説明

五フッ化リン及び六フッ化リン酸塩の製造方法

【課題】 製造コストを抑制し、かつ、安価で低品位の原料から高品位の五フッ化リンを製造することが可能な五フッ化リン及び六フッ化リン酸塩の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の五フッ化リンの製造方法は、少なくともリン原子及びフッ素原子を含み構成される原料にキャリアガスを接触させることにより、前記キャリアガス中に五フッ化リンを抽出させて分離することを特徴とする。また、本発明の六フッ化リン酸塩の製造方法は、前記五フッ化リンの製造方法により得られた五フッ化リンと、フッ化物とを下記化学反応式に従い反応させて、六フッ化リン酸塩を生成させることを特徴とする。
sPF+AF→ A(PF(但し、式中、sは1≦s≦3であり、AはLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Ag、Mg、Ca、Ba、Zn、Cu、Pb、Al及びFeからなる群より選択される少なくとも何れか1種である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、五フッ化リン及び六フッ化リン酸塩の製造方法に関する。より詳細には、蓄電素子用電解質や、有機合成反応の触媒等として有用な六フッ化リン酸塩の製造方法及び六フッ化リン酸塩製造の始発原料として用いられる五フッ化リンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CO排出削減の切り札として期待されているハイブリッド自動車や電気自動車に於いては、リチウムイオン二次電池がキーデバイスとして位置づけられている。当該リチウムイオン二次電池の電解質としては、安全性が高く、しかも優れた電気的特性を有する六フッ化リン酸リチウムが挙げられる。当該六フッ化リン酸リチウムを含む六フッ化リン酸塩は、五フッ化リン“PF”を出発原料として製造される。当該五フッ化リンは、化学工業に於いて種々の化学反応のフッ素化剤として使用され、室温で気体の物質である。
【0003】
一方、六フッ化リン酸塩の一種である六フッ化リン酸銀“AgPF”や六フッ化リン酸カリウム“KPF”は、光重合の開始・増殖反応に必要な酸を発生させるカウンターイオンとして注目されている。また、六フッ化リン酸アンモニウム“NHPF”は、医薬中間体の製造に用いられる原料として有用である。更に、トリエチルメチルアンモニウム六フッ化ホスフェイト、テトラエチルアンモニウム六フッ化ホスフェイト等の四級アンモニウム塩は大出力の蓄電素子として期待されている電気二重層コンデンサーの電解質として有用である。
【0004】
この様に六フッ化リン酸塩は多種多様な分野で求められる機能に応じて必要不可欠な物質として使用されており、PFはその六フッ化リン酸塩を製造するための原料として非常に重要な物質である。しかし、PFを使用して六フッ化リン酸塩を製造する場合、共通して問題となるのはPFの製造コストである。特に、リチウムイオン二次電池等の電解質に使用可能な高品位の六フッ化リン酸塩の製造に用いられる高純度のPFは極めて高価である。
【0005】
PF及び六フッ化リン酸塩の製造方法については、下記に例示するように種々の文献に記載されている。
特許文献1には、原料を熱分解することによりPFを製造する方法が開示されている。例えば、LiPFの熱分解の場合(下記式1)、LiPFは120℃付近で僅かに熱分解が起こり、200〜250℃付近で完全に熱分解する。その後、LiFの粉末が残る。また、NHPFの場合は約250℃、NaPFの場合は約400℃、KPF及びCsPFの場合は600℃〜700℃で熱分解が起こり、非常に高温で加熱をしなければPFの製造は困難である。これにより、高価な耐熱仕様の製造設備が必要となり、製造コストが増加するため、特許文献1に開示の製造方法では工業的に合理的とは言い難い。
【0006】
【化1】

【0007】
また、液体フッ化水素媒体中でのClFを用いたリンのフッ素化(下記、非特許文献1を参照)、及びフッ素ガスを用いたリンのフッ素化(下記、特許文献2及び非特許文献2を参照)は、反応が爆発的に進行するため、反応を制御するのが非常に難しいという問題がある。更に、高価なフッ素ガスを使用するため、当然のことながら、得られるPFも高価なものになってしまう。
【0008】
特許文献3には、三酸化硫黄の存在下でHFを用いた三フッ化ホスホリル“POF”のフッ素化が記載されている。しかし、この反応は収率が劣ること、硫酸が生成し、HFの存在下では腐食性が極めて高いことが問題となっている。
【0009】
特許文献4には、六フッ化リン酸(HPF)を、高圧下に於いて硫黄系の酸と反応させる方法が開示されている。しかし、前記特許文献3と同様、硫酸が発生し、HFの存在下では腐食が極めて高いこと、及び発煙硫酸を使用しても系内の水やフルオロ硫酸(HSOF)とPFが反応し、生じたPFがPOFに分解されることが問題となっている。
【0010】
非特許文献3には、HF中に塩化リチウムを溶解し、これに五塩化リンを加えてLiPFを製造する旨の記載がある。また、特許文献5には、五塩化リンとHFガスを60〜165℃の範囲で反応させ、得られるPFをアルカリ金属フッ化物の無水HF溶液に添加することにより六フッ化リン酸塩を製造する旨の記載がある。
【0011】
しかしながら、非特許文献3及び特許文献5に開示の製造方法であると、五塩化リンは吸湿性の大きな固体であるため、その取扱い性の悪さに起因して、製造設備への原料投入等に於いてその作業性が悪く、機械化も図りにくいという問題がある。また、五塩化リンに代表されるハロゲン化リンを原料として使用すると、大量のハロゲン化水素が副生する。このため、長大な排ガスの処理設備が必要になるという不都合がある。更に、五塩化リンに含まれている水分が反応系内に混入し、生成したPFの一部と混入水分が反応してPOFやPOFのようなオキシフッ化リンが副生する。その結果、例えば、六フッ化リン酸塩がLiPFの場合、LiPOFやLiPOのようなオキシフッ化リン酸化合物が生成して製品を汚染し、LiPFの生産性を最終的に悪化させている。また、当該方法により製造されたLiPFをリチウム電池の電解質として使用した場合、前記オキシフッ化リン酸化合物が電池の特性を損ねる等の問題を生じさせる。
【0012】
前記の問題を改善するため、例えば、特許文献6には次の様な製造方法が開示されている。先ず、五塩化リンと無水HFを反応させることによりPFを生成する。次に、このPFと塩化水素との混合ガスを、オキシフッ化リンの沸点以下であり、かつPFの沸点以上の温度、具体的には−40℃〜−84℃に冷却してオキシフッ化リンを分離した後、無水HFに溶解したフッ化リチウムと反応させる。この方法では、大過剰の塩化水素とPFとの混合ガス中から少量のオキシフッ化リンを分離することになる。しかし、完全にオキシフッ化リンを分離することはできず、分離操作は極めて困難である。また、例えば、オキシフッ化リンとしてのPOFは沸点と凝固点が近接しているため、捕集装置の閉塞が懸念される等の問題がある。このため、当該製造方法を工業的な実施に適用するのは、不十分である。
【0013】
また、特許文献7には、リン原料としてその塩化物(三塩化リン又は五塩化リン)を用いてPFを製造する方法が開示されているが、この製造方法であると、生成するPFには塩化水素が混入する。PFの沸点は−84.8℃であるのに対し、塩化水素の沸点は−84.9℃であるので、単純な方法ではPFから塩化水素を分離することは不可能である。
【0014】
以上に述べたPF及び六フッ化リン酸塩の製造方法は、作業性の悪さ、過酷な条件での反応、あるいは高価な原料の使用、副生物の処理等、種々の問題を抱えている。このため、製造コストが高くなっている。また、特に高品位のPFは、その製造が困難であるため、高価である。その結果、PFを原料として製造される六フッ化リン酸塩も高価なものとなっている。そこで、安価で高品位な六フッ化リン酸塩を製造するためには、安価で高品位なPFを製造することが重要になる。つまり、不純物、特に水分の混入による悪影響を抑えること、及び作業環境を考慮した原料を出発原料として利用できる方法を採用する必要がある。
【0015】
【特許文献1】特開2000−154009号公報
【特許文献2】特開2001−122605号公報
【特許文献3】フランス国特許第2,082,502号
【特許文献4】特表2005−507849号
【特許文献5】特開平06−056413号公報
【特許文献6】特開平5−279003号公報
【特許文献7】特開平11−92135号公報
【非特許文献1】Clifford、Beachell、Jack、Inorg. Nucl. Chem(1957),5,57-70
【非特許文献2】Gros、Hayman、Stuart、Trans.Faraday Soc.(1996),62(10),2716-18
【非特許文献3】Fluorine Chemistry Vol.1(1950)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、製造コストを抑制し、かつ、安価で低品位の原料から高品位の五フッ化リンを製造することが可能な五フッ化リンの製造方法を提供することを目的とする。また、前記五フッ化リンの製造方法で得られた五フッ化リンを原料に用いて、高品位の六フッ化リン酸塩を製造コストの抑制を図りながら製造することが可能な六フッ化リン酸塩の製造方法を提供することを目的とする。更に、また、前記六フッ化リン酸塩の製造方法にて得られた高品位の六フッ化リン酸塩を適用した電解液、及びその電解液を備えた蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、五フッ化リン及び六フッ化リン酸塩の製造方法について検討した。その結果、下記構成を採用することにより、本発明の前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0018】
