説明

五フッ化リン及び六フッ化リン酸塩の製造方法

【課題】高純度の五フッ化リンを、単純でかつ経済的な手順で大規模な精製装置または高圧装置を必要とせずに提供することが可能であり、しかも、特別な排ガス処理を必要とする大量の副生ガスを発生させることなく製造可能な五フッ化リンの製造方法を提供すること。
【解決手段】フッ化水素と六フッ化リン酸塩(MPF)とを容器内に導入し、式1の反応に従って、五フッ化リンを生成させることを特徴とする五フッ化リンの製造方法。
MPF+u HF→PF+MF・r(HF) (式1)
但し、MはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上
0≦r≦u
式中HFは化学量論以上使用

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、五フッ化リン及び六フッ化リン酸塩の製造方法に係る。より詳細には、電池用電解質や、有機合成反応の触媒等として有用な六フッ化リン酸塩の製造方法及び六フッ化リン酸塩製造の始発原料として用いられる五フッ化リンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
五フッ化リン(PF)は電子工業において種々の化学反応のフッ素化剤として使用される室温で気体の物質であり、特に、電池の電解液で用いられる六フッ化リン酸塩、DPF(D=Li,Na,K等)製造の出発材料である。その中でもD=Liの場合、六フッ化リン酸リチウムは、リチウム電池の電解質として重要な物質である。六フッ化リン酸リチウムは、極めて安全性が高く、優れた物性を有しており、特にリチウム二次電池には不可欠の物質と目されており、今後ハイブリッド自動車用としても大変期待されている。
【0003】
またD=Agの場合は、光重合の開始・増殖反応に必要な酸を発生させるカウンターイオンとして注目されている。さらにD=NHの場合、医薬中間体の製造に用いられる原料として有用である。
【0004】
この六フッ化リン酸リチウムは従来、フッ化水素中に塩化リチウムを溶解し、これに五塩化リンを加えて製造されている(非特許文献1:[Fluorine Chemistry Vol.1(1950)]。また、フッ化リチウムと五フッ化リンとの反応によっても製造されている(例えば特許文献1、特許文献2)
【0005】
このように五フッ化リンは、六フッ化リン酸リチウム、六フッ化リン酸カリウムなどの高純度六フッ化リン酸塩(DPF:Dは金属)あるいは、トリエチルメチルアンモニウム六フッ化ホスフェイト、テトラエチルアンモニウム六フッ化ホスフェイトなどの六フッ化リン酸化合物を製造するためには、非常に重要な化合物である。しかし、PFを使用して製造する際、共通して問題となる点は、高純度のPFは極めて高価であるため、製造コストが高くなる。
【0006】
PFの製造方法は種々の文献に記載されているが、特に下記の文献が挙げられる。
【0007】
特許文献3(LiPFの熱分解)に記載されている熱分解は、下記化学反応式aに因るが、LiPFの場合、120℃付近で僅かに分解が起こり200〜250℃付近で完全に分解して後にLiFの粉末が残る。さらにNHPFの場合は約250℃、NaPFの場合は約400℃、KPF、CsPFの場合は600℃〜700℃と非常に高温でなければ分解させることが難しく、設備の面でも工業的とは言い難い。
【0008】
DPF→DF(s)+PF(gas) (式a)
【0009】
非特許文献2(液体HF媒体中でのClFを用いたリンのフッ素化)及び特許文献4、非特許文献5(フッ素ガスを用いたリンのフッ素化)に記載の反応は反応速度が大きく反応が爆発的に進行するため反応を制御するのが非常に難しいという問題がある。さらに、高価なフッ素系ガスを使用するため、当然のことながら得られる五フッ化リンも高価なものになってしまう。
特許文献5(三酸化硫酸の存在下でのフッ素スパーとリン酸との反応)の反応収率は12%にしか達しない。
特許文献6(三酸化硫酸の存在下でのフッ化水素を用いた三フッ化ホスホリル(POF)のフッ素化)の反応は収率が劣ることと、硫酸が生成し、HFの存在下では腐食性が極めて高い。
さらに、特許文献7(フッ化カルシウム(CaF)と、リン酸またはモノフルオロ-リン酸と、三酸化硫黄との加熱によるもの)の反応はPFに加えて、HPF・2HOとCaSOを生成し、分離問題と大量の硫酸カルシウムの処分がこの方法が取り組まなければならない問題点である。
特許文献8(六フッ化リン酸(HPF)を高圧下、硫黄系の酸と反応させる方法)の反応は特許文献6同様、硫酸が生成し、HFの存在下では腐食性が極めて高いこと、及び発煙硫酸を使用しても系中の水やフルオロ硫酸(HSOF)とPFが反応し、生じたPFがPOFに分解されてしまう。
【0010】
非特許文献3(三フッ化砒素を用いた五塩化リン(PCl)のフッ素化)、特許文献9(三フッ化リンの塩素化)、特許文献10(三塩化リンの塩素化及びフッ素化)のハロゲン交換法およびクロロフッ素化法は、混成ハロゲン化物(PClF、PCl)やHClを特に所望の最終生成物である五フッ化リンから分離するために大規模な装置を必要とする。
特許文献11(フッ化カルシウムを用いた五塩化リン(PCl)のフッ素化)の反応は加えて250℃〜300℃と非常に高温で反応を行う必要があるが高温であるため炉の部材と反応してしまう等の問題があり、これらの反応はいずれも工業的には不向きである。
【0011】
さらに特許文献12(液相および/または気相のHFを用いた五塩化リン(PCl)のフッ素化)、特許文献13(高純度六フッ化リン酸化合物の製造方法)、特許文献14(五塩化リンとフッ化水素ガスを60〜165℃の範囲で反応させ、得られる五フッ化リンをアルカリ金属フッ化物の無水フッ酸溶液に導入六フッ化リン酸塩の製造方法)に記載されている方法では、五塩化リンが吸湿性の大きな固体であるため取り扱いが難しく、特に、製造設備への原料投入等においてその作業性が悪く、機械化も図りにくいという問題がある。また、五塩化リンが大気中の水分と容易に反応するため、作業中にしばしば有毒な塩化水素ガスが発生し作業環境を悪化させている。
