説明

二重特異性デス受容体アゴニスト抗体

本発明は、デス受容体に対して特異的な第1の抗原結合部位および第2の抗原に対して特異的な第2の抗原結合部位を含む二重特異性抗体、それらの生産のための方法、前記抗体を含有する薬学的組成物、ならびにそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デス受容体に対して特異的な第1の抗原結合部位および第2の抗原に対して特異的な第2の抗原結合部位を含む二重特異性抗体、それらの生産のための方法、前記抗体を含有する薬学的組成物、ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、癌細胞上で差異を伴って発現される抗原の選択的ターゲティングが理由で、癌の治療における強力な治療薬となることが立証されつつある。ごく最近開発されたモノクローナル抗体の治療戦略には、腫瘍細胞の生物現象(biology)を改変するための腫瘍関連抗原のターゲティング、増殖因子受容体の阻害、血管新生の阻害、アポトーシス誘導、および補体結合を介した細胞傷害作用または抗体依存性細胞傷害作用が含まれる。トラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin)(登録商標))およびセツキシマブ(エルビタックス(Erbitux)(登録商標))などのいくつかの抗体は、癌細胞生存のために非常に重要な増殖因子受容体を標的とする。アゴニストモノクローナル抗体を用いた癌細胞上のTRAILデス受容体のターゲティングは、それらが標的とした細胞のアポトーシスを直接誘導しうることから、新世代のモノクローナル抗体療法といえる。TRAILの代わりに、デス受容体に対するアゴニストモノクローナル抗体を用いることは有利であると考えられる:すなわち、TRAILはデス受容体およびデコイ受容体の両方を含む複数の受容体を標的とし、そのため選択性に懸念がある。加えて、TRAILはモノクローナル抗体と比較して、用量および計画のパラメーターに影響を及ぼす要因の1つである血中半減期がはるかに短い。TRAILの血中半減期が非常に短いことから、モノクローナル抗体と比較して高用量かつ高頻度の投薬が必要になると考えられる。加えて、組換えTRAILを作製することは極めて困難であるとともに時間がかかる。
【0003】
Michaelson J.S. et al.(mAbs, Vol 1, Issue 2, p:128-141; March/April 2009)(非特許文献1)は、TNFファミリーのメンバーである2つの受容体、すなわちTRAIL-R2(TNF関連アポトーシス誘導リガンド受容体-2)およびLTβR(リンホトキシン-β受容体)を標的とする、人工的に作製された(engineered)IgG様の二重特異性抗体を記載している。
【0004】
Herrmann T. et al.(Cancer Res 2008; 68: (4); p: 1221-1227)(非特許文献2)は、CD95/Fas/Apo-1細胞表面受容体ならびに神経膠芽腫細胞上の3種の標的抗原:NG2、EGFRおよびCD40を対象とする、一価化学結合した二重特異性Fab分子を記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Michaelson J.S. et al.(mAbs, Vol 1, Issue 2, p:128-141; March/April 2009)
【非特許文献2】Herrmann T. et al.(Cancer Res 2008; 68: (4); p: 1221-1227)
【発明の概要】
【0006】
本発明は、デス受容体を標的とする抗原結合部位と第2の抗原を標的とする第2の抗原結合部位とを兼ね備える抗体に関する。それにより、デス受容体が架橋されることになり、標的細胞のアポトーシスが誘導される。これらの二重特異性デス受容体アゴニスト抗体の、従来のデス受容体を標的とする抗体を上回る利点は、第2の抗原が発現される部位のみでアポトーシスが誘導されるという特異性である。
【0007】
第1の目的において、本発明は、デス受容体抗原に対して特異的な第1の抗原結合部位および第2の抗原に対して特異的な第2の抗原結合部位を含む二重特異性抗体に関する。
【0008】
二重特異性抗体の1つの好ましい態様において、デス受容体は、デス受容体4ポリペプチド(DR4)、デス受容体5ポリペプチド(DR5)またはFASポリペプチド、好ましくはヒトDR4ポリペプチド(Seq. Id. No. 1)、ヒトDR5ポリペプチド(Seq. Id. No. 2)またはヒトFASポリペプチド(Seq. Id. No. 3)から選択される。
【0009】
二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、第2の抗原は腫瘍性疾患または関節リウマチと関連性がある。
【0010】
二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、第2の抗原は、癌胎児性抗原(CEA)ポリペプチド、CRIPTOタンパク質、magic roundaboutホモログ4(ROBO4)ポリペプチド、黒色腫関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)ポリペプチド、テネイシンCポリペプチドおよび線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)ポリペプチド、好ましくはヒトCEAポリペプチド(Seq. Id. No. 4)、ヒトCRIPTOポリペプチド(Seq. Id. No. 5)、ヒトROBO4ポリペプチド(Seq. Id. No. 6)、ヒトMCSPポリペプチド(Seq. Id. No. 7)、ヒトテネイシンCポリペプチド(Seq. Id. No. 8)およびヒトFAPポリペプチド(Seq. Id. No. 9)から選択される。
【0011】
二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、二重特異性抗体は、第1の抗原結合部位を含む第1の抗体および第2の抗原結合部位を含む第2の抗体を含む二量体分子である。
【0012】
本発明の二量体二重特異性抗体の1つの好ましい態様において、第1および第2の抗体は抗体重鎖のFc部分を含み、第1の抗体のFc部分は第1の二量体化モジュールを含み、第2の抗体のFc部分は2つの抗体のヘテロ二量体化を可能にする第2の二量体化モジュールを含む。
【0013】
二量体二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、ノブ・イントゥ・ホール方式(knobs into holes strategy)に従って、第1の二量体化モジュールはノブ(knob)を含み、第2の二量体化モジュールはホール(hole)を含む(Carter P.; Ridgway J.B.B.; Presta L.G.: Immunotechnology, Volume 2, Number 1, February 1996, pp. 73-73(1)を参照)。
【0014】
二量体二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、第1の抗体は軽鎖および重鎖を含む免疫グロブリン(Ig)分子であり、第2の抗体はscFv、scFab、FabまたはFvからなる群より選択される。
【0015】
1つのさらなる好ましい態様において、二重特異性抗体は、Fcγ受容体に対する結合親和性が野生型Fc部分と比較して低下している改変されたFc部分、例えばLALA改変などを含む。
【0016】
二量体二重特異性抗体の別のさらなる好ましい態様において、Ig分子はデス受容体に対して特異的な第1の抗原結合部位を含み、第2の抗体は第2の抗原に対して特異的な第2の抗原結合部位を含む。
【0017】
二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、Ig分子は第2の抗原に対して特異的な第2の抗原結合部位を含み、第2の抗体はデス受容体に対して特異的な抗原結合部位を含む。
【0018】
二量体二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、第2の抗体はIg分子の重鎖のN末端またはC末端と融合している。
【0019】
二量体二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、第2の抗体はIg分子の軽鎖のN末端またはC末端と融合している。
【0020】
二量体二重特異性抗体のさらにもう1つの好ましい態様において、Ig分子はIgGである。二量体二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、第2の分子はペプチドリンカー、好ましくは長さが約10〜30アミノ酸であるペプチドリンカーによってIg分子と融合している。
【0021】
二量体二重特異性抗体の1つのさらなる好ましい態様において、第2の抗体はジスルフィド結合を形成するための付加的なシステイン残基を含む。
【0022】
本発明による二重特異性抗体は少なくとも二価であり、三価または多価、例えば四価もしくは六価であってもよい。
【0023】
第2の目的において、本発明は、本発明の二重特異性抗体を含む薬学的組成物に関する。
【0024】
第3の目的において、本発明は、癌または関節リウマチの治療のための本発明の二重特異性抗体に関する。
【0025】
さらなる目的において、本発明は、本発明の二重特異性抗体の重鎖をコードする配列を含む核酸配列、本発明の二重特異性抗体の軽鎖をコードする配列を含む核酸配列、本発明の核酸配列を含む発現ベクター、および本発明のベクターを含む原核生物または真核生物宿主細胞に関する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
「ポリペプチド」という用語は、本明細書において、任意の動物、例えばヒトを含む哺乳動物種などに由来する、本発明のポリペプチド、すなわちDR4、DR5、FAS、CEA、CRIPTO、ROBO4、MCSP、テネイシンCおよびFAPのネイティブ性アミノ酸配列および配列変異型のことを指して用いられる。
【0027】
「ネイティブ性ポリペプチド」とは、その調製様式にかかわらず、天然に存在するポリペプチドと同じアミノ酸配列を有するポリペプチドのことを指す。「ネイティブ性ポリペプチド」という用語は、具体的には、本発明のポリペプチドの天然に存在する切断型または分泌型、天然に存在する変異型形態(例えば、または選択的スプライシング形態)、および天然に存在するアレル変異型を範囲に含む。配列表の中のアミノ酸配列(Seq. Id. No. 1〜9)は、本発明のタンパク質のネイティブ性ヒト配列のことを指す。
【0028】
「ポリペプチド変異型」という用語は、ネイティブ性配列の中に1つまたは複数のアミノ酸置換および/または欠失および/または挿入を含有する、ネイティブ性配列のアミノ酸配列変異型のことを指す。アミノ酸配列変異型は一般に、本発明のポリペプチドのネイティブ性配列のアミノ酸配列に対して、少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらにより好ましくは少なくとも約90%超、最も好ましくは少なくとも約95%の配列同一性を有する。
【0029】
「抗体」という用語は、さまざまな形態の抗体構造を範囲に含み、これには抗体全体および抗体フラグメントが非限定的に含まれる。本発明による抗体は、本発明による特徴的な特性が保たれている限りにおいて、好ましくは完全ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはさらには遺伝的に操作された抗体である。
【0030】
「抗体フラグメント」は、完全長抗体の一部、好ましくはその可変ドメイン、または少なくともその抗原結合部位を含む。抗体フラグメントの例には、抗体フラグメントから形成されたダイアボディ、単鎖抗体分子および多重特異性抗体が含まれる。scFv抗体は、例えば、Houston, J.S., Methods in Enzymol. 203 (1991) 46-96)に記載されている。加えて、抗体フラグメントには、VHドメインの特徴を有する、すなわちVLドメインとともに集合するか、またはVLドメインの特徴を有する、すなわちVHドメインとともに集合して、機能的抗原結合部位となり、その結果、完全長抗体の抗原結合特性をもたらすことのできる単鎖ポリペプチドが含まれる。
【0031】
「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、本明細書で用いる場合、単一のアミノ酸組成を持つ抗体分子の調製物のことを指す。
【0032】
「キメラ抗体」という用語は、組換えDNA手法によって通常調製される、1つの供給源または種に由来する可変領域、すなわち結合領域、および、異なる供給源または種に由来する定常領域の少なくとも一部を含む抗体のことを指す。マウス可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が好ましい。本発明の範囲に含まれる「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、特にC1q結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関して、本発明による特性を生じさせるために、定常領域が元の抗体のものから改変または変更されたものである。そのようなキメラ抗体は「クラススイッチされた抗体」とも称される。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントおよび免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む発現された免疫グロブリン遺伝子の産物である。キメラ抗体を作製するための方法は、当技術分野において周知である従来の組換えDNA手法および遺伝子トランスフェクション手法を伴う。例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855;米国特許第5,202,238号および第5,204,244号を参照。
