説明

二酸化ウラン粉末の製造方法及び該方法により得られた二酸化ウラン粉末を用いた二酸化ウラン焼結ペレットの製造方法

【課題】湿式法に比べて廃液発生量を低減できる。有害なフッ化水素の発生量を低減できる。IDR法に比べて低温域で中間生成物を生成できる。反応装置を簡易に構成することができる。ハンドリング性に優れ、活性度が高い二酸化ウラン粉末を製造する。
【解決手段】乾式法を用いた再転換により、六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を製造する方法の改良であり、六フッ化ウランに水蒸気及びアンモニアガスを接触させ、気相反応を生じさせることにより、フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程と、生成させたフッ化ウラニルアンモニウムを焙焼・還元処理して二酸化ウラン粉末を得る工程とを含み、フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程における六フッ化ウラン、水蒸気及びアンモニアガスの接触割合がモル比で1:3〜12:0.5〜6であり、気相反応を150〜350℃の加熱雰囲気下で行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に高活性で、かつハンドリング性に優れた二酸化ウラン粉末の製造方法及び該方法により得られた二酸化ウラン粉末を用いた二酸化ウラン焼結ペレットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子燃料である二酸化ウランペレットの原料となる二酸化ウラン粉末を六フッ化ウランから得る、いわゆる再転換方法は、大きく分けて湿式法と乾式法がある。
【0003】
湿式法は、六フッ化ウランを出発原料とし、気液反応によりウラニルイオンを含む水溶液とした後、沈澱、乾燥、焙焼・還元等の粉末化処理を行い、二酸化ウラン粉末を得る方法である。現在、商用規模の施設で採用されている湿式法の代表的な方法として、六フッ化ウランからフッ化ウラニル、重ウラン酸アンモニウムを経由して二酸化ウランを得る方法(Ammonium Diuranate process;以下、ADU法という。)が知られている。
【0004】
ADU法は、図6に示すように、六フッ化ウランガス(UF6(G))と水(H2O(L))との加水分解反応によりフッ化ウラニル水溶液(UO22(L))を得た後、このフッ化ウラニル水溶液にアンモニア水(NH4OH)を添加して重ウラン酸アンモニウム((NH4)227(S))の沈殿物としてウランの固体化を行い、得られた重ウラン酸アンモニウムを濾過し、乾燥した後、H2とH2Oを加えて焙焼・還元することにより、二酸化ウラン粉末(UO2(S))を得る方法である。このADU法における反応ステップを次の式(1)〜式(4)に示す。
【0005】
【化1】

【0006】
【化2】

【0007】
【化3】

【0008】
【化4】

【0009】
このADU法を改良した技術として、UF6ガスと水蒸気とを反応させてUO22粒子を生成する工程と、前記UO22粒子とアンモニウム塩とを水相中で反応させてウラン酸アンモニウム塩を生成する工程と、前記ウラン酸アンモニウム塩を固液分離する工程と、前記固液分離されたウラン酸アンモニウム塩を焙焼・還元してUO2粉末を生成する工程とを含む二酸化ウラン粉末の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
しかしながら、上記ADU法や特許文献1に示されるようなADU法の改良技術では、主要な反応が気液反応、液相反応であることから、液体の取扱量が多く、廃液の発生量が多くなってしまう問題があった。加えて湿式法は、六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を得るまでの処理プロセスが長く複雑であった。更に、反応生成物の性質の面でも湿式法によって得られた二酸化ウラン粉末は、商用規模の製造ではハンドリング性に乏しく、活性度も低いため、最終製品である二酸化ウランペレットの高密度化が困難であった。
【0011】
一方、乾式法は、六フッ化ウランを気相反応によりフッ化ウラニル粉末とした後、焙焼・還元処理を行い、二酸化ウラン粉末を得る方法である。現在、商用規模の施設で採用されている乾式法の主流の方法として、六フッ化ウランと水蒸気とを直接接触させて、気相反応させることでフッ化ウラニル粉末を生成し、このフッ化ウラニル粉末を焙焼・還元処理することで二酸化ウラン粉末を得る方法(Integrated Dry Route process;IDR法)が知られている。
