説明

亜鉛合金ダイカストの粒界腐食感受性評価法

【課題】亜鉛合金ダイカスト中の含有不純物に起因する粒界腐食感受性の評価法として、微量分析技術を必要としない、簡便な粒界腐食感受性の評価法を提供する。
【解決手段】亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材のアノード分極曲線を塩化ナトリウム水溶液中で測定し、自然浸漬電位(mV)から自然浸漬電位+10〜50mVまで分極し、その範囲の電流値を積分して得られる電気エネルギー量を算出し、亜鉛合金ダイカスト標準材について求めた電気エネルギー量に対する亜鉛合金ダイカスト試験材について求めた電気エネルギー量の比を算出することによる亜鉛合金ダイカスト粒界腐食感受性評価法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛合金ダイカスト(JIS H5301 亜鉛合金ダイカスト(1990)に規定)に含まれる不純物に起因する粒界腐食感受性の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛合金は実用化研究によりダイカストへ利用されてきたが、初期のダイカスト用亜鉛合金は、粒界腐食性を高めるような不純物が多く含まれていたため、成型した際に寸法変化や亀裂などの問題を生じることが多かった(非特許文献1参照)。その後の検討で、粒界腐食性を高める不純物はPb,Sn,Cdなどであることがわかり、それらの不純物許容上限値について日本工業規格(JIS H5301)で規定されている。現在では、規定を満たす亜鉛合金ダイカストが、自動車部品を初めとした各種産業分野で広く使用されている(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】椙山正孝著、「標準金属工学講座4 非鉄金属材料」、コロナ社、1963年、p.251−262
【非特許文献2】JIS H5301 亜鉛合金ダイカスト(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
亜鉛合金ダイカストについての粒界腐食感受性(不純物の含有量が高いのが原因となる粒界腐食性の起こりやすさ)の評価は、製品の不純物許容上限値を測定することにより行われる。不純物許容上限値は数十ppmと微量であるため、誘導結合プラズマ発光分析装置(Inductively Coupled Plasma発光分析装置又はICP発光分析装置とも言う)などの高価な分析機器を使用する微量分析を行う必要がある。また、ICP発光分析を行う際には、機器の操作以外にも液処理などの高度な熟練を必要とする技術が要求される。
【0004】
本発明は、微量分析技術を必要としない、簡便な粒界腐食感受性の評価法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、健全な亜鉛合金ダイカストと粒界腐食感受性が高い亜鉛合金ダイカストの間の、電解質水溶液環境に対する電気化学的特性に差が見られることを見出した。
すなわち本発明は、亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材のアノード分極曲線を塩化ナトリウム水溶液中で測定し、自然浸漬電位(mV)から自然浸漬電位+10〜50mVまで分極し、その範囲の電流値を積分して得られる電気エネルギー量を算出し、亜鉛合金ダイカスト標準材について求めた電気エネルギー量に対する亜鉛合金ダイカスト試験材について求めた電気エネルギー量の比を算出することによる亜鉛合金ダイカスト粒界腐食感受性評価法に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明に基づいた評価法を使用することで、金属成分の微量分析に伴う高価な分析機器や高度な熟練操作を行うことなく、簡便に亜鉛合金ダイカストの粒界腐食感受性を評価することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材を用意する。亜鉛合金ダイカスト標準材は、不純物含有量が JIS H5301に示される上限以下である条件を満たした標準材である。亜鉛合金ダイカストは、成型品の位置ごとに金属組織に差が生じるため、亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材の試験面は、同様の形状の位置から採取するように注意を必要とする。
【0008】
亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材から、試験面にせん断の影響が残らないように試験片を切断する。試験面に、ハンダ付け、スポット溶接、電導性塗料などで導線を接続する。この際も試験面に熱による影響が及ばないように加熱は最小限に止める。
【0009】
試験面以外は耐薬品性の優れた樹脂(エポキシ樹脂・フェノール樹脂など)で被覆する。
試験面は、アノード分極曲線の測定前に表面をバフ仕上げなどでなるべく平滑な状態にしておき、測定データがばらつく原因を除くことが好ましい。
【0010】
本発明に使用するアノード分極曲線測定装置は、ポテンショスタット、電位掃引装置、記録計、電解槽および恒温槽を組み合わせたものが望ましい。原則として、JIS G05790 ステンレス鋼のアノード分極曲線測定方法(1983)に準ずる。
【0011】
本発明で使用する測定液には、蒸留水で3wt%の濃度に塩化ナトリウムを溶解させた水溶液を使用するのが好ましい。恒温槽を使用し、水温を30℃一定に保った電解槽中で測定を行うのが好ましい。測定液には測定前に、酸素を置換する目的で、窒素ガスでバブリングを行う必要がある。液中に酸素が存在すると、電極表面に強固な酸化皮膜が形成され、自然浸漬電位が急上昇し分極測定が困難となる。
【0012】
アノード分極曲線測定の前に、試験面に生成した亜鉛合金酸化物皮膜を取り除き、活性化面を露出させる目的で、適切な電位でのカソード処理を行うのが好ましい。
カソード処理の電位は、少なくとも-1150mV(飽和カロメル電極基準)が必要である。
カソード処理を行うと水素が発生し、発生する水素の一部は試験片に吸収され、アノード分極曲線に影響を与える可能性があるため、カソード処理後、試験片を測定液中で5分間以上放置し測定に移る。
アノード分極曲線測定方法は、JIS G05790 ステンレス鋼のアノード分極曲線測定方法(1983)に準拠する。アノード分極速曲線データとして、走査電位に対応した試験面1cm2当り電流値を、記録する。
【0013】
カソード処理後に測定される自然浸漬電位(Ec(mV))から自然浸漬電位+10〜50mVまで分極し、その範囲の電流値を積分して得られる電気エネルギー量(腐食エネルギーと定義する)を算出する。亜鉛合金ダイカスト標準材について求めた電気エネルギー量に対する亜鉛合金ダイカスト試験材について求めた電気エネルギー量の比を算出する。図1に電気エネルギー量を算出するときの参考図を示す。
【0014】
亜鉛合金ダイカスト標準材について求めた電気エネルギー量に対する亜鉛合金ダイカスト試験材について求めた電気エネルギー量の比が1より大きいと、亜鉛合金ダイカスト試験材の不純物含有量は亜鉛合金ダイカスト健全材の不純物含有量よりも多いことを意味し、すなわち、粒界腐食感受性が高いことを示す。電気エネルギー量の比が1より大きい値であるほど、亜鉛合金ダイカスト試験材の不純物含有量がより多いことを意味し、すなわち、粒界腐食感受性がより高いことを示す。自然浸漬電位(Ec(mV))から自然浸漬電位+10〜50mVまで分極し、その範囲において電気エネルギー量の比が一定の数値を示すほどデータの信頼性は高い。Ecから+20mVまで分極し、その範囲のエネルギー比は一定の数値を示すので、データの信頼性は高いと判断される。
【実施例】
【0015】
次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。なお、成分分析方法及びアノード分極曲線測定は、次の手順によった。
【0016】
<成分分析方法>
亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材表面に付着しているメッキ層をグラインダーで除去し、塩酸水溶液を使用して、サンプルを溶解させた。不溶の黒色沈殿物が微量残ったので、硝酸と水を加えて均質な水溶液とし、繊維状の異物をろ過で除去した後にICP発光分析計により測定を行った。
【0017】
<アノード分極曲線測定>
亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材から、測定面が同じ形状になるように、各3点ずつのエポキシ樹脂被覆サンプルを作製した。サンプルの表面は、#1000のサンドペーパーで研磨後、アルミナによるバフ仕上げで測定面を調整し、測定前に、電極の測定面積を測定した。
30℃の恒温槽で保温した3wt%食塩水中で、-1300mV(飽和カロメル電極基準)で1分間カソード処理した後、5分間回路を開放した。その後、自然浸漬電位:Ecを測定した後、-1100mVまで100mV/min.の分極速度で分極し、各サンプルのアノード分極曲線測定を行った。
【0018】
<実施例1>
亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材の成分分析結果を表1に示す。
【表1】