即ち、本発明の五フッ化リンの製造方法は、前記の課題を解決する為に、少なくともリン原子及びフッ素原子を含み構成される原料にキャリアガスを接触させることにより、前記キャリアガス中に五フッ化リンを抽出させて分離することを特徴とする。
【0019】
前記方法に於いては、少なくともリン原子及びフッ素原子を含み構成される原料に、キャリアガスを接触させる。これにより、キャリアガスに随伴して原料から五フッ化リンを分離し、抽出させることができる。抽出された五フッ化リン中には、オキシフッ化リン酸化合物や金属、水分等の不純物が含まれていないため、純度が高い。その結果、六フッ化リン酸塩の原料として極めて良質な五フッ化リンを、製造コストを抑制しつつ簡便に得ることができる。
【0020】
前記原料中の前記フッ素原子は、フッ化水素として含まれていることが好ましい。
【0021】
前記キャリアガスとして、フッ化水素ガスを用いることが可能である。これにより、少なくともリン原子及びフッ素原子を含み構成される原料と、フッ化水素ガスの一部とが反応して五フッ化リンが生成される。
【0022】
前記原料を加熱又は減圧させることにより、当該原料からフッ化水素ガスと共に五フッ化リンを蒸発させて発生させることが可能である。
【0023】
また、本発明の五フッ化リンの製造方法は、前記の課題を解決する為に、少なくともリン原子を含み構成される原料に、キャリアガスとしてのフッ化水素ガスを接触させることにより、前記フッ化水素ガス中に五フッ化リンを抽出させて分離することを特徴とする。
【0024】
前記方法に於いては、少なくともリン原子を含み構成される原料に、キャリアガスとしてのフッ化水素を接触させる。これにより、リン原子を含む原料とフッ化水素ガスの一部とが反応して五フッ化リンが生成される。この五フッ化リンはフッ化水素ガスに随伴して発生する。抽出された五フッ化リン中には、オキシフッ化リン酸化合物や金属、水分等の不純物が含まれていないため、純度が高い。その結果、六フッ化リン酸塩の原料として極めて良質な五フッ化リンを、製造コストを抑制しつつ簡便に得ることができる。
【0025】
少なくとも前記キャリアガスと接触した後の原料中には、リン原子及びフッ素原子を含む多原子イオンが存在することが好ましい。
【0026】
前記多原子イオンは、PFイオンであることが好ましい。
【0027】
前記方法に於いては、前記五フッ化リンを発生させた前記原料を再利用することが好ましい。
【0028】
また、本発明の六フッ化リン酸塩の製造方法は、前記の課題を解決する為に、前記に記載の五フッ化リンの製造方法により得られた五フッ化リンと、フッ化物とを下記化学反応式に従い反応させて、六フッ化リン酸塩を生成させることを特徴とする。
【0029】
【化2】

【0030】
前述の製造方法により得られた五フッ化リンは、従来の製造方法と比較して水分等の不純物を含まず高純度である為、六フッ化リン酸塩の加水分解物が生成するのを抑制することができる。即ち、前記方法であると、加水分解物を含まず高純度の六フッ化リン酸塩を製造することができる。
【0031】
前記五フッ化リンとフッ化物との反応は、溶媒に五フッ化リンガスを溶解させる第1工程と、前記五フッ化リンに対し化学量論量的に等価又はそれ以下のフッ化物を前記溶媒に加え、六フッ化リン酸塩の溶液を生成させる第2工程と、前記六フッ化リン酸塩の溶液を前記第1工程に循環させることにより、前記溶媒に代えて六フッ化リン酸塩の溶液に五フッ化リンガスを溶解させる第3工程とを少なくとも行うことが好ましい。
【0032】
フッ化物は概して低比誘電率を有する無水HF溶媒や有機溶媒に対し難溶性である。従って、五フッ化リンガスの吸収に先立ちフッ化物をこれらの溶媒に加えると、懸濁(スラリー)状態となる。この為、五フッ化リンの吸収の際に、装置内部で固形フッ化物による閉塞が起こり、運転に支障が生じる。しかし前記の方法であると、先ず第1工程に於いて溶媒に五フッ化リンガスを吸収させた後に、第2工程に於いてフッ化物を溶媒に添加する。これにより、前記式1に示す通り六フッ化リン酸塩を溶媒中で合成する。更に、フッ化物の添加量は五フッ化リンに対し化学量論的に等価又はそれ以下となっているため、フッ化物の全てが五フッ化リンと反応する。その結果、未反応のフッ化物が残存しない非スラリー状態の六フッ化リン酸塩溶液が得られる。これにより、六フッ化リン酸塩の溶液を第1工程に循環させることができ、溶媒に代えて六フッ化リン酸塩の溶液に五フッ化リンガスを溶解させることができる(第3工程)。即ち、前記方法であると、吸収塔をはじめとする種々の装置を使用することが可能となる上に連続運転も可能になり、六フッ化リン酸塩の生産性を向上させることができる。
【0033】
前記の方法に於いては、前記溶媒としてフッ化水素溶液を用いることができる。
【0034】
また、前記溶媒として有機溶媒を用いることもできる。
【0035】
ここで、前記有機溶媒は、非水性有機溶媒又は非水性イオン液体の少なくとも何れか一方であることが好ましい。これにより、無水HF溶媒と同様に加水分解を誘発することなく五フッ化リンを吸収させることができる。尚、五フッ化リン又は六フッ化リン酸塩が加水分解すると、オキシフッ化リン酸やHF及びリン酸等の酸性物質、又は前記溶媒に対し、オキシフッ化リン酸塩、リン酸塩等の不溶解成分が生成する。これらの酸性物質、不溶解成分を含む電解液を蓄電素子に使用した場合、蓄電素子の腐食や電気特性の劣化等の悪影響を与える。このため、溶媒としては、水分濃度の低いものを使用するのが好ましい。この様な観点から、前記有機溶媒の水分濃度としては100重量ppm以下が好ましく、10重量ppm以下がより好ましく、1重量ppm以下が特に好ましい。
【0036】
前記第1工程及び第3工程は吸収塔を用いて行うことが好ましい。本発明の製造方法であると、溶媒及び六フッ化リン酸塩の溶液に五フッ化リンガスを溶解させた後、フッ化物を加えるので、懸濁(スラリー)状態となることがない。このため第1工程及び第3工程に於いて、例えば吸収塔を用いてもその内部で閉塞が起こるのを防止し、連続運転を可能にする。その結果、六フッ化リン酸塩の生産性を向上させることができる。
【0037】
前記五フッ化リンガスのうち未反応の五フッ化リンガスを吸収液に吸収させて回収し、再利用することが好ましい。これにより、原料としての五フッ化リンガスの損失を防止することができ、製造効率の向上が図れる。
【0038】
本発明に係る電解液は、前記の課題を解決する為に、前記に記載の六フッ化リン酸塩の製造方法により得られた六フッ化リン酸塩を含むことを特徴とする。
【0039】
また、本発明に係る蓄電素子は、前記の課題を解決する為に、前記に記載の電解液を備えることを特徴とする。本発明の蓄電素子としては、リチウムイオン二次電池等が挙げられる。
【発明の効果】
【0040】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によると、複雑な処理操作や特別な装置を必要とせず、低品位の原料を用いて安価で低水分濃度・高純度の高品位な五フッ化リンを製造することができる。また、本発明により得られる高品位の五フッ化リンを用いることで、複雑な装置を用いることなく、安価で高品位な六フッ化リン酸塩を容易に製造することができる。更に、本発明により得られる高品位の六フッ化リン酸塩を電解液に適用することで、安全性が高く、電気特性にも優れた蓄電素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
(五フッ化リンの製造方法)
本発明の実施の一形態について、以下に説明する。
本実施の形態に係る五フッ化リンの製造方法は、少なくともリン原子及びフッ素原子を含み構成される原料にキャリアガスを接触させることにより行う。
【0042】
前記の少なくともリン原子及びフッ素原子を含み構成される原料は、液体、気体、固体の何れの状態でもよい。また、水や無水フッ化水素溶媒、有機溶媒に溶解させて溶液としてもよい。
【0043】
前記原料に於いてリン原子を含む物質としては、リン原子を含む物質としては特に限定されず、例えば、白リン、赤リン、黒リン、三塩化リン(PCl)、三臭化リン(PBr)、ホスフィン(PH)、亜リン酸、五酸化リン(P)、オルトリン酸(HPO)、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、イソ次リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフェン酸、ジホフホン酸、シアノリン酸、シアノホスホン酸、ジエチルジチオホスフィン酸、クロロフェニルホスホン酸、リン酸トリメチル、フェニルセレノホスフィン酸=o−メチル、ピロホスホン酸、オキシ塩化リン(POCl)、オキシ臭化リン(POBr)、オキシよう化リン(POI)又はオキシフッ化リン(POF)等のオキシハロゲン化リン、五硫化リン(P)、チオフッ化リン(PSF)、トリクロロホスフィンスルフィド(PSCl)、ホスホニトリルフロイド(PNF)、ホスホニトリルクロリド(PNCl)、五塩化リン、五臭化リン、五沃化リン、HPF、LiPF、NaPF、KPF、RbPF、CsPF、NHPF、AgPF、Mg(PF、Ca(PF、Ba(PF、Zn(PF、Cu(PF、Pb(PF、Al(PF、Fe(PF 等が例示できる。これらのリン化合物は一種単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0044】