【0033】
「ヒト化抗体」という用語は、フレームワーク領域または「相補性決定領域」(CDR)が、親免疫グロブリンのCDRと比較して特異性の異なる免疫グロブリンのCDRを含むように改変された抗体のことを指す。1つの好ましい態様においては、マウスCDRをヒト抗体のフレームワーク領域内に接合させて「ヒト化抗体」を調製する。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照。特に好ましいCDRは、キメラ抗体に関して上述した抗原を認識する配列に相当するものに対応する。本発明の範囲に含まれる「ヒト化抗体」の他の形態は、特にC1q結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関して、本発明による特性を生じさせるために、定常領域が元の抗体のものからさらに改変または変更されたものである。
【0034】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書で用いる場合、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むものとする。ヒト抗体は現状の当技術分野において周知である(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。また、免疫処置を行った際に、ヒト抗体の全レパートリーまたは選択されたものを内因性免疫グロブリンの産生を伴わずに産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)において、ヒト抗体を産生させることもできる。そのような生殖細胞系突然変異マウスへの一連のヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子の移入により、抗原負荷を行った際にヒト抗体の産生をもたらされると考えられる(例えば、Jakobovits, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555;Jakobovits, A., et al., Nature 362 (1993) 255-258;Bruggemann, M., et al., Year Immunol. 7 (1993) 33-40を参照)。また、ヒト抗体をファージディスプレイライブラリーで産生させることもできる(Hoogenboom, H.R., and Winter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388;Marks, J.D., et al., J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)。Cole et al.およびBoerner et al.の手法も、ヒトモノクローナル抗体の調製のために利用可能である(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);およびBoerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95)。本発明によるキメラ抗体およびヒト化抗体に関して既に述べたように、本明細書で用いる「ヒト抗体」という用語は、特にC1q結合および/またはFcR結合に関して、本発明による特性を生じさせるために、例えば「クラススイッチ」、すなわち、Fc部分の変化または突然変異によって、定常領域に改変が加えられたような抗体も含む(例えば、IgG1からIgG4への突然変異および/またはIgG1/IgG4突然変異)。
【0035】
「組換えヒト抗体」という用語は、本明細書で用いる場合、組換え手段によって調製、発現、作出または単離されたあらゆるヒト抗体、例えば、NS0細胞もしくはCHO細胞などの宿主細胞から、またはヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニック性である動物(例えば、マウス)から単離された抗体、または宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現された抗体などを含むものとする。そのような組換えヒト抗体は、再構成された形態にある可変領域および定常領域を有する。本発明による組換えヒト抗体は、インビボ体細胞超突然変異を受けている。このため、これらの組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系のVH配列およびVL配列に由来し、関連してはいるものの、インビボのヒト抗体生殖細胞系レパートリーの中に天然には存在しない可能性のある配列である。
【0036】
本明細書で用いる「可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(VL)、重鎖の可変ドメイン(VH))は、抗体の抗原との結合に直接関与する軽鎖ドメインおよび重鎖ドメインの対のそれぞれを表す。軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインは同じ一般構造を有し、各ドメインは、3つの「超可変領域」(または相補性決定領域、CDR)によって連結された、配列が広く保存されている4つのフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβ-シートコンフォメーションをとり、CDRはそのβ-シート構造を連結するループを形成することがある。各鎖におけるCDRはフレームワーク領域によってその三次元構造を保持し、もう一方の鎖由来のCDRとともに抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖のCDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性に特に重要な役割を果たし、このため本発明の1つのさらなる目的となる。
【0037】
「抗体の抗原結合部位」という用語は、本明細書で用いる場合、抗原結合の原因となる抗体のアミノ酸残基のことを指す。抗体の抗原結合部位は、「相補性決定領域」または「CDR」由来のアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」領域または「FR」領域とは、本明細書で定義した超可変領域残基以外の可変ドメイン領域のことである。したがって、抗体の軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインは、N末端からC末端の順にFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4のドメインを含む。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与するとともに抗体の特性を定める領域である。CDR領域およびFR領域は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の標準的な定義、および/または「超可変ループ」由来の残基に従って決定される。
【0038】
抗体特異性とは、抗原の特定のエピトープに対する、抗体の選択的認識のことを指す。例えば、天然抗体は単一特異性である。本発明による「二重特異性抗体」とは、2つの異なる抗原結合特異性を有する抗体のことである。本発明の抗体は、2つの異なる抗原、すなわち、第1の抗原としてのデス受容体抗原および第2の抗原に対して特異的である。
【0039】
本明細書で用いる「単一特異性」抗体という用語は、そのそれぞれが同じ抗原の同じエピトープと結合する、1つまたは複数の結合部位を有する抗体を表す。
【0040】
本明細書で用いる「二重特異性」抗体という用語は、そのそれぞれが同じ抗原の異なるエピトープまたは異なる抗原と結合する、少なくとも2つの結合部位を有する抗体を表す。
【0041】
本出願において用いる「価」という用語は、抗体分子中に指定された数の結合部位が存在することを表す。そのため、「二価」、「四価」および「六価」という用語はそれぞれ、抗体分子中に2つの結合部位、4つの結合部位および6つの結合部位が存在することを表す。本発明による二重特異性抗体は少なくとも「二価」であり、「三価」または「多価」(例えば、「四価」または「六価」)であってもよい。
【0042】
本発明の抗体は、2つまたはそれ以上の結合部位を有し、かつ二重特異性である。すなわち、2つを上回る結合部位がある場合(すなわち、その抗体は三価または多価である)であっても、抗体は二重特異性でありうる。本発明の二重特異性抗体には、例えば、多価単鎖抗体、ダイアボディおよびトリアボディのほかに、さらなる抗原結合部位(例えば、単鎖Fv、VHドメインおよび/またはVLドメイン、Fabまたは(Fab)2)が1つまたは複数のペプチドリンカーを介して連結された、完全長抗体の定常ドメイン構造を有する抗体が含まれる。抗体は単一種由来の完全長のものでもよく、またはキメラ化もしくはヒト化されたものでもよい。
【0043】
「単鎖Fabフラグメント」とは、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)およびリンカーからなるポリペプチドのことであり、ここで前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、以下の順序のうち1つをN末端からC末端への向きに有する:a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1、またはd)VL-CH1-リンカー-VH-CL;かつ、前記リンカーは少なくとも30アミノ酸、好ましくは32〜50アミノ酸のポリペプチドである。前記単鎖Fabフラグメント、a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1、およびd)VL-CH1-リンカー-VH-CLは、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合を介して安定化される。加えて、これらの単鎖Fab分子は、システイン残基の挿入(例えば、可変重鎖における44位および可変軽鎖における100位、Kabat番号付けによる)を介した鎖間ジスルフィド結合の生成によってさらに安定化されうると考えられる。「N末端」という用語はN末端の最後のアミノ酸を表し、「C末端」という用語はC末端の最後のアミノ酸を表す。
【0044】
「核酸」または「核酸分子」という用語は、本明細書で用いる場合、DNA分子およびRNA分子を含むものとする。核酸分子は一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0045】
本出願において用いられる「アミノ酸」という用語は、アラニン(三文字表記:ala、一文字表記:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)およびバリン(val、V)を含む、天然に存在するカルボキシα-アミノ酸の群のことを表す。
【0046】
核酸は、それが別の核酸と機能的な関係にあるように置かれている場合、「機能的に連結」している。例えば、プレ配列または分泌リーダーのDNAは、それがポリペプチドの分泌にかかわるプレタンパク質として発現されるならば、そのポリペプチドのDNAと機能的に連結している;プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を及ぼすならば、その配列と機能的に連結している;またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように配置されているならば、コード配列と機能的に連結している。一般に、「機能的に連結」しているとは、連結されているDNA配列が同一線上に並んでいること、および分泌リーダーの場合には、隣接していてリーディングフレーム内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは隣接している必要はない。連結は、好都合な制限部位でのライゲーションによって行われる。そのような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを従来の慣行に従って用いる。
【0047】
本明細書で用いる場合、「細胞」、「細胞株」および「細胞培養物」という表現は互換的に用いられ、そのような呼称はすべて子孫を含む。したがって、「トランスフェクト体」および「トランスフェクトされた細胞」という語には、初代の対象細胞、およびそれに由来する培養物が継代回数を問わずに含まれる。また、意図的または偶発的な突然変異のために、子孫がすべて、DNAの内容に関して正確に同一であるとは限らないことも了解されよう。最初に形質転換した細胞に関してスクリーニングされたものと同じ機能または生物活性を有する変異型子孫は含められる。
【0048】
本明細書で用いる場合、「結合」または「特異的な結合」という用語は、インビトロアッセイ、好ましくは表面プラズモン共鳴アッセイ(SPR, BIAcore, GE-Healthcare Uppsala, Sweden)における、抗原のエピトープに対する抗体の結合のことを指す。結合の親和性は、ka(抗体/抗原複合体による抗体の会合に関する速度定数)、kD(解離定数)およびKD(kD/ka)という項によって定義される。結合または特異的な結合とは、10-8mol/lまたはそれ未満、好ましくは10-9M〜10-13mol/lの結合親和性(KD)を意味する。
【0049】
デス受容体に対する抗体の結合は、BIAcoreアッセイ(GE-Healthcare Uppsala, Sweden)によって調べることができる。結合の親和性は、ka(抗体/抗原複合体による抗体の会合に関する速度定数)、kD(解離定数)およびKD(kD/ka)という項によって定義される。
【0050】