【0019】
亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材のアノード分極曲線測定を行い、アノード分極曲線測定から、各サンプルの腐食エネルギー平均値と比を計算した結果を表2に示す。自然浸漬電位(Ec(mV))から自然浸漬電位+10〜40mVまでの範囲において、亜鉛合金ダイカスト標準材について求めた電気エネルギー量に対する亜鉛合金ダイカスト試験材について求めた電気エネルギー量の比が1より大きく、亜鉛合金ダイカスト試験材の不純物含有量は亜鉛合金ダイカスト標準材の不純物含有量よりも多いことを意味し、すなわち、粒界腐食感受性が高いことを示す。Ecから+20mVの範囲までのエネルギー比は一定の数値を示しておりデータの信頼性は高いと判断される。
【0020】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電気エネルギー量を算出するときの参考図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛合金ダイカスト標準材及び亜鉛合金ダイカスト試験材のアノード分極曲線を塩化ナトリウム水溶液中で測定し、自然浸漬電位(mV)から自然浸漬電位+10〜50mVまで分極し、その範囲の電流値を積分して得られる電気エネルギー量を算出し、亜鉛合金ダイカスト標準材について求めた電気エネルギー量に対する亜鉛合金ダイカスト試験材について求めた電気エネルギー量の比を算出することによる亜鉛合金ダイカスト粒界腐食感受性評価法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−2902(P2009−2902A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166384(P2007−166384)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人腐食防食協会中国・四国支部、2007年腐食防食協会 中国・四国支部「材料と環境研究発表会」資料、平成19年3月8日発行
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】