前記原料に於いてフッ素原子を含む物質としては、例えば、HFが挙げられる。この場合、HFは無水フッ化水素のままで使用してもよく、水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解させて使用してもよい。またHFとしては特に限定されず、例えば市販の工業用グレード、一般グレード、半導体グレード等のフッ酸をそのままで、又は適宜濃度調整をして使用できる。これらの内、不純物量が少ないという観点からは半導体グレードの使用が好ましく、コストの観点からは無水フッ化水素、工業用グレード、一般グレードが好ましい。不純物濃度としては、各金属不純物が1000重量ppm以下であることが好ましい。
【0045】
また、前記原料中に含まれるリン原子の含有量としては特に限定されないが、0.01重量%以上25重量%以下が好ましく、0.01重量%以上15重量%以下がより好ましく、0.1重量%以上10重量%以下が特に好ましい。リン原子の含有量が0.01重量%未満であると、五フッ化リンの収率が低下する場合がある。その一方、リン原子の含有量が25重量%を超えると、原料が溶液である場合、その粘度が高くなる。その結果、液輸送を行う際に、不都合を生じる場合がある。また、ガスが発生して不都合を生じる場合がある。
【0046】
また、前記原料中に含まれるフッ素原子の含有量としては特に限定されないが、0.03重量%以上が好ましく、0.3重量%以上がより好ましい。
【0047】
前記原料中に於けるフッ素原子の割合は、前記フッ素原子の含有量の数値範囲内に於いて、リン原子の数に対して化学当量以上存在することが好ましい。原料中のフッ素原子の割合が化学当量未満であると、原料中で生成し得るPFの濃度が0.05重量%以下になることがある。これにより、PFの蒸気圧が過少になり所望の量のPFを得るために必要なキャリアガスの量が増大する。その結果、抽出装置も大型のものが必要になり不経済になるという不都合がある。
【0048】
原料中にリン原子及びフッ素原子を含む多原子イオンが存在する場合、その濃度が0.03重量%〜50重量%、好ましくは0.5重量%〜20重量%の範囲内に於いて液体状態で使用するのがよい。リン原子を含む物質は溶液中に完全に溶解している必要はなく、懸濁状態であってもよい。
【0049】
リン原子を含む物質と、フッ素原子を含む物質とを混合して前記原料を製造する方法としては特に限定されない。例えば、連続式でもよく、バッチ式でもよい。また、リン原子を含む物質を混合槽に入れた後に、HF等のフッ素原子を含む物質を投入して製造してもよい。また、投入の順序をその逆にしてもよい。
【0050】
リン原子を含む物質と、フッ素原子を含む物質とを混合する際の温度としては特に限定されないが、−50〜200℃の範囲内であることが好ましい。温度が−50℃未満であると、リン原子を含む物質とフッ素原子を含む物質を含む組成物が凝固する場合がある。その一方、温度が200℃を超えると、耐熱性等の面で特殊な装置が要求されるので好ましくない場合がある。
【0051】
前記原料中の水分については、当該水分の蒸気圧が低いほど好ましい。キャリアガス中に水分が抽出されると、同時に抽出されたPFの加水分解を誘発するからである。この様な観点から、前記原料中の水分濃度は5重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましく、0.05重量%以下が特に好ましい。
【0052】
前記原料としては高純度である必要はなく、金属不純物を含んだものでもよい。また、硫酸根、水分、又はオキシフッ化リン酸化合物のような酸素を含有する不純物を含んでいてもよい。本発明の製造方法であると、これらの不純物はキャリアガスと接触しても、該キャリアガス中に抽出されず、その結果、製造されるPFを汚染することがないからである。つまり、本発明の五フッ化リンの製造方法であると、容易に入手できる低品位の原料を用いても、複雑で高度な精製法を採用する必要がなく、高品位のPFが得られる。尚、高品位のPFとは、例えば、高品位のLiPFの原料として使用する場合、PF中の水分濃度が50重量ppm以下であり、各種金属不純物の濃度が1重量ppm以下のものを意味すると考えられる。また、六フッ化リン酸塩は、例えばLiPFの場合、リチウムイオン二次電池用の電解質としての用途に於いては、電池の安定性に影響を与える純度、水分、金属不純物、遊離フッ酸、不溶解残渣等の規格を厳格に定め、極めて高純度な高品位が要求されている。具体的には、LiPFの場合、純度99.9%以上、水分濃度50重量ppm以下、各種金属不純物の濃度1.0重量ppm以下、遊離フッ酸濃度50重量ppm以下のものを高品位のLiPFとされている。
【0053】
前記原料に接触させるキャリアガスとしては、前記原料に対して不活性なものが好適である。具体的には、例えば、HFガス、Nガス、Heガス、Arガス、ドライエアー、炭酸ガス等が例示できる。これらのうち、本発明に於いてはHFガスが好ましい。HFガスは冷却又は加圧することにより、簡単に液化させることができる。この為、キャリアガスとしてHFガスを用いると、PFガスとの分離を容易に行うことができるという利点がある。更に、HFガスは液化回収した後に、加熱等の手段でガス化させると、再びキャリアガスとして再利用することができる。また、HFガスには、前記に列記した他のガスが混合されていてもよい。
【0054】
キャリアガスは、その水分量としては1重量%以下が好ましく、100重量ppm以下がより好ましく、10重量ppm以下が特に好ましい。前記水分量が1重量%を超えると、抽出される五フッ化リン中の水分量も増加する。この五フッ化リンを六フッ化リン酸塩の原料として使用すると、含有する水分により六フッ化リン酸塩の加水分解物が生成するので好ましくない。
【0055】
前記原料にキャリアガスを接触させる方法としては特に限定されず、通常用いられる槽型あるいは塔型の気液接触装置が好適に用いられる。例えば、図1(a)に示す様に、前記原料もしくはその溶液中にキャリアガスをバブリングさせることにより行われる。キャリアガスと共に抽出された五フッ化リン中には水がほとんど含まれておらず、これにより高品位の五フッ化リンが得られ、六フッ化リン酸塩の原料として好適である。
【0056】
また、キャリアガスとしてHFガスを用いる場合、図1(b)に示す様に、原料が充填された容器にキャリアガスとしてのHFガスを導入すると、HFガスの一部が原料と反応して五フッ化リンガスが生成する。この五フッ化リンガスはHFガス中に抽出することができる。また、排出されるガスからHFガスを熱交換器等にて凝縮分離させ、これを原料とキャリアガスとが接触する容器に還流することが有効である。これにより原料とHFガスを更に反応させることができ、五フッ化リンの抽出量が一層増加させることができる。
【0057】
また、キャリアガスとしてHFガスを用いる場合、図1(c)に示す様に、HFガスを前記原料に予め溶解させておき、この混合溶液を加熱して蒸留させてもよい。これにより、HFガスの蒸発と共に五フッ化リンを抽出し分離することができる。この場合、HFガスを更に溶解した後の混合溶液に於いて、HFと水分を合わせた重量に対するHFの濃度は90重量%以上であることが好ましく、95重量%以上であることがより好ましく、98重量%以上であることが特に好ましい。
【0058】
また、HFガスを更に溶解した後の混合溶液に於いて、リン原子及びフッ素原子を含む多原子イオンの濃度は、0.03重量%〜50重量%であることが好ましく、0.5重量%〜20重量%であることがより好ましい。また、リン原子を含む物質は混合溶液中に完全に溶解している必要はなく、懸濁状態であってもよい。
【0059】
更に、フッ素原子を含む物質としてのHFが原料に多く含まれる場合、図1(d)に示すように、原料を加熱することにより、発生したHFガス中に五フッ化リンを抽出し分離することができる。この方法では、発生したHFガスがキャリアガスとして作用する。また、この方法では、同時に別途用意した他のキャリアガスを原料に接触させ、当該他のキャリアガス中にHFガス及びPFを抽出させて分離してもよい。尚、原料中にHFが多く含まれる場合とは、原料中のリン原子に対してHFが、モル比で10倍以上5000倍以下の範囲内、好ましくは50倍以上500倍以下の範囲内であることを意味する。
【0060】
前記リン原子及びフッ素原子を含む原料を加熱する方法としては特に限定されず、通常用いられる熱交換器を備えた槽型の加熱装置、又は蒸留塔型の加熱装置がバッチ式又は連続式に関わらず好適に用いられる。
【0061】
キャリアガスの使用量は、前記原料中のリン原子に対し、モル比で10倍以上5000倍以下の範囲内であることが好ましく、50倍以上500倍以下の範囲内であることがより好ましい。前記使用量が上限値を超えると、五フッ化リンの抽出効率は上昇するが、エネルギーコストが増大するので好ましくない。その一方、使用量が下限値未満であると、五フッ化リンの抽出量が低下し、リンが反応系外に排出されるので好ましくない。
【0062】
前記原料にキャリアガスを接触させる際の温度としては、−50℃〜100℃が好ましく、−10〜50℃がより好ましく、0℃〜30℃が特に好ましい。−50℃未満であると、五フッ化リンの蒸気圧が低くなるため抽出効率が悪くなるという不都合がある。その一方、100℃を超えると、水が系中に入り、五フッ化リンの加水分解が起こるという不都合を生じる場合がある。尚、前記図1(c)、(d)に示す蒸留による方法の場合、加熱温度は、フッ化水素溶液の沸点以上であることが必要である。より具体的には、例えば1気圧で行う場合、19.5〜50℃の範囲内であることが好ましく、20〜30℃の範囲内であることがより好ましい。
【0063】
前記原料にキャリアガスを接触させる際の圧力としては、1KPa〜5MPaが好ましく、10KPa〜1MPaがより好ましく、0.05MPa〜0.5MPaが特に好ましい。1KPa未満であると、長大な真空設備が必要なため費用が過大となるという不都合がある。その一方、5MPaを超えると、高圧装置が過大となるという不都合がある。
【0064】
