説明

二酸化炭素の分離方法および二酸化炭素吸着材

【課題】電力などのエネルギーコストをかけることなく、より簡便に二酸化炭素が分離・回収できるようにする。
【解決手段】イミノジエタノールを溶媒に溶解した溶液に、多孔質ガラスを浸漬して溶液を多孔質ガラスに含浸させ、多孔質ガラスの孔内にイミノジエタノールが担持した吸着材103aを作製し、吸着材103aを、CO2の回収対象となる雰囲気104の中に配置する。吸着材103aにおいては、この孔内に進入したCO2が、イミノジエタノールに吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気などの雰囲気中に含まれる二酸化炭素を雰囲気より分離する二酸化炭素の分離方法および二酸化炭素吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は地球温暖化の原因ガスのひとつであり、二酸化炭素の減少は長期的および火急の課題である。二酸化炭素の発生源は、化石燃料を燃焼させるあらゆる分野に及ぶ。大量の化石燃料を使用する火力発電所などの動力発生設備を対象に、ボイラの燃焼排ガスをアルカノールアミン水溶液と接触させ、燃焼排ガス中より二酸化炭素を吸収して分離し、回収する方法、および回収した二酸化炭素を大気へ放出することなく貯蔵する方法が精力的に研究されている。
【0003】
上述したアルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジグリコールアミンなどがある。また、これらのアルカノールアミンに吸収助剤としてピペリジンなどを用いることが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、燃焼ガスからの酸性ガス成分を分離回収する方法としてイオン液体からなる回収液を用いて回収する方法において、流通式装置を用いた連続プロセスが提案されている(非特許文献1参照)。
【0005】
また、効率的かつ低いエネルギー消費量で、ガス中の二酸化炭素を吸収および脱離して二酸化炭素を回収する方法において、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチル−2−アミノエタノールを用いる方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、火力発電所などの動力発生設備から排出される燃焼排ガス中の二酸化炭素を分離するための吸収液および除去装置および方法として、リン酸化合物を用いる方法が提案されている(特許文献3参照)。リン酸化合物は、水溶液の単位体積あたりの二酸化炭素吸収量および吸収速度が大きく、再生させるのに必要な熱エネルギーが少ない吸収液であり、水によく溶ける物質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3233809号公報
【特許文献2】特開2008−168227号公報
【特許文献3】特開2007−000702号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】http://unit.aist.go.jp/tohoku/newsletter/newsletter22/2007_11_no22/newsletter_05.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、二酸化炭素はガスであり、一方で、吸収剤は液体であるため、二酸化炭素を吸収させるためには、バブリング装置や、吸収剤を噴射する噴射装置の使用が必要となり、電力を用いる動力が必要となっている。二酸化炭素の除去対象のガスが、動力発生設備からの排ガス、工場プロセスからの排出ガスなどの場合、近設する設備から動力を得ることが容易である。また、排出源が商業的な大規模設備である場合、動力を用いることにより発生するコストを回収することも可能である。
【0010】
一方で、二酸化炭素の排出源は、上述したような大型の商用設備に限るものではなく、一般家庭や小規模設備などの小型の分散排出源がある。これらの分散排出源では、排出される二酸化炭素の濃度は多様であり、排出量も少ない。また、例えば家庭の場合などは、発生するコストを回収する手段がほとんどない。従って、これらの分散排出源からの二酸化炭素の分離・回収では、電力などのエネルギーを用いることなくより低コストで簡便に行えることが要求される。しかしながら、上述した技術ではこの要求に応えられないという問題がある。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、電力などのエネルギーコストをかけることなく、より簡便に二酸化炭素が分離・回収できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る二酸化炭素の分離方法は、イミノジエタノールを溶解した溶液を多孔質ガラスに含浸させて多孔質ガラスの孔内にイミノジエタノールが担持した吸着材を作製する第1ステップと、対象とする雰囲気に吸着材を配置して雰囲気中の二酸化炭素を孔内に担持されているイミノジエタノールに吸着させて雰囲気より二酸化炭素を分離する第2ステップとを少なくとも備える。
【0013】
上記二酸化炭素の分離方法において、溶液は、水溶液であり、イミノジエタノールの体積濃度が20〜40%の範囲とされていればよい。
【0014】
上記二酸化炭素の分離方法において、孔内に担持されているイミノジエタノールが二酸化炭素を吸収した後、吸着材を加熱してイミノジエタノールより二酸化炭素を放出させる第3ステップを備えるようにしてもよい。
【0015】
