説明

二重床構造

【課題】二重床構造の鉛直方向の振動減衰に使用される減衰手段のフェールセーフ化及びメンテナンスフリー化を図る。
【解決手段】床スラブの上方に所定の間隔をおいて水平に配置される水平構面2と、前記床スラブの上部に設置されて前記水平構面2を支持する鉛直構面7と、前記水平構面2と前記鉛直構面7との間に介装されて、前記水平構面2の鉛直方向の振動を減衰する減衰手段10と、を有する。前記減衰手段10の取り付け部15の取り付け面15dは、前記水平構面2及び前記鉛直構面7のうちの少なくとも一方の構面7の取り付け部9cの取り付け面9dに対して水平方向に摺動可能に取り付けられる。前記構面7の取り付け部9c及び前記減衰手段10の取り付け部15に対して、それぞれ前記取り付け面15d,9dの逆側の面15f,9fで当接して前記取り付け部15,9同士を挟み込む挟み込み部材50を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体工場等で使用される二重床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体工場等の精密生産工場では、日常の微振動に対して厳しい条件が課せられる。このような工場に対し、コストや工期などの観点から採用されることの多い鉄骨構造においては、半導体生産設備自体が発する振動や、製造に従事する作業者の歩行などにより生じる振動が原因となって、製造に支障をきたすことがある。特に鉛直方向の振動が問題となることが多いことから、この鉛直振動を低減させるべく様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、二重床構造1が提案されている(例えば図2を参照)。すなわち、建物躯体の床スラブ25上に柱8やブレース9等により鉛直構面7を構築し、当該鉛直構面7に、大梁4を介して小梁5を水平に架設させるとともに、これら大梁4及び小梁5に床パネル6を設置して水平構面2を構築する。そして、鉛直構面7をなす前記ブレース9と水平構面2をなす前記大梁4との間に、減衰手段10として粘弾性ダンパーを介装し、これにより、水平構面2の鉛直方向の微振動を効果的に低減可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−270604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、この粘弾性ダンパー10は、ミクロン〜ミリオーダーの微振動を対象としている。このため、粘弾性ダンパー10の鉛直構面7及び水平構面2への取り付けに際しては、それらの取り付け面に対する高い密着度が要求され、例えば締結ボルトにより締結固定される。また、同微振動を対象としているので、粘弾性ダンパー10の限界変形量は、大きくても精々数cm程度であり、これ以上の水平変位が入力されると破損する。
これに対して、例えば大地震時には、水平方向に数cmを超える振幅の地震動が想定され、この場合、粘弾性ダンパー10は破損の虞がある。
【0006】
そこで、粘弾性ダンパー10に対して、水平方向のフェールセーフ構造の適用が検討されている。このフェールセーフ構造としては、粘弾性ダンパー10を、水平構面7及び鉛直構面2のうちの少なくとも一方の構面7(2)に対して水平方向に摺動可能に取り付け、これにより、地震時に生じる水平力の粘弾性ダンパー10への入力を防ぐことが考えられ、更に、その場合には、締結ボルトに代えて取り付け面同士の密着性を確保する方法として、前記構面7(2)の取り付け部と粘弾性ダンパー10の取り付け部とをクランプ等で挟み込むことが考えられる。
【0007】
しかしながら、前記構面7(2)に対して粘弾性ダンパー10が水平方向に摺動すると、この摺動に伴って粘弾性ダンパー10の取り付け部からクランプが脱落したり、移動時にクランプが競って変形したりする虞がある。そして、脱落又は変形した場合には、クランプの復旧作業が必要となり、地震後、直ぐに製造設備を稼働できず半導体等の製造に支障を来す。
【0008】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、粘弾性ダンパー等の減衰手段によって鉛直方向の振動を効率良く減衰可能な二重床構造において、地震による減衰手段の破損を未然に防ぐフェールセーフ化、及び、地震後の減衰手段に係る一切の復旧作業から解放するメンテナンスフリー化を達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
建物躯体の床スラブの上部に設置される二重床構造であって、
前記床スラブの上方に所定の間隔をおいて水平に配置される水平構面と、
前記床スラブの上部に設置されて前記水平構面を支持する鉛直構面と、
前記水平構面と前記鉛直構面との間に介装されて、前記水平構面の鉛直方向の振動を減衰する減衰手段と、を有し、
前記減衰手段の取り付け部の取り付け面は、前記水平構面及び前記鉛直構面のうちの少なくとも一方の構面の取り付け部の取り付け面に対して水平方向に摺動可能に取り付けられ、
前記構面の取り付け部及び前記減衰手段の取り付け部に対して、それぞれ前記取り付け面の逆側の面で当接して前記取り付け部同士を挟み込む挟み込み部材を有し、
前記挟み込み部材と前記構面の取り付け部との間の水平方向の摩擦力に係る摩擦係数と、前記挟み込み部材と前記減衰手段の取り付け部との間の水平方向の摩擦力に係る摩擦係数とは相違していることを特徴とする。
【0010】
上記請求項1に示す発明によれば、地震時に二重床構造に対して水平力が作用した際には、減衰手段は少なくとも一方の構面に対して摺動し、これにより、減衰手段への水平力の入力が大幅に軽減される。その結果、減衰手段の破損は有効に防止される。
【0011】