また、本発明に係る五フッ化リンの製造方法は、リン原子を含む原料にキャリアガスを接触させることにより、五フッ化リンを製造させてもよい。この場合、キャリアガスとしては、HFガスを使用する。HFガスがリン原子を含む原料に接触すると、両者間で反応が起こり、キャリアガスに五フッ化リンが抽出される。更に、HFガスは、水分を含まない五フッ化リンを分離し抽出させることができる。
【0065】
尚、前記キャリアガス中に、五フッ化リンの他にPOF等のオキシフッ化リンも抽出されている場合、キャリアガスを無水フッ化水素と接触させるのが好ましい。この際、液体の無水フッ化水素と接触させると更に好ましい。これにより、下記化学反応式に示す様にPOF等のオキシフッ化リンと無水フッ化水素を反応させ、新たにPFを生成できる。
【0066】
【化3】

【0067】
五フッ化リンの製造に使用される前記キャリアガスは、再利用するのが好ましい。例えば、キャリアガスとしてHFガスを用いる場合、五フッ化リンを含むHFガスを凝縮させて、五フッ化リンとHFとを分離させる。凝縮回収したHFは加熱蒸発させ、キャリアガスとして再利用してもよく、フッ素原子の原料として用いてもよい。前記HFガスを凝縮させる際の温度としては−80℃〜100℃が好ましく、−50℃〜50℃がより好ましく、−10〜20℃が特に好ましい。
【0068】
また、五フッ化リンが分離された後の前記原料からリン成分とフッ素成分を分離回収するのが好ましい。回収したリン成分は濃縮された後、リン原子の原料として再利用できる。分離操作としては、例えば、蒸留等の従来公知の方法を採用することができる。フッ素成分は回収して、フッ素原子の原料として再利用してもよく、HFとして回収でき、工業用フッ酸としてそのまま使用するか適宜濃度調製して使用してもよい。また、非常に量が少ない場合は、直接排水処理して排出してもよい。
【0069】
前記リン原子及びフッ素原子を含む原料からキャリアガス中へのPFの抽出が進行すると、場合によってはPFが前記原料へ再溶解をすることがある。このため、PFの抽出の進行とともに、PFの抽出量が減少してくる。これを抑えるためには連続操作を行なうことが有効である。
【0070】
前記連続操作は、連続的に前記原料をキャリアガスとの接触装置に供給する一方、連続的に当該接触装置から抽出後の原料を抜き取ることにより実現できる。この連続操作を行なうことにより定量的にPFを製造できる。
【0071】
尚、キャリアガス中にPFとともにHFが随伴してくる場合、熱交換器等にてHFを凝縮分離させ、これを原料とキャリアガスの接触装置に還流することが有効である。但し、還流されたHF中には少量のPFが含まれている場合がある。この場合、少量のPFを含んだHFはそのまま還流してもよいし、別途用意した分離装置に供給しPFを分離した後に還流を行なってもよい。
【0072】
また、前記の場合、必ずしもPFを単離する必要は無く、使用目的に応じてそのまま次工程で使用しても構わない。
【0073】
ただし、HFガス以外のキャリアガスを使用する場合は、前記原料中からPFが抽出されることにより前記原料中のフッ素原子の量が減少してくる一方、前記原料中の水分の蒸気圧が上昇し、抽出したPFを汚染したり、加水分解を誘発する場合がある。この様な場合はキャリアガスと前記原料の接触装置に適時的にHFを供給するのが好ましい。
【0074】
本発明に係るPFの製造方法で使用される装置の材料としては特に限定がなく、炭素鋼、ステンレス鋼等の汎用材料が好適に使用できる。また、必要に応じて高合金鋼等の高級材料を使用してもよく、フッ素樹脂若しくは塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、又はそれらで被覆された樹脂ライニング材を使用してもよい。更に、これらの材料を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0075】
(六フッ化リン酸塩の製造方法)
次に、前記方法により得られた高品位のPFガスと、フッ化物(AFs)とを接触させることにより、下記化学反応式の通りに六フッ化リン酸塩を製造させる。また、本報で得られる高品位のPFを有機溶媒に吸収させて高純度なPF錯体を得ることができる。有機溶媒は特に限定されず、メタノール、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、テトラヒドロチオフェン、トリエチルアミン、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が例示できる。更に、PF錯体に化学当量のHFを添加して水を含まない六フッ化リン酸溶液を得ることもできる。
【0076】
【化4】

【0077】
前記六フッ化リン酸塩の具体的な製造方法としては、(1)固体のフッ化物とPFガスとを反応させる方法、(2)溶媒である無水HFに溶解もしくは縣濁したフッ化物とPFガスとを反応させる方法、又は(3)有機溶媒中でフッ化物とPFガスとを反応させる方法等が例示できる。
【0078】
フッ化物とPFガスとの反応温度としては、−50℃〜200℃が好ましく、−10〜100℃がより好ましく、0℃〜50℃が特に好ましい。−50℃未満であると、反応が進行しにくい場合がある。その一方、200℃を超えると、生成した六フッ化リン酸塩が分解する場合がある。尚、前記(2)のフッ化物(酸性フッ化物を含む)を含む無水HFと本発明によって得られたPFガスを反応させる方法の場合、生成した六フッ化リン酸塩の分解反応を抑制させる為に冷却等の処置を行って、沸点以下(例えば、1気圧で19.5℃以下、好ましくは0〜10℃)で反応させるのが好ましい。
【0079】
六フッ化リン酸塩の純度及び収率を向上させる観点からは、フッ化物“AFs”に対し、PFガスを過剰量反応させることが好ましい。具体的には、例えばAFsに対し、重量比で1〜10倍が好ましく、1.01〜5倍がより好ましく、1.05〜2倍が特に好ましい。前記PFガスの使用量が10倍を超えると、六フッ化リン酸塩の収率は増大するが、余剰のPFガスが反応系外に流出しリンの収率が低下する場合がある。その一方、使用量が1倍未満であると、六フッ化リン酸塩の収率が低下するので好ましくない。
【0080】
前記に於けるPFのロスを減らすためには、水又は0〜80重量%のHF水溶液、もしくは、M塩(M塩はLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Ag、Mg、Ca、Ba、Zn、Cu、Pb、Fe及びAlからなる群より選択される少なくとも何れか1種の炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物のいずれか1種以上)を溶解させた水又は0〜80重量%のHF水溶液を吸収液として反応系から流出する余剰のPFを含んだガスを吸収させ、M(PF (1≦s≦3)、もしくはHPO(0≦x≦3、1≦y≦4、0≦z≦6)として回収する。更にその中でも特に好ましくはMF・r(HF)(1≦s≦3、0≦r≦6)のフッ化物を溶解させた水又は0〜80重量%のHF水溶液に反応系から流出する余剰のPFを含んだガスを吸収させ、M(PF・r(HF)、(1≦s≦3、0≦r≦6)、もしくはHPFとして回収することができる。ここで、MF・r(HF)は前記M塩とフッ酸の反応により得られたものであっても構わない。
【0081】
前記に述べたPFの吸収装置としては特に限定はなく、例えば、充填塔・多段塔・スプレー塔等を用いた公知の吸収装置が好適に使用できる。
【0082】
また、前記に述べた様に、有機溶媒中でフッ化物とPFガスとを反応させる場合、その方法としては、先ず、PFのガスを有機溶媒中に溶解させた後、当該有機溶媒にフッ化物を添加することにより、有機溶媒中でフッ化物とPFガスとを反応させる方法が好ましい。当該方法に適用される製造装置を図2に示す。同図に示す製造装置は、第1吸収塔1及び第2吸収塔5と、第1槽2、第2槽6、及び第3槽10と、ポンプ3、7、11と、第1冷却器4及び第2冷却器8と、脱気塔9と、エアーポンプ12と、凝縮器13とを備える。
【0083】
前記第1槽2及び第2槽6に所定量の有機溶媒を入れる。ポンプ3、7にて第1槽2及び第2槽6の液をそれぞれ第1吸収塔1及び第2吸収塔5に供給し循環運転を行う。次いで、第2吸収塔5の塔底部にPFガスを供給する。PFは100%のものを用いてもよいし、不活性ガスを混合して適宜希釈したものを用いてもよい。不活性ガスを混合することにより第1吸収塔1及び第2吸収塔5に於ける発熱を緩和することができる。また、前記不活性ガスとしては特に限定されず、例えばN、Ar、ドライエアー、炭酸ガス 等が挙げられる。希釈に使用する不活性ガス中の水分は、PFの加水分解を誘発しないように100重量ppm以下の低水分であることが好ましく、10重量ppm以下であることがより好ましく、1重量ppm以下であることが特に好ましい。PFガスは有機溶媒と第1吸収塔1内、第2吸収塔5内で向流接触することにより、有機溶媒中に溶解される(第1工程)。PFの有機溶媒への吸収熱は循環ラインに設けた第1冷却器4及び第2冷却器8により除去し、適切な運転温度に維持する。
【0084】
次に、PFガスが溶解した有機溶媒は第2槽6に供給される。第2槽6には、PFと等価、又はそれ以下の化学量論量のフッ化物が供給される。これにより、PFとフッ化物が反応を起こし、六フッ化リン酸塩が生成される(第2工程)。下記反応式は、PFとフッ化リチウムの反応を示している。
【0085】
【化5】

【0086】
第2槽6で生成された六フッ化リン酸塩の溶液は、配管を通じてポンプ7により送り出され、第2吸収塔5の塔頂部に供給される。塔底部に供給されたPFが第2吸収塔内でこの六フッ化リン酸塩の溶液に吸収される(第3工程)。続いて、第2槽6でフッ化物との反応を連続的に行うことにより、六フッ化リン酸塩を所望する濃度にまで高める。この様な循環運転を行うことにより、所定の濃度に達したところで、ポンプ7からの溶液の一部を製品として抜き出す。製品の抜き出しと同時に、第1吸収塔1に外部から有機溶媒の供給を開始するとともに、ポンプ3の液供給先を第1吸収塔1から第2吸収塔5へ切り替え、六フッ化リン酸塩の溶液の連続生産を行う。この際、引き続き第1吸収塔1へ吸収液を一部、循環させながら同時に吸収液を第2吸収塔5へ供給してもよい。
