説明

亜鉛強化飲食品

【課題】 近年、ミネラル摂取量の不足が指摘され、その原因により引き起こされる成人病の予防や健康維持等に関して、いろいろな種類のミネラルの役割が重要視されており、カルシウムを初めとして、鉄、マグネシウム、亜鉛等が挙げられている。本発明は背景技術の課題を解決すべくなされたもので、たん白質を含有する飲食品でもたん白質と反応する事なく、風味、外観に優れた亜鉛強化目的の飲食品を提供する事を目的とする。
【解決手段】 水不溶性亜鉛が乳化剤により被覆されている事により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性亜鉛が乳化剤、好ましくはポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチンからなる群より選ばれる1種又は2種以上で被覆されている事を特徴とする、たん白含有食品用亜鉛強化製剤とたん白質を含有する亜鉛強化飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ミネラル摂取量の不足が指摘され、その原因により引き起こされる成人病の予防や健康維持等に関して、いろいろな種類のミネラルの役割が重要視されており、カルシウムを初めとして、鉄、マグネシウム、亜鉛等が挙げられている。
【0003】
その中で亜鉛は、ヨウ素、銅、モリブデン、セレン等と同様に生体内に不可欠な微量元素であり、生理作用としては、成長・骨格の発育、味覚・嗅覚の維持、成長・骨格の発育、皮膚及びその付属器官の新陳代謝の活性化、創傷治癒、生殖機能維持、精神・行動への影響、免疫機能増加があり注目されている。しかし日本における摂取状況は、平成13年度の厚生省国民栄養調査では、成人で80%と不足傾向にある。
【0004】
亜鉛については、魚介類、肉類等の動物性食品に多く含まれ、特に牡蠣に多く含まれるが、牡蠣は特有の臭いが強く、栄養成分が季節的に変動するため加工適正が低く、汎用性に乏しい。また、海藻粉末、鳥獣類の肝臓、小麦ふすまや米糠の抽出物を用いる方法が知られているが、風味の点から使用できる食品に限りがある。食品以外のミネラルの形態として、酸化物、塩、たん白複合体又はその分解物の複合体、多糖類複合体、又はその分解物の複合体、その他加工デンプン複合体、シクロデキストリン複合体、その他複合体、酵母亜鉛、金属酵素、金属活性化酵素等が挙げられる。これらの中で、水溶性のグルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛、水不溶性の酵母亜鉛等が一般に用いられている。水溶性のグルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛は易水溶性のため食品への応用面において優れているが、反面、イオン化するために食品との化学反応等により味、食感、色調等へ著しく影響を与えるという欠点がある。不溶性の酵母亜鉛は、風味、色調に著しい悪影響を与える。牛乳、豆乳、流動食はたん白源として一般に広く食される飲食品であるが、これらに上記の水溶性のグルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛、不溶性の酵母亜鉛を添加すると、たん白と反応したり外観を損なったりするために、適用は困難である。
例えば特許文献1には、酵母亜鉛を用いたミネラル強化流動食の技術が開示されている。
しかし、この技術には亜鉛の高濃度化に限界があり、外観の性状については触れられていない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−46016
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は背景技術の課題を解決すべくなされたもので、たん白質を含有する飲食品でもたん白質と反応する事なく、風味、外観に優れた亜鉛強化目的の飲食品を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、水不溶性亜鉛と乳化剤、好ましくはポリグリセリン脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、レシチンの中からなる群より選ばれる1種又は2種以上で構成される事を特徴とする製剤を使用する事によって、加熱後もたん白質と反応する事なく、安定性が良好である事を見出し、さらに該組成物を添加した際、風味、外観に影響を及ぼさない亜鉛強化飲食品を得られる事を見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、たん白質を含有する飲食品でもたん白質と反応する事なく、風味、外観に優れた亜鉛強化目的の飲食品を提供する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本願発明に用いられる水不溶性亜鉛は、特に限定されるものではなく、また水不溶性とは味、消化管粘膜刺激性等の観点から、日本の第七版食品添加物公定書通則29の試験法において「極めて溶けにくい」(溶質1gを溶かすに要する水の量が1,000ml以上10,000ml未満)又は、「ほとんど溶けない」(溶質1gを溶かすに要する水の量が10,000ml以上)に該当するものをいい、好ましくは、「ほとんど溶けない」に該当するものである。