また、この摺動時には、挟み込み部材は、上述の摩擦係数差に基づいて、前記構面及び前記減衰手段のうちで摩擦係数の大きい方に付いて行き、摩擦係数の小さい方に対しては速やかに滑動する。つまり、挟み込み部材は挟み込んだ姿勢を保ったまま、前記構面と前記減衰手段との摺動に応じて速やかに滑動する。よって、取り付け部からの挟み込み部材の脱落又は挟み込み部材の変形を有効に防止できて、地震後の挟み込み部材の再設置作業を無くすことができる。
【0012】
以上から、地震による減衰手段の破損を未然に防ぐフェールセーフ化、及び、地震後の減衰手段に係る一切の復旧作業から解放されるメンテナンスフリー化が達成される。
【0013】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の二重床構造であって、
前記減衰手段の取り付け部よりも前記構面の取り付け部の方が水平方向に広く、
前記挟み込み部材と前記構面の取り付け部との間の水平方向の摩擦力に係る摩擦係数よりも、前記挟み込み部材と前記減衰手段の取り付け部との間の水平方向の摩擦力に係る摩擦係数の方が大きいのが望ましい。
【0014】
上記請求項2に示す発明によれば、前記減衰部材が前記構面に対して水平方向に摺動する際には、挟み込み部材は、上述の摩擦係数差に基づいて、摩擦係数の大きい減衰手段の方に付いて行き、摩擦係数の小さい前記構面に対しては速やかに滑動する。よって、減衰手段の取り付け部からの挟み込み部材の脱落を有効に防ぐことができる。
【0015】
また、前記構面の取り付け部の方が、前記減衰手段の取り付け部よりも水平方向に広いので、前記構面の取り付け部に対して挟み込み部材が滑動しても前記構面の取り付け部からの脱落は起き難い。
【0016】
以上から、前記減衰部材の取り付け部及び前記構面の取り付け部からの挟み込み部材の脱落を確実に防止可能となる。
【0017】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の二重床構造であって、
前記挟み込み部材は、コ字状又はC字状部材の両端部に、互いの間に間隔をおいて対向する一対の挟み込み部を有するとともに、前記一対の挟み込み部の少なくとも一方が他方の挟み込み部に対して進退可能に設けられたクランプであるのが望ましい。
【0018】
上記請求項3に示す発明によれば、挟み込み部材が、コ字状又はC字状のクランプであるので、減衰手段が既に前記構面に締結固定されている場合でも、当該減衰手段を、メンテナンスフリーでフェールセーフ機能を具備した減衰手段へと容易に変更可能となる。
【0019】
例えば、前記構面の取り付け部と減衰手段の取り付け部とを締結固定する既設のボルトを取り外し、それに代えて、クランプの一対の挟み込み部の間の間隔を用いて、当該クランプを前記取り付け部の側方から差し込めば、前記取り付け部を挟み込み可能な位置にクランプを容易に配置することができる。つまり、クランプたる挟み込み部材を問題なく前記取り付け部に設置可能であり、その結果、既設の減衰手段についても、メンテナンスフリーでフェールセーフ機能を具備した減衰手段へと難なく変更することができる。
【0020】
請求項4に示す発明は、請求項3に記載の二重床構造であって、
前記挟み込み部材が具備する一方の挟み込み部と前記構面の取り付け部との間、及び、前記挟み込み部材が具備する他方の挟み込み部と前記減衰手段の取り付け部との間には、前記取り付け部の既設のボルト孔を塞ぐサイズのプレート状部材が介装されているのが望ましい。
【0021】
上記請求項4に示す発明によれば、減衰手段が既に前記構面に締結固定されている場合でも、当該減衰手段を、メンテナンスフリーでフェールセーフ機能を具備した減衰手段へと容易に変更可能となる。
【0022】
例えば、前記構面に減衰手段を締結固定する既設のボルトを取り外した後には、前記構面の取り付け部及び前記減衰手段の取り付け部には既設のボルト孔が残存し、当該ボルト孔に挟み込み部が落ち込む等して、挟み込み部材の設置を妨げることになるが、上述の構成によれば、前記プレート状部材により、既設のボルト孔は塞がれる。よって、挟み込み部の前記ボルト孔への落ち込みを防いで、当該挟み込み部材を問題なく前記取り付け部に設置することができ、その結果、既設の減衰手段についても、メンテナンスフリーでフェールセーフ機能を具備した減衰手段へと難なく変更可能となる。
【0023】
請求項5に示す発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の二重床構造であって、
前記水平構面及び前記鉛直構面のうちで、前記一方の構面ではない方の構面には、前記減衰手段が、締結ボルトによって水平方向に摺動不能に締結固定されているのが望ましい。
上記請求項5に示す発明によれば、水平構面及び鉛直構面のうちのどちらかの構面に対しては、減衰手段は水平方向に摺動不能に締結固定されているので、当該構面の取り付け部には挟み込み部材は適用されず、もって、挟み込み部材の脱落又は変形は起こり得ない。よって、挟み込み部材の再設置作業の発生確率を低減させることができる。
【0024】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の二重床構造であって、
前記鉛直構面は、自重を除く長期荷重及び短期荷重を設計上負担しない補助部材を備え、
前記補助部材と前記水平構面との間に前記減衰手段を介装させるのが望ましい。
上記請求項6に示す発明によれば、水平構面に生じる鉛直方向の振動を減衰手段によって有効に減衰可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、二重床構造に使用される減衰手段のフェールセーフ化及びメンテナンスフリー化が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】二重床構造1の全体を示す概略平面図である。
【図2】図1の一部を示す概略斜視図である。
【図3】図3Aは減衰手段10の側面図であり、図3Bは、図3A中のB−B矢視図である。
【図4】二重床構造1を側方から見た模式図である。