【0087】
第2槽6へのフッ化物の供給量は、有機溶媒に対し難溶性であるフッ化物がスラリー状で存在することを避けるために、有機溶媒に溶解しているPFに対して化学量論的に等価、又はそれ以下であることが好ましい。これにより、装置中でのスラリー状のフッ化物による閉塞等を回避することが可能となる。PFをフッ化物に対して化学量論的に過剰にさせる方法としては、フッ化物に対して常に化学量論的に過剰のPFを供給し続けることにより実現可能であるが、過剰分のPFは何れかの工程で系外に排出しなくてはならず、原料のロスを招くことから好ましくない。予め運転上適切な過剰量のPFを吸収させた液に対して、PFとフッ化物を化学量論的に等価で供給することによる方法が更に好ましい。
【0088】
前記第2工程で添加されるフッ化物としてはLiFに限定されず、NaF、KF、RbF、CsF、NHF、AgF、CaF、MgF、BaF、ZnF、CuF、PbF、AlF、FeF等が挙げられる。これらのフッ化物は目的に応じて一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0089】
また、第2工程で生成された、PFを過剰に溶解した六フッ化リン酸塩の溶液は第3工程に於ける第2吸収塔5の塔頂部に供給されるが、その一部は脱気塔9にも供給される。更に、脱気塔9に送られた六フッ化リン酸塩の溶液はエアーポンプ12により減圧され、PFガスが留去される。これにより、PFとフッ化物が化学量論的に等価となった六フッ化リン酸塩の溶液に調整され、第3槽10から製品として抜き取られる。過剰に溶解したPFと化学量論的に等価のフッ化物を加え六フッ化リン酸塩の溶液を調整することもできるが、連続生産性の観点から過剰のPFは減圧で留去することが好ましい。また、減圧によるPFの除去効率を上げるために脱気塔9に加熱器を備え加熱しても構わない。
【0090】
前記留去したPFガスは、エアーポンプ12により第2吸収塔5の塔底部に供給される。更に、第2吸収塔5で有機溶媒及び/又は六フッ化リン酸塩の溶液と向流接触させることで回収・再利用される。原料に用いるPFに少量のHFが含まれている場合は、六フッ化リン酸塩の溶液をエアーポンプ12で減圧してHFを留去した後、凝縮器13でHFを凝縮させて除去しても構わない。凝縮器13で凝縮される液(ドレン)には有機溶媒、HF、PFが含まれるが、そのまま廃液処理を施し廃棄してもよいし、HF、PF又は有機溶媒を必要に応じて回収再利用しても構わない。回収方法としては、蒸留、抽出等の通常の手法を用いることができる。
【0091】
この様に、本発明では六フッ化リン酸塩の溶液を循環させることにより、高純度の六フッ化リン酸塩を収率良く連続的に製造することができる。
【0092】
尚、本発明に於いては工業的な生産効率の観点から吸収塔を用いることが好ましいが、表面吸収やバブリングによる方法の採用を除くものではない。また、第1吸収塔1及び第2吸収塔5は充填塔、棚段塔、濡れ壁塔等いずれの形態の吸収装置も使用可能である。更に、吸収の形式は向流、並流の何れでもよい。
【0093】
前記第1工程及び第3工程に於いて、有機溶媒及び六フッ化リン酸塩の溶液中のPFガスの濃度は15重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下が特に好ましい。有機溶媒中のPFガス濃度が15重量%を超えると、有機溶媒とPFとの反応が起こり、有機溶媒の着色や変性、あるいは固化が起こる可能性がある。また、吸収熱が大きくなり液温のコントロールが困難となる可能性がある。
【0094】
前記第1工程及び第3工程に於いて、PFガスと有機溶媒及び六フッ化リン酸塩の溶液との気液接触温度は、−40〜100℃であることが好ましく、0〜60℃であることがより好ましい。気液接触温度が−40℃未満であると、有機溶媒が凝固する場合があるため連続運転ができなくなる。その一方、気液接触温度が100℃を超えると、有機溶媒及び六フッ化リン酸塩の溶液中のPFの蒸気圧が高くなりすぎ吸収効率が低下する、あるいは有機溶媒とPFの反応が起こるといった不都合がある。
【0095】
前記有機溶媒は、非水性の有機溶媒又は非水性のイオン液体の少なくとも何れか一方であることが好ましい。更には、非プロトン性が好ましい。非プロトン性であると水素イオンを供与する能力がないため、本発明の製造方法により得られた六フッ化リン酸塩の溶液をそのままリチウムイオン二次電池等の蓄電素子の電解液に適用することができる。
【0096】
前記非水性の有機溶媒としては特に限定されず、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチルラクトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、1,2−ジメトキシエタン、メタノール、イソプロパノール等が挙げられる。これらの有機溶媒のうち、連続生産の観点からは生成した六フッ化リン酸塩が析出しにくい、つまり六フッ化リン酸塩の溶解性が高いエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタンが好ましい。また、これらの有機溶媒は一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0097】
更に、非水性であり、かつ、非プロトン性の有機溶媒としては、例えば環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、カルボン酸エステル、ニトリル、アミド若しくはエーテル化合物等が挙げられる。これらの非水性非プロトン性有機溶媒は一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0098】
また、前記非水性の前記イオン液体としては特に限定されず、例えば第4級アンモニウム又は第4級ホスホニウム等のフッ化物錯塩若しくはフッ化物塩、中でも第4級アンモニウムカチオンとしては、テトラアルキルアンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、チアゾリウムカチオン、オキサゾリウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン等が挙げられる。更に、前記第4級ホスホニウムカチオンとしては、テトラアルキルホスホニウムカチオン等が挙げられる。これらの非水性イオン液体は一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよいし前記非水性有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0099】
前記有機溶媒は、非水性の有機溶媒、非水性のイオン液体を一種、又は二種以上を混合して使用してもよい。
【0100】
尚、六フッ化リン酸塩の製造の際に使用する過剰のリン成分含有ガス、具体的には、PFガスは吸収液に吸収させて回収再利用するのが好ましい。前記吸収液としては、例えば、水、フッ酸水溶液、及びM塩(MはLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Ag、Mg、Ca、Ba、Zn、Cu、Pb、Fe及びAlからなる群より選択される少なくとも何れか一種)からなる群より選択される少なくとも何れか1種を含む溶液が例示できる。より具体的には、0〜80重量%の水若しくはフッ化水素水溶液、又はM塩(M塩はLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Ag、Mg、Ca、Ba、Zn、Cu、Pb、Fe及びAlからなる群より選択される少なくとも何れか一種を含む炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物)を溶解させた0〜80重量%の水若しくはフッ化水素水溶液が挙げられる。PFガスを吸収液に吸収させることにより、M(PFs(式中、1≦s≦3)及び/又はHPO(式中、0≦x≦3、1≦y≦4、0≦z≦6)として回収することができる。これにより、PFガスを過剰量用いた場合でも、原料のロスを抑制することができる。
【0101】
また、六フッ化リン酸塩の製造の際に発生するリン成分含有ガス、具体的には、五フッ化リンとHFガスは、五フッ化リン抽出装置に導入してキャリアガスとして再利用してもよい。これにより、五フッ化リンガスを過剰量用いた場合でも、原料のロスを抑制することができる。
【0102】
また、六フッ化リン酸塩の製造の際に生成するHFガスは、キャリアガスとして再利用してもよいし、凝縮回収、もしくは水に吸収させて回収したフッ化水素はリン原子を含む原料との反応に使用してもよい。
【0103】
また、前記に於ける六フッ化リン酸塩の製造の際に第2吸収塔5から流出したPFは、図2に示すように、直列に接続された第1吸収塔1でPFを回収する。第1吸収塔1で得られたPFを含有した有機溶媒は第2吸収塔5に供給する。第1吸収塔1で吸収しきれなかったPFは前記に示す吸収方法で回収・再利用しても構わない。これにより、PFガスを過剰量用いた場合でも、全量使用され、原料のロスを抑制することができる。
【0104】
本発明に使用する反応装置は、前記組成物に対し耐性を有する材質からなるものであれば特に限定されず、ステンレスあるいは炭素鋼が好適に用いられる。但し、無水HFあるいは前記組成物からなる組成物の漏洩や空気中に露出した場合等は、これにより腐食される恐れがある。反応装置が腐食されると、得られる製品も腐食された物質により汚染され、汚染物質は製品の金属成分含有量を増加させる要因となる。この為、反応装置としては前記組成物に耐性を有する、フッ素樹脂、塩化ビニル、又はポリエチレン製のもの、又はこれらでライニングされたものを使用するのが好ましい。