【0012】
IDR法は、図7に示すように、六フッ化ウランガス(UF6(G))と水蒸気(H2O(G))を接触させ、気相反応により加水分解を生じさせることにより、直接フッ化ウラニル(UO22(S))を得た後、このフッ化ウラニルにH2とH2Oを加えて焙焼・還元することにより、二酸化ウラン粉末(UO2(S))を得る方法である。このIDR法における反応ステップを次の式(5)〜式(7)に示す。
【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
【化7】

【0016】
このIDR法を改良した技術として、フッ化ウランとオキシダントガスを反応容器に一緒に射出し、プルームを形成することによって六フッ化ウランを酸化する方法において、複数の前記プルームが同一の容器内で形成され、プルームが相互に前記容器内での循環生成物形成ストリームに寄与することを特徴とする六フッ化ウランの酸化方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0017】
上記IDR法や特許文献2に示されるようなIDR法の改良技術では、主要な反応で液体を使用しないため、前述した湿式法に比べると廃液の発生量が少なく、また、六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を得るまでの処理プロセスが短く、反応装置も簡易に構成することができるという利点がある。
【特許文献1】特開平8−239220号公報(請求項1)
【特許文献2】特表平9−501396号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、二酸化ウラン粉末を製造する際の中間生成物であるフッ化ウラニルは、反応生成温度域によっては結晶水を持つ化学形態をとるため、反応装置内で付着したり、配管等の閉塞を起こし易い。またフッ化ウラニル自身も吸湿性を有するため、反応装置内で付着したり、配管等の閉塞を起こし易いことから、フッ化ウラニルを中間生成物とする製造方法では、商用規模で長期的に安定して生産することに支障を起こす可能性がある。更には上記反応式(5)にも示されているように、人体に有害であり、かつ各種金属を腐食して水素を発生させるフッ化水素(HF)を多量に発生させる。
【0019】
また現在、原子燃料の高燃焼度化に伴い、FPガス(Fission Product gas)の発生量が増大している。FPガスの一部は、主として拡散によって二酸化ウランペレット中を移動して、燃料棒内の空間に蓄積されるため、発生量の増大により、蓄積量も増大している。燃料棒内の空間におけるFPガスの蓄積量の増大は、燃料棒被覆管の内圧を高め、またペレットと被覆管の間の熱伝達特性を悪化させるため、原子炉運転の際には重要視されており、FPガスの発生低減対策が必要とされている。
【0020】
本発明の第1の目的は、ADU法のような湿式法に比べて廃液発生量を低減できる、二酸化ウラン粉末の製造方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、有害なフッ化水素の発生量を低減できる、二酸化ウラン粉末の製造方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、IDR法に比べて低温域で中間生成物を生成できる、二酸化ウラン粉末の製造方法を提供することにある。
【0021】
本発明の第4の目的は、反応装置を簡易に構成することができる、二酸化ウラン粉末の製造方法を提供することにある。
本発明の第5の目的は、ハンドリング性に優れ、活性度が高い二酸化ウラン粉末を製造する方法を提供することにある。
【0022】
本発明の第6の目的は、中間生成物としてフッ化ウラニルを経由して得られた二酸化ウランを用いたペレットよりも高密度を実現できる、二酸化ウラン焼結ペレットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前述したように、従来より知られている二酸化ウラン粉末の製造方法のうち、ADU法のような湿式法は、主要な反応での廃液の発生量が多い、二酸化ウラン粉末を得るまでの処理プロセスが長く複雑である、及び反応生成物の性質の面でも商用規模の製造ではハンドリング性に乏しく活性度も低いため、最終製品である二酸化ウランペレットの高密度化が困難である、という3つの大きな問題点を有している。
