説明

亜鉛−アルミニウム複合酸化物の製造方法

【課題】アルミニウムの含有量の高い亜鉛−アルミニウム複合酸化物の、工業的に有利な製造方法を提供すること。
【解決手段】亜鉛元素およびアルミニウム元素が存在する水系媒体中でプラズマ放電する亜鉛−アルミニウム複合酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料として有用な、亜鉛−アルミニウム複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛はn型のワイドバンドギャップ半導体として知られ、バリスタ、ガスセンサー、透明導電膜、表面弾性波フィルタなどの用途で利用されている。また、酸化亜鉛に金属をドープしてなる亜鉛系複合酸化物は、金属の種類やドープ量を調節することにより体積抵抗率を10−4から1010Ω・cmにわたり制御することができ、ITO代替材料や半導体酸化物材料としての開発が進められている。その中で、組成式AlZn1−xO(0<x<1)で表されるアルミニウムをドープした亜鉛系複合酸化物(以下、亜鉛−アルミニウム複合酸化物と称する)は、熱電変換材料として知られている。かかる亜鉛−アルミニウム複合酸化物は、酸化亜鉛の結晶構造の亜鉛の一部がアルミニウムに置換されることで導電性を発現し、熱電変換材料として機能すると考えられる。亜鉛−アルミニウム複合酸化物は酸化亜鉛と酸化アルミニウムを混合して熱処理することで得られることが知られている(特許文献1参照)。熱電変換材料としての性能を高める上では、亜鉛−アルミニウム複合酸化物の導電性を高めることが望ましく、かかる導電性向上のためにはキャリアとなるアルミニウムの含量を高めること、すなわち、xの値を増やすことが望ましいと考えられる。しかし、酸化亜鉛と酸化アルミニウムを混合して熱処理する方法では、亜鉛に対するアルミニウムのモル分率が3mol%を超えると低導電性のスピネル型結晶構造が生成し、導電性が低下することが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
アルミニウムの含有量の高い亜鉛−アルミニウム複合酸化物を製造する方法として、マグネトロンスパッタリング等の真空蒸着法による亜鉛−アルミニウム複合酸化物膜の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。かかる製造方法によれば、導電性に優れ、亜鉛に対するアルミニウムのモル分率が10mol%程度の亜鉛−アルミニウム複合酸化物が得られる。しかしながら、真空蒸着法は高い減圧度を必要とするため、工業的製法としての実用性が低い上に、目的とする複合酸化物は膜として得られるため、用途が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−186293号公報
【特許文献2】特開昭61−96609号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Current Applied Physics,2009,Vol.9,p.651−657.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかして、本発明の目的は、アルミニウムの含有量の高い亜鉛−アルミニウム複合酸化物の工業的に有利な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記の目的は、
[1]亜鉛元素およびアルミニウム元素が存在する水系媒体中でプラズマ放電することを特徴とする亜鉛−アルミニウム複合酸化物の製造方法;および
[2]少なくとも一方にアルミニウム元素を含み、少なくとも一方に亜鉛元素を含む2つの電極を配置した水系媒体中にて、前記2つの電極間でプラズマ放電することを特徴とする亜鉛−アルミニウム複合酸化物の製造方法;を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、亜鉛に対するアルミニウムのモル分率が高く、導電性に優れる亜鉛−アルミニウム複合酸化物が得られる。また、穏やかな温度条件の水系媒体中で製造できるので、特殊な装置を必要としない。さらに得られる亜鉛−アルミニウム複合酸化物は水系媒体中に粒子状に分散するので、回収が容易であるとともに、得られる粒子は種々の用途に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られた試料のX線回折スペクトルである。