【実施例】
【0105】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。なお実施例及び比較例はすべて大気圧で行った。
【0106】
(実施例1)
図3に示す装置を用いて以下の実施を行った。
【0107】
市販の無水リン酸(P)100gを回転子と共に5Lフッ素樹脂(PFA)製の反応槽に入れ、そこへキャリアガスとしての無水フッ化水素(HF)ガスを10L/minで導入した。反応槽は、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。PFA反応槽の温度を熱媒にて25℃に保つと同時に、還流塔は−50℃のブラインで冷却した。更に、マグネチックスターラーで反応槽内を攪拌させた。暫くするとHFの還流が始まった。その後、還流塔の塔頂からガスの発生が確認できた。
【0108】
還流塔からガスが発生し、その5分後にこのガスをフーリエ変換赤外線分光光度計(FTIR)で分析を行った。その結果、PFと少量のHFであることが確認できた。POF、POFのようなオキシフッ化リン酸化合物の発生がないことを確認できた。また、発生したガス20gを超純水500gに吸収させた後、この超純水中の金属不純物濃度を誘導プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いて分析した結果、PFガス中に含まれる金属不純物濃度が0.5重量ppm以下であることが確認された。
【0109】
(実施例2)
市販の75%リン酸(HPO)水溶液200gと市販の無水フッ酸(HF)2000gを回転子と共に5Lフッ素樹脂(PFA)製の反応槽(冷媒にて冷却)に入れ、そこへキャリアガスとしてのNガスを0.2l/minで導入した。反応槽は、SUS316製の還流塔(20mmφ×2m)に接続した。PFA反応槽の温度を熱媒にて45℃に加温すると同時に、還流塔は−30℃のブラインで冷却した。更に、マグネチックスターラーで反応液を攪拌させた。暫くして反応槽の温度が上昇していくとHFの還流が始まった。その時の反応液の温度は23℃であった。その後、還流塔の塔頂からガスの発生が確認できた。
【0110】
還流塔からガスが発生しはじめてから10分後に、このガスをフーリエ変換赤外線分光光度計(FTIR)で分析を行った。その結果、PFとNと少量のHFであることが確認できた。POF、POF等のようなオキシフッ化リン酸化合物の発生がないことを確認できた。また、発生したガス20gを超純水0.5kgに吸収させた後、この超純水中の金属不純物濃度を誘導プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いて分析した結果、PFガス中に含まれる金属不純物濃度が0.5重量ppm以下であることが確認された。
【0111】
(実施例3)
市販の六フッ化リン酸カリウム(KPF)50gと無水フッ化水素(HF)2000gを回転子と共に5Lフッ素樹脂(PFA)製の反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。PFA反応槽を熱媒にて反応槽外部温度を45℃に加温すると同時に、還流塔は−50℃のブラインで冷却した。更に、マグネチックスターラーで反応液を攪拌させた。バス温が上昇していくとHFの還流が始まった。そのときの内部の反応液の温度は21℃であった。
【0112】
5分後、還流塔からガスが発生してきた。このガスをFTIRで分析を行った。その結果、PFと少量のHFであることが確認できた。また、発生したガス10gを超純水0.5kgに吸収させた後、この超純水中の金属不純物濃度を誘導プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いて分析した結果、PFガス中に含まれる金属不純物濃度が0.5重量ppm以下であることが確認された。
【0113】
(実施例4)
六フッ化リン酸リチウム(LiPF)330gと無水HF2000gを回転子と共に5L−PFA製反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。PFA反応槽を熱媒にて80℃に加温すると同時に、還流塔は0℃のブラインで冷却した。更に、マグネチックスターラーで反応液を攪拌させた。バス温が上昇していくとHFの還流が始まった。その時の内部の反応液の温度は30℃であった。
【0114】
還流塔から発生したガスをFTIRで分析を行ったところ、PFと少量のHFであることが確認できた。また同時に発生したガスを純水に4時間吸収させ、吸収液のP含量を測定し、発生したPFガス重量を計算したところ、205gであり、75%発生させることが出来た。
【0115】
(実施例5)
六フッ化リン酸アンモニウム(NHPF)90gと無水HF2000gを回転子と共に5L−PFA製反応槽に入れ、マグネチックスターラーで反応液を攪拌させた。本実施例5では、還流塔を設置させずに行った。発生したガスをFTIRで分析すると同時に、純水に吸収させた。PFA反応槽を熱媒にて65℃に加温するとフッ化水素が蒸発し、吸収液である純水と激しく反応した。発生したガスのFTIR分析を行ったところ、PFと多量のHFであることが確認できた。超純水に6時間吸収させ、吸収液のP含量を測定し、発生したPFガス重量を計算した。その結果、PFガスの重量43gであり、収率は62%であった。また、この吸収水中の金属不純物濃度をICP−MSを用いて分析した結果、PFガス中に含まれる金属不純物濃度が0.5重量ppm以下であることが確認された。
【0116】
(実施例6)
六フッ化リン酸セシウム(CsPF)1.5kg及びフッ化リチウム(LiF)140gと無水フッ化水素(HF)18kgを回転子と共に20L−PTFE反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。更に別途フッ化銀(AgF)210gと無水HF500gを回転子と共に3L−PFA反応槽に入れ溶解させ、還流塔の出口を3L−PFA反応槽に接続し、発生したガスが3L−PFA反応槽で吸収出来るようにした。20L−PFA反応槽は熱媒にて70℃に加温、3L−PFA反応槽は氷浴で冷却した。還流塔は0℃のブラインで冷却した。2つの反応槽はそれぞれ攪拌を行った。
【0117】
徐々に20L−PFA反応槽の温度が上がり内部温度は23℃となり、HFの還流が始まった。それとほぼ同時に3L−PFA反応槽の温度が0℃から5℃に上昇した。反応を6時間行った後、3L−PFA反応槽を還流塔から外し、−40℃に冷却して48時間晶析を行った。次に、3L−PFA反応槽の上澄み液をゆっくり抜き取り、固液分離を行った。分離後、Nを3L/分でボトル内に導入し、風乾を行った。更にその後、85℃の乾燥機で3時間、乾燥を行ったところ、395gの結晶が得られた。
【0118】
得られた結晶をXRDで分析したところ、六フッ化リン酸銀(AgPF)に帰属された。また、水分含量は、30重量ppm以下で、かつ遊離フッ酸濃度は50重量ppm以下であった。なお水分含量は水分測定計にて測定を行い、遊離フッ酸濃度については、水酸化ナトリウムによる滴定により求めた。
【0119】
(実施例7)
本実施例に於いては、図2に示す製造装置を用いて五フッ化リンの製造を行った。
[第I工程]
10L−PTFE反応槽に酸性フッ化カリウム(KHF)を1.2kg入れ、半導体グレードの75%HF 5.25kgを氷浴で冷却しながらゆっくり加えた。更に、85%重量リン酸(HPO)1.3kgを30分かけて添加した。+20℃のウォーターバスで6時間攪拌を行い、反応・晶析を行った。次に、得られた沈殿物を吸引濾過により濾別した。回収した結晶を水で洗浄し、その後、105℃で6時間乾燥した。得られた結晶の収量は、1.35kg(収率65%)であった。更に、得られた結晶のXRD測定を行ったところ、KPFであることが分かった。
【0120】
[第II工程]
前記で得られたKPF1.2kgと無水フッ化水素(HF)6kgを回転子と共に10L−PTFE反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。更に、別途95gのLiFと1200gの無水HFを回転子と共に2L−PTFE反応槽に入れて溶解させた。還流塔の出口を2L−PTFE反応槽に接続し、発生したPFガスが2L−PTFE反応槽で吸収出来るようにした。更に、排ガスを吸収させるため、2L−PTFE反応装置の後段に3L−PTFE反応槽を接続した。この3L−PTFE反応槽には、濃度が50重量%であり、重量が2kgのHFに対し、KF・(HF)50gを溶解させた液を用いた。
【0121】
10L−PTFE反応槽は85℃のウォーターバスで加温し、2L−PTFE反応槽、及び3L−PTFE反応槽は氷浴で冷却した。還流塔は0℃のブラインで冷却した。3つの反応槽はそれぞれ攪拌を行った。
【0122】
徐々に10L−PTFE反応槽の温度が徐々に上がり内部温度は25℃となり、HFの還流が始まった。それとほぼ同時に2L−PTFE反応槽の温度が0℃から8℃に上昇し、徐々に溶液が白濁してきた。
【0123】
[第III工程]
反応を8時間行った後、2L−PTFE反応槽を還流塔から外し、−40℃に冷却しながら4時間攪拌を行った。得られた結晶物を濾過にて固液分離を行い、得られた結晶を1L−PFA容器に移し、室温下、3L/分の流量でNを4時間導入し風乾させた。その後、1L−PFA容器を85℃で3時間乾燥を行ったところ350gの結晶を得ることが出来た。
【0124】
得られた結晶の分析を行ったところ、LiPFに帰属され、水分含量50重量ppm以下、かつ遊離フッ酸濃度50重量ppm以下であった。
【0125】
[第IV工程]