【0012】
また、五塩化リンに含まれている水分が反応系内に混入し、生成した五フッ化リンの一部と混入水分が反応してPOF、POFのようなオキシフッ化リンが副生する。その結果、六フッ化リン酸塩(例えばリチウムの場合)が、LiPOF、LiPOのようなオキシフッ化リン酸化合物となり、製品を汚染し、LiPFの生産性を最終的に悪化させている。またこのオキシフッ化リン酸化合物がリチウム電池の電解質として使用する場合に、電池の特性を損ねる等の問題を生じさせる。
【0013】
この問題を改善するため、いくつかの方法が提案されている。例えば、五塩化リンと無水フッ化水素を反応させ、生成した五フッ化リンと塩化水素との混合ガスをオキシフッ化リンの沸点以下且つ五フッ化リンの沸点以上の温度、例えば−40℃〜−84℃に冷却してオキシフッ化リンを分離した後、無水フッ化水素に溶解したフッ化リチウムと反応させる方法がある(特許文献15(6フッ化リン酸リチウムの製造法))。しかしながら、この方法では、大過剰の塩化水素と五フッ化リンとの混合ガス中から少量のオキシフッ化リンを分離することになり、この分離操作は極めて困難であり、完全にオキシフッ化リンを分離することができない。また、オキシフッ化リン、例えばPOFは沸点と凝固点が近接しているため、捕集装置の閉塞が懸念される等、工業的に受け入れられるには十分な方法とは言えない。
【0014】
またこの方法に限らずリン原料として、塩化物を使用(例えば三塩化リンあるいは五塩化リン)した場合、生成した五フッ化リンに塩化水素が混入する。さらに、五フッ化リンの沸点が−84.8℃であるのに対し塩酸の沸点が−84.9℃であるため、単純な方法では五フッ化リンから塩化水素を分離することは不可能である(特許文献16(ヘキサフルオロリン酸リチウムの製造方法)。
【0015】
一方、非特許文献4[J.Inorg.Nucl.Chem.,1961,Vol.20,pp147−154]では、KPFの解離について検討されている。しかし、この論文においてPFガス発生については否定的であるため、PFガス発生条件などについては全く述べられていない。
【0016】
さらに、最終製品に水分が含有されるようになると、M=Liの場合、LiPFが水分によってLiF、HF、PFに分解され、これらはガス状態で転移されるため、電池内に内圧が形成され、特にHFは有機溶媒と反応を行うのみならず、電池を包んでいるケースの腐食に影響を与えるため、全体的に電池の安定性に悪い影響を与えるようになる。このような理由で電解質として使用されるLiPFは、純度、水分、金属含量、遊離フッ酸などの規格を厳格に制限している。
【0017】
五フッ化リンを得るための最も経済的な方法は、当然のことながら、最も安価な物質を出発原料として利用する方法である。けれども五フッ化リンの製法は上記の通り複雑である。しかも安価な原料から出発しても、生成した五フッ化リンを精製する必要があるため、五フッ化リンの製造コストが高くなり、電解質としての六フッ化リン酸塩を高価なものにしている。
【0018】
従って、高純度六フッ化リン酸塩(DPF:Dは金属元素)あるいは、高純度六フッ化リン酸化合物を安価で製造するためには、五フッ化リンの製造コストが最も重要になってくる。つまり、水分の混入による悪影響を抑えること、及び、作業環境を考慮した場合、五酸化リンなどの(無水)酸化物原料あるいは、吸湿性の高い塩化物、臭化物原料を使用しない原料を出発原料として利用できる方法を採用する必要がある。
【特許文献1】米国特許第3,607,020号
【特許文献2】特開昭64−72901号公報
【特許文献3】特開2000−154009号公報
【特許文献4】特開2001−122605号公報
【特許文献5】フランス特許第2,086,704号
【特許文献6】フランス特許第2,082,502号
【特許文献7】米国特許第3,634,034号公報
【特許文献8】特表2005−507849公報
【特許文献9】米国特許第3,584,999号公報
【特許文献10】特許3494343号公報
【特許文献11】ドイツ特許290,889号公報
【特許文献12】特開平60−251109
【特許文献13】特開平04−175216号公報
【特許文献14】特開平06−056413号公報
【特許文献15】特開平5−279003号公報
【特許文献16】特開平11−92135号公報
【非特許文献1】Fluorine Chemistry Vol.1(1950)
【非特許文献2】「液体HF媒体中でのClF3を用いたリンのフッ素化」:クリフォード(Clifford)、ビーチェル(Beachell)、ジャック(Jack) Inorg. Nucl. Chem(1957年),5,57−70
【非特許文献3】「三フッ化砒素を用いた五塩化リン(PCl5)のフッ素化」:Ruff Die Chemedes Fluoros (1992年),239頁
【非特許文献4】[J.Inorg.Nucl.Chem.,1961,Vol.20,pp147−154]
【非特許文献5】グロス(Gros)、ヘイマン(Hayman)、スチュアート(Stuart)、Trans.Faraday Soc.(1996年),62(10),2716−18
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
高純度の五フッ化リンを、単純でかつ経済的な手順で大規模な精製装置または高圧装置を必要とせずに提供することが可能であり、しかも、五フッ化リンが発生した場合には特別な排ガス処理を必要とする大量の副生ガスを発生させることなく製造可能な五フッ化リンの製造方法を提供することを目的とする。
