説明

二軸配向積層ポリエステルフィルム

【課題】
熱が加わった際に一方の面に析出するオリゴマー量を抑制した二軸配向積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】
少なくとも2層以上のポリエステルからなる層が積層された積層ポリエステルフィルムであって、両最表層のうち単位体積あたりの粒子数が多い最表層を層Aもう一方の最表層を層Bとしたとき、層Aおよび層Bの粒子体積の比(層A/層B)が3.0以上であり、かつ、フィルムの厚みが25〜55μmである二軸配向積層ポリエステルフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形部材原料など各種塗剤との適切な密着性および剥離特性を有する二軸配向積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
多層プリント配線板を製造する場合において、層間絶縁接着剤にガラスクロスを用いない、ビルドアップ方式による多層プリント配線板の技術が近年、改めて注目されている。ビルドアップ方式による多層プリント配線板ではフィルム状の層間絶縁樹脂層を用いた場合、内層回路板の絶縁基板と回路との段差をなくし、その表面を平滑化するために、内層回路板にアンダーコート材を塗布することが一般化してきた。特許文献1により代表的な例として、内層回路板に塗布されたアンダーコート材が未硬化、半硬化または硬化した状態において、層間絶縁接着剤をコートした銅箔をラミネートし、一体硬化することにより多層プリント配線板を得る技術が知られている。
【0003】
特許文献1に記載されているフィルム状の層間絶縁樹脂層は硬化時の収縮が小さく基材との接着性に優れた熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂が使用されている。
【0004】
前述のフィルム状の層間絶縁樹脂層を製造する際、近年、優れた耐溶剤性、寸法安定性、剛性を有しているとの理由で二軸配向ポリエステルフィルムが支持体として使用されている。使用される二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、表面粗さや熱収縮率を特定の範囲としたもの(特許文献2)や、結晶サイズを特定の範囲としたもの(特許文献3)によって実用特性を高めたフィルムが提案されている。
【0005】
支持体には、フィルム状の層間絶縁樹脂層の製造時には表面欠陥が少ないことが要求されるが、熱硬化性樹脂の成形時にポリエステルフィルムに熱が加わることによって析出するオリゴマーが工程を汚染し、欠陥となることが課題となっている。オリゴマーは成形面及び非成形面から析出しうるが、成形面側での析出は従来のポリエステルフィルムにおけるレベルでも許容しうるものの、特に、非成形面に析出するオリゴマーは飛散して工程を汚染するために長時間の連続運転を妨げる要因となっていて、この改題の解決が切望されている。
【0006】
この課題を解決する手段として、固層重合したポリエステルチップをフィルムに使用する方法(特許文献4)や、インラインコーティングにより表面のオリゴマー析出を抑制する方法(特許文献5)が提案されている。しかしながら、この方法ではポリエステルフィルムの製造工程において工程が増え、生産性が低下し、コスト高となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−67554号公報
【特許文献2】特開平7−227903号公報
【特許文献3】特開平6−254959号公報
【特許文献4】特開2007−131823公報
【特許文献5】特開2009−196176号公報
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】フィルム製造装置の全体構成を例示した図
【図2】オリゴマー析出量測定におけるサンプリングを説明するための模式図
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱が加わった際に一方の面に析出するオリゴマー量を抑制した二軸配向積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、以下の特徴を有する。
(1) 少なくとも2層以上のポリエステルからなる層が積層された積層ポリエステルフィルムであって、両最表層のうち単位体積あたりの粒子数が多い最表層を層Aもう一方の最表層を層Bとしたとき、層Aおよび層Bの粒子体積の比(層A/層B)が3.0以上であり、かつ、フィルムの厚みが25〜55μmである二軸配向積層ポリエステルフィルム。
(2) フィルム表面に塗布層を有しない状態で160℃、30分の加熱処理後の層Aの表面に析出するオリゴマー量が6.0mg/m以下であることを特徴とする上記(1)に記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