「エピトープ」という用語には、抗体と特異的に結合することのできるあらゆるポリペプチド決定基が含まれる。ある態様において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルまたはスルホニルといった化学活性のある表面分子団を含み、さらにある態様においては、特定の三次元構造特性および/または特定の電荷特性を有してもよい。エピトープとは、抗体による結合を受ける抗原の領域のことである。
【0051】
抗体の「Fc部分」は、抗体の抗原との結合に直接には関与しないが、さまざまなエフェクター機能を示す。「抗体のFc部分」は、当業者に周知の用語であり、抗体のパパイン切断に基づいて定義される。抗体または免疫グロブリンは、それらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMのクラスに分類され、これらのいくつかは、例えばIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4、IgA1およびIgA2といったサブクラス(アイソタイプ)にさらに分類することもできる。免疫グロブリンの種々のクラスは、重鎖定常領域に従って、それぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる。抗体のFc部分は、補体活性化、C1q結合およびFc受容体結合に基づくADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用)およびCDC(補体依存性細胞傷害作用)に直接関与する。補体活性化(CDC)は、ほとんどのIgG抗体サブクラスのFc部分に対する補体因子C1qの結合によって惹起される。補体系に対する抗体の影響はある種の条件に依存するものの、C1qに対する結合はFc部分における特定された結合部位によって引き起こされる。そのような結合部位は現状の当技術分野において公知であり、例えば、Boakle et al., Nature 282 (1975) 742-743, Lukas et al., J. Immunol. 127 (1981) 2555-2560, Brunhouse and Cebra, Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917, Burton et al., Nature 288 (1980) 338-344, Thommesen et al., Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004, Idusogie et al., J. Immunol.164 (2000) 4178-4184, Hezareh et al., J. Virology 75 (2001) 12161-12168, Morgan et al., Immunology 86 (1995) 319-324, EP 0307434号に記載されている。そのような結合部位には、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329がある(番号付けはKabatのEU指数(EU index)による、下記参照)。サブクラスIgG1、IgG2およびIgG3の抗体は通常、補体活性化ならびにC1qおよびC3との結合を示すが、一方、IgG4は補体系を活性化せず、C1qおよびC3と結合することもない。
【0052】
本発明による抗体は組換え手段によって生産される。したがって、本発明の1つの局面は、本発明による抗体をコードする核酸であり、1つのさらなる局面は、本発明による抗体をコードする前記核酸を含む細胞である。組換え生産のための方法は現状の当技術分野において広く知られており、原核細胞および真核細胞におけるタンパク質発現、それに引き続いての抗体の単離、さらに通常は、薬学的に許容される純度への精製を含む。宿主細胞における前述の抗体の発現のためには、改変された各々の軽鎖および重鎖をコードする核酸を、標準的な方法によって発現ベクターに挿入する。CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293(HEK293 EBNAを含む)細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母または大腸菌(E.coli)細胞のような適切な原核生物または真核生物宿主細胞において発現を行わせ、細胞(上清または溶解後の細胞)から抗体を回収する。抗体の組換え生産のための一般的な方法は現状の当技術分野において周知であり、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202;Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282;Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-161;Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880に記載されている。
【0053】
本発明による抗体は、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって培地から適切に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の手順を用いて容易に単離され、かつ配列決定される。ハイブリドーマ細胞をそのようなDNAおよびRNAの供給源として役立てることができる。ひとたび単離されれば、そのDNAを発現ベクターに挿入し、続いてそれを、通常であれば免疫グロブリンタンパク質を産生しないHEK 293細胞、CHO細胞または骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトして、宿主細胞における組換えモノクローナル抗体の合成を得ることができる。
【0054】
本発明による抗体のアミノ酸配列変異型(または突然変異体)は、適切なヌクレオチド変化を抗体DNAに導入することによって、またはヌクレオチド合成によって調製される。しかし、そのような改変は、例えば上記のような、極めて限られた範囲でのみ行うことができる。例えば、これらの改変はIgGアイソタイプおよび抗原結合といった上述の抗体特性を変化させないが、組換え生産の収率、タンパク質安定性を改善することもあり、または精製を容易にすることもある。
【0055】
本出願で用いる「宿主細胞」という用語は、本発明による抗体を生じるように人工的に操作することのできるあらゆる種類の細胞系のことを表す。1つの態様においては、HEK293細胞およびCHO細胞が宿主細胞として用いられる。本明細書で用いる場合、「細胞」「細胞株」および「細胞培養物」という表現は互換的に用いられ、そのような呼称はすべて子孫を含む。したがって、「トランスフェクト体」および「トランスフェクトされた細胞」という語には、初代の対象細胞、およびそれに由来する培養物が継代回数を問わずに含まれる。また、意図的または偶発的な突然変異のために、子孫がすべて、DNAの内容に関して正確に同一であるとは限らないことも了解されよう。最初に形質転換した細胞に関してスクリーニングされたものと同じ機能または生物活性を有する変異型子孫は含められる。
【0056】
NS0細胞における発現は、例えば、Barnes, L.M., et al., Cytotechnology 32 (2000) 109-123;Barnes, L.M., et al., Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261-270に記載されている。一過性発現は、例えば、Durocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9に記載されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837;Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;およびNorderhaug, L., et al., J. Immunol. Methods 204 (1997) 77-87に記載されている。1つの好ましい一過性発現系(HEK 293)が、Schlaeger, E.-J., and Christensen, K., in Cytotechnology 30 (1999) 71-83、およびSchlaeger, E.-J., in J. Immunol. Methods 194 (1996) 191-199によって記載されている。
【0057】
原核生物に適する調節エレメント配列には、例えば、プロモーター、任意でオペレーター配列およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞はプロモーター、エンハンサーおよびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0058】
抗体の精製は、細胞成分または他の混入物質、例えば他の細胞性核酸またはタンパク質などを排除する目的で、アルカリ/SDS処理、CsClバンド法、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野において周知である他のものを含む標準的な手法によって行われる。Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照。タンパク質の精製のためには、微生物タンパク質を用いるアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)および混成モード交換)、チオール基吸着(thiophilic adsorption)(例えば、β-メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを用いる)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニルセファロース、アザ-アレノフィリック(aza-arenophilic)樹脂またはm-アミノフェニルボロン酸を用いる)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)-およびCu(II)-親和性材料を用いる)、サイズ排除クロマトグラフィーおよび電気泳動法(ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)といった種々の方法が十分に確立されており、広く用いられている(Vijayalakshmi, M.A. Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)。
【0059】
本明細書で用いる場合、「薬学的担体」には、生理的な適合性のある任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮投与(例えば、注射または注入による)に適している。
【0060】
本発明の組成物は、当技術分野において公知である種々の方法によって投与することができる。当業者には理解されるであろうが、投与の経路および/または様式は、所望の結果に応じて異なると考えられる。本発明の化合物をある特定の投与経路によって投与するためには、化合物を、その不活性化を防ぐ材料でコーティングすること、またはそれと共投与することが必要なことがある。例えば、化合物を、適切な担体、例えばリポソーム、または希釈剤の中にある状態で対象に投与してもよい。薬学的に許容される希釈剤には、食塩水および水性緩衝液が含まれる。薬学的担体には、無菌の水溶液または分散系、および無菌の注射用溶液または分散系の即時調製のための無菌粉末が含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒質および作用物質の使用は、当技術分野において公知である。
【0061】
本明細書で用いる「非経口的投与」および「非経口的に投与された」という語句は、経腸および局所投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、これには非限定的に含まれる。静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内への注射および注入が非限定的に含まれる。
【0062】
本明細書で用いる癌という用語は、リンパ腫、リンパ性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、細気管支肺胞上皮癌(bronchioloalviolar cell lung cancer)、骨悪性腫瘍(bone cancer)、膵癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼球内の黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌(stomach cancer)、胃癌(gastric cancer)、結腸癌、乳癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓または尿管の癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、シュワン細胞腫、上衣腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫およびユーイング肉腫、上記の癌のいずれかの難治型、または上記の癌の1つまたは複数の組み合わせといった増殖性疾患を含む。
【0063】
また、これらの組成物が、湿潤剤、乳化剤および分散剤などの補助剤を含んでもよい。上記の滅菌手順、ならびにさまざまな抗菌薬および抗真菌薬、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含めることの両方によって、微生物の存在を確実に防ぐことができる。組成物中に、糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含めることが望ましいこともある。加えて、注射用医薬形態の持続吸収を、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンといった吸収を遅らせる作用物質を含めることによって実現することもできる。