【0024】
一方、従来の乾式法の主流であるIDR法のように、六フッ化ウランと水蒸気を気相反応させて得られる中間生成物であるフッ化ウラニルは、反応温度域によっては結晶水を持つ化学形態をとったものが生成するため、反応装置内で付着したり、配管等の閉塞を起こし易い。またフッ化ウラニル自身も吸湿性があるため、反応装置内で付着したり、配管等の閉塞を起こし易い問題を有していた。
【0025】
本発明は、乾式法を用いた二酸化ウラン粉末の製造方法に着目し、従来より知られている乾式法が有していた諸問題を解決する方法を確立したものである。
【0026】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、乾式法を用いた再転換により、六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を製造する方法の改良である。その特徴ある構成は、六フッ化ウランに水蒸気及びアンモニアガスを接触させ、気相反応を生じさせることにより、フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程と、生成させたフッ化ウラニルアンモニウムを焙焼・還元処理して二酸化ウラン粉末を得る工程とを含み、フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程における六フッ化ウラン、水蒸気及びアンモニアガスの接触割合がモル比で1:3〜12:0.5〜6であり、気相反応を150〜350℃の加熱雰囲気下で行うところにある。
請求項1に係る発明では、六フッ化ウランと水蒸気とを接触させて気相反応により反応させる際に、水蒸気だけでなくアンモニアガスを加え、六フッ化ウランに水蒸気及びアンモニアガスを接触させて気相反応を生じさせることで、フッ化ウラニルアンモニウムを中間生成物として生成させる。アンモニアを液体状態ではなく気体状態で六フッ化ウランと接触させることにより、六フッ化ウランとの反応を全て気相反応で構成することができる。その結果、廃液の発生量を低減することができるとともに、有害なフッ化水素の発生を低減することができる。本発明の製造方法における六フッ化ウランからフッ化ウラニルアンモニウムを生成させるための反応は、次の式(8)〜式(10)か、或いは次の式(11)〜式(13)により行われる。
【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
【化12】

【0032】
【化13】

【0033】
中間生成物として生成させるフッ化ウラニルアンモニウムは、従来中間生成物として生成させていたフッ化ウラニルと比較すると、150〜350℃の生成反応温度域では結晶水を持つ化学形態をとることはなく、また吸湿性も小さな粉末で得られることから反応装置内で付着したり、配管等の閉塞を起こす可能性が殆ど無い。加えてフッ化ウラニルアンモニウムが得られる反応温度域は、フッ化ウラニルが得られる反応温度よりも低温域であるので、装置規模もフッ化ウラニルを得るための装置よりも簡易な構成が可能である。
【0034】
また、反応生成物の性質の面でもフッ化ウラニルアンモニウムから得られた二酸化ウラン粉末はハンドリング性に優れ、かつ中間生成物としてフッ化ウラニルを経由して得られた二酸化ウラン粉末よりも活性度が高い。更に、本発明の製造方法で得られる二酸化ウラン粉末を用いて製造した二酸化ウラン焼結ペレットは、焼結ペレット密度で比較してもフッ化ウラニルを経由して得られた従来のペレットよりも高密度を実現することが可能となる。このような高活性な二酸化ウラン粉末を得るためには、粉末の1次粒子を小さくする必要がある。気相反応による粉末生成反応において1次粒子を小さくするためには、粉末生成反応を進み易くする必要がある。粉末生成反応は反応時の自由エネルギーΔGが小さ
い方が反応は進み易くなる。従来のIDR法のような六フッ化ウランと水蒸気との加水分解反応に比べて、本発明の製造方法のように、六フッ化ウランに水蒸気及びアンモニアを接触させ、気相反応を生じさせることで、従来の中間生成物であるフッ化ウラニルの生成よりも低い温度でフッ化ウラニルアンモニウムを生成することが可能となる。即ち、温度の関数である自由エネルギーΔGを小さくすることができ、これに伴い反応性が向上する