【図2】実施例2で得られた試料のX線回折スペクトルである。
【図3】実施例3で得られた試料のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の亜鉛−アルミニウム複合酸化物の製造方法は、亜鉛元素およびアルミニウム元素が存在する水系媒体中でプラズマ放電することを特徴とする。亜鉛元素、アルミニウム元素を水系媒体中にそれぞれ存在させる方法としては、亜鉛元素および/またはアルミニウム元素を含む電極を水系媒体中で使用する方法、亜鉛元素を含む化合物および/またはアルミニウム元素を含む化合物を水系媒体中に分散または溶解させる方法などが挙げられる。プラズマ放電に用いる電極が亜鉛元素および/またはアルミニウム元素を含む場合は、金属亜鉛および/または金属アルミニウムをそれぞれ電極としてもよく、亜鉛−アルミニウム合金を電極としてもよく、亜鉛またはアルミニウムを成分として含む他の合金を電極としてもよい。
【0011】
プラズマ放電させる反応系の中に亜鉛とアルミニウムを存在させるもう一つの方法として、亜鉛元素を含む化合物および/またはアルミニウム元素を含む化合物を水系媒体中に分散または溶解させる場合、水系媒体中に亜鉛またはアルミニウムを成分として含む金属粉を分散させてもよく、亜鉛またはアルミニウムを含む化合物を分散または溶解させてもよい。
【0012】
上記の亜鉛元素、アルミニウム元素を水系媒体中に存在させる方法は、1種で単独で行ってもよいし、それぞれの方法を組み合わせて行ってもよい。
【0013】
本発明で使用される水系媒体としては、水、水と水溶性有機溶媒との混合物などが挙げられる。かかる水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1、4一ブタンジオール、1、2一ブタンジオールなどのアルキレングリコール;ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール;これらのアルキルエーテル;などが挙げられる。水系媒体としては、製造コストの観点から、水の配合割合が多いことが好ましく、水系媒体中の水溶性有機溶媒の割合は50重量%以下であることが好ましい。
【0014】
水系媒体の使用量は特に制限されず、2つの電極が水系媒体中にあればよい。但し、プラズマ放電により水系媒体が飛散したり、生成物によって水系媒体の拡散性が不十分にならない程度であることが好ましい。
本発明で使用する水は、製造する亜鉛−アルミニウム複合酸化物への不純物の混入を抑制する観点から、灰分100ppm以下、好ましくは、10ppm以下のイオン交換水を使用することが好ましい。
【0015】
水系媒体には、得られる亜鉛−アルミニウム複合酸化物の粒子の分散安定性などを付与する目的で、各種分散安定剤を必要に応じて添加しても良い。添加する分散安定剤としては、特に限定されず、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0016】
本発明で用いる電極の形状としては、棒状、針金状、板状などいずれの形状であってもよい。両極の大きさも互いに異なっていてもよい。
【0017】
プラズマ放電させる際に印加する電圧としては、50〜500Vの範囲が好ましく、60〜400Vの範囲がより好ましく、80〜300Vの範囲がさらに好ましい。
【0018】
プラズマ放電の電流としては、電流量が多いほど亜鉛−アルミニウム複合酸化物の生成量が増加するが、電流量が多すぎるとエネルギー効率が低下する場合があるので、0.1〜200Aの範囲が好ましく、1〜100Aの範囲がより好ましい。
【0019】
プラズマ放電は、連続的に行っても、間欠的に行ってもよい。水系媒体の発熱抑制などの観点から間欠的なプラズマ放電(パルスプラズマ放電)が好ましい。パルスプラズマ放電における放電間隔は、2〜100ミリ秒の範囲が好ましく、5〜50ミリ秒の範囲がより好ましい。
【0020】
パルスプラズマ放電の一回当たりの放電持続時間は、与える電圧および電流によって異なるが、1〜10000マイクロ秒の範囲が好ましく、放電の効率や水系媒体の発熱抑制などの観点から、2〜7000マイクロ秒の範囲がより好ましい。
【0021】
パルスプラズマ放電の波形は、正弦波、矩形波、三角波などいずれでもよいが、エネルギー効率の観点から矩形波が好ましい。
【0022】