【0064】
選択された投与の経路にかかわらず、適した水和形態で用いてもよい本発明の化合物、および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知である従来の方法によって、薬学的に許容される剤形へと製剤化される。
【0065】
本発明の薬学的組成物における有効成分の実際の投与量レベルは、患者に対して毒性がなく、特定の患者、組成物および投与様式に関して所望の治療反応を達成するために有効な有効成分の量が得られるように変化させることができる。選択される用量レベルは、使用される本発明の特定の組成物の活性、投与の経路、投与時間、使用される特定の化合物の排泄速度、治療期間、使用される特定の組成物と併用される他の薬物、化合物および/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全般的健康状態および過去の病歴を含む種々の薬物動態学的要因、ならびに医学の技術分野において周知である同様の要因に依存すると考えられる。
【0066】
組成物は無菌でなければならず、組成物がシリンジによって送達可能である程度に流動的でなければならない。水のほかには、担体は好ましくは等張緩衝食塩液である。
【0067】
適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散系の場合は必要な粒子サイズを維持することによって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合には、等張化剤、例えば、糖、マンニトールまたはソルビトールなどの多価アルコール、および塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましい。
【0068】
本明細書で用いる「形質転換」という用語は、宿主細胞内へのベクター/核酸の移入のプロセスのことを指す。対処しがたい細胞壁障壁を有しない細胞を宿主細胞として用いる場合には、例えば、Graham and Van der Eh, Virology 52 (1978) 546ffによって記載されたリン酸カルシウム沈降法によってトランスフェクションを行う。しかし、核内注入またはプロトプラスト融合などによる、DNAを細胞内に導入するための他の方法を用いてもよい。原核細胞または堅固な細胞壁構築物を含有する細胞を用いる場合、例えば、トランスフェクションの1つの方法は、Cohen, F. N, et al., PNAS. 69 (1972) 7110ffによって記載されたような塩化カルシウムを用いるカルシウム処理である。
【0069】
本明細書で用いる場合、「発現」とは、核酸がmRNAに転写されるプロセス、および/または転写されたmRNA(転写物とも称される)が引き続いてペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質に翻訳されるプロセスのことを指す。転写物およびコードされるポリペプチドは、遺伝子産物と総称される。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞における発現はmRNAのスプライシングを含みうる。
【0070】
「ベクター」とは、挿入された核酸分子を宿主細胞内に、および/または宿主細胞間で移行させる核酸分子、特に自己複製性の核酸分子のことである。この用語は、細胞内へのDNAまたはRNAの挿入(例えば、染色体組込み)のために主として機能するベクター、DNAまたはRNAの複製のために主として機能する複製ベクター、およびDNAまたはRNAの転写および/または翻訳のために機能する発現ベクターが含まれる。上記の機能のうち複数を提供するベクターも同じく含まれる。
【0071】
「発現ベクター」とは、適切な宿主細胞内に導入された場合に、転写されて、ポリペプチドへと翻訳されうるポリヌクレオチドのことである。「発現系」とは通常、所望の発現産物を生じるように機能しうる発現ベクターを含む適切な宿主細胞のことを指す。
【0072】
以下の実施例、配列表および図面は、本発明の理解を助けるために提供されるものであり、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲において規定されている。本発明の趣旨から逸脱しない範囲で、記載された手順に変更を加えうることは了解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】市販の非標識マウスIgG1抗体(CEA:Abcam # 11330;DR5:R&D # MAB631;FAS:BD # 555671)および検出用に一般的なヤギ抗マウスFITC標識IgG(Serotec Star105F)を用いた、種々のヒト細胞株(Lovo、OVCAR-3、AsPC-1、BxPC3、LS174TおよびMKN-45)上のCEA、DR5およびFAS発現レベルに関するFACS結合分析。対照として、細胞のみまたは細胞および二次抗体のみを含む試料も用いた。Lovo細胞を除き、被験細胞株はすべて、かなり多い量のDR5およびFASを表面上で発現する。それに比べるとCEA発現はかなり低かった。同じ細胞を、この3種の抗原に対する他の抗体で検討したところ、Lovo細胞もFACS分析でDR5、FASおよびCEAの発現に関して陽性であった(非提示データ)。
【図2】溶液中で架橋を伴わずにアポトーシスを誘導することのできる市販の抗体(DR5:R&D # MAB631;FAS:Millipore/Upstate:CH11)との4時間のインキュベーション後の、種々の細胞株のアポトーシス誘導の分析(DNA断片化アッセイ)。アポトーシスの検出のためには、ヒストン結合DNA断片化の分析用のCell Death Detection ELISAPLUSキットを用いた。BxPC-3細胞、Lovo細胞およびLS174T細胞では、DR5およびFASを介してアポトーシスを明らかに誘導させることができるが、一方、ASPC-1細胞はアポトーシスを全く起こさない。MKN-45細胞は、他の細胞株と比較してDR5に対する抵抗性が高い。
【図3】ApomAb(白のバー)、抗ヒトFc抗体と架橋させたApomAb(斜線入りのグレーのバー)、ApomAb_sm3e_A(黒のバー)およびApomAb_sm3e_A1(斑点状のグレーのバー)二重特異性分子との4時間のインキュベーション後の、LS174T細胞のアポトーシスの誘導(DNA断片化アッセイ)。二重特異性抗体を介した標的化高次架橋によるCEA結合依存的アポトーシス誘導を検出することができる。この効果はApomAbの架橋によって誘導されるアポトーシスと同じ範囲にあり、過剰量のsm3e IgGとのプレインキュベーションによって完全に消失させることができた。対照(細胞のみまたはsm3e IgG)ではアポトーシスは全く観察されず、ApomAb単独では用いた濃度(1μg/ml)でアポトーシスを誘導しなかった。
【図4】アポトーシス誘導物質とともに4時間インキュベートしたLS174T細胞を用いたDNA断片化アッセイにおける、種々のApomAb_sm3e二重特異性分子と、ApomAb(白のバー)単独または抗ヒトFc抗体と架橋させたApomAb(斜線入りのグレーのバー)とのアポトーシス誘導活性の比較。一般に、sm3e scFvをApomAbの重鎖のC末端と融合させた分子(構成A、黒のバー)は、sm3e scFvをApomAbの軽鎖のC末端と融合させた構築物(構成B、グレーのバー)よりも活性が高いように思われる。さらに、ジスルフィド安定化型scFvを含む二重特異性抗体(構成A1、ドット入りのグレーのバー、およびB1、小格子入りのバー)は、野生型scFvを有する分子よりも幾分劣るように思われる。
【図5】Apomab(白のバー)、抗ヒトFc抗体と架橋させたApomAb(斜線入りのグレーのバー)またはApomAb_PR1A3_A二重特異性構築物(黒のバー)のいずれかとの4時間のインキュベーション後の、LS174T細胞のアポトーシス誘導(DNA断片化アッセイ)の分析。いずれの場合にも、アポトーシス誘導は用いた抗体の濃度に依存した。ApomAb単独でも高濃度では低レベルのアポトーシスが誘導されたが、これは架橋によって著しく増大した。二重特異性ApomAb_PR1A3_A分子は、二次架橋剤を伴わない場合の活性の方が、架橋したApomAbよりもはるかに高かった。
【図6】Apomab(白のバー)、抗ヒトFc抗体と架橋させたApomAb(グレーのバー)またはApomAb_PR1A3_A二重特異性構築物(黒のバー)のいずれかとの4時間のインキュベーション後の、Lovo細胞のアポトーシス誘導の分析(DNA断片化アッセイ)。いずれの場合にも、アポトーシス誘導は用いた抗体の濃度に依存した。ApomAb単独でも高濃度では低レベルのアポトーシスを誘導した(上記の通り)が、これは架橋によって著しく増大した。二重特異性ApomAb_PR1A3_A分子は単独でも、架橋したApomAbと活性が同程度であった。
【図7】種々のアポトーシス誘導性二重特異性抗体との4時間のインキュベーション後のLS174T細胞におけるDNA断片化の比較。用いた分子は、PR1A3 scFv(wt=A/Bまたはジスルフィド安定化型=A1/B1)を重鎖のC末端(A、斜線入りのグレーのバー)または軽鎖のC末端(B、ドット入りのバー)のいずれかと融合させたApomAb_PR1A3二重特異性分子である。この場合にはscFvの融合位置はアポトーシス誘導に関して差を生じないように思われ、一方、用いたscFvの種類は重要である:ジスルフィド安定化型scFvを用いると、wt scFvと融合させたApomAbを含む構築物と比較して、アポトーシスの誘導がほぼ完全に消失した(それぞれ黒およびグレーのバー)。PR1A3の親和性がsm3eと比較して低いこともあり、アポトーシスの全体的な誘導は、PR1A3を含む二重特異性分子による場合よりも低い。
【図8】MKN-45細胞に対するApomAb-CEA(PR1A3)二重特異性構築物のFACS結合分析。ApomAb_PR1A3二重特異性構築物と野生型(A)またはジスルフィド安定化型scFv(A1)との比較。いずれの二重特異性構築物も濃度依存的な様式で標的細胞と結合するが、野生型scFv構成にあるPR1A3を含む分子は、抗原に対して、ジスルフィド安定化型PR1A3 scFvよりもはるかに高い親和性で結合する。
【図9】FACS結合実験による、NCCIT細胞およびCRIPTOを発現する組換えHEK293細胞上でのCRIPTO、FASおよびDR5の表面発現の分析。NCCIT細胞はFASを全く発現せず、CRIPTOを少量しか発現しないが、組換えHEK293-CRIPTO細胞と比較して同程度の量のDR5を発現する。後者の細胞は低レベルのFAS、顕著なレベルのDR5およびかなり高いレベルのCRIPTOの発現を示す。
【図10】FAS(HFE7A IgG)、抗ヒトFc抗体を介して架橋させたFAS(HFE7A IgG)、およびFAS-CRIPTO二重特異性分子(wt(A)またはジスルフィド安定化型(A1)CRIPTO scFvをHFE7Aの重鎖のC末端と融合させたHFE7A_LC020 H3L2D1)を用いたアポトーシス誘導(HEK293-CRIPTO細胞におけるDNA断片化)の比較。FAS IgGのみ、CRIPTO IgGのみ、およびFAS-MCSP二重特異性分子はアポトーシスを誘導しなかったが、一方、架橋FASおよびHFE7A-CRIPTO二重特異性分子は4時間のインキュベーション後にDNA断片化を示し、これもまた、過剰な抗CRIPTO IgGとのプレインキュベーションによって一部を消失させることができた。
【図11】組換えHEK293-FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)細胞(白のバー)と比較した組換えHEK293-CRIPTO細胞(黒のバー)におけるHFE7A-CRIPTO二重特異性分子のアポトーシス誘導(DNA断片化アッセイ)。いずれの細胞株においても、アポトーシス誘導性の市販の抗体(CH11)およびFc特異的な第2の抗体を介して架橋させたHFE7A IgGを用いてアポトーシスを誘導させることができるが、一方、HFE7Aのみでは用いた条件下でアポトーシスが誘導されなかった。二重特異性FAS-CRIPTO分子によるアポトーシスの誘導は、架橋HFE7A IgGを用いた場合よりも高度であったが、過剰な抗CRIPTO IgGとのプレインキュベーションによって完全に阻害することはできなかった。HEK293-FAP細胞では、ある一定のわずかなバックグラウンドアポトーシスを観察することができ、それを過剰なCRIPO IgGによって競合阻止することもできなかった。陰性対照分子(ジスルフィド安定化型MCSP特異的scFvをHFE7Aの重鎖のC末端と融合させたもの)でさえ、HEK293-FAP細胞においてわずかな度合いのアポトーシスを示した。
【図12】2つの異なる抗体を用いた、種々の細胞株(MCF7、SkBr3、A431、A549、HCT-116およびU87-MG)上でのMCSPの表面発現レベルの決定のためのFACS結合分析。いずれの抗体を用いた場合にも同じレベルのMCSP発現を検出することができ、U87-MGが最も強いMCSP発現を示し、HCT-116が弱いMCSP発現を示した一方で、他の被験細胞株はすべてMCSP陰性(非染色細胞の陰性対照の範囲内)であったことが指し示された。
【図13】可溶性の架橋ApomAb(黒のバー)およびHFE7A(グレーのバー)ならびに該当する対照分子(抗FAS_CH11、抗DR5_R2および抗Fc-IgGのみ)を用いた、U87-MG細胞(A)およびHCT-116細胞(B)のアポトーシス能力の評価。HCT-116細胞では、DR5受容体を介した場合にのみ4時間後にアポトーシスを誘導させることができ、FASを介した場合はそうではなかったが、これはU87-MG細胞については異なっていた。この場合は、顕著なアポトーシスを24時間後にのみ観察することができた。HCT-116細胞とは対照的に、U87-MGでは、架橋HFE7Aによるアポトーシス誘導の効率は架橋ApomAbを用いた場合の2倍であった。既に溶液中にあるアポトーシス付与性対照抗体ははるかに効率が高かった。