ため、本発明の製造方法で得られる二酸化ウラン粉末の1次粒子はフッ化ウラニルを中間生成物とした従来の方法よりも小さなものを得ることができる。この結果、高活性な粉末を得ることができる。
【0035】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、図1の破線に示すように、フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程において、六フッ化ウランに水蒸気及びアンモニアガスを接触させる際に、炭酸ガスを更に加えて、気相反応を生じさせ、フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程における六フッ化ウラン、水蒸気、アンモニアガス及び炭酸ガスの接触割合がモル比で1:3〜12:0.5〜6:0.5〜21の割合であり、気相反応を150〜350℃の加熱雰囲気下で行う製造方法である。
請求項2に係る発明では、フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程において、炭酸ガスを更に加えることにより、炭酸ガスの持つ低熱伝導率により気相反応に必要な加熱量の拡散が押さえられて1次粒子の核発生が促進され、1次粒子径の小さな粒子が生成し易くなる。この結果、より高活性な二酸化ウラン粉末を得ることができる。高活性な二酸化ウラン粉末とすることで、二酸化ウラン焼結ペレットの結晶粒径を大粒径化することができ、結晶粒内で発生したFPガスが発生箇所から結晶粒界への移動する時間を長くできるので、結果としてペレット外への放出が抑えられるものと期待される。
【0036】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、焙焼・還元処理が加湿水素雰囲気下、550〜1000℃の加熱温度で行われる製造方法である。
請求項4に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、図2又は図3に示すように、フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる反応装置として、ロータリキルン型反応装置、スクリュー型反応装置又は縦型反応装置を用いる製造方法である。
【0037】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法により得られた二酸化ウラン粉末を2〜6t/cm2の圧力で成形してペレット状の二酸化ウラン成形体を得る工程と、成形体を加湿水素雰囲気下、1400〜1800℃の加熱温度、2〜6時間の加熱保持時間で焼結する工程とを含むことを特徴とする二酸化ウラン焼結ペレットの製造方法である。
請求項5に係る発明では、上記工程を経ることにより、焼結ペレット密度で比較しても従来の中間生成物としてフッ化ウラニルを経由して得られたペレットよりも高密度を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の二酸化ウラン粉末の製造方法では、従来の乾式法とは異なるフッ化ウラニルアンモニウムを中間生成物とすることで、廃液の発生量を低減することができ、また、有害なフッ化水素の発生を低減することができる。また、従来の乾式法で得られる二酸化ウラン粉末よりも同じ反応条件(温度、ガス比)において、容易に高活性な二酸化ウラン粉末を得ることができ、粉末の活性度制御を簡便に行うことができる。更に、従来の方法に比べて高活性な粉末が得られることから、焼結密度の高いペレットの製造が可能となり、ペレットの結晶粒径も大粒径化させることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の二酸化ウラン粉末の製造方法では、先ず、図1に示すように、六フッ化ウラン(UF6(G))に水蒸気(H2O(G))及びアンモニアガス(NH3(G))を接触させる。この接触によって気相反応を生じさせることにより、中間生成物としてフッ化ウラニルアンモニウム((NH4)3UO25(S)、(NH4)0.5UO22.5(S))を生成させる。本発明の二酸化ウラン粉末の製造方法に使用する反応装置としては、図2に示すように、加水分解部11と焙焼・還元部12から構成された反応装置10を使用することが好ましい。加水分解部11としては、図2に示すような縦型反応装置や、図3に示すようなロータリーキルン型反応装置、図示しないスクリュー型反応装置が挙げられる。また焙焼・還元部12としてはロータリーキルン型反応装置が挙げられる。
