ナイロン6フィルムにエステル系接着剤(東洋モートン株式会社製TM590とおよび同社製CAT56を固形分量3g/m2となるように塗布したものに、試料フィルムをドライラミネートした。しかる後に、そのラミネートフィルムを、西部機械社製のテストシーラーを用いて巻き長さ方向に平行に2つに折り畳みつつ縦方向に各両端20mmずつを150℃で連続的に熱シールし、それに垂直方向に10mmを150mm間隔で断続的に熱シールして幅200mmの半製品を得る。これを巻き長さ方向に、両縁部をシール部分が10mmとなる様に裁断した後、これと垂直方向にシール部分の境界で切断し、3方シール袋(シール幅:10mm)を作製する。この袋10枚を沸騰水中で30分間熱処理した後、23℃、65%RHの雰囲気で一昼夜保持し、更にこの10枚の袋を重ねて上から袋全面に1Kgの荷重をかけ、一昼夜保持した後に荷重を取り去って袋の反り返り(S字カール)の度合いを以下の様にして評価した。
◎ :全く反り返りがない
○ :僅かに反り返りが見られる
× :明らかに反り返りが見られる
××:反り返りが著しい
【0056】
[実施例1]
100リットルの回分式重合釜を用い、ε−カプロラクタムの開環重合によって得たナイロン6をポリアミド系樹脂として使用した。当該ナイロン6のチップは、回分式重合釜を用いて熱水で抽出処理しモノマーとオリゴマーの含有量を1重量%にまで低減した後、水分率が0.1重量%となるまで乾燥して使用した。原料ナイロン6および延伸フィルムの相対粘度は、96%濃硫酸溶液を用いた20℃の測定値で約2.8であった。また、使用した表面突起形成用微粒子(0.45重量%)は、細孔容積1.6cc/g、平均粒子径1.8μmのシリカ微粒子(富士シリシア化学社製 サイリシア350)で、ナイロン6の原料となるε−カプロラクタムの水溶液中に高速撹拌機で分散して重合釜に仕込み、重合工程でナイロン6内に分散させた。さらに、N,N’−エチレンビスステアリルアミド(共栄社化学社製 ライトアマイドWE−183)を0.15重量%配合してから、押出機によりTダイスから260℃の温度で50m/minの速度となるように溶融押し出しし、30℃に冷却させた金属ロール上に、直流高電圧の印荷により静電気的に密着させて冷却固化し、厚さ200μmの実質的に未配向のシートを得た。
【0057】
このシートのTgは50℃、Tcは69℃であった。このシートを縦方向に延伸温度85℃で2.20倍に第一延伸した後、70℃に保持して、引き続き、縦方向に延伸温度70℃で1.50倍に第二延伸を行い、さらに、このシートを連続的にステンターに導き、130℃で4.0倍に横延伸し、210℃で熱固定および6.1%の横弛緩処理を施した後に冷却し、両縁部を裁断除去して巻き取り、ロール状の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを得た。なお、縦延伸におけるフィルム温度(延伸温度)は、ミノルタ(株)製放射温度計IR−004を用いて測定した。また、横延伸における延伸温度は、テンター内に設置された熱電対によって測定した。しかる後、得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムのヘイズ、吸湿ズレ、ボイル歪み、65%RHのμdを評価した。それらの特性の評価結果を表2に示す。
【0058】
[実施例2〜4]
延伸条件を表1の如く変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜4の二軸配向
ポリアミド系樹脂フィルムを得た。得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの特性の
評価結果を表2に示す。
【0059】
[比較例1]
実施例1と同様の方法によって得られた実質的に未配向のシートを、縦方向に延伸温度85℃で1.52倍に第一延伸し、70℃に保持した後、延伸温度70℃で縦方向に2.20倍に第二延伸を行い(総縦延伸倍率=3.4倍)、引き続きこのシートを連続的にステンターに導き、130℃で4.0倍に横延伸し、210℃で熱固定して、6.1%の横弛緩処理を施した後に冷却し、両縁部を裁断除去して、比較例1の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを得た。得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの特性の評価結果を表2に示す。
【0060】
[比較例2]
実施例1と同様の方法によって得られた実質的に未配向のシートを、縦方向に延伸温度75℃で1.7倍に第一延伸した後、延伸温度70℃で縦方向に2.0倍に第二延伸を行い(総縦延伸倍率=3.4倍)、引き続きこのシートを連続的にステンターに導き、130℃で4倍に横延伸し、210℃で熱固定および5%の横弛緩処理を施した後に冷却し、両縁部を裁断除去して、比較例2の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを得た。得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの特性の評価結果を表2に示す。
【0061】
[実施例5〜7]