【図5】図5Aは、第1実施形態に係る粘弾性ダンパー10の取り付け構造の側面図であり、図5Bは、図5A中のB−B断面図である。
【図6】図6Aは、望ましい取り付け構造例の側面図であり、図6Bは、図6A中のB−B断面図である。
【図7】図7Aは、フェールセーフ機能の無い既設の粘弾性ダンパー10の側面図であり、図7Bは、図7A中のB−B断面図である。
【図8】図8Aは、第2実施形態に係る粘弾性ダンパー10の取り付け構造の側面図であり、図8Bは、図8A中のB−B断面図である。
【図9】二重床構造1のその他の例の斜視図である。
【図10】二重床構造1のその他の例の斜視図である。
【図11】二重床構造1のその他の例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
===第1実施形態===
<<<二重床構造1について>>>
図1及び図2は二重床構造1の説明図である。図1は二重床構造1の全体を示す概略平面図であり、図2は図1の一部を示す概略斜視図である。
【0028】
二重床構造1は、例えば精密生産工場のクリーンルーム等に適用される。すなわち、二重床構造1は、精密生産工場等の建物躯体の床スラブ25を下部床とするとともに、この床スラブ25の上に上部床21を配して構成される。そして、この上部床21の床面上には各種の精密機器や生産設備等が設置される一方、上部床21の床面と床スラブ25との間の空間SPについては、配線や配管、空調循環、機器搬入等に供される。
【0029】
上部床21は、床スラブ25の上方に所定の間隔をおいて水平に設置される水平構面2と、床スラブ25の上部に垂直に設置されて水平構面2を支持する鉛直構面7と、水平構面2と鉛直構面7との間に介装される減衰手段10と、を備えている。
【0030】
水平構面2は、大梁4と、小梁5と、床パネル6とを有する。大梁4は、H形鋼等の鋼材からなり、床スラブ25の上方に所定の間隔をおいて水平に縦横に設置され、これにより、床スラブ25の上方の部分を格子状に区画する。小梁5は、大梁4よりも小断面のH形鋼等の鋼材からなる。そして、互いに対向する大梁4,4同士の間に水平に架け渡され、前記格子状の開口を更に細かく区画する。床パネル6は、例えば矩形板であり、大梁4及び小梁5の上部に水平に載置固定される。なお、大梁4及び小梁5と床パネル6との間には、必要に応じて根太(図示せず)を介装させてもよい。
【0031】
鉛直構面7は、大梁4を支持するH型鋼等の柱8と、H型鋼等の補助部材9と、を有する。各柱8は、互いに交差する大梁4,4同士の交差部に対応する床スラブ25の部分に鉛直に立設されている。補助部材9は、例えば、水平方向に対称配置された一対の斜材9a,9aの間に水平材9bを介装してなる鋼材である。そして、補助部材9の水平材9bは、減衰手段10を介して大梁4の中間部に接続されているとともに、前記一対の斜材9a,9aの各端部は、それぞれ、その大梁4の両端部を支持する各柱8の下端部に接続されている。この補助部材9は、自重を除く長期荷重及び短期荷重を設計上負担しないものが好ましく、これにより、減衰手段10は、水平構面2の鉛直振動を効率的に減衰させるように設計される。
【0032】
なお、この例では、補助部材9の斜材9aの各端部は、溶接等により柱8の下端部に剛結合されているが、場合によっては、柱8の下端部に隣接する床スラブ25の部分にアンカーボルト等により剛結合されても良い。
【0033】
図3A及び図3Bに減衰手段10の説明図を示す。図3Aは側面図であり、図3Bは、図3A中のB−B矢視図である。
【0034】
減衰手段10は、粘弾性ダンパーである。粘弾性ダンパー10は、大梁4側に連結される上部材11と、補助部材9側に連結される下部材14と、これら上部材11と下部材14との間に介装される粘弾性体17とから構成され、上部材11と下部材14とが粘弾性体17を介して鉛直方向及び大梁4の長手方向に相対変位可能に構成されている。
【0035】
上部材11は、大梁4への取り付け部としての水平な取り付け板12(以下、上取り付け板12とも言う)と、この上取り付け板12の下面側に垂直に立設されるとともに、互いの間に所定の隙間をあけて配された複数枚の鉛直板13,13…(図示例では3枚)と、を有している。一方、下部材14の方も、補助部材9への取り付け部としての水平な取り付け板15(以下、下取り付け板15とも言う)と、この下取付け板15の上面側に垂直に立設されるとともに、前記上部材11の鉛直板13,13同士の間の隙間にそれぞれ一枚ずつ差し込まれる複数の鉛直板16,16…(図示例では2枚)と、を有している。そして、互いに対向する鉛直板16の板面と鉛直板13の板面との間の各隙間Sには、それぞれ、粘弾性体17がこれら板面と一体に設けられている。
【0036】
よって、例えば、水平構面2上に設置された各種生産設備の作動や同水平構面2上の作業者の歩行等により加振力が水平構面2に入力されて、水平構面2に鉛直方向の振動が生じた場合であっても、当該鉛直振動は、上記粘弾性ダンパー10に係る粘弾性体17のダンピング特性により有効に減衰される。つまり、水平構面2の固有振動数における振動振幅が増幅されるようなことはなく、鉛直方向の振動振幅の増幅(動剛性の低下)を抑制できる。その結果、水平構面2上の精密機器等が自身の鉛直振動により受け得る悪影響を軽減でき、それらの性能を充分に発揮させることができる。
【0037】
なお、上述の二重床構造1において粘弾性体17を層状にしてその厚みを薄くしているのは、微振動に対する減衰性能を高めるためである。すなわち、粘弾性体17の厚みを薄くすることにより、微小変位でも粘弾性体17に大きな剪断歪み(=粘弾性体の厚み方向に直交する方向の変形量/粘弾性体の厚み)を生じさせて、これにより、微振動下においても大きな減衰力を生じさせるためである。
【0038】
