説明

二酸化塩素関連の腐食を軽減する方法

産業設備(例えば、パイプ、洗濯機及び他の金属製の、例えばステンレス鋼の表面)又は産業設備と接触しているプロセス水を、1又は複数のハロペルオキシダーゼ、好ましくはクロロペルオキシダーゼで、二酸化塩素関連の腐食を軽減するのに有効な量で処理することで、産業設備の二酸化塩素関連の腐食を阻害するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロペルオキシダーゼを用いて二酸化塩素関連の腐食を軽減するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業における腐食の直接的な費用は、2200億ドルと推定されている(Hays, G. 11th International Symposium on Corrosion in the Pulp and Paper Industry, June 7-11, Charleston, SC, 2004)。例えば、パーツ及び装置の腐食は、紙パルプの製造工程の間に多くの攻撃的な化学物質を使用することから、紙パルプ産業が直面している主要な問題である。使用するこれらの化学物質の中でも、二酸化塩素は最も強い酸化還元能を有しており、産業界で使用される最も腐食性のある化学物質の1つである。
【0003】
多くの紙パルプ工場が、水酸化ナトリウム、二酸化硫黄又は他の還元剤を使用して紙パルプのプロセス水から残留二酸化塩素を除去することで、二酸化塩素関連の腐食を軽減させている。しかしながら、水酸化ナトリウムは、高濃度で使用しなければ有効ではなく、この高いアルカリ度は、重大な装置及びエネルギーのコスト、並びに他の有害作用、例えば炭酸カルシウムスケールの発生、をもたらすことがある。二酸化硫黄は極めて費用効果があるが、これは安全性の問題及び潜在的な腐食の問題をそれ自身に加える。更に、二酸化硫黄は排水に硫黄を加え、これが臭気問題を引き起こすことがある。
【0004】
当業界には、二酸化塩素関連の腐食を制御するための方法を改良する要求が存在している。
【0005】
本発明の要約
本発明は、二酸化塩素関連の腐食を阻害するための方法に関連する。本発明によれば、産業設備(例えば、パイプ、洗濯機及び他の金属製の、例えばステンレス鋼の表面)又は産業設備と接触しているプロセス水を、1又は複数のハロペルオキシダーゼ、好ましくはクロロペルオキシダーゼで、二酸化塩素関連の腐食を軽減するのに有効な量で処理することで、産業設備の二酸化塩素関連の腐食を阻害することができる。1つの態様において、本発明は、二酸化塩素処理後の産業設備又はプロセス水を、1又は複数のハロペルオキシダーゼ、好ましくはクロロペルオキシダーゼで、残留している二酸化塩素を不活性化するのに有効な量で処理することを包含する。
【0006】
好ましい態様において、前記産業プロセスは紙パルププロセスである。好ましくは、ハロペルオキシダーゼ処理は、紙パルププロセスにおける二酸化塩素処理後、例えば二酸化塩素による漂白段階後に、残留に参加塩素を除去するために行われる。
【0007】
本発明の詳細な説明
二酸化塩素は殺藻剤、殺真菌剤、殺菌剤、脱臭剤、漂白剤及び防腐剤として周知である。二酸化塩素は、強力な酸化剤であり、そして漂白剤及び/又は殺菌剤として幅広く使用されている。二酸化塩素は、紙パルプ及び水処理業界において一般的に使用されている。二酸化塩素は更に、農産物及び一部の医学的用途においてかなり少ない量で使用されている。二酸化塩素処理を使用する他の産業プロセスには、食品飲料生産工場及び製菓(例えば、チューインガム)工場が含まれる。
【0008】
好ましい態様において、本発明は、紙パルプ工場における二酸化塩素関連の腐食を阻害するために適用される。通常、紙パルプ工場は、少なくとも1つの二酸化塩素処理プロセス、例えば二酸化塩素漂白プロセス段階を含む。
【0009】
二酸化塩素関連の腐食に曝される産業設備又はプロセス水は、二酸化塩素関連の腐食を阻害又は予防するためにハロペルオキシダーゼで処理されうる。本明細書で使用する場合、産業プロセスストリームとは、産業設備(例えば、パイプ、洗濯機等)又はプロセス水を指す。二酸化塩素関連の腐食に曝される産業装置には、二酸化塩素と接触し、そして二酸化塩素により腐食されうる任意の金属製表面(例えば、ステンレス鋼)を指す。二酸化塩素により通常腐食されうる産業設備の例には、パイプ、洗濯機、導管及び接続金具が含まれる。
【0010】
ハロペルオキシダーゼは、好ましくは、二酸化塩素処理段階直後に適用され、例えば、二酸化塩素処理が完了した後二酸化塩素含有プロセス水にハロペルオキシダーゼを適用することによる。更に好ましくは、ハロペルオキシダーゼは、腐食に曝される産業設備と接触しているプロセス水に適用される。
【0011】