実施例1で使用した表面突起形成用の微粒子の細孔容積および添加濃度を、それぞれ表
1の如く変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例3〜5の二軸配向ポリアミド系
樹脂フィルムを得た。得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの特性の評価結果を表
2に示す。
【0062】
[比較例3〜6]
縦延伸条件を表1に示すように変更した以外は、全て実施例1と同様にして、比較例6
〜10の二軸配向ポリアミドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィル
ムの特性の評価結果を表2に示す。
[実施例8]
縦延伸条件を表1に示すように変更した以外は、全て実施例1と同様にして、実施例8
の二軸配向ポリアミドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの特
性の評価結果を表2に示す。
【0063】
[比較例7]
実施例1と同様の方法によって得られた実質的に未配向のシートを、縦方向に延伸温度
60℃で3.0倍に延伸した後、その縦延伸後のシートを連続的にステンターに導き、1
30℃で4倍に横延伸し、210℃で熱固定および6.1%の横弛緩処理を施した後に冷
却し、両縁部を裁断除去して、比較例11の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを得た。
得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの特性の評価結果を表2に示す。
【0064】
[比較例8]
縦延伸倍率を3.45倍に変更したした以外は、全て比較例7と同様にして、比較例1
2の二軸配向ポリアミドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの
特性の評価結果を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表2から明らかなように、吸湿ズレ、ボイル歪み、ヘイズ、65%RHでの動摩擦係数が特許請求の範囲に含まれる実施例1〜4の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、製袋加工時の加工特性が良好であり、袋に加工された後の外観も良好であった。これに対し、吸湿ズレ、ボイル歪み、ヘイズ、65%RHでの動摩擦係数が特許請求の範囲を外れた比較例1〜12の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、製袋加工時にS字カール現象が多く見られ、袋に加工された後の外観も悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、上記の如く優れた加工特性を有してい
るので、様々な種類の物品の包装に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】吸湿ズレの測定方法を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂からなる二軸配向フィルムであって、吸湿ズレが2.0〜4.0mm、ボイル歪みが2〜3%であることを特徴とする二軸配向ポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムであって、前記フィルムのヘイズが1〜2%であることを特徴とする二軸配向ポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1に記載の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムであって、前記フィルムの65%RHでの動摩擦係数が0.5〜0.8であることを特徴とする二軸配向ポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項4】
表面突起形成用の微粒子を含有したポリアミド系樹脂からなる実質的に未配向のシート
を逐次二軸延伸法により縦方向に延伸した後に横方向に延伸するポリアミド系樹脂フィル
ムの製造方法であって、上記縦延伸を、第一延伸として低温結晶化温度(Tc)+5〜Tc+30℃にて1.2〜3.0倍延伸した後、ガラス転移温度(Tg)以上に保持し、次いで第二延伸としてTc〜Tc+15℃にて、総縦延伸倍率が3.0〜5.0倍となるように延伸することを特徴とする二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
縦延伸における第一延伸の倍率が、第二延伸の倍率よりも大きいことを特徴とする請求
項5に記載の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−88690(P2006−88690A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229856(P2005−229856)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】