但し、粘弾性体17の厚みを薄くすると、上述したように小さな変位でも剪断歪みが大きくなる。逆に言えば、粘弾性体17の厚みを薄くすると、粘弾性体17の限界剪断歪みに対応する限界変位量は小さくなる。例えば、粘弾性体17の限界剪断歪みがα×100%であるとともに、微振動を有効に抑制可能な粘弾性体17の設計厚みがβmmという薄さの場合には、粘弾性体17の限界変位量は、精々数cm(=α×βmm)という小さな値になる。
【0039】
一方、二重床構造1には大地震に対する耐震健全性が要求される。そして、この大地震時には数cmを超える水平振幅の地震動が想定され、その際には、この水平振幅の地震動がほぼそのまま粘弾性ダンパー10に入力される虞がある。
【0040】
図4はその説明図であり、二重床構造1を側面視で示している。例えば、地震時には、図4に実線で示すように二重床構造1は全体的に水平方向に変形し、つまり水平構面2の大梁4は水平方向に大きく変位するが、補助部材9の方はあまり変形しない。よって、ここに、大梁4と補助部材9の水平材9bとの間に水平方向の変位量の差を生じ、この変位量の差が粘弾性ダンパー10に入力される。つまり、上述の数cmを超える水平振幅の地震動が、概ねそのままの大きさで粘弾性ダンパー10に入力される虞があり、その場合には、粘弾性体17の限界剪断歪みを超えてしまい、粘弾性ダンパー10が破損する。
【0041】
そこで、第1実施形態の二重床構造1では、粘弾性ダンパー10の取り付け構造に対して以下のような工夫をし、これにより、大地震に対しても粘弾性ダンパー10が破損しないようにフェールセーフ機能を持たせている。また、これに併せて、地震後に粘弾性ダンパー10に係る一切の復旧作業が不要なようにメンテナンスフリー化も図っている。
【0042】
<<<粘弾性ダンパー10の取り付け構造について>>>
図5A及び図5Bは、第1実施形態に係る粘弾性ダンパー10の取り付け構造の説明図である。図5Aは側面図であり、図5Bは、図5A中のB−B断面図である。
【0043】
粘弾性ダンパー10は、大梁4と、大梁4の直下において互いの長手方向を揃えつつ対向配置された前記補助部材9の水平材9bとの間に介挿されている。この例では、大梁4はH形鋼からなり、その一対のフランジ4a,4aを上下に位置させて配されている。また、補助部材9の水平材9bもH形鋼からなり、その一対のフランジ9c,9cを上下に位置させて配されている。よって、粘弾性ダンパー10の上取り付け板12は、大梁4の下フランジ4aの水平な下面4dを大梁4側の取り付け面として取り付けられる一方、粘弾性ダンパー10の下取り付け板15は、前記補助部材9の水平材9bの上フランジ9c(「一方の構面の取り付け部」に相当)の水平な上面9dを補助部材9側の取り付け面として取り付けられる。
【0044】
なお、この時、粘弾性ダンパー10の上取り付け板12の水平な取り付け面12dと大梁4の下フランジ4aの水平な取り付け面4dとは略全面に亘って密着される必要があり、他方、粘弾性ダンパー10の下取り付け板15の水平な取り付け面15dと前記水平材9bの上フランジ9cの水平な取り付け面9dとについても略全面に亘って密着される必要がある。これは、水平構面2の鉛直方向の微振動を、粘弾性ダンパー10を介して補助部材9に確実に伝達させて粘弾性ダンパー10により確実に減衰させるためである。つまり、水平構面2の鉛直方向の動剛性を高めるためである。
【0045】
ここで、前者の密着、つまり、大梁4の下フランジ4aの取り付け面4dと粘弾性ダンパー10の上取り付け板12の取り付け面12dとの密着については、例えば締結ボルト40が使用される。詳しくは、大梁4の下フランジ4aと粘弾性ダンパー10の上取り付け板12との両者を、上下方向に貫通させて締結ボルト40が設けられ、当該締結ボルト40に螺合するナット41の締結力により、下フランジ4aと上取り付け板12とは、互いの取り付け面4d,12dを重ね合わせた密着状態で鉛直方向及び水平方向に相対移動不能に固定されている。なお、この例では、締結ボルト40は、大梁4の長手方向に並んで複数本(ここでは4本)設けられて締結ボルト列をなしているとともに、当該締結ボルト列は、大梁4のH形鋼のウエブ4eを挟んで例えば2列設けられているが、何等この配列例には限らない。
【0046】
一方、後者の密着、つまり粘弾性ダンパー10の下取り付け板15の取り付け面15dと補助部材9の水平材9bの取り付け面9dとの密着については、クランプ50(「挟み込み部材」に相当)が使用される。クランプ50は、コ字状又はC字状部材を本体とし、その両端部50a,50aには、それぞれ、互いに対向する端部50aに向けて進退可能に挟み込み部としてのジャッキボルト51,51が螺合されている。よって、ジャッキボルト51,51同士の間に、粘弾性ダンパー10の下取り付け板15と水平材9bの上フランジ9cとの両者を位置させた状態において、ジャッキボルト51を螺合回転させることにより、これら下取り付け板15及び上フランジ9cの両者はジャッキボルト51,51に挟み込まれ、互いの取り付け面15d,9dにおいて重なり合って密着する。
【0047】
ここで、これら取り付け面9d,15d同士の間に生じる静止摩擦力Fは、ジャッキボルト51,51の挟み込み力の調整により、下式1を満足するように調整される。
静止摩擦力F<粘弾性ダンパーの破損想定荷重−クランプの静止摩擦力f …式1
【0048】
なお、上式1中の「破損想定荷重」とは、例えば粘弾性ダンパー10の粘弾性体17に限界剪断歪みが生じる大きさの荷重のことである。また、同式1中の「クランプの静止摩擦力f」とは、クランプ50と粘弾性ダンパー10との間の水平方向の静止摩擦力f1と、クランプ50と補助部材9との間の水平方向の静止摩擦力f2とのうちの小さい方の摩擦力のことである。詳しくは、図5A及び図5Bの例では、前者の静止摩擦力f1は、ジャッキボルト51の先端部と粘弾性ダンパー10の下取り付け板15の上面15fとの間の静止摩擦力であり、後者の静止摩擦力f2は、ジャッキボルト51の先端部と滑り材53との間の静止摩擦力又は滑り材53と上フランジ9cの下面9fとの間の静止摩擦力のうちの小さい方の摩擦力である。