【0010】
水不溶性亜鉛の具体例としては、例えば、酸化亜鉛、酵母亜鉛、ステアリン酸亜鉛、水酸化亜鉛、ピロリン酸亜鉛等が挙げられる。これらの中では、風味と分散性の観点から酸化亜鉛が好ましい。
【0011】
本願発明における乳化剤は、水不溶性亜鉛の表面を強く被覆する事ができるものであれば特に限定するものではなく、一般的な食品用乳化剤、例えばポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、有機酸脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン等が挙げられる。それらの中でも、分散性の観点からポリグリセリン脂肪酸エステル及びリゾレシチンからなる群より選ばれる1種又は2種以上である事が好ましい。
【0012】
本発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステルをいう。該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度、脂肪酸の種類及びエステル化率については、特に限定されるものではないが、分散性の観点からポリグリセリンの平均重合度としては3以上が好ましく、3〜11がより好ましい。また、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数が好ましくは6〜22、より好ましくは分散性の観点から8〜18、さらに好ましくは12〜14である飽和又は不飽和の、直鎖もしくは分岐鎖中に水酸基を有する脂肪酸である事が好ましい。
【0013】
本発明に用いられるレシチンとはグリセリン骨格と脂肪酸残基及びリン酸残基を必須構成分とし、これに塩基や多価アルコール等が結合したもので、リン脂質とも称されるものである。産業的にはレシチン純度60以上のものがレシチンとして利用されており、本発明でも利用できるが、好ましくは一般に風味や色の観点から高純度レシチンと称されるものであり、これはレシチン純度が80%以上、より好ましくは90%以上のものである。このレシチン純度は、レシチンがトルエンに溶解しやすくアセトンに溶解しない性質を利用して、トルエン不溶物とアセトン可溶物の重量を差し引く事により求められる。なお、レシチンは上述のように構造的特徴やトルエン・アセトンに対する溶解性で定義されるが、化学的にはこれらの条件を満たす化合物の混合物である。具体的な化学種としてはホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、N−アミルホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、リゾホスファチジルエタノールアミン等が挙げられ、これら個別の化学種又は2種以上の混合物をレシチンと称してもよい。なお、レシチンの起源は特に問わず、大豆、ナタネその他油糧種子や、卵、動物の脳から得られたものが使用できるが、風味、分散性の観点から好ましくは大豆から得られたものがよい。
【0014】
本発明に用いられる酵素分解レシチンとしては、例えば、植物レシチン又は卵黄レシチンをホスホリパーゼによって脂肪酸エステル部分を限定的に加水分解する事で得られるものが挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、例えば、ホスホリパーゼAを用いて得られるリゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルイノシートル、リゾホスファチジルセリン等のモノアシルグリセロリン脂質、及びホスホリパーゼDを用いて得られるホスファチジル酸、リゾホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルグリセロール等が挙げられる。本発明に用いられる酵素分解レシチンとしては、上記のような酵素分解レシチンを1種で用いてもよく、また、2種以上を併用して用いてもよい。本発明に用いられる酵素分解レシチンとしては、風味、分散性の観点から好ましくはリゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルセリンからなる群より選択される1種又は2種以上であり、より好ましくは、リゾホスファチジルコリンである。
【0015】
酵素分解レシチンの製造に際し、酵素分解に用いるホスホリパーゼとしては、豚膵臓等の動物起源、キャベツ等の植物起源、又はカビ類等の微生物起源等の由来を問わず、ホスホリパーゼA及び/又はD活性を有したものであればいずれも好ましく使用できる。
【0016】
本発明の製剤は、例えば、上記のような水不溶性亜鉛と乳化剤を混合、攪拌する事によって製造する事ができる。
