説明

二重焦点レンズ

【課題】近用部と遠用部との間の明確な境界線をなくして、装用者の外観を損ねることを防止可能であるとともに、イメージジャンプを防止可能な二重焦点レンズを提供する。
【解決手段】上部に遠用屈折力面1、下部に近用屈折力面2を、前面又は後面に形成し、遠用屈折力面1と近用屈折力面2とは、点状の1つの結合部3でのみ接し、結合部3における遠用屈折力面1と近用屈折力面2の上下方向の傾きは、同一とされ、遠用屈折力面1と近用屈折力面2の間は、遠用屈折力面1と近用屈折力面2とを滑らかに連結する曲面状の補間面6とされている二重焦点レンズ10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二重焦点レンズに関し、特に、外観的に優れた二重焦点レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
多焦点屈折力レンズとしては、累進多焦点屈折力レンズと二重焦点レンズの二つが主流である。累進多焦点屈折力レンズは、図15に示すように、遠用屈折力面300と近用屈折力面301とそれらの中間の累進帯302とによって面形成されている。
【0003】
また、二重焦点レンズには、図16(A)に示すように、遠用レンズ100に小玉と呼ばれる小径の近用レンズ101を組み込んだタイプと、図16(B)に示すように、上部に遠用レンズ200を下部に近用レンズ201を配してこれらを張り合わせたEXタイプとがある。下記特許文献1記載の二重焦点レンズは、前者のタイプであるが、遠用部の物体側の面の法線よりも近用部の回転対称軸の方を、装用状態における水平面に対して大きく傾けて設定して、近用部の下方部分と遠用部との間の境界線を略円弧状に形成することにより、外観の改良を図っている(同文献の段落0017参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−186290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
累進多焦点屈折力レンズは、遠用屈折力面300と近用屈折力面301とを連続的なアトーリック面で構成しているため、遠用屈折力面300と近用屈折力面301との間に段差は発生せず、装用者の外観を損ねることはない。しかし、この連続した面の度数変化は像の揺れを誘発し、装用者によっては不快に感じる場合がある。
【0006】
一方、二重焦点レンズは、累進多焦点屈折力レンズのような像の揺れは生じない。しかし、従来の二重焦点レンズは、外面(前面)若しくは内面(後面)の屈折力面(球面もしくは非球面)に対し、それに相対する外面もしくは内面の上部に遠用屈折力面、下部に近用屈折力面を配し、それぞれ指定の度数が得られるように計算された球面若しくはトーリック面を単一曲率にて合成するものであって、それぞれの面は物理的に違う単一曲率を持つため、はっきりとした像を装用者に提供する代わりに、図16(A)の符号102や、図16(B)の符号202に示すように、近用部と遠用部との間に段差が生じて、明確な境界線が現れてしまい、装用者の外観を損ねるとともに、イメージジャンプと称される結像倍率の急激な差を生じるという問題があった。
【0007】
上記特許文献1記載の二重焦点レンズにおいても、やはり、近用部と遠用部との間には明確な境界線が現れてしまうため(同文献の図15参照)、上述した問題があった。
【0008】
本発明は、上述した問題を解決するものであり、近用部と遠用部との間の明確な境界線をなくして、装用者の外観を損ねることを防止可能であるとともに、イメージジャンプを防止可能な二重焦点レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の二重焦点レンズは、上部に遠用屈折力面、下部に近用屈折力面を、前面又は後面に形成した二重焦点レンズにおいて、前記遠用屈折力面と前記近用屈折力面とは、点状の1つの結合部でのみ接し、前記結合部における前記遠用屈折力面と前記近用屈折力面の上下方向の傾きは、同一とされ、前記遠用屈折力面と前記近用屈折力面の間は、前記遠用屈折力面と前記近用屈折力面とを滑らかに連結する曲面状の補間面とされていることを特徴とする。
【0010】
これによれば、遠用屈折力面と近用屈折力面とは、点状の1つの結合部でのみ接し、遠用屈折力面と近用屈折力面の間は、遠用屈折力面と近用屈折力面とを滑らかに連結する曲面である補間面とされているので、遠用屈折力面と近用屈折力面との間に明確な境界線が現れない。したがって、装用者の外観を損ねることが防止されるとともに、イメージジャンプが防止される。