また、単純でかつ安価に高純度低水分の六フッ化リン酸塩を製造することが可能な六フッ化リン酸塩の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の課題を解決するために、本発明者等が鋭意研究を行なったところ、六フッ化リン酸化合物とフッ化水素から製造した五フッ化リンを用いることにより、単純でかつ安価に高純度低水分六フッ化リン酸塩を製造することを見いだし、本発明に到達したものである。
【0021】
本発明は、フッ化水素と六フッ化リン酸塩(MPF)とを容器内に導入し、式1の反応に従って、五フッ化リンを生成させることを特徴とする五フッ化リンの製造方法である。
MPF+u HF→PF+MF・r(HF) (式1)
但し、MはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上
0≦r≦u
式中HFは化学量論以上使用
【0022】
また、本発明は、フッ化金属(AF)と(請求項1ないし7のいずれか1項記載)の方法で得られた五フッ化リンとを式5の反応に従って、高純度且つ低水分濃度の六フッ化リン酸塩(APF)を生成させることを特徴とする六フッ化リン酸塩の製造方法である。
PF+AF→APF (式5)
但し、AはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上
【0023】
六フッ化リン酸塩の製造方法は、固体のフッ化金属あるいは酸性フッ化金属と気体の五フッ化リンを反応させる方法、無水フッ化水素を溶媒として、溶解したフッ化金属あるいは酸性フッ化金属と気体状の五フッ化リンを反応させる方法、あるいは、有機溶媒中でフッ化金属あるいは酸性フッ化金属と気体状の五フッ化リンを反応させる方法のいずれであっても良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、高温領域でなくとも(120℃未満)、五フッ化リンを発生させることが可能であり、また塩化物や臭化物を使用しないため塩化水素ガスや臭化水素ガスなどが発生しない。
さらに、本発明によれば、操作も単純であるため、安価に六フッ化リン酸塩APF(A=Li,Na,K,Rb,Cs)が合成出来、ハイブリッド自動車用として今後さらに発展が見込まれる電池の電解液で使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明では、塩素、臭素など、フッ素以外のリンのハロゲン化物あるいは(無水)酸化物原料を使用せず、且つ工業的にも安全な方法で、比較的低温で、純度の高いAPF(A=Li,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上)を製造する方法である。
【0026】
より具体的には、六フッ化リン酸塩(MPF)とフッ化水素を容器内に導入し、下記化学反応式1の反応に従って、反応系内を反応混合物の沸点以上に加熱することで、五フッ化リンを生成させることを特徴とする五フッ化リンの製造方法である。但し、MはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上であり、必ずしも高純度品でなくとも構わない。
【0027】
MPF+u HF→PF+MF・r(HF) (式1)
0≦r≦uであり、式中HFは化学量論以上使用する。
【0028】
さらにこの方法で得られた五フッ化リンとフッ化金属(AF)とを、下記化学反応式5の反応に従って、高純度且つ低水分濃度の六フッ化リン酸塩(APF)を生成させることを特徴とする六フッ化リン酸塩の製造方法。但し、AはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上である。
【0029】
PF+AF→APF (式5)
【0030】
さらにMPFは、下記化学反応式2の反応により合成されたものであることを特徴としている。
MF・r(HF)+HF+HPO→MPF+yHO (式2)
但し、r≧0、0≦x≦3、1≦y≦4、0≦z≦6、その中でも好ましくは0≦z≦5、さらに特に好ましくは0≦z≦3であり、式中HFは化学量論以上使用する。
またMPFは、下記化学反応式3および式4の反応により合成されたものであることを特徴としている。具体的には式3に従い、HPO水溶液とフッ酸水溶液とを反応させた後、一旦固体として六フッ化リン酸水和物結晶(HPF・qHO)を取り出し、次いで式4に従って取り出したHPF・qHOとMF・r(HF)の反応によってMPFを合成する。
PO+pHF→HPF・qHO (式3)
(但し、q≧1)
HPF・qHO+MF・r(HF)→MPF+(r+1)HF+qHO (式4)
【0031】
なお、下記化学反応式2〜式4において、HPOに対するHFの添加割合は、1当量以上であれば問題ないが、添加割合が少ない場合、反応後のフッ酸濃度が低くなるため1.5当量以上が好ましい。さらに添加割合を増やせば反応後のフッ酸濃度を高めることが出来るが、工業的に不経済となるため10当量未満が好ましい。一方、生成するMPFの溶解度はHF濃度の増加に伴い低くなるため収率を高めることが可能である。しかし溶解度が低くともHF量が多いことによってMPFの溶解量が増え、収率が低下するため、その中でも2当量以上7.5当量以下が特に好ましい。
【0032】
また上記化学反応式1により生成したMF・r(HF)を上記化学反応式2または式4に再利用することを特徴としている。
【0033】
加えてMはNa,K,Rb,Cs,NHの何れか、AはLiであることを特徴としている。さらにAPF製造時に流出するP含有ガスを、水、フッ酸、MF・r(HF)(MはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上)の少なくとも1種を含む吸収液を使用し、式2〜式4によって回収・再利用することを特徴としている。
【0034】