(3) 層Bの表面の中心線平均粗さSRaが5〜25nm、十点平均粗さSRzが100〜400nmである、上記(1)又は(2)に記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
(4) 層間絶縁樹脂支持体用として使用される上記(1)〜(3)の何れかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
(5) 150℃熱収縮率が一方の方向で1.0〜2.5%、該一方の方向に直交する方向で0.3%〜1.0%である上記(1)〜(4)の何れかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
(6) 上記(1)〜(6)の何れか記載の二軸配向積層ポリエステルの層B側表面に直接または離型層を介して層間絶縁樹脂層が設けられていることを特徴とする層間絶縁樹脂形成材。
【発明の効果】
【0011】
本発明により熱硬化性樹脂との成形時に熱が加わっても一方の面に析出するオリゴマー量を抑制することができ、層間絶縁樹脂層の形成用の基材として用いたときに金型の汚損を抑制できる。また、熱を受ける多くの用途においてオリゴマー析出による問題を著しく軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、上記実状に鑑み鋭意検討した結果、フィルム内の両表層に配される粒子の粒子体積を調整し、一方の面に粒子によって形成される表面近傍のボイドを多く形成させることで、フィルム表面に塗布層を有しない状態であっても、熱履歴が加わった際にオリゴマーを片側からより多く析出させ、もう一方の面に析出するオリゴマー量を抑制できることを見出した。以下、本発明について詳述する。
【0013】
本発明による二軸配向積層ポリエステルフィルムは、離型フィルムとして好ましく使用され、特に層間絶縁樹脂(電気絶縁樹脂)の支持体用などの電気絶縁用途に好適に用いることができる。
【0014】
電気絶縁用途においては、層間絶縁樹脂層の形成時に離型フィルムから析出したオリゴマーが金型に付着すると、重大な欠陥の原因となることから、管理レベルが非常に厳しいためである。すなわち、離型フィルムから析出したオリゴマーが成形に使用する金型に付着すると、成型時に樹脂表面を変形させたり、樹脂表面にオリゴマが付着したりして欠陥が生じ、絶縁機能が悪化(回路の短絡など)したり、回路を腐食させる原因になることがあるためである。また、層間絶縁樹脂の表面状態が悪化し、該シートを回路基板にラミネートした際、隙間が生じることで、回路の保護機能を担うことができなくなることもある。このため、本発明によるポリエステルフィルムは、オリゴマー析出が抑制された面側を離型対象の電気絶縁性樹脂積層面とは反対側の面に設けることにより、非成形面に析出するオリゴマーを抑制し、工程汚染による欠陥を抑制することができるものである。
【0015】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは電気絶縁用途に好適に用いることができ、一般に離型フィルムとも呼ばれて、半導体パッケージ基板用ビルドアップ基板へ、層間絶縁樹脂(電気絶縁樹脂)を積層する際に使用される。層間絶縁樹脂(電気絶縁樹脂)は、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムに塗布され、固化された後、巻き取られ、次いで、真空ラミネーションする際に回路基板などの基材に転写される((株)加工技術研究会編集企画「コンバーティング・テクノロジー便覧」(株)加工技術研究会、2006年12月16日、p.314〜318)。
【0016】
ここで、層間絶縁樹脂(電気絶縁樹脂)とは、回路の絶縁に使用される樹脂であれば特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが好適に用いられる。特に、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、電気絶縁樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる電気絶縁用離型フィルムとして使用されることが好ましい。
【0017】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムにおいて、二軸配向の意味は、未延伸(未配向)フィルムを、常法により、二次元方向に延伸された状態をいい、延伸は逐次二軸延伸または同時二軸延伸の何れの方法も採ることができる。