【0040】
フッ化ウラニルアンモニウムの生成は、図2に示すような反応装置10の加水分解部11を150〜350℃に加熱し、この加熱した加水分解部11内に六フッ化ウラン、水蒸気及びアンモニアガスをモル比で1:3〜12:0.5〜6の割合となるようにそれぞれ通気することにより、六フッ化ウランに水蒸気及びアンモニアガスを接触させる。加水分解部内に供給するモル比を制御することにより、上記式(8)或いは上記式(11)のように加水分解反応が進み、上記式(8)に示されるような(NH4)0.5UO22.5か、上記式(11)に示されるような組成比の異なる(NH4)3UO25か、或いはその双方が生成される。
【0041】
六フッ化ウラン及び水蒸気のモル比の下限値を1:3に規定したのは、上記式(8)或いは上記式(11)で示される通り、フッ化ウラニルアンモニウムの生成反応を成立させるためには、ウランに対する水のモル比が2以上の量、即ち、H2O/U≧2が最低限必要となるが、十分な反応性を確保することを考慮したためである。また六フッ化ウラン及び水蒸気のモル比の上限値を1:12に規定したのは、上限値は制限がないものの、最終製品の二酸化ウランペレット密度や経済性を考慮したためである。
六フッ化ウラン及びアンモニアガスのモル比の下限値を1:0.5に規定したのは、上記式(8)で示される通り、(NH4)0.5UO22.5の生成には、ウランに対するアンモニアのモル比が0.5以上の量、即ち、NH3/U≧0.5が最低限必要となるためである。六フッ化ウラン及びアンモニアガスのモル比が下限値未満であると、従来法のようにフッ化ウラニル(UO22)又は重ウラン酸アンモニウム((NH4)227)が生成されてしまう不具合を生じる。また、六フッ化ウラン及びアンモニアガスのモル比の上限値を1:6に規定したのは、上限値は制限がないものの、最終製品の二酸化ウランペレット密度や経済性を考慮したためである。
【0042】
フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程において、炭酸ガスを更に加えることが好ましい。炭酸ガスの持つ低熱伝導率により気相反応に必要な加熱量の拡散が押さえられて1次粒子の核発生が促進され、1次粒子径の小さな粒子が生成し易くなるためである。加水分解反応に炭酸ガスを更に加える際には、六フッ化ウラン、水蒸気、アンモニアガス及び炭酸ガスをモル比で1:3〜12:0.5〜6:0.5〜21の割合で、反応装置の加水分解部内を150〜350℃に加熱することが好適である。
六フッ化ウラン及び炭酸ガスのモル比の下限値を1:0.5としたのは、炭酸ガスはフッ化ウラニルアンモニウムの生成反応には寄与しないため、モル比の下限値には特に制限がないものの、炭酸ガスによる1次粒子径の小さな粒子が得られる下限値として設定したものである。また、六フッ化ウラン及び炭酸ガスのモル比の上限値を1:21としたのは、前述したように炭酸ガスはフッ化ウラニルアンモニウムの生成反応には寄与しないため、モル比の上限値にも特に制限がないものの、最終製品の二酸化ウラン焼結ペレットの最適な密度及び経済性を踏まえると、反応時の全体モル数は40程度が限界値であり、この限界値にH2O/U及びNH3/Uの上限値を考慮したものである。
【0043】
六フッ化ウランの反応装置の加水分解部内への供給は、キャリアガスを通じて通気することが好ましい。キャリアガスとしては窒素が挙げられる。反応装置の加水分解部内へ供給する全ての流体における全体モル数は5〜40が好ましい。
アンモニアを液体状態ではなく気体状態で六フッ化ウランと接触させることにより、六フッ化ウランとの反応を全て気相反応で構成することができる。その結果、ADU法のような湿式法に比べて廃液の発生量を低減することができるとともに、有害なフッ化水素の発生を低減することができる。中間生成物として生成させたフッ化ウラニルアンモニウムは、従来中間生成物として生成させていたフッ化ウラニルと比較すると、150〜350℃の生成反応温度域では結晶水を持つ化学形態をとることはなく、また吸湿性も小さな粉末で得られることから反応装置内で付着したり、配管等の閉塞を起こす可能性が殆ど無い。加えてフッ化ウラニルアンモニウムが得られる反応温度域は、フッ化ウラニルが得られる反応温度よりも低温域であるので、装置規模もフッ化ウラニルを得るための装置よりも簡易な構成が可能である。