【図14】野生型(A構成)またはジスルフィド安定化型MCSP scFv(A1構成)のいずれかをApomAbの重鎖のC末端と融合させた二重特異性HFE7A-MCSP抗体(mAb 9.2.27)との24時間のインキュベーション後のU87-MG神経膠腫細胞に関するアポトーシス誘導の分析。この場合には、ジスルフィド安定化型scFvを含む構築物は野生型scFvを含む分子よりも著しく高度のアポトーシスを明らかに示した(しかしながら、DNA断片化によって測定したアポトーシスの量は比較的わずかであった)。しかし、いずれの場合にも、細胞と過剰な競合性MCSP IgGとのプレインキュベーションによって、アポトーシスの誘導を完全に消失させることができた。
【図15】ヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)の発現レベルに関する2種類の細胞株(SW872およびGM05389)のFACS結合分析(A)。異なる濃度の抗FAP抗体を用いて測定した蛍光強度を、3通りの大きさの範囲にわたって示している(黒、グレーおよび斜線入りのバー)。二次抗体のみ、および細胞のみとしての陰性対照反応は、それぞれ斑点状のバーおよび白のバーとして示されている。GM05389細胞はバックグラウンドを上回るFAPの発現をすべての被験抗体濃度で明らかに示したものの、SW872細胞でのFAP発現は用いた最も高い抗体濃度(10μg/ml)でのみ検出可能であり、このことはこれらの細胞がFAPに基づく結合/アポトーシス誘導実験には適さないことを指し示している。加えて、この細胞株がApomAb媒介アポトーシスをほとんど起こさないことも示されている(B)。ApomAbのみ、または別の市販の抗DR5抗体では意味のあるDNA断片化は誘導されなかった。ApomAbを抗ヒトFc抗体と架橋させた場合にのみ、検出可能な低レベルのアポトーシス誘導を観察することができる。
【図16】GM05389(白のバー)およびMDA-MB-231(グレーのバー)のみでのアポトーシス誘導と、両方の細胞株の共培養(黒のバー)時のアポトーシス誘導とを比較した分析。すべての細胞株で、ApomAbのみでは弱い影響しか及ぼさず、一方、ApomAbの架橋はMDA-MB-231細胞における顕著なアポトーシス誘導をもたらした。デス受容体アゴニスト二重特異性構築物(ApomAb-FAP)によるDNA断片化の誘導は両方の細胞株を共培養した時にのみ高レベルで起こった。この場合、ApomAbの架橋のみでは、同じ範囲ではアポトーシスは増加せず、このことは、アポトーシスの最適な誘導のためには、デス受容体を発現するものおよびFAP抗原を発現する第2のものという2つの細胞株が必要なことを指し示している。
【図17】scFabをApomAbの重鎖のC末端(A構成)と融合させた四価二重特異性ApomAb_PR1A3_scFab分子によるMKN-45細胞のアポトーシス誘導アッセイ(24時間)の結果。アポトーシス誘導をApomAb(10倍過剰量の抗ヒトFc抗体との架橋あり/なし)および陰性対照と比較している。構築物はすべて、濃度0.1および1.0μg/mlで用いた。用いたアッセイ条件下で、二重特異性ApomAb_PR1A3_scFab構築物(黒のバー)は濃度依存的なアポトーシスの誘導を明らかに示しており、これは高次架橋ApomAb(グレーのバー)で観察されたものと同じ範囲にあり、ApomAbのみの場合(斜線入りのバー)より有意に高度である。
【図18】二重特異性三価構築物(ApomAb_sm3e_scFab;結合価2×1、黒のバー)および陰性対照と比較した、ApomAb(単独、斜線入りのバーまたは高次架橋グレーのバー)によるLS174T細胞のアポトーシス誘導の分析。アッセイは、構築物を濃度0.1および1.0μg/mlで用いて4時間行った。二重特異性ApomAb_sm3e_scFab構築物は、高次架橋ApomAbと同じ範囲において、濃度依存的な様式でアポトーシスを誘導することができる。
【図19】ヒト結腸癌細胞株LS174Tを用いる脾臓内転移モデルにおける、媒体対照と比較したApomAbおよび二重特異性DR5アゴニスト抗体ApomAb_sm3e_A1のインビボ有効性の分析。マウス10匹ずつの無作為群に対して、PBS(黒の線)、ApomAb(黒の丸)またはApomAb_sm3e_A1二重特異性抗体(黒の四角)のいずれかを投与した。生存率を、実験の経時的推移に対してプロットしている。
【実施例】
【0074】
実施例1:ヒトデス受容体5およびヒトCEAを認識する二重特異性抗体の設計
以下では、第1の抗原(ヒトデス受容体、DR5)と結合する完全長抗体を、その完全長抗体の重鎖または軽鎖のいずれかのC末端にペプチドリンカーを介して融合させた、第2の抗原(ヒト癌胎児性抗原、CEA)と結合する2つの単鎖Fvフラグメントと組み合わせた四価二重特異性抗体について説明する。前記単鎖Fvにおける抗体ドメインおよびリンカーは以下の配向を有する:VH-リンカー-VL。
【0075】
DR5を認識する抗体の可変軽鎖および重鎖としては、AdamsによってUS2007/0031414 A1号に記載されたApomAb抗体の配列を用いた。
【0076】
scFvと結合するCEA抗原については、PR1A3(Bodmer et al., 1999;US5965710号)およびsm3e(Begent et al., 2003;US7232888 B2号)の可変軽鎖および重鎖の配列を用いた。
【0077】
遺伝子合成および組換えDNA技術によって、対応するCEA抗体のVHおよびVLをグリシン-セリン(G4S)4リンカーと連結させて単鎖Fvを生成させ、それらを(G4S)n連結部(ここでn=2または4)によってApomAb IgG1の重鎖または軽鎖のいずれかのC末端と融合させた。
【0078】
「野生型」scFvに加えて、可変重鎖のKabat位置44および可変軽鎖のKabat位置100にシステイン残基を含む変異型も作製し、VHとVLとの間に鎖間ジスルフィド架橋を生成させた。これには、凝集傾向の恐れを最小限に抑えるためにscFv分子を安定化する目的があった。
【0079】
二重特異性分子の、例えばFc□受容体などを介したヒトFcγRIIIaとしての非特異的架橋を防ぐために、二重特異性分子のIgG部分のFc領域における2つのアミノ酸を変更した。位置指定突然変異誘発法によって、Fc領域の234位および235位の2つのロイシン残基をアラニン残基と交換した。このいわゆるLALA突然変異は、Fc-FcR相互作用を無効にすることが記載されている(Hessell et al., Nature 449(2007)101 ff)。
【0080】
これらのすべての分子を、組換え法によって発現させ、産生させた上で、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーの後にサイズ排除クロマトグラフィーを行うことを含む標準的な抗体精製法を用いて精製した。それらの分子を発現収率、安定性および生物活性の特性に関して調べた。
【0081】
ApomAb-CEAの組み合わせからなる種々の二重特異性デス受容体アゴニスト抗体分子を表1に提示している。種々の分子のデザインの明細は分子の名称から推論することができ、ここで第1の部分はデス受容体ターゲティングIgGを特徴づけており(例えば、ApomAb)、第2の名称はscFvを標的とするCEAを記述しており(例えば、PR1A3またはsm3e)、この文字と数字との組み合わせはscFvの融合位置およびジスルフィド安定化型特性を記述している。
【0082】
(表1)ヒトDR5およびヒトCEAを標的とする種々の二重特異性デス受容体アゴニスト抗体、およびそれらに関連した特徴の説明

【0083】
実施例2:二重特異性デス受容体アゴニスト抗体の発現および精製
各二重特異性抗体の軽鎖および重鎖について別々の発現ベクターを構築した。これらのベクターは、原核生物選択マーカー、哺乳動物細胞における遺伝子発現のための調節エレメント、および、EBNAを含むHEK293細胞におけるプラスミドの自律複製のためのエプスタイン・バーウイルス由来の複製起点oriPを含む。これらのプラスミドを大腸菌において増やし、増幅させ、精製した上で、一過性発現のためにリン酸カルシウム媒介沈降を用いてHEK293EBNA細胞にコトランスフェクトした。7日後に細胞培養上清を収集し、プロテインAクロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーによって抗体を精製した。精製された分子を、分析用サイズ排除クロマトグラフィー(1回の凍結-解凍段階の前および後)およびSDS-PAGE分析(非還元条件および還元条件)によって、均質性、安定性および完全性に関して分析した。
【0084】
(表2)種々のデス受容体アゴニスト二重特異性抗体の精製収率および単量体含有率の概要

【0085】
すべての分子を、それ以上の特性決定および検査のために十分な量および適切な品質で、産生させ、精製することができた。精製後の収率は約5mg/Lの範囲にあったが、いくつかの分子についてはいくつか逸脱がみられた。例えば、ApomAb-sm3e-B1に関する収率は著しく低く(2.19mg/L)、一方、対応する構築物であるApomAb-PR1A3_B1は11mg/Lをはるかに上回って精製することができた。
【0086】
凍結/解凍後および抗体濃度を上昇させた後の凝集物の形成の判定により、分子によっては、鎖間ジスルフィド架橋を介した安定化が、凝集物を形成する傾向に対して有益な影響を及ぼしうることが明らかになった。一般にジスルフィド安定化型は、少なくとも比較的高い濃度では、分子の単量体含有率をより上昇させた(表3)。
【0087】
(表3)タンパク質濃度と相関している、二重特異性デス受容体アゴニスト抗体の凝集物形成

【0088】
凝集物を形成する傾向は、scFvのジスルフィド安定化型だけでなく、用いる抗原結合性scFvにも依存する。表3から、PR1A3 scFvを含む二重特異性ApomAb分子が、タンパク質濃度を上昇させると顕著な凝集を来すことが明白である。3mg/mlを上回る濃度では材料の80%のみが単量体であるように思われるが、2つの付加的なシステイン残基(Kabat番号付けに準拠してVH44/VL100)の導入後には、これらの分子は用いた濃度では凝集物を形成しない。
【0089】
sm3e scFvを含む二重特異性ApomAb分子による凝集物形成の度合いはそれほど顕著ではないが、それはこの場合の単量体含有率が依然として、それぞれ、ジスルフィド安定化型を伴わない場合で94%前後、伴う場合で97%であるためである。
【0090】
実施例3:デス受容体二重特異性DR5-CEA抗体分子によるアポトーシスの誘導:
ヒトDR5デス受容体アゴニスト抗体ApomAbは、DR5を発現する腫瘍細胞、例えば結腸癌細胞株LS180またはColo-205などのアポトーシスを誘導する。インビトロではApomAbはそれ単独で顕著なアポトーシスを媒介し、ApomAbが結合したDR5とApomAbのヒトFc領域と結合する抗体との架橋によってそれを劇的に強化することができる。このアポトーシスの誘導はインビボでも成立可能であり、この場合には種々の腫瘍モデルに関してApomAbが顕著な有効性を呈することを示すことが可能であったが(Jin et al., 2008;Adams et al., 2008)、これはおそらくヒトFc-受容体を介した架橋イベントによる可能性が非常に高い。DR5-CEA二重特異性抗体が腫瘍部位を標的とするDR5の架橋を行わせ、引き続いてアポトーシスを誘導する能力を評価するために、ApomAb-CEA二重特異性分子の活性をアポトーシス媒介に関してインビトロで分析した。
【0091】
DR5-CEA二重特異性抗体分子が標的細胞の腫瘍抗原結合依存的アポトーシスを誘導するか否かを明らかにするために、デス受容体アゴニスト二重特異性抗体とのインキュベーション後の腫瘍細胞におけるDNA断片化をアポトーシスの指標として、細胞死検出用ELISAアッセイを用いて分析した。
【0092】
どの細胞株が、アポトーシスの誘導を招くDR5の抗原結合依存的架橋を測定するために適すると考えられるかを突き止めるために、いくつかの種々の腫瘍細胞株をDR5、FASおよびCEAの表面発現に関して分析した。
【0093】
用いた標的細胞株すべてを、アポトーシスアッセイの前に、腫瘍関連抗原およびFASまたはDR5デス受容体の相対発現レベルに関して分析し、それは以下の通りに行った。
【0094】
細胞の数および生存度を決定した。このために、付着性増殖細胞を細胞解離用緩衝液(Gibco-Invitrogen # 13151-014)によって剥離させた。細胞を遠心分離(4分間、400×g)によって収集し、FACS緩衝液(PBS/0.1% BSA)で洗浄した上で、細胞数をFACS緩衝液中に1.111×106細胞/mlに調整した。この細胞懸濁液の180μlを96ウェル丸底プレートの各ウェルに用い、1ウェル当たり細胞2×105個となるようにした。細胞を、適切な希釈度の第1の抗体とともに4℃で30分間インキュベートした。続いて細胞を遠心分離(4分間、400×g)によって収集し、上清を完全に除去して、細胞を150μlのFACS緩衝液で1回洗浄した。細胞を150μlのFACS緩衝液中に再懸濁させて、二次抗体(非標識一次抗体を用いた場合)とともに暗所にて4℃で30分間インキュベートした。FACS緩衝液による2回の洗浄段階後に、細胞を200μlのFACS緩衝液中に再懸濁させて、HTS FACSCanto II(BD, Software FACS Diva)で分析した。または、細胞を2% PFA(パラホルムアルデヒド)を含むFACS緩衝液200μlによって4℃で20分間固定し、その後に分析することもできた。アッセイはすべて3回ずつ行った。
【0095】
図1には、CEA、DR5またはFASを認識する3種の特異的抗体を用いた種々の腫瘍細胞株のFACS結合分析の結果が示されている。Lovo細胞を除き、他のすべての被験細胞株は被験抗原をさまざまなレベルで発現する。CEA発現はMKN-45細胞で最も高度であり、OVCAR-3、AsPC-1、BxPC-3およびLS174Tにおいてもほぼ同程度であった。DR5発現に関して、AsPC-1細胞およびBxPC.3細胞は他の細胞株と比べてこの受容体を最も発現し、OVCAR-3およびMKN-45がその次であり、LS174TはDR5発現レベルが最も低かった。FAS発現に関しては細胞株に差があったが、すべてが顕著なFAS発現を示した。このアッセイで陰性であったLovo細胞を、CEA、DR5およびFASに対する異なる抗体を用いて後に分析したところ、それらも被験抗原の顕著な発現を示した(非提示データ)。