【0018】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムに用いるポリエステル樹脂とはエステル結合によって多価、多くは二価、の有機基が連結された高分子であり、二価のカルボン酸と二価のジオールが重縮合したものが代表的なものである。かかる成分としては、例えば、カルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、さらには比較的少量のトリメット酸などのトリカルボン酸等を用いることができ、ジオール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレングリコールなどを用いることができる。また、本発明の目的を損なわない範囲において、3価以上のカルボン酸成分若しくはアルコール成分、あるいは、ヒドロキシカルボン酸成分を用いることは差し支えない。また、本発明の目的を損なわない範囲において、ポリエステル以外の樹脂が相溶し、あるいは、本発明に用いるポリエステルにおいて他の繰り返し単位が共重合されていても良い。
【0019】
代表的なポリエステル樹脂である、ポリエチレンテレフタレートの製造は、テレフタル酸など上記酸成分とエチレングリコールなど上記アルコール成分を原料とする直接重合法(直重法)、またはテレフタル酸ジメチル(DMT)など上記の酸成分とメタノールなどの低分子アルコールとのカルボン酸エステルと、エチレングリコールなど上記アルコールなどを原料とするDMT法のいずれであっても良い。DMT法の場合のエステル交換触媒としては、例えば、カルシウム、リチウム、マンガン、亜鉛、チタン等の金属の酸化物、塩若しくは錯体を用いることができる。また、DMT法または直重法の場合の重合触媒としては、3酸化アンチモン等のアンチモン化合物、非晶質ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、テトラブチルチタネートなどのチタン化合物を用いることができる。エステル交換触媒や重合触媒は上記化合物に限定されるものでなく、既知の触媒系を用いて、本発明のポリエステルフィルムを得ることができる。
【0020】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは原料として固相重合によって固有粘度を上げたポリエステル樹脂を好ましく用いることができ、フィルムとしたときの固有粘度としては、0.55以上であることが好ましい。固有粘度が0.55未満ではポリエステル樹脂に含有されるオリゴマ量が多くなる傾向があり、厳しい条件での使用に向かないことがある。上限としては特に制限はないが、固有粘度が0.65を超えると製膜性に困難を伴うこともあるので、0.65以下で使用することが望ましい。本発明においては、0.65以下の固有粘度でも十分にオリゴマー析出による問題を抑制することができるのである。
【0021】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、少なくとも2層以上のポリエステル層からなる。そして、両最表層のうち、単位体積あたりの粒子数が多い最表層を層Aもう一方の最表層を層Bとしたとき、層Aおよび層Bの粒子体積の比(層A/層B)が3.0以上である。粒子体積の比が3.0未満の場合は層A側におけるオリゴマー析出量を抑える効果は十分なものとはならない。本発明は、層Aおよび層Bの粒子体積の比(層A/層B)が3.0以上とすることにより、層A側表面へのオリゴマー析出量を層B側表面の析出量対比で80%以下に抑制できるものであり、その理由は必ずしも明らかではないが、層Aおよび層Bの粒子体積の比(層A/層B)が3.0以上とすることにより、層Aにおけるオリゴマーの拡散移動が粒子自体あるいは粒子とポリエステル樹脂の界面において制限され、オリゴマーは層B側表面に偏って析出するようになり、結果、層A側表面に析出するオリゴマーを減ずることができたものであると考えられる。
【0022】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、前記層A、層Bの間に層Aあるいは層Bを構成するポリエステル組成物とは、ポリエステルの種類または粒子が含まれないもしくは含まれる粒子の種類が異なるポリエステル若しくはポリエステル組成物からなる層が設けられたものであっても良い。
【0023】
前記の粒子体積の比は次のようにして求められる。すなわち、ポリエステル層A、層Bの単位体積あたりの樹脂に含有される粒子が構成する体積をVpA、VpBとしたとき、粒子体積の比は式(1)で定義されるものとする。
粒子体積の比=VpA/VpB (1)
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムの厚みは、25μm以上55μm以下である。25μmより薄いフィルムでは加工温度、加工張力に耐えきれずに破断を起こすなど機械的な工程適性を満たすことができず、55μmより厚いフィルムではコスト、廃棄時の環境負荷が高くなるためである。好ましくは30μm以上40μm以下である。