【0044】
上記条件での加水分解反応により、従来の六フッ化ウランと水蒸気による加水分解反応(300〜500℃)に比べ、低い温度域の反応で付着性の低い、かつ1次粒子の小さい粉末が得られる。
【0045】
生成したフッ化ウラニルアンモニウムは、加水分解部11から焙焼・還元部12へと図示しないフィーダにより搬送され、次工程で焙焼・還元される。
【0046】
次に、図1に示すように、生成させたフッ化ウラニルアンモニウムを焙焼・還元処理して二酸化ウラン粉末を得る。具体的には、焙焼・還元部12内を加湿水素雰囲気とし、550〜1000℃に加熱することにより、フッ化ウラニルアンモニウムが水素(H2)と反応して二酸化ウラン粉末(UO2(S))が生成する。焙焼・還元部12内を加湿水素雰囲気とするために必要な水及び水素の供給モル比は1〜10が好適である。
【0047】
本発明の製造方法のように、フッ化ウラニルアンモニウムから得られた二酸化ウラン粉末はハンドリング性に優れ、かつ中間生成物としてフッ化ウラニルを経由して得られた二酸化ウラン粉末よりも活性度が高いという優れた性質を有する。更に、本発明の製造方法で得られる二酸化ウラン粉末を用いて製造した二酸化ウラン焼結ペレットは、焼結ペレット密度で比較してもフッ化ウラニルを経由して得られた従来のペレットよりも高密度を実現することができる。
【0048】
次に、本発明の二酸化ウラン焼結ペレットの製造方法を説明する。
先ず、本発明の二酸化ウラン粉末を2〜6t/cm2の圧力で成形してペレット状の二酸化ウラン成形体を得る。続いて、成形体を加湿水素雰囲気下、1400〜1800℃の加熱温度、2〜6時間の加熱保持時間で焼結する。
上記工程を経ることにより製造された二酸化ウラン焼結ペレットは、焼結ペレット密度で比較しても従来の中間生成物としてフッ化ウラニルを経由して得られたペレットよりも高密度を実現することが可能となる。
【0049】
二酸化ウラン粉末の生成条件やペレット成形条件、ペレット焼結条件を組み合わせることにより、焼結密度が95〜99.5%TDの二酸化ウラン焼結ペレットが得られる。
【実施例】
【0050】
次に本発明の実施例を詳しく説明する。
<実施例1〜4>
図2に示すように、加水分解部11として縦型反応装置を、焙焼・還元部12としてロータリーキルン型反応装置をそれぞれ使用した反応装置10を用い、次の表1に示すモル比、反応温度となるように、六フッ化ウラン、水蒸気及びアンモニアガス又は炭酸ガスを加水分解部11内に供給してフッ化ウラニルアンモニウムを生成させた。
【0051】
次に、生成したフッ化ウラニルアンモニウムを焙焼・還元部12へと搬送し、焙焼・還元部12内を加湿水素雰囲気とし、650℃に加熱することにより、フッ化ウラニルアンモニウムを水素と反応させて二酸化ウラン粉末を生成させた。得られた二酸化ウラン粉末について、嵩密度、安息角、比表面積及び平均粒径をそれぞれ求めた。また、実施例3の二酸化ウラン粉末をSEMにより測定した。
【0052】
次に、二酸化ウラン粉末を3t/cm2の圧力で成形してペレット状の二酸化ウラン成形体を得た。続いて、成形体を加湿水素雰囲気下、1750℃の加熱温度、4時間の加熱保持時間で焼結することにより、二酸化ウラン焼結ペレットを得た。得られた二酸化ウラン焼結ペレットについて、焼結密度及び結晶粒径をそれぞれ求めた。
【0053】
得られた二酸化ウラン粉末の嵩密度、安息角、比表面積及び平均粒径の測定結果、二酸化ウラン焼結ペレットの焼結密度及び結晶粒径の測定結果を表1及び表2にそれぞれ示す。なお、表2では、従来法の代表例として湿式法はADU法、乾式法はIDR法の主なデータを示した。また、実施例3で得られた二酸化ウラン粉末のSEM画像を図4に示す。また、フッ化ウラニルを経由して得られた二酸化ウラン粉末のSEM画像を図5に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1より明らかなように、六フッ化ウランに対する水蒸気、アンモニアガスのモル比が大きいほど、嵩密度が小さい、安息角が小さい、比表面積が高く、平均粒径が小さい二酸化ウラン粉末が得られることが判った。また、二酸化ウラン焼結ペレットでは、二酸化ウラン粉末の製造時の六フッ化ウランに対する水蒸気、アンモニアガスのモル比が大きいほど、焼結密度が高く、結晶粒径が大きくなる傾向が見られた。
【0057】