【0017】
水不溶性亜鉛、乳化剤を混合する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、水不溶性亜鉛の分散液に乳化剤を溶解する方法、乳化剤の水溶液に水不溶性亜鉛を添加する方法等が挙げられる。また、水に水不溶性亜鉛、乳化剤を同時に添加してもよい。この時、乳化剤は必要に応じて加熱して使用する。
【0018】
水不溶性亜鉛、乳化剤の混合物を攪拌する方法としても特に限定はなく、例えば、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いた物理的破砕方法、中和造塩方法等が挙げられるが、後述するような好ましい粒子径を有する本発明の亜鉛製剤を簡易、簡便に得やすいという観点から、物理的破砕方法を用いる事が好ましい。以下、物理的破砕方法を用いた製剤の製造方法について説明する。
【0019】
上記のように、本発明において、水不溶性亜鉛及び乳化剤の混合、攪拌は、例えば水溶液中で行う事ができる。混合、攪拌時に使用する水の量としては、乳化剤による水不溶性亜鉛の被覆を安定して行うという観点から、水不溶性亜鉛100重量部に対して水100重量部以上である事が好ましく、300重量部以上である事がより好ましい。使用する水の量の上限としては特に限定はされず、例えば混合、攪拌に使用される容器の大きさ等に応じて、使用可能な水の量を使用すればよい。また、ここで使用される水の種類としては特に限定されるものではないが、例えばイオン交換水等を使用する事ができる。
また、水の代わりに糖アルコールあるいは水と糖アルコールの併用も差し支えない。糖アルコールとしては、キシロース、グルコース、フラクトース、マルトース、ラクトース、シュクロース、異性化糖、水飴、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、オリゴ糖アルコール等が挙げられる。
【0020】
水不溶性亜鉛、乳化剤の混合比率としては、乳化剤による水不溶性亜鉛の被覆を安定して行うという観点から、水不溶性亜鉛100重量部に対して、乳化剤の合計量が1重量部以上である事が好ましく、5重量部以上である事がより好ましい。また、水不溶性亜鉛100重量部に対して、乳化剤の合計量が2000重量部以下である事が好ましく、1000重量部以下である事がより好ましい。従って、水不溶性亜鉛、乳化剤の混合比率は、水不溶性亜鉛100重量部に対して乳化剤の合計量が1〜2000重量部である事が好ましく、5〜1000重量部である事がより好ましい。かかる範囲内であれば、本発明の製剤をたん白含有飲料に含有させた際に、乳化剤由来の独特の味により該製剤本来の味が損なわれる事がないために、望ましい。
【0021】
また、本発明において、乳化剤のHLBは、特に限定されないが、乳化剤を水不溶性亜鉛により強く被覆させる観点から、好ましくは6〜20であり、より好ましくは8〜18であり、更に好ましくは8〜16である。HLBの値は、例えば本発明において使用する複数の乳化剤の使用量を調節する事により調整する事ができる。従って、例えば酵素分解レシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルを使用する場合、これらの使用量については、酵素分解レシチン:ポリグリセリン脂肪酸エステルが重量比で1:1〜1:100である事が好ましく、1:2〜1:50である事がより好ましく、1:3〜1:20である事が更に好ましい。
【0022】
上記のような割合で、水不溶性亜鉛、乳化剤が水溶液中に含有された混合液を、例えば、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて攪拌する事ができる。攪拌時間、温度、攪拌の強さ等は特に限定されるものではなく、攪拌に使用するミキサーの種類等に応じて、水不溶性亜鉛が乳化剤に被覆された状態となるように適宜設定されればよい。
【0023】
なお、本発明の水不溶性亜鉛が乳化剤に被覆されたかどうかの確認は、特に限定されるものではないが、例えば、混合、攪拌後の水不溶性亜鉛と乳化剤を含有する分散液を、亜鉛含量が10mg/100mlの濃度にイオン交換水で希釈して得られた液100mlを、100mlのネスラ−管に注いで室温で1日静置させても底部に沈殿が発生せず、分離が起こらない状態を被覆されたものと定義する事ができる。これは被覆された粒子同士が凝集せず、水中に安定分散された事による。また、電子顕微鏡等を使用して、水不溶性亜鉛が乳化剤に被覆されているかどうかを直接的に確認してもよい。
【0024】
上記の方法によれば、水不溶性亜鉛及び乳化剤が、分散液中に粒子状に分散された状態の、本発明の製剤を得る事ができる。この際、上記のように、水不溶性亜鉛は、乳化剤によって被覆されている状態にある。水不溶性亜鉛が乳化剤により被覆された該粒子の平均粒子径としては、乳化剤による被覆の均一性の観点から、該水不溶性亜鉛の平均粒子径として、好ましくは3μm以下であり、好ましくは1μm以下であり、更に好ましくは0.5μm以下である。ここで、平均粒子径の測定については既存の方法を用いる事ができ、特に限定されるものではなく、例えば動的光散乱法やレーザー回折光散乱法を用いる事ができる。また、平均粒子径は、例えば、前記したような攪拌の強さや攪拌時間を調整する事によって好ましい範囲に調整する事ができる。