より具体的には、反応槽にMPF及びHFを導入し、MPF/HF液を20〜120℃未満に加温することにより、上記化学反応式1の反応に従って、PFガスを発生させる。さらにその後、上記化学反応式5の反応に従って、金属フッ化物(AF)、あるいは酸性金属フッ化物(AF・r(HF))と本発明により発生したPFガスを反応させることによって、高純度で低水分(水分濃度:50重量ppm以下)の六フッ化リン酸塩(APF)を製造することが出来る。但し、MとAは同じであっても、異なっていても構わない。
【0035】
反応に使用するMPFは、公知の方法によって合成されたものであっても構わない。さらに純度の低いMPF(例えば金属不純物量が多いなど)を利用しても構わない。さらに合成過程で生じたMPFが含まれた母液であっても構わない。
【0036】
ここでMはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れであっても構わない。その中でもMは水溶液系で上記化学反応式2又は式4によって、水分濃度1000重量ppm以下の六フッ化リン酸塩の合成が容易な化合物が好ましい。
【0037】
ただし、上記化学反応式2又は式4においてM=Li,Agの場合、水溶液系での合成が、比較的難しいため、上記化学反応式2又は式4にて容易に合成可能なNaPF,KPF,RbPF,CsPF,NHPFの少なくとも1種以上が好ましい。さらに上記化学反応式2〜式4に加え、特公平5−72324号公報に記載されているリン酸のカリウム化合物とフッ化水素酸との反応によりKPFを合成するという技術によっても容易に合成が可能な点、さらに吸湿性が小さい点、原料が安価に容易に入手可能などの点からKPFが特に好ましい。ただし、特公平5−72324号公報では、無水フッ化水素を使用しなくとも、60〜97重量%のフッ酸を用い、リン酸のカリウム化合物(第一リン酸カリウムあるいはポリリン酸カリウム)とを反応させることによって、六フッ化リン酸カリウムを合成しているが、この方法は、五酸化リンほど反応は激しくないものの、フッ酸中にカリウム塩を添加する際、反応の進行とともに溶液の温度が急上昇すると記載されている。さらに六フッ化リン酸ルビジウム、六フッ化リン酸セシウムもこの方法を応用すれば合成が可能かもしれないが、その場合、第一リン酸ルビジウム、第一リン酸セシウム、ポリリン酸ルビジウム、ポリリン酸セシウムが容易に入手出来ないため、本発明の方法が好ましい。
【0038】
上記化学反応式2〜式4の方法によって水溶液中で合成したLiPF,NaPF,KPF,RbPF,CsPF,NHPF,AgPFは、水溶液系での合成のため、若干水分を含んでいる。NaPF,KPF,RbPF,CsPF,NHPF,AgPFについては、熱分解温度がかなり高いため、120℃未満の乾燥で水分量を低下させる(水分含量1000重量ppm以下)ことは可能である。しかし、LiPFについては120℃で一部熱分解が始まるため、どうしても1000重量ppm程度の水分を含んでしまう。しかし、吸湿性の五塩化リン使用する方法(持ち込み水分が1〜10重量%)に比べ、反応系への持込水分が極めて少ない(1000ppm程度)ため、下記化学反応式6の反応が起こりにくく、収率を高めることが可能となる。
【0039】
MPF+gHF+HO→POF+MF(HF)0≦n≦g (式6)
【0040】
一方、Aは上記とは逆であり、Li,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れであっても構わないが、Li,Na,NH,Agが好ましく、その中でも水溶液系での合成が比較的難しいLi,Agがさらに好ましい。さらに近年のリチウム二次電池に不可欠な物質であるLiが特に好ましい。
【0041】
フッ化水素は、95重量%以上であれば問題ないが、上記化学反応式5の通り、系中に存在する水分によって、発生したPFがPOFになるため、好ましくは97重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。さらにフッ化水素に濃硫酸を添加し、フッ化水素中の水分を除去しても構わない。このように高純度フッ化水素でも、通常10ppm程度の水分を含むが、そのまま使用しても構わない。さらに必要であれば、精留して更に水分を除くことも可能である。
【0042】
原料の投入方法は特に限定されず、六フッ化リン酸塩(MPF)を反応槽に入れた後にフッ化水素を投入しても構わないし、フッ化水素を先に反応槽に仕込んだ後にMPFを投入しても構わない。ハロゲン化リン、例えば五塩化リンとフッ化水素を反応させる場合は、溶解時の熱量よりも反応熱が極めて大きく、反応のコントロールが難しく、反応熱によって反応液が沸騰し、五フッ化リン、フッ化水素および塩化水素ガスが投入口から噴出する等好ましくない。このことは(無水)五酸化リンの場合も同様である。ところが、MPFをHFに溶解させてもほとんど発熱しないため、反応のコントロールが容易で工業的にも優れている。
【0043】
五フッ化リンの発生に使用するフッ化水素は、MPFの濃度が1重量%〜50重量%となる量を液体状態で使用する。MPFは、必ずしもフッ化水素に完全に溶解している必要はなく、懸濁状態でもよい。しかしあまり希薄過ぎると反応槽が大きくなるので、MPFの濃度は2.5重量%〜40重量%が好ましい。
【0044】
またMPFの溶解度はカチオンサイズに反比例しており、カチオンサイズが最も小さいリチウムの場合が、溶解度が最も高い。従って溶解度を高めるために、Mよりもカチオンサイズの小さなM’FあるいはM’F・r(HF)の少なくとも何れか一方(但し、M’は1種以上)を添加し、塩交換を行った液を用いても構わない。また塩交換を行った後の液をそのまま用いても構わないが、溶解したもののみを取り出して使用しても構わない。さらに必要であれば、1種または複数の触媒の存在下で実施することもできる。
【0045】