【0011】
ここで、正面視において前記二重焦点レンズにおける左右方向をX軸、上下方向をY軸、前後方向をZ軸とする直交座標系を定義したとき、前記補間面は、前記遠用屈折力面と前記補間面との境界線(以下、「遠用境界線」という。)上の第1の点、前記第1の点とX座標値が同一であって前記第1の点よりY座標値が大きい前記遠用屈折力面上の第2の点、前記第1の点とX座標値が同一である前記近用屈折力面と前記補間面との境界線(以下、「近用境界線」という。)上の第3の点、及び、前記第1の点とX座標値が同一であって前記第3の点よりY座標値が小さい前記近用屈折力面上の第4の点、を通る所定の補間方法で求められた曲線の、前記第2の点と前記第3の点との間の部分を、X軸方向に複数連結した面から構成されていることとすることができる。
【0012】
また、前記遠用境界線と前記近用境界線は、いずれも、正面視において1又は複数の直線から構成されていることとすれば、補間のための計算が簡単であり、設計が容易である。
【0013】
また、前記補間方法は、例えばN−スプライン補間法とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、遠用屈折力面と近用屈折力面とは、点状の1つの結合部でのみ接し、遠用屈折力面と近用屈折力面の間は、遠用屈折力面と近用屈折力面とを滑らかに連結する曲面である補間面とされているので、遠用屈折力面と近用屈折力面との間に明確な境界線が現れない。したがって、装用者の外観を損ねることが防止されるとともに、イメージジャンプが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る二重焦点レンズの正面図である。
【図2】同実施形態における直交座標系及び補間ラインを示す斜視図である。
【図3】補間方法を説明するための図である。
【図4】結合部で結合する前の状態を説明するための概略図である。
【図5】結合部で結合し、傾きを合わせていない状態を説明するための概略図である。
【図6】結合部で結合し、傾きを合わせて、補間ラインを定めた状態を説明するための概略図である。
【図7】実施例の結合部を説明するための図である。
【図8】実施例の遠用境界線及び近用境界線を説明するための正面図である。
【図9】実施例の補間面を説明するための正面図である。
【図10】実施例のレンズの面を形成するラインを示す図である。
【図11】実施例のレンズのS度数分布図である。
【図12】実施例のレンズのC度数分布図である。
【図13】遠用境界線及び近用境界線を曲線とした例である。
【図14】結合部をレンズの縁に設けた例である。
【図15】従来の累進多焦点屈折力レンズの正面図である。
【図16】従来の二重焦点レンズの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、二重焦点レンズを用いた眼鏡を装用したときの装用者に向かって左右、上下を、それぞれ、二重焦点レンズにおける左右、上下とし、装用者にとっての前方を、二重焦点レンズにおける前方、その反対側を後方とする。
【0017】
図1に示す実施形態の二重焦点レンズ10は、レンズ後面(内面)の上部に遠用屈折力面1が、レンズ後面の下部に近用屈折力面2が形成されている。遠用屈折力面1と近用屈折力面2とは、点状の1つの結合部3でのみ接している。すなわち、遠用屈折力面1と近用屈折力面2の結合箇所である結合部3は、点状で1箇所のみである。結合部3においては、遠用屈折力面1と近用屈折力面2との間には前後方向(レンズ奥行き方向)の段差がなく、また、結合部3における遠用屈折力面1と近用屈折力面2の上下方向の傾きは同一とされている。遠用屈折力面1と近用屈折力面2の間(結合部3以外の間隔のある部分)は、遠用屈折力面1と近用屈折力面2とを滑らかに連結するとともに前方に凸となる曲面状の補間面6とされている。補間面6は、非点収差を生じる面であり、以下、レンズ10において、後面が補間面6である部分を非点収差部16、後面が遠用屈折力面1である部分を遠用部11、後面が近用屈折力面2である部分を近用部12という。
【0018】