【0025】
本発明の製剤としては、上記のような水分散状態のものをそのまま使用してもよく、また、例えば、噴霧乾燥等によって、粉末化したものを使用してもよい。噴霧乾燥の方法は特に限定されるものではなく、例えば、スプレードライヤー等を用いて行う事ができる。この時にデキストリン等の賦型剤を添加してもよい。
【0026】
本願発明における、たん白含有飲食品とは、溶液、懸濁物、粉末、固体成形物等、経口摂取可能な形態であればよく、特に限定するものではない。牛乳等の乳蛋白や魚、肉等の動物蛋白、さらに小麦、大豆等の植物蛋白及び卵の蛋白等を含有する食品で、乳飲料、豆乳、ハム、ソーセージ、水産練り製品、豆腐、卵加工食品、経口経腸栄養食等が挙げられる。
【0027】
本願発明のたん白含有飲食品への乳化剤被覆した水不溶性亜鉛の配合量については、特に制限はなく、添加する飲食品の形態、ならびにヒト性別及び年齢等に応じて適宜決定すればよい。以下に実施例及び試験例によって本発明をより詳細に説明するが、その内容に制限されるものではない。
【実施例】
【0028】
実施例1
イオン交換水4637gを60℃に加温、加温させたポリグリセリン脂肪酸エステル216g(サンソフトQ−12D、HLB値:8.5、太陽化学株式会社製)、酵素分解レシチン(サンレシチンA−1、HLB値:12.0のリゾレシチン含量33%、太陽化学株式会社製)67.5gを混合、酸化亜鉛1080g(微細亜鉛華、本荘ケミカル株式会社製)を加え、混合液を調製した。該混合液をダイノーミル(シンマルエンタープライゼス株式会社製)を用いて粉砕し、酸化亜鉛分散組成物5640gを得た。得られた酸化亜鉛分散組成物のうち10gを水100gに希釈した後、超音波発振機UD−200(株式会社トミー精工社製)を用いて2分間超音波処理を行ない、レーザー回折型粒度分布測定機(LS−230、ベックマン・コールター株式会社製)を用いて該酸化亜鉛の平均粒子径を測定したところ、該酸化亜鉛の平均粒子径は0.18μmであった。さらに得られた酸化亜鉛分散組成物を0.067gを、イオン水で亜鉛濃度が10mg/100mlになるよう希釈して得られた100mlを100mlのネスラ−管に注いで室温で1日静置させたところ、底部に沈殿は発生せず、分離も生じなかった。次に、得られた酸化亜鉛分散組成物5630gに賦型剤としてマルトデキストリン(パインデックス#1松谷化学工業株式会社製)を2040g加え、80℃で30分間加熱殺菌した。その後噴霧乾燥する事により、亜鉛含量が240mg/gである粉末品、3050gを得た。これを本発明品1とした。
【0029】
試験例1:実施1で得られた本発明品1の牛乳中の安定性効果を、以下のようにして調べた。牛乳をホモミキサーで軽く攪拌しながら65℃付近まで加熱して、本発明品1を亜鉛含量が10mg/100mlになるよう少しずつ加えて、7000回転5分間混合し、65℃で30分間殺菌を施した。殺菌後、100mlのガラス瓶にホットパック充填した。比較区として、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酸化亜鉛、酵母亜鉛のそれぞれについて、本発明品1と同様に牛乳に混合し、同様に処理を行なった。
【0030】
各亜鉛強化牛乳を5℃で1週間保存した。1週間後、10名のパネラーにより官能試験を実施した。評価方法は以下の通りである。
【0031】
異味がしない。 0
異味がほとんどしない。 1
異味がややする。 2
異味がする。 3
異味が強くする。 4
評価点の平均値を下記の表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、本発明品によれば、牛乳中の亜鉛特有の不快な味の発生が抑制される事が確認された。これに対して水溶性の硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酵母亜鉛を添加すると不快な味を生じる結果となった。
【0034】
さらに、5℃で1週間保存させた各亜鉛含有牛乳の上、中、下層のそれぞれを採取し、均一とした後、その一部を湿式灰化し常法に従い原子吸光測定用試料を得た。これらの試料について原子吸光光度計を用いて以下の条件で測定を行なった。
燃料ガス;アセチレン−空気フレーム;アセチレン0.2Kg/cm空気;1.6Kg/cm
測定波長;213.8nm
なお、検量線は市販の亜鉛標準液を用い、亜鉛濃度0〜2μg/mlの間で直線となる事を確認した。
各亜鉛濃度を下記の表2に示す。(mg/100ml)
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示すように、本発明品によれば牛乳中の各層に亜鉛が安定して分散している事が確認された。これに対して、予め乳化剤と混合させていない酸化亜鉛、酵母亜鉛では底に沈降する結果となった。