五フッ化リンの発生の反応に際しては、発生する五フッ化リンにフッ化水素が随伴するが、必ずしもこれを冷却しフッ化水素を凝縮させて還流を行う必要は無く、五フッ化リン及びフッ化水素を次の反応にそのまま使用しても構わない。しかし、反応系内のフッ化水素の量が少なくなると反応が進み難くなるため、還流を行わない場合は、適時反応槽へフッ化水素を供給する。還流を行う場合、還流塔の温度はフッ化水素の沸点(1気圧の場合、+19.5℃)以下であれば問題ないが、よりフッ化水素をトラップするため+10℃〜−50℃、好ましくは+5℃〜−25℃以下、さらに好ましくは0℃〜−10℃である。還流塔の温度を-50℃より低い温度で操作しても効果は殆ど変わらないため、極低温の還流装置を用いる必要はない。しかるに、五塩化リン等のハロゲン化リンをPF原料として使用する場合は、吸湿性の強い固体であるため、相当量の水分を反応系に持ち込むことになり、発生したPFガスの一部が分解したPOFガスが発生する。あわせて、反応により副生したハロゲン化水素が発生しこれらがキャリアーガスとなって多量のフッ化水素を随伴するため、反応系から大量にフッ化水素をもちだすことになる。これらの随伴ガスからフッ化水素をトラップし回収するためには−50℃以下の極低温に冷却することが好ましく、極低温発生装置等、およびその運転において多大なコストがかかることになる。それに比し本発明では還流操作を行なうに際し−50℃以下の極低温は必要なくコストが低減出来る。
【0046】
反応の進行とともにMF・r(HF)が増加してくるため、上記化学反応式1の逆反応である下記化学反応式7が起こるようになる。そのため、反応の進行とともにPFガスの発生が起こりにくくなる。これを抑えるため、反応系から随時MF・r(HF)を抜き取ることを行っても良い。MF・r(HF)を抜き取る場合、固体として析出しているものを系から抜き取る方法、MF・r(HF)が溶解したHF溶液を随時抜き取るなどのいずれの方法であっても構わない。また還流されたHF中に少量のHPFが含まれている。このHPFは無水HF中で不安定であり、反応槽に戻ることで、MF(HF)と再度反応し安定なMPFになる。そのため、還流液を直接反応槽に戻さず、別の反応槽に入れ、PFガスを発生させても構わない。
【0047】
PF+MF・r(HF)→MPF+rHF (式7)
【0048】
上記化学反応式1における反応時の圧力は特に限定されないが、あまりにも高圧・あるいは減圧にすると設備の面で負荷が大きいため、常圧で行うことが好ましいが、所望の場合には、加圧、または減圧下で行っても構わない。
【0049】
さらに上記化学反応式1における反応部材及び還流塔部材は、例えば鋼またはステンレス鋼・合金・特にクロム/ニッケル/鉄/銅基合金・例えば商品名Inconel(登録商標)、Monel(登録商標)およびHastelloy(登録商標)、フッ素樹脂(Polytetrafluoroethylene:「PTFE」)製、PFA樹脂(Tetrafluoroethylene PerfluoroalKylvinylether Copolymer)製、あるいは装置をこれらフッ素樹脂で被覆を行ったものから選択することができる。
しかし、例えば五塩化リンまたは三塩化リンと塩素等のハロゲン化物を五フッ化リン発生の原料として使用する場合は、その原料自体の持ち込み水分、副生するHCl、および反応系のHF全てに対応可能な高級な部材を使用しなければならないため、使用可能な部材が限られる。従って設備費用の増大に繋がるが、本発明の方法では、持ち込み水分量が低く(1000重量ppm以下)且つ、HCl等のハロゲン化水素も副生しないため、フッ化水素のみに耐えられる材質であれば良い。
またこの方法ではPFガスを間接的に発生させ、続く化学反応式5の反応槽へ送られるため、上記化学反応式1における容器内の金属不純物がPFガスに混入することがない。つまり五塩化リンを使用する際に問題となっていた金属不純物の問題を考慮する必要がないため、使用するMPFは水分含量が1000重量ppm以下であれば、金属不純物濃度が高い原料でも使用出来るためコストダウンに繋がる。従って、本発明の方法で発生したPFガスは高純度でありながら安価を達成することが可能である。
【0050】
さらに上記化学反応式1における反応系の温度は、反応系の沸点で操作することが好ましい。つまり、操作圧力と、反応系のMPF濃度および生成するMF・r(HF)の濃度によって決まる反応系の沸点で反応を操作することにより沸騰で発生するフッ化水素がキャリアーガスとなり生成した五フッ化リンを反応系外へ取り出せるのであり、反応系の沸点以下では上記化学反応式1の反応が進行しにくく、五フッ化リンを発生させることが困難である。例えば1気圧の場合、溶液中のMPF濃度とMF・r(HF)の濃度に応じて19.5℃〜50℃未満の範囲で沸点が定まる(1気圧でのフッ化水素の沸点:+19.5℃)。当然のことながら、操作圧力が高くなると、その沸点は高くなり、操作圧力を減じるとその沸点は低くなる。圧力を高くして操作を高い温度で行なうと、反応速度は大きくなるが、高圧に耐えうる設備が要求される。圧力を低くして低温で操作を行なうと反応速度が小さくなる。
【0051】
そこで、反応系の温度、あるいは反応器を構成する機材の耐圧強度、ならびに反応速度等の要素を加味し経済性を評価すると、反応系の温度は0℃〜50℃、圧力は絶対圧力で0.5気圧〜10気圧の範囲で操作することが好ましく、15℃〜35℃、その中でも0.8気圧〜1.5気圧の範囲、反応系内の温度20℃〜30℃で操作すると更に好ましい。
【0052】
反応系の加温に使用する熱媒体は、反応系の沸点以上であれば特に限定されず、スチーム等が使用出来るが、120℃より高い温度の場合、付帯設備やランニングコストが高価になる等、不都合が生じるため、120℃未満となるように、外部から熱源を加えることが好ましい。
【0053】
さらに上記化学反応式1における反応は、バッチ式又は連続式の何れかで行うことができる。さらに反応時間も特に限定されない。しかし、生産効率を考えると、バッチ式の場合は、24時間以内で発生させることが好ましい。
【0054】