遠用屈折力面1と補間面6との境界線である遠用境界線4と、近用屈折力面2と補間面6との境界線である近用境界線5は、いずれも、正面視において2つの直線から構成されている。詳しくは、遠用境界線4は、正面視において、結合部3からレンズ10の左側部10Lの縁に向かって左斜め上方に延びる直線状の左側遠用境界線4Lと、結合部3からレンズ10の右側部10Rの縁に向かって右斜め上方に延びる直線状の右側遠用境界線4Rとから構成されている。近用境界線5は、正面視において、結合部3からレンズ10の左側部10Lの縁に向かって左斜め下方に延びる直線状の左側近用境界線5Lと、結合部3からレンズ10の右側部10Rの縁に向かって右斜め下方に延びる直線状の右側近用境界線5Rとから構成されている。そして、遠用境界線4と近用境界線5とは、正面視において結合部3のみで重なり合っている。なお、実施形態では、左側遠用境界線4Lと右側遠用境界線4R、左側近用境界線5Lと右側近用境界線5Rは、それぞれ、結合部3を通って上下方向に延びる軸(後述するY軸に相当。)について、左右対称とされているが、左右対称としなくてもよい。
【0019】
また、補間面6は、左側遠用境界線4Lと左側近用境界線5Lとの間の(すなわち、結合部3より左側の)左側補間面6Lと、右側遠用境界線4Rと右側近用境界線5Rとの間の(すなわち、結合部3より右側の)右側補間面6Rとからなる。
【0020】
ここで、図2に示すように、正面視においてレンズ10における左右方向をX軸(但し、右方向を正方向)、上下方向をY軸(但し、上方向を正方向)、前後方向をZ軸(但し、前方向を正方向)とする直交座標系を定義する。なお、図2では、レンズ10の後面のみを図示している。補間面6は、遠用境界線4上の第1の点P1、第1の点P1とX座標値が同一であって第1の点P1よりY座標値が大きい遠用屈折力面1上の第2の点P0、第1の点P1とX座標値が同一である近用境界線5上の第3の点P2、及び、第1の点P1とX座標値が同一であって第3の点P2よりY座標値が小さい近用屈折力面2上の第4の点P3、を通る下記補間方法で求められた曲線の、点P1と点P2との間の部分(以下、「補間ライン」という。)CLを、X軸方向に複数連結した面から構成されている。点P0と点P1とのY座標値の差、及び、点P2と点P3とのY座標値の差は、それらから、遠用屈折力面1の下端部におけるY軸方向の傾きと、近用屈折力面2の上端部におけるY軸方向の傾きとが算出されて、それらの傾きを用いて点P1,P2間が補間されることを考慮して定めるものとし、若干の差があればよい。ここでは、いずれも、後述する補間ラインCLのX軸方向の間隔と同じく、1mmとした。なお、図2では強調のため、点P0,P1間、点P2,P3間を、実際より長く表している。
【0021】
補間方法は、次式を用いてN−スプライン関数(自然スプライン関数)により補間するN−スプライン補間法を用いた。なお、実施形態では、N=3とし、X軸方向の間隔1mm毎に補間ラインCLを決定した。
【0022】
【数1】

【0023】
この補間方法について、図3を用いて説明する。図3において、x=0と付された一点鎖線はZ軸であり、X0,X1,X2,X3はY座標値、z0,z1,z2,z3はZ座標値である。実施形態では、図3に示すように、上記点P0、P1、P2、P3に相当する4つの補間点(X0,z0),(X1,z1),(X2,z2),(X3,z3)が与えられており、i=1,i=2,i=3で示された3つの区間、すなわち、点P0,P1間、点P1,P2間、点P2,P3間を、それぞれ[数1]に示すN次式(実施形態では3次式)で近似し、各N次式の係数CをN−スプライン補間法で求める。なお、この求め方については周知であるので、ここでは説明を省略する。そして、補間面6に相当するi=2の区間を、係数Cを代入したN次式で補間する。すなわち、[数1]において係数Cをz2(X)に代入した式を、補間ラインCLの式とする。
【0024】
次に、レンズ10の設計方法について説明する。この設計方法では、装用者の処方度数を元に、下記計算を行う。
【0025】
まず、外面屈折力面の曲率計算を行って外面屈折力面を決定する。また、遠用度数から、内面屈折力面の遠用部曲率半径と遠用部乱視曲率半径を求めて、遠用屈折力面1を決定する。さらに、近用度数から、内面屈折力面の近用部曲率半径と近用部乱視曲率半径を求めて、近用屈折力面2を決定する。これらの面の決定方法については周知であるので、ここでは説明を省略する。
【0026】