3L−PTFE反応槽から液を抜き取り、イオンクロマトグラフ分析を行ったところ、PFイオンが検出された。このことから、排ガスがトラップ出来、このトラップ液を原料として再利用出来ることを示している。
【0126】
[第V工程]
更に、反応後の10L−PTFE反応槽を還流塔から外し、35℃のウォーターバスで溶液を濃縮し、粘性のあるKPF/KF・v(HF)(v≧0)を含むHF溶液を回収した。この溶液は第I工程で再利用が可能であった。
【0127】
(実施例8)
底部に抜き出し用の定量ポンプを連結したフッ素樹脂製反応槽に、無水フッ化水素溶液20kgを入れた。この無水フッ化水素溶液を10℃に冷却しながら、五酸化二リン1kgを溶解させた。更に、五酸化二リンが溶解した無水フッ化水素溶液を、五フッ化リン発生槽(フッ素樹脂製、容量10L)に供給した。供給は8kg/hrの速度で定量的に行った。また、五フッ化リン発生槽としては、0℃のコンデンサー及び−50℃のクーラーが直列に接続されているものを用いた。その一方、キャリアガス発生槽で発生させた25℃の無水フッ化水素ガスを、前記五フッ化リン発生槽内中の前記無水フッ化水素溶液にバブリングして供給した。無水フッ化水素ガスの供給は40kg/hrの速度で行った。
【0128】
また、前記五フッ化リン発生槽内に於いて、無水フッ化水素溶液の液面の高さが一定に保持される様に、ポンプを用いて当該無水フッ化水素溶液の抜き出しを行なった。抜き出し速度は約8kg/hrとした。尚、前記コンデンサーによる凝縮で生成した凝縮液の液温は20℃であり、この凝縮液をそのままキャリアガス発生槽に循環させて再利用した。30分経過すると、前記クーラーの出口から極少量のHFを随伴したPFガスが5.5g/minの速度で定常的に発生してきた。
【0129】
次に、図2に示す装置を用いて以下の操作を行った。市販電池グレードのジエチルカーボネート(水分濃度9重量ppm)をフッ素樹脂製の第1槽2及び第2槽6にそれぞれ2603mL仕込んだ後、ポンプ3及び7を用いて各吸収塔及び槽での循環運転を開始した。このとき、ポンプ3及びポンプ7の流量はともに1L/minとした。また、第1槽2及び第2槽6はそれぞれ第1冷却器4及び第2冷却器8を用いて20℃の恒温にした。
【0130】
続いて、第2吸収塔5の塔底部に、前記のフッ化水素を含む五フッ化リンガスを5.5g/minで供給した。この五フッ化リンガスを有機溶媒に2分間吸収させた後、フッ化リチウムを1.13g/minで第2槽6へ供給し始めた。フッ化リチウムの供給開始から60分後に、製品を44.9ml/minで抜き出し始めた。製品の抜き出しと同時に、第1吸収塔1へ43.4ml/minで有機溶媒を供給するとともに、ポンプ3での液の供給先を第1吸収塔1から第2吸収塔5へ切り替え、以降連続運転とした。
【0131】
60分の連続運転により、2,947.5gの溶液を連続的に脱気塔9に供給し、エアーポンプ12で減圧することにより前記溶液中に過剰に溶解した五フッ化リンガスを留去した。留去後、第3槽10から抜き出し、2,911.5gの六フッ化リン酸リチウムの溶液を得た。更に、留去した五フッ化リンガスから、随伴するジエチルカーボネートとHFを凝縮器13により除去した。その後、別途用意したジエチルカ−ボネート液を入れた吸収液に、五フッ化リンガスをバブリングして吸収させ回収した。
【0132】
この様にして得られた六フッ化リン酸リチウムのジエチルカーボネート溶液は、不溶解成分が10重量ppm以下、遊離酸が10重量ppm以下、水分が10重量ppm以下であった。また、得られた六フッ化リン酸リチウムのジエチルカーボネート溶液を40℃の下、更に減圧してジエチルカーボネートを留去して白色固体を得た。白色固体をXRD分析した結果、六フッ化リン酸リチウムに帰属された。
【0133】
(実施例9)
先ず、前記実施例8と同様の操作を行うことにより、極少量のHFを含むPFガスを生成させた。次に、図2に示す装置を用いて、以下の操作を行った。市販電池グレードのジエチルカーボネート(水分濃度9重量ppm)をフッ素樹脂製の第1槽2及び第2槽6にそれぞれ2603mL仕込んだ後、ポンプ3及び7を用いて各吸収塔及び槽での循環運転を開始した。このとき、ポンプ3及びポンプ7の流量はともに1L/minとした。また、第1槽2及び第2槽6はそれぞれ第1冷却器4及び第2冷却器8を用いて20℃の恒温にした。
【0134】
続いて、第2吸収塔5の塔底部に、前記のフッ化水素を含む五フッ化リンガスを5.5g/minで供給した。この五フッ化リンガスを有機溶媒に2分間吸収させた後、フッ化リチウムを1.13g/minで第2槽6へ供給し始めた。フッ化リチウムの供給開始から80分後に、製品を35.9ml/minで抜き出し始めた。製品の抜き出しと同時に、第1吸収塔1へ32.5ml/minで有機溶媒を供給するとともに、ポンプ3での液の供給先を第1吸収塔1から第2吸収塔5へ切り替え、以降連続運転とした。
【0135】
60分の連続運転により、2,380.4gの溶液を連続的に脱気塔9に供給し、エアーポンプ12で減圧することにより前記溶液中に過剰に溶解した五フッ化リンガスを留去した。留去後、第3槽10から抜き出し、2,350.5gの六フッ化リン酸リチウムの溶液を得た。更に、留去した五フッ化リンガスから、随伴するジエチルカーボネートとHFを凝縮器13により除去した。その後、別途用意したジエチルカ−ボネート液を入れた吸収液に、五フッ化リンガスをバブリングして吸収させ回収した。
【0136】
更に、得られた六フッ化リン酸リチウムのジエチルカーボネート溶液2,350.5gにエチレンカーボネート709.5g(水分濃度7重量ppm)を添加し、六フッ化リン酸リチウムのジエチルカーボネート/エチレンカーボネート溶液を得た。得られた溶液の不溶解成分は10重量ppm以下、遊離酸は10重量ppm以下、水分は10重量ppm以下であった。
【0137】
次に、この様にして得られた溶液を用いて、図4に示すコイン型非水電解液リチウム二次電池を製作し、充放電試験により電解液としての性能を評価した。具体的には以下に示す手順で行った。
【0138】
<負極の作成>
天然黒鉛と結着剤のポリフッ化ビニリデン(PVdF)を9:1の重量比で混合し、これにN−メチルピロリドンを加え、ペーストを得た。このペーストを厚さ22μmの銅箔上に電極塗工用アプリケーターを用いて均一に塗工した。これを120℃で8時間、真空乾燥し、電極打ち抜き機で直径16mmの負極22を得た。
【0139】
<正極の作成>
LiCoO粉末と導電助剤のアセチレンブラックと結着剤のPVdFを90:5:5の重量比で混合し、この混合物にN−メチルピロリドンを加え、ペーストを得た。このペーストを厚さ22μmの銅箔上に電極塗工用アプリケーターを用いて均一に塗工した。これを120℃で8時間、真空乾燥し、電極打ち抜き機で直径16mmの正極21を得た。
【0140】
<コイン型非水電解液リチウムイオン二次電池の作成>
正極21を正極缶24の底面に載せ、その上にポリプロピレン製多孔質セパレーター23を載置した後、実施例8で調製した非水性電解液を注入し、ガスケット26を挿入した。その後、セパレーター23の上に負極22、スペーサー27、スプリング28及び負極缶25を順々に載置し、コイン型電池かしめ機を使用して、正極缶24の開口部を内方へ折り曲げることにより封口し、非水電解液リチウムイオン二次電池を作成した。続いて、充電を0.4mAの一定電流で行い、電圧が4.1Vに到達した時点で4.1V、1時間定電圧充電した。放電は1.0mAの定電流で行い、電圧が3.0Vになるまで放電した。電圧が3.0Vに到達したら3.0V、1時間保持し充放電サイクルにより充放電試験を実施した。その結果、充放電効率はほぼ100%であり、充放電を150サイクル繰り返したところ、充電容量は変化しなかった。
【0141】
(実施例10)
先ず、前記実施例8と同様の操作を行うことにより、極少量のHFを含むPFガスを生成させた。次に、図2に示す装置を用いて、以下の操作を行った。水が混入した市販電池グレードのジエチルカーボネート(水分濃度550重量ppm)をフッ素樹脂製の第1槽2及び第2槽6にそれぞれ2603mL仕込んだ後、ポンプ3及び7を用いて各吸収塔及び槽での循環運転を開始した。このとき、ポンプ3及びポンプ7の流量はともに1L/minとした。また、第1槽2及び第2槽6はそれぞれ第1冷却器4及び第2冷却器8を用いて20℃の恒温にした。
【0142】
続いて、第2吸収塔5の塔底部に、前記のフッ化水素を含む五フッ化リンガスを5.5g/minで供給した。この五フッ化リンガスを有機溶媒に2分間吸収させた後、フッ化リチウムを1.13g/minで第2槽6へ供給し始めた。フッ化リチウムの供給開始から60分後に、製品を44.9ml/minで抜き出し始めた。製品の抜き出しと同時に、第1吸収塔1へ43.4ml/minで有機溶媒を供給するとともに、ポンプ3での液の供給先を第1吸収塔1から第2吸収塔5へ切り替え、以降連続運転とした。
【0143】
60分の連続運転により、2,947.5gの溶液を連続的に脱気塔9に供給し、エアーポンプ12で減圧することにより前記溶液中に過剰に溶解した五フッ化リンガスを留去した。留去後、第3槽10から抜き出し、2,911.5gの六フッ化リン酸リチウムの溶液を得た。更に、留去した五フッ化リンガスから、随伴するジエチルカーボネートとHFを凝縮器13により除去した。その後、別途用意したジエチルカ−ボネート液を入れた吸収液に、五フッ化リンガスをバブリングして吸収させ回収した。
【0144】
この様にして得られた六フッ化リン酸リチウムのジエチルカーボネート溶液の不溶解成分は、82重量ppmであり、遊離酸は380重量ppmであった。
【0145】
次に、実施例9と同様にして、六フッ化リン酸リチウムのジエチルカーボネート溶液を用いてコイン型非水電解液リチウムイオン二次電池を作製した。更に、実施例7と同様にして、充放電試験により電解液としての性能を評価した。その結果、充放電効率は80%であり、充放電を150サイクル繰り返したところ、充電容量の低下を20%程度に抑制することができた。