【0049】
そして、上式1を満足するように前記取り付け面9d,15d同士の間の静止摩擦力Fを設定しておけば、仮に地震時に二重床構造1に対して大きな水平力が作用したとしても、粘弾性ダンパー10に破損想定荷重以上の力が作用するより以前に、前記取り付け面9d,15d同士の間での水平方向の摺動が開始され、これにより、粘弾性ダンパー10は補助部材9から縁切りされることになる。その結果、粘弾性ダンパー10への水平力の入力は抑制されて、その破損は有効に防止される。つまり、粘弾性ダンパー10に対してフェールセーフ機能が付与される。なお、この取り付け面9d,15d同士の間の摩擦係数を確実に低くするには、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂(例えばテフロン(米国デュポン社登録商標))等の低摩擦係数の滑り材(不図示)を取り付け面9d,15d同士の間に介装すると良い。
【0050】
このようなクランプ50は、補助部材9の水平材9bの長手方向(大梁4の長手方向と同方向)に並んで複数個(ここでは4個)設けられてクランプ列をなしているとともに、当該クランプ列は、水平材9bのH形鋼のウエブ9eを挟んで例えば2列設けられているが、何等この配列例に限るものではない。また、クランプ50の具体例としては、ブルマンC型(商品名:ブルマン株式会社製)等が挙げられる。
【0051】
ところで、上述のクランプ50は、一対のジャッキボルト51,51を介して粘弾性ダンパー10と補助部材9との両者に跨って取り付けられている。他方、上述の大きな水平力の作用時には、粘弾性ダンパー10と補助部材9とは縁切りされて水平方向に相対移動(摺動)する。よって、仮にクランプ50のジャッキボルト51が粘弾性ダンパー10と補助部材9との両者に対してしっかり固定されている場合には、上述の相対移動時に、クランプ50は、粘弾性ダンパー10及び補助部材9の両者から水平方向の引張力等を受けて、これによりクランプ50が捻れるなどの変形をしたり、競るなどして両者から脱落する虞がある。その結果、地震発生の都度、地震後にクランプ50交換等の再設置作業を余儀なくされ、不便なものとなる。
【0052】
そこで、当該クランプ50のメンテナンスフリー化を図るべく、クランプ50と粘弾性ダンパー10との間の水平方向の静止摩擦力に係る摩擦係数と、クランプ50と補助部材9との間の水平方向の静止摩擦力に係る摩擦係数とを相違させている。これにより、粘弾性ダンパー10と補助部材9との相対移動時には、クランプ50は、上述の摩擦係数差に基づいて粘弾性ダンパー10及び補助部材9のうちの一方に付いていき、他方に対しては速やかに滑動する。その結果、上述のようなクランプ50の変形や脱落は有効に防止される。ちなみに、直接的には摩擦力を相違させるべきところ、それに代えて摩擦係数を相違させるだけで良い理由は、それぞれの摩擦力の元となる各垂直抗力は、クランプ50の内力(軸力に類する力)に基づいていて互いに同値だからである。
【0053】
これら摩擦係数を互いに異ならせる具体的方法としては、目荒し等して粗面にすることや、上述のPTFEなどのフッ素樹脂等の低摩擦係数の滑り材を用いること等が挙げられるが、この図5A及び図5Bの例では、後者の方法を採用している。すなわち、図5Aに示すように、クランプ50の一方のジャッキボルト51の先端部と、この先端部から挟み込み力が付与されるべき補助部材9の水平材9bの上フランジ9cの下面9f(「取り付け面の逆側の面」に相当)との間には、上記の滑り材53が介装されているが、クランプ50のもう一方のジャッキボルト51の先端部と、この先端部から挟み込み力が付与されるべき粘弾性ダンパー10の下取り付け板15の上面15f(「取り付け面の逆側の面」に相当)との間には、上記の滑り材53が介装されていない。そして、これにより、クランプ50と粘弾性ダンパー10との間の摩擦係数の方が大きく設定され、結果、粘弾性ダンパー10と補助部材9との相対移動時には、クランプ50は挟み込み姿勢を維持しつつ粘弾性ダンパー10の方に確実に付いていく。
【0054】
ちなみに、粘弾性ダンパー10の方に付いていくようにした理由は、図5A及び図5Bの例では、粘弾性ダンパー10の下取り付け板15の上面15fの方が、補助部材9の上フランジ9cの下面9fよりも水平方向の全方位に亘り狭いからである。つまり、ジャッキボルト51が滑動した際に、粘弾性ダンパー10の下取り付け板15から脱落する確率の方が補助部材9の上フランジ9cよりも高いからである。
【0055】
ここで、望ましくは、図6A及び図6Bに示すように、粘弾性ダンパー10の下取り付け板15と、これに対向するジャッキボルト51の先端部との間、及び、滑り材53と、これに対向するもう一方のジャッキボルト51の先端部と滑り材53との間に、それぞれ、所定厚みの鋼板からなる受圧板55を介装すると良い。受圧板55はクランプ列毎に設けられ、クランプ列に属する全てのクランプ50に亘る長さに形成されている。そして、このような受圧板55を設ければ、クランプ列により生じる摩擦力分布を略均等にすることができる。
【0056】
また、上述の受圧板55を設ける構成によれば、既設の粘弾性ダンパー10に対して、後付けでメンテナンスフリー化且つフェールセーフ化を行う場合に、その改造工事を容易に行えるようになる。具体的に説明する。図7A及び図7Bは、フェールセーフ化改造前の既設の粘弾性ダンパー10の取り付け状態の説明図である。通常、既設の粘弾性ダンパー10の下取り付け板15と、補助部材9の水平材9bの上フランジ9cとは、締結ボルト44により締結固定されている。よって、工事の一作業として締結ボルト44を外すことになるが、そうすると、下取り付け板15及び上フランジ9cにはそれぞれボルト孔15h,9hが現れる。そして、前記クランプ50のジャッキボルト51のサイズによっては、これらボルト孔15h,9hの中にジャッキボルト51の先端部が落ち込んでしまい、クランプ50の設置を妨げる。