【0096】
誘導されたアポトーシスの判定には、RocheのCell Death Detection ELISA PLUSキットを用いた。手短に述べると、96ウェルプレートの各ウェルに細胞104個(剥離ならびに細胞数および生存度の決定の後に)を200μlの適切な培地中で播種し、5% CO2雰囲気下にて37℃で一晩インキュベートした。その翌日に、培地を、アポトーシス誘導性抗体、対照抗体および他の対照を適切な濃度で含む新たな培地に交換した。
【0097】
二重特異性抗体は最終濃度0.01〜10μg/mlで用いた;対照抗体は0.5μg/mlで用い、架橋抗体は100μg/mlで用いた。競合抗体は100倍過剰量で用いた。
【0098】
細胞を37℃、5% CO2にて4〜24時間インキュベートして、アポトーシスの誘導が可能になるようにした。細胞を遠心分離(10分間、200×g)によって収集し、200μlの溶解用緩衝液(キットに付属)中にて室温で1時間インキュベートした。無傷細胞を遠心分離(10分間、200×g)によって沈降させ、20μlの上清を製造元の推奨に従ってアポトーシスの誘導に関して分析した。
【0099】
また、細胞株の組が、既に溶液中にある、デス受容体と架橋することが知られている、DR5またはFASに対する市販の抗体とのインキュベーションにより、アポトーシスを起こす能力に関しても分析した(図2)。
【0100】
この場合には図2に示されているように、アポトーシスの誘導に関して細胞株間で有意差が観察された。DR5およびFASを介したMKN-45およびBxPC-3のアポトーシス誘導は同程度であった(ただし、MKN-45ではDNA断片化の値がBxPC-3での値の50%にしか達しなかった)が、LS174T細胞およびLovo細胞では、DR5架橋抗体を用いた方が、FAS結合性抗体を用いた場合よりもはるかに良好にアポトーシスを誘導することができた。LS174T細胞ではDR5架橋を介したアポトーシス誘導の効果が、FAS架橋を介したアポトーシスの約2倍であった。Lovo細胞では、アポトーシス誘導のこの差は4倍でさえあった。ASPC-1細胞はデス受容体架橋を介したアポトーシス誘導に対して非常に抵抗性が高い。これらの結果に基づき、2つの細胞株LovoおよびLS174Tを、腫瘍抗原を標的とするDR5の架橋によるアポトーシス誘導を分析する目的に選んだ。
【0101】
二重特異性DR5-CEA分子(ApomAb-sm3e)による処理時のLS174T細胞におけるアポトーシス誘導の結果は、ApomAbまたは架橋ApomAbの影響と比較して図3に図示されている。用いたアッセイ条件(濃度1μg/mlでの4時間のインキュベーション)下で、ApomAbのみ、またはIgG1構成のsm3eは、検出可能なDNA断片化(「細胞のみ」値に対して正規化)を呈さず、一方、二重特異性ApomAb-sm3e分子(野生型(構成A)またはジスルフィド安定化型(構成A1)scFv)は、高次架橋ApomAbの理論上の最大値に匹敵する顕著なアポトーシスの誘導を示した。この2つの二重特異性分子は極めて類似した活性を示し、このことは鎖間ジスルフィドの挿入による分子の安定化が生物活性に影響を及ぼさないことを明らかに示している。細胞を過剰量のsm3e IgG(二重特異性構築物と比較して100倍の高さの濃度)とプレインキュベートした場合には、アポトーシスを全く誘導することができず、このことはsm3e IgGが細胞表面上のすべてのCEA抗原を遮断し、二重特異性デス受容体アゴニスト分子がさらに結合するのを防ぐことを指し示している。このことは、誘導されたアポトーシスが腫瘍抗原を介したDR5デス受容体の架橋に明確に依存することを明らかに示している。
【0102】
図4には、LS174T細胞のアポトーシス誘導に対する異なる分子構成の二重特異性ApomAb-sm3e構築物の間での比較の結果をまとめている。アポトーシスの誘導は濃度1μg/mlで4時間行った。この場合も、sm3e scFvをApomAbの重鎖のC末端と融合させた二重特異性ApomAb-sm3e分子(AおよびA1構成)は顕著なアポトーシスの誘導を明らかに示しており、この場合には高次架橋ApomAbよりも優れてさえいた。ApomAbのみでは、用いた条件下で検出可能なDNA断片化は誘導されなかった。2つの別の二重特異性構築物(sm3e scFvをApomAbの軽鎖のC末端と融合させたもの、野生型=B構成またはジスルフィド安定化型=B1構成)も高レベルのアポトーシス誘導を呈し、それは少なくともB構成では架橋ApomAbと同程度の範囲であったが、このことは両方の構成が基本的に機能的であることを指し示している。scFvとApomAbの重鎖のC末端との融合は、軽鎖との融合よりも幾分優位であるように思われる。図4に示された結果と比較すると、ジスルフィド安定化型分子は、野生型scFvを有する分子と比較して幾分低い活性を呈する可能性もある。
【0103】
図3および4に示されているように、上記のApomAb-sm3e構築物は抗原依存的な特異的アポトーシス誘導の点では非常に優れた働きをした。このCEA抗体sm3eは、その抗原に対して非常に高い親和性を呈する(低いピコモル濃度の範囲)。二重特異性DR5-CEA構築物によるアポトーシス誘導の効果が、腫瘍抗原に対する結合親和性がより低い分子によっても媒介されうるかを評価するために、前のものに類似した別の構築物を作製した。CEAを標的とするscFvは、CEAに対する親和性がマイクロモル濃度の範囲とかなり低いCEA抗体PR1A3の配列を用いて人工的に作製した。この抗体の評価のために、PR1A3 scFv(野生型またはジスルフィド安定化型)をApomAb IgGの重鎖または軽鎖のいずれかのC末端と融合させた二重特異性構築物を作製した。その結果得られた分子の命名法は既に説明したものと同様である:ApomAb_PR1A3_A/A1/B/B1、ここでAおよびA1は重鎖のC末端との融合を記述しており、BおよびB1は軽鎖のC末端との融合を示している。AおよびBは野生型scFvを含み、一方、A1およびB1はジスルフィド安定化型scFvを指し示している。
【0104】
図5には、ApomAb、架橋ApomAbおよびApomAb_PR1A3二重特異性抗体(野生型PR1A3 scFvをApomAb重鎖のC末端と融合させたもの)によるLS174T細胞のアポトーシスの誘導が、0.01〜10.0μg/mlの濃度範囲で示されている。ApomAbはそれ単独である程度の濃度依存的アポトーシス誘導を呈し、それはApomAbの抗ヒトFc抗体との架橋によって顕著に増大する。二重特異性ApomAb-PR1A3分子も濃度依存的アポトーシスの誘導を明らかに示し、これは濃度10.0μg/mlでは、架橋ApomAbを同じ濃度で用いた場合よりもはるかに高度であり、このことは、アポトーシス誘導の点で優れたインビトロ有効性を達成するのに、この二重特異性デス受容体アゴニスト抗体構成の中に、最も親和性の高い腫瘍抗原結合剤を用いることが絶対に必要という訳ではないことを指し示している。
【0105】
DR5-CEA二重特異性分子とのインキュベーション時に観察されたアポトーシスの誘導の効果を他の細胞株にも当てはめることができるか否かを調べるために、図6に示されたものと同様の実験を、もう1つの結腸癌細胞株であるLovo細胞を用いて行った。
【0106】
デス受容体アゴニスト二重特異性分子ApomAb_R1A3_A(DR5-CEA)を用いたLovo細胞におけるアポトーシス誘導の結果を、ApomAbおよび架橋ApomAbを介したアポトーシスの誘導と比較して、図6に示している。すべての構築物で、濃度依存的なアポトーシスの誘導が観察された。この場合、ApomAb単独では、濃度10μg/mlで用いた場合、架橋ApomAbの活性の約20%にしか達しなかった。この濃度よりも低いと、アポトーシス誘導は架橋ApomAbと比較してはるかに弱かった。ApomAb_PR1A3二重特異性抗体は、架橋分子が全く存在しなくても、高次架橋ApomAb抗体と同じDNA断片化誘導を示したが、このことはデス受容体アゴニスト抗体を用いたアポトーシス誘導効果が、アポトーシス能力のあるすべての細胞株に当てはまる一般現象であることを実証している。
【0107】
図7には、種々のApomAb-PR1A3構築物とApomAb-sm3e構築物との間の比較が示されている。この場合、濃度1μg/mlでの4時間のインキュベーション後のLS174T細胞におけるアポトーシスの誘導をまとめている。この結果から、CEA抗原に対する親和性が、デス受容体架橋を介したアポトーシスの媒介において確かに役割を果たしている可能性が極めて明白になった。高親和性CEA結合剤を含む構築物によるアポトーシス誘導には、低親和性結合剤と比較して明らかな差がみられる。ApomAb-PR1A3は、LS174T細胞におけるアポトーシス誘導を、ApomAb-sm3eと比較して約3分の1しか示さなかった。さらに、異なる分子には本質的な違いが存在し、それはアポトーシスの誘導の能力にも反映されるように思われる。PR1A3 scFvをApomAbと融合させた場合には、scFvを重鎖または軽鎖のいずれかのC末端と融合させた分子との間で活性に関する差はみられない。どちらの分子も同じアポトーシスの誘導を示す。これとは対照的に、sm3e scFvを含む構築物は異なる挙動を行う。この場合には、scFvと重鎖のC末端との融合の方が軽鎖のC末端との融合よりも優れている。
【0108】
2つの一連の構築物の間のもう1つの違いは、scFvのジスルフィド安定化型の効果に違いがあることである。ジスルフィド安定化型sm3e scFvを含む構築物はアポトーシスの誘導に関して影響を受けないが、PR1A3 scFvについてはその反対である。これらは、ジスルフィド安定化型形態で用いなければ顕著なアポトーシスの誘導を全く呈しない。
【0109】
実施例4:FAS(CD95)およびCRIPTOを腫瘍抗原として標的とする二重特異性デス受容体アゴニスト抗体の作製、ならびにこれらの分子のインビトロでの評価:
CRIPTOは、癌細胞で過剰発現されるが、正常細胞では弱くしかまたは全く発現されないことが報告されているGPIアンカー型増殖因子である。CRIPTOは結腸腫瘍および肝転移においてアップレギュレートされていることが見いだされている。EGFファミリーのメンバーの1つであることから、これは腫瘍細胞の増殖、転移および/または生存において役割を果たす自己分泌増殖因子であると考えられている。この増殖因子は、可能性のあるいくつかの受容体または補助受容体を通じて、数多くのシグナル伝達経路を活性化する。
【0110】
CRIPTOがデス受容体アゴニスト二重特異性抗体アプローチのために適した候補であるか否かを突き止めるために、デス受容体としてのFASおよび腫瘍抗原としてのCRIPTOを標的とする四価の二重特異性抗体を作製した。これらの分子は、完全長IgG1抗体(FASを認識する)に、CRIPTOを標的とするscFvを重鎖のC末端と融合させたものからなる。
【0111】
この分子のFASを標的とするIgG部分の重鎖および軽鎖については、CD95に対するヒト/マウス交差反応性抗体であるHFE7A抗体(Haruyama et al., 2002)の配列を用いた。CRIPTO scFvは、免疫処置(LC020_H3L2D1)によって生成させたヒト化抗CRIPTO抗体の配列から作製した。scFvを標準的な組換えDNA手法を用いて作製し、短いペプチドリンカーによってFAS IgG1重鎖のC末端と融合させた。scFvにおける個々のドメインの順序はVH-(G4S)4 リンカー VLである。
【0112】
残念ながら、CRIPTOのターゲティングのために用いることのできる入手可能な適した細胞株は多くは存在しない。このため、2つの細胞株を、それらが二重特異性FAS/CRIPTO抗体を介したFAS架橋媒介アポトーシス誘導のための標的細胞株として用いうる可能性について評価した。図9には、NCCIT細胞およびヒトCRIPTOを発現する組換えHEK細胞(本明細書では以後、HEK-CRIPTOと称する)におけるFAS、DR5およびCRIPTOの表面発現の評価の結果を示している。HEK-CRIPTO細胞とは対照的に、NCCITは表面上にFASをほとんど発現せず、CRIPTOを極めて低いレベルでしか発現しない。一方、 DR5発現は正常であるように思われる。それとは対照的に、HEK-CRIPTO細胞は高レベルのCRIPTO、顕著なレベルのDR5、および適したレベルのFASを発現し、これがこれらの細胞をFAS-CRIPTO二重特異性抗体によるアポトーシス誘導のインビトロ分析のために選んだ理由である。
【0113】
図10は、HFE7A、架橋HFE7AまたはHFE7A-CRIPTO二重特異性構築物のいずれかを用いたHEK-CRIPTO細胞に対するアポトーシスの誘導に関するインビトロ実験の結果をまとめている。HFE7AまたはCRIPTO(LC020)単独では顕著なアポトーシス誘導はみられない。HFE7Aと抗ヒトFc抗体との架橋は、二重特異性HFE7A-CRIPTO分子と同じく高レベルのDNA断片化を招いた。この場合には、HFE7A重鎖のC末端と融合させた野生型CRIPTO scFv(HFE7A_LC020_A)またはジスルフィド安定化型scFv(HFE7A_LC020_A1)のいずれかを含む二重特異性分子。これらの2つの分子の間にアポトーシス誘導に関する差はほとんど観察されなかった。
【0114】
いずれの場合にも、過剰なCRIPTO IgGとのプレインキュベーションはアポトーシス誘導を顕著に低下させたが、この低下は完全ではなかった。その理由は明らかでなく、今後の評価が必要である。MCSPを標的とするscFvをHFE7Aの重鎖のC末端と融合させた同様の構築物(HFE7A_LC007_A1)はHEK-CRIPTO細胞細胞のアポトーシスを全く誘導せず、このことは二重特異性HFE7A-CRIPTO分子を用いて観察されたアポトーシスが腫瘍抗原特異的であることを指し示している。