そして、遠用屈折力面1と近用屈折力面2との結合部3を1箇所定める。詳しくは、まず、図4に示すように、遠用屈折力面1上のある点PLを結合部3として定め、その点PLとX座標値及びY座標値が同じ近用屈折力面2上の点PSが、点PLに重なるように、すなわち、点PLと点PSとのZ座標値の差(結合部3における段差)dがなくなるように、遠用屈折力面1の点PLにおけるZ軸方向の高さzLと、近用屈折力面2の点PSにおけるZ軸方向の高さzSとを算出し、zL=zSとなるように、近用屈折力面2(或いは遠用屈折力面1)をZ軸方向に移動する。これにより、図5に示すように、点PLと点PSとが結合され、その結合箇所が結合部3となる。結合部3の設定箇所は任意であるが、ここでは、レンズ10の幾何学中心からY軸方向に沿って所定距離下がった箇所としている。なお、レンズ10の幾何学中心は、遠用屈折力面1上に設定している。
【0027】
次に、結合部3における遠用屈折力面1の上下方向(Y軸方向)の傾きSLと、結合部3における近用屈折力面2のY軸方向の傾きSSとを算出し、面形状が結合部3を境に中折れもしくは中反りとなることを避けるため、SL=SSとなるように、近用屈折力面2を結合部3で結合したまま遠用屈折力面1に対して傾ける。
【0028】
さらに、補間面6の領域を設定する。すなわち、正面視において、結合部3からレンズ10の左側部10Lの縁に向かって左斜め上方に延びる直線状の左側遠用境界線4Lと、結合部3からレンズ10の右側部10Rの縁に向かって右斜め上方に延びる直線状の右側遠用境界線4Rとを、任意に定めることにより、遠用境界線4を設定する。また、正面視において、結合部3からレンズ10の左側部10Lの縁に向かって左斜め下方に延びる直線状の左側近用境界線5Lと、結合部3からレンズ10の右側部10Rの縁に向かって右斜め下方に延びる直線状の右側近用境界線5Rとを、任意に定めることにより、近用境界線5を設定する。なお、近用境界線5は結合部3のみで遠用境界線4と重なり、それ以外の部分は遠用境界線4よりも下側(遠用境界線4を挟んで遠用屈折力面1とは反対側)に配置される。
【0029】
そして、遠用境界線4上の点P1を所定の間隔毎に(ここでは、X軸方向に沿った間隔を1mmとして)設定し、各点P1について補間ラインCLを次のように定める。
【0030】
点P1(xL,yL)と、上下方向に相対する(すなわち、X座標値が同じ)近用境界線5上の点P2(xS,yS)について、遠用屈折力面1の式と近用屈折力面2の式から、それぞれのZ座標値z(xL,yL)、z(xS,yS)を算出する。なお、xL,xSはX座標値であり、xL=xSである。また、yL,ySはY座標値である。また、点P1(xL,yL)をY軸に沿って+1mmした遠用屈折力面1上の点P0(xL,yL+1)と、点P2(xS,yS)をY軸に沿って−1mmした近用屈折力面2上の点P3(xS,yS−1)について、遠用屈折力面1の式と近用屈折力面2の式から、それぞれのZ座標値z(xL,yL+1)、z(xS,yS−1)を算出する。なお、座標値で「1」は長さで1mmに相当するものとする。そして、これら4点P0(X0,z0),P1(X1,z1),P2(X2,z2),P3(X3,z3)(但し、X0=yL+1,z0=z(xL,yL+1),X1=yL,z1=z(xL,yL),X2=yS,z2=z(xS,yS),X3=yS−1,z3=z(xS,yS−1))に基づいて、N−スプライン補間法を用いて、[数1]に示すN次方程式の係数Cを求め、求めた係数Cを[数1]に代入することにより、式z2(X)を決定する。この式z2(X)により、点P1と点P2との間を補間する補間ラインCLが定められる。
【0031】
以上のように、所定間隔で設定された遠用境界線4上の各点P1について補間ラインCLを定め、それらの補間ラインCLを連結することにより、補間面6を構築する(図6参照)。
【0032】
以上述べたように、レンズ10では、遠用屈折力面1と近用屈折力面2とが、従来の二重焦点レンズのようなレンズ奥行き方向に段差を持った線状の結合部ではなく、点状の1つの結合部3のみで結合しており、結合部3の両側の遠用屈折力面1と近用屈折力面2の間は、遠用屈折力面1から近用屈折力面2にかけて滑らかな曲面で補間されている。したがって、レンズ10によれば、累進帯が無いため揺れを感じ難いという二重焦点レンズ本来の効果も損なわず、かつ、遠用部11と近用部12との間に明確な境界線が現れないため、装用者の外観を損ねることを防止可能であるとともに、イメージジャンプを防止可能である。
【実施例】
【0033】