【0057】
この点につき、図6A及び図6Bに示すように、受圧板55を、ボルト孔15h,9hを覆って塞ぐサイズに形成しておくとともに、当該受圧板55を一方のジャッキボルト51の先端部と下取り付け板15との間、及び、もう一方のジャッキボルト51の先端部と滑り材53との間にそれぞれ介装すれば、受圧板55が、ジャッキボルト51の落ち込みを防ぐので、クランプ50の設置作業を問題なく行うことができる。つまり、後付けで粘弾性ダンパー10をメンテナンス化且つフェールセーフ化する際の施工性に優れたものとなる。
【0058】
ちなみに、上述のボルト孔15h,9hに係る問題は、特に、粘弾性ダンパー10の方に干渉物が付属していて、上述の既設の締結ボルト44の設置可能位置が制限されている場合に起こり易い。例えば、図7A及び図7Bの例では、粘弾性ダンパー10の部品たる複数枚の前記鉛直板16,16…(図示例では2枚)を組み付けるための組み付けボルト19が、大梁4の長手方向に沿って所定ピッチで設けられている。このため、これら組み付けボルト19の位置をかわして既設の締結ボルト44が設置されているが、このような設置位置の制限は、クランプ50についても同様に課せられる。つまり、締結ボルト44を外した位置と同じ位置にクランプ50を配置せざるを得ない。すると、クランプ50のジャッキボルト51は、既設のボルト孔15h,9hに落ち込み易くなり、つまり、クランプ50の設置を著しく阻害する。よって、このような既設の締結ボルト44に係り設置可能位置の制限があるような場合に、上述の受圧板55が特に有効となる。
【0059】
ところで、上述の第1実施形態では、図5A及び図5Bに示すように粘弾性ダンパー10の上取り付け板12と大梁4とは、締結ボルト40により水平方向に相対移動不能に締結固定される一方、粘弾性ダンパー10の下取り付け板15と補助部材9の水平材9bとは、クランプ50により水平方向に摺動可能に取り付けられていたが、何等これに限るものではなく、逆にしても良い。つまり、粘弾性ダンパー10の上取り付け板12と大梁4とが、クランプ50により水平方向に摺動可能に取り付けられる一方、粘弾性ダンパー10の下取り付け板15と補助部材9の水平材9bとは、締結ボルト40により水平方向に相対移動不能に締結固定されていても良い。更には、両者に対してクランプ50を適用して、両者共、水平方向に摺動可能に取り付けても良い。
【0060】
===第2実施形態===
図8A及び図8Bは、第2実施形態に係る粘弾性ダンパー10の取り付け構造の説明図である。図8Aは側面図であり、図8Bは、図8A中のB−B断面図である。
【0061】
上述の第1実施形態では、地震時における粘弾性ダンパー10への水平力の入力を防ぐべく、粘弾性ダンパー10を、二重床構造1の鉛直構面7の補助部材9に対して摺動可能に構成していたが、この第2実施形態では、粘弾性ダンパー10を水平構面2の大梁4に対して摺動可能に構成している点で先ず相違する。また、粘弾性ダンパー10の取り付け面12dを水平構面2の大梁4の取り付け面4dに密着させる方法に、上述のクランプ50を用いていない点でも相違する。これら以外の構成は概ね上述の第1実施形態と同じである。
【0062】
粘弾性ダンパー10の下取り付け板15は、締結ボルト40により鉛直構面7の補助部材9に締結固定されている。詳しくは、粘弾性ダンパー10の下取り付け板15と補助部材9の水平材9bの上フランジ9cとの両者を、上下方向に貫通させて締結ボルト40が設けられ、当該締結ボルト40に螺合するナット41の締結力により、下取り付け板15と上フランジ9cとは、互いの取り付け面15d,9dを重ね合わせた密着状態で鉛直方向及び水平方向に相対移動不能に固定されている。
【0063】
一方、粘弾性ダンパー10の上取り付け板12は、水平構面2の大梁4に取り付けられている。すなわち、上取り付け板12の上面12dを粘弾性ダンパー10側の取り付け面とし、大梁4の下フランジ4aの下面4dを大梁4側の取り付け面として、これら取り付け面12d,4d同士が密着状態に重ね合わされつつ摺動可能に取り付けられている。
【0064】
この摺動可能に密着するための挟み込み部材60は、ボルト61と、ボルト61に螺合するナット62と、大梁4の下フランジ4a又は粘弾性ダンパー10の上取り付け板12のうちの何れか一方に形成される長孔状のボルト孔4hと、大梁4の下フランジ4a又は上取り付け板12のうちの残る一方に形成される正円状のボルト孔12hと、ボルト61の軸力変動を抑えるための皿ばね63と、を有している。
【0065】
この例では、長孔状のボルト孔4hは、大梁4の下フランジ4aに貫通形成されており、長孔状のボルト孔4hの長手方向は、大梁4の長手方向に揃っているとともに、その長さは、地震時の前記取り付け面12d,4d同士の間の想定摺動量に基づいて設定される。他方、正円状のボルト孔12hは、上取り付け板12に貫通形成されており、その内径は、ボルト61を通すのに必要最小限のクリアランスを有した径に設定されている。
【0066】
そして、これらのボルト孔4h,12hにボルト61を通してナット62で締め付ける際には、下フランジ4aと、ボルト頭部61a又はナット62との間に皿ばね63が介装され、これにより、皿ばね63の弾発力が、ボルト61の軸力を通じて挟み込み力として大梁4の下フランジ4a及び上取り付け板12に付与される。なお、説明の都合上、以下では、図8A及び図8Bに示すように、ボルト頭部61aは大梁4側に位置しているものとする。
【0067】
ここで、大梁4の取り付け面4dと粘弾性ダンパー10の上取り付け板12の取り付け面12dとの間に生じる静止摩擦力Fは、皿ばね63の弾発力の調整により、下式2を満足するように調整される。
静止摩擦力F<粘弾性ダンパーの破損想定荷重−挟み込み部材の静止摩擦力f… 式2
【0068】