また、本発明に係る二酸化炭素吸着材は、多孔体ガラスと、多孔体ガラスの孔内に担持されたイミノジエタノールとを備える。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、イミノジエタノールを溶解した溶液を多孔質ガラスに含浸させて多孔質ガラスの孔内にイミノジエタノールが担持した吸着材を、対象とする雰囲気に配置するようにしたので、電力などのエネルギーコストをかけることなく、より簡便に二酸化炭素が分離・回収できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1Aは、本発明の実施の形態における二酸化炭素の分離方法を説明する説明図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施の形態における二酸化炭素の分離方法を説明する説明図である。
【図1C】図1Cは、本発明の実施の形態における二酸化炭素の分離方法を説明する説明図である。
【図1D】図1Dは、本発明の実施の形態における二酸化炭素の分離方法を説明する説明図である。
【図2】図2は、吸着材103aの構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、イミノジエタノールの濃度を10,20,30,40%とした水溶液を用いて作製した吸着材試料を用いた場合の、各々の吸着材試料のCO2減少の状態を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1A〜図1Dは、本発明の実施の形態における二酸化炭素の分離方法を説明する説明図である。まず、図1Aに示すように、イミノジエタノールを溶媒に溶解した溶液101を、容器102の中に作製する。例えば、体積濃度で20%のイミノジエタノール水溶液とすればよい。なお、イミノジエタノールは、大気圧下においては、融点が28℃程度、沸点が268℃程度の物質である。
【0019】
次に、図1Bに示すように、溶液101に、平均孔径4nmの多孔質ガラス103を浸漬し、溶液101を多孔質ガラス103に含浸させる。多孔質ガラス103は、例えば、平均孔径4nmであり、表面積に対して28%の気孔率となっているものであり、技研科学株式会社製より入手可能である。また、コーニング社製のバイコール#7930でもよい。また、多孔質ガラス103は、例えば、8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、多孔質ガラス103は、平均孔径が、溶液101や二酸化炭素(CO2)の分子より大きくなければならない。従って、平均孔径の下限は、溶液101やCO2分子が浸入可能な2nm程度である。なお、本実施の形態における多孔質ガラス103の比表面積は、1g当たり100m2以上である。
【0020】
上述した多孔質ガラス103を溶液101に、例えば4時間浸漬し、多孔質ガラス103の孔内に溶液101を含浸させた後、溶液101が含浸した多孔質ガラス103を風乾し、図1Cに示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥する。これにより、多孔質ガラス103の孔内にイミノジエタノールが担持した吸着材(二酸化炭素吸着材)103aが作製できる(第1ステップ)。ここで、イミノジエタノールは、粘性があるため、所定の範囲の濃度の溶液101として粘性を低下させることで、多孔質ガラス103に含浸させることが可能となる。また、上述したように乾燥処理をすることで、含浸した溶液101中の溶媒が乾燥して減少し、多孔質ガラス103(吸着材103a)の孔内においては、イミノジエタノールの濃度が上昇した状態となる。
【0021】
次に、図1Dに示すように、CO2の回収対象となる雰囲気104の中に、吸着材103aを配置する。上述したように、孔内にイミノジエタノールが担持されている多孔質ガラスから構成された吸着材103aによれば、孔内に進入したCO2が、イミノジエタノールに吸収される。従って、雰囲気104中のCO2が、吸着材103aにより吸収されて雰囲気より分離される(第2ステップ)。このように、本実施の形態によれば、動力を用いることなく、電力などのエネルギーコストをかけることなく、より簡便にCO2が回収できるようになる。
【0022】
なお、吸着材103aに吸収されたCO2は、吸着材103aを加熱することで、吸着材103aより放出させることができる(第3ステップ)。CO2を吸収したイミノジエタノールは、50℃程度に加熱することで、CO2を放出させることができる。このように、対象の雰囲気のCO2を吸着材103aに吸着させ、この後、吸着材103aを加熱して吸着したCO2を放出させれば、対象の雰囲気より、CO2を分離して回収することができる。
【0023】
ここで、吸着材103aについて説明する。まず、吸着材103aを構成する多孔質ガラス103は、図2に示すように、複数の細孔132を備え、また、細孔132は、表面の開口部131から内部にまで連結した貫通細孔の構造となっている。このような構造となっている多孔質ガラス103に溶液101を含浸させると、溶液101に溶解していたイミノジエタノールが細孔132に導入され、細孔132にイミノジエタノール134が担持されているものとなる。なお、担持とは、イミノジエタノール134が、化学的,物理的,または電気的に、細孔132の内壁と結合している状態を示し、例えば、細孔132内の壁面がイミノジエタノール134で被覆され、および/または、細孔132内の側壁にイミノジエタノール134が被着したような状態を示す。
【0024】
次に、溶液101をイミノジエタノールの水溶液とした場合の、イミノジエタノールの濃度について説明する。
【0025】
まず、イミノジエタノールの濃度を体積分率で10%、20%、30%、および40%とした試料水溶液(4種類)を各々作製する。ここで、イミノジエタノール水溶液の体積濃度が40%を超えると、乾燥までに時間がかかり実用的でないこと、また乾燥が不十分であると、イミノジエタノールが多孔質ガラスから漏れだして周りを汚染し、また、特性が変わるなどのことが発生するので、上記水溶液の体積濃度の上限は40%とした。
【0026】