【0115】
HFE7A-CRIPTO二重特異性抗体による処理時の、HEK-CRIPTO細胞と組換えヒトFAP(線維芽細胞活性化タンパク質)を発現するHEK細胞(HEK-FAP)との間でのアポトーシス誘導の比較の結果は、図11に示されている。どちらの細胞株も、既に溶液中にあるアポトーシス付与性陽性対照抗体とインキュベートした場合、または架橋HFE7Aで処理した場合にはアポトーシスを起こす。抗FAS抗体HFE7Aはそれ単独ではこれらの細胞株においてアポトーシスを誘導しない。二重特異性HFE7A-CRIPTO分子はHEK-CRIPTO細胞のみでアポトーシスを誘導し、対照HEK-FAP細胞では誘導しなかった。HEK-FAP細胞でも低レベルのDNA断片化はあるように思われるが、無関係なHFE7A-MCSP対照分子を用いた場合にも、さらに抗CRIPTO抗体および抗Fc抗体を単独で用いた場合であってもそれは観察されうるため、これは非特異的な基礎活性である。図10に記載された実験で観察されたように、この場合にも過剰なCRIPTO IgGとのプレインキュベーションによるアポトーシスの阻害は完全ではなかった。
【0116】
実施例5:FAS-MCSP二重特異性デス受容体アゴニスト抗体の作製、およびそれらのアポトーシス誘導能力の評価
腫瘍細胞表面上に直接発現されて提示される抗原の中には、他の抗原も、アポトーシスを誘導させるためのデス受容体の標的化架橋に関する検討対象となる。特にこれらには、間質または新生血管系由来の抗原がある。後者についての一例は、黒色腫関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)である。MCSPは大半の黒色腫細胞上で発現されるが、神経膠腫細胞および新生血管系でも発現する。ヒトMCSPを標的とするいくつかのモノクローナル抗体が記載されているが、それらはすべて、有効性が欠けているため(例えば、ADCCの欠如)、癌治療に用いるのに適していなかった。このため、MCSP抗体は、腫瘍部位標的化アポトーシスを媒介することのできる二重特異的構成で用いたならば、価値を高めることができる可能性がある。
【0117】
腫瘍/新生血管系の同時ターゲティングをアポトーシス誘導に関して評価するために、MCSP特異的scFv(野生型またはジスルフィド安定化型)を抗FAS抗体HFE7AのC末端と融合させた二重特異性デス受容体アゴニスト抗体を作製した。これらのscFvは、短いペプチドリンカーを介してHFE7Aと融合している。MCSPを標的とするscFvを作製するための可変軽鎖および重鎖の配列は、MCSP抗体9.2.27から取り出した(Beavers et al., 1996;US5580774号)。
【0118】
インビトロでのアポトーシス誘導の分析に適する細胞株を明確にするために、FACS結合分析により、いくつかの細胞株をMCSP発現に関して試験した(図12)。被験細胞株の中で、HCT-116およびU-87MGのみが、2種類の抗MCSP抗体(9.2.27およびLC007)を用いて検出した際に顕著なMCSP発現を呈した。他の被験細胞株はすべて、MCSPの発現を極めて弱くしか、または全く示さなかった。この理由から、これらの2つの細胞株を、架橋デス受容体アゴニスト抗体で、または既に溶液中にあるアポトーシス付与性対照抗体で処理した場合にアポトーシスになるか否かについて分析した。U-87MG細胞では、抗FAS抗体および抗DR5抗体のいずれによってもアポトーシスを誘導させることができたが(図13A)、HCT-116細胞についてはそうではなかった。この場合には、アポトーシスは抗DR5抗体を用いた場合にのみ誘導させることができた(図13B)。このため、U-87MG細胞を、以後のアポトーシス誘導実験の標的細胞として選んだ。
【0119】
図14は、FASを標的とするHFE7A IgGをMCSP結合性scFv(9.2.27)と組み合わせたものからなるFASアゴニスト二重特異性抗体(濃度1μg/ml)による処理後の神経膠腫細胞株U-87MGを用いたアポトーシス誘導実験から得られた結果を示している。野生型scFv(A構成)およびH44/L100ジスルフィド安定化型scFv(A1構成)の両方を、HFE7A単独または抗ヒト二次Fc抗体を介して架橋させたHFE7Aと比較した。一般にこれらのU-87MG細胞におけるアポトーシスの誘導はかなり弱いものの(24時間のインキュベーション後であっても)、二重特異性FASアゴニスト抗体を用いた場合には顕著なDNA断片化を観察することができる。この場合には、ジスルフィド安定化型scFvを含む構築物の方が野生型scFvを含むものよりも優れるように思われ、このどちらも、架橋HFE7A IgG分子よりもはるかに高いアポトーシス誘導能を示す。100倍過剰量のMCSP(9.2.27)IgGとの細胞のプレインキュベーションによって、二重特異性構築物によるアポトーシス誘導は完全に阻害され、このことは競合抗体の非存在下で観察されたDNA断片化/アポトーシスがMCSP抗原を介したFASの架橋に対して特異的かつ依存的であることを指し示している。
【0120】
実施例6:DR5-FAPデス受容体アゴニスト二重特異性抗体は、1つの細胞株のアポトーシスを、第2の細胞株による架橋を介して媒介することができる
DR5としてのデス受容体の架橋によるアポトーシスの誘導のもう1つのアプローチ(腫瘍細胞によって発現された抗原を介した架橋とは別に)は、腫瘍を取り囲む間質を標的とすることである。その場合には、標的とした抗原は腫瘍細胞によっては直接には提示されず、第2の異なる細胞種によって提示される。この種の抗原の一例は、FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)であると考えられる。このタンパク質は、線維芽細胞が腫瘍間質中にある場合のように活性化された線維芽細胞上で発現される。
【0121】
ヒトDR5および腫瘍間質由来の抗原を標的とする二重特異性デス受容体アゴニスト抗体を用いた腫瘍標的化アポトーシス誘導の可能性について調べるために、DR5を認識するIgG1部分、およびその抗体の重鎖のC末端と融合させたFAP結合性scFvからなる二重特異性分子を作製した。DR5を標的とするIgGの配列は、ApomAb配列から、US2007/0031414 A1号に記載された通りに取り出した。FAP結合性scFvの可変重鎖および軽鎖の配列は、配列#1および2に示されているように、ファージディスプレイによって単離したFab抗FAP分子から取り出した。FAP scFvは(G4S)2連結部によって抗DR5 IgG重鎖のC末端と融合している。
【0122】
この種の状況では、インビトロ活性アッセイのために2種類の細胞株を用いなければならない:一方の細胞株(標的細胞株)はヒトDR5を発現すべきであり、アポトーシス能力がなくてはならないが、FAPを発現する必要はない。第2の細胞株(エフェクター細胞株)はアポトーシス陰性(アポトーシス抵抗性によるか、またはDR5を発現しないことによるかのいずれか)でなければならず、表面上にFAPを発現する必要がある。
【0123】
所望の基準を満たす、想定しうるエフェクター細胞株の1つは、ヒト線維芽細胞株GM05389である。図15Aに示されているように、細胞株SW872が最も高い被験抗体濃度(10μg/ml)でのみFAP発現を示したのに比べ、この細胞株は顕著なレベルのFAPを発現するが、図15Bに見られるように非架橋型ApomAbによってはアポトーシスを起こさない。このため、この細胞株は、第2の細胞株上に発現された抗原を介した架橋によって標的細胞株のDNA断片化を誘導させるアポトーシスアッセイにおける、可能性のあるエフェクター細胞株であるように思われる。
【0124】
標的細胞株としては、低レベルのDR5を発現し、かつDR5媒介アポトーシス誘導に対する感受性のあるヒト乳腺癌細胞株MDA-MB-231を用いた。図16には、FAPを介したDR5の腫瘍標的化架橋による、GM05389細胞およびMDA-MB-231細胞のDNA断片化の誘導の結果が、両方の細胞株の組み合わせと比較してまとめられている。デス受容体アゴニスト抗体とのインキュベーション後の顕著なアポトーシス誘導は両方の細胞株を共培養した場合にのみ観察され(黒のバー)、一方、抗ヒトFcを標的とするApomAbによるDR5の架橋によるアポトーシスは、両方の細胞株において別個に、より低い度合いで検出可能である(それぞれ白およびグレーのバー)。本発明者らはこの結果を、線維芽細胞株GM05389によって発現されたFAP抗原と結合すると、MDA-MB-231細胞上のDR5受容体が架橋されるという様式で解釈している。
【0125】
実施例7:DR5-CEA二重特異性アゴニスト抗体の作製のための、CEA単鎖Fab分子(scFab)のApomAbとの融合
凝集物形成を防ぐための、scFvの可変重鎖および可変軽鎖への内部システイン残基の特定された挿入による二重特異性抗体の安定化に加えて、単鎖Fab(scFab)の使用も、非特異的架橋を免れるように二重特異性抗体全体を安定化するためのもう1つの想定しうる方式である。
【0126】
この構成(DR5アゴニスト抗体と融合させたscFab)が、対応するscFv含有分子と同程度のアポトーシス誘導活性を呈するか否かを評価するために、CEA scFabをApomAbの重鎖または軽鎖のいずれかのC末端と融合させた異なる二重特異性抗体を、標準的な組換えDNA技術によって作製した。
【0127】
scFabの異なるドメインの配向は以下の通りである:VL-CL-VH-CH1。定常軽鎖(CL)のC末端が、可変重鎖(VH)のN末端と34merペプチドリンカーを介して連結される。scFabの融合はG4S連結部(2merまたは4merのいずれか)によって生じる。
【0128】
単鎖Fabを含む二重特異性抗体を、基本的に異なる2つの構成で作製した:一方の構成では2つのscFabをApomAbの重鎖または軽鎖のC末端と融合させた(二重特異性、四価ホモ二量体分子)。もう一方は、1つのscFabのみを1つのApomAb重鎖のみのC末端と融合させた二重特異性分子を構築した(二重特異性、三価ヘテロ二量体分子)。このヘテロ二量体化は、ヘテロ二量体IgG分子の形成のみを可能にするFc突然変異を用いる、いわゆるノブ・イントゥ・ホール技術を用いて行った。
【0129】
図17には、ApomAb_PR1A3_scFabをApomAbまたは高次架橋ApomAbと比較したアポトーシス誘導実験の結果が示されている。このアッセイでは胃癌細胞株MKN-45を用い、アポトーシスを24時間後にDNA断片化アッセイを用いて測定した。明らかに、この二重特異性構築物は、抗Fc抗体を介して架橋させたApomAbで観察されたのと同じ範囲にあり、ApomAbのみの場合よりも有意に高いアポトーシス誘導活性を呈する。しかし、ApomAbそれ単独によるアポトーシス誘導がかなり高く、これは、用いたMKN-45細胞株で最大のアポトーシス誘導を明らかに示すために必要である24時間という延長したインキュベーション時間(例えば、アッセイを4時間のみ実施したLS174T細胞とは対照的に)のためである可能性が非常に高い。
【0130】
二重特異性の三価DR5アゴニスト抗体(腫瘍標識であるCEAに対しては一価、DR5に対しては二価)が腫瘍標的化アポトーシスを同じく誘導しうるか否かを評価するために、CEA scFab(sm3e特異性)をApomAb重鎖のC末端(ノブ突然変異を含む)と融合させた分子を作製した。この重鎖を、「ホール」の突然変異を含む対応するApomAb重鎖、およびApomAb軽鎖と共発現させた。二重特異性の三価分子をLS174T細胞に対して分析した4時間のアポトーシス誘導アッセイ(濃度0.1および1.0μg/ml)の結果を、図18にまとめている。これらの結果から、前記の三価の構成が、高次架橋ApomAbと同じ範囲で標的化アポトーシスを同じく誘導しうることが明白である。より低い濃度でも、この二重特異性構成は架橋させたApomAbよりも幾分活性が高いように思われる。
【0131】
実施例8:ApomAbと比較して優れたインビボ有効性を有するDR5-CEA二重特異性アゴニスト抗体
インビトロで実証されたデス受容体アゴニスト抗体のアポトーシス活性が、優れたインビボ有効性としても成立しうるか否かの評価のために、ヒト結腸癌細胞株LS174Tをモデルとして用いるインビボ実験を設定した。
【0132】
手短に述べると、第1日に実験用雌性SCIDベージュマウスに3×106個の腫瘍細胞の脾臓内注射による処置を行った。第7日に探索用(scout)動物を、1日後に抗体処置を開始するための基準としての腫瘍生着に関して検査した。処置は一連の3回の注射からなった(各10mg/kgを静脈内に、7日間隔で)。死亡(termination)基準に関する証拠とするために毎日動物を分析した。
【0133】
図19は、このインビボ実験で得られた結果をまとめている。ここでは、マウスの3群(それぞれ最初は10匹ずつからなり、異なる分子による処置を行う)の生存期間を比較する。対照群(PBS、黒の線)は腫瘍注入37日にはすべて死亡し、ApomAbを投与した群(黒の丸)は生存延長(最長44日)を示した。二重特異性抗体を投与した群(ApomAb_sm3e_A1、黒の四角)は、ApomAbのみを投与された分よりもさらに長い生存(52日)を示した。得られたデータの数理解析により、これらの結果が統計的に有意(p値が0.05未満)であることが実証されたが、このことは、ApomAbがPBS対照と比較してインビボ有効性を示したこと、および二重特異性ApomAb_sm3e_A1がApomAbと比較しても優れたインビボ有効性を明らかに示したことを意味する。
【0134】
材料および方法:
HEK293 EBNA細胞のトランスフェクション
本明細書で用いた(二重特異性)抗体はすべて、下記の通りの、重鎖ベクターおよび軽鎖ベクターに関するCa2+-リン酸依存的なコトランスフェクション手順を用いて、HEK 293EBNA細胞において一過性に産生させた。
【0135】