なお、上式2中の「破損想定荷重」の定義は、上述と同じである。また、同式2中の「挟み込み部材の静止摩擦力f」とは、挟み込み部材60と大梁4との間の水平方向の静止摩擦力f3と、挟み込み部材60と粘弾性ダンパー10との間の水平方向の静止摩擦力f4とのうちの小さい方の摩擦力のことである。詳しくは、図8A及び図8Bの例では、前者の静止摩擦力f3は、皿ばね63と滑り材66との間の静止摩擦力又は滑り材66と大梁4の下フランジ4aの上面4fとの間の静止摩擦力のうちの小さい方の摩擦力であり、後者の静止摩擦力f4は、ナット62と粘弾性ダンパー10の上取り付け板12の下面12fとの間の静止摩擦力である。
【0069】
そして、上式2を満足するように前記取り付け面4d,12d同士の間の静止摩擦力を設定しておけば、仮に地震時に二重床構造1に対して大きな水平力が作用したとしても、粘弾性ダンパー10に破損想定荷重以上の力が作用するより以前に、前記取り付け面4d,12d同士の間での水平方向の摺動が開始され、これにより、粘弾性ダンパー10と水平構面2の大梁4とは縁切りされることになる。その結果、粘弾性ダンパー10への水平力の入力は抑制されて、その破損は有効に防止される。なお、この取り付け面4d,12d同士の間の摩擦係数を確実に低くするには、例えば上述のPTFEなどのフッ素樹脂等の低摩擦係数の滑り材を取り付け面4d,12d同士の間に介装すると良い。
【0070】
このような挟み込み部材60は、大梁4の長手方向に並んで複数個(ここでは4個)設けられて挟み込み部材列をなしているとともに、当該挟み込み部材列は、大梁4のH形鋼のウエブ4eを挟んで例えば2列設けられているが、何等この配置例に限るものではない。
【0071】
ところで、上述の第1実施形態のクランプ50と同様に、挟み込み部材60は、皿ばね63及びナット62を介して粘弾性ダンパー10と大梁4との両者に跨って取り付けられている。他方、上述の大きな水平力の作用時には、粘弾性ダンパー10と大梁4とは縁切りされて水平方向に相対移動(摺動)する。よって、仮に挟み込み部材60の皿ばね63とナット62との両者が、それぞれ、大梁4と粘弾性ダンパー10とに対してしっかり固定されている場合には、上述の相対移動時に、挟み込み部材60は、大梁4及び粘弾性ダンパー10の両者から水平方向の引張力等を受けて、これにより挟み込み部材60のボルト61が傾く等して正常な鉛直姿勢で挟み込めなくなる虞や、正円状のボルト孔12hから大きな剪断力を受けてボルト61が破損する虞がある。その結果、地震発生の都度、地震後にボルト61交換等の再設置作業を余儀なくされ、不便なものとなる。
【0072】
そこで、当該挟み込み部材60のメンテナンスフリー化を図るべく、挟み込み部材60と大梁4との間の水平方向の静止摩擦力に係る摩擦係数を、挟み込み部材60と粘弾性ダンパー10との間の水平方向の静止摩擦力に係る摩擦係数よりも小さくしている。これにより、粘弾性ダンパー10と大梁4との相対移動時には、挟み込み部材60は、上述の摩擦係数差に基づいて確実に粘弾性ダンパー10に付いていき、大梁4に対しては速やかに滑動する。その結果、上述のような挟み込み部材60のボルト61の傾きやボルトの破損等の不具合は有効に防止される。
【0073】
なお、上述の摩擦係数に差を付ける具体的な方法としては、例えば、図8A及び図8Bに示すように、皿ばね63と大梁4の下フランジ4aの上面4f(「取り付け面の逆側の面」に相当)との間には、テフロン等の低摩擦係数の滑り材66を介装するが、ナット62と上取り付け板12の下面12f(「取り付け面の逆側の面」に相当)との間には、上述の滑り材66を介装しないこと等が挙げられる。
【0074】
なお、この挟み込み部材60によれば、第1実施形態のクランプ50構造の場合には起こり得た上取り付け板12や下フランジ4aからの脱落は絶対に起こり得ず、その点において優れている。また、皿ばね63の弾発力一定領域(撓み量変動に対して弾発力が略一定に維持されるたわみ量の範囲)を利用して、取り付け面4d、12d同士の間の摩擦力を略一定に設定し易くなる点でも優れている。
【0075】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0076】
上述の実施形態では、水平構面2に係る大梁4及び鉛直構面7に係る補助部材9の水平材9bにH形鋼を用いたが、H形鋼のフランジ4a,9cに相当するような水平方向に延出した水平プレート部を上部又は下部に有するような鋼材であれば何等これに限るものではなく、例えば溝形鋼や山形鋼等を使用しても良い。
【0077】
上述の実施形態では、二重床構造1として、図2の構造を例示したが、何等これに限るものではなく、図9乃至図11に示すような二重床構造1でも良い。なお、以下では相違点についてのみ説明し、それ以外の構成は、第1実施形態に係る二重床構造1と同じである。
【0078】
図9の二重床構造1の例では、一方の互いに対向する大梁4,4に対しては、それぞれ、第1実施形態と同構造の補助部材9が使用されている。すなわち、補助部材9として、水平方向に対称配置された一対の斜材9a,9aの間に水平材9bを介装してなる鋼材が使用され、そして、補助部材9の水平材9bは、減衰手段10を介して大梁4の中間部に接続されているとともに、前記一対の斜材9a,9aの各端部は、それぞれ、その大梁4の両端部を支持する各柱8の下端部に接続されている。
【0079】
また、もう一方の互いに対向する大梁4,4に対しては、それぞれ、第2の補助部材91が使用されている。第2の補助部材91は、斜材91aの端部に水平材9bが固定された鋼材である。そして、水平材9bは、大梁4の中間部よりも長手方向の端部側に寄った部分に減衰手段10を介して連結されるとともに、斜材91aの端部は、その大梁4を支持する柱8の下端部に接続されている。
【0080】