【0024】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムにおいて、表面に塗布層を有しない状態で160℃、30分の加熱処理後の層Aの表面に析出するオリゴマー量は6.0mg/m以下であることが好ましい。160℃、30分の加熱処理後の表面1に析出したオリゴマー量が6.0mg/m以下であれば、層間絶縁樹脂支持体用途においてにおいて、非成形面から析出するオリゴマーの飛散による工程汚染の程度を軽減することができる点において好適に使用することができるためである。
【0025】
本発明において、層Aないし層Bに含有される粒子としては、有機粒子、無機粒子の何れでも特に差し支えはなく、層Aと層Bとで含有される粒子として種類あるいは粒径等において同一でも異なっていても良い。また、二種以上の粒子が用いられても良い。粒子としては、例えば、球状シリカ、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機粒子、またその他有機系高分子粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等が好ましい。また、必要に応じて濾過などを行うことにより、凝集粒子や粗大粒子などを除去することが好ましい。中でも、乳化重合法で等で合成された、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子が好適に使用できるが、とくに架橋ポリスチレン粒子、架橋シリコーン、さらに球状シリカなどは真球に近く、粒径分布が極めて均一であることから、好適に用いることができる。
【0026】
さらに、これらの粒子については界面活性剤などによる表面処理を施すことにより、ポリエステルとの親和性の改善を図ることが可能である。
【0027】
前記の層Aおよび層Bは、好ましく空隙(ボイドともいう)を含有し、ボイドの総体積あるいはボイドの総表面積は、層Aにおける量が層Bにおける量よりも多いことが望ましい。ボイドの形成はそれぞれの層に含まれる粒子の種類および量を調整することで実現でき、例えば、層Bに対して粒径の大きい粒子を層Aに添加させたり、層Bに対して粒子量を層Aに多く添加させたりすることで実現することができる。
【0028】
また、ボイドはできるだけ表面に近い位置に形成されることが望ましい。かかる態様の実現にはフィルムを構成する樹脂を共押出し、表面近傍のみを粒子を多く配合した層Aとするような複合フィルムとすることで実現することができる。また、フィルム内の粒子数を調整することで粒子によって形成される表面近傍のボイドにより面粗さを調整することもできる。
【0029】
本発明における二軸配向積層ポリエステルフィルムの層B側表面の中心線平均粗さSRaは5〜25nm、十点平均粗さSRzが100〜400nmであることが好ましい。係る範囲とすることにより、粒子近傍からのオリゴマー析出が少なく、フィルム表面からのオリゴマーの析出をより均一なものとできるためである。更に、前述の表面粗さとなることで樹脂の積層面の平滑さが保たれ、層間絶縁樹脂におけるフィルム表面起因の欠陥を抑制することができる。
【0030】
本発明における二軸配向積層ポリエステルフィルムの層A側表面の中心線平均粗さSRaが25〜45nm、十点平均粗さSRz(A)が600〜1000nmであることが好ましい。また、面粗さを前述の範囲とすることによって、加工中のフィルムの搬送特性(ロールとの摩擦特性)をコントロールし、非成形面に析出するオリゴマー量を抑制することができる。
【0031】
フィルム表面の中心線粗さ、十点平均粗さを上記範囲とするためには、フィルムに平均粒径が0.01μm以上8μm以下の粒子を添加することが好ましい。粒子が0.01μm以下では面粗さへの寄与が少なく、8μm以上の粒子では前述の面粗さを実現することが困難となるためである。
【0032】
ポリエステルに粒子を添加する方法としては、例えばジオール成分であるエチレングリコールに粒子を所定割合にてスラリーの形で分散させ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加する。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加すると粒子の分散性が良好であり、粗大突起の発生を抑制でき好ましい。また粒子の水スラリーを直接、所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も有効である。
【0033】
以下、本発明のフィルムを製造するための方法を例をあげて図1を用いて説明する。
まず、ポリエステル樹脂チップを、必要に応じて適宜混合した後、図1の真空乾燥機1により、チップ中の水分を除去する。その後原料ホッパー2に貯蔵して、押出機3で溶融して押し出す。その後フィルター4で濾過を行う。