ハロペルオキシダーゼは、塩化物ペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.10)、臭化物ペルオキシダーゼ、及びヨウ化物ペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.8)から成る群から選択される酵素を意味する。ハロペルオキシダーゼの例には、バナジウムハロペルオキシダーゼが含まれ、これはWO95/27046において開示されている。ハロペルオキシダーゼは、種々の生物:哺乳類、海生動物、植物、藻類、地衣類、真菌類及び細菌類から単離されている(Biochimica et Biophysica Acta 1161, 1993, pp. 249-256を参照のこと)。ハロペルオキシダーゼは、実際にはハロゲン化化合物の形成に重要な酵素であると一般的に認められているが、他の酵素も包含しうる。
【0012】
ハロペルオキシダーゼは、多数の異なる真菌、特に、黒色線菌綱(dematiaceous hyphomycetes)、例えば、カルダリオミセス(Caldariomyces)、例えばC.フマゴ、アルテルナリア(Alternaria)、カルバラリア(Curvularia)、例えばC.ベルクロサ(C. verruculos)及びC.イナギュアリス(C. inaegualis)、ドレクスレラ(Drechslera)、ウロクラジウム(Ulocladium)及びボツリチス(Botrytis)から単離されている(米国特許第4,937,192号を参照のこと)。ハロペルオキシダーゼはまた、細菌、例えばシュードモナス(Pseudomonas)、例えばP.ピロシニア(P. pyrrocinia)(The Journal of Biological Chemistry 263, 1988, pp. 13725-13732を参照のこと)から、そしてストレプトミセス(Streptomyces)、例えばS.アウレオファシエンス(S. aureofaciens)(Structural Biology 1 , 1994, pp. 532-537を参照のこと)から単離されている。
【0013】
本発明によると、ハロペルオキシダーゼは、カルバラリア、特にC.ベルクロサ、例えばC.ベルクロサCBS 147.63又はC.ベルクロサCBS 444.70由来のハロペルオキシダーゼを含む。カルバラリア・ハロペルオキシダーゼ及びその組換え生産は、WO97/04102に記載されている。臭化物ペルオキシダーゼは、藻類から単離されている(米国特許第4,937,192号を参照のこと)。ハロペルオキシダーゼはまた、米国特許第6,372,465号に記載されている (Novozymes A/S)。
【0014】
好ましい態様において、ハロペルオキシダーゼは、クロロペルオキシダーゼ(EC 1.11.1.10)である。クロロペルオキシダーゼは当業界で知られており、そしてストレプトミセス・アウレオファシエンス、ストレプトミセス・リビダンス(lividans)、シュードモナス・フルオレセンス(fluorescens)、カルダリオミセス・フマゴ、カルバラリア・イナエクアリス(inaequalis)、及びコラリナ・オフィシナリス(Corallina officinalis)から得ることができる。好ましいクロロペルオキシダーゼは、カルダリオミセス・フマゴ由来のクロロペルオキシダーゼである(SIGMA, C-0278として市販されている)。
【0015】
ハロペルオキシダーゼの濃度は、所望の塩化物ペルオキシダーゼ還元を達成するために変更することができる。本発明によると、ハロペルオキシダーゼは、通常ClO21g当たり0.0001〜100gのタンパク質の濃度、好ましくは通常ClO21g当たり0.001〜10gの酵素タンパク質の濃度、更に好ましくは、通常ClO21g当たり0.01〜1gの酵素タンパク質の濃度で添加することができる。ハロペルオキシダーゼは、二酸化塩素処理プロセス後に存在している残留二酸化塩素(二酸化塩素濃度)を還元するのに有効な量で添加される。
【0016】
ハロペルオキシダーゼ処理は、任意の適切な温度及びpH(例えば、pH2〜10)で実施することができ、そしてこのような温度及びpHは所望の実施条件に基づいて選択される。当該温度及びpHは、ハロペルオキシダーゼが適切な活性を有するように適切なものであるべきである。
【0017】
処理時間は、プロセス条件に依存して変化する。好ましくは、当該処理は、少なくとも1分、更に好ましくは少なくとも30分、そしてより更に好ましくは少なくとも1時間であるべきである。
【実施例】
【0018】
実施例1:二酸化塩素分解
0.4mMのClO2を5mL、複数の試験管内に据えた。H2SO4を添加することでpHを2.5に調節した。カルダリオミセス・フマゴ由来のクロロペルオキシダーゼ(SIGMA、C−0278)及びカルバラリア・ベルクロサ由来のハロペルオキシダーゼ(Novozymes)を各試験管に添加した。この溶液を混合し、そして周囲温度で1時間放置した。ClO2の濃度は、UV−Vis分光器を用い359nmで決定した。
【0019】