細胞は、5% CO2を含む加湿インキュベーター内で、10% FCS(Gibco、# 16000)を含む標準的なDMEM培地(Invitrogen)中にて、37℃で増殖させた。トランスフェクションの48時間前に、3×107個の細胞を回転瓶(Falcon # 353069、1400cm2)内の200mlのDMEM/10% FCS中に接種し、回転瓶インキュベーター(0.3rpm)にて37℃でインキュベートした。トランスフェクションのためには、880μgの全DNA(重鎖ベクターおよび軽鎖ベクターが各440μg)+4.4mlのCaCl2にH2Oを加えて総容積を8.8mlにした。この溶液を短時間混合した。混合の後に、8.8mlの1.5mMリン酸緩衝液(50mM Hepes、280mM NaCl、1.5mM NaH2PO4;pH 7.05)をDNA沈降のために添加した。さらに10秒間混合し、室温での短いインキュベーション(20秒間)の後に、200mlのDMEM/2% FCSをDNA溶液に添加した。この培地/DNA溶液を回転瓶の中で元の培地の代わりに用いて、細胞をトランスフェクトさせた。37℃での48時間のインキュベーションの後にトランスフェクション用培地を200mlの DMEM/10% FCSに取り換えて、抗体産生を7日間継続させた。
【0136】
産生の後に、上清を収集し、抗体を含む上清を0.22μm無菌フィルターに通して濾過した上で、精製時まで4℃で保存した。
【0137】
精製
タンパク質を、HEK293 EBNA細胞における一過性発現によって産生させた。本明細書に記載された二重特異性分子はすべて、プロテインAアフィニティー精製(Akta Explorer)およびサイズ排除クロマトグラフィーなどの標準的な手順を用いて二段階で精製した。
【0138】
上清をpH 8.0に調整し(2M TRIS pH 8.0を用いて)、緩衝液A(50mMリン酸ナトリウム、pH 7.0、250mM NaCl)で平衡化したTricorn(商標)5/50カラム(GE Healthcare、カラム容積(cv)=1ml)内に充填したMabselect Sure樹脂(GE Healthcare)に適用した。10倍カラム容積(cv)の緩衝液A、20cvの緩衝液B(50mMリン酸ナトリウム、pH 7.0、1M NaCl)および再び10cvの緩衝液Aで洗浄した後に、緩衝液B(50mMリン酸ナトリウム、50mMクエン酸ナトリウム pH 3.0、250mM NaCl)への20cvにわたる段階的pH勾配を用いてタンパク質を溶出させた。タンパク質を含む画分をプールし、溶液のpHを緩やかにpH 6.0に調整した(2M TRIS pH 8.0を用いて)。超濃縮器(ultra-concentrator)(Vivaspin 15R 30.000 MWCO HY, Sartorius)を用いて試料を2mlに濃縮し、その後に、20mMヒスチジン、pH 6.0、150mM NaClで平衡化したHiLoad(商標)16/60 Superdex(商標)200調製用グレード(GE Healthcare)に適用した。溶出画分の凝集物含有率を分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって分析した。すなわち、50μlの各画分を、2mM MOPS、pH 7.4、150mM NaCl、0.02% w/v NaN3で平衡化したSuperdex(商標)200 10/300GLカラム(GE Healthcare)にローディングした。オリゴマーを2%未満含む画分をプールし、超濃縮器(Vivaspin 15R 30.000 MWCO HY, Sartorius)で最終濃度1〜1.5mg/mlに濃縮した。精製されたタンパク質を液体N2中で凍結させ、-80℃で保存した。
【0139】
FACS結合分析
用いた標的細胞株はすべて、アポトーシスアッセイを行う前に、腫瘍関連抗原およびFASまたはDR5デス受容体の相対発現レベルに関して分析した。
【0140】
細胞の数および生存度を決定した。このためには、付着性増殖細胞を細胞解離用緩衝液(Gibco-Invitrogen # 13151-014)によって剥離させた。細胞を遠心分離(4分間、400×g)によって収集し、FACS緩衝液(PBS/0.1% BSA)で洗浄した上で、細胞数をFACS緩衝液中に1.111×106細胞/mlに調整した。この細胞懸濁液の180μlを96ウェル丸底プレートの各ウェルに用いて、1ウェル当たり細胞2×105個となるようにした。細胞を、適切な希釈度の第1の抗体とともに4℃で30分間インキュベートした。続いて細胞を遠心分離(4分間、400×g)によって収集し、上清を完全に除去して、細胞を150μlのFACS緩衝液で1回洗浄した。細胞を150μlのFACS緩衝液中に再懸濁させて、二次抗体(非標識一次抗体を用いた場合)とともに暗所にて4℃で30分間インキュベートした。FACS緩衝液による2回の洗浄段階後に、細胞を200μlのFACS緩衝液中に再懸濁させて、HTS FACSCanto II(BD, Software FACS Diva)で分析した。または、細胞を2% PFA(パラホルムアルデヒド)を含むFACS緩衝液200μlによって4℃で20分間固定し、その後に分析することもできた。アッセイはすべて3回ずつ行った。
【0141】
用いた抗体および濃度:

【0142】
Biacore分析(表面プラズモン共鳴、SPR)
SPR実験は、Biacore T100で、HBS-EP(0.01M HEPES pH 7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% Surfactant P20、GE Healthcare)を流動用緩衝液として用いて行った。それぞれ1220、740および300共鳴単位(RU)のビオチン化抗原の直接カップリングを、ストレプトアビジンチップ上で標準的な方法を用いて行った(GE Healthcare)。種々の濃度の二重特異性デス受容体アゴニスト抗体を40μl/分の流れでフローセルに278Kで90秒間通過させて、会合相を記録した。解離相は300秒間モニターし、試料溶液をHBS-EPに切り換えることによって誘発させた。バルク(bulk)での屈折率の差を、ストレプトアビジンなしの表面から得られた応答を差し引くことによって補正した。速度定数は、Biacore T100 Evaluation Software(vAA, Biacore, Freiburg/Germany)を用いて、1:1ラングミュア結合に関する反応速度式に適合するように数値積分によって導き出した。抗原は固定化されているため、1:1ラングミュア結合を用いて数値積分によって得られた速度定数は、単に見かけのKD値または結合活性を与えるに過ぎない。
【0143】
アポトーシスの誘導
誘導されたアポトーシスの判定には、RocheのCell Death Detection ELISA PLUSキットを用いた。手短に述べると、96ウェルプレートの各ウェルに細胞104個(剥離ならびに細胞数および生存度の決定の後に)を200μlの適切な培地中で播種し、5% CO2雰囲気下にて37℃で一晩インキュベートした。その翌日に、培地を、アポトーシス誘導性抗体、対照抗体および他の対照を適切な濃度で含む新たな培地に交換した。
【0144】
二重特異性抗体は最終濃度0.01〜10μg/mlで用いた;対照抗体は0.5μg/mlで用い、架橋抗体は100μg/mlで用いた。競合抗体は100倍過剰量で用いた。
【0145】
細胞を37℃、5% CO2にて4〜24時間インキュベートして、アポトーシスの誘導が可能になるようにした。細胞を遠心分離(10分間、200×g)によって収集し、200μlの溶解用緩衝液(キットに付属)中にて室温で1時間インキュベートした。無傷細胞を遠心分離(10分間、200×g)によって沈降させ、20μlの上清を製造元の推奨に従ってアポトーシスの誘導に関して分析した。
【0146】
本発明の現時点で好ましい態様を示し、説明してきたが、本発明がそれらに限定されず、以下の請求項の範囲内において異なる様式でさまざまに具現化および実施を行いうることが明確に理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デス受容体抗原に対して特異的な第1の抗原結合部位および第2の抗原に対して特異的な第2の抗原結合部位を含む、二重特異性抗体。
【請求項2】
デス受容体がDR4、DR5またはFAS、好ましくはヒトDR4、ヒトDR5またはヒトFASから選択される、請求項1記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
第2の抗原が腫瘍性疾患または関節リウマチと関連している、請求項1または2記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
第2の抗原がCEA、CRIPTO、ROBO4、MCSP、テネイシンCおよびFAP、好ましくはヒトCEA、ヒトCRIPTO、ヒトROBO4、ヒトMCSP、ヒトテネイシンCおよびヒトFAPから選択される、請求項1〜3のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
第1の抗原がDR5およびFASから選択され、かつ第2の抗原がCEA、CRIPTO、FAPおよびMCSPから選択される、請求項1〜4のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
二重特異性抗体DR5-CEA、DR5-FAP、FAS-CRIPTOおよびFAS-MCSPから選択される、請求項5記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
第1の抗原結合部位を含む第1の抗体および第2の抗原結合部位を含む第2の抗体を含む二量体分子である、請求項1〜6のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
第1および第2の抗体が抗体重鎖のFc部分を含み、第1の抗体のFc部分が第1の二量体化モジュールを含み、かつ第2の抗体のFc部分が2つの抗体のヘテロ二量体化を可能にする第2の二量体化モジュールを含む、請求項7記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
ノブ・イントゥ・ホール方式(knobs into holes strategy)に従って、第1の二量体化モジュールがノブ(knob)を含み、かつ第2の二量体化モジュールがホール(hole)を含む、請求項8記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
第1の抗体が軽鎖および重鎖を含む免疫グロブリン(Ig)分子であり、かつ第2の抗体がscFv、scFab、FabまたはFvからなる群より選択される、請求項7記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
Ig分子がデス受容体に対して特異的な第1の抗原結合部位を含み、かつ第2の抗体が第2の抗原に対して特異的な第2の抗原結合部位を含む、請求項10記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
Ig分子が第2の抗原に対して特異的な第2の抗原結合部位を含み、かつ第2の抗体がデス受容体に対して特異的な抗原結合部位を含む、請求項10記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
第2の抗体がIg分子の重鎖のN末端またはC末端と融合している、請求項10〜12のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
第2の抗体がIg分子の軽鎖のN末端またはC末端と融合している、請求項10〜12のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
Ig分子がIgGである、請求項10〜14のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
第2の分子がペプチドリンカー、好ましくは長さが約10〜30アミノ酸であるペプチドリンカーによってIg分子と融合している、請求項10〜15のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項17】
第2の分子がジスルフィド結合を形成するための付加的なシステイン残基を含む、請求項10〜16のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項18】
Ig分子が、Fcγ受容体に対する親和性が野生型Fc領域と比較して低下しているFc変異型を含む、請求項10〜17のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項記載の二重特異性抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項20】
癌または関節リウマチの治療のための、請求項1〜18のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれか一項記載の二重特異性抗体の重鎖をコードする配列を含む、核酸配列。
【請求項22】
請求項1〜18のいずれか一項記載の二重特異性抗体の軽鎖をコードする配列を含む、核酸配列。
【請求項23】
請求項21および/または請求項22記載の核酸配列を含む、発現ベクター。
【請求項24】
請求項23記載のベクターを含む、原核生物宿主細胞または真核生物宿主細胞。
【請求項25】
特に実施例を参照して、本明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2013−505732(P2013−505732A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531338(P2012−531338)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064209
【国際公開番号】WO2011/039126
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(512036384)ロシュ グリクアート アーゲー (8)
【Fターム(参考)】