【0034】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムでは、離型フィルムとして使用したときにフィルム上に形成された層間絶縁樹脂などの転写目的物の層(以下、係る層を成形層と称する)の表面欠落を抑制するために、フィルム内部異物が少ないことが望ましい。フィルム中において100μm以上の物が100cm当たり2個以内であることが好しく、更には、実質的に含まないことが好ましい。
【0035】
このようなフィルムを得るには、濾過精度1〜20μmのフィルターを用いて溶融ポリマーを濾過して押し出すことが必要である。濾過寿命をある程度の期間とし、粗大突起や内部異物の発生を抑制するためには、絶対濾過精度3〜10μmのフィルターを用いることが更に好ましい。
【0036】
濾過後の溶融状態の樹脂を、スリット状のダイ5から出してシート状に成形する。このシート状物を、表面温度20〜50℃のキャスティングドラム6に巻き付けて冷却固化し未延伸(未配向)フィルムとする。
【0037】
この未延伸フィルムを、縦延伸機7にて、70〜130℃に加熱し、ロール間の周速差により倍率が2.5〜5倍になるように1段階もしくは多段階で長手方向に延伸し、一軸延伸(一軸配向)フィルムを得る。
【0038】
かかる長手方向に延伸された一軸延伸フィルムを、横延伸機(ステンタ)8にて、80℃〜120℃で3〜6倍に幅方向に延伸し、二軸延伸(二軸配向)フィルムとする。延伸後、180℃〜250℃にて1〜20秒間熱処理を行った後、熱処理温度より0℃〜150℃低い温度で幅方向に0〜10%収縮させる。
【0039】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムを離型フィルムとして使用する場合には、フィルム表面上に転写目的物が塗布などによって設けられ、その後、必要に応じてオーブンにて乾燥され、成形層が形成されることになるが、該オーブン内で本発明のフィルムに熱シワが発生して成形層を変形させない目的のため、150℃で30分加熱処理した後の本発明のフィルムの収縮率(JIS C−2151あるいは、ASTM D−1204に準拠)は、フィルム搬送方向に対しての長手方向(MD:Machine Direction)で1.0〜2.5%でかつ、幅方向(TD:Transverse Direction)で0.3〜1.0%であることが好ましい。なお、層B側表面に必要に応じて離型層を設けることは差し支えない。
【0040】
上記範囲の熱収縮率とするためには、80〜100℃に加熱し、ロール間の周速差により倍率が3〜4倍になるように1段階で長手方向に延伸し、長手方向に延伸されたフィルムを、図1の横延伸機8にて、90℃〜110℃で3〜4.5倍に幅方向に延伸した後、210℃〜240℃にて5〜20秒間熱処理を行った後、熱処理温度より10℃〜100℃低い温度で幅方向に3〜8%収縮させることが好ましい。 更には、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムを、電気絶縁用離型フィルムとして使用する場合は、ビルドアッププロセスにて加熱されることになるが、この際、本発明のフィルムと層間絶縁樹脂層(電気絶縁樹脂)との伸縮差が大きいと、ビルドアッププロセスにおいてシワ、タルミが発生する。かかるシワ、弛みを発生させないためには、150度で30分加熱した処理した後のフィルムの収縮率は、MDで1.0〜2.5%、TDで0.3〜1.0%が好ましい。
【0041】
幅方向に延伸をしたフィルムは、渡り搬送装置9で冷却させたのち巻き取り、中間製品10を得る。中間製品10は、スリット工程にて適切な幅にスリットして巻き取り、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムが得られる。
【実施例】
【0042】
次に実施例に基づき、本発明の実施態様をより具体的に説明する。
【0043】
本発明で規定する特性値の測定方法と評価方法を以下に述べる。
【0044】
(1)ポリエステルフィルム全厚み、および層厚み
透過型電子顕微鏡(TEM;日立(株)製H−600型)を用いて、加速電圧100kVで、フィルムの断面を、超薄切片(RuO染色)で観察する。その断面全体から全厚みを求め、積層厚みについては、その界面に観察される粒子の最も深い地点から表面からの深さ、つまり積層されている厚みを求める。倍率は測定するフィルムの全厚み、層厚みによって適宜倍率を設定すればよいが、一般的には全厚み測定には1000倍、積層厚み測定には1万〜10万倍が適当である。
粒子が少ない場合など、積層界面を判別するためにどのような倍率で粒子像を得るべきかを事前に想定するために、断面のSEM−XMAによって断面における元素の分布(マッピング)から想定される積層厚みの概算を行い、TEMでの設定倍率を定めると効率的である。