また、発生した五フッ化リンを反応系外へ取り出す効果を助長するために、反応系と相互作用を持たない、ドライエアー、N、Ar等の不活性ガスをキャリアーガスとして適当量使用することもできるがこの場合、多量に不活性ガスを使用することは、経済上の問題、あるいは、随伴フッ化水素量を増長するため好ましくない。
【0055】
本発明で発生するPFは1000重量ppm以下の水分含量であるMPF原料を使用するため、POF等のオキシ物が生成することがないため、精製の必要がない。またハロゲン化物原料を使用していないため、ハロゲン化水素が混入する等の問題が一切無い。
さらに上記化学反応式1により生成したMF・r(HF)を上記化学反応式2または式4に再利用することでMF・r(HF)を循環させることが出来るため、非常に優れている。
【0056】
六フッ化リン酸塩(特に好ましくは六フッ化リン酸リチウム:LiPF)の製造方法(上記化学反応式5)は、固体のフッ化金属:AF(特に好ましくはフッ化リチウム:LiF)と本発明によって得られた気体の五フッ化リンを反応させる方法、無水フッ化水素を溶媒として、溶解したフッ化金属:AF(特に好ましくはフッ化リチウム:LiF)と本発明によって得られた気体状の五フッ化リンを反応させる方法、あるいは、有機溶媒中でフッ化金属:AF(特に好ましくはフッ化リチウム:LiF)と本発明によって得られた気体状の五フッ化リンを反応させる方法のいずれであっても良い。なお、無水フッ化水素を溶媒とする場合は化学反応式5の反応を抑制するために冷却等の処置を行って、沸点以下(例えば19.5℃以下)で反応を行なわせることが好ましい。
【0057】
但し、上記化学反応式5の反応槽は、無水フッ酸(HF)に耐えられる材質であれば使用できるが、もし工程上の問題点、すなわち漏洩や空気中に露出した場合など、材質が濃フッ酸と反応し、腐食されるおそれがある。反応装置が腐食されると、必然的に製品が腐食された物質によって汚染されるようになり、これら汚染物質は製品の金属成分含量を増加させる要因として作用するようになる。これらのことから、金属成分管理のために、構成される装置、配管等はフッ素樹脂(例えばPTFEまたはPFA等)で被覆を行うことが好ましい。
【0058】
塩の状態である六フッ化リン酸塩(DPF:Dは金属元素)は、無水HF中の方が安定なため、簡単には解離せずPFガスを発生させることは難しい。一方、酸の状態である六フッ化リン酸(HPF)は、無水HF中ではHPFとして安定に存在することが出来ずに、容易に解離してガス化する。これは無水HFにPFはほとんどあるいは全く吸収されず、水の非存在下ではHPF錯体が形成しないことは公知なことに合致する。
【0059】
さらに上記式5の反応時、より高純度なものを製造する、あるいはより収率を上げるなどの目的で、フッ化金属(AF)に対して、PFガスを過剰量反応させる。しかし、余剰のPFが反応系外へ流出しリンの収率低下を招来する。
このリン源ロスを極力減らすため、0〜80重量%の水またはフッ酸水溶液、もしくは、M塩(M塩はLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agのいずれか一種以上の炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物のいずれか1種以上)を溶解させた0〜80重量%の水またはフッ酸水溶液を吸収液として反応系から流出する余剰のPF由来のガスを吸収させ、MPF、もしくはHPO(0≦x≦3、1≦y≦4、0≦z≦6)として回収する。さらにその中でも特に好ましくはMF・r(HF)のフッ化物を溶解させた0〜80重量%の水またはフッ酸水溶液に反応系から流出する余剰のPF由来のガスを吸収させ、MPF、もしくはHPFとして回収する。ここで、MF・r(HF)は上記M塩とフッ酸の反応により得られたものであっても構わない。
【0060】
ここでこの流出ガスはいったん水またはフッ酸水溶液に吸収させて式2または式3での反応に供しても良いが、HF水溶液に、あらかじめM塩(M塩はLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agのいずれか一種以上の炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物のいずれか1種以上)が添加されていた方が効率良くリン源を吸収出来好ましい。さらにその中でもMF・r(HF)(r≧0)が特に好ましい。また添加するMF・r(HF)の溶解度が高い一方でMPFの溶解度が低く反応系からの分離が容易なK,Rb,Cs,NHのフッ化物塩が好ましい。さらにその中でも原料が容易に入手出来、排水等の問題を考慮するとNa,Kが最も好ましい。なお、吸収方法は特に限定されず、充填塔・多段塔・スプレー塔などを用いた公知の方法で行う。
【0061】
このようにする事で循環型の製造を行うことが出来、原料のロスも極めて低くなる。さらに、本発明によって得られた五フッ化リン、または六フッ化リン酸塩は、水分含量50重量ppm以下、遊離酸50重量ppm以下でありながら安価に製造することが可能である。
【0062】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0063】
なお実施例および比較例はすべて大気圧で行った。
(実施例1)
図1に示す装置を用いて以下の実施を行った。
市販の六フッ化リン酸カリウム(KPF)50gと無水フッ化水素(HF)2000gを回転子と共に5Lフッ素樹脂(PFA)製の反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。PFA反応槽をウォーターバスで反応槽外部温度を45℃に加温すると同時に、還流塔は−50℃のブラインで冷却した。さらにマグネチックスターラーで反応液を攪拌させた。バス温が上昇していくとHFの還流が始まった。その時の内部のHF温度は21℃であった。
【0064】
5分後、還流塔からガスが発生してきた。このガスをFTIRで分析を行った。その結果、PFと少量のHFであることが確認できた。
【0065】