次に、平均孔径4μm,8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズの多孔質ガラスを4個用意する。次に、用意した多孔質ガラスを、各試料水溶液に4時間浸漬し、この後、窒素気流中で24時間乾燥させ、4種類の吸着材試料を作製する。
【0027】
次に、ガスセルを4個用意し、上述した4種類の吸着材試料を、各々個別のガスセル内に収容する。なお、各ガスセルの内部には、室内環境と同じ空気が収容され、CO2の初期濃度は500ppmである。また、各ガスセルの内部温度は20℃、湿度は50%である。これは、一般的な室内環境と同等である。
【0028】
次に、上述した各ガスセル内のCO2濃度を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により測定する。FT−IRによれば、ガスセル内のCO2に起因する吸収の吸光度の変化が測定できる。また、測定においては、各ガスセルに各吸着材試料を配置してからの時間経過(180分)に対する上記吸光度の変化を測定した。この実験の結果、各吸着材試料の使用に対する各ガスセル内のCO2の濃度は、図3に示すように変化(減少)した。
【0029】
図3において、測定を開始してから最初の3分間の急激な減少は、FT−IR内におけるガスセルの外部にあった空気中のCO2が窒素に置換されることが原因で起こっている。水溶液濃度10%では、CO2の吸着によるガスセル内の吸光度の減少はほとんど測定されていないが、20%、30%、40%の水溶液から作製した吸着材試料では、CO2の吸着によるガスセル内の吸光度の減少が計測された。また、水溶液20%の条件では、60分内に吸着平衡が起こり、吸光度の減少は60分以降は測定されなかった。
【0030】
前述したように、一般家庭などの分散排出源からのCO2の回収には、電力などのエネルギーを用いることなくより低コストで行えることが要求される。また、CO2は、自然発生により大気中にも存在し、大気中のCO2を電力などのコストをかけることなく回収する技術が存在すれば、利用価値は高いものと考えられる。
【0031】
本発明は、これらの要求に対応すべく、電力を用いる動力を使用せずにCO2を吸収する吸収材を用いたCO2回収方法を鋭意検討した結果、イミノジエタノールの溶液を多孔質の孔中に含浸させることで、動力を用いることなく大気中のCO2が回収可能であることを見出したことによりなされたものである。
【0032】
イミノジエタノールは、沸点268℃に対し、吸収したCO2の放出温度が50℃付近と非常に低く、CO2を分離して回収するという観点から、取り扱いが容易な物質である。しかしながら、イミノジエタノールは、融点が28℃であり、一般的な環境温度において、冬期などの低温状態では固化するため、単独ではCO2の吸収剤として利用しにくいものとなっている。これに対し、本発明によれば、多孔質ガラスの孔内にイミノジエタノールを担持させるようにしたので、上述したような固化する低温状態であっても、雰囲気の気体との接触面積が大きい状態とすることが可能であり、効率的にCO2の吸収が行えるものと考えられる。
【0033】
また、イミノジエタノールは、一般にCO2吸着に用いられているアミンである2−アミノエタノールより蒸気圧が小さい。このため、多孔質ガラス内に担持させた状態において、蒸発による損失が小さくでき、より長期にわたり、吸着と分離とのサイクルをより多く繰り返して使用することが可能になるものと考えられる。
【0034】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、上述では、イミノジエタノールを水に溶解した水溶液を用いるようにしたが、これに限るものではない。溶液の溶媒としては、エタノールなど、イミノジエタノールが溶解して粘性を低下させることが可能なものであればよい。また、上述では、窒素ガス気流中で乾燥するようにしたが、これに限るものではない。例えば、窒素ガスに限らずアルゴンなどの不活性なガス中で乾燥すればよい。
【符号の説明】
【0035】
101…溶液、102…容器、103…多孔質ガラス、103a…吸着材(二酸化炭素吸着材)、104…雰囲気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミノジエタノールを溶解した溶液を多孔質ガラスに含浸させて前記多孔質ガラスの孔内にイミノジエタノールが担持した吸着材を作製する第1ステップと、
対象とする雰囲気に前記吸着材を配置して前記雰囲気中の二酸化炭素を前記孔内に担持されている前記イミノジエタノールに吸着させて前記雰囲気より二酸化炭素を分離する第2ステップと
を少なくとも備えることを特徴とする二酸化炭素の分離方法。
【請求項2】
請求項1記載の二酸化炭素の分離方法において、
前記溶液は、水溶液であり、イミノジエタノールの体積濃度が20〜40%の範囲とされていることを特徴とする二酸化炭素の分離方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の二酸化炭素の分離方法において、
前記孔内に担持されている前記イミノジエタノールが二酸化炭素を吸収した後、前記吸着材を加熱して前記イミノジエタノールより二酸化炭素を放出させる第3ステップを備えることを特徴とする二酸化炭素の分離方法。
【請求項4】
透明な多孔体ガラスと、
前記多孔体ガラスの孔内に担持されたイミノジエタノールと
を備えることを特徴とする二酸化炭素吸着材。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−250170(P2012−250170A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124285(P2011−124285)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】