次に、実施例について説明する。実施例の処方度数、レンズデータ、及び、前面データを表1に示す。なお、実施例のレンズ10は正面視において単心円形状とし、前面を球面とし、後面に遠用屈折力面1、近用屈折力面2、及び、補間面6を生成する。まず、表1のデータに基づいて、表2に示す遠用屈折力面1のデータを算出して、次式[数2]により遠用屈折力面1(=DL)を決定し、また、表3に示す近用屈折力面2のデータを算出して、次式[数3]により近用屈折力面2(=DS)を決定した。
【0034】
【数2】

【0035】
【数3】

【0036】
上記[数2]、[数3]において、xは光学中心からの距離、θは光学中心に対する角度、Kは非球面係数、A1,A2,A3,A4は定数、RLS、RSSは後面曲率半径、RLC、RSCは乱視面曲率半径であり、乱視度数が+の場合には、SINをCOSとする。なお、添字としてLSが付されているものは遠用部の後面に関するもの、LCが付されているものは遠用部の乱視面に関するもの、SSが付されているものは近用部の後面に関するもの、SCが付されているものは近用部の乱視面に関するものである。したがって、RLS、RLCは表2のRS、RCに相当し、RSS、RSCは表3のRS、RCに相当する。また、遠用屈折力面1及び近用屈折力面2は、いずれも球面として設計したので、K=1とし、A1,A2,A3,A4はいずれも0とした。また、前面も球面としているので、光学中心は幾何学中心に一致している。
【0037】
次に、結合部3を、図7に示すように、幾何学中心OからY軸方向に7mm下がった位置に定め、結合部3における遠用屈折力面1と近用屈折力面2のZ座標値及びY軸方向の傾きを算出し、それぞれの差を求めた。本実施例では、結合部3における遠用屈折力面1と近用屈折力面2のZ座標値の差は0.08であり、上下方向の傾きの差は1.23°であったため、それらの差がなくなるように、近用屈折力面2をZ軸方向に移動し、かつ、遠用屈折力面1に対して傾けた。
【0038】
そして、図8に示すように、左側遠用境界線4L、右側遠用境界線4Rを、結合部3から、結合部3を通ってX軸に平行な軸X1に対しそれぞれ40°の角度をなして、左斜め上方、右斜め上方に向かって延びる直線とし、左側近用境界線5L、右側近用境界線5Rを、結合部から軸X1に対しそれぞれ50°の角度をなして、左斜め下方、右斜め下方に向かって延びる直線とした。
【0039】
次に、図9に示すように、遠用境界線4上の点P1(xL,yL)と、近用境界線5上の点P2(xS,yS)(但し、xL=xS)について、それぞれのZ座標値z(xL,yL)、z(xS,yS)を算出し、また、点P1(xL,yL)をY軸に沿って+1mmした点P0(xL,yL+1)と、点P2(xS,yS)をY軸に沿って−1mmした点P3(xS,yS−1)について、それぞれのZ座標値z(xL,yL+1)、z(xS,yS−1)を算出した。そして、これら4点P0、P1、P2、P3を通る曲線を、N−スプライン補間法により求め、求めた曲線の点P1,P2間の部分を補間ラインCLとした(図3参照)。
【0040】
遠用境界線4の一端から他端までX軸方向の間隔を1mmとして採った全ての点P1について、上記のように補間ラインCLを生成し、それらの補間ラインCLを連結した面を、補間面6とした。図9の斜線部分は、補間面6の領域を示す。
【0041】
図10は、実施例のレンズ10の後面を形成するラインを、レンズ10の真下より少し後方の位置から見た斜視図であり、遠用屈折力面1から補間面6を経て近用屈折力面2まで、滑らかにラインが連続していることが分かる。
【0042】
図11、12は、以上のように設計したレンズ10を、前面を表1のデータに従ってモールド成形し、後面を上記設計に従って削ることにより、実際に作成し、度数を測定したものである。図11はS度数分布図、図12はC度数分布図であり、図中の破線は、設計上の遠用境界線4及び近用境界線5を示す。レンズ10では、図11から分かるように、遠用部11と近用部12とが明確に分かれるようにS度数が分布し、累進帯が無いため、像の揺れを感じ難い。そして、点状の結合部3付近で、遠用部11から近用部12に切り替わり、結合部3の両側の遠用部11と近用部12との間は、前面と後面とが共に遠用部11と近用部12とを滑らかに連結する曲面状とされた非点収差部16になっている。したがって、遠用部11と近用部12との間に明確な境界線が現れないことから、装用者の外観を損ねることを防止可能であり、また、イメージジャンプを防止可能である。
【0043】