表1に示すとおり、5mgのクロロペルオキシダーゼは、5mLの0.4mM ClO2を完全に分解することができた。0.4mMは、27ppmのClO2に等しく、これは紙パルプ工場における漂白の間に通常見られる残留ClO2(0.02〜0.05ppm)よりも遥かに高い。カルバラリア・ベルクロサ由来のハロペルオキシダーゼも機能したが、クロロペルオキシダーゼよりも全く有効ではなかった。ラッカーゼや、ハロペルオキシダーゼ以外のものも試験したが、非常に大量であってもClO2を分解することはできなかった(結果は示さない)。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例2.金属クーポン腐食試験
ステンレス鋼で作った金属クーポン(Alabama Specialty Products, Inc. (ASPI))(316L)を2つのフラスコに据えた。200mLの0.4mM CIO2を各フラスコに添加した。ガラスビーズを2つのフラスコに据えた。H2SO4でpHを2.5に調節した。1つのフラスコを、コントロールとしてパラフィンでシールした。更に、ガラスビーズを含むフラスコもパラフィンでシールした。金属クーポンを含むその他のフラスコに対し、カルダリオミセス・フマゴ由来のクロロペルオキシダーゼ(SIGMA、C−0278)を添加し、そしてこのフラスコをシールした。フラスコを周囲温度で2週間保存した。金属クーポンを蒸留水ですすぎ、そして生成した腐食ピットの数を数えた。一晩乾燥後の減量を続いて決定した。
【0022】
表2に示すとおり、クロロペルオキシダーゼは金属クーポンの腐食を有効に防いだ。CIO2処理したコントロールの試料は、2週間の処理後に金属の表面上に重大なピットを示した。
【0023】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業プロセスにおける二酸化塩素関連の腐食を阻害する方法であって、二酸化塩素を含んで成る産業プロセスストリームを、二酸化塩素濃度を軽減するのに有効な量の1又は複数のハロペルオキシダーゼと接触させることを含んで成る方法。
【請求項2】
前記産業プロセスが紙パルププロセスである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触が二酸化塩素による漂白プロセス後に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記接触が二酸化塩素による消毒プロセス後に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1又は複数のハロペルオキシダーゼがクロロペルオキシダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記クロロペルオキシダーゼが、ストレプトミセス・アウレオファシエンス、ストレプトミセス・リビダンス、シュードモナス・フルオレセンス、カルダリオミセス・フマゴ、カルバラリア・イナエクアリス又はコラリナ・オフィシナリス、から得られる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記クロロペルオキシダーゼがカルダリオミセス・フマゴから得られる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
紙パルププロセスにおける二酸化塩素関連の腐食を阻害する方法であって、二酸化塩素を含んで成る産業プロセスストリームを、二酸化塩素濃度を軽減するのに有効な量の1又は複数のハロペルオキシダーゼと接触させることを含んで成る方法。
【請求項9】
前記接触が二酸化塩素による漂白プロセス後に実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1又は複数のハロペルオキシダーゼがクロロペルオキシダーゼである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記クロロペルオキシダーゼが、ストレプトミセス・アウレオファシエンス、ストレプトミセス・リビダンス、シュードモナス・フルオレセンス、カルダリオミセス・フマゴ、カルバラリア・イナエクアリス又はコラリナ・オフィシナリス、から得られる、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記クロロペルオキシダーゼがカルダリオミセス・フマゴから得られる、請求項8に記載の方法。

【公表番号】特表2008−537983(P2008−537983A)
【公表日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506594(P2008−506594)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/013429
【国際公開番号】WO2006/113221
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(500132074)ノボザイムス ノース アメリカ,インコーポレイティド (16)
【Fターム(参考)】