【0037】
表1、表2の結果から、本発明品により風味良好で外観も損なわれない、分散安定性に優れた乳飲料を得る事ができた。
【0038】
実施例2
還元澱粉糖化物838g(アマミール 東和化成工業株式会社製)を60℃に加温、水27gにヘキサメタリン酸ナトリウム2.7g(米山化学工業株式会社製)を溶解させた液を加え、加温させたポリグリセリン脂肪酸エステル2.7g(サンソフトA−141E、HLB値:12.2、太陽化学株式会社製)、酵素分解レシチン(サンレシチンA−1、太陽化学株式会社製、HLB値:12.0のリゾレシチン含量33%)2.7gを混合、酸化亜鉛27g(微細亜鉛華、本荘ケミカル株式会社製)を加え、混合液を調製した。該混合液をダイノーミル(シンマルエンタープライゼス株式会社製)を用いて粉砕を1パス行なって、酸化亜鉛分散組成物480gを得た。さらに得られた酸化亜鉛分散組成物を0.42gを、イオン水で亜鉛濃度が10mg/100mlになるよう希釈して得られた100mlを100mlのネスラ−管に注いで常温で1日静置させたところ、底部に沈殿は発生せず、分離も生じなかった。次に、得られた酸化亜鉛分散組成物のうち10gを水100gに希釈した後、超音波発振機UD−200(株式会社トミー精工社製)を用いて超音波処理を行ない、レーザー回折型粒度分布測定機(LS−230、ベックマン・コールター株式会社製)を用いて該酸化亜鉛の平均粒子径を測定したところ、該酸化亜鉛の平均粒子径は0.21μmであった。これを本発明品2とした。
【0039】
試験例2:実施例2で得られた本発明品2を豆乳にて試験例1と同様にしておこなったところ、本発明品により試験例1と同様に、亜鉛特有の不快な味もなく、外観も損なわれない、安定した分散系での豆乳飲料を得る事ができた。
【0040】
試験例3:イオン水255.4gにグラニュー糖15gとサンソフトスーパーV−578(太陽化学株式会社製)0.75gを70℃で溶解させ、脱脂粉乳1gを加えて常温まで冷却させた。牛乳200g、加糖練乳20g、酵素分解卵黄;リッチランA(太陽化学株式会社製)5g、酵素分解卵黄粉末;ヨークレートパウダ−0.5g(太陽化学株式会社製)、本発明品2を2.1gを加えて、70℃に加熱させ、ホモミキサー5000回転10分間混合、ホモジナイザー15Mpa処理し、80℃30分間加熱、バニラフレーバー0.25gを加えてミルクセーキを調製した。100mlのガラス瓶にホットパック充填した。比較区として、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酸化亜鉛、酵母亜鉛のそれぞれについて、本発明品2と同様に亜鉛含量が10mg/100gになるよう混合し、同様に処理を行なった。
【0041】
各亜鉛強化ミルクセーキを5℃で1週間保存した。1週間後、10名のパネラーにより官能試験を実施した。評価方法は以下の通りである。
【0042】
異味がしない。 0
異味がほとんどしない。 1
異味がややする。 2
異味がする。 3
異味が強くする。 4
評価点の平均値を下記の表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示すように、本発明品によれば、ミルクセーキ中の亜鉛特有の不快な味の発生が抑制される事が確認された。これに対して水溶性の硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酵母亜鉛を添加すると不快な味を生じる結果となった。
【0045】
結果、本発明品により試験例1、2と同様に、亜鉛特有の不快な味もなく、外観も損なわれない、安定した分散系でのミルクセーキを得る事ができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
水不溶性亜鉛が乳化剤により被覆されている事を特徴とする亜鉛製剤を使用した本願発明の亜鉛強化飲食品は、風味、分散性に優れ、その産業上の利用価値は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性亜鉛が乳化剤により被覆されている事を特徴とするたん白含有食品用亜鉛強化製剤。
【請求項2】
乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチンからなる群より選ばれる1種又は2種以上で構成される事を特徴とする請求項1のたん白含有飲食品用亜鉛強化製剤。
【請求項3】
請求項1又は2いずれか記載のたん白含有飲食品用亜鉛強化製剤を含有するたん白質含有飲食品。

【公開番号】特開2008−245622(P2008−245622A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94355(P2007−94355)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】