〈変形例〉以下、変形例について述べる。
【0044】
左側遠用境界線4Lを、正面視において結合部3から左方に向かって延設してもよいし、右側遠用境界線4Rを、正面視において結合部3から右方に向かって延設してもよい。左側近用境界線5L、右側近用境界線5Rについても同様である。但し、遠用境界線4と近用境界線5とは、正面視において結合部3のみで重なり合うように構成する。すなわち、左側遠用境界線4Lを、正面視において結合部3から左方に、右側遠用境界線4Rを、正面視において結合部3から右方に向かって延設して、遠用境界線4を真横に延びる1本の直線としたときは、左側近用境界線5Rは、正面視において結合部3から左斜め下方に、右側近用境界線5Rは、正面視において結合部3から右斜め下方に向かって延設する。
【0045】
また、遠用境界線4、近用境界線5を、正面視において曲線状としてもよい。例えば、図13に示すように、遠用境界線4をU字状、近用境界線5を逆U字状としてもよい。なお、図13、及び、後述する図14においては、上記実施形態と同様の要素については同じ符号を付している。また、遠用境界線4、近用境界線5のいずれか一方を、1又は複数の直線からなる線とし、他方を曲線としてもよい。
【0046】
また、結合部3をレンズ10の縁に設けてもよい。例えば、図14に示すように、結合部3をレンズ10の左側部10L若しくは右側部10Rのいずれか一方の縁に設け、遠用境界線4及び近用境界線5を、それぞれ、結合部3からレンズ10の左側部10L若しくは右側部10Rのいずれか他方の縁まで延設するとともに、近用境界線5を遠用境界線4より下側に配置して、遠用境界線4と近用境界線5との間を補間面6としてもよい。図14の例では、遠用境界線4及び近用境界線5は、いずれも、正面視において1本の直線から構成されている。遠用境界線4及び近用境界線5を、いずれも、1又は複数の直線から構成された線とすれば、計算が簡単であり、設計が容易である。
【0047】
また、補間方法として、ラグランジュ補間法等、他の補間方法を用いてもよい。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【符号の説明】
【0051】
1…遠用屈折力面
2…近用屈折力面
3…結合部
4…遠用境界線
5…近用境界線
6…補間面
10…二重焦点レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に遠用屈折力面、下部に近用屈折力面を、前面又は後面に形成した二重焦点レンズにおいて、
前記遠用屈折力面と前記近用屈折力面とは、点状の1つの結合部でのみ接し、
前記結合部における前記遠用屈折力面と前記近用屈折力面の上下方向の傾きは、同一とされ、
前記遠用屈折力面と前記近用屈折力面の間は、前記遠用屈折力面と前記近用屈折力面とを滑らかに連結する曲面状の補間面とされていることを特徴とする二重焦点レンズ。
【請求項2】
正面視において前記二重焦点レンズにおける左右方向をX軸、上下方向をY軸、前後方向をZ軸とする直交座標系を定義したとき、前記補間面は、前記遠用屈折力面と前記補間面との境界線(以下、「遠用境界線」という。)上の第1の点、前記第1の点とX座標値が同一であって前記第1の点よりY座標値が大きい前記遠用屈折力面上の第2の点、前記第1の点とX座標値が同一である前記近用屈折力面と前記補間面との境界線(以下、「近用境界線」という。)上の第3の点、及び、前記第1の点とX座標値が同一であって前記第3の点よりY座標値が小さい前記近用屈折力面上の第4の点、を通る所定の補間方法で求められた曲線の、前記第2の点と前記第3の点との間の部分を、X軸方向に複数連結した面から構成されていることを特徴とする請求項1記載の二重焦点レンズ。
【請求項3】
前記遠用境界線と前記近用境界線は、いずれも、正面視において1又は複数の直線から構成されていることを特徴とする請求項2記載の二重焦点レンズ。
【請求項4】
前記補間方法が、N−スプライン補間法であることを特徴とする請求項2又は3記載の二重焦点レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−194388(P2012−194388A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58385(P2011−58385)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】