【0045】
(2)粒子の平均粒径
フィルムからポリマーをプラズマ低温灰化処理法で除去し、粒子を露出させる。処理条件は、ポリマーは灰化されるが粒子は極力ダメージを受けない条件を選択する。処理後の試料料を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。SEMの倍率は5000倍とし、任意に場所を変えて少なくとも100個の粒子の等価円相当径を測定し、その平均値を算出して平均粒径とした。凝集粒子の場合は凝集体(二次粒子)について少なくとも100個の粒子の等価円相当径を測定し、その平均値から平均粒径を求めた。
粒径あるいは形状の異なる2種類以上の粒子を含有している場合、それぞれの粒子種について形状で粒子種を分類して区別し、同様に等価円相当径を測定し、その平均値を算出して平均粒径とした。
粒子がプラズマ低温灰化処理法で大幅にダメージを受ける場合には、フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、5000倍で観察する。TEMの切片厚さは約100nmとし、任意に場所を変えて少なくとも100個の粒子の等価円相当径を測定し、その平均値を算出して平均粒径とした。凝集粒子の場合は凝集体について少なくとも100個の粒子の等価円相当径を測定し、その平均値から平均粒径を求めた。
【0046】
(3)粒子の体積比
測定対象のフィルムの最表層のポリエステル層(層A、層B)について、前項で求めた積層厚みに基づき、それぞれ、研磨(一例として、マイクロメーターや重量変化などで厚み減少分を測りながら、片刃を用いて表面から削っていく方法など)を行い、当該層のみを削りだし、粒子を含有するポリエステルを得た。
ここからポリエステル樹脂のみを溶解して粒子のみを得るため、粒子を含有するポリエステル100mgに対して、溶剤としてフェノール/四塩化エタン(6/4重量比)の混合溶媒またはo−クロロフェノールを20mlの割合で添加し、130℃、30分攪拌有りでポリエステルのみを溶解した。
ここに、体積の基準粒子として、同溶媒にモメンティブ・パフォーマンス・マテリアル社製「トスパール1110」(平均粒径11μm)を分散させたブランク溶液を添加し、(株)堀場製作所製レーザ回折散乱式粒度分布測定装置LA−700を用い、平均粒径(メジアン径)とともに粒径分布を出力した。
【0047】
測定条件および表示条件の詳細を下記に示す。
[測定条件]
測定モード :バッチ式セル測定
データ取り込み回数 :10回
分布形態 :1
屈折率設定値 :1.1
[表示条件]
累積分布グラフ :付ける
累積分布表示の種類 :ふるい下
ヒストグラムスケール :固定
固定スケール :15
分割数 :64
粒子径基準 :体積
粒子径間隔 :固定間隔
任意%粒子径設定 :しない 。
【0048】
この粒径分布において、11μmを中心とするピークを除去した「ふるい下%」が、当該層に含まれていた粒子の体積分率(%)である。これを、層Aと層Bについて、それぞれ「トスパール1110」溶液を同一量添加して粒径分布を測定し、11μmを中心とするピークを基準体積として正規化して、当該層に含まれていた粒子の体積分率(%)を求め、層A/層Bの比を粒子体積比とした。
なお、前項のSEMやTEMによる平均粒径の観察結果から、ピークが重ならないことが確認できた場合には、「トスパール1110」よりも小さい径の基準粒子を用いて同様の測定および粒子体積比の算出を行うこともできる。
【0049】
(4)オリゴマー抽出量
A.熱処理
縦長方向で試料(A4サイズ)を目玉クリップ(クリ15)で上部2個、下部3個を使用し、番線につるし、セーフティー・オーブン(TABAI社 MODEL SPHH−101)で160℃、30分間熱処理する。オーブンの熱風は測定面と反対面に当たるようにした。
【0050】
B.オリゴマー抽出
直径4mmの番線を使用した四角形の枠11(内側寸法 45mm×120mm)を用意し、枠の片面側を覆うように粘着テープ12を貼り付け、試料フィルム13を反対面から図2に示したように貼り付け、試料フィルム45mm×120mmのくぼみ部分を設ける。このくぼみ部分に上側よりホールピペットでエタノールを10ml入れ、25℃で5分間放置してオリゴマーを溶解させたものを測定液とした。
【0051】
C.分光光度計によるオリゴマー測定
U-3310形分光光度計(日立製作所製)で240nmの吸収を測定し、オリゴマー量を検量線から算出し、測定液が接触したフィルムの単位面積・厚みあたりに換算した。測定条件は下記の通りで実施した。
測定モード:定量演算
ホトマル電圧:自動制御
セル長:10mm
光源切換波長:340nm 。
【0052】
(5)フィルム表面の中心線粗さ(SRa)、十点平均粗さSRz