本発明では、プラズマ放電中に電極に振動を与えてもよい。振動を与えることで、電極間に析出する亜鉛−アルミニウム複合酸化物の粒子の滞留を抑制し、放電を効率的に行うことができるため好ましい。振動は、連続的に与えても、間欠的に与えてもよい。
【0023】
本発明は、回分式、半回分式、連続式のいずれで行っても構わない。また、減圧下、加圧下、常圧下いずれの圧力下でも実施できる。本発明は、安全、操作性の観点から、窒素、アルゴンなど不活性ガス下で実施することが好ましい。
【0024】
本発明で生成する亜鉛−アルミニウム複合酸化物は、通常、水系媒体中に粒子状に分散する。かかる粒子状の亜鉛−アルミニウム複合酸化物は、デカンテーション、遠心分離、ろ過などの公知の方法により回収したのち、乾燥する。乾燥温度は600℃以下が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0026】
実施例1
容量100mlのビーカーに水80gを秤量し、この水中に、直径5mm、長さ100mmの金属アルミニウム棒電極(純度99%)を陽極、幅15mm、厚み2mmの金属亜鉛板電極を陰極として挿入し、陽極を125Hzで振動させながら100V、10A、放電間隔8ms、一回当たりの放電持続時間200マイクロ秒でパルスプラズマ放電を行った。30分間パルスプラズマ放電を続けた。次いで、水系媒体を12時間室温にて攪拌した後に30分間静置し、沈降した粗大な粒子と分散液をデカンテーションにより分離した。次いで、かかる分散液をろ過し、回収した固形物を400℃にて乾燥することで0.2gの亜鉛−アルミニウム複合酸化物を得た。得られた亜鉛−アルミニウム複合酸化物をX線結晶構造解析(リガク社製 RINT-2500VHF、Cu-Kα線、スキャンステップ=0.02°、スキャンスピード=1°/min)にて分析したところ、ウルツ鉱型酸化亜鉛と同等の結晶構造が観察され、スピネル型酸化亜鉛の結晶構造は観察されなかった。X線回折パターンを図1に示す。また、ICPを用いた元素分析の結果、アルミニウムと亜鉛とのモル比は 25.2:74.8であった。
【0027】
実施例2
陽極に直径5mm、長さ100mmの金属亜鉛棒電極(純度99%)を、陰極に幅15mm、厚み2mmの金属アルミニウム板電極を用いたこと以外は実施例1と同様にして0.15gの亜鉛−アルミニウム複合酸化物を得た。得られた亜鉛−アルミニウム複合酸化物をX線結晶構造解析(リガク社製 RINT-2500VHF、Cu-Kα線、スキャンステップ=0.02°、スキャンスピード=1°/min)にて分析したところ、ウルツ鉱型酸化亜鉛と同等の結晶構造が観察され、スピネル型酸化亜鉛の結晶構造は観察されなかった。X線回折パターンを図2に示す。また、ICPを用いた元素分析の結果、アルミニウムと亜鉛とのモル比は 12.2:87.8であった。
【0028】
実施例3
パルス間隔を5ms、放電一回当たりの持続時間が1000マイクロ秒としたこと以外は実施例1と同様にして亜鉛−アルミニウム複合酸化物0.3gを得た。得られた亜鉛−アルミニウム複合酸化物をX線結晶構造解析(リガク社製 RINT-2500VHF、Cu-Kα線、スキャンステップ=0.02°、スキャンスピード=1°/min)にて分析したところ、ウルツ鉱型酸化亜鉛と同等の結晶構造が観察され、スピネル型酸化亜鉛の結晶構造は観察されなかった。X線回折パターンを図3に示す。また、ICPを用いた元素分析の結果、アルミニウムと亜鉛とのモル比は 8.5:91.5であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛元素およびアルミニウム元素が存在する水系媒体中でプラズマ放電することを特徴とする亜鉛−アルミニウム複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
少なくとも一方にアルミニウム元素を含み、少なくとも一方に亜鉛元素を含む2つの電極を配置した水系媒体中にて、前記2つの電極間でプラズマ放電することを特徴とする亜鉛−アルミニウム複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−49594(P2013−49594A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187859(P2011−187859)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】