【0146】
(比較例1)
200gのKPFと200gの無水HFを回転子と共に5L−PFA製反応槽に入れ、SUS316製の還流塔(20mmφx2m)に接続した。更に、還流塔上部からPFA配管で純水を入れた吸収槽に接続した。PFA反応槽を氷浴で15℃に保持すると同時に、還流塔を0℃のブラインで冷却した。更に、マグネチックスターラーで反応液を攪拌させた。反応槽内部温度は14.2℃であり、この状態で反応液の沸騰は起らず還流は観察されなかった。
【0147】
4時間後、吸収槽の吸収液をICP−AESでPの分析を行い、発生したPFガス重量を求めたところ、0gであり、全く発生していなかった。
【0148】
(比較例2)
本比較例2は、図2に示す装置を用いて、六フッ化リン酸リチウムの製造を行った。
先ず、市販電池グレードのジエチルカーボネート(水分濃度9重量ppm)をフッ素樹脂製の第1槽2及び第2槽6にそれぞれ2603mL仕込んだ後、ポンプ3及び7を用いて各吸収塔及び槽での循環運転を開始した。このとき、ポンプ3及びポンプ7の流量はともに1L/minとした。また、第1槽2及び第2槽6はそれぞれ第1冷却器4及び第2冷却器8を用いて20℃の恒温にした。
【0149】
次に、第2吸収塔5の塔底部に、前記実施例7で得られたHF含有の五フッ化リンガスを5.5g/minで供給した。この五フッ化リンガスを有機溶媒に2分間吸収させた後、フッ化リチウムを1.34g/minで第2槽6へ供給し始めた。フッ化リチウムの供給開始からを60分後、第2吸収塔5がスラリー状のフッ化リチウムにより閉塞し、運転が困難になった。
【0150】
(比較例3)
本例は、特許文献4に記載されている従来例を示す例である。
5L−PFA製反応槽にポリリン酸790g(9.4モル)を添加し、無水HF 1235g(61.7モル)を冷却により25℃に保持しながら、攪拌下加えた。更に無水HF150gを添加して、前記溶液中で25%過剰のHFを得た。反応槽を還流塔(−50℃に冷却)に接続し、温度を32℃に保ち、発煙硫酸(65%SO)1781g(14.5モル)を3時間かけて加えた。発生したガスをFTIRで分析を行った。その結果、POFに極少量のPFが含まれていた。
【0151】
(結果)
前記実施例1〜5から明らかな通り、リン原子及びフッ素原子を含む各種の原料、又はリン原子を含む各種の原料に対しキャリアガスを接触させることにより、前記キャリアガス中に高品位の五フッ化リンを抽出させて分離することができた。これにより、従来の方法と比較して、大量の副生ガスを発生させることなく、高品位の五フッ化リンを製造できることが確認できた。
【0152】
また、実施例7〜10から明らかな通り、本発明の製造方法により得られた五フッ化リンガスを原料として六フッ化リン酸リチウムの製造を行った結果、低水分で高純度な高品位の六フッ化リン酸リチウムを、比較的容易で単純な方法により製造することができた。更に、当該方法で得られた六フッ化リン酸リチウムを、コイン型非水電解液リチウムイオン二次電池の電解液に適用した結果、充放電を繰り返しても充電容量の低下を抑制したリチウムイオン二次電池が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明によると、複雑な処理操作や特別な装置を必要とせず、低品位の原料を用いて安価で低水分濃度・高純度の高品位な五フッ化リンを製造することができる。また、本発明により得られる高品位の五フッ化リンを原料として用いることで、複雑な装置を用いることなく、安価で高品位な六フッ化リン酸塩を容易に製造することができる。更に、本発明により得られる高品位の六フッ化リン酸塩は、蓄電素子用の電解液や有機合成反応の触媒等に好適に利用することができる。特に、六フッ化リン酸塩のうち、六フッ化リン酸リチウム、六フッ化リン酸ナトリウム、六フッ化リン酸カリウム等はパソコン関連用、携帯電話用、ハイブリッド自動車用等の蓄電素子の電解質として使用することができる。また、六フッ化リン酸銀は、光重合の開始・増殖反応に必要な酸を発生させるカウンターイオンとして利用される。更に、六フッ化リン酸アンモニウムは、医薬中間体の製造に用いられる原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の実施の形態に係る五フッ化リンの製造装置を概略的に示す説明図である。
【図2】実施例7〜10、比較例2で用いた五フッ化リンの製造装置を表す概念図である。
【図3】実施例1〜6、比較例1で用いた五フッ化リンの製造装置を表す概念図である。
【図4】本発明のリチウムイオン二次電池の断面図を概略的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0155】
1 第1吸収塔
2 第1槽
3 ポンプ
4 冷却器
5 第2吸収塔
6 第2槽
7 ポンプ
8 冷却器
9 脱気塔
10 第3槽
12 エアーポンプ
13 凝縮器
21 正極
22 負極
23 多孔質セパレーター
24 正極缶
25 負極缶
26 ガスケット
27 スペーサー
28 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリン原子及びフッ素原子を含み構成される原料にキャリアガスを接触させることにより、前記キャリアガス中に五フッ化リンを抽出させて分離することを特徴とする五フッ化リンの製造方法。
【請求項2】
前記原料中の前記フッ素原子は、フッ化水素として含まれていることを特徴とする請求項1に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項3】
前記キャリアガスとして、フッ化水素ガスを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項4】
前記原料を加熱又は減圧させることにより、当該原料からフッ化水素ガスと共に五フッ化リンを蒸発させて発生させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項5】
少なくともリン原子を含み構成される原料に、キャリアガスとしてのフッ化水素ガスを接触させることにより、前記フッ化水素ガス中に五フッ化リンを抽出させて分離することを特徴とする五フッ化リンの製造方法。
【請求項6】
少なくとも前記キャリアガスと接触した後の原料中には、リン原子及びフッ素原子を含む多原子イオンが存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項7】
前記多原子イオンは、PFイオンであることを特徴とする請求項6に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項8】
前記五フッ化リンを発生させた前記原料を再利用することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の五フッ化リンの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の五フッ化リンの製造方法により得られた五フッ化リンと、フッ化物とを下記化学反応式に従い反応させて、六フッ化リン酸塩を生成させることを特徴とする六フッ化リン酸塩の製造方法。
【化1】

【請求項10】
前記五フッ化リンとフッ化物との反応は、
溶媒に五フッ化リンガスを溶解させる第1工程と、
前記五フッ化リンに対し化学量論量的に等価又はそれ以下のフッ化物を前記溶媒に加え、六フッ化リン酸塩の溶液を生成させる第2工程と、
前記六フッ化リン酸塩の溶液を前記第1工程に循環させることにより、前記溶媒に代えて六フッ化リン酸塩の溶液に五フッ化リンガスを溶解させる第3工程とを少なくとも行うことを特徴とする請求項9に記載の六フッ化リン酸塩の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒としてフッ化水素溶液を用いることを特徴とする請求項10に記載の六フッ化リン酸塩の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒として有機溶媒を用いることを特徴とする請求項10に記載の六フッ化リン酸塩の製造方法。
【請求項13】
前記有機溶媒は、非水性有機溶媒又は非水性イオン液体の少なくとも何れか一方であることを特徴とする請求項12に記載の六フッ化リン酸塩の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒として水分濃度が100重量ppm以下のものを使用することを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の六フッ化リン酸塩の製造方法。
【請求項15】
前記第1工程及び第3工程は吸収塔を用いて行うことを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載の六フッ化リン酸塩の製造方法。
【請求項16】
前記五フッ化リンガスのうち未反応の五フッ化リンガスを吸収液に吸収させて回収し、再利用することを特徴とする請求項9〜15の何れか1項に記載の六フッ化リン酸塩の製造方法。
【請求項17】
請求項9〜16の何れか1項に記載の六フッ化リン酸塩の製造方法により得られた六フッ化リン酸塩を含む電解液。
【請求項18】
請求項17に記載の電解液を備える蓄電素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−42937(P2010−42937A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205962(P2008−205962)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】