(実施例2)
六フッ化リン酸リチウム(LiPF)330gと無水HF2000gを回転子と共に5L−PFA製反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。PFA反応槽をウォーターバスで80℃に加温すると同時に、還流塔は0℃のブラインで冷却した。さらにマグネチックスターラーで反応液を攪拌させた。バス温が上昇していくとHFの還流が始まった。その時の内部のHF温度は30℃であった。
【0066】
還流塔から発生したガスをFTIRで分析を行ったところ、PFと少量のHFであることが確認できた。また同時に発生したガスを純水に4時間吸収させ、吸収液のP含量を測定し、発生したPFガス重量を計算したところ、205gであり、75%発生させることが出来た。
【0067】
(実施例3)
六フッ化リン酸アンモニウム(NHPF)90gと無水HF2000gを回転子と共に5L−PFA製反応槽に入れ、マグネチックスターラーで反応液を攪拌させた。実施例3では還流塔を設置させずに行った。発生したガスをFTIRで分析すると同時に、純水に吸収させた。PFA反応槽をウォーターバスで65℃に加温するとフッ化水素が蒸発し、吸収液である純水と激しく反応した。発生したガスのFTIR分析を行ったところ、PFと多量のHFであることが確認できた。6時間純水に吸収させ、吸収液のP含量を測定し、発生したPFガス重量を計算したところ、43gであり、62%発生させることが出来た。
【0068】
(実施例4)
六フッ化リン酸セシウム(CsPF)1.5kg及びフッ化リチウム(LiF)140gと無水フッ化水素(HF)18kgを回転子と共に20L−PTFE反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。さらに別途フッ化銀(AgF)210gと無水HF500gを回転子と共に3L−PFA反応槽に入れ溶解させ、還流塔の出口を3L−PFA反応槽に接続し、発生したガスが3L−PFA反応槽で吸収出来るようにした。20L−PFA反応槽はウォーターバスで70℃に加温、3L−PFA反応槽は氷浴で冷却した。還流塔は0℃のブラインで冷却した。2つの反応槽はそれぞれ攪拌を行った。
【0069】
徐々に20L−PFA反応槽の温度が上がり内部温度は23℃となり、HFの還流が始まった。それとほぼ同時に3L−PFA反応槽の温度が0℃から5℃に上昇した。反応を6時間行った後、3L−PFA反応槽を還流塔から外し、−40℃に冷却して48時間晶析を行った。次に、3L−PFA反応槽の上澄み液をゆっくり抜き取り、固液分離を行った。分離後、Nを3L/分でボトル内に導入し、風乾を行った。さらにその後、85℃の乾燥機で3時間、乾燥を行ったところ、395gの結晶が得られた。
【0070】
得られた結晶をXRDで分析したところ、六フッ化リン酸銀(AgPF)に帰属された。また、水分含量は、50重量ppm以下で、且つ遊離フッ酸濃度は50重量ppm以下であった。なお水分含量は水分測定計にて測定を行い、遊離フッ酸濃度については、水酸化ナトリウムによる滴定により求めた。
【0071】
(実施例5)
[第I工程]10L−PTFE反応槽に酸性フッ化カリウム(KHF)を1.2kg入れ、半導体グレードの75%HF 5.25kgを氷浴で冷却しながらゆっくり加えた。さらに85%重量リン酸(HPO)1.3kgを30分かけて添加した。+20℃のウォーターバスで6時間攪拌を行い、反応・晶析を行った。次に、得られた沈殿物を吸引濾過により濾別した。回収した結晶を水で洗浄を行い、その後、105℃で6時間乾燥した。得られた結晶の収量は1.35kg(収率65%)であった。更に、得られた結晶のXRD測定を行ったところ、KPFであることが分かった。得られた結晶の収量が1.35kgであることから収率は65%であった。
【0072】
[第II工程]上記で得られたKPF1.2kgと無水フッ化水素(HF)6kgを回転子と共に10L−PTFE反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。さらに別途、LiF 95gと無水HF1200gを回転子と共に2L−PTFE反応槽に入れ溶解させ、還流塔の出口を2L−PTFE反応槽に接続し、発生したガスが2L−PTFE反応槽で吸収出来るようにした。さらに排ガスを吸収させるため、2L−PTFE反応装置の後段に3L−PTFE反応槽を接続した。この3L−PTFE反応槽には、50重量%HF 2kgにKF・(HF)50gを溶解させた液を用いた。
【0073】
10L−PTFE反応槽は85℃のウォーターバスで加温し、2L−PTFE反応槽、及び3L−PTFE反応槽は氷浴で冷却した。還流塔は0℃のブラインで冷却した。3つの反応槽はそれぞれ攪拌を行った。
【0074】
徐々に10L−PTFE反応槽の温度が徐々に上がり内部温度は25℃となり、HFの還流が始まった。それとほぼ同時に2L−PTFE反応槽の温度が0℃から8℃に上昇し、徐々に溶液が白濁してきた。
【0075】
[第III工程]
反応を8時間行った後、2L−PTFE反応槽を還流塔から外し、−40℃に冷却しながら4時間攪拌を行った。得られた結晶物を濾過にて固液分離を行い、得られた結晶を1L−PFA容器に移し、室温下、3L/分の流量でNを4時間導入し風乾させた。その後、1L−PFA容器を85℃で3時間乾燥を行ったところ480gの結晶を得ることが出来た。
【0076】
得られた結晶の分析を行ったところ、LiPFに帰属され、水分含量50重量ppm以下、且つ遊離フッ酸濃度50重量ppm以下であった。
【0077】
[第IV工程]
3L−PTFE反応槽から液を抜き取り、イオンクロマトグラフ分析を行ったところ、PF6−アニオンが検出された。このことから、排ガスもトラップ出来、原料として再利用することが出来ることを示している。
【0078】