表2より明らかなように、従来の代表的な方法で得られた二酸化ウラン粉末と比較すると、実施例1〜4の二酸化ウラン粉末は、比表面積が高く、活性度が高いことを裏付ける結果が得られていた。また、従来の代表的な方法で得られたペレットと比較すると、実施例1〜4の二酸化ウラン焼結ペレットは、焼結密度が高く、かつ結晶粒径が大きいことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、国内外の核燃料サイクルにおいて、原子力発電所の原子燃料となる二酸化ウランペレットの原料となる二酸化ウラン粉末の製造に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の二酸化ウラン焼結ペレットの製造方法を示す工程図。
【図2】加水分解部に縦型反応装置を用いた反応装置を示す図。
【図3】加水分解部にロータリキルン型反応装置を用いた反応装置を示す図。
【図4】本発明の製造方法により得られた二酸化ウラン粉末のSEM画像を示す図。
【図5】フッ化ウラニルを経由して得られた二酸化ウラン粉末のSEM画像を示す図。
【図6】ADU法を用いた二酸化ウラン焼結ペレットの製造方法を示す工程図。
【図7】IDR法を用いた二酸化ウラン焼結ペレットの製造方法を示す工程図。
【符号の説明】
【0060】
10 反応装置
11 加水分解部
12 焙焼・還元部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式法を用いた再転換により、六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を製造する方法において、
前記六フッ化ウランに水蒸気及びアンモニアガスを接触させ、気相反応を生じさせることにより、フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程と、
前記生成させたフッ化ウラニルアンモニウムを焙焼・還元処理して二酸化ウラン粉末を得る工程とを含み、
前記フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程における前記六フッ化ウラン、前記水蒸気及び前記アンモニアガスの接触割合がモル比で1:3〜12:0.5〜6であり、前記気相反応を150〜350℃の加熱雰囲気下で行う
ことを特徴とする二酸化ウラン粉末の製造方法。
【請求項2】
フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程において、六フッ化ウランに水蒸気及びアンモニアガスを接触させる際に、炭酸ガスを更に加えて、気相反応を生じさせ、
前記フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる工程における前記六フッ化ウラン、前記水蒸気、前記アンモニアガス及び前記炭酸ガスの接触割合がモル比で1:3〜12:0.5〜6:0.5〜21の割合であり、前記気相反応を150〜350℃の加熱雰囲気下で行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
焙焼・還元処理が加湿水素雰囲気下、550〜1000℃の加熱温度で行われる請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
フッ化ウラニルアンモニウムを生成させる反応装置として、ロータリキルン型反応装置、スクリュー型反応装置又は縦型反応装置を用いる請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法により得られた二酸化ウラン粉末を2〜6t/cm2の圧力で成形してペレット状の二酸化ウラン成形体を得る工程と、
前記成形体を加湿水素雰囲気下、1400〜1800℃の加熱温度、2〜6時間の加熱保持時間で焼結する工程と
を含むことを特徴とする二酸化ウラン焼結ペレットの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−74641(P2008−74641A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253037(P2006−253037)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000176796)三菱原子燃料株式会社 (11)
【Fターム(参考)】