三次元微細表面形状測定器(小坂製作所製ET−350K)を用いて測定し、得られたフィルム表面のプロファイル曲線により、JIS B0601−1994に準じ、算術平均粗さSRa、十点平均粗さSRzを求めた。なお、測定条件は下記の通り。
X方向測定長さ:0.5mm、X方向送り速度:0.1mm/秒
Y方向送りピッチ:5μm、Y方向ライン数:40本
カットオフ:0.25mm
測定力:0.04mN 。
【0053】
(6)150℃熱収縮率
ポリエステルフィルムを幅1cm、長さ15cmの短冊状に切りだし、長さ方向の両端からそれぞれ2.5cm内側に幅方向と平行な線を引き、2本の平行線間の距離L0を正確に測定した。次いでその短冊状サンプルを150℃の熱風オーブン中にて30分間熱処理し、冷却後、2本の平行線間の距離L1を正確に測定した。処理前の寸法と処理後の寸法から下記式にて熱収縮率(%)を求めた。
熱収縮率(%)=(L0−L1)/L0×100
なお、測定は短冊の長さ方向がフィルム長手方向に平行な場合、フィルム幅方向に平行な場合、それぞれについて各10サンプル測定を実施し、それぞれの平均値でもって長手方向の熱収縮率、幅方向の熱収縮率とした。
【0054】
(7)固有粘度
o−オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いた。すなわち、
ηsp/C=[η]+K[η] ・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1であり、Cは、溶液濃度(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。単位は[dl/g]で示した。
【0055】
(8)オリゴマ付着評価
対象フィルムの層Aの側の面を160℃のステンレス板で熱プレスし、プレス前後でのステンレス板の汚れ程度を目視にて判定した。プレス圧は4.9×10N/m(5kgf/cm)とし、一回30秒で100回実施し、評価の判定は以下のとおりとした。
A:ステンレス板に汚れは見えなかった。
B:ステンレス板に少し汚れは見えたが、実用的には問題ないレベルだった。
C:ステンレス板に白い汚れがはっきり見えた。
なお、上記においてAと評価されるフィルムが、電気絶縁用離型フィルムとして特に好適に用いられるものである。

実施例1:
ジメチルテレフタレート(DMT)に、DMT・1モルに対し1.9モルのエチレングリコールおよび酢酸マグネシウム・4水塩をDMT100質量部に対し0.05質量部、リン酸をDMT100質量部に対し0.015質量部加え加熱エステル交換を行い、引き続き三酸化アンチモンをDMT100質量部に対し0.025質量部を加え、加熱昇温し真空化で重縮合反応を行い、粒子を実質的に含有しない、固有粘度0.63のポリエチレンテレフタレートペレットを得た。
【0056】
さらに上記と同様にポリエステルを製造するにあたり、エステル交換後、真比重2.71g/cm、平均粒径1.05μmの炭酸カルシウム(不活性粒子II)を添加し、固有粘度0.63の炭酸カルシウム粒子含有マスターペレット(ペレット中に炭酸カルシウムを1質量%含有)を得た。
【0057】
さらに別に、真比重1.05g/cm、平均粒子径0.3μm、ジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子(不活性粒子I)の水スラリーを、上記の実質的に粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートペレットにベント式二軸混練機を用いて含有させ、0.3μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をペレット中に2質量%含有するポリエステルペレットを得た。
【0058】
次に、上記、0.3μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子含有マスターペレットおよび粒子を実質的に含有しない上記のポリエチレンテレフタレートペレットを混合し、0.3μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をポリエステルB中に0.10質量%含有するポリエステルBを調製した。
【0059】
さらに、上記の炭酸カルシウム粒子を含有するマスターペレット、ジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を含有するマスターペレットおよび実質的に粒子を含有しない上記のポリエチレンテレフタレートペレットを混合し、ポリエステルA中に平均粒径0.3μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を0.20質量%、平均粒径1.05μmの炭酸カルシウムを0.50質量%含有するポリエステルAを調製した。
【0060】