[第V工程]さらに反応後の10L−PTFE反応槽を還流塔から外し、35℃のウォーターバスで溶液を濃縮し、粘性のあるKPF/KF・v(HF)(v≧0)を含むHF溶液を回収した。この溶液は第I工程で再利用が可能であった。
【0079】
(比較例1)
KPF 200gと無水HF 2000gを回転子と共に5L−PFA製反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。さらに還流塔上部からPFA配管で純水を入れた吸収槽に接続した。PFA反応槽を氷浴で15℃に保持すると同時に、還流塔は0℃のブラインで冷却した。さらにマグネチックスターラーで反応液を攪拌させた。反応槽内部温度は14.2℃であり、この状態で反応液の沸騰は起らず還流は観察されなかった。
【0080】
4時間後、吸収槽の吸収液をICP−AESでPの分析を行い、発生したPFガス重量を求めたところ、0gであり、全く発生していなかった。
【0081】
(従来例)
本例は、特許文献8に記載されている従来例を示す例である。
5L−PFA製反応槽にポリリン酸790g(9.4モル)を添加し、無水HF 1235g(61.7モル)を冷却により25℃に保持しながら、攪拌下加えた。さらに無水HF150gを添加して、前記溶液中で25%過剰のHFを得た。反応槽を還流塔(−50℃に冷却)に接続し、温度を32℃に保ち、発煙硫酸(65%SO)1781g(14.5モル)を3時間かけて加えた。発生したガスをFTIRで分析を行った。その結果、POFに極少量のPFが含まれていた。
【0082】
以上の結果より、フッ化水素溶媒中で六フッ化リン酸塩(MPF)とフッ化水素を反応させ、反応系の沸点以上に加熱することで、五フッ化リンを生成させることが可能であり、120℃以上の高温でなくとも五フッ化リンを容易に発生させることが出来る。さらに本発明で得られた五フッ化リンとフッ化金属(AF)を反応させることで、低水分・高純度な六フッ化リン酸塩(APF)を比較的簡易で単純に製造することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により製造される六フッ化リン酸塩は、電池用電解質や、有機合成反応の触媒等として利用される。
その中で特に六フッ化リン酸塩APF(A=Li,Na,K等)は電池(パソコン関連用、携帯電話用、ハイブリッド自動車用などの電解液として使用される。さらにA=Agの場合は、光重合の開始・増殖反応に必要な酸を発生させるカウンターイオンとして利用される。さらにA=NHの場合、医薬中間体の製造に用いられる原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例に用いた装置の概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素と六フッ化リン酸塩(MPF)とを容器内に導入し、式1の反応に従って、五フッ化リンを生成させることを特徴とする五フッ化リンの製造方法。
MPF+u HF→PF+MF・r(HF) (式1)
但し、MはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上
0≦r≦u
式中HFは化学量論以上使用
【請求項2】
式1の反応を反応混合物の沸点に加温することを特徴とする請求項1記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項3】
式1の反応系の加熱に使用する熱媒体を20℃以上120℃未満の温度に加温することを特徴とする請求項1または2記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項4】
MPFは式2の反応により合成されたものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の五フッ化リンの製造方法。
MF・r(HF)+HF+HPO→MPF+yHO (式2)
但し、r≧0、0≦x≦3、1≦y≦4、0≦z≦6
式中HFは化学量論以上使用
【請求項5】
MPFは式3および式4の反応により合成されたものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の五フッ化リンの製造方法。
PO+pHF→HPF・qHO (式3)
(但し、q≧1)
HPF・qHO+MF・r(HF)→MPF+(r+1)HF+qHO (式4)
【請求項6】
式1により生成したMF・r(HF)を式2または式4に再利用することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項7】
MはNa,K,Rb,Cs,NHの何れかであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項8】
フッ化金属(AF)と請求項1ないし7のいずれか1項記載の方法で得られた五フッ化リンとを式5の反応に従って、高純度且つ低水分濃度の六フッ化リン酸塩(APF)を生成させることを特徴とする六フッ化リン酸塩の製造方法。
PF+AF→APF (式5)
但し、AはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上
【請求項9】
AはLiであることを特徴とする請求項8記載の六フッ化リン酸塩の製造方法。
【請求項10】
APF製造時に流出するP含有ガスを水、フッ酸、M(MはLi,Na,K,Rb,Cs,NH,Agの何れか一種以上)の少なくとも1種を含む吸収液を用いて回収再利用することを特徴とする請求項4ないし5記載の五フッ化リンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−195548(P2008−195548A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29406(P2007−29406)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】