図10の二重床構造1の例では、大梁4を支持する隣接する柱8,8同士の間に水平につなぎ材91cが架設されている。そして、一方の互いに対向する大梁4,4に対して、補助部材9の水平材9bは大梁4の中間部に減衰手段10を介して連結され、斜材9aの端部は、その大梁4を支持する各柱8における前記つなぎ材91cとの連結部に連結されている。
【0081】
また、もう一方の互いに対向する大梁4,4に対しては、第2の補助部材91の水平材9bが、大梁4の中間部よりも長手方向の端部側に寄った部分に減衰手段10を介して連結され、斜材91aの端部は、その大梁4を支持する柱8における前記つなぎ材91cとの連結部に連結されている。
【0082】
図11の二重床構造1の例では、一方の互いに対向する大梁4,4に対しては、それぞれ、第1実施形態と同構造の補助部材9が使用されている。また、もう一方の互いに対向する大梁4,4に対しては、それぞれ、第3の補助部材93が使用されている。第3の補助部材93は、第1実施形態に係る補助部材9の水平材9bの長さが長くなったものであり、つまり、水平材9bの長手方向の両端部には、それぞれ一対の斜材9a,9aが固定されている。そして、水平材9bは、大梁4の中間部よりも長手方向の端部側に寄った2カ所の部分であって、前記中間部から互いに等距離の部分に、それぞれ、減衰手段10を介して連結されている。また、一対の斜材9a,9aの端部は、それぞれ、その大梁4を支持する柱8の下端部に接続されている。
【符号の説明】
【0083】
1 二重床構造、2 水平構面、
4 大梁、4a 下フランジ(取り付け部)、4d 下面(取り付け面)、
4f 上面(取り付け面の逆側の面)、4e ウエブ、4h ボルト孔、
5 小梁、6 床パネル、7 鉛直構面、8 柱、
9 補助部材、9a 斜材、9b 水平材、9c フランジ(取り付け部)、
9d 上面(取り付け面)、9e ウエブ、9f 下面(取り付け面の逆側の面)、
10 粘弾性ダンパー(減衰手段)、11 上部材、
12 上取り付け板(取り付け部)、12d 上面(取り付け面)、
12f 下面(取り付け面の逆側の面)、12h ボルト孔、
13 鉛直板、14 下部材、15 下取り付け板(取り付け部)、
15d 取り付け面、15f 上面(取り付け面の逆側の面)、15h ボルト孔、
16 鉛直板、17 粘弾性体、19 組み付けボルト、
21 上部床、25 床スラブ、40 締結ボルト、41 ナット、
44 締結ボルト、50 クランプ、50a 端部、51 ジャッキボルト、
53 滑り材、55 受圧板、60 挟み込み部材、
61 ボルト、61a 頭部、62 ナット、66 滑り材、
91 補助部材、91a 斜材、91c つなぎ材、93 補助部材、
S 隙間、SP 空間、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物躯体の床スラブの上部に設置される二重床構造であって、
前記床スラブの上方に所定の間隔をおいて水平に配置される水平構面と、
前記床スラブの上部に設置されて前記水平構面を支持する鉛直構面と、
前記水平構面と前記鉛直構面との間に介装されて、前記水平構面の鉛直方向の振動を減衰する減衰手段と、を有し、
前記減衰手段の取り付け部の取り付け面は、前記水平構面及び前記鉛直構面のうちの少なくとも一方の構面の取り付け部の取り付け面に対して水平方向に摺動可能に取り付けられ、
前記構面の取り付け部及び前記減衰手段の取り付け部に対して、それぞれ前記取り付け面の逆側の面で当接して前記取り付け部同士を挟み込む挟み込み部材を有し、
前記挟み込み部材と前記構面の取り付け部との間の水平方向の摩擦力に係る摩擦係数と、前記挟み込み部材と前記減衰手段の取り付け部との間の水平方向の摩擦力に係る摩擦係数とは相違していることを特徴とする二重床構造。
【請求項2】
請求項1に記載の二重床構造であって、
前記減衰手段の取り付け部よりも前記構面の取り付け部の方が水平方向に広く、
前記挟み込み部材と前記構面の取り付け部との間の水平方向の摩擦力に係る摩擦係数よりも、前記挟み込み部材と前記減衰手段の取り付け部との間の水平方向の摩擦力に係る摩擦係数の方が大きいことを特徴とする二重床構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の二重床構造であって、
前記挟み込み部材は、コ字状又はC字状部材の両端部に、互いの間に間隔をおいて対向する一対の挟み込み部を有するとともに、前記一対の挟み込み部の少なくとも一方が他方の挟み込み部に対して進退可能に設けられたクランプであることを特徴とする二重床構造。
【請求項4】
請求項3に記載の二重床構造であって、
前記挟み込み部材が具備する一方の挟み込み部と前記構面の取り付け部との間、及び、前記挟み込み部材が具備する他方の挟み込み部と前記減衰手段の取り付け部との間には、前記取り付け部の既設のボルト孔を塞ぐサイズのプレート状部材が介装されていることを特徴とする二重床構造。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の二重床構造であって、
前記水平構面及び前記鉛直構面のうちで、前記一方の構面ではない方の構面には、前記減衰手段が、締結ボルトによって水平方向に摺動不能に締結固定されていることを特徴とする二重床構造。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の二重床構造であって、
前記鉛直構面は、自重を除く長期荷重及び短期荷重を設計上負担しない補助部材を備え、
前記補助部材と前記水平構面との間に前記減衰手段を介装させたことを特徴とする二重床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−190016(P2010−190016A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38357(P2009−38357)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】