このポリエステルA、Bをそれぞれ160℃で8時間減圧乾燥した後、別々の押出機に供給し、275℃で溶融押出して5μm以上の捕集率95%のフィルターで高精度濾過した後、矩形の合流ブロックで合流積層し、ポリエステルAによる層/ポリエステルBによる層からなる2層積層とした。その後、285℃に保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印可キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付け冷却固化して未延伸積層フィルムを得た。
【0061】
この未延伸フィルムを表面粗さRaが0.2μmの延伸ロールを用い、長手方向に3.8倍延伸した。この時、延伸部におけるロールとフィルムのトータルの接触時間は0.05秒とした。さらに、引き続いてステンタにて115℃の熱風下で幅方向に3.9倍延伸後、定長下、225℃で4秒間熱処理し、その後長手方向に2.5%、幅方向に3%の弛緩処理を施し、ポリエステルAによる層の厚み35.0μm、ポリエステルBによる層の厚み3.0μm、総厚み38μmの二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示した。
【0062】
実施例2,3、比較例1〜6:
粒径の異なる炭酸カルシウム粒子およびジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子、さらにジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子に代えて、真比重2.70g/cm、平均粒子径2.6μmのシリカ粒子について実施例1と同様にこれら粒子を含有するポリエステルペレットをそれぞれ得た後、層A、層Bに添加する粒子の種類、粒径、含有量、さらにフィルム各層の厚み、層構成(A/Bの2層あるいはA/C/Bの3層)、構成する層Aおよび層Bの厚み、を表1に記載のように変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。しかしながら、比較例3においては、全厚みが13μmと薄かったために、オリゴマー付着評価の際に破断を起こして本用途における加工適性を満たさないことが明らかとなった。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【符号の説明】
【0065】
1 真空乾燥機
2 原料ホッパー
3 押出機
4 フィルター
5 ダイ
6 キャスティングドラム
7 縦延伸機
8 横延伸機
9 渡り搬送装置
10 中間製品
11 直径4mmの番線を使用した四角形の枠(内側寸法 45mm×120mm)
12 試料フィルム
13 粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層以上のポリエステルからなる層が積層された積層ポリエステルフィルムであって、両最表層のうち単位体積あたりの粒子数が多い最表層を層Aもう一方の最表層を層Bとしたとき、層Aおよび層Bの粒子体積の比(層A/層B)が3.0以上であり、かつ、フィルムの厚みが25〜55μmである二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
フィルム表面に塗布層を有しない状態で160℃、30分の加熱処理後の層Aの表面に析出するオリゴマー量が6.0mg/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
層Bの表面の中心線平均粗さSRaが5〜25nm、十点平均粗さSRzが100〜400nmである、請求項1又は2に記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
層間絶縁樹脂支持体用として使用される請求項1〜3の何れかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
150℃熱収縮率が一方の方向で1.0〜2.5%、該一方の方向に直交する方向で0.3%〜1.0%である請求項1〜4の何れかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか記載の二軸配向積層ポリエステルの層B側表面に直接または離型層を介して層間絶縁樹脂層が設けられていることを特徴とする層間絶縁樹脂形成材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−255527(P2011−255527A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129560(P2010−129560)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】